もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】 作:HAJI
「ははっ、あはぁ!」
喜悦に満ちた笑みを浮かべながらヤミはその腕を刃に変身させ、襲い掛かっていく。そのあまりの速さに目で追うのがやっと。反応することなど不可能。
「うっ! わっ!?」
だがララはその超人的な反射神経と身体能力で対抗する。デビルーク人だからできること。しかしそれでも躱し、防ぐだけで精一杯。その手には万能ツールと呼ばれる発明品によって構成された刀剣があるがヤミの刃を受け止める度に刃零れ、ヒビが入っていく。このままではまずいと判断したのか、ララは剣で攻撃を受け止めず何とか紙一重で回避するもその衝撃によって辺りは粉塵に包まれてしまう。それが収まった先にはまるで地割れが起こってしまったかのような地の割れ目が生まれてしまっている。それがダークネスに覚醒した今のヤミの力。
(な、何てデタラメな力なんだ……!? もしかしたらデビルーク王よりも……!?)
ただ戦慄するしかない。自分は何度かヤミやララの戦うところを見たことがある。だがそのどれと比較しても桁が違う。しかも今の攻撃はヤミにとって恐らく全力でも何でもないただの刃の一振りに過ぎない。その証拠にヤミは息一つ乱していない。対してララは汗をかき、息を乱している。どちらが優勢かなど考えるまでもない。
「ララっ! ヤミっ! もう止めてくれ、このままじゃ二人とも」
「っ!? リト、こっちに来ちゃダメっ!?」
「え?」
このままただ見ているわけにはいかないと意を決して二人に近づこうとするも、瞬間、ヤミは無造作にその刃を振り抜いてくる。ララにではなく、自分に向かって。その衝撃によって木の葉のように為すすべなく吹き飛ばされてしまう。
(あ、危なかった……もしあと一歩でも踏み込んでたら……!?)
尻もちをつきながら目の前の抉られた地面を見て血の気が引く。もしこれに巻き込まれていればどうなっていたのか。跡形も残らないだろう。文字通り人を粉々にして余りある暴力。
「慌てなくてもちゃんと貴方も殺してあげます、結城リト。プリンセスを殺した後に、ね」
明らかに正気ではない瞳を見せながらヤミは微笑んでいる。それを前にして自分ができることは残されていない。言葉が通じない。自分には戦う力はない。ネメシス達に攫われた時から分かり切っていたこと。
(オレは……また、何もできずに見てるしかないのか……?)
例えとらぶるという能力を持っていても自分はただの地球人。誰かに助けられるのを待っているしかない王子様。
「それにしても……どういうつもりですかプリンセス? 全く戦う気がないようですか」
「……わたしは、ヤミちゃんと喧嘩なんてしたくないの。ヤミちゃん、いつものヤミちゃんに戻ってよ!」
「……まだそんなことを言っているんですか。どこまでも世間知らずのお姫様ですね、貴方は。いいでしょう、少し私の能力を見せてあげます。ちゃんと避けないとすぐ死んでしまいますよ?」
ララの必死の懇願も全く気にした素振りも見せず、ヤミは無造作に変化させた刃を自分の真横に突き出す。ララではなく、何もない空間に。だが
「っ!? きゃっ!?」
「ララっ!?」
突如、ララが今まで聞いたことのない悲鳴を上げている。一体何が起こったのか。鮮血が舞っている。見ればララの頬には一筋の切り傷ができている。そのすぐ傍にはヤミの刃。そう、何もないはずの空間から刃が生えてきている。
「流石ですね、プリンセス。今のを躱すとは。ならこれならどうです?」
上機嫌になりながらヤミは再び攻撃を再開する。その瞬間、新たな刃が次々にララへと襲い掛かっていく。何もないはずの場所から全方位。逃げ場などないような反則的な攻撃。
「わっ!? たっ!? とっ!?」
それをもはや条件反射を超えた野生の勘によってララは回避していく。だがその全てを捌ききれず、髪や服は切り刻まれ、わずかではあるが体に切り傷が刻まれていく。見ているこっちの寿命が縮むようなデッドコースター。同時に凄まじい既視感が生まれる。これと同じ光景を自分は見たことがある。それは
