東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
『また会えたらいいな』など、私は認めない
by白咲楼夢
妖怪の山の裏。そこには烏天狗も、巡回の役の白狼天狗も、はたまた他の妖怪の姿もなかった。……とある一種族を除いて。
鬼、それは妖怪の力の象徴やであると共に酷く自由な妖怪だ。
気に入らないことがあればすぐに拳で解決し、主に強者と酒を好む。
そんな鬼たちは、現在妖怪の山の裏に拠点を置いていた。以前ここに移住する際に起きた天狗たちとの戦争の戦利品である。
そんな鬼たちの陣地で、突如爆発音が響いた。寝ていたり、酒を飲んでいた鬼たちはすぐに起き上がり、その元凶の元へと向かう。
全ては、己の体にうずめく好奇心を満たすため。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「オラァァァッ!」
「死ねこのクソアマァァァァァッ!」
現在、楼夢たちは鬼たちの拠点でそこらをブラブラしていた鬼二人と戦っていた。
ちなみに補足だがこの場合、クソアマは楼夢のことになる。
「俺は男だこのクソガキ!」
「雑魚がいきがってんじゃねェよ!」
迫り来る拳に、楼夢は拳で、火神は足でカウンターを放つ。
楼夢の拳は一人の鬼の顔面に、火神の蹴りはもう一人の鬼の肺に吸い込まれるように突き刺さった。
それを受けて、鬼たちは地面に転がり、動かなくなった。おそらくは気絶しているのだろう。
そう結論づけると、前に進もうとして、ふと足を止める。
すると、拠点の方からかなりの数の鬼たちが獲物を見るような目でやってきた。
「おっ、ラッキー。ついてるぜ。こんなところに暇つぶし道具があるなんてよ。おいてめえら、いくぞ!」
「「「「おおっ!!!」」」」
そう答えると次々と鬼たちは楼夢たちの前に立ちふさがる。
見れば鬼たちの顔は全員勝利を確信して、相手を道具にしか見ていないような表情をしていた。
それが、楼夢を実に腹立たせた。
「暇つぶしの道具……だと……?雑魚の分際で言うじゃねえか!はっ、それならまずはテメェらの顔を全て恐怖で染めてやらァ!」
口元を三日月に歪ませると、一直線に加速し正面にいた鬼をぶん殴る。
腕力は低くても速度があったせいで、鬼は一撃で倒れふした。
その光景に鬼たちは一瞬驚愕する。その間に楼夢は巫女袖から狂夢作の妖力を弾にするアサルトライフルを取り出し、連射した。
楼夢の妖力保有量は約八雲紫の十倍以上だ。その妖力で放たれたことにより、弾丸の一つ一つが大きな釘と化す。
「がァァァァァッ!?痛ぇ、何だこれ!!」
「ぐはっ!畜生、威力と速度が高すぎて避けれない!」
「なんだよこれ!?聞いてねえよこんなもん!」
次々と断末魔をあげながら、鬼たちは倒れていく。死んだかどうかは知らないが、鬼は他の種族と比べてかなり頑丈なので大丈夫だろう。
「おいおい、しまいか?もうちょっと楽しませてくれよう!」
巫女袖から手榴弾を数個取り出し、叫びながら安全ピンを引き抜き、空き缶を捨てる感覚で楼夢はそれを投げつける。
手榴弾はコロンっ、と残りの鬼たちの足元に転がった後、爆発を起こした。
「ハッハハハハッ!!いい気味だ!ざまぁみやがれ!」
「お、おう……なんかお前いつもとキャラ違くねェか?」
森の中にそんな笑い声が響きわたる。今の楼夢の表情は戦闘時の狂夢とうり二つであり、それほど狂っていた。
そんないつもと違う雰囲気の楼夢に、火神は少し戸惑う。だがすぐに意識を別の方に集中させた。
野生の直感というべきか、火神は少し離れた場所から三十、四十ほどの敵がこちらに向かっているのに気がついた。おそらく先程楼夢が投げた手榴弾の爆発で気がついたのだろう。
