もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第二十三話 「約束」

一度大きく深呼吸をする。何度か来たことがあるのにどうしてか緊張してしまっている。普段と違うことをしているからだろうか。でもいつまでもここに突っ立ってはいられない。意を決して目の前にあるドアをノックする。

 

 

「はーい、どうぞー」

 

 

しばらくするとそんな聞きなれた声が返事をしてくれる。それに合わせるようにゆっくりドアをあげながら部屋に入っていく。

 

 

「お、お邪魔します……」

 

 

目の前にはいつか見た時と変わらない大きな部屋が広がっている。王宮でしかも王女の私室なのだから当たり前かもしれない。それを証明するように部屋には見たことのないメカが散乱している。何かの研究室のようだ。その中に大きなベッドが一つ置かれている。そこにこの部屋の主がいた。

 

 

「あれ……? リト? やっぱりリトだ! どうしたの、まだ学校の時間でしょ?」

 

 

それまでベッドに横になっていたのだろう。いつもよりボサボサの髪を見せながらララはベッドから起き上がろうとしているが上手くいっていない。見れば顔が赤くなっている。熱がまだあるのだろうが、いつもと変わらないララの様子にひとまず安心できた。

 

 

「今日はちょっと早く終わってさ……それよりもじっとしてろって。まだ熱があるんだろ?」

「そうだけど、せっかくリトが来てくれたんだもん。寝てるのももったいないでしょ? 熱も下がってきたし、大丈夫だよ!」

 

 

いくら言っても聞きそうにはないので体だけ起こしてもらうことにする。ニコニコ笑っている様子を見ると熱が下がってきているというのは本当らしい。

 

 

(しかしララのパジャマ姿なんて初めて見るな……新鮮というか何というか……)

 

 

見ればララはピンクのパジャマを着ている。寝ているのだから当たり前なのだがいつもと少し雰囲気が違っていて気になってしまう。

 

 

「どうしたの、リト?」

「いや……そういえばララのパジャマ姿は初めて見たなって思って」

「そっか。でもわたしも着たのは久しぶりなんだよ? いつもは裸で寝てるし、今は汗をかいちゃうから仕方なく着てるの」

「そ、そうか……うん、まあらしいといえばらしいな……」

 

 

さらっと明かされる衝撃の真実。どうやら目の前のプリンセスは寝るときは全裸らしい。どっかの王族か何かのような習慣。デビルークの王族ではあるのだがきっと裸で寝ているのはララだけだろう。そう機会はないと思うが、ララを朝起こしに来るようなときは気を付けなければ。

 

 

「それよりもリト、その顔どうしたの? もしかしてナナにとらぶるして叩かれちゃったの?」

「い、いや……まあ、似たようなもんかな……はは……」

 

 

目をぱちくりさせながらこちらを見つめてくるララに苦笑いしながら誤魔化すことしかできない。今自分の頬には真っ赤なもみじの跡がくっきり残っている。変身ではない、金色の闇本人からの平手打ち。その威力は凄まじかったのだがこちらとしては感謝するしかない。いや、叩かれたことに感謝しているのでは決してなく、自分のお願いに応じてとらぶるさせてくれたことに。

 

 

(とりあえず三回は消費できたから大丈夫のはず……でもヤミの奴、どうして一緒に来なかったんだ? 婚約者候補だから気を遣ってくれたのかな……?)

 

 

ここにはいないヤミのことを考える。デビルークまでは一緒に来たのだがララの部屋に来る前にヤミはどこかへ行ってしまった。もしかしたらとらぶるのせいもあって怒らせてしまったのかもしれない。もし屋上に誰かが来ていたら自分は間違いなく現行犯逮捕されるような有様だったのだから。しかしどうしてもそれをお願いせざるを得なかった。

 

 

(病気のララをとらぶるに巻き込むわけにいかないし……ララのことだから近づくなって言ってもきっと聞いてくれなかっただろうからな……)

 

 

とらぶるにララを巻き込まないために。それが自分が決死の覚悟でヤミにとらぶるをさせてほしいと懇願した理由。病気で弱っているララにとらぶるさせるわけにはいかない。美柑に頼むことも考えたがまだ学校から帰っておらず、ナナとモモは先日のセフィとの約束があるため難しい。となれば頼めるのは事情を知っている中ではヤミだけ。正直断られて当然のお願いだったのだがヤミはとらぶるをさせてくれた。その代償がこの頬。きっと命があるだけマシなのだろう。色々な意味でヤミには頭が上がらない。

