もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第三十六話 「兆し」

 

(ふう……とりあえずこんなもんかな……)

 

 

手に持っていたシャーペンを置いて、大きく背伸びする。目の前の机には夏休みの宿題が広がっている光景。今までほとんど手付かずだったのだがようやく取り組むことができた。理由は言うまでもなく、デビルークに泊まっているから。正確には毎日ララ達と遊んでいるせい。

 

 

(遊ぶのはいいんだけど……勉強もしないとな。オレ、頭がいいってわけじゃないし)

 

 

うーんと腕を組みながら頭を悩ますしかない。自分はそんなに頭は良くはない。むしろ悪い方。それでも成績が良かったのは単に勉強以外にすること、できることがなかったせいなのだが最近はそれができなくなってきている。ララたちには感謝してもしきれないのだが勉強を疎かにしたら本末転倒。

 

 

(それにしても……昨日は酷い目に遭ったな……いや、ナナには悪いことしちゃったかな……)

 

 

頭を悩ませているのは勉強のことだけではない。思い出すのは昨夜の性教育という名のアダルトビデオ鑑賞会。今思えば自分もどうかしていたとしか思えない。そのせいもあってか、朝食で顔を合わせるなり、ナナは顔を真っ赤にしながら逃げ出してしまった。どうやらケダモノショックはまだ尾を引いているらしい。ヤミや美柑はどうやら自分とナナが喧嘩しているのだと思ってくれているのは不幸中の幸い。

 

 

(ララは全然気にしてないみたいだし……というかある意味悪化しているような……)

 

 

ある意味当たり前だがララは全く気にしている素振りはない。今朝もいつものようにとらぶるを消費にやってきてくれた。本音を言えば昨日の今日なのでとらぶるはしたくなかったのだが、せっかく来てくれたララを無下にすることもできず結局お世話になってしまった。だが

 

『うん、分かってるよ。キスと子作りをしないようにすればいいんでしょ?』

 

そんな昨日の経験を生かしたことをララはどこか自信満々に宣言。間違ってはいないのだが、どこかがズレている。それ以外は何をしても大丈夫だと言わんばかり。そんな王女様は現在自室にこもって新しい発明品を開発中。もちろん自分のとらぶるを治すため。

 

 

(本当にありがたいんだけど……ララ、発想がどこか変だからな……前も酷い目に遭ったし……)

 

 

思い出すのは一番最近の発明品である『まるまるチェンジくん』その名の通り、二人の人間の中身を入れ替えてしまうというトンデモない代物。どうやら違う人の身体に入れ替わればとらぶるが起きなくなるのではと考えてくれたらしい。その発想の時点で何かがおかしいのだがいつものように事前の説明なしのまま自分はララと入れ替わってしまった。結果としてはとらぶるは問題なく発生。しかもララの身体になっている自分の方から。この能力は魂レベルで自分に染みついているかもしれない。だが問題はそこではなかった。

 

『すごーい! リトの身体ってこういう風になってるんだ!』

 

それはララが自分の身体になってしまっているということ。そのせいで自分に向かってとらぶるをするという新境地を体験。同時に男の身体だからなのか、ララもそれに反応してしまい男性のソレを興味津々に見つめる始末。それを止めようとするもララの身体であるせいか、うまくコントロールできずデビルークのパワーで王宮を壊しかねない有様。何とかほかの人にバレないうちに収拾がついたが、色んな意味で寿命が縮んだトラブルだった。

 

 

(ララはともかく、モモもいつも通りだったな……ただ、やっぱりどこか遠慮がちだったけど。前の事、まだ気にしてるのかな……)

 

 

ふと気になるのはモモのこと。ララ同様、昨日の夜のことは気にしてないようだったがやはりどこか態度がよそよそしいのは変わらない。ララ達が一緒の時はそうでもないのだが、二人きりになるとそれは顕著。思い当たるのはあの風呂場での事件。あれ以来モモは自分に遠慮がち、というか気を遣っているような気がする。自分もどこか苦手意識を持ってしまっているのも原因かもしれない。喧嘩しているわけではないのだが、仲直りができればいいのだが。

 

 

「もうこんな時間か……どうするかな」

 

