もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第十九話 「交差」

始業前の学校の教室。登校したばかりの学生が騒がしくしている中、少女はそれを気にすることなく真っすぐに自分の席に着く。長いストレートの黒髪に優れたプロポーション。だがどこか近寄りがたい厳しい雰囲気を纏っている。それが古手川唯。風紀委員に所属している文句なしの優等生の姿だった。

 

 

(よし……今日も問題ないわね)

 

 

鞄をしまい一限目の準備を整えた後、時計に目を向ける。授業の五分前。いつも通りの完璧な朝。始業の三十分前には登校し、五分前には着席する。それが私が自分で決めたルール。もちろん予習復習は済ませている。学生なら当然のこと。他の学生にまで強制する気はないがそれでも少しは意識してほしい。風紀委員として自分はみんなのお手本になる必要があるのだから。

 

 

(それにしても……昨日の騒ぎは結局なんだったのかしら……?)

 

 

ふと思い返す。昨日のお昼休みに起こった、学校の女子が次々にセクハラをされ混乱状態になってしまった事件。もちろん風紀委員である自分はそれを収めようとしたのだが結局犯人を捕まえることはできなかった。被害者、目撃者によれば小さな子供が犯人だったらしいがいつの間にかいなくなってしまっていたらしい。その代わりに何故かパンツ一丁で気絶している校長が発見されそれどころではなくなってしまった。

 

 

(とにかく……この学校はハレンチな人が多いみたいだし私ももっとしっかりしなくちゃ! 誰か他にも風紀委員になってくれる人がいれば助かるんだけど……)

 

 

入学してからもうすぐ三か月だがこの高校にはハレンチな人が多い。男子だけでなく女子も含めて不純異性交遊やセクハラ発言。あの校長が校長をしている高校なんだから当たり前かもしれない。それに比べて風紀委員の人手不足は否めない。どこかにいい人材はいないだろうか。そんなことを考えていると

 

 

「はあ……何とか間に合ったか……」

 

 

ぐったり疲れた様子の結城リトがふらふらしながら教室にやってくる。今の時間は授業開始の一分前。どうやら遅刻寸前で走って登校してきたらしい。だがそんな彼の姿を見てもクラスメイト達は一瞥するだけですぐに元の空気に戻っていく。腫物を扱うように誰も触れようとしない。それは私も同じ。振り返ることなく横目で見るだけ。話かけることはしない、できない。結城リトももうそんなことには慣れているようで全く気にしている素振りを見せない。ただ中学の頃と変わっているのは

 

 

「自業自得でしょう……朝、とらぶるにあんなに時間をかけていたんですから」

 

 

彼の少し後ろに小柄な金髪の少女が付いてくるようになったこと。転校生であるヤミ。何故か転校初日から結城リトに付きまとい、今は一緒に行動するようになっているクラスメイト。

 

 

「そ、それは……仕方ないだろ。今日はララが来るのも遅かったし……」

「その後トイレに閉じこもるのも考え物ですが……」

「うっ……そ、それは……」

「プリンセスは気付いていないようですが美柑は薄々勘付いているでしょう。気持ちはわかりますがほどほどにしてください」

「…………はい」

 

 

ヤミに何かを言われたのか、先ほど以上に意気消沈しながら結城リトは席へと向かっていき、ヤミはそんな彼の後ろを離れて付いていく。ここ最近では見慣れてきた光景。

 

 

(あの二人、やっぱり付き合ってるのかしら……? でも、恋人って感じでもないし……友達っていうのも何だか違うし……)

 

 

噂では屋上で一緒に昼食をしているらしいし、恋人だとするのが一番自然なのに何故かそういう感じには全然見えない。イチャイチャしているのを見たこともない。学校にいる間もそれほどおしゃべりしているわけでもない。なら友達なのだろうか。それにしては何だか妙な距離感があるような気がする。仲が良い割にはつかず離れずの距離で歩いているのもその理由。そんなことを考えていると

 

 

「…………」

 

 

私が盗み見ているのを感じ取ったのか、一瞬ヤミと視線が合ってしまう。思わずこっちもそのまま目をそらしてしまった。なんとなく気まずい気持ちを引きずりながら、私は一限目の授業を受けることになってしまったのだった――――

 

