もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第二話 「契約」

 

 

「…………はあ」

 

 

大きな溜息をつきながらリビングにある椅子に腰かけテーブルに突っ伏す。そういえばこの椅子に座ったのも随分久しぶりのような気もするが今はそれどころではない。真剣に今の自分の状態に向き合わなければ。

 

 

「ん……えっ? リト!? こんなところで何してんの!?」

 

 

しばらくすると偶然通りかかった美柑がぎょっとしたように驚いた声をあげている。当たり前だろう。いつもは部屋に引きこもっているはずの自分がリビングにいるのだから。しかも何故か半裸、風呂上りの姿でタオルを腰に巻いているだけの姿。これでドン引きしないほうがどうかしている。だが今の自分にとってはどうでもいいことだった。

 

 

「なあ美柑……風呂場で全裸の女の子を見たって言ったら信じるか?」

「は? 何言ってんの……頭でも打った?」

 

 

絞り出した自分の告白に何言ってるんだコイツとばかりに美柑の突っ込みが返される。うん、そうだよな。それしかない。久しぶりの妹とのまともな交流がこれだ。ついに自分は頭までおかしくなってしまったらしい。

 

 

「はあ……溜まってるのかな、オレ」

「一応妹の前でそんな発言しないでくれる? で、どうする? 病院行くなら付き合ってあげてもいいけど」

 

 

聞こえないように呟いた自分の言葉に呆れながらも心配してくれているのが有難くて涙が出てきそうだ。というかさっきの言葉の意味が分かるって、小学生のくせに耳年増なのではないだろうか。

 

 

「いや……いい。とりあえず部屋に戻って寝る」

 

 

とりあえず寝ることにしよう。高校初日で疲れがたまっているだけかもしれないし。明日になっても見えるようなら本気で考えよう。そもそも美柑についてきてもらってもラキスケで迷惑かけるだけ。最悪医者にもかかれないかもしれない。だがそんな心配は

 

 

「あ、こんなところにいた! びっくりしたんだよ、何も言わないでどこかに行っちゃうんだから! ねえ、タオル借りてもいい?」

 

 

どこか楽しげな声を上げながらトコトコとやってきた少女によって無意味な物になってしまう。いや、もしかしたら頭がおかしかった方が何倍もマシだったのかもしれない。何がどうなったらいきなり目の前に風呂上がりで全裸の少女が現れるというのか。

 

 

「え……? えっと、あの……リトの知り合い? こんな痴女みたいな人が好みだったなんて」

「そ、そんな訳ないだろ!? オレだって知らないよこんな女の子! 美柑の知り合いじゃないのか!?」

「こんな知り合いいるわけないでしょ!? それに……え? じゃあこの人、一体……」

 

 

お互い混乱状態になりながらあたふたするもようやく現状を理解する。そう、痴女が家に不法侵入してきているのだ。どうすればいいのか。110番するべきか。それとも美柑を連れて家から逃げるべきか。理解できない状況に頭が追いつかないもののそれは仕方ないことだったのだとようやく気づく。何故なら

 

 

「わたし? わたしはララ! デビルーク星から来たんだけど……地球人からしたら宇宙人になるのかな?」

 

 

目の前にいる美少女は痴女でもなければ泥棒でもない、ただの家出中の宇宙人だったのだから。

 

 

それが結城兄妹とララの強烈すぎるファーストコンタクトだった――――

 

 

 

 

「つまり……お見合いばっかりさせられるのが嫌で家出してここまできたってこと?」

「そうなの! パパったらひどいんだから! いくら言ってもやめてくれないんだもん!」

 

 

頬を膨らませてプリプリと宇宙人の少女、ララは不満を爆発させ、そんなララをあやすように美柑は接している。年齢的言えばどちらが上か分かったものではない。そんなよく分からない状況を前にしながらリトは少し安堵していた。理由は二つ。

 

 

(でも宇宙人か……ほんとにいるなんて……でもあの尻尾は間違いなく本物だし)

 

 