 

気づけばもう午後三時を回っているところ。勉強も一段落ついたし気分転換に王宮を探検するのも悪くない。いろいろ悩みながらも気になりながらまだ一度も行ったことのない施設に足を向けることにするのだった――――

 

 

 

「こ、ここが書庫か……ほとんど図書館だな」

 

 

目の前にそびえたつ巨大な書庫に圧倒されるしかない。話には聞いていたがまさかここまで大きいとは。書庫ではなく、図書館にしか見えない。おそるおそる中にお邪魔するとそこには見渡す限り本で埋まっている光景。地球で見るような紙媒体の本だけではなく、電子媒体も所狭しと並んでいる。ここを回っているだけですぐに一日が終わってしまそうなスケールの大きさ。

 

 

(あれは……ヤミ……?)

 

 

そんな中、見慣れた金髪の少女の姿を見つける。ヤミは片手に多くの本が入った籠を持ちながら、新しい本を手にとっては立ち読みしている。話には聞いていたがどうやらここはヤミにとってのお気に入りスポットだったらしい。

 

 

「おーい、ヤミ! こんなところにいたんだな」

 

 

片手をあげながらヤミに挨拶しながら近づいていく。一瞬、図書館で大声を出したら怒られるかと思ったがここは書庫なので大丈夫だろう。だが

 

 

「…………」

 

 

ヤミはいつまで経っても反応しない。こちらに振り向くことなく淡々と本を選んでいる。

 

 

「……? ヤミ……? どうかしたのか……?」

 

 

首をかしげながらさらに近づくもヤミはこちらに気づくことはない。だがあり得ない。あのヤミがここまで誰かが接近して気づかない訳がない。声までかけているのだから。ならなんで自分を無視するようなことをしているのか。呆気に取られながらもようやく気付く。なぜヤミが自分を無視しているのか。気づけばなんでもない、小さな子供のような理由。

 

 

「…………イヴ」

「……なんですか、リト」

 

 

こちらを見ることなく、さも当然のように返事をしてくるイヴに苦笑いするしかない。二人きりの時は名前で呼ぶこと。一週間前にした約束を律儀に守っているらしい。もっともからかった自分に対する意趣返しの意味合いが大きそうだがそれは言わない方がいいだろう。

 

 

「こんなところで何をしているんですか、リト」

「いや……ちょっと勉強の息抜きで。話には聞いたことがあったんだけど、実際にここを見たことがなかったからさ」

 

 

ようやくこちらに向きながらいつものようにイヴが話しかけてくるのだが違和感が半端じゃない。自分で言っておいて何だが、まだイヴに名前で呼ばれるのに慣れていない。対してイヴは自分の名前で呼ばれるのに違和感は覚えていないようだ。ようやくイヴから一本取った気になっていたがやはりイヴのほうが一枚上手らしい。

 

 

「でもすごい本の量だな。流石はデビルークって感じだ」

「そうですね。おかげで読む物には困りません。貴方も動物の勉強をするなら役に立つ本もあるでしょう……えっちぃ本があるかは分かりませんが」

「な、なんでそうなる!? 図書館でエロ本借りる人なんているわけ……」

 

 

ナチュラルにそんな話題を振ってくるイヴに焦るしかない。あれだろうか、自分はどこまでえっちぃと思われているのか。そもそもそんなものを借りるために図書館、書庫を利用する人なんているわけがない……と思いかけた瞬間に、一人の存在が脳裏をかすめる。

 

 

「ない、とは言い切れないかな……」

「奇遇ですね。おそらく私も全く同じことを考えています」

 

 

奇妙なシンパシーを感じながら互いに納得する。あのエロオヤジならやりかねない。木を隠すなら森の中。もしかしたらデビルーク王の秘蔵コレクションがこの中に眠っているのかもしれない。昨日デビルーク王もアダルトビデオをセフィさんに没収されたらしいし、ありえない話ではないだろう。

 

 

「そ、それよりイヴはデビルークでの夏休みは楽しめてるのか? あんまり姿が見えないんだけど」

「大抵はここで時間をつぶしていますから。それに美柑やプリンセス達とも交流していますし」

「そ、そうか……ならよかった。最近あんまり話すことがなかったから、もしかしたら怒らしちゃったのかと思ってて……」

 

