もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第二十四話 「転機」

(全く……何をやっているんでしょうか、私は……)

 

 

誰もいないデビルーク王宮のホールでソファに座り、一人本を読んでいる自分の状況に呆れ果てるしかない。本来殺し屋である自分がここにいることに加えて、手持ち無沙汰にホールで時間をつぶしているという以前の自分ならありえなかった現状。手にしている本も持っているだけでほとんど読めていない。

 

 

(最近余計なことをし過ぎている気がしますね……せざるを得ないとも言えますが……)

 

 

考えるのはここにはいない自らの主人のこと。結城リトは今、プリンセスのお見舞いに行っているところ。それを邪魔するほど自分は野暮ではない。婚約者候補ではないとはいえ、結城リトがプリンセスに少なからず好意を抱いているのは明らか。ごっこ遊びの延長か、恩義なのかは分からないが。自分もプリンセスの容態は心配だが、もう少ししてから伺えばいいだろう。

 

 

(それにしても……やっぱりえっちぃですね、結城リトは。なぜプリンセスはこれに耐え……いえ、怒らないのか理解に苦しみます)

 

 

深くため息をはきながら思い出すのは屋上での出来事。とらぶるをさせてほしいと懇願してきた結城リト。その発言に思わず固まってしまったが仕方なくそれを了承することになってしまった。病気のプリンセスをとらぶるに巻き込まないためであり、自分以外に頼める相手がいなかったのだろう。決して邪な考えがあってのことではないと分かっていたのも理由。それにとらぶるに巻き込まれるのは自分にはさほど珍しいことではない。プリンセスが消費できなかった四回目を何とかするのが学校での自分の役目。誰かに頼まれたわけではないが、プリンセスに結城リトのことを頼まれている以上、放置することはできない。誤解されるかもしれないのもあるが、それ以上に余計な気を遣わせてしまうのは分かり切っているので結城リト本人には明かしていない。ただ自分がとらぶるをしても怒らないと思われては困るので、代償としてやり過ぎない程度に制裁はさせてもらっている。しかしそれは甘かったのだとすぐに思い知ることになった。

 

 

端的に言えばあれはケダモノだった。プリンセスナナが言っていた意味が分かった気がした。

 

 

(あれは能力だけのせいではありませんね……結城リト自身の資質も間違いなく含まれている……)

 

 

三回連続のとらぶるは単発のそれとは文字通り桁が違っていた。服を脱がされ、胸を掴まれ、先端を摘ままれる。下着を脱がされ、尻を掴まれ、押し倒される。そのえっちぃさは回数が増すほどにエスカレートしていく。しかも結城リト本人には悪意がないため猶更たちが悪い。もしあのまま四回目が発動していれば自分はどうなっていたか。想像するだけで恐ろしい。今もまだその時の感触と感覚が残っているかのように体が熱っぽいような気がする。

 

 

「…………」

 

 

熱に浮かされるように、自分で自分の身体に手が伸びようとした瞬間、

 

 

「あら、貴方は確か……」

「――――っ!?」

 

 

突然声をかけられたことによってその場から飛び跳ねてしまう。こんな近くに誰かが近づくまで気づかないなんて何という不覚。だがまだよかったのかもしれない。もう少し声をかけられるのが遅かったら自分は別の意味で死にたくなっていたのは間違いない。

 

 

「ごめんなさい、驚かせてしまって……貴方、ヤミさんよね?」

「はい、そうですが……」

「そう、よかった。初めまして、ララ達がお世話になっています。母のセフィ・ミカエラ・デビルークです。よろしくね」

 

 

自分を驚かせてしまったと謝罪しながらも、温かい笑みを浮かべながらヴェールで顔を隠した女性が挨拶してくる。その容姿、雰囲気は常人離れ。初めて会う自分でもすぐに察することができた。目の前にいる女性がデビルーク王の妻であり、王妃。デビルーク女王なのだと。

 

 

「どうも、失礼しました。私は……」

 

 

何とか平静を取り戻しながら、改めて挨拶するために王妃と向かい合った瞬間

 

 

――――凄まじい吐き気と頭痛に襲われた。

 

 

「っ!? うっ……!?」

 

 

思わずその場に蹲ってしまう。何とか喉までせりあがってきたものは抑え込むも、頭痛は収まらない。頭が割れるような痛みが襲い掛かってくる。視界が赤と白に点滅している。わからない。どうして急にこんなことになっているのか。体調に問題はなかったはずなのに。

 

 

「だ、大丈夫!? 気分が悪いならすぐに医者を……」

 

 

