東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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縁側で一人、夜空を見上げる

……嗚呼、かつては三人で、この夜空を眺めたものだ

今はもう誰もいない。それが私の胸に チクリと刺さる


by白咲楼夢


家建てました

「こ、ここは……?」

 

戸惑いながら、辺りを見渡す。そこに神社はまだ建っていないものの、そこはやはり楼夢の前世の家、白咲神社と同じ光景だった。

今思えば、石の階段がなかったからわかりにくかったが、登る時の道中もひどく似ていた。

 

地面にしゃがみこみ、生えている草に触れる。そしてまるで確かめるように、地面をトントンと叩き始めた。

 

「ん、なにしてるのーお父さん?」

「いや、ちょっと気になることが、な」

 

確かめた結果、ここの地面はどうやら建物を建てるには最適なようだ。

 

「ちょっと皆、言いたいことがあるんだ」

 

にっこりと微笑みながら、楼夢は口を開いた。

 

 

「ここに神社(いえ)を建ててみない?」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

あの言葉を言ってから、数ヶ月がたった。

結果からいうと、無事『白咲神社』は復活……いや誕生した。デザインはかなりこだわっており、楼夢の記憶通りの造りになった。

そして、現在楼夢は外を眺めながら、横になっていた。頭につけてある演算装置も今は外されている。

 

(いい景色だねぇ。思えばここまでゆっくりするのは久しぶりだな)

 

などと考えながら置いてある団子を一つ、口の中に放り込む。そして完全に食べ終えると、いつもの酒ーー『奈落落とし』が入った盃を飲み干した。

 

「『花より団子』とは言ったものだな。ま、もっとも俺は『団子より酒』なんだが」

 

そう酒の旨みに酔いしれていると、美夜がこちらに向かってきた。彼女は何か言いたげな表情をしているが、それだけでは楼夢に伝わらなかった。

 

「……どうした美夜?なんかあったのか?」

 

 

「……dhusjdfhkvawkodeuidsari」

 

「……はっ?」

 

美夜の言葉をうまく聞き取ることができず、楼夢は混乱する。それに気づいた美夜が、ジェスチャーで楼夢のとなりに置いてある演算装置を指さした。

 

(あ、なるほど)

 

楼夢は急いで演算装置を頭につける。そしてもう一度耳をすました。

 

「もしもし、ちゃんと聞こえてる?どうやら紫さんが来たみたい」

 

そんな声が、頭の中に響く。どうやら今度は聞き取れたようだ。

 

今のように、楼夢の脳は演算装置をつけないと音を聞き取ることすら難しくなる。最初ベッドから起きたときに何も起こらなかったのはどうやら狂夢が何らかの術式を発動させていたおかげのようだ。だがもちろんそんな術をいつまでも持続出来るわけがない。そんなこんなでできたのが、今楼夢がつけているヘッドホン型演算装置だ。

これの動力は基本的に妖力と、少しの電力だ。通常モードだったら妖力だけで十分なのだが、戦闘モードに切り替えると大量の装置内の妖力と電力を使用してしまうのだ。

 

『日常生活するんだったら充電はいらねえ。だが、もし戦闘になったんだったら、それはもって十分だ。一応時間を過ぎた時のためにスペアの妖力があるから動けなくなることはないが、戦闘続行は不可能と思え』

 

かつて言われた、装置の注意事項を楼夢は思い出しながら、返事を返した。

 

「……紫?ああ、そういえば神社が完成してから一度も会ってないな」

 

そして起き上がると、近くに置いてある杖を左手で握る。そして、外へと向かった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

楼夢が境内にたどり着いた頃には、紫は清音と舞花とガールズトークをしていた。それを邪魔するのに楼夢は心の中で軽く謝罪すると、紫たちに声をかける。

 

「おーい、来たぞ。んで何してるんだ?」

 

改めてそうたずねる。紫は何やら外国語で書かれている本を抱えており、そのページをめくっては舞花たちになにか聞いているようだった。

 

「あ、ちょうどよかったですお父さん。実はこの本の内容を知りたいんですが、読めますか?」

 

そういい例の本を渡される。それのページをめくると、どうやら英語で書かれているようだった。

 

「どうお父さん?なにかわかりましたか?」

「舞花、この本はどこともわからない国の言語で書かれてるのよ。いくら楼夢でも、これを通訳することなんか......」

「いや、一応読めるぞ」

 

その言葉に紫は驚愕の表情を表する。当たり前だが、今のこの時代じゃ英語なんて日本では使われていない。ゆえにこの国には英語を読める人というのは大変貴重なのだった。

そんなことを知らずに、ペラペラとページをめくる。前世での一流大学で英語の評価がカンスト越えをしていた楼夢にとって、このくらいは楽勝であった。

 

「どうやらこれは西洋の大陸の妖怪の情報をまとめたものみたいだ。いわゆる『妖怪大百科』的な感じのものだな」

「へ、へぇ......あなたがなぜ読めたのかは置いといて、例えばなにがいるの?」

 

