もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第三十一話 「心」

「うん、この辺でいいかな? ここまで離れればマスターの邪魔にはならないだろうし」

 

 

背中に生やしている変身の翼を解除しながら砂漠の一画に降り立つ。もうマスターやリトお兄ちゃんがいた建物が見えないくらい遠くになった。ここまでくればマスターの邪魔にはならないはず。同時にこれから始める素敵な戦いにも邪魔は入らない。

 

 

「じゃあわたし達も始めよっか、ヤミお姉ちゃん♪ 地球人ごっこはやめる気になった?」

 

 

自分と同じように翼を解除し、こちらを見つめているヤミお姉ちゃんとの姉妹喧嘩の続き。二度目の性能比べ。気になっていたのはあの時のヤミお姉ちゃんの状態。兵器になり切れていない中途半端な有様。わたしが楽しみにしていたのは宇宙一の殺し屋と呼ばれていた頃のお姉ちゃんとの戦い。今度こそそれを実現したい。それがマスターの目的にも繋がっているはず。

 

 

「……やってみれば分かるでしょう」

 

 

お姉ちゃんはそれ以上口にすることなく、こちらを見据えているだけ。前の戦いの最後の瞬間に見せたような素敵な眼ではない。ならわたしがすることは一つだけ。元々わたしにはこれしかない。それこそがわたしの存在意義であり生きる意味。

 

 

「マスターに命令されちゃったからね。今度は最初から全力(フルスロットル)で行くよ、お姉ちゃん♪」

 

 

戦うこと。それがわたしの、わたし達の全て。それ以上に素敵なことなんてないのだから。

 

宣言と同時に自らの髪留めを外し、おさげを振りほどく。それがわたしの全力の証。ヤミお姉ちゃんがそうであるように、髪の毛は変身を行う上で最も変化させやすく操りやすい部位。前回は手加減していたので使わなかったが今回は違う。

 

 

「あは♪」

 

 

そのまま全速力でお姉ちゃんへと向かう。既に自分の髪の穂先は無数の黒い刃に変身している。オリハルコンという名の絶対物質。

 

 

「っ!」

 

 

わたしの斬撃をヤミお姉ちゃんは紙一重のところで回避する。砂埃が上がり、視界が遮られるも関係ない。それすらも吹き飛ばすだけの力と速さで刃を繰り出す。変幻自在。全方位。刃の網のようにお姉ちゃんを捉えていく。

 

 

「逃げてばっかりじゃ勝負にならないよお姉ちゃん!」

 

 

逃げ場はない。前回と違い今回は戦場が砂漠。足場の状態は遥かに悪く、動きは制限される。加えてお姉ちゃんではオリハルコンの刃は防げない。最後に見せたダークネスの片鱗である光の剣であれば話は変わってくるがそれを見せる気配もない。

 

 

「っ!」

「終わりだね、お姉ちゃん♪」

 

 

お姉ちゃんの動きを先読みし、逃げ道を奪う。間髪入れずに刃を振り下ろす。ちょっと呆気ないけどこれでおしまい。後は追い詰められたお姉ちゃんの中のダークネスが発現するのを待つだけ。なのに

 

 

わたしの黒い刃は、お姉ちゃんの金色の刃によって受け止められてしまった。

 

 

(っ!? 何で……!? お姉ちゃんじゃわたしの攻撃を防げるはずが……)

 

 

目を見開くしかない。目の前には自分の攻撃を刃で受け止めているお姉ちゃんの姿。おかしい。分からない。わたしのオリハルコンの刃ならお姉ちゃんの変身を粉々にできるはず。

 

 

「……動きが止まっていますよ、メア。なら今度は私の番ですね」

「うっ!?」

 

 

わたしの動揺を見逃さないとばかりにお姉ちゃんは反撃に転じてくる。先の焼き回しのように無数の刃による斬撃。違うのは攻めてきているのがお姉ちゃんで防いでいるのがわたしになってしまっていること。何とか体勢を整えながら反撃するもお姉ちゃんの刃は砕けない。砕くことができない。無数の火花が散り、砂漠は凄まじい衝撃に包まれていく。息つく間もない高速戦。未だ状況は五分。なのに、焦りが、不安がわたしを支配していた。

 

 

(お姉ちゃんの変身の構成物質は前の時と変わってない……! じゃあ、これは……!?)

