もう笑うしかないぐらいにお久しぶりです。
しかし投稿が遅くなったからといってクオリティが上がっているわけではありません。安定の駄文です。
歩くこと数分で真実の言った通り川にたどり着いた。あたしの膝はなおも痛みを訴え、さらには震えはじめていた。真実はあたしを古木に寄りかかるように座らせると、自分のハンカチを川の水でしみこませる。それを膝に巻いて縛ってくれた。ひんやりした川の水が痛みによる膝の熱を冷ましてくれる。
「今はこれぐらいしか出来そうにないね。帰ったらしっかり治療をしないと。まったく、死なない怪我は元の世界と同じだって言うのはこの世界の欠点だね」
―――まずはこの辺の文句を神に言ってやろうかな―――。
なんてちょっとずれたことを言い出す真実に、思わず笑みがこぼれる。そしてそれを見られていたらしく、真実はジト目を向けてきた。
「笑い事じゃない。大体、どうしてこんな怪我を負うはめになった?」
「ちょっと油断しちゃっただけよ」
「何に? 先頭を歩いていた俺にはこんな怪我を負うようなものは無かったと思うけど?」
あれ? これってもしかして真実怒ってる?
「ねえ聞いてるの、ゆり? なにで怪我をしたのかを俺は聞いているんだ」
ああ、これは怒ってるわね。怒り方があたしの予想と同じでちょっと愉悦。
「ゆ~り~?」
ちょっと近い近い。にじり寄らないで……。だけど正直に言うのはかなり憚れる。『あんたを殴ろうとした』なんて言えるか……。しかし良い言い訳が思いつかず、真実の視線から顔ごと逸らすことで自分の意思を伝える。逸らした先ではさらさらと水が流れ、時々ちゃぽんと魚が跳ねる。水の波紋が消えたころ、この沈黙は破れた。
「はあ~。もういいよ。なんでそこまで頑ななのかっていうのも、なんかもういいや」
その完全に諦めた言葉。真実に気付かれないように細く息を吐く。
この話はここでおしまい。もっと大事なことがある。
「それで、これからどうするの?」
それはもちろん、今日の調査のことだ。あたしの足がこれじゃ先に進めないし。
「どうするって、まだ目的達成してないんだから進むしかないでしょ」
あたしの考えとはまったく正反対のことをしれっと言ってのけた真実を、思わず正気を疑うような目で見てしまう。
「なにその目」
「いえ、進むのは全然構わないけれどあたしは動けないわよ?」
「べつに移動を本人がする必要はないだろ」
「は?」
思わず間抜けな声が漏れる。そんなことを気にすることなく、真実は飄々と言った。
「俺が背負っていけばいい。ここに来るまでもそうしたんだし、それでいいじゃん」
確かにそうだ。そうだけど、それを認めたくないあたしがいる。
「で、でも。それじゃ効率が」
「今更効率とか言ってもね……」
確かに、あたしが怪我をした時点でそんなことをいっても意味がない。
それに、やはり自分の目で確かめてみたいというのもあった。そのためには真実の意見を呑むしかない。渋々とあたしは小さく頷く。
「よし、じゃあ決まり。ほら、乗って」
身を屈め、あたしに背に乗るように促す真実、あたしは恐る恐る真実の背に手を掛ける。
「よっと」
危なげなく立ち上がる真実は、やはりしっかり男の子なのだと認識させられる。だけど、色々自分の中で葛藤する。
「ね、ねぇべつに無理しなくてもいいのよ?」
「無理なんかしてないよ。なにがそんなに心配…………あ~」
おい、なにを察した。なに、なんなの?
