もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】 作:HAJI
「ただいまー!」
「お、お邪魔します……」
上機嫌なララとは対照的にリトはどこかおっかなびっくりといった風。だがそれも仕方がないだろう。目の前に広がっている豪華すぎる巨大な宮殿。しかもそこにお邪魔するだけでなく、その宮殿の主であるララの父親に今から面会しようというのだから。
(ほ、本当にララって王女様だったんだな……ということは、あの話もやっぱり本当ってことなのか……?)
今更ながらララの規格外ぶりに圧倒されながらもリトの頭の中はすでに一つのことでいっぱいだった。
『ギド・ルシオン・デビルーク』
ララの父親でありここデビルーク星の国王。それだけでも腰が引けるというのに問題はその力。曰く宇宙最強の男であり、銀河を統一するほどの力の持ち主。冗談だとしか思えなかった話だが、目の前の宮殿とここまで来る途中に見えた町並みからそれが決して誇張ではないとリトは感じ取り、ただ冷や汗を流すことしかできない。
「どうしたのリト? さっきからそわそわして。もしかしてトイレ?」
「そんなわけないだろ!? 緊張してんだよ、見てわかんないのか!?」
「なんで緊張するの? パパに会いに行くだけなのに変なリト」
「この状況で緊張しない男がいるわけないだろ! もしララのお父さんの機嫌を損ねたらどうなるか……」
「あはは! そんなこと心配してるんだリト! そんなわけないよ、きっとパパは喜んでるだけだろうし」
「……ならいいんだけどな」
おかしなリト、とばかりにクスクス笑っているララの姿にリトはため息をはきながらげんなりするだけ。婚約者候補とはいえ相手の父親に呼び出されるという状況がどれだけ胃が痛くなるイベントかララは全く理解していない。リトもまさか高校に入ったばかりで『娘さんを僕にください!』イベントをこなさなければならないとは夢にも思っていなかったのだが。
(とりあえず婚約者候補が嘘だってことだけはバレないようにしないと……もしバレたらどうなるか……)
本当に婚約をお願いしに来たのならまだ覚悟のしようもあるがリトは偽の婚約者候補、というかふりをしているだけ。それがバレることだけは避けなければどうなるか分かったものではない。今更ながら自分はとんでもない契約をしてしまったのではとリトは後悔しかけるも後の祭り。ここまで来たらやり通すしかない。
「大丈夫大丈夫! パパは早く引退して遊びたいだけなの。そのためにわたしに早く結婚させて後継者を決めようとしてるんだから。ほんとに迷惑しちゃう」
「そ、それが本当ならそれはそれで問題があるような気がするけど……とにかく予定通り頼むぞ、ララ?」
「任せてリト! 婚約者候補が嘘だってことはバレないようにするから!」
うんうんと力強くうなずいている天然の塊であるララにリトは一抹の不安を覚えずにはいられないが仕方ない。できれば美柑にも来てほしかったが一応危険があるかもしれないのでお留守番してもらっている。無事に地球に帰れますように。だがそんなリトの願いは
『よく来た……てめえが結城リトだな……』
地獄の底から響くような悪魔の声によって無残にも崩れ去った。
「…………え?」
知らず足が震えていた。それだけではない。全身が震えている。まるで極寒の地に放り出されたように体の震えが止まらない。それが恐怖であることに気づくのに時間はかからなかった。
『ララが何も知らないのをいいことに好き勝手してくれてるみてえだな……何かいい訳はあるか?』
その声の主がララの父であるデビルーク王であることはもはや疑いようがない。その姿は見えず、扉の向こうにいるようだが、にも関わらずこれだけの威圧感。その力があふれているからなのか物理的に宮殿が揺れ、地面にはヒビが入り始めている。
「お、オレは……」
リトは息も絶え絶えに答えようとするも言葉が浮かんでこない。このプレッシャーを前にして口答えすることなどできるわけがない。何よりも言い訳できない。ララに羞恥心がないのをいいことに利用してしまっているのは事実なのだから。親からすれば激怒するのは当然。
