もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第十三話 「姉妹」

いつもと変わらない休日の朝。朝食を済ませリビングではいつも通り自分とヤミがくつろいでいる。ヤミは静かに読書中。何を読んでいるかは分からないがきっと変なジャンルであるのは想像に難くない。対して自分は読書ではなく携帯とにらめっこしている。

 

 

「うーん……」

 

 

頭を悩ませながら何とかメールを打ち込んでいく。本当ならメールを送るのにこんなに気を遣うことなんてないのだがいかんせん事情が事情。朝食から一時間。何とか一通りやり取りを終えて大きなため息をつく。

 

 

「さっきから何をうんうん唸ってるの? トイレならさっさと行って来たら?」

「トイレじゃない……ちょっとメールするのに苦労しててさ」

「メール? リト、メールするような相手がいたの?」

 

 

家事が一段落したのかリビングにやってきながら美柑によってこれ以上にない精神攻撃を受ける。本当ならそれだけで部屋に引きこもりたいレベルのものだったのだがなんとか耐える。

 

 

「まあできたのは最近なんだけど……ちょっとそれで困ってて」

「なんで困ってるの? もしかして相手は女の人とか?」

「それだけならまだよかったんだけど……その女の子にとってはオレも女なんだよ」

「え?」

 

 

理解できないといった表情の美柑を見ながら事情を説明する。きっかけは以前自分がララの発明品で女になってしまった日のこと。不可抗力とはいえ自分は女を装って古手川と接触することになった。騙していることに罪悪感はあったが子猫を助けるためでもあったので後悔はしていない。幸いにも正体がばれることなくその場から去ることもできた。だがそのままめでたしめでたし……というわけにはいかなかった。

 

 

「ヤミ……なんでオレの連絡先を古手川に教えたりしたんだよ? おかげでこんなことになってるんだぞ」

 

 

それは次の日、どういうわけかヤミが自分のメールアドレスを古手川に教えてしまったから。どうやら古手川は(女の)自分と友達になりたかったらしく結構頻繁にメールを送ってくる。初めから全部無視していればよかったのかもしれないが申し訳なさもあり返信しているのだが一向に収まる気配がない。しかも古手川は自分を女だと思い込んでいるため男の自分にはついていけない話題も多々ある。それに合わせた知識を得る努力も必要。まるで彼女ができた彼氏のような苦労をする羽目になっているのだった。

 

 

「自業自得でしょう。私は古手川との約束を守っただけですし、そんなに嫌なら返事をしなければいいのでは?」

「そ、それはそうなんだけど……流石に悪いかなって……」

「リトの負けだね。女の振りもしなきゃいけないなんて忙しいね。今度ララさんに女になれる発明品借りておいたら? 必要になるかもしれないし」

「否定できないのがつらいところだな……」

 

 

半分呆れ気味な美柑のアドバイスに素直に頷くしかない。婚約者候補の振りだけでも精一杯なのに、まさか女の振りまでしなくてはいけなくなるなんて思いもしなかった。何にせよバレないようにするしかない。そんな中、リビングのドアが開く音が聞こえてくる。

 

 

「ちょうどよかったララ、ちょっとお願いしたいことが」

 

 

渡りに船とばかりにいつものようにやってきたララに話しかけるようとするも思わず固まってしまう。当たり前だ。そこにララの姿はない。代わりに

 

 

「ナ、ナナ……!? どうしてここに……!?」

 

 

その妹であるナナが何故かそこに現れたのだから。いつかと変わらないデビルークの王族の衣装を身に纏った小柄な姿。違うのはその表情が若干不機嫌であること。

 

 

「なんだよ、あたしがここに来ちゃいけないのか?」

「い、いやそんなことないけど、ただびっくりしただけで……ララは一緒じゃないのか?」

「姉上は今日は忙しくてこっちに来れないんだ。なんか新しい発明品を作るために出かけるとか言ってたぞ」

「そ、そうか……新しい発明品ね……」

 

 

