もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】 作:HAJI
(どうしてこうなった……?)
がっくりと肩を落としながらただ意気消沈するしかない。目の前には豪華な家具がひしめいている光景。デビルーク王宮の中でも特別な一室。王妃であるセフィの私室に自分は何故か座っていた。言うまでもなく正座で。誰かに言われたわけでもなく自主的に。勝手に体が動いてこの体勢になっているのかもしれない。だがそれは自分だけではない。自分の隣に座っている二人の少女もまた同じ。
「うぅ……ぐすっ……」
その片方であるナナはすでに半泣きになっている。それでも心配をかけまいとしているのか、意地を張っているのか唇を噛んで必死に耐えている。
「…………はぁ」
大きなため息をはいているのはもう一人の少女であるモモ。いつものおしとやかさは微塵も残っていない。どよーんという擬音が聞こえてきそうなほど落ち込んでしまっている。状態的には今の自分と近いのかもしれない。まるで裁判を待っている被告の気分。もっとも有罪は確定している状態。
(まさかあのタイミングでセフィさんが帰ってくるなんて……どれだけ運が悪いんだよオレ!? ど、どうすれば……)
お風呂場であられもない姿のモモとナナとくんずほぐれつしている状況をよりにもよってセフィに見つかってしまうという事態。ああいうのを時間が止まるというのかもしれない。きっと自分は顔面蒼白になってしまっていたに違いない。それはモモとナナも同じ。それがいつまで続いたのかわからない。ただ
『……あなたたちにお話があります。すぐに着替えて私の部屋で待っていなさい』
セフィはただそう言い残したまま浴場を後にしてしまう。自分たちはそれに従い、今静かにその時を待っているのだった。
「な、なあモモ。セフィさんはやっぱり怒ってたのかな……?」
何故か小声でぼそぼそと隣に正座しているモモに尋ねる。もしかしたら正座は銀河共通なのかもしれない。モモに聞いたのは単にナナにはそんな余裕がなさそうだったから。見ているのが申し訳がないくらい狼狽している。
「きっとそうだと思います……あんなお母様は見たことがありませんし、その……お母様は貞操観が厳しくて、徹底したハーレム否定派ですから」
「は、ハーレム!? 何のことだ!?」
「側室を許さない、いわば一夫一妻を重んじている方なんです……ですから、さっきの状況を見られたのはとてもまずかったと思います。すみませんリトさん……こんなことになってしまって……」
本当に参っているのか、モモは顔を伏せたままそう謝罪してくる。だが無理もない。あの時のセフィは自分も怖かった。ヴェールで顔を隠しているので表情を見ることができなかったがそれが逆に怖い。声のトーンもどこか淡々としていたのもある。まだ大声で怒鳴りつけてくれた方がマシだろう。しかし一夫多妻とかハーレムとか口にしてるのを見るとやはりモモはモモなのだなと実感する。同時にどこかズレている。はっきり言ってそんなことは関係ない。
ララの婚約者候補の自分がその妹たちと不貞を行っていた。
冤罪だと叫びたいが状況的にそれはほぼ不可能。よしんば自分の冤罪は認められたとしても双子は有罪になってしまうのは避けられない。それが分かっているからこそモモとナナはこの世の終わりのように落ち込んでいるのだから。
「……モモが悪いんだぞ。お前があんなケダモノみたいなことをするからあたしもリトも母上に怒られちゃうじゃないか!」
「う……わたしだけが悪いっていうの!? 元はといえばナナが勝手にリトさんをデビルークまで連れて行ったことが始まりでしょう? それに風呂場であなたが騒がなければきっとお母様にもきづかれなかったはずなのに……!」
「お前がそれを言えるのか!? どうするんだよ、このままじゃリトと姉上の婚約がなくなっちゃうかもしれないだろ!」
「っ!? そ、それは……でも……」
ついに堪忍袋の緒が切れたのか、矢継ぎ早にナナがモモに捲し立てていく。モモもまた思うところがあったのか反論するも痛いところを突かれたのか黙り込んでしまう。事情を知っているモモだからこそそれ以上何も言うことができない。とにかくこのままでは埒が明かない。喧嘩を仲裁してこれからどうすればいいか相談しようとした時
