もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】 作:HAJI
いつもと変わらない平日の朝。朝食を済ませ、登校するまでのわずかな時間は自分にとって貴重なもの。もっともすぐに一日の始まりを告げる嵐が訪れるのだがそれは割愛。
(やっぱりこの時間は落ち着くな……騒がしいのが嫌いなわけじゃないけど、たまにはこういうのもいいかも……)
自分の指定席(隔離場所)の椅子に腰かけながら読書を楽しむ。手にしているのはナナから借りた二冊目の本。主に以前電脳サファリで出会った動物たちの生態が載っているもの。面白いのだが読めば読むほどあの動物が人に懐く存在ではないことが分かる。それができているのはひとえにナナの能力によるところが大きいのだろう。
(面白いんだけど……何かこのままじゃオレ、宇宙の動物にばっかり詳しくなっちゃうんじゃないか……?)
ふとそんなことに気づく。何だかこのままでは地球の動物より宇宙の動物の方が詳しくなってしまいそうだ。それはそれでいいのかもしれないが就職はどうなってしまうのか。かといってナナの厚意を無下にするのも気が引けるのでしばらくはこのままでも良しとしよう。
だがそんな中、違和感に気づく。それは自分の視線の先にいるヤミ。普段なら自分と同じように読書している時間であり、自分が読書をするようになったきっかけの一つ。しかし今朝は違っていた。
「ヤミ……それ、何食べてるんだ?」
ケーキだった。どこからどう見てもケーキだった。問題はその量。およそ一人分とは思えない量のケーキがテーブルに広げられている。それをゼリーか何かのように次々にヤミは口に放り込んでいく。食べ方は上品なのだがそれが逆に異常さを際立たせていた。
「? 見ての通りケーキですが……貴方も食べますか、結城リト?」
「いや、遠慮しとく……そうじゃなくて、そのケーキどうしたんだ?」
いりますかと言わんばかりにこちらにケーキを差し出してくるヤミに困惑するしかない。食後のデザートだとすれば聞こえはいいがこれでは食事とどっちがメインかわからない。
だが聞きたいのはそこではない。こんなケーキいつの間に買ってきたのか。自分が出かけている間に美柑と一緒に買い物にでも出たのだろうか。
「これはプリンセスモモからの差し入れです。何でも今までのことのお詫びだとか……貴方のほうが事情に詳しいのでは?」
「そ、そうだな……じゃあ最近は、モモは夜に来ることはなくなったのか?」
「ええ。ですがおかげで体が鈍ってきているかもしれません。貴重な戦闘できる機会でしたので」
「そ、そうか……まあ、仲直りができたのならよかった、はは……」
黙々とケーキを食べながら物騒なことを口にするヤミに乾いた笑みを浮かべるしかない。どうやらセフィに言われたようにモモはヤミに謝罪に来ていたらしい。おみやげに甘いものを持ってくるあたり流石というか抜け目がない。だがどうやらヤミはそんなにモモのことを嫌っていたわけではないようだ。むしろ戦闘ができるという点では重宝していた節すらある。ララとはまた違う意味でズレているような気がする。
「あ、ならナナも謝りに来たのか? ナナも気にしてたみたいだけど……」
「プリンセスモモと一緒に来ました。勝手にどこかの誰かさんを連れて行ってしまって済まなかった、と」
「…………な、何か言いたそうだな?」
「いえ、特に何も。私はマスターの命令に従うだけですから」
明らかに不機嫌なオーラを出している小さな護衛から目をそらすように本で顔を隠す。どうやらまだ勝手にナナと出かけたことを根に持っているようだ。確かに護衛のヤミからすれば迷惑極まりない行為だったが一応自分も謝罪したのでそろそろ許してくれないだろうか。もしかしたら手土産が必要なのかもしれない。あまり高価なものは難しいが、甘いものを奢るしかないかもと考えていると
「おはよーみんな! 遊びに来たよー!」