 

 

幾度となく交差する自分とお姉ちゃんの刃。その強度は全くの互角。でもあり得ない。お姉ちゃんの変身はオリハルコンではない。なら考えられるのは一つだけ。

 

 

(わたしがイメージで、変身能力でお姉ちゃんに劣ってる……!?)

 

 

変身能力の要であるイメージ。それが劣っているということ。変身は使用者の空想を具現化する能力。より強いイメージ、精神力を持つことでその力は増していく。前回はオリハルコンという構成物質の知識を持つ自分がお姉ちゃんを凌駕していた。でも今は違う。お姉ちゃんは今、イメージの力だけでその差を覆している。

 

メアは知らない。それこそが変身能力の基本にして極地。イメージという名の『心』の強さこそが変身兵器の真の力。ただの兵器では生み出せない、人間であるからこそ可能な、創造主たるエヴァが求めた『兵器の力を持ちながらも人間の意志をもって戦う存在』

 

 

結城リトを守るという人間としての答えを得た、金色の闇ではないイヴの真価。

 

 

「ま、まだだよ! わたしは負けてない! 性能はわたしの方がお姉ちゃんよりも上なんだから!」

 

 

胸に生まれかけた何かを振り払うように、ただ全力で攻撃を繰り出す。確かに武器の優劣はなくなったがそれ以外は劣っていない。スペックは間違いなく第二世代の自分に分がある。兵器に成り切りながらお姉ちゃんを動きを予測し、反撃に転じる。覆しようがない、兵器としての性能差。それを

 

 

「――――遅いですね」

 

 

ヤミお姉ちゃんは軽々と飛び越えてしまう。まるでそんなものは初めからなかったのだと告げるように。わたしの渾身の攻撃が、速度が、戦法が、その全てが通用しない。

 

 

「な、なんで!? 前はちゃんとできたのに……! なんでヤミお姉ちゃんにはできて、わたしにはできないっていうの……!?」

 

 

ただ駄々っ子のように喚くことしかできない。なんでこんなに差ができているのか。前は自分が上だったのに。たった一週間でこんなにも差ができるなんてあり得ない。

 

『成長』

 

それが生体兵器のもう一つの可能性。決まった性能しか発揮できない兵器では持ちえない進化。無論それはメアにもできる。だが最初から決まった性能しか出せないと思い込んでいるメアと結城リトを守るために強くなりたいと願ったヤミ。僅かな、それでも確かな差。

 

 

――――今までずっと戦いの中で生きてきた。マスター・ネメシスの導きのままに。マスターはいつも正しかった。戦うのは楽しくて、自分が生きてるって実感できる素敵なことだった。なのに、今は違う。

 

――――こわい。こわいよ、マスター。

 

ヤミお姉ちゃんと戦うことが。ううん、お姉ちゃんと戦うことで、何かが壊れてしまいそうで。だから言ってよマスター。いつもみたいに惑わされるなって。じゃないと、わたし――――

 

 

瞬間、黒い刃が粉々に砕かれてしまう。まるでわたしの心が砕けてしまったみたいに呆気なく、バラバラに。

 

 

それがわたしとヤミお姉ちゃんの戦いの終わり。そしてわたしの敗北だった――――

 

 

 

「…………」

 

 

ただ機械のように自分に刃を突き付けているお姉ちゃんを見つめる。一週間前の戦いの最後と同じ状況。なのにわたしは全然笑えていない。楽しくない。あるのは今まで感じたことのない苛立ちだけ。

 

 

「……どうしてとどめを刺さないの? お姉ちゃんは宇宙一の殺し屋なんでしょ?」

 

 

何でとどめを刺さないのか。そうしてくれた方が楽になれるのに。兵器としての役目を果たせなかったわたしは欠陥品、兵器失格。もうマスターのところにも帰れない。

 

 

「もしかして妹だから殺すのを躊躇ってるの? 気にしなくてもいいよ、死ぬんじゃなくて壊れるだけなんだから」

 

 

兵器としての末路。壊れてスクラップになるだけ。だからそれでいい。このまま惑わされずに兵器として終わりたい。なのに

 

 

「いいえ、貴方は人間です。メア」

 

 