「こ、これって……ネメちゃんのと同じ、ダークマターの攻撃!?」
かつて見た、ネメシスのダークマターによる全方位攻撃。対象の周囲にダークマターを展開し、物質化させる戦法。ララもどうやら同じことを考えらたらしい。だがそれならララは対応できるはず。ララはダークマターの気配を察知することができるのだから。
「いいえ、これはダークマターではありません。変身能力で空間をつなげて攻撃しているだけです。ワームホールというやつですね」
まるでおもちゃを自慢する子供のようにヤミは人差し指をクルクル回しながら変身能力によってワームホールを造り出して見せる。それがどれだけ規格外のことか知識がない自分でも分かる。空間を歪めるなんて一体どれだけのエネルギーが必要なのか。それを事もなげに成し遂げているヤミの、ダークネスの力。
「さあ、ではもっと数を増やしていきましょうか。少しでも逃げ遅れれば串刺しですよ、プリンセス?」
変身兵器としての能力を解放しながらヤミは再びララへと襲い掛かっていく。だがヤミはその場から一歩も動いていない。ただ無造作に刃を突き出しているだけ。それだけ十分だった。対してララはただ逃げ続けるしかない。上下左右、どこから現れるか分からない刃の嵐。その速度と力はネメシスの比ではない。加えてダークマターでもないため先読みもできない。このままではじわじわと追い詰められていくだけ。それを悟ったのか、ララは動き止めその場に立ち尽くす。
「ハァッ……ハァッ……!!」
その姿は満身創痍。肩で息をしながらもララは微動だにしない。そしてついにその背後から刃が現れ、串刺しにされようとした瞬間、
「――――そこっ!」
まるでそれを待っていたかのようにララは自分を串刺しにしようとした刃を受け止める。文字通りその手で。いわゆる真剣白羽どり。刃を手で食い止めることだけでも絶技なのにどこからやってくるかわからない空間攻撃でそれをやってのける。天才という言葉すら生ぬるい超人技。しかもそれだけでは終わらない。
「お?」
戦いが始まってから、初めてヤミが驚きの声を上げている。それもそのはず。ララはそのまま刃を掴んだままヤミの動きを封じてしまう。もし刃がダークマターであったならそんなことをしても意味はないだろう。だが今ララが握っている刃はワームホールによってヤミと直接つながっている。ならそのままヤミを拘束することもできる。その狙いは上手くいったのか、ヤミは身動きができていない。身体能力ならララの方に分があるのかもしれない。そのままララが腕力によってヤミをワームホールから引きずり出そうとするも
「なるほど、考えましたねプリンセス。ですがまだ甘いですね」
「え? こ、これって……!?」
それよりも早くヤミは新たなワームホールによって次の攻撃手段を繰り出してくる。金色の髪。それが生き物のように蠢きながらララを絡み取ってしまう。それが変身兵器の真骨頂。腕だけではない。足や髪、能力を伝播させればどんな物質も武器にも盾にもできる。変幻自在の兵器。
「う、うぅ……! ヤミちゃん……!」
「拍子抜けですね、プリンセス。私はまだ半分も力を出していませんよ? 宇宙最強の種族であるデビルークの名が泣きますよ?」
そのままヤミは髪によってララを拘束し締め上げていく。ララはそれから何とか脱出しようともがいているが敵わない。しかもヤミはまだ半分も力を出していないらしい。なら全力ならいったいどれだけの強さになるのか。
「これならダークネスを覚醒させるまでもなかったかもしれませんね。私を倒した時の力はどこにいったんです?」
それ以上に気になるのはララの様子。確かにダークネスには敵わないかもしれないが、いつものララならここまで一方的にやられたりはしないはず。明らかに動きが精彩さに欠けている。戸惑いが、迷いがそのまま動きに出てしまっているかのよう。だが
(私を倒した時……? ヤミの奴、いったい何を言ってるんだ……?)