すぐに楼夢に目線を送るが、そちらも既に気づいたようだ。
だがそれでも口元を歪ませるのをやめない。どうやら本気で正面衝突しようとしてるらしい。
「へっ、たまにはいい判断すんじゃねェか!見直したぜェ!」
「さぁて、シューティングゲームの始まりだぜ!」
そこからは圧倒的な蹂躙が始まった。
相手がこちらに気づくと同時に、楼夢は機関銃と化したアサルトライフルを、一度も休まずに連射する。
弾丸が鬼たちを貫こうが、楼夢のトリガーを引く指は止まらない。無駄撃ちも気にせず、狂い笑いながら撃ち続ける。その姿はさながら、視界に入るもの全てを破壊する悪魔のようであった。
対する火神は、ちょうど二十ほどの鬼たちに囲まれていた。
その中でも余裕の表情を崩さず、平然とたたずむ。
そしてニヤリと笑うと、地面を足裏でありを踏みつぶすように叩いた。
すると、火神の足元から伸びていた黒い影が突然巨大化し、鬼たちの下の地面を覆うように広がる。
「哀れな愚者に地獄の針を
ーー『
次の瞬間、漆黒の巨大な刃がそれぞれに影から飛び出した。
それに反応できず、鬼たちは悲鳴をあげながら、次々と体を貫かれた。
音が聞こえなくなるころには、火神は近くにあった切り株に腰をかけていた。
ふと顔をあげ、楼夢の方の戦闘が終わったのを確認する。
そして、突如殴りかかってきた鬼の拳を、片手で受け止めた。
鬼は女性で、金髪であった。服は体操着にも似たものを着ており、スカートも少し透けている。
そして何より最も目立つのが、女性の胸であった。
紫や神奈子と同等、またはそれ以上の大きさであり、角がひたいから一本だけだが生えていることから、まさに乳牛と火神が頭に浮かべるほどの存在感であった。
見れば楼夢の方にも小さい二本角の鬼がいつの間にか戦っていた。
「へえ……アタシの拳を受け止めるなんて、中々やるじゃないか」
「おいおい、酷ェなァ……。休憩中の相手に殴りかかるなんて、マナーがなってねェんじゃねェか」
鬼は拳を引き戻し、すぐさま構える。
その顔には絶対の自信があり、火神ほどの強者と戦えるのを喜んでいるようだった。
「ちなみに……あっちでやってるのもテメェのお仲間か?」
「萃香のことかい?自分のことより仲間を心配するなんて、随分と優しいんだね」
小馬鹿にするように鬼が言うと、火神はまるで分かっていないと嘲笑した。
「ダメだなァそういうの。喧嘩を売るんだったら、相手の力量ぐらい把握しとかないと……」
「……なっ!?」
鬼の驚いた表情が見える。
同時に近くで爆発が起こった。そしてそれに吹き飛ばされるように、何かが木々を薙ぎ倒して飛んでくる。
「ーー痛い目見るぜェ」
「……うぐっ、くそぉ……」
すぐさま地面に転がる何かを確認する。それは先程楼夢と戦っていた小鬼だった。
鬼の頑丈さのおかげで大したことにはなっていないが、体に付けられた傷が数個しかなかったことから、わずか数撃でやられたのであろう。
証拠に小鬼の顔が悔しさで歪んでいた。
そしてゆっくりと近づいてくる桃色の悪魔。
それが小鬼を、じっくりと、それでいて見下ろしていた。
「これで全部か?それだったらさっさとアイツのところへ案内してもらいたいんだが」
「くっ……」
忌々しげに、楼夢を睨みつける。
その様子を内心ありえないと否定しながら眺めていた鬼は、こちらに近づいてくる何かに気がついた。
「……この気配は……、まさかっ!?」
「その必要はないぞ」
声と共に、空から女性が落ちてきた。
その衝撃で砂煙が巻き上がり、クレーターを作る。
もはやそれだけでそれが何者なのか分かった。
