Angel Beats! ~失せた心と色~   作:拳骨揚げ

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 大変遅れました。申し訳ありません。

 UAがついに1,000お気に入り80を突破しました。ありがとうございます。
 この作品を読んでくださっている方々、作者は嬉しい限りであります。

 それでは第六話、よろしくお願いします。


#6

 その後、暗くなってきた屋上から食堂へ行き、そこで真実に学食を奢ってもらった。そして帰り際に女子寮の場所とお金が奨学金としてもらえることを教えてもらい、あたしと真実は分かれた。

 女子寮の自分の部屋に行くと、そこにはすでにもう一人いた。

 

「よろしく、私柏木。ベッドは上を使ってね」

「ええ……」

 

 見るからに普通の少女。どこにでもいそうな少女然とした少女。たしかに会話は成立する。なにも不自然な点は見受けられない。でもこの子もあたしと同じ人間ではない。この世界にいる模範生。

 

 ―――つまり神の手先―――。

 

 なんか嫌ね。敵である者の手先と同じ部屋で暮らすなんて。でもこの子を追い出すにはどうしたらいいかしら……?

 簡単にはたたき出すのが手っ取り早い。

 机に向かって、おそらく明日の授業の予習をしているのであろう彼女の背中にあたしは言った。

 

「ねえ、あたしあなたのこと嫌い。ここから出てってくれないかしら?」

「え?」

 

 ペンを握る手が止まる。

 

「あ、間違えたわ。あたしあなたのこと気に入らないし、ここはあたし一人で使いたいのだけど」

「え?」

 

 またもや彼女は同じ反応を返す。

 そして椅子を回してこちらを向いた彼女の顔は恐ろしいほどに青白くなっていた。

 

 ―――それがどうした―――

 

「だから、今すぐ出てってくれないかしら?」

 

 不遜に言い放つ。だって嫌だから。こいつをここから排除する。

 

「ど……どうして? 私、何かした?」

「何もしてないわよ。あたしがあなたのことが嫌いなだけ」

「でも、私あなたに嫌われるようなことなんて……」

「理由なんてどうでもいいの。あたしがあなたを嫌い、その結果が全て」

 

 愕然とこちらを見る彼女だが、あたしとしてはそんなことはいいから早く出て行ってほしい。

 

「なにあなた!? そんなわがままが通るはずないでしょっ!」

 

 ―――あーもー、うるさいなー。

 

 こっちに詰め寄ってこないでよね。しかし、やっぱりというかなんというか、怒らせたわね。どうしようかしら。ああ違う。……どうしてやろうかしらの間違いだった。

 とりあえず、部屋の中を軽く見渡す。するとその視線は机の上で止まった。後ろでまだなにやら喚いているのを無視して机に歩み寄る。そしてそこにある、ある物を手に取って。何度か手に馴染ませるように握りこむ。

 

「ねえ、聞いてるの!!」

 

 乱暴にあたしの肩を掴んできたその手を引いて机の上に押し倒し、その顔の横に、手に持っていたハサミを振り下ろす。ドンっという鈍い音にひっと声を漏らし、そして目の前にあるものを認識し体中がカタカタと震え出す。

 

「うるさいのよ。出てけって言ったら素直に出ていけばいいのよ。それとも、ここで一生残る傷をつくる?」

 

 ―――残念なことに、あたしには真実みたいに巧く言い包めるなんてことは出来ない。だったらこうするしかない。何があっても、自分にあんな人生を強いた神の手先なんかと一緒の部屋で暮らせない。

 体の震えが強くなって彼女はよたよたとした足取りで扉に向かう。持ち手に手をかけ、一瞬だけこちらに振り返ると、今度は大きな叫び声とともに廊下へと出ていった。

 

「ふむ、大成功。これでこの部屋はあたしの城ね」

 

 くるりと見渡せば中々に広い部屋だ。

 ベッドに飛び込み、今日のことを思い出す。突然この世界に連れてこられて、真実に助けられて、そして―――彼と一緒に戦うことになった。目まぐるしく回る日常が、今日をもって色を変えた。それは平穏とは言い難いものだけれど、それでも戦う価値はあるものだ。

 疲れが全身を襲う、それでも汗を流さないと。そう思って気だるい体を起こす。

 お風呂から上がる。窓の外は夜らしい静けさに包まれていて、昼間の喧騒が嘘みたいだ。今頃、真実はどうしているだろう? 懲りずにお菓子を食べているのだろうか。きっとそうに違いない。あの天然でお人好しな優しい彼。そして鋭い瞳と頭の回転の速さで話術を得意とする彼。それはまったく違う二面性だけど、どちらも間違いなく無心真実という一人の男子。なぜならどちらの時も彼の温かさは薄れることはなかった。明日は真実となにをしようかしら。神への復讐を誓う私たちは明日なにをするかしら。

