Angel Beats! ~失せた心と色~   作:拳骨揚げ

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いや~遅れましたね。実に三か月ぶりです。この作者エタりやがったマジふざけんな!とか思われてそうで怖いです。あ、そもそもお前なんて待ってねえよって声が聞こえそう。

 すいません、この作者、かなりのネガティブで面倒くさいやつなんです。

 大丈夫です、ちゃんと書いてます。

 ただ、この頃色々ありまして書く時間が取れなかったと言いますか……

 まあそういうわけで、更新の遅れに関しては大きな心でもって寛大に受け止めてくれると嬉しいです。

 では、第七話をどうぞ


#7

 この世界の外を調べることにしたあたしたちは、すぐさま行動に移した。学校から離れ、今は森の中をひたすら北に向かって歩いている。

 

「ねえ、どうして北に向かってるの?」

 

 あたしの前を歩く真実は変わらずお菓子を口にしていた。しかし手は周りの草木をかきわけて進むのに使っているため、口だけで食べ進めるという、なんとも器用なことをしていた。

 

「いや、だってよく言うじゃん? 犯罪者は北に逃げるって」

「あたしたちは犯罪者じゃないし、逃げてるわけでもないんだけど?」

「そこはあれだよ、なんとなく気分で乗り切ろうってことだよ」

「できるか!」

 

 本当に適当に決めたのか、なんかちゃんとした理由でもあるのかと思っていたけれど、そうだった。今のこいつは頼りになるのかならないのか半々だった。常にあの真面目な状態だったらどれだけいいか……。

 

「いたっ」

 

 不意に右の人差し指に痛みが走った。見ると、少しだけ血がにじんでいる。どうやら木に手をついたときに切ったようだ。でもそんなに大ごとになることじゃない。

 それにしても、歩く速度がかなり遅いのが気になる。わざわざ草木をかきわける必要なんてないだろうに……。

 

「ねえ、なんでわざわざ草木かきわけて歩くの? 早く先に行きましょうよ」

「ん? だって、ゆりはそのほうが歩きやすいでしょ?」

「……まあ」

 

 まさかあたしのためだとは微塵も考えていなかった。優しい笑みを向けられて、なんだか居心地が悪い。ふいに、真実の掌が見えた。そこには葉で切ったのだろう、小さな切り傷が多くあった。

 

「真実、これ」

「ん? どれ?」

 

 振り向いた真実に差し出した手には、たまたま持っていた絆創膏。それをキョトンと見つめて、真実は小さく嬉しそうに笑った。

 

「ありがとう」

 

 受け取った絆創膏をしかし真実は自分の手につけなかった。こちらの折角の厚意を無碍にされたようで、少しだけムッとしてしまう。そんなあたしに今度は困ったように苦笑し、そして優しくあたしの右手をとった。

 

「……はっ!?」

 

 いきなりのことにあたふたしてしまう。しかしようやく頭が状況を理解しだしたころ、あたしの右手の人差し指には絆創膏が巻かれていた。

 

「ケガしてたよ。女の子はそういうの気になるでしょ?」

 

 そこは、先程木で切った箇所。

 

 ―――~~~~~っ。

 

 こういう優しさを時々見せられると、本当に調子が狂う。いつも通りおちゃらけてればいいものを、こういったときに限って……。

 真実はそんなあたしのことは気にせず、さらに森の中を進んでいく。その後を黙ってついていっていると、真実から少々無視できないことを言われた。

 

「まさかゆりが絆創膏を持ち歩いているなんて思ってなかったな」

「それはあたしが女の子らしくないと言っているのかしら?」

「おいおい、それは早とちりだ。ゆりは女の子でしょ? らしいもなにもなく。まあ、ゆりがグレーゾーンの人種だと言うのなら、それは否定できないけど」

「なわけあるかっ!」

「だろうね~。気性だけならまだしもね~」

 

 くっ! こいつこの場で殺したいのだけど……。べつにいいわよね? だってすぐに生き返るのだし……。

 

「ただ、ゆりってそんな繊細な女の子には見えなかったからさ。ちょっと認識を改める必要があると思って」

 

 これは絶対に馬鹿にされている。丁度良く、手ごろな石を見つけたことだし、これをちょっと後頭部にぶつければそれでいい。簡単なお仕事だ。

 極力足音を立てず気取られないように、そう気持ちは暗殺者だ。暗闇からいきなり、確実に獲物を仕留めるっ!!!

