もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第十八話 「兵器」

お昼休みが終わり午後の授業が始まろうかという時間帯。だが彩南高校はまだ異常な騒がしさに包まれていた。その原因であるギドとそれを排除せんとしたヤミはこの場にはいない。残されたのは結城リトただ一人。

 

 

(ど、どうするんだこれ……? っていうかあの二人はどこに行ったんだ!? まさか本当にこの街で戦う気なんじゃ……)

 

 

理解できない状況の連続にただその場に立ち尽くすことしかできない。ギドのセクハラによって混乱状態に陥っている学校に加えて、そのギドとヤミはあっという間に学校から姿を消してどこかへ行ってしまった。学校でいざこざを起こしてくれるよりはマシなのだがあのままでは物理的に街が危ない。普段のヤミならそんなことはないだろうが明らかに先ほどのヤミは煽られて冷静さを失っていた。ギドに関してはもはや語るまでもない。しかしどこに行ってしまったのか分からない。分かったところで地球人である自分は宇宙人であるあの二人にはとても追いつけない。完全な手詰まり。途方に暮れかけたその時

 

 

「あ、やっと見つけた! リト、こんなところにいたんだ!」

 

 

聞き慣れた、ここでは聞くことのないはずの声が響き渡る。慌てて振り返るとそこには嬉しそうにこちらへやってくるララの姿がある。だがすぐに反応することができない。

 

 

「ラ、ララ!? なんでこんなところに……!?」

「ちょっと急ぎの用事があったの。今はお昼休みなんだから大丈夫でしょ?」

「そ、そんなわけないだろ!? それよりもその恰好はやめろって! なんで制服じゃないんだ!?」

「あ、そうだった。ペケ、お願いできる?」

 

 

突然のララの学校訪問に混乱しながらもとにかく今の恰好をどうにかしてもらう。ララは今、いつものコスチューム姿。いくらなんでも目立ちすぎる。なぜこういう肝心なときに限って制服姿ではないのか。色々突っ込みたいところはあるがそれは後回し。そう思い口を開こうとするも

 

 

「むひょー! これは何という美少女! ヤミちゃんとはまた違った魅力……わしの中の『ナニカ』が目覚めそうですぞー!!」

「っ!? こ、校長……!? いつの間に……?」

 

 

突如どこから現れたのか小太りのサングラスをした怪しい男が鼻息を荒くしながらこちらを凝視している。悲しいかなあれが自分の高校の校長だというのだから悲しくなってくる。というか一応学校の混乱時なのにいったい何をしているのか。端から見れば校長がこの事態の原因だと誤解されかねない。

 

 

「ごほんっ! いや失敬、ついお見苦しいところを……よければ君の名前を教えてもらえないかね」

「わたし? わたしはララだけど……」

「ララ……なるほどなるほど、素敵な名前ですな」

 

 

咳払いしながら校長はそれまでの姿が嘘のように真面目になっている。同時にほっとする。どうやら流石に学校外の女の子にまで手を出すほどヘンタイではなかったようだ。だがそんな安堵は

 

 

「ララちゅあ―――んっ!! ぜひ我が校に転入してわたしと楽しい学園ライフを満喫しましょう―――!!」

 

 

校長には全く無意味なものだった。一気にパンツ一丁になりながら校長はララへ向かって飛びかかっていく。何かの能力かと思ってしまうほどの早業。自分が制止する間もない。思わずララに向かって声を上げかけるも

 

 

「ぶほっ!?」

 

 

ララは全く無駄のない動きで身体を翻し、校長を避けてしまう。校長は目標を見失いそのまま壁へと激突し意識を失ってしまった。

 

 

「ごめんね、わたしリトにしかとらぶるさせる気はないの。誰か他の人を探してね」

「い、いや……校長は別にとらぶるを持ってるわけじゃないんだけど……」

「そうなの? じゃあなんでわたしに飛びかかってきたのかな?」

 

 

うーん、と首をかしげているララ。どうやらララには校長がとらぶるを持っているように見えたらしい。ただのヘンタイだからと伝えようとするもきっとララには通じないだろうとあきらめる。とにかく今はそれどころではない。校長は風紀委員が何とかしてくれるはず。

 

 

「とにかく……何の用事で来たんだ? 急いで来たって言ってたけど」

「あ、そうだった! 実はわたしパパを探しに来たの。急に王宮からいなくなっちゃって……ザスティン達も探してるんだけど見つからなくて、もしかしたらリトのところに来てるんじゃないかって思って」