いつもの嵐ことプリンセスララのお宅訪問の時間がやってくる。美柑もヤミも慣れたもので和気あいあいと挨拶を交わしながら交流している。その間にこちらは気合を入れて精神統一を果たす。もはや逃げることができないのは確定済み。ならせめて最悪のことにならないように細心の注意を払わなければ。
「お待たせリト! 今日はちゃんとブラをしてきてるから大丈夫だよ!」
「そうか……そういえば新しい発明品はないのか?」
「うん、ごめんね。今新しいの作ってるんだけど、できるのは来週かな?」
「分かった……じゃあいつも通りお願いします……」
いったい何が大丈夫なのかと小一時間問い詰めたいところなのだが仕方ない。加えて忘れないように発明品があるかどうかの確認を行う。今までに何度もララはとらぶる対策のために発明品を作ってくれているが残念ながら上手くいっていない。そのケースも単純にララの発明品が失敗している場合と自分のとらぶるが発明品を上回ってしまう場合の二通り。最近ではとらぶるが上回るケースが増えている。なのだがそれ以外にも発明品を作ってくれたのにそのことを忘れてとらぶるを消費してしまうケースが何度もあった。それを防ぐために最近ではとらぶる前に発明品の有無をチェックするのが習慣になっている。
(結局ララにとらぶるを消費してもらうことが一番の対策みたいになってきちゃってるな……助かってるんだけど、申し訳ないというか何というか……)
結果としてララに頼りきりになってしまっている。ララは全く気にしていないが自分まで気にしなくなってしまっては色々とおしまいだろう。婚約者候補の振りをするのと釣り合いが取れていないのは間違いない。
「あ、そうだリト。昨日は制服だったけど、今日はどんな服がいい?」
「ど、どんな服って!? 何の話だよ!?」
「とらぶるしやすい格好のほうがいいでしょ? 服を着ていた方がいいって言ったのはリトだし。ペケがいるからどんな服装でも大丈夫だよ」
そういえばとなかりにそんな質問をされるが狼狽してしまう。知らない人が聞いたら誤解されかねない会話。ララにそんな気は微塵もないだろうが自分はまだ数か月前までは中学生。刺激が強すぎるはずなのに段々それに慣れてきてしまっているのは喜ぶべきことなのかどうか。
だがそんな中、ふと視線がララと交差する。いつもと変わらない、自分を信頼しきっている純粋な瞳。いつも見ているはずなのに何故か今日は違って見えるような気がする。
「……? どうしたのリト? わたしの顔に何かついてる?」
「っ!? い、いや……何でもない!」
「? 変なリト。じゃあ今日はいつものコスチュームにするね♪」
ララは不思議そうに首をかしげているもすぐにペケによって服装を変えていく。知らずドギマギしている自分に気づく。いつもならこんなことはないのだが調子がおかしい。その理由も見当がついている。
(な、なんでセフィさんはあんなこと……!? おかげで変に意識しちゃうし……)
数日前にデビルークでセフィに言われた言葉。それが知らず自分を意識させているらしい。同時にそれは今まで自分が考えようとしていなかったこと。もしそれを意識しすぎたらララとの関係が壊れてしまうかもしれない。第一ララにはそんな気はこれっぽちもないのは明らか。
「うん、準備オッケー! じゃあ行くよリト―!」
「えっ!? ちょ、ちょっと待ってくれまだこっちの準備――――!?」
そんなこっちの事情などお構いなしにいつものとらぶるが始まる。とりあえず今はとらぶるの際に守る三箇条を順守することだけに集中しなければ。
「相変わらずえっちぃですね……恥ずかしがっているのは結城リトだけですが」
「恥ずかしがらなくなったらいろんな意味で危ないと思うけど……うん、これはもしかしたらもしかするかもね」
「……? 何のことですか?」
「ううん、こっちの話。二人ともイチャイチャするのもいいけど学校には遅れないようにねー」
我関せずといった風に美柑はそのままランドセルを背負って家を後にしてしまう。後にはお見せできない惨状になっている自分とララ、テレビを見ながら変わらずケーキを食べているヤミが残される。いい加減とらぶるはリビングではなく部屋ですべきかもしれないと真剣に悩みながら慌ただしい新しい一日が始まったのだった――――
