もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第十七話 「前兆」

何の変哲もない平和な街、彩南町。その中を高速で移動する二つの人影がある。一つが幼稚園児ほどの小さな黒髪の子供。尻尾のようなものが見えている異質な存在。もう一つが金髪と紅い瞳をした少女。彩南高校の制服を着ていることから女子高生であることは間違いない。はたから見れば小さな子供と少女の鬼ごっこ。しかしそれは全く違っていた。中身と外見が真逆の大人と子供の鬼ごっこ。

 

 

「どうしましたデビルーク王。あれだけ大見得を切っておいて逃げるだけですか?」

 

 

少女、金色の闇は鋭い目つきをしながら目の前を逃げ続けているデビルーク王に向かって挑発する。今、ヤミは街中を凄まじい速度で移動している。建物の屋根から屋根へ。およそ地球人では不可能な超人的な身体能力。宇宙人であり生体兵器でもあるヤミの力。

 

 

「ケケ、そういうお前こそオレを捕まえられてねえじゃねえか? 宇宙一の殺し屋ってのはこんな子供一人捕まえられねえ無能だったのか?」

 

 

そんなヤミに追い立てられながらも全く気にした風もなく心底楽しくてたまらないといった笑みを見せながらデビルーク王であるギドは変わらずヤミを煽り続けている。見た目が子供で中身が大人ではなく、両方とも子供なのではと思ってしまうほどのはっちゃけぶり。それでもヤミに追いかけられながらも未だ捕まっていないのは子供であってもデビルーク王であることの証明かもしれない。だが

 

 

「……いいでしょう。そこまで言うなら見せてあげます、私の力を」

 

 

明らかに頭が沸騰しているのか、ヤミには普段の冷静沈着さはかけらも残っていない。あるのは目の前のえっちぃオヤジに制裁を下し、元いた星に送り返すことだけ。

 

瞬間、ヤミの意思に呼応するように金色の髪が動き出し、形を成していく。毛糸を編むように金色の拳が無数にヤミの周囲に展開される。それがヤミの変身能力。ナノマシンによって己の肉体を変化させ武器と為すことができる生体兵器の真骨頂。ヤミが宇宙一の殺し屋だと恐れられる所以。

 

 

「――――終わりです」

 

 

宣言とともに金の拳とともにヤミはギドへと肉薄する。スピード、タイミング共に申し分なし。全方位からの打撃。見た目が子供なギドに対して攻撃するのにわずかな躊躇いを覚えるも相手は妻子を持つ男。加えて女子高生にセクハラしまくった犯罪者。慈悲は必要ない。後は捕獲して娘であるララに引き渡せば終わり。しかしそんなヤミの考えは

 

 

「へえ、これが噂の変身能力か。なかなか面白えじゃねえか」

 

 

手品を見て喜ぶようなギドの言葉によって覆されてしまう。不敵な笑みを浮かべながらギドは朝の散歩に出かけるような気軽さで自分に襲い掛かってくる拳を躱していく。それもその全てを紙一重で。背後から迫ってくる見えないはずの攻撃に至っては見もせずまるで後ろに目があるかのように首をひねるだけでそのすべての拳に空を切らせている。

 

 

(――っ!? 攻撃がすべて見切られている……!?)

 

 

理解できない事態にヤミは目を見開くしかない。自らの攻撃が見切られる。確かにあり得ないことではないがギドにとってヤミの変身能力は初見。変身能力は力もだが何よりもその変幻自在さが真価。にも拘わらずギドはそれを見切っている。ギドが小さな体であること、一応手加減で拳に変身していたことを差し引いても驚愕するしかない。

 

 

「どうした? まさかこれで終わりじゃねえんだろ? これじゃとても結城リトの護衛は任せられねえな」

「…………関係ありません。怪我をしても知りませんからね」

 

 

再びプライドを傷つけられてしまったヤミはついに本気になることを決意する。変身によって生じる光によって髪が輝き、同時に髪先が刃先へと転じていく。自らの髪を刃へと変化させ、相手を封殺する。それこそがヤミが最も得意とする戦闘スタイル。

 