「喧嘩はお止めなさい。外まで声が聞こえてますよ、二人とも」
静かにドアを開けながらこの部屋の主が帰ってくる。瞬間、喧嘩をしていた二人もまた弾けるようにその場に座り込み背筋を伸ばす。その空気に飲まれながらも自分もまたセフィと向かい合う。
(や、やっぱりすごい美人だな……そ、それよりも助かった……前みたいに逃げ出したくなるような感じはしないぞ……)
まずはその美貌。宇宙で一番美しいといわれているのは伊達ではない。顔を隠しているのにその美しさがにじみ出ている。だが自分にとって不安だったのは別のこと。以前デビルークに来た時に感じた感覚。セフィから逃げ出さなければという強迫観念のような条件反射。それのせいでまた鬼ごっこをしなければいけないかもしれないと心配していたのだが今はそれがない。なぜかはわからないが助かった。もっとも今は別の意味でこの場を逃げ出したい気持ちで一杯なのだが。
「何から話しましょうか……そうね、モモ?」
「っ!? は、はい! なんでしょうか、お母様……?」
「なんでお風呂場であんな恰好でリトさんと一緒にいたのかしら?」
「そ、それは……」
自分の名前を呼ばれたことでびくんと体を震わせながらもモモは目を泳がせている。どう言い訳をしたらいいのか。だが言い訳などできるわけがない。間違えてお風呂に入ってしまったとでも嘘をつくつもりだったのかもしれないがあの状況。もはや言い逃れはできない。現にモモ自身もかつて言っていた。母であるセフィには隠し事はできない、通じないと。
「…………リトさんの能力、とらぶるに興味があったからです。お姉様が夢中になっているリトさんがどんな人かも気になっていて……以前、わたしには興味がないと言われてしまって意地になってしまっていました……」
「そう……私はねモモ。欲しいものを手に入れるために最大限の努力をする……そんなあなたが好きよ。私もそうだったから」
「…………」
「でもあの格好はいくらなんでもやりすぎね。いくらリトさんが誠実だからといっても限度があるわよ?」
「はい……反省してます」
「よろしい。後でヤミさんにも謝ってきなさい」
静かでも確かな意思を感じさせるセフィの言葉にモモは素直に頭を垂れている。頭ごなしではなく、モモを一人の人間として尊重したうえでのもの。お説教というよりは諭しているといった方が近いかもしれない。親子でしか分からない繋がりがあるのか。セフィはモモの心情を察しているらしい。
「ナナ、元気なのはいいけれど勝手にリトさんを連れ出すのはいけないわよ。一度だけといえリトさんは命を狙われたことがあるのを知らないわけじゃないでしょう? ちゃんと護衛であるヤミさんに事情を話してきた?」
「う……ごめんなさい、言ってません……」
「リトさんと遊ぶのが楽しみだったのはよくわかるけれど、周りの人に迷惑をかけてはいけないわ。もちろん、リトさんにもね…………じゃないとせっかく勉強を頑張ってるのに無駄になってしまうかもしれないわよ?」
「っ!? わ、分かったよ……母上の言うとおりにする……ごめんなさい」
ナナもまたセフィのお叱りによって謝罪を口にする。それでも気持ちが楽になったのか、先ほどのように涙目ではなくなっている。流石というかただ呆気にとられるしかない。母としての威厳か、デビルーク女王としての威厳か。人の心の機敏に鋭いのかもしれない。そういえばララから聞いたことがある。セフィは政治が全くできないギドの代わりにそのすべてを担っているのだと。ギドが力でセフィが知恵。矛と盾。そんなセフィだからこそ娘であるララたちも母を尊敬しているのだろう。何はともあれ穏便にこの場が収まりそうでよかった。もしかしたら修羅場のような大惨事になるかもしれないと心配していたのだが杞憂だったようだ。しかしそれは
「さて……最後はリトさん、あなたね。何か申し開きはあるかしら?」
「…………え?」
こちらを振り向きながらセフィの言葉によって断ち切られてしまう。瞬間、空気が変わる。先ほどまであった慈愛にも似た雰囲気はない。あるのは風呂場で見たどこか淡々とした空気。予想だにしなかった展開に頭がついてこない。わかるのはただ、自分にはまだ判決が言い渡されていなかったということだけ。