 明日のことを思うと、少しだけ笑みがこぼれる。

 

× × ×

 

 翌日、もちろん授業なんてものには出ず真実の姿を捜す。こっちでの連絡手段というものが無いのはかなり不便だ。どこかで調達できないものかと考えながら、校舎を歩き回っているのだけど……。

 

「広すぎるわよぉぉぉぉぉっ!」

 

 一体どこに真実がいるのか見当もつかない。昨日行ったところは全部回った。今は屋上から下りてしらみつぶしにフロアを見て回っているところだ。

 そして三階の化学実験室。そこであたしは見つけた。―――カルメ焼きを頬張っている真実を―――。ドアの外からでも分かるほどに頬に含んでいるけれど、それは他の人のぶんはあるのしら? なんて、少々現実逃避してみる。

 でもいつまでもこのままじゃいけない。

 

「真実おおおおおっ!!」

 

 スパーンっ! と勢いよく扉を開けて中に入り込む。他の生徒があたしの登場に驚いている中、それでも動じないやつがいた。

 

「ほお(おお)、ふり(ゆり)! こへほいひいぞ(これおいしいぞ)!」

 

 何言っているか分からないけど、カルメ焼きを手渡すその動作からどうやらあたしにも食べろと言っているらしい。勧められたそれを見てもう一度真実の顔を見て、それを手に取り、その顔面に投げつける。

 

「うわっ! なにすんだよ!?」

「うるさいわよっ! あんた昨日自分が何て言ったか覚えてないのっ!?」

 

 真実は口の中のものを飲み込んで眉根を寄せた。それはあからさまに、心外だと言わんばかりのものだった。

 

「仕方ないじゃん。まさか科学の授業がカルメ焼きを作ることなんて知らなかったんだから」

「そんなこと聞いてないわよ!」

 

 真実の額を指で突きながらさらに言い募る。

 

「なんで! 授業を出ないと! 言い出した! あんたが! 真っ先に! それを! 破ってるのよ!」

「痛い痛い痛い」

 

 額を押さえ涙目になる真実の腕を強引に取り引きずっていく。

 

「待って待って! まだ全部食べてない!!」

「うっさいっ!!」

 

 まだ言い訳を言う真実に今までで一番の睨みと怒声を放つ。

 

「ふえぇぇ、ゆりが怖いよぉぉ」

 

 大人しくなったかわりにかなり弱音を吐いているけど、無駄に抵抗されないよりはマシである。

 あたしたちに刺さる視線を完全に置いてけぼりにして、あたしは教室の扉を閉めた。

 

 真実を引きずってそのまま中庭まで出る。そこでようやく真実を放り投げて開放する。

 

「で? あなたはなにをやっているのしら?」

 

 見下ろすように真実に問いかけると、真実はこちらを見上げて少しだけ固まる。そして、意を決したような真面目顔で言った。

 

「ゆり、履くならもっといいもの履こうよ」

 

 ―――ドゴォォっ!

 

「ぐわぁぁぁぁ!! 鳴っちゃいけない音したっ! シャレになんない! 大丈夫!? 俺の頭へこんでないっ!?」

「うっさい! どさくさ紛れに何見てんのよ!」

 

 赤くなる顔をごまかすために何度も真実に拳を撃ちこむ。

 

「痛っ、痛いっ。痛い痛い! やめ、やめて! いや、やめてください!」

 

 謝罪から懇願に変わってきたころ、あたしはなんとか落ち着くことができた。それでも、気持ちは落ち着いても身体の方は落ち着いてくれない。真実をさんざん殴ったせいでまだ息が乱れる。

 

「あ~、怖かった。死ぬかと思った。もう死んでるけど」

 

 しかしその一方で、真実はほうっと一息入れ、パック牛乳を飲み始める。その姿にまた苛立ちがつのるが、それはぐっとこらえる。

 

「それで、あなたは規約も破ってなにをやっていたのかしら?」

 

 ―――ポキポキポキ、と拳を鳴らすと真実の肩がびくっと震える。

 

「やめて、ポキポキやめて、怖いから」

 

 顔を青ざめているが、こいつはこれまで態度を改めたことはない。だから変わらず真実を睨み続ける。

 

「うっ、くそっ。もうこの手は使えないか」

 

 小声で言っているようだけど、ばっちり聞こえてますよ。……そうかそうか、全部わざとか。―――自分の目のハイライトが消えていくのを自覚できたのは、たぶんこの日が初めてだ。

 

「その頭、カチ割って頭の中もっかい組み立ててやろうか?」

「やめてくださいすいませんでした調子に乗りました反省しますだからどうかお許しください」

 

 高速で頭を下げて何度も謝罪を繰り返す真実。え? そんなに怖い?