 

 

(次は美術だったわね……急いで移動しないと……)

 

 

次の授業は美術で教室を移動しなければいけないのでゆっくりはしていられない。忘れず教科書と道具を持ちながらそれでも決して走ることなく早足で廊下を移動する。風紀員である自分が廊下を走るなんて許されない。だがそんな中

 

 

「あ……」

 

 

思わず失礼な声をあげてしまう。そこには廊下の壁を背にしながらもたれかかっているヤミの姿がある。。朝のこともあっていつもより知らず彼女のことを意識してしまっていたのかもしれない。

 

 

「……どうしました古手川? 私に何か用ですか?」

「え? い、いえ……そういう貴方はこんなところで何してるの? 次は美術だから早く移動しないと遅れるわよ?」

 

 

特段気にしている様子もなく淡々としているヤミにあっけにとられるもなんとか誤魔化す。きっと元々の性格なのだろうがどうも無口なイメージの彼女と話すのは緊張してしまう。

 

 

「そうですね。ただ今私は結城リトのトイレが終わるのを待っているので気にせず先に行ってください」

「えっ!? ゆ、結城君がトイレに行ってるのを待ってるの……?」

「はい。何かおかしいですか?」

「い、いえ……」

 

 

おかしいことしかない、非常識だと叫びたくなるのを何とか我慢する。どう考えてもおかしいが恋人ならそれぐらい当たり前なのかもしれない。何だろうか。一緒に行動しないといけないルールでもあるのか。しかしヤミからは疾しい空気は感じない。まるでそれが仕事だと言わんばかりの態度。だがこれはチャンスかもしれない。ヤミが一人きりでいることはほとんどない。今なら結城リトはいないので気になっていたことを聞けるはず。

 

 

「あの……ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なんですか? できれば手短にお願いします」

 

 

『貴方と結城君はどんな関係なの?』

 

 

そんな質問が喉から出かかるも口にできない。流石にほとんど交流がないクラスメイトにこんな質問をするなんて非常識すぎるし失礼極まりない。

 

 

「えっと……そう! リコさんのことなんだけど」

 

 

頭をフル回転させて何とかヤミと共通できる話題を絞り出す。ちょっと不自然かもしれないが彼女の話題なら大丈夫だろう。しかし

 

 

「リコ……? 何のことですか?」

 

 

若干目を細めながらヤミはそんなよく分からない反応をしてくる。だが困惑しているのはこっちの方だった。

 

 

「何の事ってリコさんのことよ。前にメールアドレスを教えてもらった……知り合いなんでしょ?」

「ああ……そのことですか。確かに知り合いですがそれが何か?」

「え、ええ……良かったら彼女の学校や電話番号を教えてもらえたらと思って。メールで何度も聞いてみたんだけどはぐらかされちゃって……」

 

 

今思い出したといわんばかりのヤミの変な態度に翻弄されながらも本題をお願いする。あの日公園で知り合った女の子、リコ。メールでのやり取りをする仲にはなったもののあれからまだ一度も会えていない。電話で話がしたいと言っても何故かやんわり断られてしまう。嫌われてしまったのかと心配したけどそういうわけでもないらしい。なら少しずるいかもしれないけどヤミから教えてもらえれば。だがそんな期待は

 

 

「……お断りします。それはコジンジョーホーですから」

 

 

どこか片言なヤミの言葉によって砕かれてしまう。まるで台本を読んでいるかのようなしらばくれっぷり。特に個人情報の部分は本から引用したような不自然っぷりだった。

 

 

「ど、どうして……? メールアドレスは教えてくれたじゃない」

「それはそれ、これはこれです。どうしても知りたいならゆ……そのリコから許可を得てください。それ以上は何も言えません」

「そ、そう……」

 

 

取り付く島もないヤミの態度に引き下がるしかない。確かにリコの情報を勝手にヤミから聞くのは個人情報的には良くないのは確かなのだから。

 

 

「少し聞きたいのですが……古手川は彼女と今もメールのやり取りをしているのですか?」

「そ、そうだけど……二、三日おきくらいかしら。私の方からばっかりしてるからもしかしたら迷惑になってるのかもしれないけど」

「……ちなみにどんな内容のやり取りを?」

「? 別に普通よ。私、猫好きなんだけどリコさんも動物好きだっていうからメールしてて楽しいし、最近はちょっと下着の相談にも乗ってもらってるの。彼女も結構バストがあったし、どんなブランドがおすすめかとか」

