もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第三十四話 「楽園」

(あれ……なんだ、ここ……?)

 

 

気づけば見たことのない空間にいた。まるで現実感が湧かない。不思議の国のアリスになってしまった気分。

 

 

(もしかして、これって夢の中か……? またメアの仕業……ではないか。もうあの子はいないはずだし)

 

 

うーん、と悩みながらもここが夢の中だというのはすぐに理解できた。一週間、何度も繰り返されたメアの精神侵入の賜物だろう。夢を夢だと認識して動けるなんて、もしかしたら結構すごいことなのでは。

 

 

(あれは……お菓子の山……?)

 

 

いつの間にあったのか、それとも最初からそこにあったのか。見渡す限りのお菓子の山が広がっている。メアがいたら素敵、と目を輝かせること間違いなしの光景。ますますメアの仕業なのかと疑いたくもなるが肝心の本人の姿は見えない。一体何なのか。

 

 

(これは……マシュマロか? めちゃめちゃ柔らかいし、おいしいな……こっちはチョコか? でもなんか変な味がするし、固い……)

 

 

とりあえず本能のままにお菓子のかぶりついてみる。白くて柔らかい大きなマシュマロはまさに絶品だった。いつまででも食べれそうなほど。対してハート形のチョコはあまりおいしくはない。まるで食べ物ではないようだ。

 

辺りを見渡せばそれ以外にもたくさんのお菓子がある。小さなビーンズのような飴やシロップが溢れているケーキ。その中でも一際目を引かれたのは桃色のゼリー。見た目もそうだが、思わず吸い付きたくなるような魅力がある。そのままゼリーに口をつけようとするも、寸でのところで踏みとどまる。いや、固まってしまう。本能ではなく、理性で。

 

 

(夢の中で……変な夢……確か今のオレ、デビルークに泊まってるはず……寝てるはずなのに……ってことは、も、もしかして……!?)

 

 

瞬時にすべてを理解する。今の自分が置かれている状況。現状から導き出せる最悪の事態。それを回避するためにお菓子の山をかき分けながら夢の出口を必死に探す。瞬間、朝日にも似た光がすべてを支配した――――

 

 

「ん……んん、朝か……じゃ、じゃなくてっ!?」

 

 

まどろむ意識の中、ようやく目を覚ますことに成功する。だがすぐさま眠気を振り払う。目の前には

 

 

「あ、あぅぅ……はぁ……り、リトぉ? おふぁよう……しゅごいね、わたし、もうダメかと思っちゃった……」

 

 

目と鼻の先にララの顔がある。その表情は尋常ではない。涙目で頬は紅潮し、口から涎を垂らしている。息も絶え絶え。だがそれよりも問題なのはその唇。ピンクの柔らかそうな唇が自分の唇と今にも触れてしまいそうなほど近くにある。

 

 

「ご、ごめんっ!? わざとじゃないんだ……だから、だから……!」

 

 

脱兎のごとくその場から跳ね起き、ララから距離を置く。どうやら右手はおっぱいを、左手は尻尾を鷲掴みにしてしまっていたらしい。そこでようやく気付く。夢の中のお菓子がララの身体の一部を表現したものだったのだと。同時に戦慄する。もしあのままピンクのゼリーに口をつけていたらどうなってしまっていたのか。

 

 

「……? どうしてリトが謝るの……? 起こしに来たのはわたしだし……でも眠っててもとらぶるできるなんてすごいね」

「え……? オレ、眠ったままでとらぶるしてたのか……?」

「そうだよ? 起こそうとしたんだけどリト、全然起きてくれないし……だから寝てる間にとらぶる消費してあげようと思ったの。それならリトも恥ずかしくないと思って」

「そ、そうか……その、なんか本当にゴメン……でもできればもう起こしに来るのはいいのかな。お互いのために……」

「そう? わたしはいいんだけど……でもいつもよりとらぶるすごかったよ! 目がチカチカしたし、すっごく気持ちよかった!」

 

 

乱れた息を整えながらどこか満足げに笑みを浮かべているララに呆れながらも頭を下げるしかない。当然のように全裸なのでベッドのシーツと一緒にペケを慌てて探して渡すことで何とか服は着てもらうも、とらぶるのせいなのかララは足に力が入らずまともに立てない有様。仕方なくそのままベッドでしばらく休んでもらうことにした。

 

 

(まさか寝ている間もとらぶるが起きるなんて……オレ、マジでどうなってるんだ!? も、もしかしてとらぶるの回数が増えたのと関係あるのかも……!?)