すぐさま王妃が私の状態を心配して駆け寄ってきてくれる。本当なら感謝してしかるべき。なのに、今の私を支配しているのは全く真逆の感情だった。

 

呪いにも似た黒い感情。身を焦がすほどのナニカが私の中を荒れ狂っている。まるで私の中にもう一人の私がいるような感覚。それが嫉妬と怒りなのだとこの時の私はまだ知らなかった。

 

そのまま条件反射のように、自分の手が刃に変わりかけた刹那

 

 

「あ? 誰かと思えばセフィに……金色の闇か? こんなところで何してやがる」

 

 

散歩でもしていたのか、デビルーク王であるギドが偶然通りかかってくる。忌々しい。もう少しで終わっていたのに。悉くオレの邪魔をするつもりなのか。

 

 

「ギド? ちょうどよかった! ヤミさんが急に体調が悪くなったみたいで……」

「あ……? い、いえ……大丈夫です、王妃。すみません、心配をおかけしてしまって……」

「もう大丈夫なの……? そのソファに横になったほうがいいんじゃ」

「ありがとうございます……ですが本当にもう問題ありません」

 

 

先ほどまでの頭痛と吐き気が嘘だったように収まってしまう。同時に得も知れないあの感情も。一体何だったのか。屋上でも感じたが、やはり自分も体調不良なのかもしれない。

 

 

「しっかりしろよ、金色の闇。そんなんじゃ結城リトの護衛にならねえぜ」

「ギド!」

「わ、わーってるよ……それよりもどうしたんだ、今日は帰って来ないんじゃなかったのか?」

「ララが風邪だって聞いて時間を作ってきたのよ。今は部屋かしら?」

「そのはずです。今は結城リトがお見舞いに行っているところですが……」

「そう……ならもう少し時間を空けてからのほうがいいかしら」

「ケケ、お前も他人のこと言えねえじゃねえか。心配しねえでもリトは見舞いを終わらせて地球に帰ってるぜ」

「……? 結城リトはもう帰っているんですか……?」

 

 

ギドの言葉に思わず首をかしげてしまう。お見舞いが終わったのなら自分に声がかかっているはず。結城リトは自分に黙って勝手に一人で帰るようなことはしないはずだが。

 

 

「いや、夕食と風呂に誘ったら妹も連れてくるって行っちまったんだよ。それにしても遅えな……ちょうどいい、金色の闇お前」

「――――」

 

 

知らず体が動いていた。もはやギドの言葉も聞こえない。ただ走る。何のことはない、ただの取り越し苦労かもしれない。なのに胸騒ぎがしていた。理由はそれだけ。だがそれだけで十分だった。

 

 

ギドとセフィに一瞥をくれることもなく、金色の闇はただ全速力で自らの主のもとへと駆けるのだった――――

 

 

 

 

「――――初めまして。迎えに来たよ、リトお兄ちゃん♪」

 

 

ただその光景に目を奪われていた。どこか幻想的な雰囲気とともに赤毛の少女が自分を見下ろしている。

 

 

(だ、誰だ……!? なんであんなところに……それにお兄ちゃんって……!?)

 

 

分からないことだらけ。なんで街灯の上に立っているのか。明らかに不審者。加えて自分の名前を知っているだけでもおかしいのにお兄ちゃんという謎の呼び方。いくら考えても思い当たる節はない。だが本能的に直感していた。

 

 

(もしかして……いや、間違いない! あの娘は宇宙人だ……!)

 

 

目の前にいる赤毛の少女が宇宙人であると。それは今までの濃すぎる三か月の経験によるもの。その経験が告げている。あの女の子は地球人ではない。加えて、全く似ていないはずなのに、誰かに似ている気がする。容姿ではなく雰囲気、空気とでもいうべきものが。それが誰であったのか思い出すよりも早く

 

 

「あ、ごめんなさい。まだ自己紹介してなかったね。わたしはメア。リトお兄ちゃんとヤミお姉ちゃんを迎えに来たの♪」

 

 

赤毛の少女、メアはその名前を口にする。ヤミという自分の護衛であり宇宙一の殺し屋の名前。しかも自分同様にお姉ちゃんという呼び方。

 

 

「ヤミお姉ちゃん……? 君、ヤミの妹さんなのか……?」

「そうだよ。お姉ちゃんはわたしのことはまだ知らないけどね。でもヤミお姉ちゃんと一緒じゃないの? マスターはリトお兄ちゃんといつも一緒にいるって言ってたのに。リトお兄ちゃんの家にもいないみたいだし……どこかに出かけてるの?」

「い、いや……それは……」

 

 

うーん、と悩んでいる姿はまるで小さな子供のよう。純粋というか子供っぽい、ララに近い空気感じる。最初はかつての賞金稼ぎのように自分を狙ってきた宇宙人なのかと思ったがそうは見えない。なのに何かが警鐘を鳴らしている。

 

 

(この感じ……いつかセフィさんに感じた感覚……!? もしかしてとらぶるの……!?)

