#1
―――そんなに苦しいなら抗えばいい。戦えばいい。
そいつは、それがさも当たり前かのように人好きのする笑みを浮かべて言った。
―――幸いなことに、この世界では時間はほぼ無限だ。だったら理不尽な人生をしいて、無慈悲な死をくれた、今ものうのうと俺たちを見ている神に、復讐の一つ二つするために使う方がよっぽど人間らしい。
それは、行き場のない感情を募らせていたあたしにとっての希望だった。
―――神に復讐するための組織を造ろう。お前がリーダーだ。任せろ、お前の後ろにはいつも俺がいる。お前は前だけ見てろ。そうすれば、嫌でも人はついてくる。
その言葉が、今の自分たちを形作ったのだ。
× × ×
「……っぺ。お……ゆ……っぺ!」
天上学園の元校長室、現死んだ世界戦線の本部、その机で頭にカチューシャとリボンをつけた少女が眠っていた。そんな少女を起こすために青髪と茶髪の少年が声をかけていた。
「ゆりっぺ! 起きろって!」
青髪の少年がそう声を荒げた瞬間
「うっっるさぁぁぁぁぁぁいっ!!」
「グハァッ!」
右アッパーが見事に少年の顎を打ちぬいた。
錐もみ飛行しながら壁に激突しほこりが視界を悪くする。視界が晴れると、そこには頭部を壁にめり込ませた少年の姿が。その姿に茶髪の少年がドン引きしていると、ズボッ! という音とともに少年が復活した。そして殴った少女へと詰め寄る。
「いきなり殴ることないだろ!」
「あなたの顔が近くにあったからつい、許しなさい」
不遜な態度で言う少女に少年はさらに叫ぶ。
「それで許されるなら警察はいらないんだよ!」
「もう寝起きでがなり立てないでよ、頭が痛いじゃない」
「だれのせいだよ!」
「なによ、許しなさいよ。まったく
その名前は、ふいに出てしまったものだった。もしかしたら先程夢に見たせいかもしれない。少女はそれに気付いた途端に苦虫を噛み潰したような顔をする。
「珍しいな、ゆりっぺがこころの名前を出すなんて」
目を丸くして多少驚きながら青髪の少年が言う。その名前に聞き覚えがなかった茶髪の少年が怪訝な顔をして聞く。
「誰なんだ? そのこころ? ていうのは?」
それに応えたのは青髪の少年。
「ああ、お前はあいつのこと知らなかったっけ?」
「ちょっと日向君?」
見知らぬ人の正体を明かそうとする青髪の少年“
「いいだろ? 戦線内であいつのことを、こいつだけ知らないんだぞ」
ゆりは少しの逡巡の末ため息を一ついて自分の椅子に腰を下ろした。それを了承ととらえた日向は一つ咳払いをして話し出す。
「これ「待ちなさい」」
しかしその語りはゆりに止められてしまう。出鼻をくじられてこけそうになるのをなんとかこらえる日向。
「なんだよゆりっぺ。話していいんだろ?」
そう文句をいう日向に、ゆりは椅子にもたれかかり言う。
「あたしが話すわ。だってリーダーですもの」
―――それに、と続けてすこし愁いを帯びた瞳で言う。
「あいつの、真実のことを話すなら、あたしのほうがいいと思うから」
「そうだな。こころのことは、ゆりっぺのほうが、知ってるもんな」
日向が微笑をもらし納得し、ゆりが語りだす。
「これは、あたしと日向君ともう一人、
× × ×
理不尽な人生だった。たった三十分で大事な妹弟を失った。一番大事にしていた子たちが数人の男たちの気分でその命を奪われた。ちゃんとしたお姉ちゃんをしていたはずなのに、あたしはあの子たちを救えなかった。
もし神なんて存在が本当にあるのなら、あたしは神を許さない。
まぶたの上から差す光。それが日光だと気付くのには少しだけ時間を要した。頬を撫でる風を感じて、ようやくあたしは身を起こす。場所はベンチの上、横のテニスコートで部員たちがラリーをしていた。
「……あたし、どうして」
たしかにあの時、あたしは……。―――死んだはずなのに。
そして気付く、身に着けているセーラー服が自分の知らないものだということに……。状況が理解できない。人に聞いた方がいいだろう。だったら早くしなくちゃ、テニス部員の人たちに聞こうとしたそんな時に、そいつは現れた。
「起きたか、調子はどうだ?」
その声の方を向くと、柔らかな笑みをこちらに向けポッ○ーを持つ男子生徒がいた。
―――これが、後に死後の世界で戦う組織“死んだ世界戦線”のリーダーになる少女“仲村ゆり”とその礎を共に築く“無心真実”との出会い。