女神達の奇妙な冒険   作:戒 昇

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第59話 ルナティック・カームその②

 その「スタンド」の容姿を一言で表すのなら…まさしく「異形」が合っているだろう。

下半身には「脚」はなく、その代わりに青白い血管のようなものが浮き出ている黒色の「触手」が何本も生えていた、上半身はボロボロになった白い布を被っており「スタンド」の顔は見えなくなっている。

 

 

「うっ…」

 

 

出水はその怪物みたいな姿に思わず後ずさり脚もよく見てみると小刻みに震えているのが分かる…

彼がこれまで相手にしてきたのは只の人間であり、「スタンド」それもあんな異形と闘うことは考えもしなかったから無理もないだろう。

 

そんな彼の心を知ってか知らずか、「スタンド」は粘着物を踏む様な音をたて徐々に近寄ってくる。

 

 

「う、うああああッ!!」

 

 

恐怖心からか近づこうとする相手を殴りかかる、がむしゃらに放った拳はほとんどが外れていったが幸運にも一発が「スタンド」の顔面を捉えた。

 

だが……

 

確かに当たった、しかし相手は平然とし逆に左手がスローモーションのような動きで右腕を振りかざしてきた。

それを避ける間もなく、振りぬかれた拳は自分の顔面に直撃し大きく後方へ飛ばされる。

 

 

「うぐッ!」

 

 

コンクリートの壁に当たった後地面に倒れ伏す。

殴られた個所はジンジンと熱を帯びる様に痛み、その衝撃からか上手く立つことすらままならない。

 

(あ…ああ……)

 

自分の中で敵「スタンド」に対する恐怖心が強くなっていくのが分かり、悍ましい姿が再びこちらに向かってくるのだと思うと脚だけではなく全身までも震えてきた。

 

 

「う…く、ああああ…うわああああ!!」

 

 

僅かに残った力で飛び跳ねる様に起き上がるとその足は相手ではない逆方向に向き、そのまま駆け足でその場から逃走してしまう。

 

 

(は、速く…もっと速く逃げなきゃ…追いつかれる前に!!!)

 

 

彼は走った、自分の格好など気にすることもなく走り続けた。

細い路地裏に入り込み走った…人通りの少ない、多い関係ない道をとにかく走った…

 

どれくらい走っただろうか…気が付けば少し開けた場所に辿り着いていた。

そこは赤色の建物があり、絵馬が飾られた場所があることからここが「神田明神」だと気付くことができ、出水は

一息つくために前後左右を確認していないことが分かると近くの建物の影に身を潜める。今更気付いたことだが「スタンド」は既に解除されて、制服姿になっていた。

 

しかし、安心したのもつかの間…今になって敵から無様に逃げ出したことを思い出し、頭を抱えてしまう。

 

(…こんな姿で「ヒーロー」だなんて笑っちゃうよ……でも、

 無理だよ…僕が戦うなんて…比屋定さんや楓さんみたく強くない僕何かが…

 ただの中学生の僕が…)

 

 

抗いようもない絶望感が心を覆いつくし、いっその事ずっとここにいてしまいたいと思っていた時だった。

 

 

「ヒーローさんがこんな所で、どうしたん?」

 

 

声が聞こえた…それも女性の声だった。

恐る恐る顔を上げると、音ノ木坂学院の制服を着た紫色の髪の美しい女性が傍にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~*****~~~~~~

 

 

 

その日は彼女…「東條希」にとっては普段と多少変わらない日だと思っていた。

「比屋定承一」の一件以来、「落合楓」からの注意を受けて学院内にいる時から自身のスタンド「パープル・ヴァローナ」を出し警戒はしてきたが、特に何もないまま今日を迎えた。

 

今日は学院が終わった後、普段通りここ「神田明神」のバイトに入り、終わり次第帰るはずだった。

 

巫女衣装から学院の制服に着替え終わり帰ろうとした時、誰かが境内に入ってくる気配がした…参拝客なら既に本殿にいるはずだが、その気配は消えることなく姿を現さないので「スタンド」を出しつつ気配元に近づくと…

 

そこには顔をうずめる中学生ぐらいの少年がいた。

 

 

(あれ…?この子どこかで…)

 

 

以前、学院の後輩でスクールアイドル「μ's」のリーダーである「高坂穂乃果」が話していた着るタイプの「スタンド」を操る少年がいることを思い出した。

 

しかし、彼女から聞いていた姿と今の状態は似ても似つかないので、確信に迫るべく声をかけてみた。

 

 

「ヒーローさんがこんな所で、どうしたん?」

 

「あ…貴女は…?」

 

「うちは東條希、君の事は穂乃果ちゃんから聞いているよ」

 

「高坂さんから…」

 

 

高坂穂乃果の名前が出てきたことから間違いはないが、だからこそ彼に何があって、今の状態になってしまったのか…「スタンド」という可能性を考えながら、希は話を聞くことにした。

 

 

「…その様子だと、何かあったと思うんけど…話してくれる?」

 

「そ、それは…」

 

「大丈夫よ、うちだって君と同じ「スタンド使い」なんだから」

 

「で…でも……」

 

 

最初は戸惑いがあったものの、ポツリポツリと自分が体験したことを話し始めた。

怪物の様な「スタンド」と出会った事、

それに最初は立ち向かったが、恐怖のあまり逃げ出してしまった事、

散々逃げ回り、気付いたらここにいた事を…次々とまるで堰を切った如く早口気味に話し、希はそれを一言一句聞き逃さない様に聞いていた。

 

 

「笑ってしまいますよね…敵から逃げ出したなんて…これじゃあヒーロー失格だよ…」

 

「…なるほどね、「スタンド」はいたけど本体は近くにいないのなら「遠距離」タイプかもしれんよね」

 

「…?東條さん…」

 

「そしたら、うちの「スタンド」の出番やな!

ただ、「遠距離操作型」と「遠距離自動操縦型」だと探す手間が違うからな…どっちかが分かればいいんやけど」

 

「な、何を…?」

 

「何って…もちろん、この戦いに勝つ為に必要な事を考えているんよ?」

 

 

そこまで聞くと、出水は青く顔をしながらも勢い良く立ち上がった。

 

 

「か、勝つって…そんなこと無理ですよ!

 あんな怪物みたいな相手に!それに…!」

 

「出水君…」

 

「怖くなって逃げ出した奴なんかが……

 臆病な僕があんなのに勝てる訳がないじゃないですかっ!!」

 

叫ぶ様な声で聞いたのは彼の疑いのない、「本音」だった…聞いていた希は優しく微笑み、静かに語る。

 

 

「うちだって怖くないと言ったら嘘になるんよ…

でもね、「スタンド」という能力(ちから)には 「スタンド」でしか対抗できない…つまり」

 

「うちにしかできない事なんよ、悪意のある者達から「日常」を守ることは…他でもない自分自身が…

 それが(スタンド)を持った意味だと思っている」

 

「東條さん…」

 

「だから、うちは戦う…「これまでの日常」、「これからの日常」を守りたいから!」

 

 

女性とは思えない力強い言葉に何も言えず呆然としている出水だったが、不意に嫌な気配を感じた。

希はその姿を見据え、苦い顔をする。

 

 

「どうやら、向こうから来てくれたみたいやね…」

 

 

再び、「異形」が現れる……

 




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