もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第四十七話 「脅迫」

「健康診断?」

「うん! だから今日はもうこっちに来れないの。ごめんね、リト」

 

 

日曜日の朝。いつものようにとらぶるを済ませ、朝食を食べている最中ララはそんなことを伝えてくる。どうやら本音としてはこっちで遊びたかったようだが仕方ないだろう。

 

 

「それはいいんだけど……なんでこっちで受けないんだ?」

「だってわたし、デビルーク人だもん。地球の健康診断受けたらきっと大騒ぎなっちゃうだろうし。あ、それとヤミちゃんも一緒に受けろってパパが言ってたよ?」

「私もですか……? なぜ私まで」

「なんだったっけ? ふくりこーせーとか言ってたけど……契約しているから年に一回は受けてもらわないといけないんだって」

 

 

言っていて自分でも意味がよくわかっていないのかきょとんとしているララ。地球でいう会社の健康診断のようなものなのだろう。つい忘れがちだがヤミはデビルーク王との契約で護衛を務めてくれているのだから。それよりも焦ったのは自分の慣れ。ついつい勘違いしてしまいそうになるがララとヤミはれっきとした宇宙人。地球で健康診断なんてできるわけがない。まさかララに突っ込まれてしまうなんて自分も随分染まってしまっているのかもしれない。

 

 

「別に私は受けなくても構わないのですが……大抵の病気はナノマシンで治療できますし、一応地球にも宇宙人を診療してくれる医者もいますから」

「そ、そうなのか……? 変わった宇宙人もいるんだな。地球って宇宙でいえば辺境の星なんだろ?」

「変わり者ですが腕は確かです。闇医者なので殺し屋時代にも何度かお世話になったことがありました」

「へえ……どこに住んでるんだ? やっぱり外国とか」

「今は彩南高校の保険医です」

「へ……? う、うちの高校にいるのか!?」

「すごい偶然だね、リト!」

 

 

さらりと明かされる衝撃の事実。まさかそんな身近にララたち以外の宇宙人がいたなんて。自分は宇宙人を引き寄せる習性でもあるのだろうか。あながち否定できないところが恐ろしい。目の前の二人もその結果かもしれないのだから。それはともかく

 

 

「ま、まあそれは置いておくとして……ヤミも受けてきたらいいじゃないか。どうせ今日は日曜だし、オレも家で過ごすつもりだったからさ」

「ですが……」

「大丈夫だよ、ヤミちゃん! 護衛の代わりにザスティンが来てくれるって言ってたから!」

「そ、そうか……それはその、安心だな……」

 

 

違う意味での不安がやってくることを知り、思わず顔が引きつってしまうが仕方ない。ザスティンさんに罪はないのだが、どうしてもあの人に関わるとロクな目に遭わない気がする。一緒に行きたい気になってきたが女の子の健康診断に男である自分が付いていくのはいくらなんでもおかしい。下手すれば変態扱い。向こうにはナナもいるのでケダモノ扱いされかねない。

 

 

「……分かりました。ですがくれぐれも油断しないように。攫われて助けに行くのは私達なんですから」

「……はい」

「心配しないでリト! 攫われてもすぐに助けにいくから!」

 

 

ごもっともなヤミの忠告に加えて縁起でもないララの言葉。そこでザスティンさんがいるから大丈夫という言葉が出てこないのは天然だからかそれとも。

 

 

「じゃあ行ってきます、リト!」

「……行ってきます。できるだけ早く帰ってくるので。美柑にもそう伝えておいてください」

「ああ、いってらっしゃい」

 

 

そう言い残しながらヤミはクールに、ララは手を振りながらデビルークへ出発していく。まるでこれから遊びに行くようなテンション。いつもと変わらない仲がいい二人の様子。それを見ていて知らず気まずくなってるのは自分だけ。

 

 

(二人とも本当に変わらないな……ララはともかく、ヤミも、無理しているようには見えないし……)

 

 

二人を見送った後、大きくため息をつきながらふと考える。二人から告白を受けてからもう二週間以上。二学期も半ばを超えもうすぐ十二月。なのにまだ自分は答えを出せていない。初めは自分のせいで二人の仲が悪くなるのでは心配したがどうやら杞憂だったらしい。ララはもちろんだが、きっとヤミも自分がどちらを選んだとしても関係が変わることはないのだろう。なら、後は自分が決めるだけ。遅くても、年が変わるまでには返事をしなくては。

 

 

(それにしても……家に一人っきりになるのは久しぶりだな)

 

 

