もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第三十七話 「転入」

(ここは……? もしかしてまた夢の中か……?)

 

 

気がつけば何もない真っ白な世界。普通なら驚くか、慌てふためくかするのだろうが今更そんなことはない。色々な経験からもう慣れっこになってしまった。夢であることを認識して動けるなんて、もしかしたらすごい特技なのかもしれない。そんなことを考えているとどこからともなく甘い匂いが漂ってくる。

 

 

(あれは……お菓子……?)

 

 

いつのまに現れたのか、おいしそうなお菓子の山が徐々にこちらに近づいてくる。思わずかぶりつきたくなるような魅力的なお菓子の数々。本当ならそのまま飛びつきたくなる本能を抑えながら、体を止める。あるのは強烈な既視感。そして血の気が引くような感覚。

 

 

(これって……まさか……!?)

 

 

条件反射のようにその場から飛び退きながら必死に逃げる。もし自分が考えている通りだとしたらあのお菓子に手を出したら取り返しがつかないことになる。自分ではなく、彼女の貞操をこれ以上めちゃくちゃにするわけにはいかない。そんな必死さが功を奏したのか

 

 

「――っ!? そ、それ以上近づくなララっ!?」

「きゃっ!?」

 

 

バネのようにベッドから跳ね起きながらタッチダウンを決める勢いで部屋の端まで猛ダッシュ。寝起きとは思えないような神業。人間、危険が迫れば限界を超えた動きができるらしい。

 

 

「あーびっくりした。おはよう、リト! 今日は早起きなんだね」

「ハァッ……ハァッ……お、おはようじゃないだろ!? 前にも言っただろ、朝起こしに来るのは禁止だって!」

「えー? だって早く来たかったんだもん。それにちゃんととらぶるの範囲には入らないようにしてたよ?」

 

 

若干拗ねるような態度を見せているララに誤魔化されそうになるがそこは譲るわけにはいかない。起きている時ならともかく、寝ている状態でのとらぶるは危険すぎる。超えてはいけないハードルを軽々飛び越えてしまうかもしれない。とにかく未遂で済んでよかったと肩をなでおろしていると

 

 

「あれ……? ララ、その恰好……」

「あ、やっと気づいてくれた? リトの学校の制服だよ! 早く見せたくて急いできたの!」

 

 

自分が気づいたのがよっぽど嬉しかったのか、ララは彩南高校の制服を身に纏ったままその場をクルクル回り始めてしまう。まるで新しい服を見せびらかす子供のよう。もっとも何度か見たことはあるので新鮮さはそれほどないのだが言わない方がいいだろう。

 

 

「そっか……もう夏休みは終わったんだな……」

 

 

寝癖が残っている頭をかきながら今更その事実に気づく。目の前には見慣れた自分の部屋。やっとあのデビルークの高級感に慣れ始めたかというところだったのだが、やはりこっちのほうが落ち着く。

 

 

「あっという間だったね。でもナナもモモも残念がってたよ。また遊びに来てねって。パパとママも宜しくって言ってたよ」

「そ、そうか……また落ち着いたら遊びに行くって伝えといてくれ」

 

 

楽しかったねー、と満足気なララとは対照的に自分は乾いた笑みを浮かべるしかない。確かに楽しかったのは間違いないがそれ以上に疲れたというのが本音。間違いなく今までの人生で一番ハードな夏休みだった。やはりデビルーク三姉妹と遊ぶのは地球人の自分では体力的に無理がある。海がある観光地に行ったり、セフィさんの政務に付いていったり(なんでもお試しらしい)デビルーク王の悪戯につき合わされたり、本当に目まぐるしい日程。

 

 

(まあ、モモとは仲直りできたのはよかったけど……うん、やっぱりあの娘はちょっと苦手かな……)

 

 

気にしていたモモとは仲直りできたのはこの夏休みの収穫の一つだろう。モモもそのことを気にしていたのか、まるまるチェンジくんでナナの身体を借りてきて自分と遊ぼうとしてきたのは驚いたが。しかもナナが昼寝している時に勝手に入れ替わったらしく、怒ったナナに追いかけまわされていた。傍目にはモモがナナを追い回しているといういつもとは逆の光景だったのだが。

 