 

頬をかきながら恐る恐る尋ねる。一週間前にデビルークに泊まり始めてからイヴと話す機会が少なくなっていた。二人きりになったのも本当に久しぶり。もしかしたらあの夜からかったことで怒っているのかと思っていたのだが

 

 

「別に他意はありません。今までは護衛中だったのでそう感じているだけでしょう。夏休みが終われば嫌でも一緒に行動することになりますから」

「そ、そうだな……はは……」

 

 

セメントのような淡々としたイヴの言葉によってそれは杞憂だったと知る。確かに今までは護衛中だったのでいつも一緒だったのでそう感じているだけだったのかもしれない。ただ嫌でも、というのがどっちの意味なのか気になるが怖くて聞くことはできない。ある意味いつも通りの急所を貫くイヴらしさ。

 

 

「それよりも貴方の方こそ大丈夫ですか。毎日プリンセス達と遊んでいるようですが」

「ま、まあ何とか……夏休みの間だけなら」

「そうですか、あまり無理はしないでください。護衛する貴方が過労死しては話になりませんから」

 

 

さらっと護衛とは思えない発言をしながらもそれが冗談で済まないのが辛いところ。夏休みという期間限定なら何とかなりそうだ。もしかしたら、イヴの姿があまり見えなくなったのは自分の負担を考えていてくれたからかもしれない。

 

 

「あ、そういえば……イヴには言っておいた方がいいかな」

「? 何のことですか?」

「いや、実は二学期からララも彩南高校に転入することになったんだ」

「プリンセスが……? いつも反対していたのにどういう風の吹き回しですか?」

「ちょっと色々あってさ……とりあえず人前でとらぶるしたり、裸になるのは恥ずかしいことだって分かってくれたみたいだし、大丈夫かなと思って」

 

 

一緒に学校に行くことになるイヴには先に伝えておいた方がいいだろう。もっともララも恥ずかしいことだと理解はしていても、実際に恥ずかしがることはないので本当の意味で分かってはいないのだが。

 

 

「あのプリンセスがそんなことを……? いったいどんな魔法を使ったんですか?」

「ま、魔法って……!? 別に何もしてないぞ……!」

 

 

イヴからしてもそれは驚くべき事態だったらしい。アダルトビデオのおかげですと暴露するわけにもいかず、何とか誤魔化すしかない。

 

 

「それにほら! ララが来てくれればイヴの負担も減るだろ? 朝消費できなかった分のとらぶるもララに助けてもらえるし、今までみたいにずっとオレに付きっきりにならなくてもよくなるから」

 

 

とりあえず、ララが転入することで良くなることをイヴに矢継ぎ早にアピールする。とらぶるについてはイヴを巻き込んでしまうこともあったが、ララが来てくれるならその心配もなくなる。ララが強いことはネメシスの戦いを見たことで分かっている。ならイヴが無理をしてずっと自分に付きっきりならなくてもよくなるはず。しかし

 

 

「…………」

 

 

それまで自分の話を聞きながらも本を選んでいたイヴの手が急に止まってしまう。そのままイヴは黙り込む。その紅い瞳は一瞬見開いた後、ここではないどこかを見つめたまま。

 

 

「……イヴ? どうかしたのか? もしかしてララが学校に来るとマズいことがあるのか……?」

 

 

いつまでたっても返事をしないイヴに尋ねる。ララが来ることでマズいことがあるだろうか。もしかしたらララも護衛対象になってしまうことを気にしているのか。一応王女様ではあるし。それともララが学校で無茶をやらかすことを危惧しているのか。

 

 

「……いいえ、特には。プリンセスは来たがっていましたし、貴方がいいと言うのであれば私からは何も。ただ、トラブルが増えることだけは覚悟しておいた方がいいでしょう」

「それは、確かに……」

 

 

考え事が終わったのか、これ以上にない的確な忠告をイヴはしてくれる。そのとらぶるがどっちのトラブルを意味しているのかは分からない。きっと両方とも避けられない。何はともあれイヴにも迷惑はかけてしまうが頭を下げるしかない。そんな中、