 そろりそろりと徐々に距離を詰めていく。真実はまだこちらに気付いていない。このままいけば………獲れるっ!

 そしてついに真後ろを取った! あとはこれで一思いに……振り下ろそうとして、しかしそれは続く真実の言葉に止められた。

 

「でも、ゆりの新しい一面が見られて俺は嬉しい」

 

 ………。

 

 前を向いているから真実の表情はわからない。でも、たぶん本当に嬉しそうな顔をしているのだろう。

 

「どんな人だとしても、それがどんな一面だとしても、身近な人のことを新しく知ることができるのは、俺としてはとても素晴らしいことだと思うんだよね」

 

 ――――――………。

 

 ……いやいや待とう。ちょっと待とう。よ~く考えよう。たしかに真実の言い分は正しいと思う。たしかに親しい人の新しい一面が見えるというのは素晴らしいことかもしれない。だけど、だけどだよ? それはハッキリ言って恋仲、あるいはそれに近しい関係の状況じゃなきゃ喜べないものなんじゃないかしら? それとも、真実は既にそういうふうにあたしたちの関係を認識したりしているのかしら? 

 ―――やだ、それってまさか真実はあたしのこと……。

 て、そんな訳ないけどね。分かってますとも、真実にそんな気はないしもちろんあたしにもそんな気はない。たしかにいいやつだとは思うわよ? 顔はいいし気遣いできるし基本優しいし真面目な真実はカッコいいと言える。でもだよ、常時お菓子を食って天然ボケをかますようなやつを好きになれるほどあたしの懐は深くないのだ。

 つまり、何が言いたいかというと、ここまで長々と考えてきたけど簡単に結論を出すと……。

 

―――あたしが真実を殴ることに躊躇する理由にはならないってことだ。

 

 だって、あたし馬鹿にされたのだもの☆

 ならば早速、と一度下ろした石を持ち上げる。

 さあ! 今こそ、我が悲願を果たすときっ!

 いきおいよく振り上げた腕は、今度こそ獲った! と思ったが、それは突然真実が横にずれたことで当たることなく、しかし腕はしっかり振り切った。その結果―――ゴスッ! という音とともにあたしの膝に当たった。

 

「いっっったぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

「うわっ! なにっ!?」

 

 いきなりの絶叫に驚く真実をよそに、あたしは膝を抱えて蹲る。

 ……やばい痛いやばい。ズキズキを通り越してもうなんか脈打ってる。ドクドクいってる。一歩も動けない本当にやばい。なにこれやばい。てゆうかさっきからやばいしか言ってないやばい。

 

「……ゆ…ゆり? どうした?」

 

 心配そうな声をかけてくる真実。

 

「石、膝、当たった、痛い」

 

 もう単語しか出ない。そろりと膝を見てみるとそこは血が出て、さらにはなんか黒くなっていた。うわっキモチ悪っ!

 でも、本当に無視できないくらいに痛い。

 真実もようやく事態の大きさに気付いたのか、あたしの前に座って膝の状態を見る。

 

「これは……酷いな。なんか処置をしたほうがいいかも」

 

 きょろきょろと周りを見渡す真実だが、その顔は徐々に焦りに変わっていく。

 

「どうしよう……」

 

 あまりにも真剣に心配してくれているため、これが真実を狙ったために出来た怪我だとはとても言えない。言ったら、いくらなんでも怒られる気がする。そしてあたしのカンだけど、真実は怒ると手が付けられなくなりそう。それも暴れるとかじゃなくて、ただただあたしを無視しだす気がする。そうなると、こちらとしても機嫌の取り様がないから困る。

 あたしがどう言い訳をしようかと考えていると、真実がふと口に指を当て静かにするようにと合図をしてきた。

 

「っ! 近くに川がある!」

 

 そう大きな声を出した。

 

「え? ホントに?」

「うん。間違いない。ここからたぶんそう遠くない。そこで膝を冷やそう。休憩もそろそろ取りたいと思ってたところだし」

 