とりあえず気を取り直しつつ今の状況を確認。今この家には自分以外誰もいない。美柑も昨日から友達の家にお泊りに行ってるため不在。ララが言っていた通りならもうすぐザスティンさんが来るのだろうがそれまでは完全なフリー。どうしたのもか。普段できないことをするいい機会かもしれない。最近、遅れ気味の勉強か。それとも。だがそんな儚い希望は

 

 

「ケケ、なんだ、ソワソワしやがって。オレが買ってやったアダルトビデオでも見る気か?」

 

 

いきなり肩に取り憑いてきた、小さい悪魔によって失われてしまった。

 

 

「っ!? デ、デビルーク王!? いつのまに!?」

「最初からさ。気配を消してたんで、ララも金色の闇も気づかなかったみてえだな。まだまだ子供だな」

 

 

やれやれと言った風にどこか満足げなどっからどうみても子供のエロオヤジ。もしかしたらかくれんぼでもしていたのだろうか。一人かくれんぼになってしまっているが。

 

 

「そ、そんなことよりもどうしてこんなところに……!? ここにはザスティンさんが来るはずじゃ」

「そのつもりだったんだがザスの野郎、仕事でポカやらかしやがってな。こっちに来る余裕がなさそうなんで仕方なくオレが出向いてやったってわけだ。感謝しろよ、結城リト?」

 

 

フハハハ! と耳元でバカ笑いを始めるデビルーク王に翻弄されるしかない。夏休み以来だがこの人は全く変わっていない。どころかひどくなっているのではないかと思えるほど。だが自分もこの環境に半年揉まれてきた経験がある。やられっぱなしではいられない。

 

 

「も、もうそんなことで騙されませんよ! どうせまた女の子にちょっかい出しに来たんでしょう!?」

「お、流石だな。もちろんそのつもりさ。前は金色の闇が邪魔しやがったからな。リベンジってやつだ」

 

 

お前も分かってんじゃないかとばかりに背中をバンバン叩かれるが全然嬉しくない。というか痛い。流石腐っても……ではなく小さくなってもデビルーク王。思い出すのはデビルーク王のセクハラによって大混乱に陥った学校。今思い出しても寒気がする。

 

 

「で、でも今日は学校も休みですから女子高生もいませんよ? なんでこっちにいても面白いことは何も」

「気にすんな。オレは女子高生じゃなくても十分いけるぜ? 街にでも行けばいい女もいっぱいいるだろうしな!」

 

 

何とか誤魔化そうとするが全く意味をなさない。そういえばこの人の守備範囲は滅茶苦茶広かったはず。アダルトビデオも女子高生物から人妻、熟女ものまでなんでもござれ。学校を超える大惨事が起きかねない。どうしたものかと戦々恐々としていると

 

 

「ま、それは置いておいてだ。オレがこっちに来たのはそれだけじゃねえ。お前に用があったからだ、結城リト」

「オレに……?」

 

 

一通りからかい満足したのか、肩からぴょんと床に降りこちらを見上げながらデビルーク王は告げてくる。見上げているのにこんなに偉そうなのはやはり王様なのだなと思うのも束の間。

 

 

「しらばっくれるなって。ララから告白されたそうじゃねえか。なあ、婚約者候補?」

 

 

ケケケ、と悪魔のような笑みを浮かべながらデビルーク王は愉し気にこちらを見つめてくる。瞬間、今度こそ血の気が引いてしまう。同時に自分の間抜けさにようやく気付く。

 

 

「ど、どうしてそのことを……?」

「あ? どうしてもこうしてもあるか。こっちが気持ちよく寝てるところをララに叩き起こされたかと思えば、婚約者候補は止めるだのてめえに告白しに行くだの、言いたいことだけ言ってさっさといなくなっちまったんだからな。誰に似たんだか」

 

 

貴方ですと力いっぱい叫びたかったが流石に口に出すことはできない。そういえば自分に告白する前にデビルーク王と話をしたと言っていたがこのことだったのだろう。というか会話になっていない、自分が言いたいことだけ言っただけ。本当に自分がしたいことだけをしている。間違いなく親子なのだろう。

 

 

「そ、そうですか……それで、それが何か……?」

「まだ白を切る気か? 婚約者候補の嘘は……まあ本当なら万死に値するんだが不問にしてやる。一応、ララの奴から持ち掛けた話だったらしいからな。どうだ寛大だろ、オレ?」

「あ、ありがとうございます……」

 

 

突っ込みたいところが満載だが甘んじて受けるしかない。本当は最初から知っててからかって遊んでいたくせにと思わなくはないが、嘘をついていたのは本当なのだから。何はともあれこれでようやく半年かかった婚約者候補の嘘から解放されたことになる。だが理解していなかった。

 

 

「それで、式はいつにする、後継者?」

 