ヤミが髪を振った瞬間、その全てが生き物のように変幻自在、縦横無尽に動きながらギドへと襲い掛かっていく。その速度と攻撃範囲はは先の拳の比ではない。少し大人げないと自省しながらもヤミはギドを捉えんとする。しかしヤミはまだ理解していなかった。

 

 

目の前にいるエロオヤジは小さいが、あのデビルーク王。銀河最強の男なのだということを。

 

 

「よっ! ほっ! はっ!」

「な―――っ!?」

 

 

驚愕はヤミだけのもの。だが無理もない。自らの得意とする攻撃がすべて避けられてしまっているのだから。しかもまるでダンスを踊るようにぴょんぴょんと跳ねながら。まるでアトラクションを楽しんでいる子供のよう。今まで多くの戦闘を経験してきたヤミであってもここまで翻弄されたことはない。ヤミは知らない。それが掌の上で遊ばれている、絶対的強者からの感覚であることに。

 

 

「ほんとに何でもありだな! お、いいこと思いついたぞ! 変身を使えばその小さいおっぱいも大きくできるんじゃねえか?」

 

 

名案だろとばかりにケケケとにやけているセクハラ魔人。瞬間、ヤミの目からハイライトが消える。深淵の底を思わせる闇。掛け値なしのどデカ地雷を踏みぬいたことを知ってか知らずかギドはヤッホーと叫びながらその場から飛び退き再び逃げ去っていく。

 

 

「――――」

 

 

ヤミは確信する。自分にとっての真のえっちぃ敵は結城リトでも校長でもなく、目の前の男だったのだと――――

 

 

 

 

「……? なんだ、もうあきらめたのか? 楽しいのはこれからだってのに」

 

 

ギドは近くの山の中に姿を潜めながらも一向に追ってこないヤミに落胆する。せっかく遊べるようにしてやっているのに期待外れだったとばかりに背伸びをする中、ギドは気付く。その視線の先、上空に何かがいることに。

 

 

――――それは天使だった。美しい白い翼を広げている少女。ただ違うのはその少女は天使のように優しくはない、ギドにとっては悪魔に等しい堕天使だったということ。

 

 

「えっちぃのは嫌いです」

 

 

言葉とともにヤミの翼から無数の羽が弾丸のようにギドへと向かって降り注ぐ。豪雨のような激しさと逃れられない範囲攻撃。その威力も一帯を更地にして余りあるもの。絨毯爆撃のような羽の雨にギドは為す術なく呑み込まれてしまった――――

 

 

 

(少しやりすぎてしまったかもしれませんね……)

 

 

肩で息をしながらヤミは粉塵に包まれたギドがいた場所を上空から見下ろしている。変身によって翼を作り出し飛行を可能にする。その翼は矛にも盾にもなる。ヤミにとっては奥の手の一つだったのだがやはり消耗は避けられない。自らの体の一部を変身させるのではなく、存在しない器官を作り出すのは体に負担がかかる。ひとまず地上に降り、ギドを捕獲しなくては。腐ってもデビルーク王。死にはしないだろうとため息を吐きかけるも

 

 

「やるじゃねえか。今のはちょっと驚かされたぜ」

 

 

晴れた煙の中から腕を組んだデビルーク王の姿が見えてくる。しかも全くの無傷。息一つ乱れていない。ヤミにはもはや先ほどまでの挑発による怒りは残っていない。完全に頭は冷え切っている。あるのはただ純粋な畏怖。間違いなく先ほどの攻撃は当たっているはず。自分の本気の攻撃。そんな中、ヤミはようやく気付く。ギドの周囲の地面が円状に抉れていることに。同時にギドの尻尾が呼応するようにくねくね動いている。

 

 

(まさか……尻尾で攻撃を防いだ……?)