だがそれからというもの、モモは頻繁に自分にちょっかいを出してくるようになった。えっちぃ意味ではなく、ララと自分の関係に。どうやら自分とララをくっつけようとあれこれお世話を焼いてくれているらしい。なんでモモがそんなことをしているのか分からない。もしかしたらセフィさんの影響だろうか。

 

 

「今日から一緒に学校だよ。楽しみだね、リト♪」

「そ、そうだな……今日から学校なんだよな……」

「どうしたの? やっぱりわたしが学校に行くのはダメ?」

「そうじゃないんだけど……ちょっとな」

「? 変なリト。じゃあわたし、先に下に行ってるね」

 

 

きょとんとしながらも美柑とヤミにも制服を見せびらかしにララはあっという間にいなくなってしまう。確かにララが学校に行くことに不安はあるが、まあ何とかなるだろう。あれだけ喜んでる姿が見れるだけでも十分。問題は自分の方。学校に行けば否が応でも彼女と顔を合わせることになる。覚悟していたことはいえやはり気は重くなる。そんな中

 

 

「ごめんね、リト! すっかり今日の分のとらぶる忘れちゃってた! じゃあ行くよ!」

「え? ちょ、ちょっと待てって、せめて着替えてから――—ー!?」

 

 

階段をすさまじい勢いで駆け上がりながらララが制服姿のまま突っ込んでくる。こっちは着替えの途中でトランクス一丁。そのまま抵抗空しく、ララにいつも通りのとらぶるをかましてしまう。それがいつもと変わらない、二学期初日の朝の光景だった――――

 

 

「……おはよう、ヤミ」

 

 

ふらふらと足元がおぼつかないまま何とかリビングへとたどり着く。そこには夏休み前のいつも通りの光景。美柑は台所で料理、ヤミは読書中。そして自分は赤いテープで囲まれたケージの中へ。情けない限りだがここに来るとホッとする自分がいる。

 

 

「おはようございます、結城リト。朝から激しかったようですね。何回ですか?」

 

 

本を読みながら、知らない人が聞けば誤解されるようなセリフを淡々と問いかけてくるヤミ。もしかしたら知らずヤミも自分やララのせいで感覚がマヒしてきているのかもしれない。

 

 

「た、多分四回かな……覚えてる限りだと」

 

 

おぼろげな記憶をたどりながら質問に答える。途中からもう数える余裕がなかったがきっと四回だったはず。五回の時はララもしばらくまともに足腰が立たなくなるので間違いないはず。とらぶるが限界突破してから回数とえっちぃさが増し、今はリビングではお見せできない有様なので自室でとらぶるすることになっている。ただその物音や自分の悲鳴、ララの喘ぎ声、違う意味でヤミと美柑には筒抜けになってしまっている。

 

 

「そうですか……では今日は私達に近づきすぎないように。登校初日にプリンセスと一緒に退学では笑い話にもなりませんから」

「き、気をつけます……」

 

 

ヤミの冗談には聞こえない忠告に思わず敬語になってしまう。慣れているヤミはともかくララはいつもの癖で自分に近づいてきかねない。自分が気をつけなくては。

 

 

「ちょっと、リト……」

「美柑……? 何か用か?」

 

 

朝食が終わり、ようやく落ち着けるかと思ったのもつかの間。台所の美柑からお呼びがかかってしまう。まるで内緒話があると言わんばかりの態度。見ればララはヤミと一緒に学校の話をして盛り上がっている。二人には聞かせたくない話なのだろうか。

 

 

「今聞いたんだけど、ララさんが今日から一緒に学校に行くって本当?」

「あ、ごめん……美柑にはまだ言ってなかったな。ちょっと色々あってさ。でも学校でとらぶるや裸にはならないように約束したから多分大丈夫だって」

 

 

どこか困惑気味の表情を浮かべている美柑に慌てて説明する。そういえば美柑にはまだ言ってなかったのをすっかり忘れてしまっていた。不安がないと言えば嘘になるが、きっと何とかなるだろう。

 

 

「それはいいんだけど……ヤミさんはそれを知ってるの?」

「ああ、ヤミにはもう伝えてるよ。ララが一緒に来てくれればヤミも少しは楽になるかなって」

「……そう、リトがそう言うんなら。でも、ちゃんと見てあげてね」

「? いや、面倒を見てもらってるのはオレの方なんだけど……」

 

 

