もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第二十九話 「怒り」

「…………」

 

 

目の前に現れたララとヤミを前にして声が出ない。言葉が浮かばない。本当なら感謝しても感謝しきれないタイミング。自分を助けに来てくれた二人には頭が下がらない。申し訳なさすらある。だが今この瞬間だけは本当にこの場から離れたかった。

 

 

「…………相変わらずえっちぃですね。心配していましたが余計なお世話だったようです」

「元気そうでよかった! でもなんでリト、下着だけになってるの? もしかしてとらぶるで脱いじゃったの?」

「い、いや……似たようなもんかな、はは……」

 

 

いつもと変わらぬこちらを軽蔑するような視線をジト目で送ってくるヤミと、それとは対照的にいつもと同じ明るさでこちらの無事を喜んでくれるララ。というかとらぶるで自分が脱ぐなんてどういうことなのか。相手だけでなく自分まで脱がす能力なんて意味不明すぎる。だが笑い事ではないのかもしれない。もしかしたらそれがとらぶるの悪化した到達地点かもしれないのだから。

 

 

(流石に自分で脱ぎましたなんて言えないし……でもよかった。ララも病気は治ってるみたいだし、ヤミもいつも通りだ……)

 

 

自分の忘れたい黒歴史には蓋をしながらもとりあえず安堵する。自分の安否ではなく二人の状態に。もうデビルーク風邪は治ったのか、ララはいつものようにピンピンしている。直接ララが助けに来てくれるなんて少し予想外だったが。ヤミについても同じ。ネメシスから聞かされた目的に加えて、最後の別れの瞬間の姿から落ち込んでしまっているのではと心配していたのだがどうやら杞憂だったらしい。とにもかくにも後はどうやって気づかれないように自然に服を着ながらこの場を脱出するかだけ。しかし

 

 

「ほう、まさかデビルーク王でも親衛隊でもなくプリンセスが直接お迎えとは……どうやら婚約者候補というのは嘘ではなかったようだな」

 

 

それを遮るように黒い浴衣姿のネメシスは楽しそうに笑みを浮かべながらララとヤミに対峙する。自分たちの隠れ家が見つかってしまったというのに全く焦りも恐れもない。予定通りだといわんばかりの余裕っぷり。

 

 

「あなたは誰……? ヤミちゃんの妹っていうメアちゃん?」

「いいや、メアはそこの赤いユカタを着ている方だ。初めまして、私はメアのマスターであり変身兵器のネメシスだ。ヨロシクな、プリンセス」

「ネメちゃんだね。分かった、よろしくね」

「ネメちゃんか……ふむ、悪くないな。流石デビルークのプリンセス、ちゃんづけなど初めてだよ」

 

 

くくく、と満更でもない笑いを見せているネメシス。対してララはまるで新しい友達の名前を覚えるようにうんうん頷いている。ある意味いつもと変わらないララにどこか呆れを通り越して安堵してしまう。どこに誘拐犯で危険かもしれない相手にちゃんづけする奴がいるのか。恐らく宇宙でもララくらいのものだろう。だが

 

 

「…………」

 

 

ネメシスとは対照的にメアは冷たい視線をララに向けている。いつもの姿からは想像できないような豹変ぶり。その証拠に無意識なのか、舐めていた飴を噛み砕いてしまっている。

 

 

「どうしたメア。黙っていないでお前も何か言ったらどうだ? それとも柄にもなく緊張しているのか?」

「……ううん。でもいいの、マスター? その人、デビルークなんでしょ。だったらさっさと消去(デリート)した方がいいんじゃない、マスター?」

 

 

どこか機械のような冷たい瑠璃色の瞳でララを捉えながらメアは告げる。デビルークは自分達の敵だと。それはメアにとっては当たり前のことなのかもしれない。自分が生まれた理由である存在意義。その宿敵であるデビルーク王の娘が目の前にいるのだから。

 

 

「ヤミお姉ちゃんもそんな人と一緒にいたらダメだよ。デビルークはわたし達の敵なんだから」

「……話が見えませんね。どういう意味ですか?」

「ふむ、そういえば金色の闇はまだ知らなかったか。ちょうどいい、教えてやろう。私達、変身兵器が生まれた意味と理由を」

 

 

どこか嫉妬にも似た様子を見せているメアを宥めながらネメシスは再び語りだす。自分も聞かされた変身兵器の歴史。加えて自分の持つとらぶるの正体も。

 

 

「……というわけだ。これで分かっただろう。私達にとってデビルーク王をはじめとしたデビルークが敵だという意味が」

「…………」

 

 

ネメシスの話を聞き終えたまま、ヤミは無表情のまま立ち尽くしている。微動だにしない。だが無理もないのかもしれない。

 

 

(ヤ、ヤミの奴……大丈夫なのか……? まさか、ネメシス達と同じようにデビルークと戦おうとするんじゃ……!?)