 

 

デビルーク人の特徴の一つである尻尾。それを振るって攻撃を防いだのか。だがあの無数の羽。考えられるとすればその風圧だけで弾き飛ばした。ヤミは知らず息を飲む。だとすればいったいどれだけのパワーがあるというのか。

 

 

「どうした、もう種切れか? まあなかなか悪くなかったぜ。ララとならいい勝負になったかもな」

「…………」

 

 

ギドは変わらず楽しそうに笑っているだけ。対してヤミはどこか警戒しながら地上へ降り立ち翼を解除する。ヤミは理解する。言動はむちゃくちゃ。姿は子供だが目の前にいる男は宇宙の覇者。ギド・ルシオン・デビルークその人なのだと。

 

 

「急に黙り込んでどうした……? ああ、心配しなくても結城リトの護衛は引き続きお前に頼むさ。それでいいだろ?」

「……前から聞きたいと思っていました。デビルーク王、何故私を結城リトの護衛につけたのですか?」

「あ? 何のことだ?」

 

 

ヤミが黙り込んでいるのが護衛の件について心配しているからだと思い込んだギドはそんなことを口にする。しかしそれによって思い出す。以前から疑問に思いながら聞くことができないでいたこと。

 

 

「ですからプリンセスの婚約者候補である結城リトに何故殺し屋である私を護衛につけたのかということです。デビルークには親衛隊もある……殺し屋の私より彼らのほうが何倍も信頼できるのでは?」

 

 

あまりにも当たり前な疑問。殺し屋であるヤミよりも親衛隊の方が結城リトの護衛には適している。なのになぜ殺し屋のヤミを護衛に雇っているのか。しかしギドはどこか理解できないといった風に顔を歪めている。

 

 

「なるほど、そういうことか……お前、何か勘違いしてやがるな。オレが結城リトに護衛をつけてるのはあいつがララの婚約者候補だからじゃねえぞ。そもそもあいつらは婚約者候補じゃねえしな」

「…………え?」

 

 

思わずヤミはそんな声をあげてしまう。だが無理もない。今までの大前提である条件が一気に崩れ去ってしまったのだから。

 

 

「どういうことですか……? 結城リトとプリンセスが婚約者候補ではない、と聞こえましたが……?」

「だからそう言ってんだろ。あいつらは隠しているつもりみてえだがバレバレだ。そもそもララが自分で婚約者候補を見つけるような奴なら最初から見合いなんてさせてねえ。面白そうだからあいつらのごっこ遊びに付き合ってやってるだけさ。ま、まったく芽がないわけでもなさそうだがな」

 

 

耳をかっぽりじながらギドはヤミにそう告げる。そう言われればヤミには思い当たる節がいくつもある。結城リトの煮え切らない態度。美柑の対応。だがそれが本当なら結城リトは婚約者候補でも恋人でもないプリンセスに毎日あんなえっちぃことをさせていることになる。それは許されるのか、許していいのか。だが今はそんなことよりも確かめなければならないことがある。それは

 

 

「ならデビルーク王、貴方は何故結城リトに護衛をつけているんですか?」

 

 

何故結城リトに護衛をつけているのか。娘の婚約者候補でもない、ただの地球人にデビルークの王がわざわざ護衛をつけるなど普通は考えられない。

 

 

「んなもん決まってんだろ。あいつの能力……確かとらぶるとか言ったか。それを手元に置いておくためだ。もう一つ加えるなら、あいつが狙われてるのも婚約者候補だからじゃなく、あいつのとらぶるが狙われてるからだ」

 

 

驚いているヤミを無視するかのように淡々とギドは事情を明かしていく。対外的にはリトはララの婚約者候補となっているがそれによって不穏な動きを見せた連中は既にデビルークによって抑えられている。故にリトを狙ってくるのは婚約者候補とは関係ない理由、つまりとらぶるを狙っている連中なのだと。

 

 

「分かりません……どうしてとらぶるが結城リトが狙われる理由になるんですか? あれは近づいた相手にえっちぃことをするだけの能力、それを欲しがるとはとても……」

 

 

腑に落ちないのはその一点。確かにとらぶるは珍しい能力だがとても誰かに狙われるような能力ではない。そんなヤミの疑問を知ってか知らずか

 

 

「金色の闇……お前、『強者の条件』って知ってるか?」

 

 

ギドはどこか真剣な表情を見せながらそんな問いを投げかけてくる。それがいったい何の関係があるのか。だが反論は許さないとばかりの空気があたりを支配している。

 