 

 

かつてセフィに感じた逃げ出さなくてはという強迫観念。セフィ曰く、とらぶるによる危機察知能力。それが目の前の少女から逃げるべきだと告げている。

 

 

「ま、いいか。じゃあ先にリトお兄ちゃんだけでも……あれ?」

 

 

メアを放置したままただ全力でその場を逃げ出す。とにかくここから離れなければ。あとは護衛であるヤミとの合流。ほんのちょっとだからとヤミを置いて戻ってきてしまったこのタイミングでこんなことになるなんて笑い話にもならない。ヤミにあとで何を言われるか。最悪デビルークに逃げ込めば何とかなるはず。だがそんな考えは

 

 

「どこに行くのお兄ちゃん。まだ話は終わってないよ?」

「なっ!?」

 

 

いきなり自分の目の前に現れたメアによって打ち砕かれてしまう。まるで瞬間移動したかのように現れたメアに驚愕するしかない。若干不機嫌になったのか、ジト目でこちらを見つめてくる可愛らしい姿からは考えられない身体能力。メアが間違いなく宇宙人であるという証拠。だがすぐに思い出す。逃げ出すことができなかったことではない、もう一つの危険が自分にはあったことを。それは

 

 

「ちょ、ちょっと待て、オレに近づく……ぶっ――—―!?」

「きゃっ!?」

 

 

とらぶるという名の攻撃。しかもこのタイミングでめったに発動しない四回目をかますというミラクル。そのまま自分はメアを巻き込みながら地面を転がってしまう。

 

 

「ひゃっ……!? く、くすぐったいよリトお兄ちゃん……」

 

 

気が付けば上の服を逃がせたままメアのおっぱいの先端を両手で摘まんでしまっている。一体なにがどうなったらこんなことになるのか。とらぶるもだが、それ以上に自分の非常識さが空恐ろしくなってしまう。

 

 

「っ!? ご、ごめん……!? わ、わざとじゃないんだ……! だから、その……!」

 

 

思わず反射的に土下座をしながらメアに頭を下げる。本当に久しぶりに初対面の女の子にとらぶるをしてしまったこと、忘れかけていたトラウマが蘇ったかのよう。このままでは狙われる以前に、セクハラで殺されてもおかしくない。体中が変な汗で滲んでいる感覚に戦々恐々とするも

 

 

「はーびっくりした……リトお兄ちゃん大丈夫? すごい勢いでコケてたけど……」

 

 

メアは若干頬を赤くしながらも気にしたそぶりもなく何故か自分のことを心配してくる。およそ理解できない反応。

 

 

「え……? オレは大丈夫だけど……その、メアは怒ってないのか?」

「怒る? なんでわたしが怒るの?」

「いや……その、えっちぃことしちゃったのに……」

「えっちぃこと……? 別に気にしてないよ? だってそれって生物として当然の欲求でしょ?」

「そ、それは……」

 

 

おかしなリトお兄ちゃんと言いながらメアは笑みを浮かべている。その姿と言葉にかつてのララの姿が浮かぶ。だが決定的に違うことがある。ララは羞恥心がないためにとらぶるをされても怒ることはないが、メアはその意味を理解したうえで許容しているということ。えっちぃことを恥ずかしいことではなく、当たり前のことだと認識している。ある意味人間の本能を動物的に理解しているのかもしれない。ある種のカルチャーショックを受けた気分。

 

 

「でもびっくりしちゃった。それがリトお兄ちゃんのテュケの能力なんだね」

「え……?」

 

 

だがそれ以上に衝撃を受けたのはその一言。『テュケ』という今まで聞いたことのない単語。

 

 

「テュケって何のことだ……? もしかして、とらぶるのことを言ってるのか?」

「とらぶる? とらぶるは知らないけど、リトお兄ちゃんの能力のことを言ってるなら合ってるよ。マスターから聞いてたけど本当にエッチな、お兄ちゃん風に言うならえっちぃ能力になってるんだね」

「じゃあメアはオレの能力のことを知ってるのか……!?」

「そうだよ。だって同じ目的のために生まれた能力を持ってるんだもん。だからわたしとリトお兄ちゃん、ヤミお姉ちゃんは家族なんだから! 素敵♪」

 

