もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第五十二話 「ナナ」

「はぁ……寒いな」

 

 

コートを着て手袋をしているのに手がかじかむような寒さに体が震える。もう十二月二十二日。今年も残すところ一週間ちょっと。自分にとってはあっという間の、間違いなく人生の中で一番激しい年だったのは間違いない。

 

 

「大丈夫、リト? コート貸してあげようか?」

「いや、いい……でもほんとに平気そうだよな、ララ。寒くないのか?」

「うん! デビルーク人は体が強いから。このぐらいの寒さならへっちゃらなの」

 

 

えっへんとその大きな胸を張りながらララは得意げにしている。今年の出来事の象徴とでもいえる少女。今では少しは慣れてきたものの、ララのはちゃめちゃっぷりには振り回されてばかり。どうやらデビルーク人は寒さも暑さも関係ないらしい。色々な意味で常識外の存在。

 

 

「そ、そうか……そういえば、ヤミも寒さには強そうだな」

「ええ。ナノマシンで体温調節は可能ですから。どんな環境にも適応できるように変身兵器は生み出されているので」

「そ、そうですか……」

 

 

さらっとどうでもいいことのように自らの能力を吐露しているヤミ。ララ同様、もう一人の自分にとって人生を変えるほどの影響があった女の子。デビルーク人とはまた違う意味で変身兵器もデタラメな存在。ただその出自の関係から便利そうでいいな、なんて言えないのが困りもの。もっともヤミは全く気にしていなさそうだが。

 

そんなこんなでいつも通りの他愛ないやり取りをしながら学校への向かっていく。ただ胸中には一つ、大きな決意がある。色々あった今年の中でも、一番のイベントがもうすぐそこまでやってきている。

 

 

(クリスマス……か)

 

 

クリスマス。正確にはクリスマスとクリスマスイヴにララとヤミ、二人とデートすることになってしまった。どうやら女子会での流れでそうなったらしい。きっと発案はモモに違いない。本当は二人同時にするつもりだったらしい。一体何を考えているのか。ダブルデートでも全く意味が違う。

 

それが楽しみなのか、ララはいつも以上に機嫌がよさそうだ。ほっておいたらスキップでも始めそうな勢い。対してヤミはいつも通り。でもきっと内心はその通りではないのだろう。

 

 

(クリスマス・イヴ……やっぱりそういうことなんだろうな)

 

 

ヤミはデートの日をクリスマス・イヴに選んだらしい。奇しくもイヴというヤミにとって自分の名前と同じ名を冠する日。もしかしたら願掛けのようなものなのか。何を期待しているかなど考えるまでもない。

 

自分ができることはただ二人の告白に答えるだけ。情けなく先延ばしにしていたけど、古手川のおかげで答えは見つかった。なら、自分の気持ちをしっかり伝えよう。その結果がどうなるとしても。

 

 

「? どうしたの、リト? 考え事?」

「っ!? い、いや、何でもない」

「しっかりして下さい、結城リト。もう周知のことになったとはいえ、公衆の面前でとらぶるを起こせば庇いきれませんから」

「わ、分かってるって……オレも警察の厄介にはなりたくないからな」

「大丈夫。もしこっちにいられなくなってもデビルークに来ればいいんだから」

「できればそうならないようにしたいかな……」

 

 

他意はないのだろうがララの言葉を否定できないところが辛い。もしそうなったらそうなったで違う心配事が増えそうだがそうならないように努力しなければ。

 

 

「……? なんだが教室が騒がしいな」

 

 

そのままいつものように学校に到着し、教室の前まで来たところで教室が何だが騒がしくなっていることに気づく。朝は少なからず騒がしいのだがいつもの比ではない。

 

 

「きっとまた校長がえっちぃことをしているんでしょう」

「ネメちゃんが悪戯してるのかもしれないよ?」

 

 

二人が慣れたように各々の予想を口にしているがどっちも冗談では済まない。どちらにせよロクなことにならないのは確実。登校したのにもう下校したくなる衝動を抑えながら意を決してドアを開けたそこには

 

 

「ナ、ナナ……!?」

 

 

見慣れたツインテールと対照的に見慣れていない制服姿。腕を組んだままこちらを睨んでいるナナの姿があった。

 

 

「やっと来たな、リト。遅いから遅刻したのかと思ったぞ」

 

 

どこかそわそわしながら、それでもこちらを鋭い視線で見つめながらナナはこちらに近づいてくる。そんなナナから少し離れたところを取り囲むようにクラスメイト達がこちらの様子を伺っている。中には古手川の姿もある。なるほど、教室が騒がしかったのは間違いなく目の前のナナのせいだったのだろう。