一つは目の前の少女、ララの正体が判明したこと。宇宙人というにわかには信じがたい事実だが、そのお尻に生えている明らかに本物である尻尾を目の当たりにすれば認めざるを得ない。しかも何でも発明家であり、いきなり風呂場に現れたのもワープができる道具を使って来たかららしい。家出で宇宙を超えてくるなんてスケールが違う。何でも王女でもあるらしい。突っ込みどころがありすぎるがとりあえず自分達に危害を加える気が無いのは分かったので一安心したところ。そしてもう一つは

 

 

(ようやく服を着てくれたか……これでひとまずまともに話ができる……)

 

 

ララがようやく全裸ではなくなったこと。最初はタオルだけでいいと言っていたが無理やり着替えさせた(自分ではなく美柑が)ところ。自分のシャツとジャージなのでサイズは合っていないが仕方ない。そのせいもあって胸元が凄いことになっている。ブラも付けていないのでより見えてはいけないところが強調されている始末だが美柑がブラジャーを持っていなかったのでどうしようもない。もっとも持っていたとしてもララには使えなかっただろうが。

 

 

「……何、リト? 何か言いたそうだけど」

「い、いや……なんでもない」

 

 

心のつぶやきを察知したように訝しみながら美柑がこちらを見つめてくるが何とか誤魔化すしかない。まだ小学生何だから気にすることないと心の中で応援しつつ改めてララに目を向ける。

 

 

(それにしても……何であんなに羞恥心がないんだ? どういう教育してんだろう……それとも地球以外の星だから常識も違うのか?)

 

 

気になるのはララの非常識っぷり。宇宙人だから、で済ませていいのかという羞恥心のなさだった。どうにも言動も子供っぽい。よく言えば純粋無垢、悪く言えば天然だろうか。自分と同じ年らしいが、精神年齢では美柑よりも低いのは間違いない。もっとも肉体的にはその比ではないが。とにかく可及的速やかにララにはこの場から去ってもらわなければ。というか何とか自分だけでもこの場を脱出しなければ。

 

 

「? どうしたのリト? 何でそんな部屋の隅っこにいるの? ミカンと一緒にお話しようよ。わたし、リトのこともっと知りたいな」

 

 

だがそんなこっちの事情を知らないお姫様はこちらに迫ってくる。男なら勘違いするような台詞と共に。だがそうは言ってられずじりじりとララから距離を取る。まるでカバディでもしているかのように一進一退の鬼ごっこ。

 

 

「むー何でそんなに逃げるの? わたし、何かリトに嫌われるようなことした?」

「そ、そうじゃないんだ……むしろ嫌われないために逃げてるというか……と、とにかくそれ以上近づかないでくれ! 話ならいくらでも付き合うからっ!」

「さっきから何やってんのリト? あたしばっかりにララさんの相手させて。一応兄貴なんだからもっとしっかりして……あ」

 

 

脱兎のごとく逃げ出さんとするも時すでに遅し。この狭い家の中で逃げ切ることなどできるわけがない。ようやく美柑が事情を察したようだが間に合わない。ララが自分の絶対領域に一歩踏み入れた瞬間、それは起きた。

 

 

「―――ぶっ!?」

「きゃ!」

 

 

まるでそうなるのが自然であるように自分は足を滑らせ、ララを巻き込むよう倒れ込んでしまう。しかもその勢いはいつもの比ではない。まるでしばらく起きていなかった分を取り戻すような勢いのラキスケ。それだけではない。何故かお互いにズボンを脱がせ合い。互いの見せてはいけない部分が目の前にあるというあり得ないシチュエーション。唯一の救いがあったとするなら自分の息子は通常のままだったことぐらいだった。

 

 

「―――っ!?!? ご、ごめん!! わざとじゃないんだ……だ、だから、だから……」

 

 

もはや条件反射のように跳ね起きながら謝罪する。全身の血の気が引いて行くのが分かる。同時に脳裏に浮かぶのはいつかの光景。自分のせいで泣いてしまった女の子の姿。結局自分はこの呪いから逃れることはできない。絶望にも似た何かに囚われかけたその時