『とにかくお前に一言言っておく……よく聞け。お前のような男にララはやれ』
父親としての娘を想う言葉が告げられんとしたその時
「もう! パパったらいつまでそんなおふざけしてるの!?」
『ぶっ!?』
それはほかならぬ娘であるララによってぶちこわされてしまう。扉に張り付きながらしゃべっていたのだろう。ララが扉を強引に開けた途端バランスを崩しデビルーク王は盛大に転げ落ちてしまう。シリアスも威厳も何もあったものではない。心配して声を上げようとするもリトはそのままその場を動くことができない。何故なら
「いてて……ララ、お前どういうつもりだ! あそこからがいいところだったんだぞ!?」
「そんなこと言って、リトを驚かせて楽しんでただけでしょ!」
目の前にいるのは小さな子供。小学生か、もしかしたらもっと小さいかもしれない男の子。その子供とララはぎゃあぎゃあと痴話喧嘩をしている。もっとも当人たちからすれば親子喧嘩なのだがリトには全く理解できない。
「ら、ララ……その男の子って、もしかしてお前の弟さん……?」
半ば事情を理解しながらも最後の確認を行う。リトはララから双子の姉妹がいることは聞かされていた。だからリトは思った。目の前の男の子は弟なのだろうと。それが悪戯してきたのだろうと。だがそんなはかない予想は
「? 違うよ。紹介するね、この人がわたしのパパだよ」
あっさりと裏切られてしまう。ああ、そうかと納得してしまったのはもう既にリトの中の常識が非常識になりつつある証明だった――――
「フハハハ!! どうだった、なかなかビビっただろう結城リト? 婚約者ができたら一度、『娘はやらん!』をやってみてえって思ってたんだ!」
ご満悦になりながらデビルーク王であるギドは大笑いしている。どうやらもうララに邪魔されて情けない姿をさらしたことは頭から消え去っているらしい。唯我独尊。これ以上にないほどオレ様っぷりがにじみ出ている。同時にリトは悟る。このはちゃめちゃっぷりは方向性は違えど間違いなくララの父親なのだと。
「そ、そうですか……」
「何シケた面してやがる。あそこは『ララをオレにください!』って啖呵を切るところだろ!? ノリが悪いやつだな!」
「もう、パパったらそんなことどうでもいいから早くリトに謝って! わたしは慣れてるからいいけどパパの威圧は初めての人はびっくりするんだから!」
「はいはい、あー悪かったな。でもこのぐらいでビビってるようじゃこの先やっていけねえぜ、リト?」
全く悪びれることなくギドはケケケと笑いながらララをあしらっている。どうやらさっきのはお遊びだったらしい。リトにとっては寿命がどれだけ縮んだか分からないものだったのだが。突っ込みどころが多すぎてどこから突っ込んでいいのかリトには分からない。だがどうしても確認しなければならないのは一つのみ。
「あの……何でそんな子供の姿になってるんですか?」
何故小さな子供の姿なのか。ただそれだけ。今も玉座に座っているギドの姿はシュール過ぎる。口にするのは怖いのでしないが笑ってしまいそうな光景だった。
「これか? ちょっと前の大戦で力を使い過ぎちまってな。ま、後一年もすれば元に戻るだろ。超絶イケメンのオレ様の姿が見られなくて残念だったな」
「デビルーク人は力を使いすぎると体が縮んじゃうの。わたしはまだなったことがないけど」
「そ、そうなのか……縮むのか……うん……そういうこともあるんだな……」
「言っておくが小さくなってるからってオレをなめない方がいいぜ? 今の姿でも地球ぐらい消すのはわけないからな」
ガハハと笑っているがリトとしては笑い事ではない。どうやら自慢している気らしいが脅されているも同然。スケールの違いにもはやリトは乾いた笑みを浮かべるしかない。とりあえず、あの小さな姿が正体ではなかったとうことだけは朗報だろう。
「ま、オレの話はこのぐらいでいいだろ。次はお前らの番だ。ララ、こいつがお前の婚約者候補だってのは本当なんだな?」