砂煙が消え去ると同時に、それは姿を現す。
燃えるような赤く長い髪。和風の着物。そして頭に生える二本の角。
それは間違いなくーー
「久しぶりじゃの、小娘」
「会いたかったぜぇ!!ゴミクソ野郎ォ!!」
ーー鬼城剛。楼夢が探していた人物だった。
「それにしても……酷い光景じゃのう」
そう言い、彼女は辺りを見渡し、その惨状にため息をつく。
別にそこで倒れふしている奴らに同情するつもりはない。相手との力量差を理解出来ずにやられたそいつが悪い。
彼女の目が、そう口の代わりに語っていた。
「して、なんのようじゃ、小娘」
「『一億年後に再び出直して来るのじゃな』。テメェが最後に俺の前で言った言葉だ。六倍の時がかかっちまったが、約束を果たしに来たぜ」
楼夢が剛に飛びかかった。
拳に風を纏わせ、それをハンマーのようにぶつける。
それを腕をクロスさせて防ぐ。
途端にその風圧で剛の後ろの木々が次々となぎ倒された。
「鬼神奥義『空拳』……か。見よう見まねで取得したのは褒めるが、いかんせんまだ甘い」
余裕の表情で、返しの拳を振るう。
だがそこには既に楼夢の姿はなかった。
そして後ろの殺気に気づくが、もう遅い。
「『スターライトフレア』」
超高速で後ろに回り込み、一回転しながら抜刀し剛を炎の刀で五芒星に切り裂いた。
「……ぐっ」
驚きながら急いで離れる。
あえてそれを、楼夢は追わなかった。
おそらく、自分が上と彼女に見せつけるためであろう。
付けられた狐の爪痕に、そっと手を当てる。焼き切られたおかげで血は飛び散っておらず、傷口は焼き塞がれていた。
だがそんな些細な事などどうでもいい。
問題は六億年という永遠に等しい年を生き抜いたこの男が自分に傷を負わせた、という事だ。
それがただ、ただ、嬉しい。
自分は長い時を生きすぎた。迫り来る全ての攻撃は、まるでキャッチボールのスピードぐらいにしか感じられず、威力は輪ゴムが放たれた程度のものしかない。
だが、今再び昔と同じ気持ちが蘇る。
あの、どちらが強くてどちらが弱いのかという、生死をかけた殺し合いの気持ちが。
「良いぞ良いぞ。その気迫。その目。そしてその力。久しぶりに忘れられない夜になりそうじゃ」
「永遠に明けない夜を、恐怖の夜を刻んでやらぁ!!」
「「「「「待て待て待てーい!!!」」」」」
殺し合いが始まる……前に二人を止める声が聞こえる。
鬱陶しくもそちらに視線を移すと、先程まで寝ていた鬼たちや、どこからか湧いてきたのか山の天狗たちが、二人を必死に静止していた。
そんな人波の中から、先程戦った小鬼と乳牛(剛の方が大きい)と屋敷で待機していたはずの文と天魔が飛び出してきた。
「なんなんだこのギャラリーは。見せ物じゃねえんだぞ」
「ストーップ!頼むからこの山で暴れないでくれ!」
「アンタの一撃でどれだけ被害が出たと思ってるの!」
「母様もストップ!このままじゃ鬼の領地ごと潰れちゃうよ!」
「アタシからも頼む、別のところでしてくれ!」
文からの説明によると、楼夢の全力の空拳が山を安々と貫通してしまったらしい。
それでこのままでは妖怪の山が滅ぶと、彼女たちは必死になっていたのだ。
「わっ、わかったのじゃ……。でもそれだとどこでやれば……」
「ちっ、やっぱりこうなるか。安心しろ、手は打ってある。『反転結界』」
そう楼夢が唱えると、二人は青白い光に包まれ、姿を消した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ここは……」
「中々いいステージだろ?」
次に剛が目を覚めた時、彼女は見知らぬ場所にいた。
妖怪の山の中に似ているが、空からは雪が降り注いでおり、地面や木々にどっさりと積もっていた。