 

 

「そ、そんなことはどうでもいいだろ!? なんでお前がここにいるんだ? それにその恰好……」

「なにしにって、学校に来たに決まってるだろ? 体験入学ってやつだ。制服はザスティンに用意してもらったんだ」

「た、体験入学……?」

「元々はモモのやつが計画していたみたいだったけど、ちょっと利用させてもらったんだ。あたしも一度、こっちに来てみたかったからさ。べ、別に楽しそうからだとかじゃなくて、ちょっと興味があったからだからな!」

 

 

頼んでもいないのに言い訳をしながらナナはそっぽを向いてしまう。なるほど、確かにモモの考えそうなことではある。だが肝心のモモの姿は見えない。どうやら来ているのはナナだけらしい。しかし妙だ。モモならともかく、ナナは勝手にこんなことをしてくるような子ではないはず。

 

 

「そっか。ナナもこっちでリトと遊びたかったんだね」

「ち、違うって姉上!? さっき言っただろ!?」

「ちょ、ちょっと待ちなさい! 貴方、確かララさんの妹さんでしょう? なのに何で同じ学年なのよ!? それに体験入学なんてシステム、この学校にはなかったはずよ!」

 

 

ついに我慢できなくなったのか。しゅびっという音が聞こえてきそうな勢いで古手川が割って入ってくる。流石古手川。まだ地球の常識を保つことができているらしい。だが悲しいかな、ここには地球はおろか宇宙の常識でも図れない魔人が存在する。

 

 

「おや、何やら騒がしいと思えばやはりこのクラスでしたか」

「こ、校長……!? せ、先生……なんでララさんの妹さんがここにいるんですか!?」

 

いつからそこにいたのか、当然のようにサングラスを光らせながら校長という名のセクハラ魔人が現れる。思わず悲鳴に似た声で呼び捨てにしかけたものの、何とか先生と付け加えた古手川は優等生の鏡だろう。

 

 

「ハッハッハ。なに、ララさんの妹さんなら来年にはうちに入ってくるかもしれませんしな。特別にワシが許可しましたぞ」

 

 

さも当然のように職権乱用する教師の風上に置けない校長。可愛ければよし、といういっそ清々しいほどの理由で宇宙人を入学させるのだからこのぐらいお手の物。だが同時に凄まじいデジャヴが襲い掛かってくる。

 

 

(っ!? ま、マズイ!? この流れは……!?)

 

 

ヤミやララ、メアが転入してきたときも同じ流れがあった。その証拠に校長はまるで獲物を見定めるような視線でナナを見つめている。このままでは校長の毒牙にナナがかかってしまう。自分のとらぶるでもあの反応。校長に襲われたらトラウマになりかねない。そう思い慌ててナナを庇うように間に入らんとするも

 

 

「……ふむ、では体験入学を楽しんでください。それではワシはこれにて」

 

 

校長はどこか賢者のような穏やかさと共にその場を去っていかんとする。とても校長は思えないような振る舞い。中に別の人が入っているのでは、ファスナーを探してしまいそうなあり得ない展開。

 

 

「え……? 校長……どうして……?」

「当然のことですぞ。ナナちゃんはまだ小さい。実のなっていない木に手を出すことほどワシは無粋ではありませんぞ」

 

 

思わず校長を呼び止めてしまうも、校長もこちらの言いたいことを悟ったのか、振り向きざまにそう答えてくれる。どこか穏やかさを感じさせ得る優しい笑み。思わず感動してしまうような空気。どうやら自分は校長のことを誤解していたらしい。そう考えを改めかけた時

 

 

「何をいい話でまとめようとしているんですか。どっちにしろセクハラです」

「ひょ!?」

 

 

ヤミの黄金の拳が校長を吹き飛ばし、壁にめり込んでしまう。その衝撃によってこちらも正気に戻る。そう、何だかいい話のような気がしたが何のことはない。ようするにナナがお子様だから手を出さないと言っているだけ。その証拠に校長の視線はナナの胸に向けられていた。要するにおっぱいがないから興味がないと言っているだけ。ある意味ナナに対して襲い掛かるよりも失礼な対応。

 

 

「~~っ!? ぺ、ぺったんこで悪かったな!」

「オ、オレは何も言ってないぞ!?」

「考えている時点で同罪ですね」

「そっかー。校長先生、おっぱい大きな女の子じゃないとダメなんだね」

「ハ、ハレンチだわ……」

 

 

自分の胸をまさぐりながら涙目になってこっちに叫んでくるナナ。冤罪にもほどがある。周りは周りで好き勝手にしている。そんなこんなで急遽ナナの一日彩南高校体験入学が始まってしまったのだった――――

