東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~ 作:キメラテックパチスロ屋
腕試し。力がついたらやりたくなるもの
勝てば大吉、負けても大吉
さあ、いざ尋常に
by白咲清音、白咲舞花、白咲美夜 (上から順)
「準備はいい、お父さん?」
「おう、大丈夫だ」
ヒュルルッ、とバトル漫画のように風が吹く。
現在、楼夢は境内の中で美夜、清音、舞花と対峙していた。
彼女たちはそれぞれ長刀、短刀、お払い棒を構えており、楼夢の動作一つ一つに注目していた。
今思えば、随分と大きくなったものだ。
それを嬉しく思いながら、内心微笑む。彼女たちの体はすでに一般の女子高校生ほど成長しており、女性特有の色気を漂わせていた。
ちなみに胸の大きさは、順番に
清音>美夜>>>>>>舞花
というようになっていた。
......舞花から黒いオーラが溢れた気がするが、気のせいだと信じたい。
鞘から愛刀『舞姫』をゆっくりと引き抜く。久しぶりに持ったせいなのか、脳から信号がうまく伝わっていない知らないが、刀がやたらと重く感じられた。
おそらくは後者だろう、と推測つける。
そしてーー頭のヘッドホンのスイッチをつけた。
次の瞬間、装置に描かれた桃色のラインが瑠璃色に変わった。
そして、体の奥底から力が溢れた。否、これは彼の持っていた妖力の
思考が一気にクリアになる。
大量の情報が頭に流れ込む。
そして、目に映る世界が変わった。
(距離約十五メートル以下。三人で一列になっているが、美夜と清音は俺と接近戦するため数センチ前に、舞花は後ろで術を撃つためにこちらも数センチ後ろにいる。つまり最初に突っ込んでくるのはーーーー)
その時、美夜が俺の前に飛び出してきた。ワンテンポ遅れて清音はそれに続いた。
「やっぱり、先手は美夜か」
目に追えない速度の斬撃を、クッションのように柔らかく刀で受ける。そしてゴムのように美夜ごと刀を吹き飛ばした。
その後ろから現れたのは清音であった。炎を刀に纏わせ、なぎ払うように振るった。
灼熱の炎が楼夢に襲いかかる。だが危なげなくその攻撃は結界によって弾かれてしまった。
「喰らえ!」
美夜が手の平をこちらに向けた。
突如、楼夢に向かって竜巻が現れ、全てを切り裂かんとばかりに進む。
これが、美夜の能力『天候を操る程度の能力』だ。
これは文字通り全ての天候を操ることが出来る能力であった。
名付けるなら......『
「だけど......甘い」
その言葉と共に、竜巻が突如切り裂かれた。
「......なっ!?」
「オラァッ!!もういっちょいくぞ!」
今までのストレスを発散するかの如く荒々しく、刀を振るう。それを防ぐが、あまりの勢いに後ろに数歩後ずさりした。
だがその隙に、後ろで何かが光った。
「破道の三十三『蒼火墜』」
舞花が放った青白い炎が、楼夢に飛びかかった。荒々しい動作が無駄になり、刀での防御は間に合わない。
「ちぃ、狐火ぃ!!」
妖狐なら誰もが使える基礎妖術、狐火。だが楼夢が使えばその威力は通常の数十倍以上に跳ね上がる。
凄まじい爆音が、辺りに響きわたる。爆風によって、青白い炎ごと美夜は後ろに吹き飛ばされた。
すぐさま受け身を取り、美夜は体制を整えた。見れば清音も一旦下がっていた。
「はあ、はあ......ちょっと強すぎない、お父さん」
「けほっ、けほっ......だけど本当に化け物なのは......」
「ええ、妖力を先ほどの狐火以外、いっさい使用していないことです」
そう、楼夢はこの戦いで妖力を使っていなかった。
現在の彼女たちはそれぞれ体に妖力を流し、身体能力を強化していた。だが楼夢はそれさえもしていない。
元々妖狐族は妖術を得意とした種族で、身体能力は鍛え上げられた人間の兵士を少し上回るほどしかない。なので戦闘時は身体能力強化は必須となる。
ではどうやってその圧倒的な身体能力を刀一本で押さえつけたのか。
技術である。
楼夢は自分に攻撃が当たるその一瞬で速度、威力、角度を計算し、受け流せる全ての威力を殺していたのだ。
もちろんこんなこと、星と星の距離を一瞬で求められる脳と、数多の敵を倒してきた技術がある楼夢にしかできない。
妖力が単に多いから最強と言うのではない。技術、知能、力、全て揃った総合力の化物を人は最強と呼ぶのだ。
「離れてばっかじゃ俺には勝てねえぞ。狐火!」
再び狐火を放ち美夜たちを射撃する。
だが舞花が二人の前に飛び出し氷の結界ーー『氷結界』を張った。だが氷と炎では分が悪く、ジリジリと結界が溶けだす。
「美夜お姉さん!」
「任せて!『雨よ降れ』」
その言霊が発せられると同時に美夜の能力でかなり激しい雨が降り始める。だが楼夢が創り出した狐火は大して勢いを消しておらず、そのまま結界をとかし続けた。
