もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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第六十二話 「とらぶる」

メモルゼ星の上空。そこで二つの人影が絡み合い、ぶつかり合いながら凄まじい衝撃を起こしている。互いに悪魔のような羽と尻尾を持った者同士。だが両者とも本来のデビルークではない存在。結城リトとエヴァ・セイバーハーゲン。生まれも年齢も違う二人が今、戦っている。エヴァにとっては宇宙の命運を、ギドを手に入れるため。リトにとってはララを助けるために。第七次銀河大戦の最終局面、頂上決戦が今、始まった――――

 

先に動いたのはエヴァだった。一瞬で遥か上空に飛翔し、そんまま隕石のように急降下しながらリトへと襲い掛かる。音すら置き去りにする速度。その力を証明するように髪は銀色に、デビルークの羽は六枚になっている。正真正銘、全力の証。その拳が容赦なく繰り出される。ただ人間なら掠っただけで粉みじんになる一撃はしかし、まるでそうなることが決まっていたかのようにあっさりと躱されてしまう。だがそれは初めての事ではない。戦いが始まってから一方的に攻撃を仕掛けているにも関わらず、エヴァは一度もリトに攻撃を当てることができていない。

 

 

「っ!? ちっ――!」

 

 

思わず舌打ちしながらすぐさま反転し、体勢を整えようとしたところにすぐさま反撃がやってくる。尻尾による鞭のような打撃。恐らくはあの羽同様、変身よって作り出された紛い物。こちらも尻尾によって相殺し、距離を取る。相手の力は恐れるほどのものではない。黒鳥と融合した影響か、通常よりは力は増しているようだが基本的に今の相手の強さはネメシスそのもの。この体、デビルークの覚醒に比べれば足元にも及ばないようなものでしかない。その証拠に未だこちらのダメージはゼロ。なのに知らず舌打ちをしてしまう。混乱、焦りとでもいうべき不純物が自分に生まれつつあるのを実感する。

 

 

「どうした? 仮面をしていても顔が歪んでいるのが丸見えだぞ。所詮私達は失敗作。なら今のお前は何なのかな?」

 

 

ククク、と姿をあの少年の中に宿したままネメシスは愉しくてたまらないと笑い続けている。思わずそのまま突っ込んでいってしまいそうになるほどの挑発。しかしそれに乗るわけにはいかない。明らかにネメシスは何かを狙っている。

 

 

「……ふん。黒鳥を手に入れて調子に乗っているようだが、忘れてはいないか? その力はオレが与えてやったものだということを」

「ほう、ならそっくりそのまま返そう。プリンセスの身体を借りている分際でよくそこまでふんぞり返っていられるものだな」

 

 

売り言葉に買い言葉。互いに罵り合いながらも意識は全く別のことに集中させる。

 

真の強者。

 

オレの持論であり、目指すべきもの。ギドを倒すために求めた力。それを疑似的ではあるがネメシスは再現している。強さと運。その両方を兼ね備えたものが最強。だがその強さについては明らかに不足している。本来なら完全に覚醒したダークネスを宿したイヴの肉体に黒鳥を憑依させる予定だった。それに比べれば目の前のネメシス達は格段に落ちる。その証拠に未だ自分は全くの無傷。どんな攻撃を受けたとしてもこの体には傷一つつけられないだろう。

 

ゆえに問題は運の方。先ほどから攻撃を仕掛けてもそのすべてを避けられてしまっている。いや、外させられている。まるで見えない力が働いているかのように、こちらの攻撃が当たらない。一度だけならたまたま、運が良かったのだといえるだろう。だがそれが続いている。例えるならサイコロの1がずっと出続けているような状態。本来なら力の速さも上のはずの自分に攻撃を当てられているのも恐らくはそのため。

 

 

「いいだろう……なら、これならどうかな」

 

 

そのまま尻尾に力を込め、エネルギーを集中させる。デビルークの切り札である尻尾ビーム。だがそれはフルパワーではない。あまりにも威力が大きすぎることに加えて、今この場においてはもっと相応しい使い方がある。それはまるでシャワーのように放射状になりながらネメシスに降り注ぐ。全方位の絶対包囲。もはや逃げ場はない。この攻撃で、ネメシスの運の上限値を見極める。だがそれは

 

 

オレの理論値を遥かに超える結果を叩きだした。

 

 

「なっ――!?」

 

 

こんな声を出したのはいつ以来か。分散させたとはいえ、その一つ一つが覚醒する前の尻尾ビームフルパワーに匹敵するビームの雨。それがまるで鏡に反射されたように全て無力化され、明後日の方向に逸らされてしまう。あまりにも理不尽な光景。オレは黒鳥の能力を見誤っていた。黒鳥を生み出したのは、運という不確定要素で強さがぶれることを防ぐため。決してこんな、運そのものが形になるようなものを生み出すためではなかった。今のネメシスはいわば特異点。運という因果すら歪めてしまっている存在。ようやく理解した。今、自分が戦っているのはネメシスではない。オレが倒すべきなのは、黒鳥をここまで昇華させたあの少年なのだと。

 

 