自分の言葉にどこか呆れ気味に溜息を吐いた後、美柑は朝食の後片付けを始めてしまう。それに首を傾げながらもすぐさまララの騒がしさに巻き込まれてしまう。どうやら早く学校に行きたくて仕方ないらしい。それに合わせて自分とヤミもいつもより早く登校する羽目になる。そういえば小学生の一年生になったばかりの頃は、自分もこんな風だったかもしれない。

 

 

「いってきます、美柑!」

「いってらっしゃい、ララさん。気を付けてね」

 

 

手を振りながら家を後にするララに向かって同じく手を振りながら送り出す美柑。そういえばと思い出す。

 

 

(『いってきます』……か。いつもは『いってらっしゃい』だったのにな……)

 

 

いつもは送り出す側だったララが今は一緒に送り出される側になっている。今更ながらようやくララが一緒に学校に行くのだと実感しながら三人で登校を始めるのだった――――

 

 

 

「ちょ、ちょっと待てってララ! いくらなんでも早すぎるだろ!」

「え? わたし、そんなに早く歩いてないよ? リトがゆっくりすぎるんじゃない?」

「お前の基準で考えるなって……なんで競歩みたいな速さで登校しなくちゃいけないんだよ……」

「そうかな? いつも通りに歩いてるつもりなんだけどなー」

 

 

そう言いながら渋々歩くスピードを抑えるララ。それでも普通に自分にとっては早足なのだがもうあきらめるしかない。無意識に気が逸っているのだろう。このままではいつもより三十分以上早く学校に着くことになりそうだ。

 

 

「学校に着く前に体力を使い果たしてしまいそうですね、結城リト」

「あ、ああ……そういうヤミは平気そうだな」

「ええ。これでも宇宙一の殺し屋ですから。今は元、ですが」

 

 

いつも変わらない涼し気な顔でヤミはララの後に続いている。流石は元宇宙一の殺し屋。今は護衛だがそれでもその身体能力は桁外れ。夏休み中にはララと一緒に模擬戦などの訓練もしていたらしい。まだ目標のデビルーク王のお仕置きには成功していないようだが。

 

「それよりも……朝から気分が優れないようですね。やはり、学校のことが気になっているんですか?」

「っ!? い、いや……そんなことは……」

「隠していてもバレバレです。学校での貴方の様子を見られるのが嫌なのは分かりますが、プリンセスは気にしないでしょう。心配無用です」

 

 

まるでこちらの心を読んでいるのではないかというタイミングで、ヤミはこっちが言葉に詰まるようなことを告げてくる。自分が一番気にしていること。学校での自分をララに見られたくないというみっともない理由をヤミはとっくに見抜いていたらしい。さっきの美柑ではないが、本当に護衛というよりは面倒を見てもらっていると言った方が正しいかもしれない。感謝してもし切れない。とにかく気を取り直していこうと気合いを入れ直そうとした瞬間

 

 

「あ、唯だ! 唯、おはようー!」

 

 

それが一気に霧散してしまう。知らず身体が固まる。もはや条件反射。事情を知っているヤミはどこか呆れ気味に、同じく知っているはずのララは気にすることなく嬉しそうに校門を通り過ぎようとしている古手川唯に走り寄っていく。

 

 

「え? ラ、ララさん? お、おはよう……本当に転入してきたのね……」

「うん! 今日からクラスメイトだね、よろしくね唯!」

「ええ、こちらこそ。制服、似合ってるわよ」

「ほんと? ありがとう!」

 

 

最初はララの勢いに圧倒されていたようだが、慣れてきたのか笑みを見せながら古手川はララとおしゃべりをしている。どうやらララが古手川と友達になったというのは本当だったらしい。ララに転入早々新しい友人ができたのは喜ばしい限り。だが自分はただ気配を殺しながらその場を離脱することに意識を集中する。できるだけ素早く見つからないようにこそこそと。だが

 

 

「……おはよう、結城君。今日はリコさんじゃないのね」

 

 

最初から気づいていたのか、腕を組み、背後にいる自分に向かって目を合わせることなく古手川は挨拶してくる。もはや死刑宣告に近い何か。

 

 

「お、おはよう……古手川……げ、元気そうだな……」

「……ええ、おかげさまで。ヤミさんもおはよう。貴方もお変わりなさそうね」

「はい。古手川も元気そうですね」

「貴方にも聞きたいことがあるんだけど、今はいいわ。早くいきましょう。ここで話していると他の生徒の邪魔になるし」

 