だが次の瞬間、降り注ぐ雨が突如
良く見れば氷の結界も先ほどよりも大きくなっており、楼夢の狐火を打ち消した。
普通に考えればありえない状況。だがそれを可能をしたのは、舞花の能力であった。
『気温を操る程度の能力』。
自分が定めた面積のフィールドの気温を意のままに操る強力な能力だ。
先ほども舞花と楼夢の周りの気温を低くすることで降り注ぐ雨を凍らせ、結界の補強をしたわけだ。
そのことに楼夢が気づいた時には、遅かった。
「よそ見していると、痛い目見ますよ!」
空から凄まじい速度で氷の針が楼夢に向かって降り注いだ。
刀に狐火を纏わせ、超人的な動体視力で降る雨の一つ一つを切り裂く。しまいには、巨大な狐火を空に放つことで雨雲ごと水の粒を消し飛ばした。
凄まじい爆発音が鳴り響く。
なるほど、コンビネーションはとてもいいみたいだ。それぞれ得意と苦手を活かして、チームを支えている。チームワークだけなら満点だ。
だがーーーー
「まだまだだな。右手に『ヒャダイン』、左手に『メラミ』ーーーー」
刀を納め、両腕を広げる。すると右手に氷、左手に炎が集まり出した。
そして胸の前で両手を合わせた。すると両手の中から刺すような光が溢れ出た。
「ーーーー二つ合わせて『メヒャド』」
両手を突き出し、それを解き放つ。すると光がまるでスパークしたかのように輝き、一直線に駆け抜ける。
雷とほぼ同速のそれは目で捉えてからでは遅かった。一番先頭に立っていた美夜に直撃し、炎と氷の融合エネルギーが爆発した。
「がはっ!?」
「舞花!私が時間を稼ぐからその間に姉さんを!」
「......分かった」
地面に倒れ込む美夜に、舞花は治療術を発動させる。と同時に清音が楼夢に突っ込んできた。
炎の刃が放たれ、しかしそれは届かず受け止められる。
「どうした?いくらやってもそれじゃあ俺には届かねえぞ」
「確かに。でも
清音は軽くバックステップすると、左手に妖力を集中させる。すると炎が刀の形となり、手の中に現れた。
「いくよ!」
地面を蹴り加速すると、二本の刀で様々な方向に切りつけた。腕、足、胴体、首、と狙いを定めるが、しかし当たらない。それでも続ける。そして、変化が訪れた。
「ハアッ!」
何十回目かの斬撃が楼夢を襲う。多少期待はずれと思いながら、刀でそれを受け止めた。
ーー直後、爆発が楼夢を襲った。
「なっ!?」
爆風によって吹き飛ばされ、後ろに数メートル後退する。そこで目にしたのは、清音が妖力の炎で創り出した刀を、槍投げのように構えている姿だった。
一直線に、刀が投擲される。それは赤の槍と化し、楼夢を貫かんと迫った。
「ちぃ、面倒くさ......ガアッ!!」
それを斜めに真っ二つに切り裂く。その時、再び炎の槍が爆発した。
先ほど清音が創り出した炎の刀の精度を見抜き、理解していた楼夢は困惑した。
(なんだと!?あの密度の炎では切られた瞬間に爆発するなんてありえない!......まさか)
「お父さんが想像している通り、私の能力は『空気を操る程度の能力』。今回私はこの辺りの空気に含まれている酸素を増やすことで、炎の威力を強化したの」
炎は酸素がなければ燃えない。これは小学生でもわかることだ。
清音は、大気内に含まれる酸素の割合を増やすことで、炎の火力を上げることに成功したのだ。
「だけどそれはこっちの狐火も同じ......」
「それより、こっちばっか見てていいの?」
「何......しまった!」
気づいた時には遅かった。地面から伸びてきた光の鎖が楼夢を束縛し、その上に六本の光の棒が固定するように突き刺さる。
「縛道の六十三『鎖条鎖縛』、縛道の六十一『六杖光牢』」
清音の後ろを見れば、ふらふらになりながらも美夜が楼夢に向けて鬼道を放っていた。
千載一遇のチャンス。その機会を、三人は逃さなかった。
「「「『森羅万象斬』!!」」」
赤、黄、青の巨大な斬撃が同時に放たれた。その先にあるのは縛られた楼夢の体。
三つの斬撃が、真っ直ぐに標的に向かう。
そんな中で、楼夢は特に慌てた様子もなく、ただ見つめていた。そして、一言。
「そろそろ本気を出すか」
瞬間、全ての斬撃が突如現れた透明な壁に弾かれ、消滅した。
「縛道の八十一『断空』。お前たちの攻撃は俺には届かない」
次に、縛っていた鎖がガラスのように粉々になり、消滅した。
その圧倒的な力に、三人は驚愕する。そしてすぐに次の運命を悟った。
「でもまあ、娘たちの成長が見れたいい試合だった。終わりだ、『夢空万象刃』」
最後に見えたのは膨大な妖力で形作られた桃色の刃。それが、彼女たちに振り下ろされる瞬間だった。
Next phantasm......。