 

何かが琴線に触れたのか、メアはまるで子供のように喜んでいる。家族、という言葉に何か思い入れがあるのかもしれない。だが自分にはわからないことだらけ。ただ確実なのは目の前のメアは自分のとらぶるが何なのか、正体を知っているのだろうということだけ。

 

 

「同じ目的の能力って……どういうことなんだ? メアももしかしてとらぶるを持ってるのか?」

「? わたしはテュケ……ま、とらぶるでいいか。とらぶるは持ってないよ。わたしの能力はヤミお姉ちゃんと同じだから、証拠を見せてあげる!」

 

 

そう宣言した瞬間、赤毛のおさげがまるで生き物のように動き出し、同時にその先が巨大な刃に変化する。いや、変身する。

 

 

(これは……変身!? 本当にこの娘はヤミの妹なのか……!?)

 

 

もはや疑うことはできない。見間違えるはずない能力。ヤミが持つ変身能力をメアもまた持っているのだと。

 

 

「わたしはプロジェクト・イヴで生み出されたヤミお姉ちゃんのデータを基に生み出された第二世代変身兵器。マスターはもう一つの計画、プロジェクト・ネメシスで生み出された変身兵器。リトお兄ちゃんが持っているとらぶるは三つ目、プロジェクト・テュケによって生み出されたものなの」

 

 

どこか誇らしげにメアは自らの出自と正体を明かしてくる。ヤミが自らの出自を明かしてくれた時とは対照的。きっとメアは生体兵器としての自分に誇りを持っているのだろう。マスターという人物が何者なのかも気になるが今聞かなくてはならないことは一つだけ。

 

 

「その、プロジェクト・テュケって何なんだ……?」

 

 

自分が持つとらぶるが生み出されたという計画。その正体。もしかしたらそれが分かればずっと悩まされてきたこの能力の解決の糸口がつかめるかもしれない。そんな期待は

 

 

「ごめんね、リトお兄ちゃん。わたしも詳しいことは知らないの」

「は…………?」

 

 

メアのテヘペロしながらの予想外の返答によって裏切られてしまう。

 

 

「な、なんで知らないんだ!? 今まで散々自慢げに話してたのに……!?」

「だっていくら言ってもマスターが教えてくれないんだもん。時期が来たら教えてくれるって」

 

 

マスターのいじわるっと頬を膨らませがら拗ねているメアには申し訳ないが一気に肩の力が抜けてしまった。もしかしたらこの娘に危険はないのではと思ってしまうほど。

 

 

「でも大丈夫だよ。マスターならきっと教えてくれると思うから。だからわたし達と一緒に宇宙に行こう、リトお兄ちゃん♪ ヤミお姉ちゃんはいないみたいだし、先に行って待っててくれればすぐに連れてくるから!」

 

 

屈託のない笑みとともにメアはこちらに差し出してくる。疑うことを知らない、まるで家族に向けられているもの。きっとメアにとっては兄である自分に一緒に家に帰ろうと言っているようなものなのだろう。だが

 

 

「ごめん、メア……オレ、君と一緒には行けない」

 

 

自分はその手を取ることはできない。少なくても今はまだ。

 

 

「……どうして? 一緒に来てくれたらとらぶるのこともマスターがきっと教えてくれるのに?」

「それは確かに気になるけど……オレがいなくなったらみんな心配するだろうし、今はまだ一緒には行けないんだ」

 

 

ぽかんとしているメアに向かってできるだけ諭すように告げる。別にメアを疑っているわけではないがマスターがどんな人物かは分からない。行くにしても一人ではやはり危険すぎる。しかし

 

 

「そうなんだ……なら仕方ないよね。教えてあげる、リトお兄ちゃん。わたしには嘘は通じないってこと♪」

 

 

メアはそれまでとは違う。獲物を前にしたような笑みを見せながら変身能力によって髪を操り自分に向けてくる。そのあまりの速さに反応すらできない。だがいつまでたっても痛みはやってこない。代わりに急激な眠気が襲ってくる。視界が暗転しながら黒に染まっていく。

 

 

『っ!? な、何だ……? ここは、オレの家の風呂……? 確かメアに攻撃されて……』

 

 

気が付けば視界には見慣れた自分の家の浴室。いつまにか自分は全裸になっている。だが分からない。自分は確かメアと一緒にいたはず。いつのまに家に帰ってきたのか。もしかして今までのことは夢だったのか。そんなことを考えていると

 

 

『え……? なんだ、泡が……?』

 

 

