もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第四十八話 「降臨」

(どうしてこうなった……?)

 

 

ただ呆然と目の前の状況に翻弄されるしかない。いきなりのデビルーク王の襲来に加え、ララとの結婚を迫る脅迫。人質は地球と家。家の方はまさに崩壊寸前だったのだが今は地震のような震えは収まっている。もう一人……いや、二人の襲来によって。

 

 

「…………」

 

 

自分とデビルーク王の間に割って入っている赤毛の少女、メア。だがその様子は普段とは全く違っていた。服は一瞬にして普段着からいつか見た黒い戦闘服に変化し、赤いおさげが意志があるように揺らめいている。何よりもその瑠璃色の瞳がぞっとするほど暗く冷たい。ここ数か月見たことがなかったせいで忘れかけてしまっていた変身兵器としてのメアの姿。そうしてしまうほどの理由と因縁がメアと目の前の相手にはあった。

 

 

「あ? なんだお前……?」

 

 

いきなり現れたメアに目を奪われながらもいつも通りのデビルーク王。間違いなく殺気を受けているはずなのにけろりとしているのは流石というべきなのか、それとも鈍いのか。

 

 

「大丈夫、リトお兄ちゃん……? 心配しなくてもあたしが何とかするからここから離れてて」

 

 

そんなこちらの事情を全く知らないメアはどこか静かに自分にここから逃げるように促してくれる。どうやら自分を庇って、守ろうとしてくれているらしい。本当に嬉しいし、助かるのだがちょっと待ってほしい。

 

 

「い、いや……ちょっと待ってくれ、メア! オレは別に襲われてたわけじゃなくて、ただ脅されてただけで……」

「……? それの何が違うの? 大丈夫、任せておいて。デビルークはあたしたちの敵なんだから」

 

 

言ってて自分でも何を言っているのか分からない。大体普通なら脅されているだけでメアのように勘違いするのは当たり前。しかしデビルーク王にとってはこんなやりとりはいつも通り。盛大な認識の違いのせいでメアとの歯車がかみ合わない。

 

 

「ん? その赤毛……そうか、てめえが赤毛のメアか……また結城リトを攫いに来たってわけか? なら残念だったな。オレ様は金色の闇のように甘くはないぜ」

「お前こそお兄ちゃんを狙ってきたんでしょ。お兄ちゃんはあたしの家族なんだから……絶対に渡さない!」

「っ!? ちょ、ちょっと止めろって二人とも!? このままじゃほんとに家が壊れるから!?」

 

 

瞬間、再び空気が震え始める。もしかしたらさっきより酷い有様かもしれない。このままでは家が戦場になるか瓦礫の山になるのは必至。だがララもヤミも今はいない。どうしようもない袋小路にあきらめかけたその時

 

 

「ふむ……なかなか面白そうなことになっているが、いつからデビルークと敵対関係になったのだ、結城リト?」

 

 

まるで最初からそこにいたかのように黒い霧の中からネメシスが姿を現す。いつか見た黒い浴衣姿。

 

 

「ネ、ネメシス……!? いつからそこに……!?」

「忘れたのか? 私はメアと変身融合しているのだぞ。メアが知っていることは私も知っている。何でもお見通しという訳だ」

 

 

くくく、と嗜虐的な笑みを見せながらネメシスはこっちを見据えてくる。まさに蛇に睨まれた蛙の気分。ある意味、もっとも知られたくないことをもっとも知られたくない人物にバレてしまったのかもしれない。

 

 

「それはともかく、一体どういう状況だ? なぜお前がデビルーク王に襲われている? 保護されているのではなかったのか?」

「い、いや……その、ちょっと色々あって……」

「へえ、てめえがネメシスってやつか。本当に見た目はただのガキだな」

「そっくりそのままお返しするよ。一応初めましてになるのかな、デビルーク王。会えて光栄だよ」

 

 

どっからどう見ても赤ん坊にしか見えないデビルーク王と幼女にか見えないネメシスが互いに不敵に見つめ合っている。端から見ればシュールなことこの上ない。きっとこれが銀河でも最上位に当たる強者がにらみ合っている状況だとは夢にも思うまい。

 

 

「ハ、オレのファンってわけか? だが今は取り込み中だ。後にしな」

「……マスター、もうデリートしていいんじゃない?」

「まあ、落ち着けメア。なにやら面白そうではないか。取り込み中とは何のことなのかな?」

「ケケ、なに、そこの結城リトとオレの娘のララの結婚について話してただけさ」

「っ!? デ、デビルーク王、何を!?」

 

 

今にも襲い掛かりそうなメアを宥めながらのネメシスの問いにデビルーク王はあっさり答えてしまう。そんなことをすればどうなるか火を見るよりも明らか。

 

 

「ほう、では噂に聞く『お前には娘をやらん!』をやっているところだったのか!」

 

 

新しいおもちゃを見つけように目を輝かせながらネメシスは興味津々と言った様子。どうやらネメシスもメア同様、偏った知識を持っているらしい。

 

 

(いや……それはもう終わってるんだけど……しかも半年以上前に)

 

 