 

 

「そっかー……ごめんね、リト。とらぶるの消費をできなくて」

「き、気にするなって! 大体いつもしてもらってることの方がおかしいというか何というか……」

「そうかな? だってわたし約束したでしょ? リトのとらぶるを治してあげるって。発明品もいろいろ考えてるんだけどもうちょっと時間がかかるかも」

「そ、そうか……」

 

 

えへへ、と舌を出しながらララは嬉しそうにそんなことを告げてくる。病気だというのに自分のとらぶるのことを心配してくれている彼女の姿に申し訳なさと感謝しか浮かばない。ただ

 

 

「でも……別にそこまで無理してしてくれなくてもいいんだぞ? とらぶるのことは関係なく、婚約者候補の振りは続けるし、だから」

 

 

そんな今まで思っていても口にしていなかったことを改めて口にする。迷惑なんてどころじゃない、自分の能力に当たり前のように付き合ってくれるララ。それが当たり前になりつつある自分。それじゃいけないんじゃないかと思いながらもララの厚意に甘え続けてしまっている現実。そんな今に対する葛藤。それを

 

 

「? なんでそんなこと気にしてるの? わたしはわたしがしたいことをしてるだけだよ? わたし、したくないことは頼まれたってしないんだから! だからリトのところに家出したんだし」

 

 

おかしなリトと、ララは笑って吹き飛ばしてくれる。何だか悩んでいた自分がバカだったのではないかと思えるような、これ以上にない答え。確かに言われればその通り。この王女様は基本的に自分がしたいことしかしない。ある意味でデビルーク王に近い性格をしている。ならきっと、気にすること自体がララに失礼なのだろう。たった数か月の付き合いだが、ララがそういう女の子であることは分かっている。

 

 

「それもそうだったな……そのせいで最初は誰かさんを怒ることになったんだし」

「あ、ひどいリト! あの時わたし、ちょっと落ち込んだんだからね!」

 

 

ララ的には一応気にしていたのか、出会ってすぐ怒ったことをネタにすると怒ってしまう。怒るというよりは拗ねるといったほうが正しいのかもしれない。そもそもララが本気で怒ることなどあるのだろうか。見てみたい気もするがちょっと難しそうだ。

 

 

「ちょっと、だろ? でも思ったより元気そうでよかった。せっかくお見舞いに来たんだし、してほしいことがあったら言ってくれ。できることなら手伝ってやるから」

 

 

話題を変える意味でも何かしてほしいことはないかと尋ねてみる。お見舞いできたのもあるが見舞いの品もないし、看病の真似事ぐらいならできるかもしれない。地球人である自分ならデビルーク風邪がうつることはないし適任だろう。だがそんな甘い考えは

 

 

「ほんと? やったー! じゃあ体を拭くの手伝ってくれる? 汗かいちゃって気持ち悪かったんだー」

 

 

バンザイしたあとにパジャマのボタンを胸元から外していくララの姿によって打ち砕かれてしまう。

 

 

「っ!? お、お前いきなり何してるんだ!? そんなことオレができるわけないだろ!? 誰か他の女の人に手伝ってもらえよ!」

「えー? だってそうしたらわたしの風邪うつしちゃうかもしれないでしょ? それに何でもするって言ってくれたのはリトだよ?」

「そ、それは……」

 

 

もっともらしい理由を並べるララに思わず言葉が詰まってしまう。確かにほかのデビルーク人では風邪がうつってしまうかもしれない。なんでもすると言ってしまった手前引くに引けなくなってしまったかもしれない。せっかくとらぶるを消費してきたのにえっちぃことをするなんてどうなのか。これではただのえっちぃ奴になってしまうのではないか。そんな葛藤があるも早く早くと自分を急かしてくるララを前にしてはもはや断る選択肢はない。

 

 

「……分かった。でも背中だけだからな。前は自分で拭けるだろ?」

「うん、わかった! でもいつも見てるのに恥ずかしがるなんて変なリト」

「変なのはお前だよ……」

 

 