 

 

今までのメールのやり取りを思い出しながらそう伝える。基本的に趣味が似ているのかメールをしていても楽しい。動物好きなのもだが何でも彼女は最近読書にはまっているらしい。自分も読書は趣味なのでお勧めの本を教えてあげたこともある。その代わりと言っては何だが自分の下着の相談にも乗ってもらった。最近使っているブラのサイズが合わなくなってきたことと彼女も結構バストがあったのを思い出したから。すると彼女はおすすめのブランドを教えてくれた。何でも最近新しい下着を買う機会があったらしい。

 

 

「そうですか……」

「どうしたの……?」

「いえ、何でもありません。ですが参考までに、リコは男の子っぽい趣味をしているのであまり女の子っぽい話題は振らないほうがいいかと」

「男の子っぽい趣味……? 確かにしゃべり方も男の子っぽかった気がするけど……」

 

 

何故か呆れ気味というか、不機嫌そうなオーラを纏いながらヤミはそんなよく分からない助言をしてくれる。確かにしゃべり方も、メールの文面もどこか男の子っぽいとは思っていたが趣味までそうだなんて変わっている。メールをしている時も男の子とメールしているような気がするときもあったしそういう性格なのかもしれない。

 

 

「では私はこれで」

 

 

言いたいことは言い終えたからか、こちらが声をかける間もなくヤミはすたすたとその場を去っていく。行先は男子トイレの前。ちょうど出てきたのか、結城リトがヤミに気付いてぎょっとしているのが遠目からでも分かる。

 

 

(前から思ってたけど……ヤミさんも随分変わってるわね……)

 

 

その容姿もだが、言動もどこか常人離れしているところがある。気にはなりながらもそのまま踵を返し、次の授業へと向かうのだった――――

 

 

 

(今日は何事もなく終わったわね……校長も大人しかったし、何かあったのかしら)

 

 

時間は放課後。自分も鞄を持ち、校門へ向かって歩きながら下校中。予想外のヤミとの接触はあったがそれ以外は何もなく平和な一日だった。学校が平和なのは当たり前のはずなのに、そんなふうに思ってしまうのはそれはそれで問題があるのでは。そんなことを考えていると

 

 

「あ、やっと出てきた! おかえり、二人とも! 一緒に帰ろう!」

 

 

そんな大きな声とともに校門が騒がしくなっている。よく見ればそこには結城リトとヤミの姿がある。一緒に下校中だったのだろうか。それよりも目を引くのは二人の前にいる少女。

 

 

(うちの制服だけど見たことない顔ね……でも、どこかで……)

 

 

ピンクの長い髪に圧倒的なプロポーションの美少女。制服は彩南高校の物だがあんな少女がいれば見覚えはあるはず。スカートからは尻尾のようなアクセサリーが見え隠れしている。だがどこかで会ったことがあるような気がする。あれは確か

 

 

(思い出した! いつか下校中に結城君がハレンチなことをしてた女の子だわ……!)

 

 

ようやく思い出す。いつだったかの下校中、結城リトがハレンチなことをしていた女の子。間違いない。でもどうしてそんな子がここにいるのか。

 

 

「お前……学校には来るなって言ってるだろ?」

「ちゃんと学校が終わるまでは待ってたんだからいいでしょ? それよりも今日はどうだった、とらぶるはあった?」

「ええ。見事に四回目に巻き込まれました。屋上でしたので人目には触れませんでしたが」

「あ、あれはヤミも悪いんだろ! 急に隣で弁当を食べだしたりするから……」

「貯水タンクの上では下から覗かれてしまいますので」

「そ、それは……でもちゃんと上を向かないように今までしてただろ!?」

「いいなーヤミちゃん、楽しそう。わたしも学校行ってみたいなー」

 

 

結城リトとヤミは慣れた様子でピンクの少女とおしゃべりをしている。内容は聞いていてもよく分からないが少なくとも仲がいいのは間違いない。

 

 

(違う学校の生徒なのかしら……でもあんなに引っ付いて、ハレンチだわ……! でもヤミさんは気にしてないし、どうなってるの……?)