だが悲しいかな、もうそのイベントは終わっている。今行われているのは全く真逆の物。お前に娘をやる(脅迫)である。

 

 

「っ! だ、ダメだよリトお兄ちゃんはヤミお姉ちゃんと結婚するんだから! ヤミお姉ちゃんの方がリトお兄ちゃんのことが好きなんだから……あ」

 

 

何故か焦りながらメアは口にするもすぐにはっとした様子で口を閉じてしまう。だが時すでに遅し。

 

 

「ど、どうしようマスター……あたし、言っちゃった……ヤミお姉ちゃんにお仕置きされちゃう!?」

「はは、やらかしたなメア。金色の闇がどんな顔をするか今から楽しみだよ」

 

 

自分がヤミのことをバラしてしまったことに気づいてメアは真っ青になってしまっている。やはり姉とはいえヤミのお仕置きは怖いらしい。これまで何度も食らっている自分には痛いほど分かる。対してネメシスは愉し気ですらある。どうやらドSさは下僕であるメアにも適応されるらしい。もし下僕になった日には自分もああなるのだろうか。

 

 

「い、いや大丈夫だ、メア。オレ、ヤミがオレのこと好きなのは知っているから」

「え? 本当!? なんでリトお兄ちゃんが知ってるの?」

「それは……実はヤミから告白されて」

「ヤミお姉ちゃんがお兄ちゃんに告白したの!? 素敵!」

「思ったよりも早かったな。金色の闇もなかなかやるな」

 

 

流石にかわいそうだったのでネタバラシをすることにする。ヤミには悪いが知っていたのなら告白のことを言ってもいいだろう。ただ、最大の懸念だったデビルーク王にもバレてしまうことだけが恐ろしかったのだが

 

 

「ケケケ、なるほどな。思ったよりもやるじゃねえか、リト。男にしか興味がねえか思ってたがやることやってんじゃねえか」

「な、なんでそうなるんですか!? そ、それよりも怒らないんですか……?」

「ん? 護衛に手を出したことか? そのぐらいどうってことねえさ。男ならそのぐらいの甲斐性はないとな」

「か、甲斐性って……オレが言ってるのはその、ララからも告白されたのに迷っちゃってることで……」

 

 

デビルーク王もまたネメシスと同じように面白いことを聞いたとばかりにニヤニヤしているだけ。どころかよくやったと言わんばかり。ホモ疑惑についてはもはやあきらめるしかない。だが分からない。怒るのなら分かるがどうしてそんな態度なのか。

 

 

「なんでそんなことで悩んでんだ? 両方自分の女にすればいいじゃねえか」

 

 

とても三人の娘がいる父親とは思えないようなオレ様宣言によって明らかになってしまう。

 

 

「両方って!? それじゃ二股に」

「そりゃ隠してた場合の話だろ。次期デビルーク王になるなら側室持つぐらいどうってことねえ。ララのやつもその辺は全く気にしねえからな」

「そ、それは……でもデビルーク王は側室いないじゃないですか!?」

「セフィの奴がうるせえからな。仕方なくだ。ったく面倒な女選んじまったな。せいぜいお前も気をつけろよリト。オレの見立てじゃ金色の闇もセフィと同じようなタイプだからな」

 

 

ポンポンと何故かこちらの肩をたたきながら意味不明なことを呟いてくる銀河最強の男(ただし嫁は除く)セフィさんとヤミが同じかはともかく、側室を勧めてくる父親なんてこの人ぐらいだろう。ララとは違う意味でハーレム容認派らしい。むしろ推進しているレベル。自分ができないことをオレにさせようとしている節すらある。

 

 

「それはともかく、オレは側室なんて持つ気はないです!」

 

 

このままではマズイと大きな声で自分の意見を叫ぶ。宇宙の非常識に飲み込まれる前にどうにかしなければ。だがそんな考えは

 

 

「あん? まさかお前、ララを振って金色の闇を選ぶ気じゃねえだろーな?」

 

 

宇宙最強の男によって無残にも吹き飛ばされてしまう。瞬間、再び家が揺れ始める。どうやらハーレムはよくてもララを選ばないことは許さないらしい。四面楚歌。絶体絶命の危機に陥るも

 

 

「そうだよ、お兄ちゃんはヤミお姉ちゃんを選ぶんだから! そうでしょ、お兄ちゃん?」

 

 

状況を理解しているのか。空気を全く読まないメアが会話に乱入してくる。その腰に新たな爆弾を抱えたまま。

 

 

「何だてめえ、オレの邪魔をする気か?」

「お兄ちゃんをデビルークなんかに渡さないから! お兄ちゃんは変身兵器の家族なんだから! ね、マスター?」

「ふむ、正直私はどっちでもいいのだが。繁殖なんて手あたり次第にすればいいだろうに」

「そ、そんな……」

 

 

味方のはずのマスターネメシスのある意味らしい考えにメアはあたふたしている。繁殖という言い方といい、メアのどこか動物的、本能的な考え方はネメシスの影響なのかもしれない。だが

 

 