ヤミの言葉に違和感を覚える。私を倒した時、という言葉。記憶が確かならヤミはララと本気で戦ったことはないはず。模擬戦をしたことならあると言っていたからそのことなのか。それとももうそれすら分からないほど正気を失ってしまっているのか。
「仕方ありませんね……なら先に結城リトを殺すことにしましょうか」
興味を失ったとばかりにヤミはその右手をワームホールに突き入れる。それと同時に凄まじい衝撃と力が襲い掛かってくる。いきなりのことで何が起こったのか分からない。
「う、ぐ……!? ヤ、ヤミ……!!」
「息が止まるのが先か、首が折れるのが先か、見物ですね♪」
その鉤爪の手が自分の首を締めあげてくる。とても人間とは思えないような万力にも似た怪力。何とかそれから逃れようとするもビクともしない。自分とヤミの間にある絶対的な力の差。徐々に意識が遠のいてくる。
「っ! 止めて、ヤミちゃん!!」
瞬間、弾けるようにララが動き出す。その力によって無理やりにヤミの拘束を破り、ヤミへと向かっていく。間違いなく全力全開。本気のララの姿。その拳を振りかぶりながら。だがその表情は今にも泣いてしまいそうなのを必死に堪えているようなもの。今まで一度も見たことのない、ララの感情。悲しみ。その拳がヤミへと放たれるも
「やっと本気になりましたか。でも、もう遅い。それは私には届きません」
その拳は、手は決してヤミには届かない。ララはそのまま目を見開いたまま悶絶してしまう。他でもない、自らの拳によって。それが腹部に突き刺さっている。ヤミの前に展開されているワームホールがその正体。それによってヤミはララの拳をそのまま送り返した。まるでララは自分に触れることすらできないと見せつけるかのように。
「ラ、ララっ!? しっかりしろ……大丈夫か……!?」
「リ、リト……? ごめんね……わたし、ヤミちゃんのこと……止められ、なくて……」
ワームホールを造り出すためか、一瞬力が緩んだ隙にヤミの手を抜け出しララへと駆けよるもララはその場で蹲ってまともに動けるような状態ではない。刃による裂傷、身体的疲労。止めとばかりに全力の自分の拳を無防備な腹部に受けてしまった。とてももう戦えるような姿ではない。
「私を止める……? まだそんなことを考えていたんですか。無駄ですよ。貴方には私を止めることはできません」
「止めてみせる……だって、わたしは、ヤミちゃんの友達だもん……」
ふらふらになりながらも、ララは何とかその場から立ち上がる。だがその足は震えていて、もういつ倒れてもおかしくない。そんなララの姿と言葉に、ヤミの表情が歪む。嫉妬か、憤怒か。
「友達……ですか。いいでしょう……なら、友達としてお願いがあります。それを聞いてくれたら、この喧嘩を止めてあげても構いません」
「え? ほ、ほんと……ヤミちゃん?」
ヤミは一瞬で笑みを浮かべながらそんな提案をしてくる。あまりにも不吉な提案。それでもララはそれに気づかず、希望を取り戻している。だがそんなララの笑みは
「――簡単なことです。結城リトを私に譲ってください。それで喧嘩は止めてあげます」
「…………え?」
すぐに消え去ってしまう。あるのは驚きだけ。ただララは呆然としている。まるで今ヤミが何を言ったのか理解できないかのように――――
「……聞こえなかったんですか? もう結城リトに関わるなと言っているんです。そうすれば見逃してあげます。簡単でしょう? 友達なら私のお願いを聞いてくれるんでしょう、プリンセス?」
ヤミちゃんがわたしに話しかけてくる。でも、それが頭に入ってこない。ヤミちゃんが何を言っているのか分からない。ううん、分かりたくない。
(リトのことを……あきらめる? わたしが……リトのことを……?)
考えたこともなかったこと。リトともう会えなくなる。そんなことありえない。だって、わたしはずっとリトと一緒にいたんだから。家出して初めて会った時から。初めはお見合いから逃げるために婚約者候補になってもらうだけのつもりだったけど、それはどんどん変わっていった。ただ楽しかった。リトと一緒にいることが。男の子と一緒にいてこんなに楽しかったのは生まれて初めてだった。それが楽しいだけじゃなくなったのはきっとあの時。
初めてデビルークでリトが笑ってるのを見た時。
それまでリトは全然笑わなかった。今なら分かる。とらぶるのせいで、リトは自分で笑えなくなっていたんだと。だから、わたしが笑わせてあげたいと思った。ずっと一緒にいたいと思った。それが『好き』なんだってことも分かった。
でも今、リトは笑っていない。ヤミちゃんも笑っていない。みんな、泣きそうな顔をしている。こんなのは嫌だ。みんな仲良しだったのに。
(わたしがリトのことをあきらめれば……ヤミちゃんも、笑ってくれる……?)