「ごちそうさまでした」
手を合わせた後、弁当箱を片づけながら一息をつく。時間は昼休み。いつもなら教室で一人、黙々と食事をするのだが今は違う。場所は屋上、加えてもう一人同じ空間に同行者がいる。
(ヤミはもう食べ終わって読書してるのか……朝あれだけケーキ食べてたのによく食べられるな、太らないんだろうか……)
金色の闇。宇宙一の殺し屋であり、変身能力持つ生体兵器の少女……のはずなのだが今はなぜか自分の護衛となり、一緒に学校に通っている。護衛のためではあるのだが数か月前の襲撃以来、自分を狙う暗殺者や賞金稼ぎは現れていない。デビルークの力かはたまたヤミの力を恐れているのか。何はともあれ自分にとっては喜ばしい話。問題はヤミが今の生活に不満を持っていないかという点だった。
(最初はちょっと浮いてたけど……最近はクラスに溶け込んでるし、心配ないかな……まあ、心配されてるのは自分の方なんだろうけど……)
水筒のお茶を飲みながら若干へこんでしまう。本当なら異星人であるヤミが地球の生活に慣れるようにフォローしなければならないのだが逆にフォローされることのほうが多い。高校に上がってからは学校ではヤミ以外にはとらぶるは起こしていないのだがそれでも自分の悪評がすぐなくなるはずもない。そんな自分と接していればヤミも被害を受けるのではないかと心配していたがどうやら大丈夫そうだ。
(でも本当に静かだよな……こういうのも悪くないかもな……)
朝と同じ感覚を覚える。一緒に昼食を食べるようになってしばらく経つが、ヤミは自分の隣ではなく何故か給水タンクの上で昼食を食べている。自分のとらぶるの範囲から逃れるためもあるのだろうが、単に高いところが好きなのかもしれない。もっともそのせいで下着が丸見えであり、自分はヤミと話すときは上を向かず独り言をつぶやくような形になってしまっている。いつかそれがバレたらどうなるか、想像したくない。そんなことを考えていると
「……珍しいですね、今日は話しかけてこないんですか結城リト」
読書が一段落したのか、珍しくヤミのほうから話しかけてくる。話しかけてほしいからではなく、純粋に自分が何かおかしいのではと心配してくれているらしい。
「いや……ちょっと考え事をしててさ」
「そうですか……そういえば結城リト、最近どうですか。学校生活は楽しいですか」
どこか淡々と、何かの引用のように棒読みでヤミはそんな似合わない質問を自分にしてくる。まるで思春期の子供に久しぶりに話しかける父親のようなセリフ。そういえば思春期の子供との付き合い方なんて本を最近ヤミが読んでいたのを思い出す。なるほど、自分とのコミュニケーションのためだったらしい。やはりこの少女はどこか致命的に間違っている。
「そ、そうだな……まあ、普通かな……?」
「そうですか……私にはそうは見えませんが。寂しいならプリンセスに学校に来てもらえばいいのでは? きっとうまくいくと思いますが」
「何をどうしたらそう見えるんだ……? 違う意味で疲れるだろうし……学校まで面倒見てもらうわけにはいかないだろ……」
さらっと爆弾発言をするヤミに苦言を呈するしかない。その話題はララの前ではタブーに近い。今でも隙あらばと虎視眈々と狙っているのだから。何よりもララのことだ。自分のことが心配で学校にもついて来ようとしてくれているのだろうが流石にそこまではさせられない。みっともない男の意地のようなもの。
「なるほど……お互い理解し合っているのですね。婚約者候補なんてまどろっこしいことはせずにすぐに婚約したらいいのでは?」
「なんでそうなる!?」
「いえ、他意はありません。そもそも貴方はデビルークを継ぐ気があるのですか? どうにもその気がないように私には見えますが……」
「そ、それは……まあまだ時間はあるし、色々考えてるんだよ」
「獣医の勉強もされているようですし……動物の医者とデビルーク王を兼務するのですか。前代未聞ですね」