 

 

 

「へえ、この子がララちぃの妹さんかー。やっぱり髪の色も顔だちも似てるねー」

「よ、ヨロシク……」

「でもこっちの方はまだまだかな?」

「っ!? な、何するんだ!? む、胸を触るなっ!?」

「懐かしいなー、あたしもこんな時期があったなー♪」

「ちょ、ちょっと里紗止めなよ!? ナナちゃん困ってるよ!?」

 

 

校長襲来のショックは収まったものの、今度はクラスメイト達によってナナはもみくちゃにされている。いじられていると言った方が正しいのかもしれない。女同士だといってもセクハラはセクハラなのではと思わなくもないが、関わるとこっちに飛び火してくるのは目に見えているので見守るしかない。クラスメイト達にとっては妹が遊びに来たような感覚なのかもしれない。

 

 

「ナナも楽しそうでよかった♪ 来年からほんとうに入学してきてもらう、リト?」

「そうだな……それは避けられそうにないな」

「一人で済めばいいですね、結城リト」

 

 

もう自分のペースに戻って読書しているヤミからの忠告兼予言に顔を引きつかせるしかない。今この場にはいないが、本当に入学して来ればもう一人の妹の参戦も避けられない。

 

 

「ナナちゃんもこのクラスに来るの? 素敵♪」

「い、いや……あたし、姉上の妹だし、入学したとしても一学年下になると思うけど」

「そうなの? いいじゃん、一緒のクラスで。その方が楽しいもん。校長ケダモノだからちょっとえっちぃ姿を見せればきっと大丈夫だよ?」

「え、えっちぃ……!?」

「メアさん! ナナさんに変なことを吹き込むんじゃありません! 大体姉妹が同じクラスになるなんて非常識だわ!」

「ちぇっ、ハレンチ先輩のけちー」

「は、ハレンチでも先輩でもありません!」

 

 

いつの間にやってきていたのか、メアがいつも以上にテンションを上げたまま騒ぎに突っ込んでいく。どうやら女子会でナナと仲良くなったというのは本当だったらしい。年齢的に近いのもその理由だろうか。性格的に子供っぽいところがあるのでいい友達になれるかもしれない。もっともえっちぃという点ではナナはメアに面食らっているようだが。あとはララとも仲良くなってくれれば言うことなしなのだがそればっかりは時間がかかるだろう。

 

 

「妹を見守る兄のような顔になっていますよ。本当の妹からは逆に見守られているような気もしますが」

「お、お前な……」

 

 

ヤミからの的確な突っ込みによって急所を貫かれながらもとりあえずは一安心。そんな中

 

 

「……?」

「っ!?」

 

 

いつの間にかナナがこちらを見つめていたのに気づいて視線を返すも、慌ててナナはそっぽを向いてしまう。一体何だったのか。疑問を抱きながらも授業も始まり時間が流れていく。初めはララが転入したときのように非常識な行動をとるかもしれないと思っていたがそんな心配は杞憂だったようだ。よくよく考えればナナはデビルーク三姉妹の中でも一番常識的……というか地球寄りの感性の持ち主。環境の違いに戸惑うことはあれど、致命的な失敗などするはずもない。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

時刻はお昼休み。昼食も終え、一段落と言った時間。とりあえずトイレを済ませ、教室に戻ろうかとした瞬間

 

 

「リト、ちょっとこっち!」

「え? ちょ、ちょっと待てナナ!?」

 

 

いきなり現れたナナによって引っ張られ、人気のない場所に連れ込まれてしまう。誘拐犯顔負けの早業。

 

 

「よし……誰も近くにはいないな」

「よしじゃないだろ!? いきなり近づいたりしたらとらぶるが起こるかもしれないだろ!?」

「え? あ、そ、そうだな! ちょっと慌ててて忘れちゃってた!」

 

 

本当に忘れてしまっていたのだろうか、ナナは苦笑いしながら謝ってくるも知らず引っ張ったときに手を握っていたのに気づいて顔を真っ赤にして慌てている。その百面相に怒る気も失せてしまう。同時に思い出すのはいつかの出来事。今と同じようにいきなり引っ張られ、電脳サファリに連れていかれた思い出。

 

 

「それで……いったい何の用だ? みんなに内緒でまたどこか行きたいところがあるのか?」

「っ!? ど、どうしてわかったんだ!?」

「前と行動が一緒だからな。学校に来たのもそれが目的だったのか?」

「う……ま、まあな」

 

 

行動が完全に読まれていることにあたふたしているナナ。モモならきっとお子様だと笑うのだろうが流石に自分には無理そうだ。

 