お姉ちゃんはそれすらも許してはくれなかった。

 

 

「……何言ってるの、わたしは兵器だよ。そうやって生きてきたし、そのために生まれてきたの。だから」

「違います。私も、貴方も、ネメシスも人間です。人間は、どうやっても兵器にはなれません」

「……っ! そんなわけない! わたしは兵器だから、だから戦うことだけがわたしの楽しみなの! 戦いの中にいる時がわたしが生きている瞬間なんだから――――!」

 

 

否定する。お姉ちゃんの言っていることは間違ってる。だって正しいのはマスターだから。そのおかげでここまで生きてこられたのに、それを否定することなんてできない。だけど

 

 

「ならどうして貴方は、結城リトと一週間も兄妹ごっこをしていたんですか」

「え……?」

 

 

ヤミお姉ちゃんの言葉に、頭が真っ白になってしまう。

 

 

「一週間、彼と一緒に生活していたのでしょう。どうしてそんなことを?」

「っ! それは……マスターにそうするように命令されたからだよ! それ以上の意味なんてない!」

「そうですか……なら、結城リトと一緒にいることは楽しくなかったのですか?」

「リト、お兄ちゃんと……?」

 

 

言われてようやく気付く。どうして自分はあんなにお兄ちゃんに拘っていたのか。テュケを持っているから。初めはそれだけだったはず。でもそれがわたしにとってのお兄ちゃんだと理解した時に何かが変わった。

 

お兄ちゃんは人間だ。兵器のわたしとは違う。なのに楽しかった。一緒におしゃべりして、一緒にご飯を食べて、一緒にいることが。知らず、マスターの命令でそうしていたことを忘れてしまうぐらいに。

 

 

「あなたは家族が欲しかったんです、メア。それは兵器としてのあなたではなく、人間としてのあなたの望みのはずです」

「――――」

 

 

致命的に、何かがズレた気がした。決定的な何か。今まで気が付かなかった、知らないふりをしていた自らの本心。

 

『家族』

 

誰かとのつながり。マスターとのつながり以外にもそれを求めていたわたしのココロ。ヤミお姉ちゃんとリトお兄ちゃん。マスターと一緒に二人とも一緒にいれたらと夢想した。それはきっと素敵なことだと。でも矛盾している。兵器ならそんなことは考えない。ならわたしはいったい何なのか――――

 

 

「ちがう……違う違う違う違う!! わたしは兵器なの、だから今こうして、でも、だから、だから……うるさいうるさいうるさい! お姉ちゃんだって同じくせに、どうしてそんなわたしがおかしくなるようなことばっかり言うの――!?」

 

 

頭が痛い。ただ叫ぶしかない。もう何も考えたくない。兵器は考えることなんてしない。そうだ。もうどうでもいい。兵器だとか人間だとかそんなことはもうどうでもいい。

 

 

「ならいいよ……見せてあげる、わたし達が何なのか。このN.S剤でね」

 

 

マスターから渡された切り札を箱から取り出す。一本の注射器。

 

 

「N.S剤……? それはいったい……」

「わたし達、変身兵器のナノマシンを限界以上に暴走させる薬だよ。本当はお姉ちゃんのダークネスに対抗するためのとっておきだったけど……もういいよね。だって、お姉ちゃんが悪いんだから」

「っ!? 待ってください、メア! それは――――」

 

 

本能的にN.S剤の危険を感じ取ったのかお姉ちゃんはすぐさま向かってくるけどもう遅い。それよりも早く注射器を首筋に突き立てる。わたしがわたしじゃなくなってしまうかもしれない。でも構わない。このまま苦しい思いをするぐらいならその方がずっと――

 

 

瞬間、変身の光が辺りを包み込んでいく。それがメアの『兵器』としての力が覚醒した瞬間だった――――

 

 

 

 

 




作者です。第三十一話を投稿させていただきました。

今回はヤミとメアの再戦の前半。前回のララとネメシスの戦いは原作を意識してギャグ寄りの展開でしたがこっちは逆にシリアス寄りになっています。中途半端にギャグを入れるよりはいいだろうという判断です。どうしてもヤミ関係はシリアスになってしまいますがご理解ください。

長くなりましたがメア・ネメシス襲来編もあと二話。今話が短かった分、次話は早めに投稿できると思います。では。
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