「気にする必要ないと思うけど、ゆりべつに重いってわけぐえっ!」
それ聞く前にあたしは真実の首をこれでもかというぐらいに締め上げた。
あたしの腕を何度も叩く真実に、しかしあたしは羞恥心からすぐには力を抜くことができなかった。
× × ×
改めて出発したあたしたちは比較的草木の少ない道を進んでいく。ゆっくりした速度はあたしの足に負担がないようにだろう。べつにそこまでしなくてもいいのにと、歩くたびに揺れる真実の後ろ髪を見て思う。
「そういえば昔、といってもこの世界に来てからのことなんだけど。一人でピクニックをしたことがあったんだ」
「一人でピクニックって、あんたどんだけ寂しい奴なのよ」
「それが誰一人として一緒に来てくれなくてさ。そん時はさすがに落ち込んだよ」
真実が落ち込む姿というものはかなり珍しい気がする。だからこそ、その姿を想像してつい笑ってしまった。
「酷いな。笑うなんて」
「ごめん。それで、真実は一人でピクニックをしたわけね?」
「そう。ひまわり柄のレジャーシート持って、自分でおにぎりとサンドイッチを作って、もちろんそれ以上のたくさんのお菓子を持って俺はピクニックに出かけたんだよ」
「あなた、料理とか出来るのね」
「まあ、簡単なものなら」
でも、容易に想像ができる。小さく畳んだレジャーシートを小脇に抱え、大きなバスケットにおにぎりとサンドイッチを入れて、背中に背負ったリュックの中にはたくさんのお菓子が数多く入っているのだろう。きっとウキウキと笑みを浮かべ、誰より幸せそうな顔だったに違いない。この世界でそんな顔ができるのは、たぶん真実だけだ。
「それでね。いい場所がないかと歩き回って、俺はある場所を見つけたんだよ」
「ある場所?」
「色とりどりの綺麗な花が咲いていて、気持ちのいい風が吹いていて、小さな川があってね。太陽がポカポカしていてまさにピクニックに相応しい場所だ」
「そんなところがこの世界にあるのね」
「うん、まるで神が住まうような……」
………え? それって―――
「………。
あれ、あそこって神がいるんじゃね?」
「今更かっ! てゆうか、目的変更!! 今すぐそこ行くわよ!!」
「ああ、それは無理。もう行き方忘れた」
「なんでそんな大事なことを忘れるのよっ!! この頭か!? そんな重大なこと忘れたのはこの頭か!?」
なら力づくで思い出させてやろうと、何度も真実の頭を殴る。
「痛いっ痛いっ。俺は昔の電子機器じゃないんだから叩いても思い出したりしないって」
「もう! あんたホントに使えないわね!!」
「えぇ……。今まさにお世話になってるのにそれを言う?」
そんなバカみたいなやり取り。あたしは笑っていた。
× × ×
大きく深い暗い中に、小さな光がふらふらと飛んでいた。あたしはその光を追い求めて、追いつきたくて、その温かさに触れたくて手を伸ばす。だけどいくら足を進めてもその光はあたしの傍に来てくれない。それが嫌で、どうしようもなく胸が締め付けられて、すぐにでも涙がこぼれそうだった。そして……いつのまにか、近づくことさえ出来ないその光を、諦めていた。あたしを見ず、あたしの周囲ばかりを照らす……そのことにあたしは絶望した。
だけど、そのまま一生を終えたあたしは、その先であたしを照らす光に出会った。心が嬉しさに奮える。そして同時に、とても悲しかった。この光に、あたしはもっと前に会いたかった。あの時諦めていなければ、出会えたのだろうか。そんなことは当然分からない。だけどいい、今あたしはその光とともにいる。それは笑顔を絶やさず、時々バカみたいなことを言って困らせられる。そんな明るい、虹色の世界が、これからあるのだ。それが嬉しくて、あたしは子どもみたいな笑顔を向けた。
―――だけど―――
そこにはあたしに笑いかける光は無くて、不思議に思って辺りを見れば、あたしの後ろに変わらない笑みをたたえて立っていた。その変わらない姿、変わらない光。一歩近づいたあたしから、その光はいきなりあたしを残して小さくなっていった。恐怖が足元から駆け上る。
いやだっ! いやだっ!! いやだっ!!!
一人にしないでっ! 一緒にいてっ!!
約束したじゃないっ!!
