時刻は神場崎が過去を語り終えた直後まで遡る。
比屋定邸のリビングで先ほどから落ち着かない様子で行ったり来たりしているのは「高坂穂乃果」である。
そんな姿にソファーで小説を読んでいた「西木野真姫」は痺れを切らし、本から顔を上げた。
「ちょっと穂乃果!少しは落ち着きなさいよ」
「え!あ・・・ご、ゴメン・・・」
それを言うと、真姫と同じソファーに座った。しかし脚を貧乏揺すりみたく小刻みに動かしている為、それが気になってしょうがなかった。
「どうしたのよ?さっきから落ち着かないみたいだけど・・・」
「あ・・・うん・・・」
真姫の質問に少し顔を俯いた状態で声を絞り出す。
「承君の事が心配で・・・それで・・・その」
「気になって落ち着かないって訳?」
穂乃果は首を縦に振って答えを示す、それを見た真姫は手にしていた本を机に置いた。
「それなら大丈夫だと思うわよ、彼の事だから問題はないんじゃない?」
「私もそう・・・思うけど・・・何だか」
穂乃果は目を強く瞑って、胸に手を当てる。
「モヤモヤするというか・・・胸の奥がざわつくような・・・・」
「他に何かしらの心配事があるの・・・?」
「うん・・・そんな感じ・・・」
それを聞くと、真姫は思考を巡らす・・・
(他の心配事・・・か、希の「スタンド」で周囲を警戒して貰っているけど特に変わった様子はない・・・他のみんなには二階に行っているから襲われることはない・・・じゃあ何が・・・?)
穂乃果が感じている「懸念」の謎を探ろうと考えていた真姫だったが、それは比屋定邸のチャイム音によって遮られてしまった。
「・・・・っ!」
「え・・・!?」
突然の出来事に戸惑う二人、希からは何も知らされていなかった為この訪問者は只者ではなく、何かしらの「スタンド」を所持していると思われた。
「真姫ちゃん、ここは私が出てみるよ」
「危険よ!相手が何者かが分からない今は・・・」
「念の為に「スタンド」も出しておく、真姫ちゃんは直ぐに二階にいる皆にこのことを伝えて」
無謀とも言えるこの提案だったが、今自分がしなくてはいけない事・・「戦う」のではなく「守る」ことを優先させた場合、素直にここは従った方が賢明であった。
「分かった、だけど皆を避難させたら必ず戻ってくるから!・・・それまでは・・・」
「うん・・・!」
穂乃果は笑顔で応え、そのまま玄関へ向かう。
玄関前まで来た所で「アクティブ・ガール」を発現させ、ゆっくりと近づく。そして扉を開けていく・・
半分まで開いた所で訪問者の全体が見えてきた、その人は紺色の女性用のスーツを着こなし、天然なのか染めたものなのかは分からないが綺麗な金髪をしていて、何より目を引いたのは真っ赤な大きいリボンでそれで後ろ髪を縛っていた。
「あ、あの・・・どちら様ですか・・・?」
「初めまして・・・私「神奈 いやび」と申します。以後お見知りおきを「高坂穂乃果」様・・」
時は戻り・・現在
「「キング・ロマネスク」!!」
「「スーパーチャージャー」!!」
二人の体がほぼ同時に動く・・・「キング・ロマネスク」の左ストレートは神場崎の心臓を狙う、「スーパーチャージャー」の一撃は三枝の頭部を射抜こうとする。そして・・・
「・・・」
「・・・・な」
神場崎は己の目を疑った、完璧に狙ったはずの一撃は避けられていた・・・しかし、それ以上に不可解な事が起きていた。
(私の身体に何も起こらない・・?確かに奴の「スタンド」の拳は防御しなかった・・・だから当たっているはずだが・・・)
自身の身体を調べていく内に「ある物」が無くなっている事に気が付いた。
「き、貴様・・・!私の携帯を・・・・!!」
三枝の手にはしっかりと神場崎の携帯が握られていた。
「フン・・・狙いは最初からこれだったんだよ、馬鹿正直に戦いなど挑むわけがないだろう・・・」
それを言い終わると、背を向け素早く来た道へ戻っていく。
「ま、待て・・・」
「お前へのトドメは・・・「彼」に任せよう・・・・」
「?・・・はっ!!」
三枝の台詞に疑問符を浮かべるが、その意味は直ぐに分かった・・・・背後から迫る拳が見えたからだ。
「オラッ!」
「ぐ・・・はっ!!」
拳は顔面を確実に捉え、神場崎はその場に倒れる・・・それを見届けた三枝は林の中に消えていった。
「ひ、比屋定・・・承一・・・!」
「神場崎・・・・渚・・・」
顔や腕から出血が見られ、脚がふらつきながらもその眼は眼前の敵を見据えていた。そして一歩また一歩ずつ近づいてくる。
神場崎は考える・・・
(今すぐ携帯を取り返せなくては・・・奴の狙いは私が所持している「弓と矢」だ・・・しかし承一に背を向けることはできない、まずは承一を始末すればいい・・・「矢」の事はそれからだ・・・)
(それに・・・)
承一の足取りは重たいものであり、今倒れてもおかしくないほどだった。
(こんな手負いの虎の状態の奴に苦戦はしないだろう・・・数分で終わらせれば、それでいい)
神場崎は承一の方に向き直し、「スーパーチャージャー」を発現させておく。
「何も問題は発生しない・・・このまま、お前を始末することにはな」
「・・・・」
「そんな傷では戦う所か、歩くのも辛いのではないか?」
「・・・・」
先ほどから言葉も発しない承一に不快感を覚えながらも、左手の指を銃の形に構える。
「まぁいいか、これで終わらせ・・・」
言いかけた時、何かが弾ける音と共に赤い液体が飛び散るのが見える。それが散った箇所を見ると全て理解した・・・自身の左手の指があらぬ方向に曲がり折れていたからである。理解しきったのと同時に激痛が走る。
「ぐ・・・があああああっ!!!」
(何が起こった・・・いや、何をされた・・・のだ?)
「・・・今のは・・・父さんの痛みだ・・・・お前が与えた・・・!」
「・・・っ」
(見えなかった・・・この私でさえも・・・どういう事だ?)
改めて承一の「スタンド」を見る・・・だが何も変わった所はない、それが神場崎を戸惑わせる。
「く・・くそ!私が・・・この私がぁぁ!!!」
「オラッ!」
「ぶっ!・・・がはぁ!」
冷静さを欠いた神場崎が承一に襲い掛かるが、「アウタースローン」の一撃が胸部へ当たる・・・
「これからの拳に、父さんの分を入れる・・・」
「こ、この・・・わ、た・・・」
「オラオラオラオラオラオラッオラオラオラオラァァァァ!!!!!」
「オラッァァ!!!」
「ぐばっ!はァァァァ!!!」
高速ラッシュが全て打ち込まれ、身体は海の中まで飛ばされていき、そこで消滅した。
「終わったよ・・・父さん、ようやく仇を討てた・・・・でも」
誰もいなくなった砂浜で、承一は家の方角を見る。
「まだ、やらなくちゃならない事がある・・・・無事でいてくれ穂乃果、みんな・・・」
痛みが残る体を引きずりながら、その場を後にした。