東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

88 / 292
手を伸ばしても届かない
背伸びしても見えてこない
そんなときこそ前を向く

あの頂きの景色を見るために


by白咲楼夢


頂点の景色~Endless Blade Waltz~

鬼城剛は、とある崖の下にたどり着いた。

崖の壁にはつい先程できたであろうクレーターがあり、何かがそこにぶつかったようだった。

そして、そのクレーターの真下の地面には、何かが雪の下に埋まっていた。

 

「......終わったか。久しぶりじゃったわ。儂の体に風穴を空ける者は」

 

そう言い残し、残念な表情で踵を返し、それに背を向ける。

 

だが、突如積もっていた雪の下から、一筋の光が漏れ出した。

それは徐々に溢れ出て、やがて熱量で爆発を起こす。

 

辺りの雪が熱で溶け、吹き飛ぶ。そしてそこから、伝説の大妖怪ーー白咲楼夢が姿を表した。

 

楼夢の両手にはそれぞれ光り輝く長刀が握られていた。

 

右手の刀を一言で表すなら、まさに太陽のようであった。

純白の刀に明るい紅が混ざり、まるで炎のような美しさを表していた。

 

対するもう一方は、先ほどの刀とは正反対であった。

闇を表すかのような黒に、月の光のような冷たい藍色が混ざっていた。

 

太陽と月。

そんな色をした刀を持つ楼夢は、自分の姿を確認する。

 

まずは髪。

つむじの部分と肩からしたの部分の色が桃色ではなく藍色に変色していた。

腰からの部分は、二本のかんざしと紐で結ばれており、頭をふるごとに髪が一つのまとまりのように揺れていた。

 

次に服。

つい先ほど破れたるしたところが完全に塞がっていた。色は黒が基本的にベースだが、ところどころに白と紅が混ざっていた。

 

最後に瞳。右目は桃色、左目は瑠璃色のオッドアイに変わっていた。

 

ここまで変わるとなんか怖いな。

というかなにさりげなく服を新調してんだアイツ!?

 

『我慢しろ。というか服は俺が作ったが、それ以外は俺とお前が混ざりあった証拠だ。決して全てが俺のせいではねぇ』

『いたのかよ。まあいい、今はそれよりも......』

 

楼夢は前を向き、その視線の先に立っていた剛を睨む。

そして、それに本能的に危機を覚えた剛は、上に跳躍する。

その判断は正しかった。

 

両手の刀を、同時に振り下ろす。

すると、視界が真っ白に包まれた。

 

刀から生み出された炎と氷は、楼夢の視界の半分を火の海に、もう半分を巨大な氷柱が突き出ている大地へと変えた。

 

「......はっ?」

 

そのあまりの威力に、楼夢は目を白黒させる。

 

『おう......こりゃスゲエ威力だな。多分これだけで世界滅ぼせるぞ』

「いやマジでシャレになんねえよ!......だがまあ今は思いっきり使わせてもらうぜ!!」

『......一応お前の怪我を止めるのも合わせて十分が限界だ。わかりやすいようにタイマーを付けておいた。それを過ぎたら自動的に解ける。......健闘を祈るぜ』

 

思えば、初めて戦った時も制限時間は十分だった。

ならば今それを乗り越える。

地面を叩き、数百メートル先まで跳躍する。そしてそこで待ち構えていた剛に左の刃を繰り出す。

 

「グゥッ!?......だがまだっ!!」

 

ガードした左腕が氷で覆われる。そしてその余波で後ろの山の木々が凍りついた。

だが凍った腕でそのまま殴り返される。

 

「ゴハァッ!!」

 

顔を殴られ、吹き飛ぶがすぐに体制を整える。

心なしか一撃の威力がさらに上がっている気がした。

おそらくそれは間違いじゃないだろう。その証拠にこちらも余波だけで大地の一部を抉っていた。

 

明らかに威力が違う一撃。そして楼夢は、ようやく彼女が本気になったことに気づいた。

 

「今ので終わればいいと思ったんだが、流石にそうはいかねえか」

「いい威力じゃ。おそらく儂の経験の中では一番威力が高いじゃろう。じゃが、最後に勝つのはこの儂じゃ!」

「さぁ、始めようぜ。最終決戦を!」

 