 

「強者の条件……? つまり、強いということですか……?」

「そうだ。分かったならさっさと答えろ」

「それは……力を持っている者のことでは?」

 

 

意図が理解できないまま思いついたこと答えを口にするヤミ。単純明快な答え。しかし

 

 

「半分正解だ。だが真の強者とは『強さ』と『運』を兼ね備えた者だ」

 

 

ギドはまるで何かをなぞるようにそんな答えを口にする。ヤミにとってはギドがおよそ口にするとは思えないような考え。力こそが全てだと言わんばかりの在り方をしているデビルーク王の言葉とは思えない。

 

 

「運……? それは幸運などの運のことですか……?」

「そうだ。どんなに強い奴でも運が悪ければ破滅する。今のこの宇宙で君臨している強者はすべて、すべからく運を兼ね備えている。程度の差はあるがな」

「それは……」

 

 

ギドの言葉にヤミは考える。確かにそれはある。どんなに才能や力を持っているものでも運が悪ければどうにもならない。突然の病気や事故は防ぎようがない。逆に運があればさらに高みに上ることができる。

 

運を味方にする。

 

そんな言葉が意味するように古今東西。過去の偉大な英雄や偉人は少なからず運を味方にしている。逆にそれを味方にできなかったことで破滅してしまうものもいる。

 

 

「強さと運、そのどちらが上ということはねえ。最強と最高を比べるようなもんだ。ようするにその両方を手に入れて初めて真の強者と言えるわけだ」

「確かに理解できる部分はありますが……それでも運など結果論に過ぎないのでは? 大体そんなものは手に入れれるものでは……」

「さあな。この考えもある奴の受け売りでな。オレの考えじゃねえ。オレは運だろうが何だろうが強さで捻じ伏せてやるって答えたんだが……話が逸れたな。だが考えてみな。もし、そんな運を味方にできる能力を持つ奴がいたらどうなると思う?」

 

 

瞬間、ようやく理解する。ギドが何をもってこんな話を振ってきたのか。その答え。

 

 

「まさか……結城リトのとらぶるがそうだというんですか?」

 

 

結城リトの持つ能力。とらぶる。その本質がその正体だと。強さと対極に位置する、もう一つの王の資質。

 

 

「オレも見たのは初めてだけどな。形にできたってことだろ……何であいつがそれを持ってるのかは分からねえが」

「しかし、結城リトにそんな幸運があるとは……むしろ不運なことのほうが多いと思いますが」

「理由は知らねえが能力が暴走してんだろうな。その片鱗は見られるし……今のあいつの状況そのものがもうその結果なのかもしれねえしな。ケケ、オレもそれに巻き込まれてるとすれば癪だが、まあいいさ」

 

 

どこか愉しそう表情を見せながらギドは嗤う。今まで見たことのないような表情。それに圧倒されながらもヤミはまだ分からないことを口にする。

 

 

「私には妄想にしか聞こえませんがそれはいいです……ですが、私を護衛にした理由の答えになっていませんよ」

「なんだ? お前結城リトの護衛が嫌なのか?」

「そ、そういうことではありません!」

「ケケ、そうだな、以前リトの奴にも言ったことがあるがもう一度だけ答えてやる。『能力的』にお前が結城リトの護衛に適していると判断したからだ。それ以上でも以下でもねえ」

「能力的に……? それはどういう」

「おしゃべりが過ぎたな。元々こういうのはセフィの領分なんだが……そろそろ続きと行くか、準備はいいか金色の闇?」

「え?」

 

 

慣れないことに飽きたとばかりにいきなり準備体操を始めるギド。ヤミは呆然としながらそれを見つめることしかできない。いったい何の準備を、そう口にするよりも早く

 

 

「決まってんだろ? 鬼ごっこの続きだ。今度はオレが鬼だ。せいぜい遠くまで逃げてみな」

 

 

先ほどまでとは違う戦う者の笑みを浮かべながらギドは凄まじい速度でヤミへと突進してくる。だが今までとは違う。それは今度はヤミは逃げる側。ギドが追う側であるということ。