 

 

ただ戦慄し、青ざめるしかない。まさか寝ている時まで発動するなんてどういうことなのか。しかもその被害もいつもの比ではない。いつもなら喘ぎ声をあげながらも(この時点ですでにおかしい)平気な様子だったあのララが今は完全に腰砕けになってしまっている。寝ぼけている間だから能力に制限がかかっていないのかもしれない。

 

 

(あれ……もしかしてオレ、もう誰とも一緒に寝れなくなっちゃったんじゃ……)

 

 

今更ながらにそのことに気づく。とらぶるがどうにかならない限り自分は誰かと一緒の空間では寝ることはできないのだと。色々と危険な傾向だと理解しながらもどうしようもない。今自分にできるのはララよりも絶対に早く起きるようにしなければいけないということだけ。そんな決意をしながらも、もう一つ確認しなければならないことがあったのを思い出す。それは

 

 

「そういえば……ララ、オレ、寝ている間にその……ララにキスしたりしてないよな……?」

 

 

自分がララにキスしてしまったのではないか、ということ。はっきりいってキスよりも凄いことをこれでもかとしてしまっているのだがそれでもこれだけは守らなければという一線。自分のためというよりはララのため。自分は違うがララにとってはファーストキスになるのだから。

 

 

「うん、してないけど……あ、でも違うところにならいっぱいキスしてくれたよ、ほら!」

「っ!? わ、分かった! ほ、ほんとに悪かったから、見せなくてもいいって!?」

「変なリト……でも、リトはわたしとはキスしたくないの?」

「あ、当たり前だろ……まったく、それと、その跡は誰にも見せないようにな……頼むから」

 

 

むー、と何故か不機嫌そうなララに困惑しながらもなんとか言い聞かせる。さっき見せられたララの胸にはいくつもの赤い跡、所謂キスマークがついてしまっている。下半身にもあったような気がするが見間違いだと思いたい。とりあえずはそれが他の誰かに見られないように願うしかない。

 

 

「ふう……じゃあ、そろそろ朝ごはんに行くか。みんな集まってくる頃だろうし」

「うん! わたしはもう大丈夫だから心配ないよ!」

 

 

若いからなのか、それともデビルークの回復力か。すっかりいつもの調子に戻ったララと共にデビルークの食堂へと向かう。それがデビルークでの暮らして始めてから一週間目、刺激的な朝の終わりだった――――

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

手を合わせながら朝食を終わらせる。流石デビルーク王宮だけあって料理も半端ではない。美柑の料理とはまた違う意味で完成されている。何よりも大きな食堂で食べるというのが大きいかもしれない。一週間たったがやはりまだ慣れれそうにはない。それだけではない。

 

 

「なあリト! この前生まれたギガイノシシの赤ちゃんが大きくなってきたんだ! 一緒に見に行かないか!」

 

 

朝食の時からどこか落ち着きがなく、そわそわしていたナナが関を切ったようにこちらにやってくる。まるで遊びに行くのが楽しみで我慢できない子供のような姿。

 

 

「ギ、ギガイノシシか……確か、こっちに来て初めに追いかけられた奴だったよな……」

「あ、あれはリトに遊んで欲しくてやったことだからな! 大きくなってあたしの言うことも聞いてくれるようになったし、もう大丈夫だぞ!」

 

 

思い出したのか、若干慌てながらもナナはそんなフォローをしてくれる。一週間前にデビルークに泊まりに来てからナナのテンションは上がりっぱなしで留まるところを知らない。ほぼ毎日自分を遊びに誘ってくれる。とても嬉しいのだが、いかんせん体がついていかない。今日は休憩もかねて全くできていない勉強をしたいと思っていたのだがどうしたものか。そんなことを考えていると

 

 

「そこまでにしておきなさい、ナナ。リトさんも困ってらっしゃるじゃない。本当にお子様なんだから」

 

 

