もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第五十三話 「前夜」

「美柑、これこっちに置いたらいいの?」

「うん。ありがとうララさん」

 

 

食器を洗い片付ける音と共に美柑とプリンセスの楽しそうな声が聞こえてくる。いつもの夕食後の光景。今日はプリンセスが美柑の手伝いをする日。私はソファで座りながら読書中。いつも通りの、変わらない日常のはずなのに今夜はいつもとは全く違っていた。

 

 

(ダ、ダメですね……いくら読もうとしても本の内容が頭に入ってこない……)

 

 

本で顔を隠しながら今日何度目になるか分からない溜息を吐く。普段ならスラスラと読めるはずなのにまだ一ページも進んでいない。読書だけではない。さっき食べた夕食も味が全く分からなかった。作ってくれた美柑に申し訳ないと思いながらもどうしようもない。今日は一日何も手につかない有様。その理由も痛いほど分かっている。

 

 

(もう明日か……あっという間でしたね……)

 

 

明日。十二月二十四日。クリスマス・イヴ。地球のお祭りごとであり、普通なら自分には縁遠いはずのイベント。しかしその日、自分はリトとデートすることになっている。提案をしてきたのはプリンセスモモだったのだがそれに乗っかった形。

 

 

(デート……恋人同士がする共同行為……やはり、本で読んでいても実際どんな感じなのか分かりませんね……)

 

 

一応明日に備えて色々と本を読み漁ってみたがあまり参考にならなかった。中にはえっちぃことばかり書いているものありあきらめた。誘っておいて情けないが、リトにリードしてもらった方がいいだろう。地球では男性の方がリードするのが一般的なようだし、間違いないはず。

 

 

「…………」

 

 

そのままちらっとリビングを挟んだ廊下に目を向ける。当の本人であるリトは今この場にはおらず入浴中。いつもなら最後に入るのに今日は一番に入らせてほしいと言ってさっさと行ってしまった。

 

 

(リトもやはり緊張しているんでしょうね……当たり前と言えば当たり前でしょうが)

 

 

自分ももちろんだが、きっとリトのほうが緊張しているに違いない。デートというだけでも大変なのに、自分の次の日にはプリンセス。しかも両方から告白されている状況でのデート。もし自分が同じ状況だったらどうなってしまうのか。でもリトはあまりあたふたした様子を最近見せていない。デート自体は緊張しているようだが、いつもならもっと慌てているはず。

 

 

(もしかしたら……明日、返事を……?)

 

 

聞かせてくれるのかもしれない。瞬間、心臓が高鳴ってしまう。自分の心拍数が上がってるのが分かる。あるのは期待と不安。もしかしたら不安のほうが上回っているかもしれない。告白への返事。それを待ち望んでいたはずなのに、それが今は怖い。矛盾した思考。終わらないジレンマに頭がクラクラしかけた時

 

 

「お風呂上がったぞー。次は誰が入るんだ?」

「あたしは後でいいよ。ララさんは?」

「わたしもいいよ。ヤミちゃん先に入ってて」

「わ、分かりました……ではお先に」

 

 

リトがちょうどお風呂から上がってくる。頭をタオルで拭きながらのパジャマ姿。一瞬目が合いそうになるが本を読んでいる振りをして誤魔化す。

 

 

「そうか。じゃあ、オレ、このまま部屋で寝るから」

 

 

そのままリトは階段を上がりながら自分への部屋に戻っていく。いつもならリビングで読書をするかテレビを見て過ごすのに。余計なことを考えながらも自分もまた本を閉じ、そのまま風呂場へと向かう。その間際

 

 

「じゃ、じゃあ……明日よろしく、ヤミ」

「っ! は、はい……では」

 

 

リトからそう話しかけられるもまともに返すことができず、早足でその場を後にすることしかできなかった――――

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

目を閉じながらシャワーを浴びる。そのおかげか少し頭は経冷えたような気もする。そのままふと目に入るのは自分のカラダ。小柄で、浴びた水が留まることなく流れてしまう小ぶりな胸。

 

 