ナナの言葉にどこか乾いた笑みを浮かべるしかない。新しい発明品。果たして最近これ以上に不吉な言葉があっただろうか、いやない。だがまたにはララもこっちに来ないこともあっていいかもしれない。ララにはララの、デビルークでの生活もあるのだから。そんなことを考えていると

 

 

「だ、だから今日はあたしが姉上の代わりにリトの面倒を見るからな! 姉上に頼まれたから仕方なくだぞ、分かったか!」

 

 

一度息を整えながら勢いよく自分を指さしながらナナはそんな宣誓を行ってくる。色々突っ込みたいことはあるがまあいいだろう。なんだか楽しそうだし。残念ながら面倒を見るのは自分になるような気もするが仕方ない。どうやらナナから見れば自分はララに面倒を見られているらしい。ある意味では正しいのだがこちらもララの面倒を見ているのでイーブンだと思うのだが黙っておいた方がいいだろう。

 

 

「そっか……じゃあよろしく。で、今日は何して遊ぶ? どこかに出かけるか?」

「いいのか!? それじゃあ一緒に……じゃなくて! あたしが面倒を見るって言ってるだろ!?」

「おはようナナさん。朝ごはんはどうする? まだだったら用意できるけど」

「え? あ、おはよう美柑。大丈夫だぞ、もう食べてきたし。ヤミもおはよう。夕食会以来だな」

「おはようございますプリンセスナナ。元気そうで何よりです」

 

 

自分のことしか見えていなかったのか、慌てて美柑とヤミに挨拶しながらも楽しそうにしているナナ。ララとはまた違った騒がしさがあるが年相応の可愛さがある。一緒にいれば体力が消費されるがその分こっちも元気がもらえる気がする。それはともかく今日はどうするか。ララが来ない以上とらぶるは消費できない。なら直接触れ合うことなくナナと遊ぶしかない。外出するのも控えた方がいいかもしれない。おしゃべり中心で交流を図るしかないかと考えていると

 

 

「よ、よし……! じゃあ行くぞリト……覚悟はいいか?」

「…………え?」

 

 

そわそわとその場をぐるぐると回りながらも意を決したようにナナが決意に満ちた表情でこちらを凝視してくる。腕を組んで仁王立ちしている姿はこれから戦場に赴く兵士のよう。だが悲しいかな足は震えている。だが問題はそこではない。自分はこの光景を知っている。雰囲気や状況は全く異なるがこれと同じ光景を毎日見ているのだから。そう、それは

 

 

「ま、待てナナ……もしかしてお前、オレのとらぶるを消費させる気なのか!?」

 

 

ララが毎日の日課だとばかりにとらぶるの範囲に飛び込んでくる前兆。違うのは今自分の目の前にいるのはララではなくナナだということ。

 

 

「あ、当たり前だろ! あたしは姉上から頼まれたんだからちゃんとするぞ!」

「た、頼まれたって……無理するなって!? ララはちょっと特別だからで……それに前したときは泣いてたじゃないか!?」

「だ、大丈夫だぞ……ちゃんと慣れるって約束したし、姉上だっていつもしてることなんだからあたしにだってできるはずだ!」

 

 

そう言いながら胸を張っているがないものは張れない。その証拠に体が震えているのを隠しきれていない。確かに前にそんなことを言ってたような気がするがまさか本気だとは思っていなかった。きっとララも軽い気持ちでお願いしたに違いない。だが常識的に考えてララがおかしいのであってナナの反応が正しいのだがいくら説明してもナナは引こうとしない。

 

 

「いいからじっとしてろ……えい!!」

「や、やめろナナ―――!?」

 

 

再三の制止を振り切ってナナは目をつむりながら一気に自分の絶対領域に飛び込んでくる。そうなれば後はもうどうしようもない。自分の体は吸い寄せられようにナナを巻き込みながら転んでしまう。その勢いはいつもより激しい。ララよりもナナのほうが小柄なのが原因かもしれない。だが悲しいかな。自分の能力は相手が誰であったとしても容赦はしない。自分の手はナナの服の中に入り込み直接胸を、お尻を掴んでしまっている。

 

 