 

 

「びっくりしたー、リト怪我しなかった?」

 

 

そんなこっちの心情を吹き飛ばすかのように何事もなかったかのようにあっけらかんとしながらも自分を心配しているララの姿があった。

 

 

「…………え?」

「? どうしたの、リト? どこか痛いの?」

「だ、大丈夫だ……それよりも、怒らないのか……?」

「怒るって何を?」

「だ、だから……その……ララの……見ちゃったこと……」

「? 何でそんなことで怒るの? お互い様でしょ? それよりも地球人にも尻尾があるんだね。わたしのよりは短いけど」

「い、いや……それは尻尾じゃなくて……」

 

 

こんな状況に陥っているのに全く動じないどころか興味津々といったララの様子に言葉を失うしかない。本当なら叩かれても、泣かれても仕方ないはずなのにどうして。自分の目と鼻の先にある少女の恥部ですら全く目に入らない程自分はララに呆気にとられるしかない。それがいつまで続いたのか

 

 

「とりあえず……二人とも、下を履いた方がいいんじゃない?」

 

 

美柑が顔を赤くしながらも呆れながら助け船を出してくれる。だがその視線は明らかに自分の股間に向けられている。ようやく自分がどんな状況にいるのか思い出しながらもララよりも美柑に見られたことの方に恥ずかしさを覚えることに罪悪感を覚えるしかなかった――

 

 

 

 

「……まだそれ、治ってなかったんだ。なら何でそう言ってくれなかったの?」

「う……いや、迷惑かけちゃ悪いと思って……」

「引きこもりの面倒をみる方が迷惑なんですけど」

「……返す言葉もございません」

 

 

何故か正座しながら美柑に謝罪している自分にもはや兄の威厳など欠片もない。元々なかったのでマイナスになっただけかもしれないが。事情を離して二人にはとりあえず自分から三メートルほど離れてもらっている。この半径三メートルが自分の絶対領域であり境界線。他にも色々と条件はあるのだがそれは割愛。

 

 

「でもリト、なら尚更病院に行った方が良いんじゃない? このままじゃずっとその調子だし」

「いや、行ったこともあるけどどうしようもなかったんだ。身体には異常はないって話だったし、そもそも病院から出禁を食らってるし……」

「……お手上げってことか」

 

 

美柑が溜息を吐くも心情は全く同じ。そもそもこんな話をしても信じてくれる人などいるわけがない。そう

 

 

「へー、誰かが近くにいると勝手に転んじゃうんだ。不思議だねー」

 

 

それが地球から離れた星から来た、宇宙人でもない限りは。

 

 

「お、お前……こんな話信じるのか?」

「? だって実際に見たし。それと、きっとリトのそれは病気じゃないよ。何かの能力じゃないかな」

「能力……? それって、超能力みたいな……? そんなものあるわけ」

「あるよ? 宇宙にはいろんな能力を持った種族がいるし。わたしも尻尾からビームが出せるんだから!」

 

 

すごいでしょ! といわんばかりに胸を張り、尻尾をくねくねさせているララに呆気にとられながらも今まで考えながらもあり得ないと否定してきた可能性に現実味が帯びてきた。確かにあり得るかもしれない。宇宙人がいるんだから超能力があってもおかしくはない。もっとも、こんな能力何の役にも立たないし分かったところでどうしようもないのに変わりはないのだから。

 

とにもかくにも、今はララのことだ。いつまでもこのままではいけない。そう思った瞬間

 

 

「ようやく見つけましたよ、ララ様」

 

 

そんな聞いただけで凄身を感じる男の声が突然響き渡る。慌てて振り返るとそこには黒いスーツを着た、いかにもカタギの人間ではない男の姿。

 

 

「な、何だあんた!? 一体どこから」

「部外者には黙っていてもらおうか。ララ様、鬼ごっこもここまでにしましょう。国王様も心配してらっしゃいます。家出など子供がされることです」

 

