第5話です。
変わらず話が進みません。
今回ちょっとほのぼの回です。
ではどうぞ。
彼の、ともすれば才能と言ってもいいほどの口先の巧さを魅せられてから、あたしたちはとりあえずこれからの方針を決めいった。
そんな時でも、真実は菓子を食べることをやめない。今はドーナツを食べている。
「まずは、やっぱり仲間集めよね。真実も言った通り二人じゃ出来ることなんて限られるもの」
「うん、あとはこの世界の情報。ということは、やっぱりあの生徒会長に当たった方が良いかな」
しかしそれは難しい。たぶん、真実が無理だったのならあたしでもあの生徒会長からこの世界の情報を得ようとするのは難しいはずだ。
「どうやら、本当に二人じゃ出来ることがあまりなさそうだね」
まいったというふうに、真実はその場で寝転がってしまう。
「ああ、とってもいい天気だ。昼寝をするにはちょうどいいと思わない? ゆり」
たしかに今日の天気は快晴だ。気温も暑すぎないし寒すぎない。なにより、風が気持ちいい。
「スー……スー……」
ふと真実を見てみると、穏やかに眠っていた。
あたしと話していた時の飄々と人を小馬鹿にしたような態度も、生徒会長相手から密かに情報を得ようとした策士の姿も今はなく。その平均よりも少しだけ小さい身長も合わさって、それはどこか幼くそして儚くも見えた。
そんな姿に、あたしが生前の弟の姿を見てしまったのは、もしかしたら必然なのかもしれない。
「………ちゃん……姉ちゃん」
ましてそんな言葉を聞いてしまったら、もう……。
× × ×
さっきまでより、幾分か冷たくなった風に当てられてあたしは目を覚ました。どうやら、あたしもあのまま眠ってしまったみたい。ふと周りを見渡すと、そこには誰もいなかった。
―――誰もいなかった?
あいつ、まさかあたし置いて帰ったんじゃないでしょうね? そうだったら絶対に許さない。どうしてやろうかしら? まずはあいつの所持している菓子を全部目の前で捨ててやろうかしら……。
「ゆり、起きたんだ」
しかしあたしが探していた者の声は屋上の出入り口から聞こえてきた。
「まだ起きないと思って、ちょっとはずしてたんだけど。丁度良かったみたいだね」
そういう真実の手には、先程自販機で買っていた缶コーヒー。今度は二本持っている。礼を言って受け取ると、それは温かかった。日が落ちて気温が下がるからと気を遣ったのかもしれない。
あたしの横に座った真実は缶のプルタブを開け一口呷る。真実のコーヒーはブラックだが、別段気にすることもなく飲んでいる。
「あなた、甘いものが好きなのに苦いものもいけるのね?」
「ん? ああ、ほら。甘いものを食べてるとたまに苦いものを食べたり飲みたくなるでしょ? それと一緒だよ。それに、俺は甘いものだけが好きってわけじゃないし」
「ふぅん」
まあ確かに、スナック菓子も食べていたしね。
それからはお互い無言でたまにコーヒーを飲んでいた。
そういえば……あたしは真実のことを何も知らないのだ。ここに来て一番最初に声をかけてくれて、この世界のことを教えてくれて、あたしと戦うのを協力してくれると言ってくれて。
そういえば、真実は出会ったとき、「助けた女の子」と言っていた。ということは、あたしは最初からあのベンチで寝ていたわけじゃないってこと……。
「なんであたしを助けたの?」
そう聞くと、真実は心外だと言わんばかりに眉を寄せる。
「ゆりは、俺が道の真ん中で倒れている女の子を無視するような薄情な男に見えるんだ」
―――酷いな~酷いな~
わざとらしく泣きまねしてくるので、黙れと言わんばかりに睨んでやるとすぐにやめて、真面目な顔を取り繕う。
「あそこであたしを助けても真実になにもいいことは無いと思うけど」
「俺は倒れている女の子を前にいきなりメリットデメリットを思いつけるほど頭は良くないよ」
どの口が言う。
だけど真実の言葉を真っ向から否定することもできないのは、これまでのたった数時間一緒にいただけでわかってしまった。
―――こいつは根っからのお人好しだ。でも、そうだとしても真実は……。
「ねえ、どうしてあたしに協力してくれるの?」
「言ったじゃん。近頃暇だったから」
「それは建前じゃないの?」
それを聞いて、真実は困ったように頬を掻いた。
「ゆりは、なんかほっとけないんだよね。一人にしちゃうと勝手に暴走しちゃうっていうか」
あれ? あたし馬鹿にされてる? そうよね、これは絶対そうよね。
「で、勝手に一人で背負い込んで。勝手に自分を責めて、から回ってまた暴走しそう。―――見てて危なっかしいんだよね。世話のかかる妹みたい」
―――妹、そう言われても、あたしが思い出すのは悲惨なあの場面だけ。守れなかったあの子たち。自分の無力さと現実の理不尽さを味わった、あの日あの瞬間……。
でも、なぜだろう。真実が兄だと思うと、とても安心する。守ってくれる。まだ出会って数時間の付き合いなのに、なぜかそう思わせてくれる。真実にはそんなふうに、人を惹きつけるものがある。
だけどもちろん、そんなことが口から出せるはずもなく。
「どちらかというと、あなたのほうが弟みたいだけど?」
「む? それは聞き捨てならない。俺はこうしてブラックコーヒーが飲めるのだから、子どもじゃない」
「いや、その論法で行くとあたしも同じの飲んでるから子供じゃないんだけど」
「あ……本当だ」
恥ずかしさに少しだけ頬を赤くするのが、なんだか真実に勝ったかのように思えて気分が良くなる。
「でも、それなら丁度いいかもね」
立ち上がって、あたしに手を差し伸べ、夕日をバックにした真実の姿は、その容姿も相まって混じりけなしに、カッコいいといえた。
「妹を守るのは兄の役目。弟を守るのは姉の役目でしょ。だったら、これから先ゆりは俺が守る。だからゆりは俺を守ってよ」
―――お願い。
じわりと、なんだか温かいものがこみ上げる。それがなんなのか、あたしには分からないけれど……とても心地いい。
真実の手を取って立ち上がったあたしに、真実はニッコリ笑った。
―――あたしはその笑顔に、今できる笑顔を返せたと思う。
「そうえいば、ありがとね」
唐突にお礼を言ってきたことに面食らってしまう。なんのことへのお礼なのかまったく見当がつかないのだ。
「なにが?」
「……。覚えてないならいいや」
もう一度空を見上げ「夜になるね」と言いながら真実は扉の方に歩き出した。
「ちょっと、待ちなさいよ! なんのことよ!」
その真実の背中を追いかけるあたしの手に、あたしではない別の温度が残っている気がするのは、きっと飲んでいたコーヒーの缶の熱のせいなのだ。
というわけで、ちょっとだけ良い雰囲気にしてみました。なんかこんな感じで二人の距離が縮んでいくといいなと思います。
言っておきますが、これまだフラグ立ってませんから!!
さて、あと1話か2話で原作(Heaven's Door)の方に入っていくかと思います。
ではでは、そういうことで第5話でした。ここまで読んでくれた方ありがとうございます。
次回もいつ投稿できるかわかりませんが、よろしくお願いします。