東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
ただ何も残せずに消えるのは怖い
by白咲楼夢
チュンチュン、という小鳥の鳴き声が聞こえる。
そして、暖かい日差しと共に俺は目覚めた。
あたりを見渡す。どうやらどこかの屋敷内にいるようだ。
現在俺は病院の患者が着るような白い服を着ていた。髪の毛の色は元に戻っており、頭には包帯が巻かれている。まさにTHE怪我人といったところだ。
「......とりあえず起きるか」
しばらく思考したあと、ベッドから出ようとする。
だが、なぜか体に力が入らず、床に崩れ落ちてしまった。
い、痛い。どれくらいかというと、道端で石につまずいて顔から転ぶくらい痛い。
「いっててて......あれ 、立ち上がれない?」
すぐに起き上がろうと再度体に力を入れる。だがやはり力が足りず起き上がれない。
あれ、もしかしてこれ詰んだ?
「ちょ、俺頑張れよ諦めんなよどうしてそこで諦めるんだやればできる絶対できる......」
......やばい、なんか暑苦しいテニス選手が降臨したんだが。帰れよお前!
とまあ、そんな風に近くにあった物を掴み、なんとかよじ登る。
足がプルプルと震えている。まるで産まれたての子鹿のようだ。
「......やべぇ、今俺めっちゃ惨めなんだがおい」
とりあえず視線を窓の外に向ける。そこには一本の大きな木が生えていた。
今はなぜ体に力が入らないのかを調べるよりも、歩行をどうにかしなければ。
という事で能力発動。ズキリという痛みが一瞬頭にはしった。だがあまり痛くないので気にしないでおこう。
今回はフロストランド杖という、歩行をサポートする補助具を木で作った。
ほら、よく病院とかで足を骨折したときに、グリップから上に棒と輪っかみたいのがあって、肘を固定する杖があるだろ?それの木製版ということだ。
本来なら二つだが、それを一つ作り左手でグリップを握った。
そして、杖を使いながら重心をかけ、歩行を成功させることができた。
歩けることの素晴らしさを改めて知った気がする。
「それにしても、なんで歩けなかったんだろ?」
そう、疑問に思った点はそれだ。
最初は長期間の休眠で筋力が減ったと考えていたが、俺の腕の太さは寝込む前と変わっていない。元から細かったのは黙っておいてくれ。
となると、単純に筋力の問題ではないのかもしれない。もしかしてこれが全盛期の力を失った代償ってやつか?だとしたら先にデメリットを説明しておけよ!何省略してんだよあの白髪野郎!
「......虚しい」
言うな俺。自分でも何心の中で勝手に突っ込んでんだ? とは思っていたから。
「とりあえず出よう。まずはそれからだ」
杖を使いながら歩き、ドアに手をかける。そしてそれを思いっきり開いた。
そして、俺の顔に何か二つの柔らかい物体が押し付けられた。
気になり、手で触ってそれを調べた。
「......何だこれ?」
「キャッ、キャアアアアアアア!?」
突如響きわたる悲鳴。
自然と顔が上にいく。そこには顔を真っ赤に染めた紫の姿があった。
同時に、俺は何に触れてしまったのか気づく。
「ゆ、紫違う!これはわざとじゃ......」
「うるさあああああい!!!」
数秒後、俺は次に起こる自分の未来を悟った。
そして、自然に目をつむる。
じゃあなみんな、来世でまた会おう。
パチンッ! という音が響く。そして、俺は地面に頭をぶつけ、意識を手放した。
◇
「し、死にかけた......」
「自業自得よ!」
現在、俺と紫は屋敷の中を歩いていた。
俺はどうやら一週間寝続けていたらしい。
それにしてもさっきはマジでやばかった。地面に倒れた衝撃で杖を遠くに手放してしまい、芋虫のように地面を這いながらなんとか立ち上がった。
そこでなぜか置いてあったバナナの皮に足を滑らせ、再び転倒してしまったのだ。
おまけに足を捻ってしまい、後はご想像にお任せする。
というかバナナの皮ってマ●オカートかよ!危うく無限ループが始まるとこだったぞ!