それまでの巫山戯た雰囲気はどこへ行ったのか。間違いなく父親としての威厳を見せながらギドはようやく本題に入る。リトが思わず背筋が伸び、正座してしまうぐらいには今のギドはさっきまでとは違う意味で威圧感があった。
「そうだよ♪ 結城リトっていうの。いいでしょ?」
「それは知ってるが、オレにはどう見ても貧弱な地球人にしか見えねえな。今まで見合いに連れてきた奴らの方が何倍もマシだと思うが……こいつのどこか気に入ったんだ?」
「う…………」
ギドのもっともな言い分に思わず顔をうつむかせるしかない。反論したいもののできる要素が何一つない。何の特技もない地球人。それが今のリトの姿。ララも改めて聞かれて考え込んでいるのかうーん、と頭をひねっている。あれだけ言っておいたのにもしかしてまだどうして婚約者候補になったのかという設定を考えていなかったのか。滝のような汗を流しながら嘘がばれてしまうのではと覚悟を決めかけたリトは
「うん! やっぱり一番はリトがわたしのことを怒ってくれたからかな?」
「…………え?」
そんなララの理解できない答えに呆然とするしかなかった。
だが呆気にとられているのはギドも同じ。当たり前だろう。婚約者を選んだ理由を尋ねたら怒られたからなんて答えが返ってくるなんていくら銀河最強の男でも予想できなかったに違いない。
「意味が分からねえな。怒られたからこいつのことを好きになったってのか?」
「そうだよ? わたしが家出したことにリト、本気で怒ってくれたの。最初は悲しかったけど、すぐにうれしくなったんだ。わたし、パパやママには怒られたことあったけど同い年の男の子に怒られるなんて初めてだったから!」
嘘偽りない本音なのだろう。ララは本当に嬉しそうにしている。リトにとっては何でもない行為だったのだが、ララにとっては何か感じ取るものがあったらしい。
「……前々から思ってたが、我が娘ながら妙な奴だな」
「パパには言われたくないもん。それにパパだって散々ママに怒られてるでしょ? 結婚する人とはあんな風になれたらいいなあってずっと思ってたの!」
ララの言葉に言い返す言葉がないのかギドは黙り込んでしまっている。それを前にしてリトもまた身動きがとれない。嘘を通すためとはいえ、ララの言葉は告白に近い。つい本気にしてしまいそうな破壊力がある。そんなララの言葉に対抗できるような言い訳を自分が口にできるのか。
「それにリトのとらぶるを治してあげたいのもあるかな。リトはそれですごく困ってるみたいだから」
「とらぶる? 何のことだ?」
「もう、前に行ったでしょ? リトに近づくと何故か一緒に転んじゃうの。見てて、このぐらい近づくと……」
「っ!? な、何やってんだララ!? 今のオレはもう力が戻って」
突然何の前触れもなく自分の絶対領域に踏み込んでくるララに制止の声を上げるも間に合わない。人目のないところであれば構わない(リトとしては全然構わなくはないのだが)が、ここには人目がある。しかもララの父親であるギドという最悪の目が。
「うあああっ!?」
「ほらね、不思議でしょ、パパ?」
「そんなことどうでもいいから早く離れろララ!? 怪我したらどうするんだ!?」
「平気平気♪ それにリトに触ってもらうのもちょっと気持ち良くなってきたし」
「な、何言って……とにかく早く……!?」
何気なくとんでもない爆弾発言をしているララを押しのけながら立ち上がろうとするも叶わない。体が絡み合い、手は胸と尻をわしづかみしてしまっている。それでも何とかキスだけは避けている。もう取り返しがつかないくらい今更な気もするがララには本当に好きな人とファーストキスをしてほしい。それができなかった自分の代わりに。そんな訳の分からない思考に囚われながらもようやくリトは気づく。
「…………」
こんな状況になれば怒るにせよ煽るにせよ、騒がずにいられないであろうギドが無言のままリトとララの姿を腕を組んだまま眺めている。どこか冷静な、獲物を見るような瞳。
「……リト、お前それいつからだ?」
「え? いつからって何の……」
「そうやって転ぶようになったのはいつからだって聞いてんだ……さっさと答えろ」
「え……えっと……中学に上がってからだから……さ、三年前くらいから、です……」