 

「……前に約束しただろ。今度は地球の動物見せてくれるって。学校で面倒見てるのがいるんだろ?」

 

 

もごもごと言い辛そうにしながらナナはそんなことを言ってくる。以前した約束の一つ。今度は地球の動物を見せると言う約束。どうやらそれがナナの目的だったらしい。なら転入なんて回りくどいことをせずに自分に言ってくればいいのにと思うもあきらめる。

 

 

(まったく……素直じゃないんだからな)

 

 

ナナらしさを感じながらあの時と同じように、みんなには内緒で今度は自分にとっての電脳サファリにナナを招待することにするのだった――――

 

 

 

「へえ、これがリトが世話している動物なんだな!」

 

 

目を輝かせながらナナは目の前で動き回っている動物たちと戯れている。ここは学校で飼育している動物たちがいる小屋の中。ここにはウサギや鶏が、違う場所には犬や猫もいる。元々捨てられていた動物たちの面倒を見ていたのが始まりらしい。

 

 

「この小さいのはウサギなのか?」

「ああ、デビルークにもウサギはいるのか?」

「いるぞ! でもこんなに小さくはないけどな。大きい奴だとザスティンよりも背があるんだぞ」

 

 

ジェネレーション……ではなく、ギャラクシーギャップに冷や汗を流すしかない。どうやら地球のウサギは宇宙では小さい方だったらしい。見たことのない生物というのも怖いが、見たことがある動物が巨大化しているのはそれはそれで怖い。

 

 

「~~♪」

 

 

そのままナナは動物たちと遊び始める。動物たちもすぐにナナに懐いてしまっている。きっとナナが動物好きだと言うことが伝わっているのだろう。それに連動するようにナナの尻尾も揺らめいている。これだけ喜んでくれるなら案内した甲斐がある。

 

 

「そういえば、ナナ動物の言葉が分かるんだろ? こいつら何か言ってるか?」

「ん? ちょっと待って。ふんふん……最近リトが来てくれなくて寂しかったって言ってるぞ?」

「う……そ、そうか……」

 

 

せっかくだから動物たちが何を考えているか聞けるいい機会だったと思ったが思わず言葉を失ってしまう。確かにここ最近はここに来る頻度も少なくなってしまっていたかもしれない。

 

 

「気にしなくていいぞ。この子たち、リトの事好きだって言ってるし、ちょっと前まではずっとここにいるから逆に心配だったってさ」

「そ、そういえばそうだったかな……はは……」

 

 

まさか動物にそんな心配をされていたとは頭が上がらない。確か高校に上がったばかりの頃はまだヤミもいなくて、ここにばかり来てたような気がする。そう考えれば、今の自分はあの頃に比べたらどれだけ恵まれているか。

 

 

「……そういえばリト、獣医の勉強はまだ続けてるのか?」

「え? あ、ああ……少しずつだけど、進めてるぞ」

 

 

ウサギをなでながらこっちを見ることなくナナはそんなことを聞いてくる。勉強の時間をとるのは難しいが、それでも何とか頑張っている。

 

 

「そっか。あたしも勉強してるんだぞ。流石に姉上には敵わないけど……母上には褒められたんだからな」

「そうか……ならオレも負けてられないな」

 

 

自慢するようなナナの宣言に思わずそう答えてしまう。ナナが獣医の勉強をするようになったのは自分が勧めたから。今でも思い出せる、初めてデビルークの庭園で会った時の事。

 

 

「ちょっと聞きたかったんだけど、その、リトは……今度姉上とヤミとデートするんだろ?」

「まあ、そうだけど……それがどうかしたのか?」

 

 

あまりにも強引な話題の振りかたに振り回されながらも聞き返す。一体何が聞きたいのか。自分もしたい、なんて言い出すのだろうか。

 

 

「リトは……二人のどっちかのことが好きなのか……?」

 

 

ナナはこちらに振り返りながら問いかけてくる。その瞳は真剣そのもの。子供のように純粋な眼差し。以前ならきっと、それにこたえられなかっただろう。でも今は違う。

 

 

「……うん。だから、ちゃんと返事をしようと思ってる」

 

 

今の自分はちゃんと本当の『好き』を見つけることができたのだから。

 

 

「……そっか。やっぱりそうだよな……」

「ナナ……?」

「ううん、何でもない! とにかく、しっかりしろよなリト! 姉上もヤミも泣かせたら許さないからな?」

 

 

いきなりその場で立ち上がり、背伸びをしながらナナはそんなむちゃくちゃなことを言ってくる。それができるならこんなにも悩んだりはしなかったのだが言っても仕方ないだろう。