 

驚いている自分や美柑は完全に無視されている。置物にでもなった気分だがどうやらララのお迎えが来たらしい。地球でいうSPみたいなものだろうか。見た目は完全にヤクザなのだが口に出す勇気は自分にはない。

 

 

「ふーんだ、わたしまだ子供だもん! パパの言うことなんて知らないんだから! 帰ってパパに伝えておいて、わたしはまだ結婚する気なんてないって!」

 

 

べーっと舌を出しながら抵抗するララの姿はまるで子供のそのもの。確かに自分と同い年の少女が結婚を嫌がっているのは理解できるし、思う所はあるが部外者である自分にはどうすることもできない。もしかしたら結婚する年齢も、価値観も違うかもしれないのだから。

 

 

「それはできません。ララ様には次期デビルーク女王になっていただかなければならないのですから。さ、戻りましょう」

「嫌―――! 絶対帰らないもん――――!」

 

 

子供のような駄々をこねながらSPを困らせている時期王女様。何だがSPさんに同情したくなってくる光景に目を奪われている中、はたとララと目が合う。

 

 

――――瞬間、すっごく嫌な予感がした。恐らくは、予知にも似た直感。このままでは面倒なことになってしまう。そしてそれは現実の物となった。

 

 

「だってわたし、その男の子と婚約したんだもん!」

「…………え?」

 

 

婚約という、およそ理解できない言葉によって。

 

 

「わたしリトと婚約したの! それならもう、お見合いもしなくていいでしょ? パパにもそう言っておいて!」

「お、おまっ……何言ってるんだ!? そんな子供みたいな言い訳通じるわけないだろ!?」

「子供じゃないもん! わたし、大事なところリトに見られちゃったんだから、責任とってくれるんでしょ?」

「何でそんなことだけ知ってるんだ!? そ、それよりもこっちに来るな! また」

 

 

何故かララの子供だましのような言い訳に巻き込まれオタオタするしかない。何でそんなことを知ってるくせに恥じらいが全くないのか小一時間問い詰めたいところだが今はそれどころではない。このままではまたララにラキスケをかましてしまう。だがその方がマシだったのだと知ることになる。

 

 

「貴様……ララ様に一体何を」

 

 

目の前にまで迫ってくる黒服のSPさんの姿を目の当たりにすることで。

 

 

「や――――」

 

 

止めろ、と叫ぶもなく自分はバナナの皮を踏んだようにスピンしSPに突っ込んでいく。その動きに対応しきれず、SPもまた体勢を崩す。まるでスローモーションのようにゆっくりと世界が進んでいく感覚。理解する。自分が顔から突っ込んでいっていることを。その先には、のがれようのない、黒服の男の、股間が、ある――――

 

 

「うああああああ――――!?!?」

 

 

絶叫とともに最後の抵抗によって目を閉じ、顎を引く。せめて、顔からあそこに突っ込むのは嫌だ。なけなしの、それでも譲れない最期の一線。その結果自分は凄まじい速度でSPの急所に頭突きをかますというウルトラCを決めてしまったのだった――――

 

 

「――――」

 

 

声にならない声を上げながらSPさんは昇天する。いくら鍛えていると言っても男である限り逃れられない。急所であることは宇宙人であっても同じであるらしい。今の自分に在るのは心からの謝罪とやらかしてしまったという事実だけ。

 

 

「ありがとう、リト! 助かっちゃった!」

「助かっちゃったじゃないだろ! ど、どうするんだこれ……完全に気を失っちゃってるし……」

 

 

目の前に昏倒しているSPを見ながらもどうすることもできない。美柑もそれは同じようで溜息をついている。嬉しがっているのはララだけ。いくらなんでもめちゃくちゃすぎる。

 

 

「ね、リト、わたしの婚約者になってくれる? そうすればわたしも家出しないで済むから。何かお礼もするから! そうだ、好きな発明品持って行っていいよ! 色々あるからきっとリトが喜ぶようなものも」

 