私、気になりますという感じに楼夢の顔をのぞき込む。楼夢は、本をペラペラとめくった。

 

「うーん、例えば『ゾンビ』。こいつは人間の死者の肉体が妖怪化したものらしい。腐った体は痛みに鈍くなっていて、攻撃してもひるまないようだ。他にも、噛んだ人間を自分と同じゾンビにする、とか色々な能力があるみたいだ」

「......いきなり強力ですね。それってある意味不死身なんじゃないですか?」

 

そんなのがいたら洒落にならないと、舞花はひきつった顔で言う。だがもちろんゾンビには欠点とも言うべき弱点があった。

 

「いや、どうやらこいつは日光に当たると灰になって消えるみたいだ。つまり、活動できるのは夜だけみたいだな」

「な、なんだ......もしこの大陸に攻め込んできたらと考えていたのが無駄だったようね」

「ちなみに、強さも一匹あたり中級下位から中級中位までしかないようだ。だが、とにかく大勢で集まっているらしい」

 

ゾンビは一匹の強さなら先ほど言った通りの力しかないが、高確率で仲間と一緒にいるようだ。街に攻め込んできたときは百、酷ければ千単位のゾンビが集まってくるそうで、あちらの大陸では『一匹見かけたら三十はいると思え』と言われている。というかそれはGの対処法だ。

 

「ふーむ、じゃあこれは何かしら?」

 

そう言い紫は鋭い牙を持った人型の妖怪の絵を指さす。

 

「こいつは......吸血鬼だな。数は他と比べて少ないが、天狗に匹敵するスピードと、鬼に匹敵する力をそなえているらしい。さらには妖力と魔力も高く、弱くて上級中位、過去一番強力な個体は大妖怪最上位になるみたいだ。まあ、西洋では最も大妖怪にたどり着きやすい種族の一つみたいだ」

「......天狗と鬼って......それはちょっと反則じゃないかしら?」

 

紫はその情報を聞くと、かなり真剣な表情でそう呟く。楼夢としては紫も十分反則なのでは、と思っていたのだが、それは心の奥にしまっておこう。

 

「......まあどうせこいつらが攻めてきても最悪この大陸は落ちないだろうが。なんせここには伝説の大妖怪が三人揃っているからな」

 

大妖怪最上位と伝説の大妖怪では実力が天と地程も違う。それこそ大妖怪最上位が百匹いようが、伝説の大妖怪はそれを一人で片付けられる。

いわゆる、チートというやつであった。しかもそれが二人、楼夢を合わせて三人となると、世界中の神々と妖怪が手を組まない限り滅びることはないだろう。

 

「それに、吸血鬼はゾンビ同様日光に弱い。さらに水に触れると力が入らなくなり、銀に触れると肌が火傷のように晴れ上がる。さらに言えば十字架を見るだけで数秒間失明し、にんにくの匂いをかぐと頭に頭痛がはしるようだ。つまり、吸血鬼は強力で、欠点だらけの妖怪とも言える」

 

楼夢はきっぱりと断言した。実際、吸血鬼は弱点が多く、対策さえしっかりしていれば街一つ分の人間たちでもなんとか勝てる相手だ。

その分、この大陸の妖怪は弱者は弱者、強者は強者ときっぱり分かれていて種族的な弱者を持っている種族はあまりいない。

要するに、西洋と東方の妖怪の違いは、強い力を持つものが多いが弱点も多い西洋と、強者になれるのは一部の種族や個体だがその分安定している東方、ということだ。

この二つの大陸がぶつかればどちらが勝つかというと、どちらかと言えば東方に軍配が上がるだろう。

なぜならこちらには【境界を操る程度の能力】を持つ紫がいるのだ。朝と夜の境界を操れば日光が地に満ち、土と金属の境界を操れば地面全てを銀に変えることもできる。つまり、どんな相手でも的確に弱点を突ける、ということだ。

 

まるでドラ●エ9の魔法戦士のようだ、と楼夢は思う。なのであまり西洋の敵を警戒しなくてもいい。だがもし攻めてきた時のために日本語通訳版を作ってあげよう。

楼夢はそんなことを考えると、パタンと本を閉じ紫の方へ向く。

 

「とりあえずこいつは預かっていいか?代わりに読み終わったら通訳版を作ってやるから」

「うんわかった!それじゃあ本楽しみにしてるわよ!」

 

そういい終えると紫はすぐにスキマを開き、行ってしまった。

辺りに俺と舞花だけが取り残される。舞花もこの本の通訳版を読みたいようで、目をキラキラ輝かせていた。

 

「はぁ、これは今日は徹夜になりそうだな」

 

吐き出すため息と共に、楼夢の口からそんな言葉が溢れるのであった。

 

 

 

Next phantasm......。


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