もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】 作:HAJI
「ふぅ……お疲れさま、リト! 今日は四回だったね♪」
「あ、ああ……ありがとう、ララ。と、とりあえず服を着てもらっていいか?」
「うん♪ ちょっと待っててね」
息を切らし、どこか満足気な声を漏らしながらララはいそいそと脱いだ、ではなく脱がされた服を着直していく。自分はただそれを視界に収めないようにしながら後ろを向くしかない。ある意味慣れた光景ではあるが、それでも緊張は隠し切れない。まるで事後のような有様。何よりも
(オレ……ララに告白されたんだよな? なのに返事もしないでこんなことしてていいのか……?)
罪悪感、良心の呵責のような感情を感じずにはいられない。あの日、ララとヤミの二人から告白をされてからもう三日が経とうとしている。そのあまりの衝撃とは裏腹にいつもの通りの日常を送ってしまっている。朝、ララにとらぶるを消費してもらい、ヤミと一緒に学校に通い、三人で家に帰ってくる。二人ともいつも通りで変わりない。ヤミはきっとそういう風に振る舞ってくれているのだろうが、ララに関しては本当に気にしていないのかもしれない。
(あれからヤミも何も言ってこないし……どうしたもんかな……)
ララの告白からヤミは全く告白については触れてこない。無視しているとかではなく、いつも通り接してはくれるがやはり気を遣っているのだろう。返事を保留してるのに、ララにとらぶるすることに後ろめたさを感じてしまう。そして
「お待たせリト! もうこっち向いていいよ」
「そ、そうか……その、大丈夫か? 足腰が立たなくなったりしてないか?」
「大丈夫! 五回だったらしばらく動けないけど、四回なら慣れてるから!」
えっへんと大きな胸を張っている制服姿のララ。色々突っ込みたいことはあるが全て自分に跳ね返ってくるので何も言えない。
「どうしたの、リト? 何か考え事……?」
「いや……その」
自分の挙動不審さに気づいたのか、ララがきょとんとしながら尋ねてくる。それを前にして覚悟を決める。やはり黙っているわけにはいかない。あれほど真っすぐに自分を気持ちを伝えてくれたララに今の自分の気持ちを伝えておかなくては。
「……前の告白の事だけど、ほんとにありがとう。嬉しかった。それとごめんな……まだ返事はできそうにない」
「? なんでリトが謝ってるの? 言ったでしょ? わたし、リトに好きになってもらえるように頑張るって!」
こっちの勝手な都合で返事ができていないのに、ララは全く気にしている様子はない。本当に告白されたのか不安になるような反応。きっとララにとってはそれが普通なのだろう。でもそれに甘えるわけにはいかない。
「それと……ララにオレ、もう一つ言っておかなきゃいけないことがあるんだ」
「もう一つ?」
「実は……オレ、ヤミからも告白されたんだ……」
全身汗だくになりがら正直に白状する。ララに告白される前にヤミに告白されたこと。まだ返事をしていないこと。自分がまだどちらの気持ちにも答えられていないこと。実際に口にすることで自分がどれだけ情けないのか再認識させられてしまう。はっきり言って二人に告白されてどっちを選ぶか迷っています、と言っているようなものなのだから。本当なら怒られるか、軽蔑されてしかるべき事態。なのに
「ホント!? すごーい! ヤミちゃんもリトのこと好きだったんだ! わたしと一緒だね!」
嬉しい、とララは目を輝かせてしまっている。まるで自分の事のようにララはそのことに喜んでいる。思わずこっちは目が点になってしまう。いったい何がどうなっているのか。
「う、嬉しい……? お、怒ってないのか、ララ……?」
「なんでわたしが怒るの? それともリト、ヤミちゃんのこと嫌いなの?」
「い、いや……そんなことはないけど」
ただララの反応にタジタジになるしかない。当たり前だ。怒るどころか自分がヤミに告白されたことを喜んでくれているのだから。同時に思い出すのはいつかセフィさんの部屋で聞かされた、ララの恋愛観。
「わたし本当に嬉しいんだよ? だって大好きなヤミちゃんが大好きなリトの事好きなんだから!」
同じ人を好きになったならきっと仲良くできる。みんな一緒に。ある意味これ以上にないほどのララらしい考え方。
「じゃ、じゃあ……その、もしオレがヤミの方が好きだって言ったら、ララはどうするんだ……?」
「? わたしもリトに好きになってもらえるように頑張るだけだよ? わたし、一番とか二番とかそーゆーことはどうでもいいの」
変なリト、とばかりにララは自分の気持ちを伝えてくれる。自分がヤミが好きでもララの気持ちは変わらないと。
「わたしがリトの事が好きで、リトもわたしを好き。それでわたしはサイコーに幸せだから♪」