逸っているナナを諫めるようにどこからともなくモモがやってくる。それにナナだけじゃなく、自分も一瞬ぎょっとしてしまう。何故なら

 

 

「お、お子様は関係ないだろ! 大体お前こそ最近妙にリトによそよそしくなって変じゃないか。今更猫被っても遅いぞ」

「ね、猫なんて被ってません! わたしはただその……ごほんっ! とにかくお姉さまの邪魔……じゃなくて、リトさんを困らせるようなことはやめなさいって言ってるの」

「ふん、いい子ぶっても無駄だぞ。あたし知ってるんだからな。お前がリトを電脳ガーデンに誘おうとして準備してるってこと」

「な……なんのこと? デタラメいうのはやめなさい!」

「なんだよ、初めに喧嘩売ってきたのはモモの方だろ! リトが誰と遊ぼうとお前には関係ないだろ!」

「ふ、二人もそのぐらいにしとけって……」

 

 

顔を合わせるなり二人の姉妹喧嘩が始まってしまう。ある意味様式美でいつもの事。何故双子なのにこんなに仲が悪いのか。もしかしたら双子だからこそなのかもしれない。喧嘩と称して殺し合いをする誰かさんたちに比べれば幾分マシなのは間違いないが。とにかく二人を止めなくてはと考えるも

 

 

「あ、また喧嘩してるの? ダメだよ、ちゃんと仲良くしなくちゃ。リトも困ってるよ」

「あ、姉上……!?」

「お姉様!? す、すみません……見苦しいところを見せてしまって」

 

 

騒ぎを聞きつけたのか、ララがやってきて二人をなだめている。二人もララには頭が上がらないのか落ち込んでしまっている。ああいうところを見るとララもお姉さんなんだなと実感する。あの感じを別のところでも見せてくれれば助かるのだが。そんなことを考えていると

 

 

「うん、じゃあ今日はみんなでリトと遊ぼう。それなら喧嘩にならないで済むでしょ? ね、リト?」

「え……? あ、うん……まあ、そうなんだけど……」

 

 

さも当然のようなララの提案に思わず頷いてしまう。確かにそれは間違いないのだが結局自分の負担は三倍になってしまう。一人では喧嘩になるならみんなで一緒に。遊びならまあそれでいいのだがララの場合、恋愛でも同じことを言いだしそうだから心配になる。そんなララの提案にナナはそれならいいかと納得し、モモは何故か申し訳ありませんと意気消沈している。

 

 

「そうだ、ヤミちゃんと美柑はどうする? 一緒に遊ぶ?」

「ごめんね、今日はちょっと宿題しようと思ってるから。明日また誘ってね、ララさん」

「私も今日は読みたい本があるので遠慮します。プリンセスは気にせず楽しんできてください」

 

 

同じようにララはヤミと美柑に声をかけるも二人は既に今日の予定を決めていたらしい。美柑はここにきてから進んでいなかった宿題をするつもりのようだ。自分もぜひそうしたいのだが今日は難しそうだ。ヤミはいつものように読書だろうか。デビルーク王宮には図書館のような書庫があり、そこに入り浸っているらしい。加えてここでは自分の護衛も必要ないため自由な時間も増えている。いろいろあったし、ヤミも羽を伸ばす意味では良い休暇になるだろう。とにかく自分はいつも以上に気合いを入れなければ。そんな中

 

 

「ケケ、盛り上がってるところ悪いが今日は結城リトはオレが預からせてもらうぜ」

 

 

いつからそこにいたのか、自分の肩にデビルーク王が乗っかっている。気配もそうだが、もはやそこが定位置になっているのはどうなのか。

 

 

「デビルーク王!? いつからそこに……!?」

「そんなことはどうだっていいんだよ。とにかく今日はオレ様に付き合え、リト。この前の続きだ、拒否権はねえぞ」

「この間の続き……? またお風呂に行くんですか?」

「ケケ、もっといいところさ。ってわけでこいつは借りていくぜ。またには女同士で遊ぶんだな、ララ」

「それはいいんだけど、わたし達は一緒に行ったらダメなの、パパ?」

「ああ、これは男同士の遊びだからな、じゃあ門のところで待ち合わせだ。遅れるんじゃねえぞ、リト?」

 

 