それ以外は全て妖怪の山に見えるのだが、あることからここは妖怪の山ではないと、剛は判断する。
それは、この山にはあれだけいた妖怪が一人もいないことだ。そして、それはこの山全体も例外ではなく、楼夢以外の妖怪の気配を剛は見つけることができなかった。
「なるほどのう………。これなら手加減しなくても良さそうじゃ」
この期に及んでまだ手加減という言葉が出たことに、楼夢は顔をしかめる。
だがすぐに元に戻すと、目の前の彼女のその不敵な瞳を見据えた。
「……懐かしい、その目だ。今でも忘れない。俺を都市に入るまでの障害物としか見ていない。
折れた骨がまた折られるその感覚。そして崩れ落ちる俺を見下すお前の顔。
その屈辱を、返しに来たぞォッ!!!」
いい終えると同時に、妖力を込め刃物と化した己の爪を振り下ろす。
それを腕で受け止める剛だが、殴られるのではなく切られ、その腕に傷跡を残す。
顔をしかめながら爪を受けとめた剛は、楼夢の手に妖力とは違う何かが込められているのに気づく。
魔力という力を知らない剛は反応が遅れ、すぐに止めようとするが遅かった。
「くらえ……これがこの世界最強の魔法……。
ーー『メドローア』!!」
その言葉と共に、辺りが閃光で満ちた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「んで、アンタはどうすんだい?」
一方こちら妖怪の山。辺りは楼夢と剛を止めようとしていた妖怪たちでいっぱいだった。
そこで休憩していた火神に、乳牛な鬼は問いかける。
一瞬なんのことだ、という顔に、彼女は呆れた。
「だから喧嘩の続きはするのか、って話だよ」
「喧嘩かァ……。別にいいが、人数増やせよ」
「分かってる。アタシと萃香でどうだい?」
準備満々な二人に、火神は呆れた。
それに今度は鬼の方が理解できない、と言ったようだった。
仕方が無い、という風に火神は彼女たちだけでなく、ここにいる全ての妖怪に聞こえるようにわざと大きな声を出して答えた。
「二人?はッ足りねェな。十人?まだまだ足りねェ。人数問わず、この山にいる俺を気に食わねェ全ての妖怪でかかってきな!!」
その声は大きく、そこにいる全ての妖怪に聞こえた。
こうして、二つの戦いが同時に起こった。
Next phantasm……。
~~今日の狂夢『様』~~
「え~、皆さん、こんにちは。本日をもって、今年が終わり新たな年を迎えようとしています。もう少しでこの小説も一周年を迎えますが、ここまで読んでいただいてありがとうございます。作者です」
「いいとこすまんが、投稿時間から考えてもう年越したぞ?狂夢だ」
「あーもう!なんでそれを言っちゃうんですか狂夢さんは!せっかく誤魔化せたと思っていたのに」
「まだ俺ら年越しそばも食ってないし、紅白もガキ使も見てないよな?そして何より、家に身内以外だれもいなくないか?」
「言うな!どうせ私は今年も彼女できませんでしたよ!というかそれは貴方も同じことでしょうが!」
「すまん、今から俺合コンなんだ」
「テェェメェェッ!!!なぜ私を誘わなかった!?」
「え、だってブス連れてったら女の子に引かれるじゃん?」
「それを言うなァァァァッ!!」
どーも、この小説のナレーター担当です。
本日は作者共に代わって、ご挨拶と報告に参りました。
まず皆様、あけましておめでとうございます。今年も『東方蛇狐録』をよろしくお願いします。
報告というのは、しばらく小説投稿を中止にするかもしれないことです。
これは、作者が正月を楽しみたい、という願望も混じっています。
最大で一ヶ月休むので、ご了承下さい。
では、皆様良いお年を。