「とりあえず犯人を後でぶっ飛ばすか」
「屋敷が消し飛ぶからやめなさい」
今だ見えぬ犯人の顔をぶっ飛ばすシーンを想像しながら、廊下を歩く。
紫も俺のペースに合わせて歩いてくれる。ぶっちゃけ結構嬉しい。
「というか紫はなんでここにいたんだ?」
「私の夢関係の話よ。前に天狗と和解して妖怪の山と手を組むことに成功したんだけど、そこに鬼が来ちゃったのよね。現在の山の所有権も奪われたようだし、もう一度話しにきたってことよ」
そりゃまあ頑張ってることで。どうやらもう妖怪と人間が住む里が出来上がっていて、そこから徐々に土地を広げていくらしい。
あれ?俺の助けって、もしかしていらなくね?
「だけど私じゃ絶対取れそうもないから、お願いできるかしら?」
よし、一応俺にも需要あったようだ。
「オーケー。任せておけ」
基本的に、鬼は強者を好む。最強の鬼である剛を倒した俺の頼みなら聞いてくれるだろう。
少なくとも剛はそういう奴だ。
「そう言えばあいつらは?」
「貴方が目覚めたのをスキマ経由で教えたら、急いで宴会の準備をしているみたいよ」
「そりゃいいね。久しぶりに一杯飲みてえな」
宴会という言葉に楽しみを感じながら、俺は歩を進め、屋敷の外へ向かった。
◇
「お、楼夢か。ようやく起きたか
「うっす火神。それで娘たちはどこだ?」
「それならあっちにいるぞ。ほら、今こっちに向かってきてるぜ」
ピシッ と東の方角を指さす。
見ればそこには美夜たちが、果物が入ったかごを腕にぶら下げたまま、こっちに向かってきた。
「お父さん!怪我治ったの?」
「よ、美夜。俺がいなくても大丈夫だったようだな。ああ、怪我は歩くのに少し問題がある程度だ」
そう言うと、空いている右腕をグルグル回して、大丈夫なのを証明する。
「おとーさん、はいコレ!」
今度は清音が俺にかごを渡してきた。中にはりんご、いちご、そしてどこから手に入れたのかバナナがそれぞれ数本入っていた。
......ん、バナナ?それってもしかして......。
「な、なあ。お前ら俺の部屋でバナナ食べたりしなかったよな?」
「バナナなら、火神さんが食べていましたよ。もっとも、鬼子母神様とそれで何かしていたらしいのですが」
舞花の衝撃の発言に、俺は思わず火神を見る。
火神はなんのことか知らないと、口笛を吹いていた。だが顔から冷や汗がダラダラ流れているのを見て、俺は確信する。
「テメェが犯人か!」
「ち、違う俺だけじゃねェ!剛の奴も一緒だった」
「何をそんなに盛り上がっておるのじゃ?」
トコトコと、剛がこちらに歩いてくる。
おお、グッドタイミング。
俺は巫女袖からアサルトライフルを取り出し、照準を二人に向ける。
「よし、お前らとりあえず死刑な」
「な、なんじゃ!なぜそうなる!?」
「逃げろ剛!イタズラがバレた!」
「逃がすか!死ねぇぇぇぇぇ!!!」
ものすごい速度で逃げる二人に、リロード不要、射程は通常の五倍にまで改造されたライフルをぶっぱなす。
悲鳴をあげながら空中を飛び逃げる二人。その隙にロケットランチャーをぶち込んだ。
「「ほがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
空で大爆発がおこる。ありふれたセリフだが言わせてもらう。
けっ、汚ねェ花火だ、と。
◇
イタズラの主犯を捕まえた後、俺は宴会場に向かっていた。
剛いわく、このあとどんちゃん騒ぎするのですぐに来るように、だそうだ。
俺との戦闘後なのに、相変わらずピンピンしていた。俺は杖がないと歩けないのに対し、あっちは逃走中元気よく木々の間を飛び回っていた。頑丈な鬼の体が羨ましい。
「着いたぜ。ここがその宴会場だ」
思わず上を見上げてしまう。
宴会場は和風の旅館のような構造になっていた。ただその広さは千人以上入っても問題ないくらい広い。それが三階建てになっているから驚きである。
ガラガラと、戸を開けて入る。
途端に聞こえてくる大音量の騒ぎ声。もう既に大半は入っているらしく、中には鬼はもちろん烏天狗や、その部下で妖怪の山の巡回役でもある白狼天狗の姿もあった。
おいお前ら仕事はどうした。
「おーい楼夢、こっちじゃ」