「…………ああ、ついさっきまでそこにいたよ」

「ほんと? よかったー! 今はどこにいるの?」

「それはこっちが知りたいんだが……」

 

 

ララのある意味予想通りの回答に頭が痛くなる。どうやらあの王様は無断でこっちに遊びに来ていたらしい。まあ女子高生と遊びに行くなんて言えるわけもないのだが。振り回されるザスティン達には同情を禁じ得ない。振り回されているという意味では自分も同じかもしれないが。

 

 

「それよりもララ、お願いしたいことが」

 

 

とにもかくにも二人をどうにか追わなければ。ララの力を借りれれば何とかなるかもしれない。そんな中、大きな爆発音がどこかから聞こえてくる。慌ててその方向を見ると山の方から煙のようなものが上がっている。そこで何が起こっているかはもはや考えるまでもない。

 

 

「っ!? ラ、ララ! オレをあそこまで連れて行ってくれないか!? あそこでデビルーク王とヤミが喧嘩してるんだ!」

「パパとヤミちゃんが? いいけど、走ってもここからだと時間がかかるよ?」

「飛んでもいいから! 今は非常事態だから飛んでも怒らないから!」

「ほんと!? やったー!」

 

 

よっぽど飛べないことがストレスだったのかララは上機嫌になっている。誰かに見られてしまう可能性もあるが今はそんなことは言っていられない。一刻も早くあそこへ向かうことが最優先。しかしそんな覚悟は

 

 

「じゃあ思いっきり行くよリト! しっかり捕まっててね?」

「え? ちょ、ちょっと待てララ、少しは手加減を――――!?」

 

 

気合十分のララの飛行によって吹き飛ばされてしまう。ジェットコースターどころではない、ロケットのような加速を見せながら自分はララとともに飛び立っていく。ヤミ達のところにたどり着く前に死ぬかもしれないと覚悟しながらも結城リトはララとともに煙が見える山へと向かっていくのだった――――

 

 

 

砂埃が立ち上っている山の中。ギドはどこか鋭い視線でその中心を見据えている。そこには地面に膝をついている金色の闇の姿がある。その姿は満身創痍。誰か見ても勝敗は明らか。にもかかわらずギドはその警戒を解くことなく、それどころか強めていた。

 

 

(あの角……あれも変身か……? 何か妙だな……)

 

 

ヤミの頭に突如現れた黒い角のようなもの。変身であるのは違いないだろうが意図がつかめない。先ほどのような翼ならまだ意味は分かるが角など生やしたところで何の意味があるのか。だが頭ではなく自らの本能が告げていた。あれが自分にとっての脅威になりうる存在であると。

 

 

――――瞬間、瞬きの間に金色の闇の姿が視界から消え去った。

 

 

「――――っ!?」

 

 

同時に尻尾によって後ろから振るわれた斬撃を刹那のところで受け止める。振り返る暇もない攻撃。あり得ないのはその速度。高速移動の類ではない、まるで瞬間移動したかのように背後を取られた。直感にも似た反射によって防いだがギド以外であれば先の一撃で勝負は決まっていただろう。だがそれでヤミの攻撃は終わらない。

 

それはまるで機械だった。

 

自らの奇襲が防がれるや否や、元からそうプログラミングされていたような速度と正確さを見せながらヤミはトランスを駆使しながらギドへと襲い掛かる。その速さと力は先ほどまでの比ではない。その証拠に先ほどまではその全てを躱していたにも関わらずギドはその全てを尻尾によって防御している。いや、防御せざるを得ない。鬼ごっこに例えるなら今はヤミが鬼でありギドが逃げる側。攻守が完全に逆転してしまっていた。

 

 

(こいつ急に力が……いや、それよりも動きが読めねえ……!)