「真実っ!」
嫌な汗が額を流れる。心臓の音が耳元で聞こえる。視界は狭く、自分がどうしていたのかすら考える余地がなかった。
「ゆりっ!? 大丈夫、大丈夫だ。俺はここにいる。ほら、ゆっくり息をして。ゆっくりだ」
靄のかかる頭。それでも声のした方向へと視線を向ければ、あたしの背をさすっている真実が目に入った。徐々に視界に色が混じる。耳鳴りが治まっていく。そしてようやく思い出した。
あたしは真実の背中で眠ってしまったのだ。今は大きな木に凭れていて、目の前には大きな壁があった。そうか、目的地までは着いたんだ。そんなことを頭の片隅で理解する。
怖い夢を見た。あんなこと、絶対に起きてほしくない。もう二度と手放したくない。そう思ってしまう。あの夢のせいなのか、それとも約束通りあたしの側に真実がいてくれたことなのか、はたまたただ大きすぎる目の前の壁が、あたしたちがここまで来たことの無意味さを伝えているからかもしれない。どんな理由か判らず、それでもあたしはなぜか泣いていた。
× × ×
あの後、涙は止まっても今度は羞恥でまったく動けなくなったあたしを真実がまた負ぶってくれて。その帰り道の道中にあたしが眠いっていた間のことを報告してくれた。どうやら壁からあちら側に行くための扉などはなかったらしく、全部を見たわけじゃないから分からないけど、予測としてそういった扉はないだろうということになった。
その足で保健室まで行き、しかし保険医の先生は不在で、代わりに真実が膝の怪我の手当てをしてくれた。その日はそのまま女子寮の前まで送ってもらって、そこからはたまたま通りかかった一般生徒に部屋まで送ってもらった。その際、あたしが部屋を独占したことがもう噂となっているらしくその女子は怖がっていたけれど、真実が頼み込んだら渋々といった様子で引き受けてくれた。でもその時の女子生徒の顔が少し赤らんでいたから、それもまんざらでもなかったのだろう。こういう時、無駄に美少年な真実は実に役に立つ。
女子生徒に部屋まで送ってもらって、一応礼を言ったのだけど言う前に逃げるように走っていってしまった。
ベッドに仰向けに倒れる。今日は色々あり過ぎてとにかく疲れた。右手で目を覆うと、暗い中で何度もあたしを呼ぶ声が聞こえる気がした。笑って、怒って、心配して、あたしを呼ぶその声に救われる気がした。心がふわふわと浮いているように感じる。それがもどかしくて、息を大きく吸って吐く。だけど、この心の浮遊感の正体は誰に言われなくても分かっている。ただ、あたしがまだ受け止めきれていないのかもしれない。あんなに真っ直ぐに人に言葉をぶつけられたのは、あの最悪の事件が起こってから初めてのことだった。まだ鳴りやまない心の動揺が、ドクドクとあたしの耳を打つ。
目を覆っていた手をどかすと、今度は蛍光灯の光に目が眩む。ぼんやりする頭で考えることは、あいつのことだった。
あたしを守ってくれると言ったあいつは、今頃何をしているのだろう。そして前よりずっと、真実のことを知りたいと思っている自分を、不思議に思うことは無かった。
× × ×
その日は夏休み直前の終業式だった。この日もあたしたちは一つ調べることがある。それは夏休みというこの期間、一般生徒たちはどこにいくかだ。一番有効な仮説は神の元へと戻るというもの。帰省する際、人間ではない一般生徒たちが向かう先として考えられたのがそこしかなかったのである。
終了式が終わり。各クラスのHRも済めば晴れて夏休みに入る。屋上にいても夏休みに対する楽しみと期待が伝わってくる。
「さて、ようやく俺たちも動けるね」
際限なくお菓子を食べていた真実が腰を上げる。その横には空袋が小さな山を作っていた。
「あんた、よくそれだけ食べれるわね」
「そうか? 普通だと思う」
「絶対違う」
まあ、それはともかく一般生徒たちが校舎から出てきた。あたしたちは遠くまで見渡せる屋上から、用具室から拝借した双眼鏡で観察する。
「これといった変化は見られないわね」
「どうかな。まだ学校の敷地内だし、あの校門を超えたあたりが重要だと思うよ」
真実も周りを油断なく見ている。あたしも気を引き締め周囲の様子を窺う。そして校門に近づいてきたとき、あたしたちが待った異変が起こった。
「……っ!!」
校門を通り過ぎた一般生徒たちの姿がいきなり見えなくなったのだ。消えたとかいなくなったとかではなく、見えなくなった。まるで強い光にのみ込まれるように見えなくなったのだ。
自分で見たことが信じられず隣の真実を見てみれば、真実も目をまん丸に見開いていた。それが、あたしが見たことが嘘ではないということの証明だった。
「いや~、あんな風にやられるとこっちとしてはどうしようもないね。どうするゆり? 俺たちも行ってみる?」
「そうね。そうした方が良いかも」
そしてあたしたちは周りの一般生徒たちに混ざって校門まで行く。しかしあたしたちは一向に校門までたどり着くことは出来なかった。距離が一定からまったく縮まらなくなったのだ。
「これは完全に手詰まりだね」
真実が疲れたため息を吐く。あたしも同じ気持ちだった。この世界は知れば知るほどに謎が増える。だけど、神への復讐のために、あたしたちは立ち止まっていられないのだ。
なんだろうね、自分としても微妙な回になってしまいました。
次回からはHraven'sDoorの本編の方に入っていきます。
ではでは、次の投稿はいつになるのかな?
本当に分かんないです。もしかしたら早いかもしれないし、今回以上に遅いかもしれない。それでも付き合っていただけるのでしたら、作者はとても感謝です。