「――――!!」

 

 

叫びながら少年がこちらに突っ込んでくる。尻尾ビームの反動によって反応が一瞬遅れる。その隙を狙っていたかのように少年は一気に距離を詰めその手を伸ばしてくる。だが、そんなことは目に入っていなかった。ただその瞳に目を奪われる。ただ真っすぐ迷いなく、オレではなく、この体の持ち主である娘を見つめている瞳。そうだ、忘れるはずがない。これは――――

 

 

 

――――思い出したくもない、幼いころの陰鬱の日々。女であるということだけで蔑まれ、疎まれた。私は誰よりも優れていた、能力があった。なのに強さがないせいで、女に生まれたせいでこんな目に遭っている。運も私を見放した。そんな中、あいつに出会った。

 

 

『こんなところで何してんだ? ひでえ顔になってんぞ。ちゃんと飯食ってんのか?』

 

 

純粋無垢。唯我独尊。そんな少年。私の悩みなんて取るに足らないことだと笑い飛ばしてくれた男の子。初めて、女であることに囚われず、真っすぐに私を見てくれた誰か。

 

 

『ど、どうしてもというなら私がお前の婚約者になってやってもいいぞ……』

『は? コンヤクシャ? 何だそりゃ、食えんのか?』

 

 

一変した私の日常。生き方。それがなくなるのが怖くて、そんならしくないことを言ってしまった。今思えば若気の至り。子供の頃にするような、時と共に忘れ去っていくような約束。

 

 

『何言ってるのかよくわからねえが……遊び相手にならなってやるぜ? お前と遊ぶのは面白えからな。いつでもかかってきな』

 

 

それが私がオレになった瞬間。あいつのように強くなりたい、一緒にいたいという願掛け、自己投影。

 

 

オレとギド・ルシオン・デビルークの在り方。あの少年も全く同じ瞳を見せている。決して揺るがぬ信念。なら――――

 

 

 

瞬間、弾けるようにその場から翻り、距離を取る。予想外の動きだったのか、少年は驚いたままこちらを見上げている。それを見下ろしながらその手で仮面を脱ぎ捨てる。オレではない顔を晒しながら、オレの瞳で応える。

 

 

「――――認めてやる、お前はオレの『敵』だ」

 

 

それが生まれてから二度目。ギド以外の相手を敵だと認めた瞬間だった――――

 

 

 

「ネ、ネメシス……あれって……」

「うむ、どうやら本気にさせてしまったらしい……マズいな、できれば頭に血が上ったまま終わらせたかったのだが……」

 

 

いつもなら余裕たっぷりなネメシスをして真剣にならざる得ないほど、今の状況はマズイらしい。戦闘経験がない自分でもそれぐらいは分かる。それはエヴァの視線。仮面を脱いだこともだが、その瞳がまるで違う。以前はまるで物を見るように自分を見ていたにもかかわらず、今は全く違う。あれはまるでそう、デビルーク王を見るかのような、本気の目。そしてそれを証明するように蹂躙が始まった。

 

それはまるでマシンガンのようなビームの嵐。さっきの放射状のビームよりは一発一発の威力ははるかに劣るが、その数は比ではない。一発一発が正確に寸分違わずこちらを追尾してくる。

 

 

「何をぼーっとしているリト! さっさと避けろ!」

「っ!? わ、分かってる!」

 

 

知らず油断してしまっていたものの、ネメシスの叱責によって我に返り、黒鳥の力によってエヴァの攻撃を無力化する。それによって攻撃のすべては逸れて外れていく。今の自分の能力、幸運を操るもの。それによって今の自分は無敵に近い状態にある。どんな攻撃も自分たちを傷つけることはできない。反則、チートだと言われてもおかしくない規格外の力。だが

 

 

「くっ――!」

 

 

万能ではない。それを示すように何とかエヴァに接触しようとするもそれを見越していたように距離を取られてしまう。追撃を加えんとするも、絶え間なく放たれてくるビームの嵐を対処することに精一杯。そのタイミングも強さもまさに神ががっている。こちらの動きを、狙いを全て看破したうえで状況を支配している。魔人の名に相応しい恐ろしさ。

 

 

(ま、まさか……いや、間違いない! さっきの攻防でもうこっちの狙いを全部見抜かれてる!?)

 

 

冷や汗を流すしかない。当たり前だ。たったあれだけの時間でもうこちらの思惑がバレてしまったのだから。

 

ネメシスによる融合解除。

 

それがこの戦いの勝利条件。エヴァと同じダークマターの変身兵器であるネメシスであれば同じく、変身融合を解除することもできる。黒鳥だけでは防御は完璧だが攻め手がない。その膠着状態を打破する切り札。そのためには直接エヴァの、ララの肉体に接触する必要がある。その最大のチャンスを自分たちは逃してしまった。いや、看破されてしまった。

 

 

(もう時間はほとんど残っていない……! あと一分あるかどうか……それまでに決着をつけないと!)