言われて今の自分のちぐはぐさに頭を悩ますしかない。はたから見ればおかしなことこの上ないだろう。何よりおかしいのは普通の(とらぶる除く)高校生である自分が次期デビルーク王候補になっていることなのだが今更それをどうこう言っても仕方ない。ヤミには婚約者候補が嘘であることは秘密なのだから。
「オレのことはいいとして……ヤミの方こそ将来どうする気なんだ? また殺し屋に戻る気なのか?」
「そうですね。恐らくそうなると思いますが……それが何か?」
「いや……その、ヤミは殺し屋が好きなのか?」
「別にそういうわけではありません。ただ単に自分の能力を一番発揮できるのが殺し屋だった、というだけです。それ以外にできることがなかったといった方が正しいかもしれませんが」
「そ、それは……でも今はほら、護衛の仕事もしてるしそっちの方が向いてるんじゃ……!」
「護衛の仕事も私にとっては殺し屋の延長でしかありません。狙うのが標的か、標的を狙う相手かの違いですし……今の主人からは違う護衛のほうが良かったと言われてしまいましたから」
「ま、まだ根に持ってたのか……前にも言っただろう? あれはデビルーク王が勝手に言ってるだけだって!」
こっちが地雷を踏んでしまったのではと冷や冷やしているのをからかっているのか、いつかの出来事でヤミはこちらをおちょくってくる。これではどちらが主人か分かったものではない。それでも
「そうですね……今の生活も悪くないと思っているのは本当です。美柑もよくしてくれますし……もうしばらくは護衛を続けてあげます。えっちぃのは嫌いですが」
一呼吸置きながらどこか遠くを見ながらヤミはそんな心境を吐露してくる。とりあえず今の生活を続けてくれるらしい。無論、えっちぃことをすればどうなるかは考えるまでもない。本当の殺しの標的にならないよう細心の注意を払わなければ。
「一応聞くけど……そのえっちぃのにオレは含まれてるのか?」
「当然でしょう。貴方がえっちくないなら、誰がえっちぃことになるんですか? 対抗できるのは校長ぐらいでしょう」
いくらなんでもあんまりな評価に抗議の声を上げようとするもよりも早く
校舎から女性の悲鳴が響き渡る。しかも一人二人ではない。パニックが起きているような騒がしさが校舎から聞こえてくる。
「な、何だ……!? 何があったんだ……?」
「…………私が様子を見てきます。貴方はここでじっとしていてください」
「ちょ、ちょっと待てヤミ!?」
瞬間、先ほどまでの姿が嘘のように冷たい瞳を見せながらヤミは弾けるように校舎へと向かっていく。その速さにとても追いつくことはできない。同時に思い浮かぶのは最悪の可能性。
(ま、まさかオレを狙ってきた宇宙人の仕業なのか……!?)
自分を狙っている宇宙人が学校を襲撃してきた。それならこの混乱も納得できる。それは自分のせいで学校の生徒が危険にさらされていることと同義。本当ならこのまま屋上に身を潜めているのが正しい。でもこの状況でじっとしていることなどできるわけがない。相手が自分を狙っているのなら相手の注意を自分に引き付けることができるはず。
ヤミに遅れながらもただ混乱が起こっている中心へ向かって駆ける。ヤミには怒られてしまうかもしれないが仕方ない。
「ハアッ……! ハァッ……!」
息を切らしながらもようやくヤミの後姿が見えてくる。だがおかしい。ヤミはただその場に立ち尽くしているだけ。すぐ先にこの混乱を引き起こしている犯人がいるはずなのに何故動こうとしないのか。だがその理由をすぐに自分は理解することになる。なぜならそこには
「ヒャッハー! パラダイス発見――――!!」
見間違えるはずのない、どこかで見た小さいエロオヤジが女子高生を追いかけまわしてセクハラしまくっている地獄絵図が広がっていた。
「…………」
「…………」
自分とヤミはただ呆然とその光景に目を奪われていた。いや、呆れ果てていた。ここまで誰かと気持ちが一つになった瞬間はなかったかもしれない。先ほどまでのシリアスを返してほしい。
「イヤッホー! 揉ませろ、触らせろー!」
「きゃー!?」
「な、何なのこの子供!? 誰か捕まえて!」