わたしの友達のヤミちゃん。リトと同じぐらい大切な人。なら、そのお願いごとを聞いてあげるのはきっと正しい。そうすればみんな仲良くできる。でも……それを考えると痛くなる。
さっきまでヤミちゃんと戦っているときに感じた痛み。体も痛かったけど、それよりもずっと心が痛かった。その痛みが、今もわたしの中にある。これが何なのか。脳裏に浮かぶのは、いつかのやり取り。
『うーん……そのエヴァって人はパパが好きだったんでしょ? なのにどうしてママは仲良くできなかったの?』
いつか聞いた、ママの話。ママとエヴァ。二人ともパパのことが好きだったのに、どうして仲良くできなかったのか。わたしには分からなかった。
『そうね……でも考えてみて、ララ。もしリトさんのことが好きだって女の子がいたらどうする?』
自分以外にリトのことが好きな女の子。それはきっと素敵なことだとわたしは思っていた。だって、リトの事を好きになってくれる人が増えるのはいいことなのだから。そしてママの言う通り、その女の子は現れた。それがヤミちゃん。
嬉しかった。大好きなヤミちゃんが大好きなリトのことを好きになってくれた。なら今よりもっと仲良くなれるはずだと。でも、違った。
『ならその女の子がリトさんのことを独り占めしたいから、ララにもうリトさんには関わらないでと、言ってきたら?』
『え……? どうしてそんなこと言うのかな? わたしとその女の子二人でリトのこと好きになったらいけないの?』
『いけないわけじゃないわ。でも、好きな人ができるとみんな自分だけを見てほしい、独り占めしたいって思っちゃうものなの。きっとほとんどの人がね。気づいていないだけでララ、あなたにもその気持ちがあるはずだわ』
あの時には分からなかった、ママの言葉の意味がわたしには分かる。もしリトにもう会えなくなったら。誰かに取られてしまったら。それはきっと怖いこと。悲しいこと。
『プリンセスは……怖くはないんですか?』
『……? どうして? ヤミちゃんはリトとのデート、楽しみじゃないの?』
『楽しみではありますが……それと同じぐらい、怖いです。告白の返事をしてくれるかもしれない……振られてしまうかもしれないと考えると、そう思います』
『リト、どうしてヤミちゃんを選ばなかったの? 一番じゃなくても、リトもヤミちゃんのこと好きなんでしょ? だったら』
『……それは、できない。前にも言っただろ? キスは本当に好きな人とするものだって。オレは、ヤミとはキスできない』
リトとヤミちゃんはそれが分かっていた。だから、たくさん悩んで、迷って、それでも選んだ。わたしはそれができていなかった。選ぶことができていなかった。でも
『いつかきっと分かる時が来るわ。本当の意味で、誰かを好きになるってことがね。その時にきっと、さっきの質問の答えが出るはずよ』
あの時ママが言ってくれたように、わたしも選ばないといけない。例えヤミちゃんを泣かせることになっても。それが
「――――わたし、リトのことが好き。それだけは嘘はつけない」
わたしの答え。誰かを好きになるということなのだから――――
ただ胸を張ってヤミちゃんに自分の答えを伝える。ヤミちゃんはそのまま目を開けたまま固まってしまっている。でも
「……そうですか。リトと全く同じことを言うんですね、プリンセス」
「ヤミちゃん……?」
一瞬、ヤミちゃんの表情が変わる。それまでのダークネスに飲まれていた時とは違う、本当のヤミちゃんの顔。
「……いいでしょう。なら二人仲良く殺してあげます。避けてもいいですよ、プリンセス。その代わり、結城リトと地球が真っ二つになるでしょうが」
ヤミちゃんは空に飛びあがりながら右手を上げる。その瞬間、手から光の剣が生まれていく。いつか見た、変身の光。ヤミちゃんの切り札。でもその規模は以前とは比べ物にならない。宇宙にまで達してしまいそうな光の剣。地球を輪切りにしても余りあるエネルギー。
