東方蛇狐録~超古代に転生した俺のハードライフな冒険記~   作:キメラテックパチスロ屋

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月をも貫く俺の刃

恐れおののけ 喚き叫べ

あいつを泣かすやつは、絶対に許さねえ


by白咲楼夢


妖怪が初めて月に降り立った日

 

博麗が白咲神社の巫女になってから数ヶ月がたった。

楼夢が押し付けた彼女の仕事は主に境内、そして神社内の掃除。その他に買い物や料理などなど、一般的な家事だった。

それが終わった後は、楼夢はご褒美に彼女の剣術の修行に付き合ってあげていた。元々彼女は剣士として一流で、さらに楼夢の指導が加わったおかげでメキメキと実力をつけている。このままだと後五年ほどで楼夢に匹敵しそうなほどのペースだ。

 

神社内、博麗の今日の修行に付き合っていた楼夢は現在自室でくつろいでいた。

 

「さてと、ちょっと運動したら小腹が減ったな。ここいらでおやつにするか」

 

楼夢もそう言うと立ち上がり、部屋を出ようとする。

 

だがその時、突如ドアが開いた。

出てきたのは博麗であった。何か用事があるのだろうか、部屋に入るなり楼夢を見つめる。

 

「どうした博麗?」

「......境内に烏天狗が一匹隠れていたので、生け捕りにした。何やら必死にトガミ様に用事があるとか言っているが、どうする?」

 

楼夢は察するに、この神社に彼の友人ーー射命丸文が来たようだ。楼夢と親しい烏天狗は他に天魔しかいないので、もし用事があるのなら文をこちらに遣わせるだろう。

 

「分かった、すぐ行く」

 

短い返事をすると、楼夢は部屋を出て廊下を歩き出した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「んで、なんのようだ」

 

ちゃぶ台に置いてある団子をつまみながら、楼夢は自分の真正面にいる存在に問う。

 

「......ええ、ちょっと面倒なことが起きたわ」

 

自分と対峙している烏天狗ーー射命丸文はそう答えた。

 

「おいおい、もし妖怪の山の問題なら引き受けないぞ。一々んなもんやってたらキリないしな」

「いいえ、一応あなたにも関係ある話よ」

「へぇ......ーーそれはどんな?」

 

グビリと酒を飲み干すと、表情を真剣なものに変え文を見る。

 

辺りにピリピリとした雰囲気が漂う。以前あらかじめ妖怪の山に関与する気はないと宣言したが、それをしても文を送り込んで来たのだ。十中八九面倒ごとであろう。

 

文はしばらく沈黙すると、やがて口を開いた。

 

 

「......紫さんが......八雲紫が捕まったわ」

 

その予想を斜め上に行く答えに、楼夢の思考がしばらく停止した。だが十秒ほど経つと、その言葉の意味を理解した。

 

馬鹿な。紫はあれでも地球上では圧倒的な強者の大妖怪最上位。さらには『境界を操る程度の能力』というチートな能力を持っている。そんな彼女が捕まるなど、よほどのことが起きたに違いない。

 

そう頭の中で整理すると、怒りの炎を瞳に宿しながら文に問う。

 

「どこぞの誰が紫を捕らえたんだ。俺には到底及ばないにしろ、あいつはかなり強い。それを捕らえられるほどの組織になんざ、心当たりはないんだが」

「ええ、そりゃそうでしょうね。なにせ相手は()にいるんだから」

「......今なんて?」

 

文から出たその言葉。それを楼夢は聞き返してしまう。

辺りの温度が急激に下がったような感覚に、文は襲われた。

 

「言ったとおり。相手は月人、月の人間たちの本拠地ーー『月の都』よ。紫さんはそこに囚われているわ」

 

なぜ紫が月について知っていたのか、なぜそこを攻めたのかなど、聞きたいことは色々あったが、文が簡単にまとめて話してくれた。

 

まず、紫は彼女の『理想郷』の発展のために優れた技術などを欲していた。

 

そこで目をつけたのが月の都であった。

以前昔都で有名だったかぐや姫の屋敷に月から来た人間が来たという話を聞いたことがある。聞けばそこは技術がこの星よりも進んでおり、何千もの兵士を百未満の兵士で圧倒したとか。

 