 

 

不意の思い出すのは屋上で聞かせてもらったヤミの生い立ち。兵器として生み出され、戦うことしかできず殺し屋として生きてきた人生。それでも今の護衛としての地球の生活も悪くないと言っていたヤミ。それがまた兵器としての生き方に戻ってしまうのではないかという不安。

 

 

「なるほど……そういうことですか。ならちょうどいいです。私もデビルーク王は倒さなければいけないと考えていましたから」

「っ!? そ、そんな……ヤミ、お前どうして……!」

 

 

それが的中してしまったのか。ヤミはそんなことを宣言する。このままではあのエヴァとかいう人の思い通りになってしまう。それだけは何とか防がなければ。そんなことを考えるも

 

 

「あのはれんちぃなセクハラ魔人には一度、制裁を加えないと気が済みませんので」

「え……?」

 

 

ヤミはただ淡々と気にした風もなくそんなことを口にする。思い出すのはデビルーク王が学校で起こしたセクハラ騒動。どうやらまだヤミの中ではそれはまだ終わってないらしい。もしかしたらあの時の喧嘩の決着をつけるという意味なのかもしれない。どちらにせよ、ネメシス達が言っているデビルークが敵とは全く似て似つかない、人間らしい個人的な理由。えっちぃことが嫌いなヤミらしい理由だった。

 

 

「あはは、確かにパパにはお仕置きが必要かもね。ママに怒られたのに最近またどこかの星に行って遊んでたみたいだし。今度わたしと一緒にパパにお仕置きしよっか?」

「……ぜひお願いします。プリンセスが一緒ならあのエロオヤジにも一杯食わせることができるかもしれません」

「お、お前らな……」

 

 

変なところで意気投合している二人に呆れるしかない。心配していたこっちがバカみたいだった。そして雇用している護衛はおろか、実の娘からもお仕置き認定されるここにはいないデビルーク王。セフィさんに怒られても全くめげてないあたりがあの人が王たる所以なのかもしれない。

 

 

「なるほど、実に面白そうな話だが……変身兵器としての存在意義はどうでもいいということかな、金色の闇?」

「……それは私達を造った者たちの意志でしょう。私の意志ではありません。私が戦う理由は私が決めます」

「ほう、面白いことを言う。まるで自分がヒトとして生きているような物言いだな」

「そうです。私は兵器ではなく、人間ですから」

 

 

迷うことなく、ヤミは自分が人間だと告げる。いつかとは違う、何か確信を得たような姿に知らず魅入ってしまう。自分がいなくなっている間にいったい何があったのか。

 

 

「そう転んだか……やむを得んな。メア、金色の闇と遊んでやれ。以前のような手加減なしの全力でな」

「……いいの、マスター? お姉ちゃんのダークネスを目覚めさせるには殺しちゃいけないんでしょ?」

「今のままの金色の闇では話にならん。多少強引になってしまうがお前の力でダークネスを呼び起こしてやれ」

 

 

何かを思案しながらもネメシスはメアに命令する。前とは違う、本気での戦闘でヤミを圧倒しろと。

 

 

「分かった♪ マスターはどうするの?」

「私はせっかくお越しくださったプリンセスのおもてなしをするさ。場合によってはコレを使っても構わん」

「ほんと!? 素敵♪」

 

 

ネメシスから小さな箱を受け取りながらメアは喜悦の表情を浮かべている。まるでこれからのことを想像して興奮が抑えきれないかのよう。

 

 

「じゃあわたしとまた遊んでくれる、ヤミお姉ちゃん? リトお兄ちゃんが来てくれてから性欲は解消できてるけど、こっちは溜まってたから!」

「…………色々と聞きたいことはありますが構いません。元々そのつもりでここに来ましたから」

「っ!? ちょ、ちょっと待てってヤミ!? そんなことしたらまた……」

 