「あなたはララの婚約者候補のはずでしょう? それが不可抗力とはいえその妹たちとあんなことになっていたのは問題があるとは思いませんか?」
「そ、それは…………」
返す言葉もない。というか問題しかない。もしあの場にいたのがデビルーク王であるギドであったならどうなっていたか。物理的に破壊されていたかもしれない。自分だけでなく地球も。
「残念ですがララとの婚約者候補の話も考え直す必要がありますね。ララには私の方から話をさせてもらいます」
「っ!? ちょ、ちょっと待ってください……それは……!」
まさかの展開に思わず声が出てしまう。確かにそれは妥当な判断だがそうなっては困る。自分ではなくララのために。せっかく自分のために動いてくれているララに申し訳がたたない。またララがしたくないお見合いをさせられてしまう日々に戻ってしまうかもしれない。ララに初めて会った時の約束も、初めてデビルーク星に来た時に抱いた願いも果たせていない。
「は、母上待ってくれ! あれはあたしとモモが悪かったからリトは関係ないんだ!」
「そ、そうです! リトさんには何の非もないんです! 罰ならわたし達が受けますから…!」
モモとナナも慌てながら自分を庇ってくれる。そんな自分たちの様子を見ながらもセフィは黙り込んだまま。やはり許してはもらえないのか。それでも何とかしなければ。意を決して全てを告白するしかないと覚悟を決めたその時
「……ふふっ、ごめんなさいリトさん。少し悪ふざけが過ぎたみたいです。大丈夫ですよ、リトさん。あなたの事情はおおよそ分かっていますから」
堪えきれなかったように優しく笑いながらセフィはそんな言葉を口にする。理解できない展開の連続に頭がついていかない。
「え…………? それってどういう……?」
「ララとの婚約者候補の話です。ごめんなさいね、きっとララの方からあなたに婚約者候補の振りをしてほしいとお願いしたんでしょう?」
「お、お母様……知ってらっしゃったんですか?」
「ええ。これでも親子ですから。それに私達のせいでもあります。あの子が嫌がっているのにお見合いばかりさせてしまって……感謝していますリトさん。ララの心配をしてもらって」
「い、いえ……そんなことは……」
「え? じゃ、じゃあリトと姉上は婚約者候補じゃなかったのか!? なんでそんな嘘ついてたんだ!?」
「あなたはちょっと黙ってなさいナナ。わたしが後で教えてあげるから……」
一人事情が分からず置いてけぼりを食らっているナナにモモが呆れている中、自分はただ汗を流しながらセフィの一挙一動に翻弄されていた。確かに遠からずバレるとは思っていたがまさかこんなに早く。しかもほとんど自分と話していないのにバレてしまうなんて。もしかしたら初めて会う時より以前から悟られてしまっていたのかもしれない。だがそうなると腑に落ちない。
「あ、あの……それならなんでさっきみたいなことを……?」
何故自分を脅すような、困らせるようなことを言ってきたのか。事情を知っているのならそんなことをする必要はないはずなのに。それを知ってか知らずか
「――――ちょっとした悪戯です。以前、私を見るなり逃げ出してくれた可愛い婚約者候補さんに対するね」
心なしか子供っぽい笑みを見せているのが分かるほど、楽しそうにしながらセフィは種明かしをする。それまで見せていた威厳のある姿ではないどこか等身大の姿。どうやらあの日のことをずっと気にしていたらしい。その姿にモモが重なる。もしかしたらセフィは娘の中ではモモに性格的には似ているのかもしれない。いや、モモが母であるセフィに似ているのだろう。
そんな心臓に悪い母との面談を終え、ようやく結城リトの裁判は幕を下ろしたのだった――――
「ごめんなさいね、リトさん。二人とも良い子なんだけど突っ走りやすいところがあるから」
「だ、大丈夫です……慣れてますから」
美しい所作をみせながらセフィは自分に紅茶を振る舞ってくれる。今、部屋には自分とセフィの二人だけ。あの後、自分と二人きりで話したいことがあるとセフィに誘われてしまった。モモとナナももうこの場にはいない。だがこちらとしては気が気ではない。一応何もお咎めはなかったとはいえ、やはりセフィを前すると緊張してしまう。