 

 

ギドは初めて舌打ちしながら嵐のようにこちらを追い立ててくるヤミを冷静に分析する。まずはその力が増してきている。あの角の力かはたまた別の要因か。だがそこは大きな問題ではない。基礎能力においては今のギドとヤミに大きな差はない。ギドの体は今は幼稚園児に等しく、その力は娘のララと同等程度。違うのはその経験と力の扱い方。それによってギドはヤミを圧倒していた。それが今、通用しなくなりつつある。

 

 

(なるほど……これが生体兵器ってやつか……)

 

 

『生体兵器』

 

 

その名の通り、戦うために生み出された生命。戦うことだけが存在意義であり、それ以外は何も必要としない存在。今のヤミの姿がまさにそれ。人間らしい感情の揺れや呼吸、挙動が見られない。それを読み取って先手を取るのがギドの戦法なのだが今のヤミには通用しない。

 

 

(気に入らねえな……こんなもんを作って、オレを倒せるとでも思ってやがったのか……)

 

 

不愉快だとばかりにギドは顔を歪める。ここにはいない誰かに対する対抗心と侮蔑。それ以上に目の前にいる生体兵器へと成り下がっている金色の闇の姿。ただ何かに翻弄されるように、操り人形のように戦うことしかできない哀れな人形。今、金色の闇はかつての自分へと戻りつつある。かつて宇宙一の殺し屋と呼ばれたころまで。まるで掃除屋が硝煙の中でかつての暗殺者に戻りかけてしまうかのように。

 

一際大きな力を使いながらヤミがその刃をギドへと振り落とさんと迫る。確かなギドの隙を狙った一撃。だがそれは誘い。同時にギドの尻尾から凄まじいエネルギーの火花が散る。

 

 

尻尾ビーム。それがギドの切り札でありデビルーク人の奥の手。尻尾から凄まじいエネルギーをレーザーのように放つ必殺技。ギドにとってはヤミを傷つけてしまう危険があるため使っていなかったもの。だがそれを今ギドは解き放つ。このままではヤミの力が自分を上回りかねないこと。何よりこれ以上戦いを続ければヤミが生体兵器から戻ってこれなくなる危険がある。

 

その光の矢がヤミに放たれる。避けることも、防ぐこともできない完璧なタイミング。だがそれはヤミの体に届く前に消え去ってしまう。まるでそう、ここではないどこかへ飛ばされてしまったかのように。

 

 

(これは……ワームホールか!? さっきの移動もこいつの力か……!)

 

 

ヤミの目の前に髪を円状にした時空の歪みが見える。ワームホールと呼ばれる時空を歪め、ワープを可能にする穴。ギドは瞬時に理解する。それによって自分の攻撃が無効化されてしまったのだと。加えてヤミに自分の切り札が読まれていたことに対する驚き。まるでそう、最初から知っていたかのような動き。

 

その揺らぎを逃すまいとヤミの手から光の剣が振るわれる。トランスの光を凝縮したような圧倒的なエネルギーの奔流。ギドの尻尾ビームに勝るとも劣らない一撃。瞬間、光がすべてを支配した――――

 

 

 

――――ただ戦い続けてきた。

 

 

誰に言われたわけでもなく、ただ戦い続けた。それが私の存在意義。変身兵器としての自分の在り方。でも最初からそうではなかった。

 

覚えている。温かい誰かの言葉。自分を兵器としてではなく、人間として接してくれた人。でもその人はいなくなってしまった。自分を置いてどこかに行ってしまった。それが悲しかった。辛かった。

 

 

――――ただ戦い続けてきた。

 

 

殺し屋としてただ戦い続けた。それしかできることがなかったから。金色の闇。それが私のコードネーム。本当の名前は捨てた。もう今の自分には相応しくないから。宇宙一の殺し屋なんて呼ばれるまで身を堕とした自分にその名を名乗る資格はない。でもそんな毎日に変化が訪れた。

 

それはちょっとした気紛れだった。それは護衛の依頼。暗殺とは正反対のもの。自分は少し悩みながらもそれを受けることにした。依頼主がデビルーク王であり、コネを作っておくのも悪くないという判断。しかし、もしかしたらこの時から自分はおかしくなってしまっていたのかもしれない。

 

何の変哲もない地球人の男の子の護衛。珍しいえっちぃ能力を持っている以外は本当に平凡な存在。戦いとは無縁の、自分とは全く違う世界の住人。本当なら長居する気はなかった。そこはきっと自分の居場所ではないと思っていたから。

 

でも不思議と居心地がよかった。殺し屋としてではない自分を見てくれる彼の姿が、声が。一緒にご飯を食べて、学校に行って、一緒に過ごす。そんな当たり前のことする自分。そんな当たり前のことすら知らなかった自分。

 

こんな自分を友達だと言ってくれた美柑、プリンセス。騒がしくも自分と接してくれるモモとナナ。学校の友人たち。もしかしたら、自分もここで――――そんな夢を抱いてしまうほどに、今の生活は穏やかだった。でも、違った。