浴槽のお湯から泡が浮かんでくる。しかも尋常ではない量。同時に凄まじい既視感に襲われる。確か以前にも全く同じことがあったはず。あれは確か

 

 

『ぷはー、びっくりした! あ、リトお兄ちゃん! よかったうまくいったみたいだね♪』

 

 

それを思い出すと同時に湯船から少女が姿を現す。あの時と違うのは、その少女がメアであるということ。だが驚いたのもつかの間。違う意味で自分は慌てるしかない。

 

 

『メ、メア……!? どうしてこんなところに……じゃなくて!? なんで裸なんだよ!?』

 

 

なぜならメアは全裸、生まれたままの姿だったから。風呂だから当たり前と言われればそれまでだがいくら何でも直視できない。しかも全く隠す気が見られない。

 

 

『なんでって、これはリトお兄ちゃんのせいでわたしのせいじゃないよ?』

『オ、オレのせい……? 何のことだ……?』

『今、精神侵入(サイコダイブ)っていうわたしの変身能力でリトお兄ちゃんの心の中にお邪魔してるんだ。この世界はリトお兄ちゃんの心に強く残ってる記憶を再現してるの。最近、これと同じシチュエーションで何かびっくりすることがあったんじゃないかな?』

 

 

無邪気に微笑みながらメアは種明かしをしてくる。まさか心までつながることができなんて。同時に思い出す。風呂場。いきなり現れる女の子。こんな場面、忘れるわけがない。自分にとっては運命を、人生を変えるほどの出会いがあった瞬間。その女の子の姿が脳裏に浮かんだ瞬間

 

 

『――――』

 

 

突然、微笑んでいたメアの表情がなくなってしまう。無表情。その眼には先ほどまでの好奇心に満ちた光は残っていない。あるのは機械のように冷たい瑠璃色の瞳だけ。

 

 

『そうなんだ……ダメだよ、リトお兄ちゃん。デビルークはわたし達の敵なんだから』

『メア……? いったいどうし』

 

 

豹変した態度を見せたメアに問いただそうとした瞬間、世界が一気に光に包まれた――――

 

 

 

 

「う、ううん……な、何だ……オレ、一体……?」

 

 

いきなり寝ていたところをたたき起こされたような感覚に襲われながらも何とか体を起こす。そこには

 

 

「ヤ、ヤミ……?」

 

 

自分を守るように背中を向けながら金の髪をたなびかせているヤミの姿があった。

 

 

「大したものですね……生体との物理融合、精神接続まで可能とは……」

 

 

淡々と、まるで感情を感じさせない声でヤミはメアに向かって話しかける。その表情はこちらから見えない。それでもその様子がいつもと違っていることだけは分かる。

 

 

「よかった、待ってたんだよヤミお姉ちゃん♪ わたし、メアっていうの。リトお兄ちゃんとヤミお姉ちゃんを迎えに来たんだ! 一緒にマスターのところに行こうよ。そこに兵器としての幸福があるってマスターが言ってたし、宇宙でたった四人の家族だもん。仲良くしようよ!」

 

 

ヤミに会えたことが嬉しかったのか、先ほどの豹変が嘘のように目を輝かせながらメアはしゃべり続ける。先ほど見せた変身能力。きっと二人が宇宙で唯一の姉妹であることは間違いない。だが

 

 

「姉妹も、兵器としての幸福も関係ありません……」

 

 

ヤミは告げる。変身兵器としての自分も、宇宙一の殺し屋である金色の闇としての自分も関係ない。ただあるのは

 

 

「――――彼に手を出したら私は貴方を敵と見なします」

 

 

護衛として主人である結城リトを守ることだけ。その冷たい深紅の瞳が容赦はしないと告げている。

 

 

「素敵な眼……♪ それに、ヤミお姉ちゃんと性能を比べられるなんて……素敵♪」

 

 

呼応するように高揚し、瞳に悦びを浮かべているメア。

 

 

 

それが変身兵器である二人の姉妹の初めての出会い。そして戦いの始まりだった――――

 

 

 

 

 




作者です。第二十四話を投稿させていただきました。

今回はメアの登場、そしてヤミ対メアの開始のエピソードになります。

ヤミをリトの護衛にしたのもこの展開にもっていきたかったのが理由の一つでした。原作では見られなかった展開の一つです。

メアについては七話で最初に名前が出てから思ったよりも長くなってしまいましたがようやく登場となります。リトのことを兄だと認識しているので原作よりも初対面時の好感度は高くなっています。ネメシス同様、このSSの起承転結の転を担うキャラなので楽しみにしていただけると嬉しいです。では。


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