(やはり、リトも胸やお尻が大きい方が好みなんでしょうか……)

 

 

一般的に胸やお尻が大きい方が男性にとっては魅力的に映ることは知識として知っている。そのどちらも自分は未成熟。遺伝子が同じであるティアはどちらも大きかったが同じように成長するとは限らない。目に浮かぶのは毎日目にしているプリンセスのカラダ。女性らしさを追求した豊満な肢体。成長したとしてもあれには及ばないだろう。変身なら可能だがそれをしたら負けな気がする。色々な意味で。

 

 

(私がこんなえっちぃことを考えているなんて……少し前までは考えられませんでしたね)

 

 

半年以上前。殺し屋だったころには考えられないような思考。あの頃は小柄で動きやすい身体だとしか思わなかった。それ以外の価値を求めていなかった。いや、それ以外知らなかったのかもしれない。きっとリトとプリンセスがそれを教えてくれたから、今の私はここにいる。そんな感慨深さを感じていると

 

 

「一緒に入ろ! ヤミちゃん♪」

 

 

いきなりドアを開けながら嬉しそうにプリンセスが浴室に乱入してくる。当然、一糸まとわぬ全裸。思わずその身体に目を奪われてしまう。とらぶるによって間接的に見慣れているはずなのにやはり凄まじい。発育の暴力とでもいうべき肉体美。女の自分でも見惚れてしまうほどなのに、何故リトは理性を保っていられるのか。

 

 

「プ、プリンセスっ!? な、なぜこんなところに……後で入るんじゃなかったんですか!?」

「えへへ、ヤミちゃんをびっくりさせようと思ったの♪」

「びっくりって……もう十分びっくりしたので出て行ってください!?」

「えー、いいじゃん。わたし、ヤミちゃんと一緒にお風呂に入ったことなかったし。女同士なんだから別にいいでしょ?」

「そ、それは……」

 

 

ニコニコと笑っているプリンセスの登場にあたふたするも、別に動じる必要もないのだとすぐ悟る。プリンセスの言う通り女同士なのだから恥ずかしがることもない。ただ入ってくるなら事前に言ってほしい。思わず反射的に胸と股を隠してしまった。しかし、違和感に気づく。それは

 

 

「女同士……? もしかして……プリンセスは結城リトとお風呂に入ったことがあるんですか?」

 

 

女同士なら大丈夫、という言葉。およそプリンセスらしからぬ言動。恐らく誰かからそう言われたことがあるのだろう。そんなことを言う人物なんて数えるほどしかない。状況的に考えれば一人だけ。

 

 

「うん♪ でもヤミちゃんと同じようにびっくりして出ていくように言われたんだけど、無理言って一緒に入ってもらったの。背中の洗いっこしたんだよ?」

「そ、そうですか……」

 

 

もはや言葉も出ない。本当ならそんなえっちぃことをしているなんて、と怒るか嫉妬してしかるべきところ。だがそんな感情は欠片も生まれてこない、あるのは同情だけ。きっとリトは今の自分の比にならないほど慌てたに違いない。プリンセスのはちゃめちゃさに巻き込まれているという意味では自分とリトは仲間と言えるかのかもしれない。

 

 

「だからヤミちゃんもわたしと背中の洗いっこしよ♪」

 

 

そのまま二人では狭い浴室で、王女様との背中の洗いっこというサプライズが始まったのだった――――

 

 

 

「ん~気持ちいい~♪ ありがとーヤミちゃん♪」

「そうですか……」

 

 

慣れない手つきでプリンセスの背中を洗っていく。上手くできているか不安だったがどうやら満足してもらえたらしい。鏡越しに見えるプリンセスは本当に楽しそうだ。見ているこっちも楽しくなってくるほどに。

 

 

「……楽しそうですね、プリンセス?」

「? うん、楽しいよ! ヤミちゃんと一緒にお風呂に入れたし、明後日にはリトとデートできるし、これからも楽しいことがいっぱいだもん!」

 

 

太陽のように笑顔を見せながらプリンセスはそう口にしている。楽しみだと。それは私も同じ。明日のデートは楽しみだ。でも

 