その叫びと共に、右の刀が振るわれた。

灼熱の業火が、剛を焼き付くさんとする。

 

それを拳一つで払いのけ、もう一つの拳に力を込めた。

 

「『空拳』!」

 

大砲の砲弾のようなその一撃を、刀をクロスさせて防ぐ。

衝撃で吹き飛びそうになるがこらえ、そのまま拳をはね上げる。

 

そして無防備になった瞬間に、斬撃を数十回放つ。

 

その全てに風の鎧を切り裂かれ、剛の体に炎と氷の刃が刻まれた。

 

鮮血が宙を舞う。

だがそれを関係なしに、体に埋まった刀身を手で掴んだ。

 

(まずいッ!)

 

距離を取ろうとした楼夢だが、刀身を掴まれたことで身動きできずバランスを崩す。

それを狙って、今度は剛の一撃が、楼夢を捉えた。

 

「『雷神拳』」

「ゴッ!?......ガハッ、ゲホッ......!」

 

雷の拳が、体を抉った。

流された電流で、一瞬心臓が止まる。

そしてすぐに呼吸困難におちいった。

腹に手を当て、うずくまる。

そこに、二撃目の拳が、死神の鎌のように振り下ろされた。

 

「ちっ、くそがァァァァッ!!」

 

ハンマーで打ち付けられるよりも酷い衝撃が、再度楼夢の頭部を襲った。

だがただでは終わらない。玉砕覚悟で飛び出し、森羅万象斬を相打ちに放った。

 

剛の肩から下の肉が、切り裂かれる。

痛みをこらえ、今度は頭突きを繰り出す。

 

骨が砕ける音がした。そしてまた強烈な痛みが、楼夢を蝕む。

そしてそれに負けじと、攻撃を繰りかえす。

 

骨が砕け、肉が裂け、骨が砕ける。

もはや互いの攻撃を避けることすらできない。

それほどまでに激しく殴り、切り、血が飛び交う。

 

楼夢は右の刀でなぎ払う。だがそれを剛は後ろに軽くバックステップして避け、空振りに終わった。

だがそれで終わらない。巫女袖を剛の方向に向ける。その中には光り輝く弓矢が弦を引き絞っていた。

 

「『アーティクル・ペルセー......」

「『閃光爆裂拳』!!」

 

だが、それは不発に終わる。閃光の矢が放たれる前に、赤の拳が巫女袖に直撃した。

直後、爆発。凄まじい音と共に右腕の巫女袖が消滅し、楼夢の白い肌が露になった。だがそれも血しぶきで紅に染まる。

 

苦い顔をしながら、後ろに下がる。

 

「このっ...... 『狐火金火』!!」

 

先ほどの数倍の威力の黄金の狐火を刀に纏い、大技の後で動きが鈍った剛に叩きつける。

それを腕を十字にクロスさせて防ぐ。だがその火力は凄まじく、完全に防御したにも関わらず数歩後ずさってしまう。

 

そこに、返す刀で体を半回転させる楼夢の姿があった。

 

「 『狐火ぃぃぃ......銀火ぁぁぁ』!!!」

 

銀色の光を、月の刀が纏う。そのまま目の前の敵目掛けて突きを繰り出した。

 

「ガァ......ッ!!」

 

銀の光が剛を腹から貫いた。そしてそこを中心に次々と氷が剛を覆う。

 

残り制限時間は後五分。

これを勝機と見た楼夢は、一気に畳み掛ける。

 

「 『誓いの五封剣』」

 

まず空中に出現した炎の剣で、剛の四肢と体を貫き、固定させる。

本来なら炎剣の熱で氷が溶けるのだが、それは形を維持したまま剛を縛る。

 

「 『閉ざしの三縛槍』」

 

今度は三つの氷の槍が現れ、剛に突き刺さりあちこちを氷付けにした。

 

完全に動きを封じると、今度は空に魔法陣を描く。

そしてそれに魔力を通すと、空が突如闇に覆われ、夜に変わった。

星々も出てきており、どこからどう見ても本物の夜にしか見えなかった。

 

「 『夜間飛行』 それが俺の【形を操る程度の能力】の本当の力だ。これは俺が指定した範囲の空間を作り出し......完全操作できる!」

 