 

そのまま古手川はあっという間に校舎に入って行ってしまう。流石は風紀委員。規範に満ちた空気がある。後半、完全に自分を無視していたことを除けば。自業自得とはいえ胃が痛い。

 

 

「どうしたのリト? まだ唯と仲直りできてなかったの?」

「ちょっと色々あってな……」

 

 

その元凶はあなたなんですが、とララに突っ込みたいが言ってもどうにもならない。夏休み中に女性化し、古手川ともう一度会う機会があった。しばらくメールしていなかったこと、これ以上騙し続けるのも心苦しかったので海外に留学するという理由でお別れするという計画。色々あったがそれは成功し、めでたしめでたし……と行くはずだったのだが、あろうことか自分が古手川と別れた後にララがリコが結城リトであるとバラしてしまった。そうとは知らず最後のメールのやり取りで安堵している自分に古手川から『二学期からよろしくね、結城君』という文面が送られてきたときは本当に顔が真っ青になってしまった。そんなこんなで今日顔を合わせるのを恐れていたのだがこのざま。もしかしたら無視されなかっただけマシなのかもしれない。

 

それまでとは違う意味で疲れながらもララとヤミと一緒に教室へと向かう。だがこの時の自分はまだ知らなかった。これからが本番なのだと。ララが転入してくるとはどういうことなのかという本当の意味を。

 

 

「ねえ、どこから転入してきたの?」

「ララちぃって呼んでいい?」

「その尻尾みたいなのアクセサリー?」

「電話番号教えてくれない?」

「ちょ、ちょっとみんな落ち着いて……ララさんも困っちゃうよ」

 

 

いつも以上の騒々しさで教室はしっちゃかめっちゃかになっている。夏休み明けに加えてピンクの髪をした、どこか浮世離れした少女が転校してきたのだから当たり前だろう。加えてその容姿は並外れている。女子だけでなく、男子の視線も釘づけにしてしまっている。ララは今、台風の目になっているような状態だった。

 

 

「大人気ですね、プリンセスは」

「まあ……そうなるよな。大体ヤミの時だって似たようなもんだったろ?」

「そうでしたか……? あの時は貴方しか見ていなかったので気づきませんでしたが」

「そういえばそうだったっけ……あれからもう半年近くたったんだな……」

 

 

思い出すのはヤミが転入してきた初日。ララと同じように、クラスはざわめき立ったのだがヤミは護衛の標的である自分にしか興味がなかった。一日中にらめっこ(一方的)をされた時にはどうしようかと思ったものだが今はすっかり溶け込んでいる。むしろ溶け込んでいないのは自分の方かもしれない。そんなことを考えていると

 

 

「ねえ、ララちぃ聞いてもいい? 結城とはどういう関係なの? なんか仲が良さそうだけど」

 

 

クラスの中でもお調子者、ムードメーカーである籾岡里紗が興味津々にララに尋ねる。もうララをあだ名で呼んでいる辺り流石だがその質問はクラスの総意だったのか、クラスの視線が自分にも向けられる。いつもとは違う意味での視線の痛さに思わずのけ反ってしまう。それを知ってか知らずが

 

 

「リトとの関係……? わたしとリトは婚約者候補なの」

「え……?」

 

 

ララはさも当然のように宣言する。瞬間、教室の時間が止まってしまう。一体何を言っているのか分からない。そんな空気。自分でさえそうなのだから聞いた籾岡はもちろんクラスメイトの衝撃はその比ではないだろう。

 

 

「こ、婚約者候補って……将来結婚するっていうアレ……? ララちぃ、冗談ならもうちょっと考えた方が」

「冗談じゃないよ? 高校を卒業したら結婚するんだから。ね、リト?」

 

 

嘘なんか言ってないよとばかりに婚約者候補の嘘を暴露をするララに頭が真っ白になってしまう。どうやら学校でも婚約者候補の振りは継続しているらしい。ある意味純粋なララらしい行動。ララからすれば約束を守っているだけなのだろうが巻き込まれるこっちとしてはどうしたらいいか分からない。本当なら否定してもいいのだがここにはヤミもいる。学校の態度でデビルーク王に嘘がバレてしまうかもしれない。そもそももうララが公言してしまった以上後の祭り。あとは野となれ山となれ。全てはララを転入することを許可した自分の責任。