 

× × ×

 

 その後、なんやかんやでなぜかあたしまで一緒になってお菓子プチパーティーをすることになった。

 もそもそと貰ったドーナツを食べる。隣ではホクホク顔でポ○チ(ゴーヤキムチ味)を食べている真実。

 

「それ美味しいの?」

 

 なんともゲテモノな味付けに思わず顔が引きつる。

 

「53点ってところかな。もう少し落ち着いた味なら良かった」

 

 言いながらも、食べる手は止めないのはなぜ?

 

「食べてみる?」

「いらない」

 

 断り、「はあ」とため息が漏れる。中庭には太陽の光が差し、今いる木陰だと気持ちいいくらいの天気だ。

 

「この世界の寮は案外いいでしょ?」

 

 新しく、今度はチョコ○ットを取り出して真実が水を向けてきた。

 

「まあそうね。部屋も広いし」

「一人部屋? それとも共有?」

「一人部屋にした」

 

 その言葉にキョトンとして食べる手を止めた真実。この世界の学生寮は、部屋の割り振りはすでに決められている。だからあたしの言葉は、事情を知らない真実からしたら不思議でならないのだろう。

 だからあたしは昨日の夜のことを話した。

 

「ああ、それはなんというか。相手の子が気の毒というか……」

 

 顔を引きつらせる真実は少しだけ間を置いた。

 

「でも、たしか部屋は言えば変えてもらえるはずだよ?」

「知らないわよ、そんなの。それに、こっちとしたら一刻も早く追い出したかったし」

 

 そしてさらに間を置いた。

 

「ねえ、さっきからどうしたの?」

「ゆり、一般生徒への被害は最小限に止めた方が良いかもしれない」

 

 思わず尋ねると、真実は少しだけ真剣さが滲み出る口調で言った。

 

「なんで?」

「むやみやらたに目立つ必要はないでしょ?」

「まあ、そうだけど……」

 

 だけど、それだけだと腑に落ちない。それだけで、真実がこんなことを提案してくるだろうか?

 

 納得いかない気持ちが表情に出ていたようで、真実が困ったように笑うのが視界の端に映った。

 

「それにもし、ゆりみたいな乱暴をして、それを見咎めた神が怒って強制的に成仏……なんてこともあるかもしれないし。

 まあそれをいうなら、こうして神に復讐をしようとしている俺たちが何ともないこところを見ると杞憂かもしれないけど、少しでも確率があるなら、やめたほうがいい。俺たちの時間は長いけど決して無限じゃないから」

「……まあ、そういうことなら」

 

 そこまで考えが至らなかった自分が恥ずかしい。だから、了承の言葉もどこかぶっきらぼうになってしまった。

 

「ねえ真実、なにかできることないかしら?」

「まあ、たしかに何もしないほど無意味なものはないからね」

 

 そう、当初目的としたこの世界を知るということ。この学校しかない世界で、他になにがあるのか……。ん? 学校しかない?

 

「真実、この世界には本当に学校しかないの?」

「え? なに? じゃあ外にはショッピングモールみたいなのがあって、多くのお菓子が待っているということか?」

「なんでお菓子に限定されているのかはともかく、まあそういうことね」

 

 この世界には学校しかない。だけど、この学校は限りなく現実に近い。

 

「この世界が学校だけって言うのは真実が言ってたけど、それは確認したことある?」

「いや、それとなく聞いて回ってそう推察しただけ」

 

 ならば、この世界がここだけじゃないという確証はない。もしかしたら神への手がかりもあるかもしれない。だったらやる理由にはなる。

 

「じゃあこの世界の外を調べてみましょ?」

「たしかにここで立ち止まっているわけにはいかないからね。それに予測だけして二の足を踏んでたら、出来ることも出来ない。虎穴に入らざれば虎子を得ずっていうし……。うん、そうしよっか」

 

 真実も承知してくれた。これで、ようやく一歩進める。

 




 皆さんは科学の実験でカルメ焼きをやりましたか? 僕は先生がやると言い続けて卒業を迎えました。卒業式の日に思い出して、なんだか損をした気分になったのを覚えています。



 このオリジナル回では本編の基礎設定の裏付けをしていきたいと思っています。
 次回はいつの投稿になるんでしょうね? それは僕にもわかりません。
 ですが、次回もよろしくご愛顧してくだされば幸いです。

 ではでは、そういうことで第六話、拝読ありがとうございました。
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