有無を言わせないギドの言葉に戦々恐々としながらリトは自らの事情を白状する。やはりここまでか。どうにか地球を破壊するようなことだけは許してほしい。しかし
「ララ、お前なんで家出で地球になんか行った? 星なら他にもあったろうが」
「え? 特に理由はないよ? このぴょんぴょんワープくんでランダムに飛んだだけだから。そしたら裸でリトの家のお風呂に行っちゃって大変だったんだから!」
「お、お前なんでそんなことを今っ!?」
火に油を注ぎかねないララの言動にもはや血の気が引くだけ。わざとやっているのかと疑いたくなるほどのオウンゴールの連発。婚約者候補云々の前に普通に殺されかねない事実の連続。
「――――ケケ、そういうことか。面白えじゃねえか」
瞬間、ギドの形相が笑みに染まる。ぞっとするような、狂気の笑み。
「? パパ、どうかしたの?」
「何でもねえさ。それよりも式はいつにする? やるなら早いほうがいいだろ」
「えっ!? な、なんでそんな急に……ま、まだ婚約者候補だし、そんなのはまだ早いと思うんですけど……!?」
「あん? まさか嫌だとか言うんじゃねーだろーな?」
予想だにしない展開にリトはあたふたするも有無を言わせないギドの姿に言葉を失ってしまう。いったい何がどうなっているのか。
「正直お前みたいな貧弱な地球人に跡を継がせるのは不安だったが気が変わった。認めてやる。お前が後継者だ。ララの意思も尊重してるし、オレ、いい父親だろ?」
「そんなこと言って早く楽になりたいだけでしょ!? それに結婚するのは三年後ってリトと約束してるの! リトの国じゃ男の子は十八歳にならないと結婚できないんだから!」
「そんなもんデビルークじゃ関係ねえんだが……三年か、ちっ、そのぐれーなら我慢してやるか……ただし、三年経ったらすぐだからな! もう言い訳は許さねえ……いいな?」
「は……はい……」
「よかったね、リト♪ 三年間ヨロシクね!」
ララは打ち合わせ通りに行ったことに喜びぴょんぴょん跳ねているが、リトはそれどころではない。もう魂が抜けかかっているかのように立ち尽くすしかない。
(こ、これって……もはや婚約解消できない流れなんじゃ……? っていうか三年間ヨロシクってララ自分の状況本当に分かってるのかっ!?)
一刻も早く本当の婚約者を見つけてもらわなければいけないのにその気が全くなさげなララにめまいを起こしかねない。
「そんなシケた面すんなって。ところでリト、お前コウコウってところに通ってるんだろ?」
「っ!? い、いきなり肩に乗らないでください!」
突然肩に現れたギドにぎょっとするもどうすることもできない。とらぶるが起こるかと思ったがどうやらさっきのララので消費してしまったらしい。不幸中の幸いだろうか。
「いいからいいから。そこにお前ぐらいの年頃の女……ジョシコーセイってのがいるってのはほんとか?」
「ほ、ほんとですけど……それが何か?」
「そうかそうか! なら今度オレもそこに連れて行け! 将来の婿がどんな生活してるかちゃんと見とかねえといけねえからな!」
よしよしとばかりに何故か上機嫌なギドにリトは困惑するだけ。いったい何を考えているのか全く分からない。破天荒が形になったような存在。
「なんでそんなこと……?」
「ちょっとした息抜きだ。最近遊んでねえからな、いいだろ?」
「へえ、高校に行ってどんな遊びをするつもりなの?」
「んなもん決まってんだろうか、若い女たちを触るチャンスじゃねえか! この姿ならお咎めくらうこともないし……な……?」
だが、そんなギドがまるでゼンマイが解けてしまったかのように動きを止めてしまう。ギギギ、とゆっくりと振り向いたそこには女性がいた。だがそれだけで、その場は固まってしまった。
その美しさに。美貌に世界は包まれてしまう。声だけで聞くものを癒やし、見るものを虜にしてしまう絶世の美女。
「どういうことか、聞かせてくれるかしら? アナタ♪」
デビルーク星の王妃でありギドの妻。
『セフィ・ミカエラ・デビルーク』
残念ながら、結城リトの婚約者候補面談はまだ当分終わりそうにはなかった――――