フハハハーとバカ笑いをしながらデビルーク王は一瞬で姿を消してしまう。あとには状況についていけない自分たちが残されてしまう。ただ分かるのはララたちと遊ぶよりももっと大変なことに自分が巻き込まれてしまったということだけだった――――

 

 

 

(とりあえず言われた場所に来たけど……いったい何なんだ? ろくな事じゃないのは間違いないだろうけど……)

 

 

げんなりしながらも出かける準備を済ませ、待ち合わせの場所である門まで向かう。しかしいったいどこに行く気なのか。まさか前のように女子高生にセクハラするために地球に行く気なのか。そうなったらこの通信機で直接セフィさんに連絡するしかない。直通できるようになっているので最悪の事態は避けれるはず。どうして自分がこんな苦労をしているのかと空しくなっていると

 

 

(あれは……ザスティンさん……?)

 

 

門には何故か親衛隊長であるザスティンの姿がある。よく考えればデビルーク王が出かけるのだから護衛がついていくのは当たり前なのかもしれない。だがそれにしては様子がおかしい。明らかに挙動不審。そわそわしながらきょろきょろあたりの様子をうかがっている姿は不審者そのもの。もし親衛隊でなければすぐ逮捕されるの間違いなしの怪しさだった。

 

 

「……ザスティンさん、何してるんですか?」

「っ!? リ、リト殿っ!? いえ、私はただ王宮の見回りをしていただけでして、はい!」

 

 

普通に声をかけただけなのにまるで飛び上がるほど驚きながらザスティンさんはしどろもどろになっている。いつか護衛をしてもらった時もおっちょこちょいなところはあったがここまで酷くはなかった。

 

 

「リ、リト殿こそ一体どうされたのです? ララ様はご一緒ではないのですか?」

「え、ええ……ちょっとデビルーク王に誘われて、ここで待つように言われたんですけど」

「デビルーク王に!? で、ではリト殿も一緒に行かれるつもりなのですか!?」

 

 

何故か今まで以上に狼狽しているザスティンさん。今更だが背中に嫌な汗がにじんでくる。ザスティンさんがここまで狼狽えるなんて、一体どこに自分を連れていく気なのか。もしかして命を落とすかもしれない危険な場所なのか。デビルーク王ならやりかねない。やっぱり来るべきではなかったかと後悔するももう遅い。

 

 

「お、ちゃんと来てたか。見直したぜ、リト。逃げ出すような腰抜けじゃなかったようだな」

 

 

ぴょこぴょこと尻尾を動かしながらデビルーク王が姿を見せる。いつも通りの不敵な笑みを浮かべた、傍目には悪戯好きな子供。だが戦闘に行くような空気は微塵も感じられない。

 

 

「じゃあさっさと行くとするか。誰かに見つかると面倒だからな。準備はできてるな、ザスティン?」

「は、宇宙船は既に用意できています。偽装も完璧です」

「よし、じゃあ行くぜ。おめえもさっさと乗りな、結城リト」

 

 

我先にと宇宙船に乗り込んでしまうデビルーク王とあきらめながら渋々操縦席につくザスティンさん。残されているのは全く事情が分からない自分だけ。

 

 

「あ、あの……行くってどこへ……?」

 

 

恐る恐る尋ねる。もはや逃げ場はないが、一応それだけは聞いておきたい。心の準備のために。

 

 

「決まってんだろ。『男のパラダイス』さ」

 

 

見たことのないような上機嫌な笑みを見せているデビルーク王に連れられながらデビルークを出発する羽目になる。だがすぐに理解することになる。デビルーク王が言っていた言葉の意味。それは

 

 

「ヒャッホ――!! 帰ってきたぜ、オレのパラダイス――!!」

 

 

嘘偽りなく、デビルーク王にとってのパラダイスだったのだと。

 

 

「…………ザスティンさん、ここってもしかして」

「……お察しのとおりです。申し訳ありません、まさかリト殿まで巻き込まれてしまうとは」

 

 

憔悴しきったように肩を落としているザスティンさんに同情しながらもただその光景に圧倒される。そこは確かにパラダイスだった。男の夢とロマンが詰まっている、デビルーク王風に言うならパラダイス。どこまでも続くような広い空間。豪華な設備。昼間とは思えない賑わい。どれをとっても地球では考えられない宇宙規模の施設。どこか魅惑的な音楽とピンク色な雰囲気に満ちている異空間。