 そしてちらりとあたしを見てまたも沈黙。おそらく、あたしをどうするかを考えているのだろう。この怪我の処置をする必要があるためあたしも行かなければいけないけれど、それは決して絶対じゃない。真実が川から必要な物を取って来たっていいのだ。休憩だってここでもとれる。

だったらあたしはここを動かない方が良いだろう。そのことを言おうとしたが、その言葉は体が持ち上げられることで言うことができなかった。つまり、真実におぶられたのだ。

 

「ちょっ! ちょっと下ろしてよっ!」

 

「出来るわけないでしょ。その足で満足に歩けもしないのに」

 

 少し暴れるあたしに返って来た言葉には、どこか棘があった。初めて聞く真実の声に、思わず体が強張る。

 怒っているのは、火を見るよりも明らかだった。でも、それは決してあたしに対してじゃない。真実は自分自身に怒っている。不意にここまで来るまでの真実の姿が思い浮かぶ。あたしのために歩く速度を落とし、あたしのために手を切り傷だらけにしながらも草木をかきわけ、あたしのために絆創膏を張ってくれた。

 

 ―――全部が全部、あたしのため。

 

 あたしに対して、そこまでする理由なんてわからない。でもおそらく真実は、今背にいるのがあたしじゃない誰かでも、同じことをしている気がする。どこまでもお人好しでどこまでも優しい。それが無心真実の人柄だ。だから、今ならわかる。真実がこの後、一番最初に言う言葉が……。

 

「ごめんね」

 

 ほら、やっぱり真実は自分を責める。あたしの自業自得を真実はそれを自らの罪とする。そうやって背負って、背負いすぎて、それでも笑う。なぜだろう、真実の背中がその身長よりも低く、そして幼い子供に見えた。

 

「別に、これはあたしの自業自得だし」

「それがどういう意味かはここでは聞かないよ。でも、なんでだろう。ゆりが傷つくのは、見たくない。そのために俺はお前を守ると誓ったのに、これじゃ全然だめだね」

 

 自嘲気味に笑っているのが伝わる。その笑みを、いつもの明るいものに戻すことは今のあたしには出来なかった。そんなことも出来ない非力な自分がどうにも煩わしくて……。そして、あの時あの子たちを失った頃の自分と何も変わっていないような気がして、同時に腹が立つ。

 だからだろうか、あたしの口は意図せずに語っていた。

 

「あたしにはね、弟と妹がいたの」

「……」

「あたしの―――生前の話」

 

 あたしの急な言葉にも、真実は動じることは無く静かに聞いてくれた。

 

「あたしの家は両親の仕事が上手くいっていたからすごく裕福な家庭だったわ。別荘みたいな自然に囲まれた家で暮らしてた。母と父そして妹が二人に弟が一人。あたしは長女だった。

 夏休みだったわ。両親が留守の午後に見知らぬ男たちが家の中にいたの。真夏だっていうのに暑そうな目だし帽まで被ってた。一目でわかったわ。悪いことをしに来た奴らだって。あたしは長女として絶対に弟妹たちを守らなきゃって思った。でも、敵いっこないじゃない」

 

 ふと、思わず笑みがこぼれる。それはどうしようもなさからくるものだった。

 

「連中はもちろん金目の物目当て。だけど奴らは見つけられなかったの。次第に連中は無闇に窓ガラスやテレビを壊したりして苛立ちを見せ始めた。そして連中はあたしたちにとって一番最悪なアイデアを思いついた」

 あの時のことは鮮明に思い出せる。周りの風景もあいつらの言葉も、弟妹たちの恐怖に染まった顔も、あたしの絶望も……。

「やつらはあたしの弟妹たちを人質にとって、一人につき十分の制限を設けて、あたしに金目の物を持ってこさせようとしたの。

 あたしは必死になって家の中を探し始めた。頭の中がひどく痛かった。吐き気がした。倒れそうだった。

―――あの子たちの命がかかってるんだ。探し出さなきゃいけないんだ。

でも、あいつらが気に入る価値のある物なんてわからない。闇雲に探し回って、いつしか時間は十分経とうとしていた。あたしはとにかく大きなものを持っていこうとしたわ。でも、馬鹿よね。階段から落ちてそれはバラバラ。