そんな自分たちのことに全く気付くことなく、銀河最強の男は上機嫌に女子高生のスカートをめくる、胸を揉むのやりたい放題。子供の姿なのをいいことに全く遠慮が見られない。もしかしたら本来の姿でもやることは変わらないのかもしれないが落胆は隠しきれない。セフィからの話でちょっと尊敬しかけていたのにそれは完全に吹き飛んでしまった。むしろマイナスに振り切れてまうほど。とにかくあのエロ大魔王をどうにかしなければ。そんな中
「お、やっと来やがったなリト! 遅いぞ、もう始めちまったぜ。お前も早くしろ! じゃないと綺麗どころは全部オレ様が頂いちまうぜ?」
「な、何の話ですか!? っていうか何やってるんですかこんなところで!?」
「んなもん決まってんだろ。ジョシコーセイと遊んでんだよ。前に言っただろ、遊びに行くってよ。わざわざ来てやったんだから感謝しろよな!」
フハハハーと今まで見たことない笑顔を見せながら人生を謳歌しているデビルーク王。噂には聞いていたがまさかここまでとは。自分のとらぶるがかわいく見えてしまうような暴れっぷり。
「と、とにかく止めてください! こんなことしてたらセフィさんに怒られますよ!?」
「嫁に怒られるのが怖くてこんなことできるかってんだ! それよりも誰かお勧めの女はいないのか? お前も男なら一人や二人ぐらいいるだろ? おっぱい大きい女がいいな!」
およそ娘の婚約者候補に対する発言とは思えないもののオンパレード。セフィの名前をあげるも全く聞く耳を持ってくれない。途方に暮れかけたその時
「……そこまでです、デビルーク王」
ゆっくりとそれまで動くことのなかったヤミがデビルーク王の前に立ちふさがる。明らかに先ほどまでとは空気が違う。
「あ? 金色の闇か、お前もコウコウに来てたのか。だが今は男の時間だ。お前に用はねえ、すっこんでな」
「そういうわけにはいきません。これ以上えっちぃことをするなら私も容赦はしません。すぐにデビルーク星に戻ってください」
ようやくヤミの存在に気づいたのか、それでも関係ないとばかりに女子高生の後を追おうとするギド。しかしヤミはその進行方向を遮るように立ち塞がる。その瞳がこれ以上進むなら容赦はしないと告げている。
「今、オレはお前の雇い主だったはずだぜ? 邪魔するなんてどういうつもりだ?」
「関係ありません。今の貴方はただの犯罪者ですから。どうしても止めないというのなら力づくでも帰ってもらいます」
「お、おいヤミ……!? 落ち着けって、相手はデビルーク王なんだぞ!?」
明らかに臨戦態勢に入りつつあるヤミを何とか抑えようとするも収まる気配がない。だが相手はあのデビルーク王。怒らせたらどうなるかわかったものではない。とにかくこの場は何とか話し合いで。しかし
「力づくか……面白え。そろそろお前の力を見てみたいと思ってたところだ……だがオレは女子供でも容赦しねえ。今謝るなら許してやらないでもねえぞ?」
「……こちらのセリフです。そっちこそ子供の姿だから負けたと言い訳しないように」
「ちょ、ちょっと待ってて二人とも!? ヤミも止めろって、このままじゃどうなるか……」
売り言葉に買い言葉。ギドは既に女子高生よりも金色の闇に興味が移っているらしい。その瞳には先ほどまでとは違う悦びの光が宿っている。戦う者の闘争心。
「気にすんなって結城リト。こいつがオレの眼鏡にかなわないようならもっとムチムチのいい女を護衛につけてやるからよ。その方がお前も嬉しいだろ?」
瞬間、何かが切れた音が確かにリトには聞こえた。ただでさえ沸点が低いヤミが一瞬で沸騰どころか気化して余りある煽り。
「死にたいらしいですね……」
怒りか変身か、金色の髪が逆立っていく。怒髪天を衝くを体現したような容姿。対してギドはへらへらしながらも目は全く笑っていない。
(お、思いっきり煽ってる―――!? どっちも死ぬ気か―――!?)
完全に置いてけぼりを食らいながらも、あまりにも下らない理由で宇宙一の殺し屋と銀河最強の男の戦いの幕が切って落とされてしまったのだった――――