 

アダルトショップ。

 

地球ではそう呼ばれる、十八歳未満お断りの官能の世界が目の前に広がっていた。

 

 

「なに辛気臭そうな顔してやがる結城リト? オレ様がせっかく行きつけの店に連れてきてやったってのによ!」

「な、なに言ってるんですか!? なんでこんなところに連れてきたんですか!? てっきりお風呂の続きだとばかり……」

「裸の付き合いが終わったんだから今度はエロの付き合いに決まってんだろ? 心配しなくてもララ達には黙っててやるさ。興味ない振りしてやがるがかなりエロいんだろ、お前? ララから聞いてるぜ」

「なっ!? そ、それはとらぶるのせいで、オレはその……と、とにかくオレ、まだ高校生でこういうところはまだ早いっていうか……」

「んなもん地球のルールだろうが。ここは宇宙だぜ、そんなの関係ねえさ。それともまさか本当に女に興味がないのか? 心配しなくてもそういう趣味の奴らのコーナーもここにはあるぜ。オレはお勧めしないけどな」

「そ、それはいけませんぞリト殿! ララ様が悲しまれます!」

 

 

この主にて配下あり。まじめ過ぎるが故かザスティンさんは本気でこっちの心配をしてくれる。自分のホモ疑惑の根源はあなたなんですがと突っ込みたいがそんな余力はない。

 

 

(ま、まさかアダルトショップに連れてこられるなんて……この人はいったい何を考えてるんだ!?)

 

我が世の春が来たとばかりにハイテンションで店内を走り回っている銀河最強の男。その子供の容姿のせいで他のお客さんがぎょっとしている。当たり前だろう。

 

 

(ララ達の婚約者はみんな、ここに連れてこられるのか……大変だな、色々と……)

 

 

これからの自分、そして未だ見ぬララたちの婚約者たちのことを考えると溜息が出る。娘はやらんイベントから始まり、お風呂での裸の付き合い、極め付けが一緒にアダルトショップ観光。デビルークの婿になるのは生半可な覚悟ではできなさそうだ。

 

 

「なにボサっとしてやがる。さっさと自分の好みの商品を見つけてこい。今日はオレの奢りだ」

「えっ!? お、オレも買わないといけないんですか!?」

「当たり前だろ。お前も男なら一つや二つ持ってんだろうが。ここには地球では手に入らないようなスゲーもんがいっぱいだぜ」

「ギ、ギド様……やはりララ様の婚約者候補であるリト殿にこういったものを勧めるのはどうかと」

「あん? こんなもん浮気には入らねえよ。まあ見つかったら没収されるがな。赤ちゃんプレイばっかりってのも飽きてきたし……そういうお前もむっつりスケベのくせに恥ずかしがってんじゃねえよ。そんなだからいつまでたっても結婚できねえんだぞ」

「そ、それは……!? 前にも言ったように私はギド様の護衛。結婚などは」

「わかったわかった。とにかくしばらく自由行動だ。いいのが見つかったら教えろよ。じゃ、行ってくるぜー!」

 

 

待ちきれなかったのか、デビルーク王はそのまま走り出していってしまう。残されたのは自分とザスティンさん。アダルトショップで知り合いとはいえ、二人きりにされるというあまりにも気まずい状況。

 

 

「…………とりあえず、別行動しますか」

「そうですね……じゃあ、後で……」

 

 

どちらともなく、そう呟きながらその場で分かれる。まさに紳士の社交場ならではの光景だった。

 

 

(しかし、内容はともかくすごいところだな……宇宙中から集まってきてるんだろうか……)

 

 

顔を赤面させながらも、宇宙一のアダルトショップの内容に圧倒されるしかない。自分も男、十八歳を超えたらこういったところにも入るのだろうかと妄想したことはあったがまさかこんなに早く、地球ではない宇宙のアダルトショップに来る羽目になるなんて夢にも思わなかった。エロ、ヤミ風に言うのならえっちぃのは銀河共通なのかもしれない。だが驚くのはそればかりではない。

 

 

(な、なんだこれ……!? 立体映像……!? こんな小さな機械から……?)