すでに半裸になっているララをできるだけ直視しないように目をそらしながら悪態をつくも全く通じていない。これがいつも通りの自分とララの関係なのだろう。

 

それから慌ただしく時間が過ぎ去っていく。後ろだけだといったのに何故か下半身も露出しようとするララを必死に説得したり、ララの夕食を取りに行こうとドアを開けた瞬間、ナナとモモが盗み聞きしているのが発覚したり、ララに対して看病イベントのあーんをする羽目になったりと挙げだせばきりがないほど。看病されるよりも看病するほうが恥ずかしいなんて思いもしなかった。もしかしたらララ限定の話かもしれないが。

 

 

「まったく……これじゃあお見舞いに来たのか遊びに来たのか分からなくなるな」

「そうかな? わたしは楽しいからいいんだけど。そういえば来週から家に泊まりに来るんでしょ? それまでにはちゃんと風邪を治しておくから!」

「そうだな。一人だけお留守番じゃつまらないだろうしな」

「うん、今から楽しみだね! どんなことして遊ぼうかなー」

 

 

何とかララを強引にベッドに横にさせたが気持ちはすでに来週にタイムスリップしてしまっているらしい。この調子では夏休みがどうなるか分かったものではない。間違いなく今まで以上に騒がしくなるのは目に見えている。それでもまあ仕方ないかと思えるようになった自分もまたこの生活に慣れてきたのかもしれない。

 

 

(そうか……もう、三か月以上経ったんだな……あっという間だったけど)

 

 

ふと気づく。もう学校でいうなら一学期が終わろうとしている。ララと出会ってからもうそんなに時間が過ぎているのだと、改め実感する。同時に思い出すのは最初の約束。気になりながらも結局聞けないでいたこと。

 

 

「そういえばララ、婚約者候補探しは進んでるのか? あれから全然話を聞かないけど……」

 

 

ララの婚約者候補探しのこと。自分が嘘の婚約者候補を演じている三年間の間に本物の婚約者候補を見つけるという約束。それがどうなっているのか。だが

 

 

「婚約者候補探し? ああ、ごめんねリト。それ、全然進んでないの」

 

 

ララは一瞬きょとんとしながらもあちゃーといわんばかりに頭をかきながら暴露する。今思い出したといわんばかりの態度。半ば予想していたとはいえ流石に呆気に取られてしまう。

 

 

「ぜ、全然って……大丈夫なのか? あと三年しかないんだぞ……?」

「まだまだ時間はあるしきっと何とかなると思うよ。もし見つからなかったら……うーん、本当は嫌だけどお見合いするしかないのかなー」

 

 

全く危機感がないララにかける言葉が見つからない。このままでは三年間、婚約者候補の振りを続ける羽目になるかもしれない。本当なら怒ってもおかしくない場面。なのに

 

 

(あれ……? なんでオレ、ちょっとホッとしてるんだ……? これじゃあまるで……)

 

 

全然それが気にならない自分がいる。それどころかホッとしているのか、安堵しているかのよう。おかしい。なんで自分はこんなことを考えているのか。

 

 

「そういえばリトには好きな人はいないの?」

「……え?」

 

 

だがそんなことは知らないといわんばかりにララから質問が飛んでくる。すぐにはその内容が理解できない。およそララから降ってくるとは思えないような話題。

 

 

「だから好きな人だよ。わたしだけじゃ不公平でしょ? だからリトに好きな人ができたらいつでも言ってね。婚約者候補の振りはやめてもいいから」

「そ、そうか……分かった。今はオレ、好きな人はいないから……」

「うん。あ、でも心配しないでね。リトに好きな人ができても、とらぶる治すのは手伝ってあげるから!」

 

 

ララが何かを言ってくれているが頭に入ってこない。なんでだろうか。嬉しいことを言ってくれているはずなのに、喜べない。分からない。どうして自分が落ち込んでいるのか。落ち込む理由なんて、あるはずないのに。元々そういう約束だったはず。なのに、どうして――――

 

 

「でも、わたしずっとリトと一緒にいれたら嬉しいな」

「え?」

 

 

思わずそんな声が出てしまう。ララは微笑みながらただ自らの本心を告げてくる。飾ることのない、純粋な言葉。

 

 