 

ララがニコニコ笑いながら何かを言っているが耳に入ってこない。湧いてくるのはよく分からない感情と、エネルギー。これまでの生活で溜まったストレスと、それ以上に目の前にいる少女の天然という名の非常識さに対する呆れ。後に美柑は語る。リトだけは本気怒らせてはいない、と。

 

 

「いいかげんにしろ――――――!!!」

 

 

それが結城リトの生まれて初めてのマジギレ。そして二度とないであろう女の子への説教だった――――

 

 

 

 

一時間後、そこには先程とは違い床に正座しているララとそれを前にして自己嫌悪に陥っているリトの姿がある。美柑だけはそれを少し離れた所から眺めているだけ。あるのは静けさだけ。先程まではリトによるララへの説教という名のお叱りが続いていた。親に内緒で家出してきたこと、勝手に人の家に侵入して好き勝手したこと、他人を巻き込んで嘘をつこうとしたこと、男の前で裸になってうろうろしていたこと、恥じらいのなさ。ほとんど後半の方がメインだったような気もするがようやくリトも落ち着いたらしい。

 

 

(そういえばリトって世話焼きだったっけ……)

 

 

美柑はようやくリトが世話焼きだったことを思い出す。ここ数年の引きこもりの姿しか見ていないから忘れていたがそれが爆発したのだろう。もっとも今はララに非があるとはいえ、女の子を怒鳴りつけてしまったことで自己嫌悪に陥っているらしいが。

 

 

「…………ごめんなさい」

 

 

そんなリトの姿に驚いたのか、それとも王女という立場上本気で怒られたことがなかったからか。ララは目に見えて落ち込んでしまっている。何だか泣きそうになっているようにも見える。

 

 

「い、いや……オレの方こそごめん……でも、その別にララのことが嫌いだから怒ったわけじゃなくて、その……」

 

 

そんなララにあたふたしているリトの姿はまるで娘に怒った父親のよう。

 

 

「ララさん、リトはララさんが心配だから怒っただけだから気にしなくてもいいよ。それに半分ぐらいはリトも悪いんだから、そうでしょ?」

「あ、ああ……ごめんな、ララ」

「ううん、わたしも悪かったから。ありがとう、ミカン。わたし、家に帰ってパパに謝ってくる……」

 

 

ようやく元気が戻ってきたのか、ララは立ち上がりながら家を出て行こうとする。だがその背中には落ち込みが隠し切れていない。リトに怒られたことではなく、恐らくは家に帰ってからのことに落ち込んでいるのだろう。リトは何か声をかけようとしているようだが難しいらしい。まあ、家に帰った方が良いと勧めたのは他ならぬリトなのだから仕方ない。ここはわたしが助け船を出すとしましょうか。

 

 

「ねえリト、ララさんの婚約者候補になってあげたらいいんじゃない?」

 

 

ある意味、これ以上ない爆弾を投下することで。

 

 

「え?」

「み、美柑……!? 何でそんなこと!? すぐにばれるに決まってるだろ!? それに好きでもない人と婚約なんて」

「だから婚約者じゃなくて婚約者候補。絶対に婚約しないといけないってわけじゃない。後は……そう、ララさんにはリトが婚約者候補になっている間に好きな人を見つけてもらえばいいのよ。期間はリトが高校卒業する十八歳まででいいんじゃない?」

「ほ、ほんと!? リト、わたしの婚約者候補になってくれるの!?」

 

 

思いもしなかった提案にリトは驚愕し、ララはまるで花が咲いたように笑顔を見せ喜んでいる。

 

 

「美柑、どうしてそんなこと、オレの話を聞いてなか」

「いいからちょっとこっちに来て、リト」

 

 

状況が理解できないリトを半ば強引にリビングの外に連れ出す。もちろん互いに距離を取りながら。内緒話をするにしては変な形だがしょうがない

 

 