 

「プリンセスは……怖くはないんですか?」

「……? どうして? ヤミちゃんはリトとのデート、楽しみじゃないの?」

「楽しみではありますが……それと同じぐらい、怖いです。告白の返事をしてくれるかもしれない……振られてしまうかもしれないと考えると、そう思います」

 

 

お互いに何も身に纏っていないからか、それとも二人っきりだからか。思わずそんな本音が漏れてしまう。同じ男の子に恋をしている少女に、ライバルに相談するべきようなことでは決してない。なのに、そうさせてしまう何かがプリンセスにはある。

 

 

「そうかな? わたしは楽しみだよ? だってリトは、わたしもヤミちゃんのことも好きだもん」

「え……?」

「だって、嫌いだったらリト、返事に困ったりしないでしょ? ヤミちゃんとわたし、どっちが一番かは分からないけど、わたしがリトが好きな気持ちはずっと変わらないんだから」

 

 

思わずそのまま振り返り、プリンセスに目を奪われてしまう。その言葉に嘘はない。リトにも聞かされた、プリンセスの恋愛観。一番じゃなくてもいい。自分の気持ちはずっと変わらない。告白して、成就して終わりではない。あまりにも純粋で、眩しい在り方。

 

 

「それにわたし、ヤミちゃんも大好きだもん!」

「私……?」

「うん、だってヤミちゃんと友達になって、ヤミちゃんがいたからわたし、リトが好きだって気づいたんだよ? ヤミちゃんとリトが事故キスして、そこで初めてわたし、自分の気持ちに気づいたの。羨ましかったけど、ヤミちゃんがリトを好きだって知って同じぐらい嬉しかったんだから!」 

 

 

瞬間、ようやく気がつく。自分の不安の、恐怖のもう一つの理由。

 

 

(そうか……私は……)

 

 

プリンセスと友達でいたい。プリンセスが好きだった。ただそれだけ。自分が選ばれても、プリンセスが選ばれても、この関係が壊れてしまうのではないか。それが怖かった。読んでいる小説の中でもあった、同じ人を好きになってしまった二人の女の子の話。どうして友達である女の子が同じ人を好きになってしまったかと、恋敵になったのかと。その主人公は苦悩していた。他の人だったらよかったのにどうして、と。きっとそれが普通だろう。でも、私は、私たちは違う。

 

 

「――はい。私も、プリンセスが結城リトを好きでよかったと思っています」

 

 

告白の返事がどうだったとしても、それだけは後悔しないだろう。

 

 

それが私とプリンセスの初めての一緒にお風呂の終わり。あとはただ、明日が来るのを待つことにしよう――――

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

そのままベッドに横になったまま天井を見つめ続ける。お風呂からあがってもう数時間。気が高ぶっているのか、まだ寝れそうにはない。もう明日、明後日の準備はできている。着替えも、お金も、プランも一応考えた。後はただやり通すだけ。そう自分に言い聞かせていると

 

 

「どうした、明日からデートだというのに浮かない顔をしているな、結城リト?」

 

 

どこからともなく、聞きなれたあり得ない声が聞こえてきた。

 

 

「っ!? ネ、ネメシス!? いったいどこから!?」

「見てのとおり窓からだよ。正面から入ると金色の闇が面倒だからな、まあ気にするな」

「お、お前な……」

 

 

ククク、といつも通りの笑みを浮かべながらネメシスは窓の枠に腰掛けている。その容姿も相まって黒猫が家に忍び込んできたかのよう。できれば寒いので早く窓を閉めてほしいのだがそこから動く気はないらしい。変身兵器であるネメシスもヤミと同じように寒さは平気なのか。

 

 

「はぁ……それで、いったい何の用だ? メアも一緒なのか?」

「なんだ、つれないではないか。メアは留守番だ。心配しなくてもデートの邪魔もお前にどちらを選べだとかも言うつもりはないから安心しろ」

「そ、そうなのか……? てっきりヤミを選ぶように脅してくるのかと」

「前にも言ったはずだぞ? お前がどちらを選ぼうと、メアやモモ姫たちにちょっかい出そうと繁殖なら好きにすればいい。私の興味があるのはその先だ」

「その先……?」

「少し話がそれたな。忘れないうちに渡しておこう。あれだ、くりすますぷれぜんととかいうやつだ。一日早いがな」

 