「……っ!? ララ逃げてくれ! このままじゃお前まで……」
「ううん、大丈夫だよ、リト。わたし、もう決めたから。だから見ててほしいの。リトが一緒ならわたし、100%以上の力が出せるから」
リトの顔を見つめながらそう告げる。本当は怖いけど、大丈夫。リトがいてくれれば、わたしはきっと何でもできる。ヤミちゃんを助けることも。殺すのが恋なんて……認めるわけにはいかない。
「――――これで終わりです、プリンセス」
そのままヤミちゃんが光の剣を振り下ろしてくる。もう逃げ場はない。逃げるわけにはいかない。すべての力を尻尾に集中させる。あれに対抗できる唯一の方法。
尻尾ビームフルパワー。
ネメちゃんとの喧嘩の時も見せた、わたしの切り札。それがぶつかり合った瞬間、凄まじい衝撃があたりを支配する。
「……往生際が悪いですね。もう無駄ですよ。貴方では私には勝てない……そのまま消えてください!!」
何とか拮抗したのも一瞬。全力を出しても、限界以上の力を出しているのにヤミちゃんには届かない。光の剣が徐々に地面に近づいてくる。
「ぐぎぎ……!!」
「ラ、ララ……!」
リトを強く抱きしめながら、ただ残された力を振り絞る。でも、もう限界。力が抜けながら、体が縮んでいくのを感じる。限界以上の力を消費すると縮んでしまうデビルーク人の特性。それによってわたしの身体はどんどん小さくなっていく。
それでも、あきらめるわけにはいかない。このままでは何も守れない。リトも、地球のみんなも、ヤミちゃんも。だから
「リトも……ヤミちゃんも……わたしが守るんだから――――!!」
強くなりたい。
生まれて初めて、心から願った――――
「…………まさかここまで相殺するとは。流石というべきなんでしょうね、プリンセス」
ただ瓦礫の山になった学校の跡を見下ろしながら心からの感想を口にする。本当なら地球を両断して余りある自分の攻撃をここまで相殺したのだから。だがそこまで。学校は跡形もなくなり、地面は断層ができるほどに裂けてしまっている。
「これで……終わったん、ですね……」
これで終わった。何もかも。もう何も残っていない。全て奪ってしまった。なら、もう――――
「……いいえ、まだ残っていましたね。残ったデビルークも始末しなくては」
まだ終わっていない。また同じことになる前にデビルークを根絶やしにしなくては。そのためにワームホールによってデビルーク星にワープしようとした瞬間
光が全てを支配した――――
それは光の柱だった。天まで昇るかのように光が断層から生まれてくる。まるでダークネスの覚醒の再現。違うのは光の色が黒ではなく、白だったということ。
(これは変身の光……? いや、違う……これは……!?)
ただその光景に目を奪われる。私ではない、ワタシが知っている。これと全く同じ光景をかつてオレは見たことがある。
その光の中心に彼女はいた。その腕の中にはテュケの姿もある。だが彼女の姿は以前とは大きく違っていた。
悪魔のような羽は六つになり、頭には二本の白い角が生えている。尻尾はギドを彷彿とさせる形へ。身体からは溢れだすようにエネルギーが光になって吹き出している。
何よりも目を引かれるのはその髪の色。桃色だったはずのそれは銀髪へと変化している。瞳は空を思わせるような蒼色。その全てがダークネスと対となる存在。いや、それは逆だった。ダークネスが、変身兵器がそれを模して造り出された存在なのだから。
『覚醒』
デビルークの歴史の中でも、初代と現国王であるギド・ルシオン・デビルークしか辿り着けなかった領域に、今、ララ・サタリン・デビルークが到達した証。
「ヤミちゃん……喧嘩しよう。きっとこれがわたし達の最初で最後の勝負だから!」
ララはただ宣言する。友達として。リトを、ヤミを守るために――――