 

 

展示品なのか、アダルトビデオが流されているがその内容は全くビデオではない。裸の男女がまるで目の前にいるように立体で映し出されている。本物なのではと思ってしまうほどに精巧な技術。それを映し出しているのは手のひらに収まるような小さなキューブ上の機械。どうやら宇宙ではそれが基本らしい。流石地球とは技術がかけ離れている。だがそのあまりの生々しさ、えっちぃさに直視することができない。それから逃れようとするもいたるところでそんな映像が流されている。とにかくいったんここから離れなければ。そんなこんなをしているとまた喘ぎ声のようなものが聞こえてくる。思わずそっちに目が向いてしまうのは悲しい男の本能なのか。だがそこには

 

 

『あぁん……もっと、もっとぉ……』

 

 

タコのような宇宙人、エイリアンがえっちぃことをしている映像が流れていた。声はこれ以上にないほど艶めかしい。なのに、全く興奮しない。こんな経験は生まれて初めてだった。

 

 

「お? あんたヒト型なのにこっちに興味があるのかい? 随分マニアックだねえ。なにフェチだい?」

「…………いえ、気にしないでください」

 

 

同じく、タコ型の宇宙人さんから声をかけられるも流れるようにスルーする。見ればここら一帯はそういった種族の宇宙人の領域だったらしい。爬虫類のようなものもあれば、魚類のようなものもある。流石宇宙。千差万別。自分には理解できない、理解できてはいけない世界がここにはある。まるで賢者になったような気分だ。そのジャンル分けも理解不能。有機物、無機物とはいったいどういう意味なのか。とりあえず見なかったことにしよう。

 

 

(はぁ……なんか疲れるな……早く終わらないかな……)

 

 

げんなりしながらもとりあえず宇宙でいうヒト型のコーナーに戻ってきた。あのままあそこにいたらいろいろな意味で危なかった気がする。その分ここは別の意味でえっちぃのだが仕方ない。できるだけそういったものを直視しないようにしながらデビルーク王たちが戻ってくるのを待つことにしよう。そんな中、ふと一つの商品に目を奪われてしまう。

 

 

(この人……何となくララに雰囲気が似てるかな……スタイルも近いし……)

 

 

ピンクの髪をした女性の作品。ララよりは年上だが、どことなくララを連想させる容姿だった。地球でもそっくりさんは三人いると言われるぐらいだから、宇宙ならもっといてもおかしくないのかもしれない。そんなことを考えていると

 

 

「いやー大漁大漁! 今回は掘り出し物があったぜ!」

「っ!? デ、デビルーク王!? 探し物は見つかったんですか?」

「まあな。ほれ、地球で見つけた女子高生ものだ! あと人妻ものだな。なかなかレアな逸品だ」

「そ、そうですか……」

 

 

満足気にはしゃいでいるデビルーク王にかける言葉が見つからない。女子高生ものに人妻もの。この人の守備範囲が分からない。というか子供の姿なのにそんなものが必要なのかとか色々聞きたいことはあるが聞かない方がいいだろう。下手したら夫婦生活に直結しかねない。しかし

 

 

「それで、お前は見つけたのか? まさか一つもなかったなんて言うんじゃねえだろうな」

「い、いや……それは……」

「さっきなんか見てたろうが……これか?」

「あっ!? ちょ、ちょっと待って……!?」

 

 

よりにもよってもっとも見られてはいけないことを見られてはいけない人に見られてしまっていたらしい。制止するももう間に合わない。いくら小さくても相手はデビルーク王なのだから。

 

 

「ふーん、なるほどね……ま、いいんじゃねえか。誰かに似てるのもたまたまだろうし、なあ?」

「…………」

 

 

顔を俯かせながら黙り込むしかない。何を言っても言い訳にしかならないし事態が悪化するだけ。それが心底面白かったのか、ニタニタとデビルーク王は下卑た笑みを浮かべている。

 

そんなこんなでデビルーク王との一緒にエロコーナー第一部は終了となった。ちなみにザスティンさんの趣味は金髪のお嬢様系だったらしい。

 

 

 

「はあ……なんかどっと疲れたな……」

 

 

