もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第五十一話 「モモ」

「いただきまーす!」

 

 

甲高い女の子たちの声が重なりながら、きゃっきゃと楽しそうな騒がしさが部屋を支配している。ここはデビルーク星の王女、ララの部屋。その主であるララはもちろん、その姉妹であるモモとナナ、リトの妹である美柑、そして変身兵器の姉妹であるヤミとメア、メアの主であるネメシスの総勢七名が今、女子会という名のお茶会を開いている真っ最中だった。

 

 

「ふむ、これもなかなか悪くないな。この星でのスイーツなのか?」

「うん♪ 今デビルークで流行ってるお菓子なんだ! おいしいでしょ?」

「うむ。だがやはり少し甘みが強すぎるな。もう少し抑えめのほうが好みだな」

「そっか。ネメちゃんよくみたらしお団子食べてるもんね。地球の和菓子が好きなのかな?」

「そうだな。それに私はダークマターが構成物質だからな。金色の闇やメアのように食べまくる必要もないさ」

「……遠回しに喧嘩を売っているんですか。お望みなら買ってあげてもいいですよ?」

「冗談だ冗談。流石にデビルーク星で暴れるほど欲求不満にはなっていないさ」

「そうだよ、今日は仲直りのお茶会なんだから、みんな仲良くね♪」

 

 

ララとネメシスは目の前に広げられたたくさんのスイーツを次々に口に運びながらおしゃべりに興じている。それに混ざるような形でヤミもまた黙々とお菓子を平らげていく。瞬間的に不穏な空気も生まれるも冗談半分のようなやりとり。それをさりげなく観察しながら安堵している少女がいた。

 

 

(とりあえず……今のところは問題なさそうね)

 

 

モモ・ベリア・デビルーク。平静を装いながらもモモは密かにこのお茶会を警戒していた。理由はもちろん目の前にいる変身兵器であるネメシスとその下僕であるメアの存在。彼女たちがどんな存在でどういう目的で生み出されたのかもモモは聞かされている。何よりも結城リトを攫ったことがある前科もある。警戒するなという方が難しいだろう。

 

 

(まあ、お姉様もヤミさんもいるこの状況じゃ何かあっても問題にはならないでしょうけど……念には念を、ね)

 

 

とりあえず目の前にあるお菓子を口に含みながら現状を把握する。どうやらネメシスはこの場で暴れたりするような気はないらしい。その幼女のような容姿も相まってお姉様と一緒におしゃべりしている様子は微笑ましくもある。その言動は別にして。すぐそばにはヤミさんもいる。わたしと同じことを考えているのか、自分の間合いにネメシスを捉えたまま。この半年で穏やかになったとはいえ、宇宙一の殺し屋の異名は伊達ではない。とりあえずネメシスに関しては問題ないとみていいだろう。そしてもう一人の変身兵器は

 

 

「可愛い! こんなにもふもふしてるなんて、素敵♪ この子、何て動物なの?」

「マリモッタっていうんだ! でも気をつけろよ、怒ると雷を落とすからな」

「ふーん、可愛いけど強いんだね。ねえ、今何か言ってる?」

「今? えーっと、『もっと触ってくれていいよ』だってさ。よかったな、メア。マリモッタに気に入られてるみたいだぞ」

「ほんと? 素敵!」

 

 

絶賛ナナと一緒にお遊び中。デダイヤルで呼び出した動物を前にしてきゃっきゃっと騒いでいる姿はまるで小学生のよう。

 

 

(ナナもナナだけど……メアさんも大概お子様ね。お姉様にはきつくあたってるって話は聞いてたけど、わたし達にはそうでもないみたいね……)

 

 

はぁ、と若干呆れ気味の溜息を吐きながらもひとまずは安堵する。変身兵器としてデビルークに苦手、対抗意識があるのは変わらないようだがそれでもそこまで露骨ではなくなりつつある。ヤミさん曰く、以前お母様と出会ってから少しずつ改善しているらしい。それは抜きにしてもナナとは波長が合うようだ。

 

 

(だとすると……お姉様を嫌ってる理由なんて他には考えられないわよね)

 

 

今ここにはいないリトさん。それが原因であることは想像に難くない。ヤミさんがリトさんに好意を抱いているのは確実。お母様がそれらしいことを口にしていたことから間違いないはず。メアさんからすればお姉様は姉であるヤミさんの恋敵にあたる。きっとそれがメアさんがお姉様を敵視している理由。

 

 

(それに、最近リトさんもヤミさんに対する態度がおかしいのよね……もしかして、ヤミさんも告白を……?)