「っ! だったらヤミお姉ちゃんを選んでくれたらあたしもあげる! ぺろぺろしてくれてもいいし、ぺろぺろしてあげるよ! 子作りしてくれてもいいんだから!」

「お、お前!? 何言ってるか分かってるのか!?」

「分かってるよ! 恋はまだ分かんないけど、性欲は分かるもん。あたし、リトお兄ちゃんに今欲情してるんだから!」

「く、くっつくなって!? 今日はまだ四回しか終わってないんだぞ!?」

 

 

それを証明するように、どうしようもない状況に混乱したのかとんでもないカミングアウトをしながらメアが抱きついてくる。本当に欲情しているのか体が熱くなっている。意味が分かったうえで言っているからこそ恐ろしい。何とか引きはがそうとするも敵わない。

 

 

「色仕掛けか、まだまだガキだな。しょうがねえ……リト、ララを選べばモモとナナも好きにしていいぜ」

「な、なに言ってるんですかあんた!? そんなついでみたいに!?」

「ケケ、心配すんな。あいつらも満更でもなさそうだしな。セフィについてはオレが何とかしてやる、心配すんな」

 

 

そんなメアに対抗するつもりなのか、思わずあんたと呼んでしまうようなとんでもないことをデビルーク王が告げてくる。もしここにナナがいたらケダモノ扱い間違いなしの暴挙。モモについては逆に乗ってきかねないのが怖い。心配するなとサムズアップするデビルーク王の尻尾が震えているように見えるのは気のせいなのか。

 

 

「それに、やっぱり女はおっぱいが大きくないとな。金色の闇といいこいつといい、変身兵器は貧乳ばっかだからな」

 

 

メアとネメシスを交互に値踏みしながらデビルーク王は宣告する。宇宙にいる女性の半分以上を敵に回しかねない発言。ヤミもメアも決して貧乳なわけではない。ララが大きすぎるだけなのだと擁護したいが、擁護になっていないので口に出せない。本当に小さいのはナナぐらいなのだが。

 

 

「~~っ!? そ、そんなことないよお兄ちゃん! 見てて!」

 

 

それを真に受けたのか、メアは涙目になりながら変身の光をまとっていく。それが収まった先には

 

 

「どう? 変身使えばおっぱいの大きさなんて自由自在なんだから! これならリトお兄ちゃんも満足できるでしょ♪」

「わ、分かったら胸を押し付けるな!? あと見えそうだからちゃんと隠せ!?」

 

 

ララに勝るとも劣らない、二つの大きな塊がメアの胸に生まれている。ただ大きすぎるのか、下乳が丸見えになってしまっている。ある意味変身兵器の本当の恐ろしさ。プロポーションすら自由自在。

 

 

「そんな偽乳じゃ意味ねえな。こっちなら本物の大中小、選び放題だぜ?」

 

 

しかしデビルーク王の眼鏡には叶わなかったのか、鼻で笑いながら対抗してくる。大中小。誰が誰なのかはもはや考えるまでもない。というかいったい何の争いをしているのか。

 

 

「……やっぱりデビルークはあたしたちの敵だね。いいよね、マスター?」

「お? ようやくその気になったか。こっちの方が私達らしいな。どうだ、デビルーク王。ここは喧嘩に勝った方が言うことを聞くというのは?」

「オレと戦ろうってのか? 止めときな。ララや金色の闇に負けたお前たちじゃオレの相手にはならねえよ」

「耳が痛いな。だがあれから私達も成長している。素直に言ったらどうだ。二対一が怖いと。今なら媚びへつらえば許してやらないでもないぞ?」

「……どうやら死にてェらしいな」

 

 

それまで観戦していたネメシスまで参戦し。今度は物理的な街の、地球の危機が到来。同時に凄まじいデジャヴを感じる。確か前も同じような展開があった気がする。

 

 

(思いっきり煽ってる……どっちも死ぬ気か――!?)

 

 

一学期にあったヤミとデビルーク王の喧嘩の再来。どうやらどうやってもデビルークと変身兵器は犬猿の仲らしい。そしてついにその二つがぶつからんとしたその時

 

 

「――――こんなところで何をやってるの、ギド?」

 

 

そんな聞いたことのない少女の声が家に響き渡った。

 

 

瞬間、時間が止まった。その場にいる全員の視線が声の主に注がれる。年はモモやナナと同じぐらいだろうか。ピンクの長い髪をした白い洋装を身に纏った少女。一瞬で美少女だと分かる、目を奪われるような美しさ。

 

 

(だ、誰だ……? もしかして、ララたちの親戚の子とか……でも尻尾はないし……え?)

 

 

その容姿がどこかララたちデビルーク三姉妹を思い出させるものだったことからそう考えるもようやく気付く。それは顔。それを覆うようにヴェールを少女は被っている。ようやく理解する。ララたちを思い出すのは当たり前。

 

 

「お久しぶりです、リトさん。お元気でしたか?」

 

 

目の前にいる少女はララたちの母、セフィ・ミカエラ・デビルークだったのだから。

 

 

地球の危機は去ったものの、違う危機が結城リトの下に今、降臨したのだった――――

 

 

 


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