 

 

「っ!?」

 

 

反射的にヤミがその場を飛び退いた瞬間、凄まじい斬撃が地面を切り裂く。もし避けそこなっていたらどうなっていたか。ギドは剣など持っていない。それはギドが尻尾を振るっただけ。

 

 

「なにボーっとしてやがる。まだ遊びは始まったばかりだぜ?」

 

 

呆けていたヤミを呼び起こすように声とともにギドはその尻尾によってヤミへと襲い掛かっていく。だがヤミは防戦一方。それを避けることも捌くことができない。反撃に転じることもできない猛攻。何よりも

 

 

(変身する暇がない……!? これは、私が変身する隙を狙って攻撃を仕掛けてきている……!?)

 

 

ヤミの能力である変身。それを行うことができない。反撃、防御するために肉体を変身させようとする瞬間にギドは狙っているかのように攻撃を仕掛けてくる。確かに変身にはタイムラグが存在する。脳からイメージをナノマシンを使って体に伝達する過程。だがそれは刹那にも近い。とても狙って突けるような隙ではない。だがそれがギドには為し得る。

 

数多の戦いの経験による冷静さと天性の直感ともいえる野生を併せ持つ、大戦覇者の力。しかもそれすらも本来の実力ではない片鱗にすぎない。

 

 

(このままではまずい……! とにかく一旦距離を取らなければ……!)

 

 

このままでは一方的にやられてしまう。一旦距離を取り、変身を行う時間を稼がなくては。だがそんな考えは

 

 

「――――遅えよ」

 

 

デビルーク王を前にして通用しない。その隙をはじめから狙っていたのか、一際大きな一撃がヤミを吹き飛ばす。先ほどとは逆。今度はヤミが地面に叩きつけられ辺りは粉塵に包まれる。明らかに勝負がつく一撃。しかし

 

 

「ハァッ……! ハァッ……!」

 

 

ヤミはまだ意識を失うことなく健在。しかしダメージは隠しきれていない。

 

 

「自分の体を鋼鉄に変えたのか。ほんとに便利な能力だな変身ってのは」

 

 

ギドは地面に膝をついているヤミの身体を見ながら素直に感心する。その体は鉄のように輝いている。自らの体を鋼鉄に変化させることで防御した結果。しかしそれでも無傷とはいかなかったのか、鋼鉄の体には無数のヒビが入っている。誰から見ても勝敗は明らかだった。

 

 

「うっ……!」

「無理すんな。オレも久しぶりに遊べてやりすぎちまったしな。ガッコウで言った通り、謝るなら許してやらねえでもねえぞ」

 

 

立ち上がれないでいるヤミに向かってギドは少し罰が悪そうにそう告げる。素直にここまでだと言えないのがギドがギドである所以。ようするに天邪鬼なのだった。しかし、いつまでたってもヤミは返事をしない。素直に謝るにせよ、反発するにせよ何らかの反応があっておかしくない。しかし明らかに何かがおかしい。ギドは感じ取る。空気が変わっていっていることに。

 

 

 

――――カラダが熱い。

 

 

自分の体が自分の物ではないように熱い。受けたダメージは深刻なはず。にもまだ鼓動は収まらない。どころか鼓動はどんどん速くなっていく。何かに興奮しているかのように。何に? 決まっている。目の前の存在に。

 

 

疲労で視界が歪む。目の前にいるのは小さなデビルーク王。なのにそれが違って見える。

 

 

不敵な笑みを浮かべながら、自分を見つめている青年の眼光。これこそが至高だと思えるような理不尽な力の形。見たことなんてないはずなのに、本当のギド・ルシオン・デビルークの姿が見える。分からない。自分が誰なのか分からない。ただわかることは一つだけ。

 

 

 

「――――お断りします。私はえっちぃ人が大嫌いですから」

 

 

 

――――ワタシは、この男を倒すために生み出されたのだということだけ。

 

 

 

呼応するように自らの頭には、あり得ない角が生まれている。

 

 

 

 

今、金色の闇の中の(ダークネス)が目覚めようとしていた――――

 

 

 

 

 


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