 

 

何よりも最近はリトさんの様子がおかしい。お姉様に告白されたのだからそれ自体はおかしくないのだが、どういうわけかヤミさんに対しても不自然な反応をしていることがある。もしそうだとしたら一大事。乙女としても聞きたくて仕方がないネタなのだがいかんせん相手はヤミさん。これまでの経緯もあってわたしはヤミさんと特別仲がいいわけでもない。やっぱりここは美柑さんに聞いてみるのが一番。隙を見て美柑さんに聞いてみようと考えていると

 

 

「……? どうしたの、モモさん。さっきから手が止まってるけど、もしかしてダイエット中とか?」

「っ!? い、いえ! ちょっとぼーっとしてて、気にしないでください!」

 

 

知らずぼーっとしてしまっていたのか、美柑さんに話しかけられて思わず変な声が出てしまう。

 

 

「なんだモモ姫。そんな心配をしていたのか」

「モ、モモ姫……!? もしかしてわたしの呼び方ですか!?」

「それ以外何がある。プリンセスモモでは金色の闇と被るのでな。私の個性を尊重する意味でもこの呼び方のほうがいいと思ったのだが気に入らんかね?」

「別に構いませんけど……あまり馴れ馴れしいのは感心しませんね」

「ほう、どうやら嫌われてしまっているらしい」

「当たり前でしょう。貴方たちがリトさんを攫ったことを忘れたとは言わせませんよ」

 

 

そのまま敵意を隠すことなく殺気をネメシスにぶつける。お子様だと言われてしまうかもしれないけど、それだけは許していない。ここがお茶会の場でなければ、戦闘も辞さない覚悟。

 

 

「いい殺気だな、モモ姫。ようやく本当のお前を見た気がするよ。やはり私はお前が三姉妹の中では一番好きだな。仲良くしようではないか」

「お断りです。あなたの言う仲良くは、わたしたちの仲良くとは違うでしょうから」

「よく分かっているではないか。そこが気に入っていると言ってるのさ。結城リトともども私の下僕に欲しいぐらいだ」

「もう、モモもネメちゃんも喧嘩はダメだよ? 仲良くするためにお茶会開いたんだから」

「す、すみませんお姉様……つい……」

 

 

知らずヒートアップしてしまいお姉様に窘められてしまう。そんなわたしが面白かったのか、ネメシスは嗜虐的な笑みでこちらをあざ笑っている。

 

 

(間違いない……こいつ、わたしの天敵だわ……!)

 

 

確信する。目の前のネメシスこそが自分にとっての天敵なのだと。宇宙広しといえどもここまで気に入らない相手というのも存在しないだろう。

 

 

「それはともかく、今日は結城リトはいないのだな。てっきりいると思っていたのだが」

「今日は一応女子会だからね。リトも楽しんでこいって言ってたよ」

「ふむ……でもいいのか、金色の闇。結城リトを置いてきて。護衛が傍にいなくては危険ではないのか?」

「貴方がそれを言いますか……心配いりません。宇宙用のGPSは付けていますし、ワープ装置も持たせています。たまには息抜きも結城リトには必要でしょう」

「なるほど。まるで夫に理解がある妻のような物言いだな」

「なっ!? いったい何の話ですか!?」

「照れるな照れるな。しかし残念だが、結城リトは最終的には私の下僕になるぞ。それだけは忘れるな」

「意味が分かりませんね。まだ結城リトを狙っているという意味ですか?」

「私から動くことはないさ。ただ、向こうから私に懇願してくることがあるかもしれん。まあ、どっちに転ぶかは五分五分だが」

「……? いったい何の話を」

 

 

意味ありげなセリフをネメシスが口にする。こちらをからかって遊んでいる可能性もあるがどういうことのか問いただそうとするも

 

 

「そ、そういえば姉上、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

 

 

完全に空気を読めないタイミングでナナがこちらに合流してくる。どうやらメアさんとのお遊びも一段落したらしい。

 

 

「いいよ。どうかしたの、ナナ?」

「そ、その……姉上、リトに告白しただろ? あれから返事があったのかなって……ちょっと気になっててさ」

 

 

どぎまぎしながらナナはとんでもない爆弾発言をしてくれた。思わずこっちの口が開きっぱなしになるような行動。

 

 

(こ、この状況でその質問を……!? ナナ、恐ろしい子……!!)