「婚約者候補じゃなくなっても、とらぶるが治ってもわたしリトと一緒にいたいな。リトと一緒にいると楽しいもん」

「――――」

 

 

言葉を失ってしまう。何か言わないといけないのに何も出てこない。ララにそんな気がないのはわかっている。本当に一緒にいると楽しいからそう言ってくれているだけ。恋愛感情のそれではない。なのに知らず心臓が高鳴る。のどが渇いてしまう。自分もララと一緒にいたい。そう口にすればいいだけなのにそれができない。それを口にしたら今の関係が崩れてしまうかもしれない、そんな情けない理由。

 

 

「……どうしたのリト? 顔が赤くなってるよ? もしかして風邪うつしちゃった?」

「っ!? な、何でもない……! オレ、そろそろ帰るな! 遅くなると美柑も心配するし……」

「そっかー残念……でもしょうがないよね。ねえリト、また明日も来てくれる?」

「ああ……今日よりはちょっと遅くなるかもしれないけど、約束する」

「うん、約束だよ!」

 

 

子供のように小指を絡ませてくるララにどぎまぎしながらも約束をする。ちょっと恥ずかしいが熱が出ているのだから大目に見よう。そうして明日の約束をしたまま、自分はララと別れて部屋を後にするのだった――――

 

 

 

 

(はあ……明日もか、とらぶるはどうしようかな……もう一度ヤミに頼むのは流石に……美柑に土下座するしかないか……)

 

 

一人、夜の街を散歩しながら明日のことに頭を悩ませるしかない。今自分は地球に戻り、散歩という名の頭を冷やす作業をしているところ。ララの部屋を出てからすぐにギドに捕まってしまった。

 

『看病なんて男のくせに女みたいなやつだな』

 

そんなギドのよくわからない煽りを受けながらも何故か夕食と風呂に誘われてしまった。なんでも裸の付き合いがしたいらしい。あれだろうか。娘はお前にはやらんイベントの続きなのだろうか。どうやらザスティンも一緒に参加するらしいが嫌な予感しかしない。サードキスだけは何としても守り抜かなければ。

 

そんなこんなでお留守番をしている美柑を誘いに(もちろん夕食だけ)戻ってきたのだがちょうど入浴中。体育の授業でもあったのかもしれない。護衛であるヤミも一緒に連れてこようと思ったのだがララの部屋を出てからどこかに行ってしまっているのか姿が見えない。仕方なく美柑がお風呂を出てくるまで久しぶりに散歩を楽しんでいるところ。もっとも頭の中は一つのことでいっぱいだったのだが。

 

 

(なんか最近変だな、オレ……前はこんなことなかったのに……)

 

 

自分で自分の心がわからない。いつからだろうか、心と体が一致していないような、変な感じがある。ララのことをばかり気にしている自分がいる。それを必死に隠している自分がいる。素直になりたいのに、意地を張っている自分。

 

 

自分とララの関係。互いに約束したもの。それを果たすための、それまでの関係だったはず。ならその約束を守らなければ。とりあえずは明日のお見舞いの約束を。なのに――――

 

 

 

(オレ、もしかしてララのことが――――)

 

 

自分の心。その本当の姿が見えかけた瞬間

 

 

「あ、やっと見つけた♪」

 

 

そんな嬉しそうな聞いたことのない声が頭上から聞こえてくる。顔をあげたそこには少女がいた。街灯の上に立っている非常識さ。月明りを浴びながら、揺らめいている赤毛。黒を基調にしている衣装。全く似ていないのに、金色の闇がその少女に重なる。

 

 

 

「――――初めまして。迎えに来たよ、リトお兄ちゃん♪」

 

 

 

それが結城リトと赤毛のメアの約束された、運命の出会いだった――――

 

 

 

 

 

 




作者です。第二十三話を投稿させていただきました。

今回でこのSSの第一部である「とらぶる」編が終了。次話から第二部の「だーくねす」編となります。第二部では一部に比べてバトル展開、オリジナル要素、独自設定が増えてくる予定です。また第一部での伏線、オリジナル要素を回収する答え合わせ的な意味合いもあります。そのあたりを楽しんでいただけると嬉しいです。

ここまで来れたのも読者の皆様のおかげです。よければこれからもお付き合いください。では。

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