 警察が来たのはそれから三十分後。生きていたのは、あたし一人だった」

 

 しばらく、真実が落ち葉を踏みしめる音だけが響いた。

 

「あたしは、もし神なんてものがいるのなら、立ち向かいたいだけよ。だって理不尽すぎるじゃない。悪いことなんてなにもしていないのに。あの日までは、立派なお姉ちゃんでいられた自信もあったのに。守りたいすべてを三十分で奪われた。そんな理不尽なんてないじゃない。そんな人生なんて―――許せるはずないじゃない」

 

 静かな時間が流れる。風が木々を揺らす音がやけに大きく聞こえた。その音に紛れるように、でも確かな声としてそれはあたしの耳に届いた。

 

「おそらく、俺はなにも言うべきじゃないんだろうね。ただ耳を傾けて、この話を胸にしまい込んで、これまで通りにゆりに接するべきだろう。それが、ここでの正解だ」

 

 その通りだ。あたしは別に、なにかを言ってほしくて話したんじゃない。言ってしまえば気紛れ。気の迷い。出会って数日の真実に、あたしの人生を肯定も否定もさせない。

 不意に真実が立ち止まって空を仰ぐ。

 

「ほら、見てみなよゆり。空があんなに輝いてる」

 

 それに倣うようにあたしも空を見上げる。木々の隙間から見えるそれは、青く青く澄み渡っていた。あたしの心とはまったくの逆。

 

「あの青空も太陽も、雲も、月も星も。これからもゆりの頭上で輝くよ」

 

 ―――だから―――

 

 と、真実は静かに紡ぐ。

 

「今はそのままでいいかもしれない。それでも、忘れないで。キミは光の下にいる」

 

 暗い暗い絶望の中にいるあたしにも、光はちゃんと当たっている。あたしを見てくれている人がいる。―――真実はそう言いたいのだろうか。

 

「無くしたものは戻らない。今は下を向いていていい。その間は俺がゆりの手を引くよ。迷わないように、踏み外さないように―――キミが自らの足で歩けるまで、一緒にいてあげる」

「―――っ!」

 

 生前の世界で、あたしは確かに絶望した。世の中に、人生に……。そんなあたしに、薄っぺらい慰めの言葉をかけてきた人たちは大勢いた。だけど、あたしと共に歩んでくれると言った人はいなかった。どこにいても腫物を扱うようにされ、こちらの気も知らないで可哀相だと言う。だけど真実は……それを、あたしが生前もっともしてほしかったことを、してくれると言ってくれた。だからだ、こんなにも心に響くのは、こんなにも涙が止まらないのは……。

 

「ゆり、今はそのままでいい。だけどいつか、しっかり考える時間ができて、心を支えてくれる仲間たちができて、キミが安心できる居場所を見つけたら。もう一度自分の人生を一から振り返ってごらん。きっとキミが忘れていることは多いと思う。

 そしたら今度は、キミが手に入れた大切なものを数えてごらん。ゆりが新しく手に入れたものを、大事に数えてごらん」

 

 どこまでも温かいその言葉は、暗い絶望の中にいるあたしに小さな光を与えてくれた。蛍のように小さいけれど、それはしっかりとあたしの行く道を照らしてくれる。なにかを言ってほしいわけじゃなかったのに、むしろなにも言ってくれなくてよかったのに……。そんなことを言われたら、そんなふうに言われたら、どうしたって―――。

 こんなに気持ちが凪いでいくのは、この世界に来て初めてのことだった。

 

 

 

 全部―――真実のせいだった。 

 




 はい、今回、かの有名なアニメのフレーズをちょこっと使わせてもらいました。この辺り、今後増えそうなのでタグに加えるかもしれません。

 ということで、第七話。後半シリアスな展開でした。ゆりの生前の話の独白はまんまアニメと一緒です。改めて考えるのが難しかったので……。このシリアス展開、次回まで引っ張ることになります。作者としてもシリアスは書いてて気分が落ち込んでくるのであまり得意ではないのですが、それでも頑張っていきます。

 ではでは、第七話を読んで下さりありがとうございます。
 次回、おそらく同じくらいかそれ以上に更新が遅くなると思います。どうかご容赦くださるととても嬉しいです。
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