 

 

もはやお子様だとかそんなレベルではない。逆に戦慄するレベル。みんなが集まっているこの場ですることもだが、それ以上にヤミさんの前でそれをするのはどう考えてもマズイ。というかナナは全くヤミさんの事情に気づいていないに違いない。

 

 

「そういえばまだナナには言ってなかったかな? リトから返事はもらってないの。まだリトには好きな人がいないから。だからわたしのこと好きになってもらえるように頑張ってるところだよ」

「そ、そうか……そうなんだ。まったく、リトの奴も情けないよなー」

 

 

明らかに安堵しながらそんなあからさまな態度をとってるナナ。見ているこっちが恥ずかしくなってしまう。気づいていないのはお姉様ぐらいだろうか。

 

 

「っ!? そんなことないよ! お兄ちゃんはヤミお姉ちゃんと付き合うんだから! 告白だってお姉ちゃんのほうが早かったんだ……から……?」

「二度目だな。もう言い逃れはできそうにないぞ、メア」

 

 

だがナナに匹敵するもう一人のお子様であるメアさんがある意味ナナ以上の爆弾発言をしてくる。その場の空気が一瞬固まったように感じたのは気のせいではないだろう。

 

 

「…………」

「ご、ごめんなさい、お姉ちゃん……その、えっとね」

「……構いません。ここにいる人たちはほとんど知っているようでしたし……」

「じゃ、じゃあ!」

「ただし、帰ったらお仕置きです、メア」

 

 

助かったと安堵した瞬間に絶望に突き落とされるメアさん。その表情は捨てられた子犬のように怯えている。どうやらヤミさんのお仕置きはメアさんでもそうなってしまうレベルのものらしい。それを見て楽し気なネメシスは間違いなくドSに違いない。

 

 

「え? じゃ、じゃあ、リトは姉上だけじゃなくてヤミにも告白されてて……それって、つまり三角」

「ご、ごほんっ! そ、そういえばお姉様とヤミさんはクリスマスはどう過ごされる予定なんですか?」

 

 

完全に自らの演算能力をオーバーしたのか、頭の上で?マークが浮かびまくっているナナを庇う意味でも違う話題を無理やりねじ込む。元々この場で、この段階でするはずではなかったものなのだが仕方ない。

 

 

「くりすます?」

「地球では一般的に恋人やカップルが一緒に過ごす日とされているんです。十二月二十五日だそうで、もうすぐですし何か予定はおありなのかと」

「ううん、今のところはないけど」

「…………」

「でしたらリトさんと一緒にデートするのはどうでしょうか? もしかしたら進展するかもしれませんし、お二人とも一緒にリトさんと三人で」

 

 

無言のヤミさんを見て見ぬふりをしながらデートを勧めてみる。こんなこともあろうかと地球における恋愛に関する知識は事前にリサーチ済み。まだリトさんが返事をしていないこの状況ならできるはず。三人によるダブルデートならわたしのハーレム計画も進展させることができるかもしれない。

 

 

「……と、思ったんですけど、やっぱりお一人お一人のほうがいいですよね。はは……」

 

 

それは美柑の視線。そのジト目がわたしを貫いている。ある意味ヤミさんよりもそっちの方が怖い。間違いなくこっちの考えを見抜かれてしまっている。残念だけど、今回はあきらめるしかない。

 

 

「そうですね、ならクリマスとクリマスイヴの二日で分けたらどうでしょう?」

「クリスマスイヴ?」

「クリスマスの前の日をそう呼ぶんだそうです。こちらの日も同じように恋人たちがデートしたりするそうですよ?」

「そうなんだ! 楽しそう! じゃあリトを誘ってみよう、ヤミちゃん。ヤミちゃんはどっちの日がいい?」

 

 

もうすっかりその気になっているのか、目を輝かせながらお姉様はヤミさんに尋ねている。そこに悪意は全くない。純粋にヤミさんに向けられた好意。流石お姉様。やはりわたしのハーレム計画はお姉様が正妻でなければ成り立たない。けれど

 

 

「…………」

 

 

ヤミさんはそのまま黙り込んでしまう。いったいどうしたのか。だがお姉様の言葉に反発したり、不快感を覚えているわけではなさそう。それからしばらくの間の後

 

 

「では……私は、クリスマスイヴの日にさせてもらっていいでしょうか」

 

 

何かを噛みしめるようにヤミさんはクリスマスイヴの日を選ぶ。心なしか、イヴの部分を口にするときにそれは強かったような気がする。

 

 

「うん! じゃあわたしはクリスマスだね! 今から楽しみだなー……あ、ねえ、モモ。クリスマスのこともっと教えてくれない? みんなどんなことをして楽しんでるの?」

「え? あ、はい! それはですね……」

 

 

そのままお姉様とヤミさんにクリスマスの由来やイベントを伝えていくことになる。そう、これがわたしの選択。どっちに転んでも、わたしの答えは変わらない。リトさんに愛されたい。一番でなくても構わない。お姉様と同じで、少し違うわたしの恋の形。

 

 

(リトさん……頑張ってくださいね)

 

 

モモはただ、この場にはいないリトの事を想う。それがこの女子会の終わり。そして、新たな始まりだった――――

 

 

 


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