部屋の机に突っ伏しながら、溜息をつく。時刻は夜の七時を回ったところ。夕食を済ませたがまだ疲れは残っている。その根源が今、自分の机に転がっている。

 

 

『遠慮すんなって。ララ達には黙っておいてやるさ。その代わり、セフィの奴には黙っとけよ』

 

 

いらないといったにも関わらず、デビルーク王はどうやら一緒に自分が見ていたアダルトビデオを買っていたらしい。いらぬ世話か、それともセフィさんに黙っていろという脅しか。恐らくはその両方。

 

 

(そういえば……こっちに来てから全然できてなかったな……そろそろ処理しとかないと)

 

 

そんな中、ふと気づく。今の自分の現状。ここのところ忙しくてそれどころではなかったがそろそろ不味い。とらぶるが悪化している以上、そのあたりはきちんとしておかなければ。何よりも

 

 

「…………」

 

 

自分も一応男。そういうものには少なからず興味はある。店で見たあの映像技術は凄まじかった。知らず息をのんでしまう。せっかく買ってもらったんだし、見ないのはもったいないのでは。うん、やっぱりそうだろう。男ならこういうことするのは当たり前だし問題ない。自宅には何冊かそういったものもあるがこっちにもってきていない。ならこれは仕方ないことだろう。そのまま可及的速やかに準備を開始する。カーテンを閉めて、部屋を片付ける。あとは部屋の鍵を閉めるだけ。そう思った瞬間

 

 

「リト、いる? お邪魔してもいいかな?」

「っ!? ラ、ララ……どうしたんだ……!?」

「今日はパパと出かけて遊べなかったでしょ? だから部屋でゲームで遊びたいなって思って」

 

 

まるで狙っているようなタイミングでララがやってくる。心臓が飛び出るかと思ったがまだマシだろう。もし再生中だったらとんでもないことになっていたはず。きっとララは気にしないだろうがこっちの羞恥心がまずい。今日はとりあえずお預け。一応見つからないように机にでも隠しておこうとそれを手にしようとした瞬間

 

 

「あ」

 

 

慌てていたからか、そのまま床に落としてしまう。それが悪夢の始まりだった。

 

 

瞬間、スイッチが入ってしまったのかえっちぃ映像が流れ始める。しかも大音量で。何とか止めようとするがどんなにボタンを押しても一向に止まる気配がない。

 

 

(な、何だこれ……!? もしかして落ちた時に壊れちゃったのか!? ど、どうすれば……!?)

 

 

顔面を真っ青にしながらキューブを何とかせんとするも再生は止まらない。自分の目の前では立体映像でえっちぃことが行われその音が響き渡っている。それを必死に無視しながら格闘するもどうにもならない。中途半端に壊れるなら完全に壊れてくれればいいのに。布団をかぶせるも映像を抑えられても音はどうにもならない。もはやヤケクソ気味にキューブ自体を壊そうと床に叩きつけるもビクともしない。そしてついに

 

 

「なんか変な音がしてるけど……どうかしたの、リト?」

「っ!? ラ、ララ……これは、その……」

 

 

ララがドアを開けて部屋に入ってきてしまう。一番に鍵をかければよかったのだがそれどころではなかった。考え得る限りで最悪の展開だが、もうあきらめるしかない。ララならきっとそんなに気にすることもないだろう。恥ずかしい思いをするのは自分だけで済むはず。だが自分は知らなかった。最悪とは、自分の想定を超えるからこそ最悪なのだと。

 

 

「…………え?」

 

 

そこには二人の少女がいた。ララの後ろにいる、二人の少女。口元を隠しながらも、まあ、と言った風に興味津々のモモと口をパクパクさせながら顔を真っ赤にしているナナ。

 

 

それが自分にとっての最悪な、眠れないデビルーク三姉妹との夜の始まりだった――――

 

 

 

 




作者です。第三十四話を投稿させていただきました。

今回と次回のエピソードは少しえっちぃエピソード。To LOVEるのSSなのにエロさが足りないと思っていたのでその分を取り返すつもりです。原作とは違うエロさを意識したいと思っています。本当ならアダルトビデオを見つかった時点でオチが付くのですがまだ続きます。次話はリトによるララとナナの性教育(教材はアダルトビデオ)。R18まではいかないと思いますがお付き合いください。では。

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