ただお互いに好きならそれでいい。順番なんて関係ない。子供のように純粋な、これ以上にない綺麗なララの在り方。思わずその笑顔に見惚れてしまうもすぐに邪念を振り払う。
「と、ととにかく、遅くなるかもしれないけど、ちゃんと返事はするから! それまで待ってくれると助かる……」
「うん、待ってるね♪ わたしも頑張るから! ヤミちゃんにもちゃんと応えてあげてね」
ララはそのまま嬉しそうにバタバタと一階に降りて行ってしまう。ヤミに応えてあげて、という言葉の中に自分がララの告白を断るという選択肢が含まれることに全くララは気づいていない。そもそもその発想がないのかもしれない。独占欲というものが全く感じられない。
「やっぱり……ララ、なんだな」
ララだから。それ以上の理由はもはや存在しない。出会った時のショックを超えるララの規格外さを思い知りながらも、どうにか平静を装いながら自分も一階へと続くのだった――――
放課後。間接的に転校してきたネメシスとメアの主従コンビによってクラスはめちゃくちゃになり、古手川のストレスがマッハだったものの、どうにか学校自体は終わった時間帯。自分は今、屋上に来ている。そしてその隣にはヤミ、ではなくイヴの姿。他には誰もいない。他のみんなには先に帰ってもらい、イヴだけ残ってもらった。ララとは違い、イヴが告白したことはみんなまだ知らない。それに加えてあの主従コンビがいてはまともに話もできない。
「そ、それで……話とはなんですか……?」
いきなり自分に呼び止められたからか、どこかそわそわしながらイヴは自分に尋ねてくる。それに思わず見とれそうになりながらも気を取り直してイヴと向かい合う。ララにしたように、イヴにも今の自分の気持ちを伝えておかなくては。それとイヴに告白されたことをララに話したことも。
「ご、ごめん、ヤミ!」
頭を下げながら精一杯に誠意を示す。やってて情けないことこの上ないが今はこれ以上にできることがない。怒られて当然のこと。だが
「……そ、そうですか……い、いえ……気にしないでください。いきなり告白したのは私ですし、貴方のせいではありません。な、なので……その……」
イヴはどこか茫然とし、虚ろになりながらぽつりぽつりとそんなことを口にしてくる。知らずその表情は固まり、顔面蒼白になっている。
「……? イヴ、ど、どうかしたのか……?」
「い、いえ大丈夫です! こうなるかもしれないとは分かっていましたから……それに、プリンセスとも今まで通りに接しますし貴方が心配することは何も」
「え……?」
「え……?」
そのままお互いに目を合わせたまま固まってしまう。何かが致命的に噛み合っていない。時が止まって数十秒。ようやくその理由に至る。
「ご、ごめん……オレ、まだ返事ができないってことを謝ろうと思って……だからその、イヴの告白を断ったわけじゃ……」
「――えっちぃのは嫌いです!」
瞬間、本当に久しぶりにイヴのお仕置きを受けてしまう。あまりの混乱具合からか別にえっちくもないのにいつものセリフを吐いているイヴ。
「どうしてあんな紛らわしい言い方をするんですか!? てっきり私は貴方に振られたのかと……!!」
「ほ、本当にごめんなさい……ただ、今の自分の気持ちを伝えたかっただけで、悪気はなかったんだ……」
「そ、それは分かりますが……大体言ったはずです! 返事はすぐにはいらないと! それなのに貴方ときたら……」
そのまま正座させられたまま、イヴによるお説教を受ける。それを甘んじて受けるしかない。今回はどうからどうみても自分が悪い。慣れないことの連続で自分も混乱していたのかもしれない。
「はぁ……もういいです。それで、伝えたいことはそれだけですか?」
「い、いや……もう一つあって。その、イヴに告白されたこと、ララに話したんだ。黙ってるのもいけないと思ったから……」
今度は違う意味で緊張しながらイヴに白状する。本当ならイヴに許しを得てからララに話すべきだったのだが早まってしまった。もう一度怒られても仕方ないこと。だが
「……そうですか。構いません。今日にでも私からプリンセスに話すつもりでしたから」
怒るどころか、どこか納得済みであるかのようにイヴは応えてくる。こちらが拍子抜けしてしまうような空気。
「そ、そうか……怒ってないのか? 勝手に話したこと」
「言いたいこともありますがいいです。それに……プリンセスの告白を聞いた瞬間、少し安心しましたから」
「え……? 安心したって……どういう」
一瞬、イヴが何を言っているのか分からなかった。ララが告白するのを見て焦ったり、怒ったりするならまだ分かる。なのにどうして安心したのか。
「……もしプリンセスが先に告白していたら、きっと私は貴方に告白しなかったでしょうから」
独白するようにイヴはそんな本音を口にする。もしララが先に自分に告白していれば、イヴは告白しなかっただろうと。それはつまり、告白をあきらめていたということ。ある意味イヴらしい理由。ただ分かるのは、告白できたことをイヴは後悔していないということ。