 

 

「あ、ああ……そう、なんだけど……」

 

 

自分が認めたことで教室のざわめきはさらに増していく。本当なのか、騙されてるんじゃないか、とか。主に自分に対する疑いのまなざし。誰がどう見てもそうなるのは間違いない。

 

 

「……ちょっとララちぃ、こっちに来て」

「? どうかしたの?」

「いいから!」

「ちょっと里紗、そんなに引っ張ったらララさん転んじゃうよ?」

 

 

それまでのからかう空気ではなく、真剣な様子で籾岡はララを教室の隅に引っ張って行ってしまう。慌てながら委員長である西連寺がついていく。どうやら周りには聞かれたくない話らしい。どうしたものかと途方に暮れていると

 

 

「良かったんですか、結城リト? 学校でまで婚約者候補の嘘をついて」

「仕方ないだろ……今更誤魔化せないし、ただララがオレのせいで悪く見られないかだけは心配だけ……ど?」

 

 

ヤミが自分に話しかけてくる。いつも通りの事。しかし、すぐに気づく。その内容が明らかにおかしいことに。それは

 

 

「ヤ、ヤミ……もしかして、気づいてたのか……?」

 

 

ヤミが自分とララが婚約者候補の振りをしていることを知っているような口ぶりだったこと。

 

 

「ええ。私は気づいていませんでしたが、デビルーク王から聞かされました。もっとも今の貴方の言葉でようやく確信しましたが」

「そ、そうか……デビルーク王はその、いつから気づいてたって言ってた……?」

「最初からだそうです。面白そうだから付き合っている、と言っていました。デビルーク王らしいですね」

「…………」

 

 

もはや言葉もない。ヤミに加えてデビルーク王にまでバレていたなんて。というかもう知っていないのは誰もいないのではないか。

 

 

(バレてないって思ってるのはララだけってことか……なんか裸の王様みたいだな……いや、裸の王女様なのかもしれないけど……)

 

 

ララはまさに裸の王女様状態。色んな意味で。もう婚約者候補の振りをしなくてもいいような気もするがセフィさんとの約束もある。何だが外堀が埋められていっているような気もするが仕方ない。あきらめにも似た悟りを開いていると

 

 

「嘘でしょ!? いくらなんでもそんな冗談は信じないよ! あたしだって結城がセクハラしてるの見たことあるんだから!」

「里紗、ちょっと落ち着いて! みんな見てるよ?」

 

 

突然、籾岡が大きな声をあげてララに食ってかかっている。それを西連寺は必死に宥めようとしているが抑えきれていない。対してララはそれに動揺するわけでもなくいつも通り。

 

 

「だからそれはとらぶるっていうリトの能力のせいなの。近づいた相手にえっちぃことしちゃう能力で、そのせいでリト困ってるんだ。今は一日四回で、たまに五回目があって……あ、でも近づきすぎなければ大丈夫だよ。五回目があればもうそれも気にしなくていいし」

「っ!? ラ、ララ、お前何言ってるんだ!?」

 

 

思わずとらぶるの範囲に巻き込みそうになりながらも、ララに近づきながら声をあげてしまう。どうやら自分のとらぶるのことで言い争いになっているらしい。籾岡からすればララがセクハラばかりしている自分に気を付けるようにと忠告しただけなのだろうが、ララはそんな事情を分かっていない。そもそもとらぶるなんて能力、信じてもらえるわけがない。できるのならとうにやっている。だがそんな考えは

 

 

「みんな能力を知らないんだね。じゃあ、あたしの能力を見せてあげる。あたし、宇宙人なの。この尻尾もデビルーク人の特徴で、空を飛ぶこともできるんだから!」

 

 

自分にとっての限界で、ララにとってはなんでもないものだった。

 

 

「ほらね? あと、尻尾からビームも出せるんだけど学校が壊れちゃうから止めておくね。リトは地球人だけど、とらぶるっていう能力を持ってるの。わざとえっちぃことしてるわけじゃないんだから!」

 

 

どこか自信満々にララはその大きな胸を張っている。当然、空に飛んだままで。今度こそ間違いなく教室が凍り付く。自分のセクハラ疑惑などどこかに吹っ飛んで余りあるインパクト。だが流石にすぐには理解できないのか、クラスメイトたちは疑いの目をララと自分に向けている。当たり前だ。しかしそれを感じ取ったのか