 

 

ピンクの少女は全く恥ずかしがることなく結城リトに抱きついたり触ったりしている。ヤミとは対照的な接し方。ならあの少女が結城リトの恋人なのだろうか。だがいくら恋人だからといっても往来であんなにイチャイチャしているのはいかがなものか。学生なら学生らしい健全なお付き合いというものがあるはず。

 

知らず、ヤミ達の後を追うように付いていく。帰り道が一緒の方向なので仕方ないのだが、何故かこそこそしてしまっている自分に我ながら驚くしかない。

 

 

(わ、私……いったい何やってるのかしら。これじゃまるでストー……じゃない! これは風紀委員としてあの人たちがハレンチなことをしないか見張ってるだけなんだから!)

 

 

端から見れば不審者間違いなしの自分の姿に自己嫌悪を覚えながらも、尾行を継続する。三人はこちらに気づくことなくおしゃべりに夢中になっている。どうやらこのままどこかに遊びに行くらしい。途切れ途切れだがそんな会話が聞こえてくる。四回目が終わったから大丈夫だとか何とか、理解できない内容。

 

 

(二股とかではないようだけど……やっぱり友達……?)

 

 

後ろから見ているだけだがピンクの少女とヤミの仲が良好なのは間違いない。だが尚更わからない。もしピンクの少女が結城リトの彼女なら別の女の子と一緒に帰ったりするものだろうか。そんなことを考えていると突然ヤミが二人から離れて別の方向に行ってしまう。何かをしゃべりながらピンクの女の子はヤミに向かって手を振っている。

 

 

(ここからは帰り道が違うのかしら……? それとも二人に気を遣ったとか……?)

 

 

帰り道がここまで一緒だったのか、それとも恋人のように見える二人に気を遣ったのか。ヤミはそのまま別の道へ行ってしまう。どうしたものかと一瞬迷いながらも、そのまま結城リトと女の子を尾行することにする。もはや自分が何をしているのか分からなくなりそうだがここまで来た以上目的は果たさなくては。

 

 

だがそれははっきり言えば意味がないこと。いわゆる出歯亀だったのだと私はすぐに思い知らされることになる。

 

 

それはただのデートだった。帰り道の途中にある公園やお店に寄って、時間をつぶすただのカップルのよう。もっとも結城リトは女の子に振り回されてばかりで見ているこっちが心配になるほど。天真爛漫という言葉が形になったような少女。本当に楽しそうに結城リトと遊んでいる。

 

 

そんな姿に、私は知らず目を奪われる。女の子ではなく、結城リトの姿に。

 

 

(結城君……あんな風に笑うんだ……)

 

 

結城リトが笑っている。女の子に振り回されてくたくたになりながらも、結城リトはどこか楽しそうにしている。悪態をつきながらもそれに付き合っている。女の子は気付いていないかもしれないが、結城リトは満更でもないように笑みを浮かべている。たったそれだけのことなのに、何故か私はそんな彼から目を離すことができない。

 

学校では見たことのないような騒ぎながら笑っている結城リトの姿。きっとそれが彼の本当の姿なのだろう。それなのにどうして彼はあんなことを。どうして私はこんなことを。かつての記憶と今の記憶が交差しかけたその時

 

 

 

「――――そんなところで何をしているんですか、古手川?」

 

 

 

そんな聞いたことのある、聞いたことない声が背後から突き付けられる。

 

 

身体が飛び上がるほど驚きながらも、声をあげることができない。できるのはゆっくりと振り返ることだけ。

 

 

そこには見慣れているはずの少女がいた。なのに知らず息を飲んでいた。少女の姿が制服ではなく、見たことのない黒い衣装だったことだけではない。その空気が、視線が私が知っている彼女と別人のようだったから。

 

 

 

それが古手川唯と金色の闇の初めての出会いだった――――

 

 

 

 

 




作者です。第十九話を投稿させていただきました。

今回は古手川メインのエピソードになります。そのため視点も古手川視点になっています。第三者からはリト達がどういうふうに見えるかを描写する意味もあります。

古手川が見ていない部分でリトとヤミがどんなやりとりをしていたか想像してもらえると面白いかもしれません。それでは。
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