 

 

「――――」

 

 

ただ目の前の標的を倒すために動き続ける。ただ機械のように自らの性能を発揮する。自分が自分ではないような感覚。違う、これは戻っているだけ。かつての自分。生体兵器としての自分に。今の自分は目の前の標的、デビルーク王を倒すためにだけに存在する。そう、これがわたし。たった数か月程度では変われるはずのないわたしの正体。

 

光の剣を振り下ろす。自分も知らない変身能力の奥義。なんで自分がそんなことを知っているのか分からない。なんで自分がデビルーク王のことを知っているのか分からない。でも

 

瞬間、光の剣が届くよりも早く光の矢が自分に向かって放たれる。先ほどとは違う、デビルーク王の本気の第二撃。カウンター。先程のように無効化する暇もない。完全な詰み。

 

不思議と恐怖はなかった。ただ、ここにはいない誰か。誰かに会いたいと願った時

 

 

「ヤミ――――!!」

 

 

そんな聞き慣れた男の子の声が聞こえた気がした――――

 

 

 

 

結城リトは恐る恐る顔をあげて周りの見渡す。後にはまるで爆撃でもあったかのような惨状になっている山があるだけ。それがギドの本気の尻尾ビームの威力。当たらずの掠めただけでこの余波。まともに直撃していれば山はおろか街がどうなっていたか分からない。

 

 

(あ、危なかった……もう少し遅かったら確実に死んでたぞ、オレ……!?)

 

 

ただ冷や汗を流すしかない。もう少し飛び込むタイミングが遅かったらどうなっていたか。ヤミも自分も消し飛んでしまっていただろう。本当ならララに任せた方がよかったのかもしれないがあの瞬間、この場には自分しかいなかった。上空にいるときに間違えてララの尻尾を掴んでしまい、自分だけ先にこの場に来てしまったから。その落下でも死にかけたのだがとにもかくも助かって安堵するしかない。

 

 

「そ、そうだ……! お、おいヤミ、大丈夫か……!? しっかりしろ!」

 

 

すぐさま自分が覆いかぶさっているヤミに声をかける。間に合ったはずだがそれでもどこか怪我してしまっているかもしれない。

 

 

「……結城、リト……? どうしてここに……?」

 

 

まだ意識がしっかり戻っていないのか、夢うつろな様子でヤミはこちらを見つめている。だがどうやら大きな怪我はないようだ。とにかく早くこの場から離れなければ、そう思いながら立ち上がろうとした瞬間、ようやく気付く。力を込めた手の中に柔らかい感触があることを。もはや見るまでもない。様式美に近いもの。どうやら自分はヤミを助けようと飛び込んたと同時にとらぶるを発動させてしまっていたらしい。

 

 

「…………」

「あ、あの……これはその……」

 

 

そのことにヤミも気付いたのか、焦点の合っていなかった目は自分を見つめ、同時に金色の髪が騒ぎ出す。何度目か分からない、えっちぃことに対する制裁。しかし

 

 

「…………はぁ、もういいです。護衛を庇うなんて正気ですか、結城リト」

「え……?」

 

 

金色の拳はゆっくりと解けていく。まるでヤミの心情を現すように。制裁に身構えていた自分をジト目で睨みながらもヤミは立ち上がり服の埃をはたき始める。だが今度はこっちが固まってしまう。そんな自分の姿がおかしかったのか

 

 

「勝手に死なれては困ります……貴方は私の主人(ターゲット)ですから」

 

 

微笑みながらヤミはそんな反応に困る言葉を告げてくる。だがすぐさまそっぽを向いてしまう。少なくても怒っているわけではないようだ。とにかく無事でよかったと胸をなでおろしていると

 

 

「リト、ヤミちゃん大丈夫!? 怪我してない!?」

 

 

ばたばたと慌てながらララがこちらにやってくる。その脇にはデビルーク王が抱えられている。しかも何故かロープのような発明品によって簀巻きのようにぐるぐる巻きにされている。どうやら確保されてしまったらしい。

 

 

「あ、ああ……オレもヤミも大丈夫だ」

「すみませんプリンセス……ご迷惑をおかけしてしまいました」

「いいのいいの、ヤミちゃんは悪くないだから。悪いのはパパなんだから、ね、パパ?」

「オレのせいじゃねえぞ。先に手を出してきたのはこいつだ。確かに本気を出したのはやりすぎたがああしなけりゃここら一帯……」

「言い訳してもだめだよ! 高校で悪戯したのも含めてママに伝えるから。ちょうど今日ママも帰ってくるみたいだし」

「セ、セフィが……!? ちょっと待てララ、あれはだな」

 