それほどの技術を取り込めば、理想郷の発展に繋がる、と紫は舞い上がっていた。月人たちを警戒していながらも、どこかで彼らを侮っていた。数で攻めれば勝てると思っていた。

 

それが、紫の失敗につながった。

 

紫は地上で数万もの妖怪を呼びかけ、共に湖に映る偽物の月と本物の月をつなぎ、月の都に攻めいった。

 

だが結果は惨敗。鉄の筒のようなものから放たれた青白い閃光によって、大半の妖怪が吹き飛ばされ体を貫かれ絶命した。

生き残った者たちも、他にも様々な月の兵器によって滅ぼされたらしい。

そして戦いで負けた紫は捕らえられ、今に至るという。

 

この情報はその時監視で混じっていた烏天狗が命からがら入手してきたものである。

 

永琳も輝夜もいないんだし、月の都を滅ぼしてもいいかな。

 

そんな邪悪な考えが頭を支配する。

情報をくれた文に礼を言うと、楼夢は立ち上がり刀を抜いた。

 

「な、何を?」

「決まってんだろ?紫を助けに行くんだよ」

「無茶よ!第一今の貴方は体さえ満足に動かせないじゃない!」

 

文の静止を無視し、庭に出る。そして夜空に浮かぶ満月を見つめた。

 

「......『スカーレット・テレスコープ』」

 

楼夢の左目が真紅に染まる。そして映る月の姿を最大限までズームし、月と現在地の距離を測った。

 

「......当着地点はあそこでいいか。それじゃ行ってくるぜ。あ、あと素敵なお賽銭箱はあっちだからちゃんと祈っとけよ。恋愛運が上がるぜ」

「ちゃっかり信仰得ようとすんじゃないわよ。いいわ、どうせ言っても聞かないだろうし」

「分かってるじゃん。それじゃあな」

 

頭にあるヘッドホンのスイッチを押す。するとそれに描かれた線が瑠璃色に輝き、楼夢に計算能力を取り戻させた。

 

「行くぜ。超次元『亜空切断』!」

 

何もない虚空に向かって、膨大な妖力の刃が切り裂いた。そして、切断された場所が黒くスパークすると同時に、紫のスキマにも似た、黒い空間の切れ目が現れた。

 

「能力も使用しないで空間と空間を切り裂き、繋げる。......本当に化物ね」

 

文の呟きが虚空に消える。確かに文はそのデタラメな技を見てびっくりしたが、本当に驚いたのは僅か数秒で現在地と月の表面の座標を正確に計算した頭脳だ。

もし文が未来の日本の技術を知れば、彼の頭にはスーパーコンピュータが埋め込まれているのでは、と思うだろう。

 

一つ、深呼吸した後、楼夢は漆黒に閉ざされた空間の切れ目の中に飛び込んだ。

 

全ては紫を助けるために。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

そこは、銀色の世界だった。

空は夜のように闇に包まれ、星々が輝いていた。

 

生物すらいない銀色の死の世界。そこの土を、楼夢は踏みしめた。

 

すぐに『緋色の望遠鏡(スカーレット・テレスコープ)』を使う。

すると、何十キロも先に透明な結界で包まれた、巨大な空間があることに気づいた。

 

松葉杖を握ると、ある視線に気づく。

どうやら監視カメラか何かで監視されているようだった。

忌々しいと思い、右手の指を軽く鳴らした。

 

「『騒音妨害(レディオノイズ)』」

 

すると、今まで感じていた視線がピタッ、と消えた。

 

先ほど楼夢がやったことは、単純に言うなら電波妨害である。

調べてみたところ、この月には様々な電波が無数に飛び交っているらしい。それを、楼夢は能力を使い全ての電波の形をグチャグチャにしたのだ。

今頃こちらを見ていた者たちの画面にはザアァー、ザアァーと言う音と共に何も映っていないだろう。

おまけに楼夢はウイルスをぶち込んでいた。

この月に飛び交う電波の数は千を超える。その全てにウイルスを仕掛けたので、実に千個以上の機械が攻撃され、爆発しているだろう。

 

そのシーンを考えると、面白過ぎて笑いをこらえきれなかった。

 

演算装置の電源を切ると、杖を使いながら先ほどの結界のところまで歩いていった。

 

 

ーー待ってろよ、紫!

 

 


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