 

 

「あ、見つけたぞリト! こんなところにいたのか!」

「ナ、ナナ!? どうかしたのか?」

 

 

嵐のような激しさでいつものように元気を振りまきながらナナがやってくる。書庫とはいえ施設なのだから走るのは控えた方がと注意する間もないような慌ただしさ。

 

 

「遊びに誘いに来たんだ! もう勉強は済んだんならいいだろ?」

「そ、それはいいんだけどその……もう平気なのか? 昨日の事……」

 

 

圧倒されながらもイヴには聞こえないように小声で問いかける。話では刺激が強すぎて昨日はまともに寝られなかったらしいのに大丈夫なのか。またケダモノ認定されて平手打ちされるような事態は勘弁してほしい。だが

 

 

「え? 昨日の事……?」

 

 

ナナはどこかポカンとした表情を浮かべてしまう。まるでそんなことすっかり忘れてしまっていたかのよう。

 

 

「あ、ああ! だ、大丈夫だ! もう気にしてないならリトも気にしなくていいぞ!」

「そ、そうか……ならいいんだけど。で、何して遊ぶ? また電脳サファリに行くのか?」

「それもいいけど、今日は違うところに行ってみないか? 電脳ガーデンっていってモモが植物を育ててる場所があるんだ」

「電脳ガーデン……? ああ、いつか言ってたやつか。でもいいのか? モモが管理している場所に勝手に入って……」

「だ、大丈夫だって! あいつも勝手にサファリに入ってくるし、許可ももらってるからさ!」

 

 

慌てながらもそんな風に言い訳してくるナナ。本当に大丈夫だろうかと不安もあるが、個人的にも電脳ガーデンという場所に興味もあるのも確か。もしモモに怒られたらその時は謝ることにしよう。どっちかというとナナが暴走しないように止めるのが自分の役目のような気もするが。

 

 

「ならいいけど……そうだ! イ、じゃなくってヤミも一緒に連れて行っていいか? せっかくだし」

 

 

せっかくこの場にいるのだからヤミも一緒に連れていけばいいのでは。思わずイヴとナナの前で呼びそうになってしまったが仕方ない。慣れるまではまだ時間がかかりそうだ。だが

 

 

「え? そ、それは……その……」

 

 

ナナは何故か動揺した様子で口ごもってしまう。どうやら今までヤミがいることに気づいていなかったようだ。だがこんなナナも珍しい。もしかしていつかのように二人きりで遊びかったのだろうか。

 

 

「…………」

 

 

そんなナナをヤミは見つめている。じーっという擬音が聞こえてきそうな見つめっぷり。対してナナはそんなヤミに圧倒されたのか汗を流して固まってしまっている。蛇に睨まれた蛙状態。

 

 

「ど、どうしたんだ、ヤミ……? あたしの顔に何かついてるか……?」

「いえ、顔には何も。せっかくのお誘いですが遠慮させてもらいます。プリンセスは貴方に用事があるようですし」

 

 

一度目を閉じながらヤミは視線を外し、そのまま再び本を探し始めてしまう。どうやらヤミはこのまま書庫で読書を続ける気らしい。残念だがまた今度遊びに誘うことにしよう。そんなことを考えていると

 

 

「ただ、えっちぃことはほどほどにしておくように。でないとまたびっちになってしまいますよ」

「そ、そんなことするわけないだろ!? と、とらぶるは確かにえっちぃけど……」

 

 

まるで忠告のように何気なくヤミはそんなことを告げてくる。思わず体が反応してしまう。自分を一体何だと思っているのか。それでも否定しきれないのが悲しいところだが。しかし

 

 

「び、びっちって……そんなケダモノみたいなことするわけないだろ!? は、早く行くぞリト!」

「ちょ、ちょっと引っ張るなってナナ!?」

 

 

ナナも自分に言われたのだと思ったのか、焦りながら自分の手を引っ張ってくる。ヤミはそんな自分たちを一瞥しながらも完全に読書モード。

 

 

そんなこんなで結城リトの双子姫による電脳ガーデン探検ツアーが開始されたのだった――――

 

 


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