「でもなんでモモとナナに出て行ってもらったんですか? みんなでお茶をすればよかったんじゃ……」
「それも楽しそうだけど、二人がいてはできない話もありますから。そういえばリトさん、大丈夫ですか? まだ逃げ出したくなるような感覚はありますか?」
「えっ!? い、いや大丈夫です! す、すみません……前は失礼なことをしてしまって……」
「ふふっ、いいのよ。さっきの悪戯でおあいこってことで。それにきっとそれはあなたの能力……とらぶるのせいでしょうから」
「とらぶるの……?」
「ええ。きっとあなたのとらぶるが私のチャームの能力から逃れようとしたんでしょう。私の能力は他人に影響を与えるものですから」
紅茶を口にしながらセフィはそんなことを自分に明かしてくる。だが理解できない。なぜとらぶるがそんな影響を与えるのか。この能力は範囲に近づいた相手をラッキースケベに巻き込んでしまうもの。そんな危機察知のような能力ではないはず。
「いきなりこんなことを言っても難しいわよね。でも、とらぶるに関して最近何か変化があったんじゃないかしら? でないと今私の前にいても大丈夫なことに説明がつかないのだけど」
「変化って……特には……あ!」
言われてようやく一つ、心当たりに気づく。ララの発明品によって女になってしまった時。あの時には何故かとらぶるが起こらなくなり、同時にラッキーなことが立て続けに起こるという不思議な現象に襲われた。それが原因だったのだろうか。
「心当たりはあるようですね。でも気を付けてください。能力というものは良いことと悪いこと、両方を呼び込むものですから」
「良いことと悪いこと……」
セフィの言葉にどこか心を鷲掴みにされたような、そんな感覚を覚える。戸惑っている自分の姿を真っすぐに見つめてくれているであろうセフィに知らず目を引かれてしまう。ヴェールをしているはずなのに、それを感じさせない何かが彼女にはある。
「そ、そういえばセフィさんはいつからチャームの能力を持ってたんですか? どんな力かはララ達から聞いてから知ってるんですけど……」
何だが気恥ずかしくなってきてこちらから話題を振ってみる。会話の流れからおかしくないであろう選択肢。
「そうね、私のチャームの能力は生まれつきなの。自分で制御できないし、こうして顔を隠せばある程度は力は抑えられるんだけどね」
「そうなんですか……その、やっぱり大変なことが多かったんじゃ……」
聞くべきことではないのではと思いながらもつい聞いてしまう。それでも辛いことではなく、大変なこととぼかして質問する。知らずそうしてしてまったのはセフィのためだけではない。その理由を、自分は分かっている。でもそれを口に出してはいけない。
「……そうね。この能力のせいで危ない目に数え切れないほど会ってきた。命を狙われたこともあるわ。でも一番辛かったのは……誰も私のことを見てくれなかったことだった」
「自分のことを……見てくれない……?」
知らず息を飲む。どくんと心臓が脈打った気がした。
「そう。チャームは異性、私の場合は男性の心を虜にしてしまう。そうなればその男性は理性を失ってしまう。彼らは私ではなく、チャームに惑わされてしまっているだけ。決して私を見てくれているわけではないの」
「それは…………」
「男性だけではなく女性もそれは同じ。女性は私の能力に嫉妬して、恐れて離れていったわ。友達ができても、すぐにまた一人になってしまう……小さい頃はよく思っていたの。なんで私にはこんな呪いがかかっているのかって」
セフィは悲壮さを全く感じさせることなく、微笑みながら自らの過去を明かしていく。どうしてそんな話を会ったばかりの自分にしてくるのか。でも、その辛さは分かる。痛いほどに。
もし自分にチャームの力があったらどう思うだろうか。最初は嬉しいかもしれない。異性が自分の虜になる。でもすぐにきっとそれは絶望に変わる。そのせいで命の危険に晒される。同性からは侮蔑され、差別される。誰も本当の自分を見てくれない。見てくれるのは自分の能力だけ。いや、もはや能力ではなく呪い。決して解けることのない死の宣告。
「すみません……辛いことを思い出させてしまって……」
「いいのよ。それに……リトさんもそれは同じでしょう?」
「え? いや……オレのはセフィさんみたいに命の危険があるわけじゃないし……全然比べ物に……」