声の方向に首を向けると、天狗の長である天魔が酒入りの瓢箪片手にブンブンと手を振っていた。となりには天狗でいえばお馴染みの射命丸の姿もある。
「おお、やっと来たか。待ちくたびれたぞい」
「というかさ。白狼天狗まで混じってるけど仕事はどうしたんだよお前ら」
「安心せい。最低限は残してある。それに今侵入したら伝説の大妖怪が三人と、宴会を邪魔されたという理由でこの場にいる大量の鬼が侵入者を潰してくれるじゃろうし」
意外に考えられていることに少し驚く。まあそれくらいできないと天狗の長など務まらないのであろう。
というよりも、俺としては最低限の守りとして貧乏くじを引かされた白狼天狗たちに同情する。考えてみて欲しい。数千の妖怪が飲んで騒いでしてる間、自分だけ黙々と暇な仕事をこなすのだ。俺だったら発狂レベルである。
俺がそう仕事中の白狼天狗のことを思っていると、宴会料理が運ばれた。VIPが集っている席だけあって、他のところよりも豪華で量も多い。
「おお、美味そうじゃん!いただくぜ!」
次々と魚やら米やら酒やらを飲み込んでいく火神。その光景に少し恐怖を覚えた。
横を振り向けば我が娘たちが火神並のペースで料理を食べあさっていた。お前ら......一体いつからそんなに食うようになったんだよ......。
「何よ、食べないの?」
「いや食うよ。ただ娘たちの成長をこんなところで見れたとは......」
「ふーん」
射命丸は特に興味がなさそうだった。なら話ふるなよ全く。
ようやく宴会料理に手を付ける。......美味い。さすがVIPである。
「いやーお主には感謝しとるわ」
「……何にだ?」
ふと唐突に天魔からそんな話をふられる。俺がこの山でやったことって壊して壊して壊したくらいしかないと思うんだが。
「実はのう。鬼がきて以来こう言った交流のようなものは全くなくてな。そのキッカケを与えてくれたお主には感謝する」
天魔は宴会場を見渡す。
そこには烏天狗や白狼天狗が鬼に絡まれている光景があった。だが不思議とその表情は笑顔で埋め尽くされていた。
「となり、いいかい?」
「ん?ああいいが」
「じゃあ遠慮なく。おーい萃香ー!席取れたぞー!」
俺のとなりに火神と戦った金髪乳牛鬼が座る。そして俺と戦った小鬼を手を振りながら呼んだ。
金髪乳牛鬼は盃に酒を入れると、俺に差し出す。
「ほらよ、飲みな」
「ああ、サンキュー。ええっと……」
「そう言えば名乗ってなかったね。アタシの名前は
「ちっちゃいって言うなー!」
小鬼ーー萃香が自分の身長について必死に抗議した。だがそれを勇義はぬらりくらりと流す。
「いやーでも最初は信じられなかったよ。母様が負けたなんてね」
「母様?」
「ああ、私たちの大半は母様から溢れ出た妖力から生まれてね。だから母様さ」
えっへんと、胸を張る。そして揺れる乳に一瞬目を奪われてしまったことを責める奴はいないだろう。それくらいでっかいのだ。
しばらくすると、二人は射命丸を連れて別の場所に飲みに行った。というかアイツ引きずられてなかったか?
「楼夢ー!宴会は楽しんでおるかー!?」
最後に剛がこっちに向かってきた。
ほんのり赤に染まった肌と、勇義以上の胸が正直エロい。普段巫女服着て性欲が全くない俺でも発情してしまいそうだ。
「まあ、楽しんでるぞ」
「おお、それはよかった。本来ならあの戦いの後すぐに宴会を開くはずじゃったのに、お主のために一週間待った儂に感謝するのじゃな」
グイッと、元気良く酒を樽ごと飲み干す。実はあれ水なんじゃないかと思う。
「どうじゃ。夜のために今酔っとくのも悪くない」
「いや夜ってどういうことだよ?」
「もちろん後で行うベッドの上での行為のことじゃ」
「いやしねえよ!?そもそもなんで俺とお前がヤルことになってんだ!?」
おかしい、どうしてこうなった!?
よくよく見れば彼女の頬はかなり赤く、息も荒い。それこそまるで発情しているようだ。……ん、発情?
「……実はあの戦いのあとお主に発情してしまっての……っ。疼きが止まらんのじゃ……っ!ああもう我慢できん!」
そう言うと、俺の体に剛は飛びついてきた。勢い余って、地面に押し倒される。胸が体に押し付けられて、正直理性が飛びそうになった。
マズイマズイ!というか紫さんなんでそんな殺しそうな目で俺を見てるんですか!?