「……それで、プリンセスは何か言っていましたか?」
「え? あ、ああ……それが……」
知らずイヴに目を奪われていたので反応が遅れてしまうも誤魔化しながら今朝のやり取りを伝える。
「そうですか……やはりプリンセスらしいですね。私には真似できそうにありません」
「真似できる奴なんてどこにもいないと思うけどな……」
呆れているのか本気で尊敬しているのか。イヴはそんなことを口にしているが自分も同意するしかない。王族だからとか関係なしにララはそういう考えなのだろう。確かに地球でも一夫多妻制はあるし、もしララと結婚して次期デビルーク王になれば重婚も問題ない。それを込みでララはあんなことを言ってきたのだろう。二人の女の子を同時に好きになる。それかできるとしたら――
「……まさかとは思いますが、二人とも選ぶなんてことを考えてはいませんよね、リト?」
「えっ!?」
瞬間、体が跳ねるように動いてしまう。まるで心を読まれたようなタイミング。本気で考えていたわけではないものの、思わず声が上ずってしまう。イヴにはどう映ったのか、ジト目でこちらを見つめてるだけ。
「そ、そんなこと考えてるわけないだろ!? オレはただララの考えを伝えただけで……!」
「……ならいいです。それはプリンセスの考え方で、間違っているとは思いませんが……私は容認できません。プリンセスモモならハーレムだというんでしょうが……結局それは二股ですから。はれんちぃです」
「は、はは……確かにそうだな……」
それは違います! と反論するモモの姿が脳裏に浮かぶも自分もまた乾いた笑みを浮かべるしかない。よくよく考えたら当たり前の事。ハーレム……ではなく、みんな一緒に、はララの考え方。例え自分がそれに同意してもイヴが納得しなければ意味がない。奇しくも以前、セフィさんがララに諭していた内容と全く同じ。
(も、もしかしてセフィさん……こうなることを見越して、あんなことを……?)
知らず汗が背中を伝う。深謀遠慮とはまさにこのこと。あのアドバイスはララではなく、本当は自分に対しての物だったのかもしれない。
「……それに貴方にそんなことができるほど甲斐性があるとは思いませんし」
「そ、それは……そうだな」
ある意味自分以上に自分を理解しているイヴの言葉に納得するしかない。女の子二人に告白されてまともに答えることができていない自分が二人同時に付き合うことなんてできるわけがない。少し考えれば分かることなのに、もしかしたら知らず自分もララやモモの考えに影響されてしまっているかもしれない。それを同じ宇宙人であるイヴから気づかされるなんて。
(それにしても二股、か……なんだろう、ハーレムと意味は同じなのに、言葉ってすごいな……)
同じ意味のはずなのに、言葉によって全然感じ方が違う。まだ答えを出さずに二人に待ってもらっているこの状態も、ある意味二股になるのかもしれない。
「色々言いましたが……その、とにかく、答えは急がなくて構いません。プリンセスを選んでも、恨んだりすることはありませんから」
一度大きく息を吸いながらイヴはそんなことを言ってくる。今の自分を容認してくれる、と。同時にララに対する配慮。どこまでもお人好しな彼女の在り方。それでも
「ただ……それでも、私を選んでくれたら……嬉しいです」
そっぽを向きながらもほんのちょっとの我がままを口にするようにイヴは呟く。思わずこっちが赤面するような言葉。それにうんと答えることもできずにあたふたするしかない。
「と、とりあえずそろそろ帰るか! みんな心配するだろうし!」
「そ、そうですね……」
互いに誤魔化しながら下校することにする。ただその道中、カップルが手を繋いでいるのをイヴが見てそわそわし始めてしまう。そのまましばらく無言だったものの、どちらかともなく手を繋いでみる。
ただただ恥ずかしい。とらぶるに比べればなんてことのないはずなのに、手を繋いで歩くことがこんなにも恥ずかしいなんて生まれて初めて。
それがとらぶるではない、慣れないトラブルに翻弄されながらも、きちんと自分の心を決めようと結城リトが心に誓った瞬間だった――――
作者です。今回はララとヤミの対比を現すエピソードになっています。以前にも書きましたが、ララとヤミは対、対象になるように意識して書いています。
ララは相手が自分のことが好きなら順番には拘らない、ハーレム容認派。告白もみんなに見られている場で行い、相手に好きになってもらえるように努力するタイプ。
対してヤミは自分だけを見てほしい、ハーレム否定派。告白は二人っきりで行い、相手の返事を待つタイプ。
次回からは日常回をいくつか挟んで、分岐へと入っていく予定です。どういう結末になるか想像しながら読んでくださると嬉しいです。では。