「~~~~~っ?!?!」

「だ、大丈夫かナナ!? じゃ、じゃなくてごめん!? 早く離れ」

「だだだ、大丈夫だ……!! まだ我慢できる……! 後に、二回すれば、いいんだろ……!?」

 

 

声にならない悲鳴を上げながら必死にナナはとらぶるに堪えている。顔は真っ赤で既に涙目。恥ずかしさで泣きそうになっているのを我慢しながらこちらに向かってくる姿は痛ましすぎて見ていられない。何がナナをそこまで駆り立てているのか。もはや意地になっているのかもしれない。そんなナナに戦々恐々とするしかない。罪悪感もだがそれ以上にいつ張り手が飛んでくるかわからない恐怖。

 

 

「や、やめっ!? そうだ! ヤミ、ナナを止め」

「に、二回目だ――――!!」

 

 

唯一ナナを、とらぶるを止められる可能性があるヤミに助けを求めるよりも早く捨て身の第二撃が放たれる。例のごとくとらぶるの激しさは増している。今度はナナの服を完全に脱がせながらとらぶるをかましてしまう。胸を直接、その先端まで手に収め、片方の手はその恥部をまさぐってしまっている。ナナの体は未成熟でララのような豊満さない。だがそれが逆に背徳感を助長させる。自分の手つきによってナナは声を押し殺しながらもびくびくと体を震わせている。

 

 

「ナ、ナナ…………?」

 

 

それがいつまで続いたのか。全く反応がなくなってしまったナナに恐る恐る声をかけたその瞬間

 

 

「け、けけけケダモノ――――!!!」

 

 

ついに堪忍袋の緒が切れたのか、ダムが決壊したような絶叫をあげながらあの時をはるかに超える張り手によって自分は宙を舞ったのだった――――

 

 

 

 

「ぐすっ……ご、ごめんなリト……あたし、ちゃんとできなくて……」

「き、気にするなって……こっちこそごめんな……だからその、今日はもう止めとこう……な?」

 

 

互いに床に手をつきながら意気消沈している姿はまる初体験に失敗したカップルのよう。だが悲しいかな、そんな甘い話ではない。ナナは泣きじゃくりながらも謝罪してくる。とらぶるを消費しきれなかったことかそれとも自分に平手をかましてしまったことか。恐らくはその両方。結果は見ての通り。ボクシングならナナ選手、二ラウンドKOといったところだろうか。なおチャンピオンであるララは四ラウンド余裕である模様。自分にとっての問題はナナが相手の場合張り手によって物理的にKOされてしまう可能性が高いことだろうか。

 

 

「な、なんで止めてくれなかったんだよヤミ? モモのことは止めてくれてるのに……」

「プリンセスナナにはやましい気持ちはありませんから。それにプリンセスから許可は得ていたようですし……それとそれ以上近づかないでください」

 

 

モモに聞こえないように小声でヤミに文句を言うもヤミは我関せずといった風。どうやらわざと見逃していたらしい。できればこれからは止めてほしい。この大惨事を繰り返したくはない。というか護衛対象である自分が張り手されていることはスルーなのだろうか。自業自得と言われればそれまでだが。そんな中

 

 

「あらあら、やっぱりお子様のナナじゃあリトさんのとらぶるは耐えられなかったみたいね」

 

 

いつからそこにいたのか、二人目の訪問者が姿を現す。ナナとは対照的にどこか大人びた容姿を持つ少女。

 

 

「モ、モモっ!? お前いつからいたんだ!?」

「あなたがリトさんを張り手したところからかしら。だから言ったでしょ? ナナにはまだリトさんのとらぶるは早いって」

「お前だって同い年だろ! それになんでここにいるんだ!? あたしは誰にも言ってなかったのに……」

「あれだけ昨日からそわそわしてたら誰でも気付くわよ。それよりも早く顔を拭きなさい、みっともないわよ」

「っ! う、うるさい余計お世話だ!」

 

 

モモが現れたからか、それに対抗するようにナナもまたいつもの調子に戻っていく。もしかしたらモモなりにナナを心配していたのかもしれない。だが自分は素直にそれに喜べない。何故なら

 

 

「失礼しました。お久しぶりです、リトさん。お元気でしたか?」

 