「……はぁっ、はぁっ……いい匂いじゃ……っ!」
「だ、誰か!?助けてくれぇぇぇぇぇ!!」
結局、剛は後で宴会場の皆様の手によって無事押さえつけられました。
宴会は夜遅くまで続いた。
こうして、俺の楽しい祝勝会は幕を閉じた。
◇
「ゴッ、ガハッ……!!」
深夜、俺は一人森の中にいた。
そして、大量の血が、口から吐き出された。
ビシャッと、それらは近くにあった草木を真っ赤に染める。
小さい水たまりができるほどの、血の量だった。
「グッ……うぅ……」
(痛い痛い痛い!!頭が割れそうだ!!)
あまりの痛みに、思わず手で頭を押さえる。だが痛みは徐々に増していき、再び口から血が吐き出される。
ふと、自分の腕を見る。腕はビクンビクンッとまるで電流を流されたかのように震えていた。
(体が……痺れる……っ!クソ、朝はこんなじゃなかったのに……っ!?)
なぜこうなっているのか、俺自身にも分からなかった。
否、仮説だが原因は分かる。
(パンチ……ドランカー症状……か……っ!!)
パンチドランカー。もしくはそれに近い類だろう。
剛との戦闘で、俺は主に頭部に当たったら消し飛ぶほどの一撃を大量に受けていた。いや、おそらくその前の火神戦の時からガタが来ていたのだろう。
今の説が事実なら、確実なのは俺は脳に相当ひどいダメージを負ったということだ。
なるほど、これなら体が思うように動かないのも納得行く。おそらく脳からの信号が体に正確に届いていないのだろう。むしろ俺が今こうして思考できるのは俺が妖怪であるということが大きい。人間か、並の妖怪だったら即廃人ルート確定だろう。
「ろ、楼夢……?」
「はぁ、はぁ……紫か……どうしてこんなとこに?」
「そんなことはいいから!早く治療を……」
「いや、必要ない」
紫が治療術を発動するのを、俺は静止した。
体の負傷ならまだいい。腕が飛ぼうがいずれ生える。だが脳は違う。いくら治療術をかけても、脳は治らないし、生えても来ない。それは紫ほどの腕でも同じことだ。いや、もし俺が治療できる術を生み出したとしても、脳に異常が起きている以上、俺は術式を発動できない。
つまり、俺の脳は二度と元には戻らないということだ。
紫が諦めずに何度も高度な術式を発動させる。だが何も起こらない。
それが続くこと数十分、紫はとうとう妖力枯渇を起こし、地面に手をつく。
「もういい紫。分かっただろ?」
「いいわけないでしょ!?あなたはこれでいいの!?」
紫は泣きそうな顔で必死に叫ぶ。
俺は目を瞑りながら星空を見上げた。
「……いいのかもしれない。俺は長く生きた。今さら戦えなくなるより、昔からの夢を叶えられたほうが嬉しい」
「……夢?」
「……ああ、『最強の妖怪になる』っていう、妖怪なら誰もが一度は思う夢だ。だがそれを成し遂げられるのはいつの世も一人だけだ。俺は、その一人になれたことが嬉しい」
そこで、目をゆっくりと開き紫を見る。
「だから紫。絶対にお前の夢を完成させろ。それが俺の……最後の願いだ」
「楼夢......」
そこで、抑えられなくなり紫はとうとう泣き出した。
森の中に、少女の泣き叫ぶ声が聞こえる。
だが、それを咎める者はいない。
青年は微笑む。その笑顔は星のように力強く、儚かった。
二人を、月の光が包む。
一体いつからこの世を巡っていたのだろうか。
答える者はいない。だがそれでいい。
俺はいつしか『最強』と呼ばれていた。
~~今日の狂夢『様』~~
「はいということで今章が終了しました!作者です」
「なんか今回楼夢がめっちゃ得していることに抗議したい!狂夢だ」
「いやー今回で楼夢さんの弱体化が決定しました!」
「ちなみになんで弱体化させたんだ?」
「いやねー、正直言うとここまでの楼夢さんの実力だともう全キャラが相手にならないんですよ。今回で永遠の標的の剛さんが倒されましたし」
「というか脳の障害に、フロストラント杖とかもうどこぞの白髪ロリコンベクトル少年しか思い浮かばないんだが。というかお前一方通行ネタ好きだよなー」
「まあ、作者が見てきたアニメの中で一番好きな男性キャラですからね。ちなみに二番は木原君です」
「黒い翼も生えるし、もう少しで全攻撃反射とかできそうだな」
「というか、思いつくネタが何故か微妙にかぶるんですよ!私は悪くない!」