 

銀河最強の男でも嫁には敵わないのか、それとも娘には頭が上がらないのか。身動きができない状態でバタバタと暴れるデビルーク王にため息をつくしかない。

 

 

「じゃあ帰ろうヤミちゃん! デビルークで流行ってるケーキ持ってきたから一緒に食べよ!」

 

 

どこか心ここにあらずといった風にその場に立ちすくんでいるヤミにララはそう言いながら手を伸ばす。自分にも覚えがある光景。自分に向けられる純粋な、温かい好意の手。

 

 

「――――はい。よろしくお願いします、プリンセス」

 

 

戸惑いながらもヤミもまたその手を握る。まだまだ問題は山積みだが、まあ何とかなるだろう。

 

 

それが人知れず彩南町の危機が終わった瞬間。

 

 

余談だが、ギドはその後セフィにこっぴどく説教され、ヤミと一緒に壊してしまった建物や森林の修繕に勤しむことになったのだった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

静けさに満ちた施設。だがそこはただの施設ではない。宇宙でも悪名高い密輸組織の本拠地。しかしその構成員はみな床に倒れ伏している。かろうじて息はあるようだがしばらくはまともに動けない状態。そんな中、荷物の箱の上に座ったまま足をぶらぶらさせている少女の姿があった。

 

 

「あーつまんない。全然歯ごたえなかったね、こいつら。もう少し楽しめると思ったんだけどなー」

 

 

少女は期待外れだったと言わんばかりに頬を膨らませながらぶーぶーと不満を口にしている。露出が高い格好に加え、その長いおさげの赤毛が人目を集める優れた容姿。だがそんな姿とは裏腹に目の前の光景は少女一人によるもの。これだけの数の密輸組織を相手にして息一つ乱していない、常人を超越した存在。

 

 

『赤毛のメア』

 

 

それが彼女の通り名。最近は賞金稼ぎの真似事によって名前が知れ渡りつつある少女だった。

 

 

「でも驚いたよね、まさかリトお兄ちゃんとヤミお姉ちゃんが一緒にいるなんて。こういうのを運命っていうのかな、マスター?」

 

 

どこからか飴を取り出しおいしそうに舐めながらメアは上機嫌にそう誰かに告げる。しかしその場にはメアのほかに誰もいない。にも関わらず

 

 

『そうでもないさ。むしろそうでなくては困る』

 

 

どこからともなく同じく少女の声があたりに響き渡る。実体がない、影のようなものが揺らめいているだけ。しかしメアは気にすることなく話しかける。

 

 

「すぐに会いに行かないの? 場所は分かってるんでしょ?」

 

 

子供のようにメアはマスターと呼ばれる少女に問いかける。せっかく場所が分かっているのに会いに行かないのかと。

 

 

『まだ時期尚早だな。ダークネスが完全に発現するまでにはまだ時間がかかる。他にも気になることもあるしな』

 

 

まるで子供をあやすように少女はメアにそう告げる。だがその影だけでも少女が上機嫌であるのは間違いない。まるで新しいおもちゃを見つけたかのよう。

 

 

「そっかー残念。でももう少ししたら会えるんだよね、新しい家族が増えるなんて……素敵♪」

 

 

 

変身兵器たちはまだ見ぬ未来を思い描きながらただ待ち続ける。真の(ダークネス)の発現を。そしてその先にある創造主の復活を――――

 

 

 




作者です。第十八話を投稿させていただきました。

今回でギドの襲来から始まったヤミ関係のエピソードが終了となります。ダークネスについては本編でも示唆したように不完全なものとなっています。また原作とは設定の違いから発現条件も異なっています。それを予想しながら読んでもらうのも面白いかもしれません。

また今回のエピソードは全体的にシリアスが多めになってしまっています。どうしてもヤミ関係の話は重くなりがちで、必要以上には暗くならないように気を付けていますがご理解くださると嬉しいです。次話からはいつもの空気に戻る予定です。

今話でこのSSも折り返し。次からは後半となります。予定していた三十話前後よりは少し長くなってしまうかもしれませんがここまでこれたのも読者の皆様のおかげです。これからもお付き合いくださると嬉しいです。では。


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