その言葉と同時に、星々が赤、青、黄、緑......と様々な色に輝いた。

あれは星なんかではない。その一つ一つが魔法の塊なのだ。

 

「 『魔力全方位一斉射撃(マナバレット・フルバースト)』」

 

その合図と共に、星々はまるで万有引力を表すかのように、一斉に剛を襲い、空間ごと消し飛ばした。

 

ドッガァァァァァァアアン!!! 世界が、反転結界が揺れる。そしてその衝撃に耐えきれず、空間がひび割れ始めた。

 

(残り時間はあと60秒。こいつを倒せば全てが終わる。俺の全盛期はもう過ぎる。だったら......今はコイツを倒すことだけ、考えろ!)

 

「陽神剣 『ソル』」

 

純白の刀が、真紅の炎に包まれ、西洋剣のような形状に変わる。

 

ふと視界に重力に従って落ちている剛を見つける。それを目で追いながら体の体制を空中で整ええ、左手に力を込めた。

 

「月神剣 『ルナ』」

 

今度は漆黒の刀が蒼い氷に包まれ、黒を覆い尽くす。そしてこちらも西洋風の剣の形に変わった。

 

傍から見ればそれはかろうじて剣の形状が見えるほどの光量を放っていた。柄から刃まで、全てが紅、または蒼に光り輝く。

 

そして地面に着地した剛目掛けて、最後の突撃を行った。

 

そして同じように剛も自分の全ての妖力を二つの拳に詰め込み、迎え撃った。

 

「『千花繚乱(せんかりょうらん)』!!!」

「『流星砕き』!!!」

 

斬撃と打撃が何度も、何度もぶつかる。

その衝撃で世界がどんどん崩れていった。

 

だが関係ない。今の楼夢は音を、光を、全てを超えていた。

景色すら目に入らない。音すら聞こえない。光すら届かない。

誰もたどり着けなかった頂点(エクスタシー)に今彼はいた。

 

(認めねぇ!!認めねぇ!!強いのは俺だ!テメェなんかに......負けてたまるかよぉ!!!)

 

一振りするだけで空が凍り、大地が溶ける。

赤の隕石が何度も衝突する。

 

永遠の舞踏会(エンドレスブレードワルツ)

一度入れば永遠に踊り続けなければならない。

だがそれでも終わるときは一瞬だ。

 

 

ーーザシュッ そんな音が響く。

 

当たったのはーー楼夢の斬撃だった。赤の隕石はそれで力を失ったかのように消え去った。

 

「ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“ァ“ッ!!!」

 

炎と氷の嵐が、巻き起こる。

一つの斬撃が当たるたびに体は凍りつき、そして溶かされる。

凍る、溶ける、凍る、溶ける、凍る、溶ける。

 

何秒、または何分、あるいは何時間経ったのだろうか。

ただ一心不乱に剣を振り続ける。

そのたびに血しぶきを浴びる。まるで血の海に頭から埋まっているようだった。

 

(トド......メだァッ!!)

 

重い体を動かし、半回転させながら二つの剣を右から左に振りぬこうとする。

 

 

ーーその時、一瞬剛の瞳が目に入った。

その瞳は赤い光を宿らせていた。

 

「らい......神拳ッ!!!」

 

雷撃と炎氷の斬撃がぶつかった。

そして割れたような音と共に、何かが宙を舞う。

 

ーーそして、楼夢の脳天に拳が突き刺さった。

 

薄れゆく意識の中、空を舞う何かを確認する。それは二つの刃の欠片だった。

 

(......ち、タイム......アップかよ......畜生が)

 

「チックショウがァァァァアッ!!!」

 

バキィッ そんな音が響く。

何をしたのかは覚えていない。

ただそこには鈍い音と何かを叩いた衝撃と......倒れふした剛の姿があった。

 

「ま......さか負けるとはのう。これだから......長生きはいいのじゃ」

 

空を見上げながら、ポツポツと剛は語る。

その顔は心なしか微笑んでいた。

 

「あっぱれじゃ楼夢。お主が......『最強』じゃ」

 

それを言うと、剛は何も反応しなくなった。

そして、楼夢の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

Next phantasm......。




※『天破りの夜間飛行』→『夜間飛行』に変更しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。