 

 

「じゃあ、あたしそろそろ帰るから。モモの奴も心配してるだろうし、姉上たちにも言っといてくれ」

「わ、分かった……」

 

 

そのままナナはその場から立ち去っていく。一度も振り返ることなく真っすぐと。だがその間際

 

 

「……リト、あたしと一緒に獣医になるんだからな。約束だぞ」

 

 

そんな約束をしながら、ナナはあっという間に走って行ってしまう。それがナナの彩南高校での一日の終わりだった――――

 

 

 

 

「うぅ……ぐすっ……ひんっ……」

 

 

もう我慢できなかった。デビルークに帰って、電脳サファリについた途端、涙が止まらなくなってしまった。我慢しようとしても次から次へと溢れてくる。そこでようやく気付く。あたしの気持ち。ようやく、今頃になって気づくなんて。でももうどうしようもなかった。

 

 

(あたし……リトのことが、好きだったんだ……)

 

 

きっと、初めて会ったあの時から。でも恥ずかしくて、それを認めることができなかった。姉上の婚約者候補だったからというのもあった。でもそれが嘘だと分かって嬉しかった。その嘘が終わる三年後ならと。自分が婚約者候補になってあげてもいいとリトに伝えれば。そんな甘い夢を見ていた。

 

 

その結果が今のあたし。甘えん坊で。いつまでもお子様のままだった自分自身。

 

 

「やっぱりここにいたのね、ナナ」

 

 

そんな中、聞きなれた声が聞こえてくる。どうしてこんな時にやってくるのか。きっと、双子だからすべてお見通しなのだろう。

 

 

「……なんだよ、またお子様だってバカにしにきたのか」

 

 

ぶっきらぼうに、涙をぬぐうこともあきらめたままやってきたモモを睨みつける。そんなあたしを見ながらもモモはいつもと変わらない。いつものように、自分をお子様扱いしに来たのだろう。でも

 

 

「逆よ。貴方を褒めに来たのよ、ナナ」

「え……?」

 

 

モモはそんな全く真逆のことを言ってくる。思わずこっちが放心してしまうような状況。そんなあたしを見ながらも優しく微笑みながら

 

 

「よく我慢したわね、ナナ。リトさんの前で泣かなかったんでしょう?」

 

 

モモはそう自分を褒めてくれる。慰めてくれる。双子だから、姉妹だからこそ全てを理解したうえでモモはそう告げてくれた。瞬間、視界は涙で歪み、唇も震えてしまう。

 

 

「う、うあああぁぁぁぁん!! わあああぁぁぁん!!」

 

 

そのままモモに縋りながらただただ泣き続ける。それがあたしの初恋の終わり。そして初めての失恋だった。

 

 

 

「少しは落ち着いた、ナナ?」

「ふん……もう大丈夫だよ。いつまでもお姉さん顔するな」

「あら、今だけはわたしの方がお姉さんですから」

 

 

ひとしきり泣いた後、何とかモモに意趣返ししようとするが通じない。なんだか悔しい。一度ぐらいモモをぎゃふんと言わせなければ。

 

 

「なんだよ……モモだってリトのことが好きだったんじゃないのか?」

「ええ、そうよ。でもわたしは貴方やヤミさんとは考え方が違いますから」

「まだそんなこと考えてるのか……」

「もちろん。お姉様が選ばれれば当然そうなるでしょうし、ヤミさんが選ばれてもお姉様はきっとあきらめないでしょうから。わたしも頑張るだけです」

「ふん、本当にお前はびっちだな、モモ」

「あら、お子様のナナには言われたくないわね」

 

 

いつも通りのやりとりをかわす。きっとモモなりに自分を元気づけようとしてくれているのだろう。一瞬、ありがとうといいかけるもすぐに抑え込む。恥ずかしくてもとても言えそうにはない。

 

 

まだしばらくは引きずりそうだけど、頑張っていこう。あたしには姉上にも、ヤミにもない、あたしだけのリトと一緒にいれるつながりがあるのだから――――

 

 

 

 




作者です。第五十二話を投稿させていただきました。

今回でモモとナナ関連のエピソードは一区切りとなります。ナナに関しては本編のとおり、自覚するのが遅すぎたこと、モモの言葉を借りるならお子様過ぎたことが失恋の原因です。ただ一緒に獣医をするという違う形でのつながりを目指していくことになります。

モモについてはほぼ原作通り。ただ原作では登場頻度が高いこともあったのでこのSSでは少し控えめ。原作よりは少しお姉さんっぽさを意識して描いていました。

長くなりましたが最後までお付き合いくださると嬉しいです。では。

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