 

自分が婚約者候補を超える呪縛に囚われてしまったことに。

 

 

「し、式……? いったい何の話ですか……? それに後継者って……」

「てめえとララの結婚式に決まってんだろうが。とっとと済ませねえと面倒だしな。次期デビルーク王になるってなりゃ色々準備もいるしな。当然だろ?」

「け、結婚!? なんでいきなりそんなこと……大体結婚するのは高校を卒業してからって」

「それは嘘の婚約者候補の話だろ? ララのやつがお前のことを好きになったんならそんなことはもう関係ねえ。そうだな……リト・サタリン・デビルークってとこか。よろしく頼むぜ、息子?」

 

 

ニヤニヤと上機嫌に煽ってくるデビルーク王にただただあたふたするしかない。そう、こうなることは分かり切っていた。元々デビルーク王は自分が早く引退して好き勝手したいがためにララにお見合いをさせていたのだから。そのララに好きな相手ができたのならこうなるのは当然。ようやくそのことに気づき、冷や汗を流すしかない。後継者はともかく息子と呼ばれるのは恐ろしすぎる。色んな意味で。

 

 

「い、いや……でも、オレ普通の地球人ですし、デビルーク王になるなんて無理なんじゃ……」

「お前が普通なら地球人のやつらはどうなるんだって話だが……その心配はいらねえ。元々お前に強さなんて期待してねえ。それはララの役割だ。お前はセフィの役割をすればいいのさ。そのために夏休み中セフィの公務に付き添わせたんだからな」

 

 

明かされる衝撃の事実その2。まさかそこまで用意周到に外堀が埋められていたとは。だがこの手際はデビルーク王ではなく、きっとセフィさんのもの。デビルーク王も含めて、自分たちはあの人の掌の上なのかもしれない。

 

 

「ま、最悪お前はそこにいるだけでいいさ。それで万事上手くいく。オレが認めてやる。お前が次期デビルーク王だ」

 

 

不敵な笑みを見せながらデビルークはそう宣言する。そこにはいつもの冗談っぽさが残っていない。本気の目。思わず息を飲んでしまううような迫力がある。

 

 

「オ……オレは……」

 

 

それを前にして、思わず口ごもってしまう。ララのことが嫌いなわけじゃない。でも今はまだ決めることができていない。ヤミのこともあるがそれをデビルーク王に言うのもなんだがおかしい。とにかく一旦この場をどうにかしなければ。そう思うも

 

 

「オレは? まさか嫌だとか言うんじゃねーだろーな?」

 

 

ぞっとするような冷たい声と共に、凄まじい衝撃が巻き起こった。

 

 

「っ!? こ、これは……!?」

「前にも言ったはずだぜ? 子供の姿でも地球を壊すぐらいわけないってな。もう一度だけ言うぜ? ララと結婚しろ、リト。そうすりゃ全て丸く収まる。それともララが気に入らないってわけか?」

「そ、そんなことは……」

「ならナナやモモの方がいいってことか? オレは別に構わねえが、全員ってのはお勧めしねえぜ? セフィのやつがキレかねねえからな」

「な、なんでそうなるんですか!? オレはそんなこと……」

 

 

いきなりナナとモモの名前が出てきたことに加えて、デビルーク王までララのようにハーレムのようなことを言い出したことに焦るしかない。どうやらデビルーク王もハーレム容認派らしいが自分の娘たちを勧めるなんてどういうことなのか。セフィさんに関しては予想通りだがそれでも驚きは隠せない。どうしてデビルーク王はここまで自分を結婚させようとしているのか。そこまで隠居して遊びたいのだろうか。

 

 

「さっさと決めな、リト。じゃねえと地球よりも早くこの家が崩れちまうぜ?」

 

 

鋭い目つきとともに圧倒的な力が渦巻いていく。見れば火花のようなものまで散っている始末。壁や床にはヒビが入り始めている。このままでは本当にマズイ。信じがたいがデビルーク王は本気だ。冗談が歩いているような存在だが嘘はつかない。でも、こんな風に決めてはララやヤミにも申し訳が立たない。震える身体を抑えながらも今の自分の気持ちを口に出そうとしたその時

 

 

「やっほーリトお兄ちゃん! 遊びに来たよ♪」

 

 

全く空気を読まない、予想だにしていなかった来客が現れる。しかも何故か二階から。きっと窓から入ってきたのだろう。だがそれはきっと自分にとってパンドラの箱。どっちに転んでもこの家が崩壊することは避けられない。

 

 

それがメアとネメシス、デビルーク王の出会い。そして変身兵器とデビルークの因縁が再び交差した瞬間だった――――

 

 

 


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