「いいえ、そんなことはないわ。他人と接することができなくなる……その意味では全く同じ、いえ対策がない分きっとあなたのほうが大変だったはずよ。そうでしょう?」
「それは……」
セフィの言葉に思わず目を見開いてしまう。なぜだろう。彼女の言葉はその一つ一つが心に突き刺さってくる。同時に蘇ってくる。今まで考えてこなかった、考えようとしていなかったこと。逃げ出してきた――――記憶。
――――古手川を泣かせてしまった。親友を失ってしまった。学校では誰も話してくれない。見てくれない。誰も自分の辛さを分かってくれない。
――――誰にも言えなかった。誰も信じてくれないから。美柑にも、両親にも言えなかった。言ったらきっと心配させてしまうから。
「だから……リトさん、言っていいのよ? 辛いって、悲しかったって。ここには妹さんもララ達もいないわ。泣いたって誰もあなたのことを悪く言ったりしないから」
知らず、涙を流していた。頬をつたって涙が床に落ちる。泣いたのはいつ以来だろう。最初の頃はずっと部屋で泣いていたような気がする。もう忘れてしまうようなこと。今まで抑えていた何かが漏れ出してくるのを感じる。きっとそれはセフィの前だから。自分と同じように能力に翻弄されて、他人と接することができなくなった経験を持つ人だから。その心からの優しさに気遣いに感謝しながらもなんとか泣き出すのは堪える。もう涙を流してしまったので、意味はないかもしれないけれど。
「す、すみません……みっともないところ見せちゃって……」
「いいのよ。本当なら胸ぐらい貸すつもりだったんだけど……やっぱり男の子なのね」
そういいながらセフィは自分にハンカチを貸してくれる。この状況でセフィの胸で泣いてしまったらどれだけ楽か。でもそれは何とか我慢した。一応ではあるが自分は男なのだから。実の母ならともかく婚約者候補の、しかも嘘の婚約者候補の母の胸で泣くのは流石に恥ずかしすぎる。もっともその前で泣いてしまっている時点で同じかもしれないが。同時にようやく悟る。自分がこうなることが分かっていたからこそセフィはモモとナナを退室させたのだと。
「ごめんなさいね……でもあなたにこの話をしたのはあなたを泣かせたかったからじゃないの。先輩としてのアドバイスをしたいと思って」
「アドバイス……?」
「そう。さっき言ったでしょう? 能力には良いことと悪いことがあるって。今までのは悪い話。そしてこれからは良い話」
セフィはどこか遠くを見るような仕草を見せながら自分にそれを伝えてくれる。能力によって人生を振り回された先輩としての助言。その先にあるもの。
「いつかあなたの能力に惑わされることなく真っすぐにあなたをみつめてくれる人が現れるわ。きっとその人が、あなたを救ってくれる。私がギドに救われたようにね」
それは確信にも似た予言。自分のとらぶるに惑わされることなく、本当の自分を見てくれる誰か。そんな存在がきっと現れるだろうと。かつてセフィはギドによって救われた。チャームによって惑わされることなく真っすぐに自分を見つめてくれる瞳によって。それが結城リトにも訪れるとセフィ・ミカエラ・デビルークは確信している。
「それと……その相手が私の娘だったらもっと嬉しいわ」
「っ!? セ、セフィさん……!?」
それまでの聖母のような雰囲気から一変、少女のような愛嬌を見せながらセフィはそんな爆弾発言を告げる。しかもララではなくわざわざ私の娘なんて言い回し。いくら鈍い自分でもセフィが何を言わんとしているかは分かる。
だが心が何だか軽くなった気がした。ララと出会ってから忘れかけてしまっていたもの。それはなくなることはないけど、きっとその記憶を目の前のセフィのように笑いながら話すことができる日が自分にも来るかもしれないと。そんな中
「ママ、お帰りなさい! パパから聞いて……あれ? リトも来てたの?」
「ラ、ララ……!?」
「ただいまララ。元気そうでよかったわ」
「うん! そういえばリト、ママと仲直りできたんだね! また逃げ出すんじゃないかって心配してたんだから!」
「な、仲直りって……別に喧嘩してたわけじゃ……」
「あ、そうだ! 新しい発明品ができたんだ! 今度はいつもより凄いんだから! えっとね」