 

 

「なら地球人に聞いたらいいかな? ねえ、唯はもう知ってるでしょ?」

「えっ!? わ、わたし……!?」

 

 

ララは古手川に向かってそう問いかける。それまでどこか放心状態でララのハチャメチャっぷりに圧倒されていたようだが、自分にクラス中の視線が集まっていることに気づいたのか、あたふたし始める。いつもの風紀委員らしさは微塵も残っていない。それを取り繕うようにごほんっと咳払いし、しばらく口ごもった後

 

 

「え、ええ……知ってるわ。ララさんが宇宙人だってことも…………結城君のハレンチもわざとじゃないってことも本当よ……」

 

 

どこか言い辛そうにしながらも古手川はそう口にする。同時にその言葉によってクラスメイト達もざわめき立つ。古手川は風紀委員であり、自分のとらぶるに巻き込まれたこともある女子。その古手川が認めているならそれが真実なのだと。

 

 

「ラ、ララさん……本当にその、宇宙人なの?」

「じゃあこの尻尾も本物なわけ……?」

「ひゃっ!? し、尻尾は敏感だから触らないで……!?」

 

 

それがきっかけになったのか、次々にクラスメイト達は宇宙人であるララに興味津々に集まっていく。普通ならパニックになってもおかしくないのだが、どうやら好奇心のほうが先に立つらしい。自分のセクハラ、もといとらぶるのことなどもはやどうでもよくなってしまっている。そのデタラメっぷりに最初に出会った時のことが脳裏に浮かぶ。自分の悩みなど吹き飛ばしてしまうプリンセス。もっとも登校初日でこれではこのさきどうなるか分かったものではないが。

 

 

「……流石ですね、プリンセスは」

 

 

そんなララを見ながらヤミはそう呟く。その気持ちには同意するしかない。ある意味期待を裏切らないハチャメチャっぷり。

 

 

「そうだな……まさかここまで滅茶苦茶するとは思ってなかった」

「いえ……そうではなくて……」

 

「えーそれでは皆しゃん、そろそろ席についでくだしゃい」

 

 

自分には聞き取れないような何かをヤミが口にしているといつの間にか始業時間になったのか担任の骨川先生がやってくる。年のせいで呂律が回り切っていない。そんな聞き慣れた担任の声を聞きながら一応クラスメイト達は席に着くものの騒がしさは収まっていない。

 

 

「えー、今日は授業の前にあたらしい転入生を紹介しましゅ」

「せんせー! もうララちぃのことならみんな知ってるよ。宇宙人なんだよねー?」

 

 

改めてララの自己紹介をしようとしている先生に向かって籾岡が茶々を入れているがクラスメイト達も気持ちは同じなのか笑いが起きている。自己紹介どころか、本来秘密にすべき宇宙人のことまでバラしているのだから。だが自分は知らなかった。

 

 

「そうでしゅか……ならララちゃんの紹介はいいでしゅね。君、入ってきなしゃい」

「はい♪」

 

 

自分にとっての二学期のとらぶるな日々は、ララの転入だけでは済まないことを。

 

 

瞬間、目を見開き言葉を失う。恐らくは自分の後ろにいるヤミも。もしかしたらララも同じかもしれない。何故なら

 

 

 

「黒咲芽亜です。ヨロシクおねがいします♪」

 

 

 

教壇の上には、見間違うはずのない赤毛の少女がウインクし、舌を出しながらこちらに笑みを浮かべていたのだから。

 

 

 

それが結城リトの新しい二学期の始まり。そして波乱のとらぶるな日々の再開だった――――

 

 

 




作者です。第三十七話を投稿させていただきました。

最初に謝罪を。本当なら後二話ほど夏休みのイベントを続けるつもりだったのですが少しテンポが悪くなること、モチベーションの問題もあってカット、ダイジェストとすることにしました。元々三十三話から今回の話につなげる予定であり、モモと古手川とのイベントはこんなことがあったと匂わせる流れだったためです。申し訳ありません。その代わりと言っては何ですが活動報告にプロットだけあげておきます。興味がある方は覗いてみてください。もちろん読まなくても本編には影響ありませんので。

ようやく二学期開始。このSSは原作とは違い、一年の二学期までで完結します。お付き合いくださるとうれしいです。では。



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