 

目の前の少女、モモは自分のとらぶるという名の貞操を狙っているのだから。夕食会の夜以来だが今でもあれは嘘だったのではないかと思うほど、目の前のモモはおしとやかさに満ちている。それが逆に不気味だった。

 

 

「ああ……モモも元気そうだな」

「はい、それはもう。美柑さんとヤミさんもお久しぶりです」

「おはようモモさん」

「…………お久しぶりです、プリンセスモモ」

 

 

何気なく挨拶を交わしているモモとヤミだが明らかに空気がおかしい。それも当然だろう。二人は恐らく結構な頻度で顔を合わせているはずなのだから。お久しぶりというのも嫌味かもしれない。知らずモモから黒いオーラを感じるのは気のせいだろうか。もっともヤミは気にした風もなく読書を継続中。それを好機と見たのか

 

 

「そういえばリトさん、ナナの代わりにわたしがとらぶるを消費するお手伝いをしましょうか?」

「え? い、いやそれは……!?」

「お気になさらずに。これも双子の姉妹としての務め――――へぶっ!?」

 

 

こちらの警戒をものともしない自然な動きであっという間にとらぶるの範囲内に踏み込もうとした瞬間、それよりも早くモモはその場で転んでしまう。その足首には金色の髪が巻き付いている。どうやら先も言っていたようにナナは良くてもモモはだめらしい。

 

 

「ヤ、ヤミさん……なんでわたしだけ邪魔するんですか?」

「プリンセスナナはびっちではありませんから。いい加減あきらめたらどうです? 姉の婚約者候補に手を出すのは健全とは思えませんが」

「ご、ご忠告痛み入ります……でもそれはあなたには関係ないことでは?」

「私は結城リトの護衛ですから。不本意ですが職務を全うしているだけです」

 

 

声は抑えているが明らかに火花が散っているリビング。原因は自分にあるようだが仲裁する気が全く起きない。ナナもどこか呆れながら腰に手を当てたまま。とらぶるがまだ一回残っている自分はその場を動くこともできない。そんな状況に業を煮やしたのか

 

 

「……仕方ない、わたしが一肌脱ぐしかないみたいね。リト、じっとしてて」

「は?」

 

 

深いため息とともに美柑が自分に近づいてくる。同時に三回目のとらぶるが発動。文字通り、美柑を一肌脱がせながらその場に転がってしまう。

 

 

「い、いきなり何するんだよ美柑!? 危ないだろ!?」

「……しょうがないでしょ、あのままじゃ収拾着きそうになかったし。それともモモさんかナナさんにとらぶるさせたかったの?」

「そ、それは……」

「……やっぱりララさんじゃなきゃダメなのかもね」

「え? それってどういう」

「何でもない。それよりも重いから早くどいてくれる?」

 

 

言われて自分が後ろから美柑に覆いかぶさっている体勢だったことを思い出し慌てて離れる。対して美柑は顔を赤くしながらも大して動揺した素振りもなく乱れた衣服を整えている。妹にこんなことをさせてしまったことに兄として申し訳なさしかない。

 

 

そんな自分たちの様子をナナはどこかほっとしながら、モモは不機嫌そうに、ヤミは呆れ気味に見つめている。それがララがいない結城家の一日の始まりだった――――

 

 

 




作者です。最新話を投稿させていただきました。

前話では古手川関連のエピソードでしたが読者の方は猿山のエピソードだと思っておられた方が多くて驚きました。確かに原作ではリコと絡みがあるのでその案も考えていたのですが原作と同じ展開にしても面白みがないことと古手川関係のイベントを優先した結果です。


今回はナナとモモ、双子姉妹のエピソードになります。原作のダークネスではモモは主人公兼ヒロインの役割を持っていますがこのSSでは少し違う形で魅力を出していければと思っています。ナナもこのSSでは原作よりも早くリトに対する好感度が高くなっているのでその辺りを楽しんでもらえればうれしいです。

キリがいいところがなかったので今回は少し短めになっていますがその分、次話は早めに投稿できると思います。ご理解ください。感想お待ちしています。では。

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