「やっぱり好きでもないのに婚約者になるなんてダメだろ。そんなことしても何の解決にも」

「ま、バレても別にいいんじゃない? その時は素直に謝ればいいんだし、このままララさんがずっとお見合いさせ続けられるのも可哀想でしょ? それともリト、好きな人がいるの?」

「いや……いないけど」

「ならいいじゃない。ララさんに好きな人ができたら婚約解消できるわけだし、それにリトにとっても悪い話じゃないと思うよ。リトの転び癖……というか体質に付き合ってくれる女の子なんて他にいると思う?」

「それは……」

 

 

わたしの言葉にリトは思わず黙りこんでしまう。きっとリトも内心では分かっていたに違いない。色々とはちゃめちゃなところはあるが、おそらくララさんはリトとまともに交流ができる可能性がある存在。しかも女の子。これを逃せばもう二度とリトは女の子と接することはできないかもしれない。いつラッキースケベが起こるか分からない男の子と接してくれる女の子など宇宙に何人いるのか。

 

 

「ま……あたしは別にいいんだけど」

「? 美柑?」

「っ!? な、何でもない! それに地球じゃ無理でも宇宙にならリトの体質を治す方法があるかもしれないでしょ。ララさんは発明家だし、協力してもらえるかもしれないよ」

「っ!? そ、そうか……それなら」

「じゃあ決まりね、ララさん! 婚約者候補になる代わりにリトの体質を治すのに協力してもらってもいい?」

「っ! うん、任せて! わたしの発明品でリトのこと治してあげる!」

 

 

わたしたちの話し合いが気になって仕方がなかったのか、ドアから尻尾と顔を覗かせてそわそわしているララさんに向かって契約にも似た提案を持ちかけると、待ってましたとばかりに飛び跳ねながら大喜びしている。 よほど嬉しかったのかそのままリトに抱きつき床を転がり回り始める。流石のリトの体質も先に転ばされては発動しないらしい。

 

 

(……ま、いいか。リトが部屋から出てきてくれたのはララさんがきっかけだし。これぐらい我慢しないと)

 

 

本当なら数年ぶりに部屋から出てきたリトに甘えたいところだが、ララさんはある意味恩人のようなもの。

 

 

「じゃあリト、これから宜しくね!」

「……こちらこそ。でも、ちゃんと家には帰るんだぞ。約束だ」

「うん! パパとママにちゃんと報告しなくちゃ!」

 

 

嵐のような騒がしさと共にララさんは何かの発明品を使いながら自分の星へと帰って行ってしまう。

 

 

これから自分達の生活がどうなってしまうのか、二人には分からない。ただ分かるのは今まで以上にとらぶるな日々が待っているであろうことだけ。だがそれ以上にいま重要なのは

 

 

「…………どうする、これ?」

「……とりあえず、縛っておく?」

 

 

 

リビングで昇天しているSPさんをどうすればいいのか、という問題だけだった――――

 

 

 

 

 

 




作者です。感想ありがとうございます。第二話を投稿させていただきました。とりあえずこれで原作で言う一話分、プロローグが終わった形になります。

この作品は題名の通り、主人公である結城リトのラッキースケベが原作よりも酷くなっていたらという再構成になります。境遇の違いでリトの性格が変わっているという設定ですが、ほぼオリ主に近い形になってしまっています。それについては御理解いただけると嬉しいです。

偽の婚約者候補になるという展開は原作でもあり得た可能性の一つです。実際にララはリトに婚約者候補になってもらうことでお見合いを回避しようとしていたので。もっともリトの告白(春菜の対しての)で誤解してしまいましたが。ある意味同じジャンプで連載中のニセコイと似た状況かもしれません。

原作のエロさには到底敵わないので、原作とは違う展開でTo LOVEるの魅力を伝えられればと思っています。原作ではララがトラブルメーカーとなり、リトが巻き込まれる展開が多いですがこのSSでは逆が多くなります。また、舞台は地球よりもデビルーク星の方が多くなり、デビルークとの異星間交流が主になる予定です。

長くなりましたが楽しんでいただければ幸いです。感想お待ちしています。それでは。

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