 

一瞬、形容しがたい負の視線を自分に向けながらもヤミはそのままメアに導かれるように部屋を出ていこうとしている。気圧されながらもなんとかそれを止めようとする。また同じようなことになったらどうするのか。もうあんな姿のヤミは見たくはなかった。だが

 

 

「……護衛の心配をするなんて正気ですか、結城リト。貴方はここで待っていて下さい。貴方を守ることが私の戦う理由ですから」

 

 

いつか聞かされた冗談とともにヤミは微かな笑みを浮かべながらその場から離れていく。その顔は既に無表情に戻ってしまっている。もしかしたら見間違いかと思ってしまうもの。だがデビルーク王との喧嘩の時とも、地球でのメアの戦いとの時とも違う。確かな意志、決意のようなものが感じられる。それを前にして自分にヤミを止めることはできなかった。いや、きっとその必要すらないのだろう。ヤミの言うように護衛の心配なんてする必要なんてない。それがヤミへの信頼に値するのだから。

 

 

「さて、それでは私達も始めようか、プリンセス。それともお茶会のほうがいいかな?」

「……ネメちゃん、どうしてさっきメアちゃんにあんなことするように言ったの?」

「あんなこと……? ああ、気にすることはないさ。殺すようなことはしないさ、それに喧嘩のようなものだ」

 

 

ララは何かを気にするようにネメシスに問いかける。対してネメシスは首をかしげながらも全く気にした素振りはない。ネメシスからすれば特に気にすることではなかったのだろう。だが自分にはそうではない。

 

 

(なんだ……? ララの奴、少し様子がおかしいような……)

 

 

ララの様子がいつもと違う。ここで再会してからわずかに覚えていた違和感。

 

 

「違うよ、ネメちゃん。あれは喧嘩じゃないよ」

「? 何が違う? 確かプリンセスにも双子の妹がいたはずだろう。姉妹喧嘩ぐらいしたことがあるだろうに」

「そうだよ。でも喧嘩は仲直りするまでが喧嘩なんだよ。ネメちゃんやメアちゃんがしてることとは全然違うの」

 

 

ララは告げる。喧嘩は仲直りするまでが喧嘩なのだと。そうすることで今までよりももっと仲良くなれる。家族も、友達もそれは同じ。

 

 

「リトのこともそうだよ。どうして仲良くできないの? 喧嘩するよりよっぽど簡単なのに。リトがいなくなって、みんなすっごく心配してたんだから。わたしも、ちょっと怒ってるんだよ?」

「ラ、ララ……?」

 

 

思わずララのほうに目を奪われてしまう。そこには今まで見たことのない表情をしているララがいた。どこか真剣な表情で、まるで子供を叱る母親のような、妹を叱るような姉のような気配がある。そうやく悟る。今、ララは怒っているのだと。あの誰とでも仲良くなれる、笑顔しか見せないララが初めて見せる怒り。

 

 

「なるほど……だが残念だが改めるのは難しいな。私は誰かの物を自分の物にするのは好きだが、逆は大嫌いなのでね。結城リトは既に私の下僕だ。返す気はないよ」

 

 

それを肌で感じ取りながらもネメシスは煽るだけ。どこまでもドSな本性を隠す気もないらしい。

 

 

「いいよ。なら返してもらうから。リトはわたしの婚約者候補なんだから!」

「フフ……兵器としての血が騒ぐよ。デビルーク王でないのは残念だが、その血を継ぐプリンセスの力を見せてもらおうか」

 

 

ララは結城リトを取り戻すために、ネメシスは兵器としての存在意義を全うするために。

 

 

デビルークと変身兵器。二つの宿命がここに交わる時が来た――――

 

 

 




作者です。第二十九話を投稿させていただきました。

タイトルにもしたように、今回はララの怒りがメインになっています。原作でもほとんど怒ることのないララですが、リトが攫われたことでこのSSでは初めて怒ったことになります。同時に取り戻すという原作では見られない独占欲もほんの僅かに含まれています。リトとの関係性が原作とは異なっているための差異です。

話の展開上、今回は分量が少なくなってしまいましたが次話からヤミとメアの再戦、そしてララとネメシスの戦いになります。楽しみにしていただけると嬉しいです。では。

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