突如現れたララによってお茶会は中断しいつもの騒がしい空気へと逆戻りする。自分は泣いていた跡を悟られないように必死に顔を隠し、ララはそんな自分に気づくことなくいつもの調子で迫ってくる。それを少し離れたところで楽しそうにセフィは見守っている。
それが結城リトとセフィ・ミカエラ・デビルークの最悪から始まって最高で終わった再会の結末だった――――
「まったく……知ってたんなら早く教えてくれよな。おかげでびっくりしちゃったぞ」
「気付かないあなたの方がおかしいのよ……あのお姉様が婚約者候補を自分であのタイミングで連れてくる時点でおかしいでしょ?」
「そ、それは……まあそう言われればそうかもな」
うーんと背伸びをしながらもナナは隣を歩いているモモに愚痴るもすぐに黙り込んでしまう。確かに言われてみればその通り。よっぽどララはお見合いが嫌だったんだろう。リトのことだ。きっと仕方なく引き受けたに違いない。
「でも三年かー、姉上本気で婚約者候補を探す気あるのかな?」
「まあ三年はリトさんも付き合ってくださるみたいだし、それから本気を出すんじゃないかしら……」
どこか呆れ気味のモモの言葉に頷くしかない。何でもリトが高校を卒業するまでにララが本物の婚約者候補を見つける約束をしているらしい。もっとも今のところララにはそんな気配はない。きっと三年たってから慌てて探し出すのだろう。
ちなみにリトが嘘の婚約者候補であることを知っているのはララには伝えないことになった。それはセフィの提案。何でもそれを伝えてしまうと婚約者候補を探さなくてもいいという風にララが捉えかねないとセフィは考えたらしい。もちろんギドにも内密にしたまま。
「お母様の考えも分かるけど……上手くいくかしら」
「? 母上の考えってなんだ?」
「お子様のナナにはわからないでしょうね……とにかくナナも気をつけてよ。お姉様にバレないようにね」
「あ、当たり前だ! それにいつも言ってるだろ、お子様扱いするなって!」
変わらず自分をお子様扱いしてくるモモに噛みつくもモモは涼しい顔をしたまま。確かにうっかり口を滑らしそうな気もするが自分だってちゃんとできるはず。
(それに三年経てば姉上とリトは婚約者候補の振りをしなくてもよくなるんだから、それまでの……)
我慢だと思いかけたとき、ふと何かが引っかかる。今の今まで気付くことのなかった、これから先の、もしもの話。
(姉上が本物の婚約者候補を見つけるか、三年経ったら……リトは姉上の婚約者候補じゃなくなる、なら――――!)
瞬間、閃く。遠くない未来、その時に自分は
「どうしたの、ナナ? 急に黙り込んで、わたしの話を聞いてなかったの?」
「っ!? な、なんでもない!? あたしは別に何も悪いことは考えてないんだからな! 勘違いするなよ!?」
「……あっそ。いいけど変なことはしないでよね。もうお母様に怒られるのは嫌ですから」
「そ、それはこっちのセリフだ! 大体あれはお前が悪いんだろ!」
いつものように姉妹喧嘩をしながら二人は歩いていく。その先に何があるか知らぬまま。
一つの火種が消えて、新たな火種を残しながら結城リトのとらぶるな日々はまだまだ続くことになるのだった――――
作者です。最新話を投稿させていただきました。
今回はいつもより若干シリアス寄りになっています。あまりTo LOVEるらしさはないかもしれませんがご理解くださると嬉しいです。
このSSではセフィはリトのことを一番理解できる存在になります。お互いに自分の能力によって人生を翻弄された共通点があるからです。セフィとギドの関係がそのままリトとララに当てはまるように設定しています。対の関係だと思っていただけると分かりやすいかもしれません。
同時に婚約者候補の約束も最後のナナの流れに持っていくためのものでした。原作では春菜というリトにとって一番の相手がいるため難しいですが、このSSではそれがなくなっているため全てのヒロインのスタートラインが近くなっています。原作ではハーレムという方法がありますが、このSSではララに婚約者候補ができるか三年経てば体面上リトはフリーになるため他のヒロインも動きやすくなるといった具合です。
長くなりましたがこれからもお付き合いくださると嬉しいです。では。