 

思い出したかのようにごそごそしながら何かをネメシスがこっちに投げ渡してくる。スカートから出てきたような気もするが見なかったことにしよう。だがそれを超える衝撃が受け取った掌の上にあった。それは

 

 

「こ、これって……もしかして首輪か……?」

 

 

首輪だった。どっからどう見ても首輪だった。犬や猫につけるようなものではない、人間用の。何の用途で使われる物なのかはとても口にできない。古手川が見ればハレンチどころの話ではない代物。

 

 

「それ以外に何に見える? もっと喜んだらどうだ? わざわざ買ってきてやったというのに」

「喜ぶわけないだろ!? こんなものどうしろっていうんだ!?」

「もちろん着ければいい。お前が私の下僕になりたいと思ったらな、契約の証のようなものさ」

 

 

ハハハ、といつも以上に嗜虐的な笑みを見せてこちらをからかってくるネメシスに呆れるしかない。どうやらまだ自分を下僕にすることをあきらめていなかったらしい。こんな幼女がこんな首輪をどうやって買ってきたのかも気になるが、ようやく気付く。それはネメシスの首にも首輪のようなものがあることに。だが自分が持っているような形ではない。どちらかというとチョーカーのようなもの。アクセントのように鈴がついているそれはまるで猫の首輪のよう。

 

 

「ネメシスがつけてるそれも首輪なのか……? もしかしてネメシスも誰かの下僕だったとか……?」

「ん? ああ、これか。これは私が自分でつけた物さ。私を飼えるのは私だけ、というところか。中々似合うだろう?」

 

 

そのまま頭に猫耳を生やしながらにゃーと鳴きまねをしている姿は猫そのもの。気まぐれなところといい、悪戯好きなところも合わせてぴったりかもしれない。もしかしたらこれを見せたくて来ただけなのかと思ってしまうほど。

 

 

「ふむ、あまり長居すると金色の闇に見つかってしまうからな。そろそろ退散するとしよう」

 

 

一通り満足したのか、ネメシスはくるっと反転しそのまま窓から飛び立とうとする。一瞬、迷いながらも

 

 

「そ、そういえばネメシス、一つ聞いていいか?」

「ん? なんだ、できれば手短に頼むぞ」

「えっと……ネメシスは、どうしてオレを攫ったりしたんだ? そうかと思ったら今は地球で生活しているし……何か目的があるのかな……と思って」

 

 

今まで聞くことができなかった疑問を投げかける。そう、思えば最初からおかしかった。自分を兄だと思っているメアならまだ分かる。しかし、ネメシスにはそこまで自分に拘る理由はない。かと思えば今は自分にちょっかいは出してくるものの、もう攫うような気はないかのよう。

 

 

「目的か……強いて言えば退屈しのぎだな。所詮この世は暇つぶしさ」

 

 

猫のような夜目を光らせながらネメシスは答える。だが一瞬、その表情が変わった気がする。普段は絶対に見せないような儚げな、憂いの表情。

 

 

「では幸運を祈っているよ、結城リト。いや、お前には不要な心配だったかな、黒鳥(テュケ)?」

 

 

そう言い残したまま猫のように飛び跳ねた瞬間、霧のようにネメシスは夜の闇に消え去っていく。それを見送りながら窓を閉めようとした瞬間、白い光が空から降ってくる。

 

 

「雪か……」

 

 

明日も続くであろう雪が街に降り注ぐ。

 

 

全ての運命が交差する、クリスマス・イヴがやってこようとしていた――――

 

 

 

 

 




作者です。第五十三話を投稿させていただきました。

長くかかりましたが次話はヤミとのクリスマスデート。そして分岐となります。このSSも残すところ八話ほど。クライマックスに近づいてきていますが楽しんでもらえれば嬉しいです。では。

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