 

 

エヴァの攻撃を捌きながら、残された時間を憂慮する。今の変身融合には制限時間がある。自分の肉体が変身兵器ではない影響か、それともネメシスの限界か。この状態は五分しか維持できない。しかもその時間は能力を使用するほどに消費されていく。恐らくはもう一分も残されていない。エヴァもそれを見抜いているのだろう。常に一定の距離を保ちながらこちらの力を削ってきている。先ほどまであった油断や慢心は残っていない。完全な膠着状態。残り時間の間に、この状況を打破できるか。ジリジリと時間だけが過ぎていく。そして決死の覚悟で最後の攻勢に出ようとした瞬間

 

 

「――きゃっ!?」

 

 

そんなその場には似つかわしくない少女の声が響き渡る。そこには見たこともない女の子がいた。水色のセミロングの髪をした美少女。その服装から兵士などではなく、おそらくはこの星の住民なのだろう。慌てていたのか、転んでしまっている。だが問題はそこではない。少女のいる場所に向かって、自分が逸らしたビームが向かってしまっている。戦闘の余波か、少女の近くにある建物も崩壊しかけている。

 

知らず、体が動いていた。それがどんな結果をもたらすか分かっているのに、どうしようもできない。黒鳥は万能ではない。宿主に幸運を与えるものであって、それ以外の人全てに幸運を運ぶものではないのだから。

 

 

「何をやっているリト!? そんなことをしていては運が尽きるぞ!?」

「分かってる! でも、見捨てるわけにはいかないだろ!?」

「え!? な、何なの貴方!? いったい何の話を」

 

 

すぐさま少女のそばに降り立ち、ビームと崩壊しかけた建物を防ぐ。女の子に説明している暇もなくただ庇うように覆いかぶさる。ネメシスの声も聞こえない。すぐさま光が視界を支配する。二度目の光景。尻尾ビームフルパワー。極限状態で致命的な隙を見せた自分に向かって放たれたエヴァの攻撃。それに恐怖しながらも残されたすべての運を以って対抗する。一瞬でも気を抜けば蒸発しかねないエネルギーの奔流を目の当たりにしながらも、ただ耐える。宿主である自分に応えるために、黒鳥が鳴く。瞬間、光は反転し、上空へとはじき返される。だがそこまで。もう何も残っていない。

 

 

それが黒鳥の敗北。運が強さに負けた瞬間だった――――

 

 

 

「うぅ……だ、大丈夫か……?」

「う、うん……でも、貴方は大丈夫なの……? なんだが苦しそう……」

「オレは大丈夫だから……早くここから逃げるんだ。ここは危ないから……」

「で、でも……」

「早く!」

「わ、分かった! ありがとう……!」

 

 

思わず大きな声で怒鳴ってしまう。でも仕方がない。もうこの子を守れる力は自分には残っていない。エヴァの狙いは自分だけ。このままでは巻き込まれてしまう。こっちの必死さが伝わったのか、女の子は迷いながらもその場を去っていく。一安心としたいところだが、こちらの状況は最悪に近い。

 

 

「ネ、ネメシス……!? 大丈夫か……動けるか!?」

「何とか……な。だがもう変身融合は無理だ……とにかく今は、この場から脱出して回復を……」

 

 

すぐそばにネメシスが倒れこんでいる。まるで弱っている猫のような姿。そうさせてしまった自分の浅はかさ。だが嘆いている暇はない。とにかく撤退しなくては。もう一度変身融合ができるまで回復すれば。だがそんな甘い考えは

 

 

「似ているとは思ったが……まさか負け方まで同じとはな。結局、運はオレに味方したというわけか」

 

 

エヴァには通用しない。威風堂々。絶望を感じさせる威圧と共に目の前にエヴァが現れる。もはや逃げ場はない。ネメシスも動けず、対抗策は何もない。完全な詰み。誰かを庇って負けるというデビルーク王と同じ状況なのは皮肉としか言いようがない。

 

 

(やっぱり、オレには……無理だったんだ……こんな相手から、ララを助けるなんて……)

 

 

知らず身体が震え、足が言うことを聞かない。みっともないことこの上ない。これは分かり切っていたこと。相手は魔人とまで呼ばれた相手。あのデビルーク王と渡り合い、ついには勝利した存在。何の取り柄もない、たまた黒鳥が取憑いただけの地球人の自分が敵うわけがない。

 

ゆっくりと一歩ずつ、エヴァが近づいてくる。もう見なくても分かるほど見慣れた、ララの姿のままで。その出会いから、今までの生活。それが走馬灯のように頭を駆け巡る。一緒に遊んで、一緒に笑って、本当に騒がしくて、楽しかった時間。それを取り戻すことはできない。そうあきらめかけた時

 

 

「――――あ」

 

 

一筋の光明が差してくる。そう、忘れたくても忘れられない、自分とララとの日常。それがあったから自分はララと出会うことができた。同時に思い出すのは、幼い姿のセフィさん。彼女が地球にやってきた時に起きた出来事。そう、もしあれが本当だったとしたなら自分はまだ、ララを助けることができるかもしれない。

 

大きく息を飲む。体中から汗が噴き出す。確かにある。でもそれは自分にとっては禁忌に近い行為。本当にできるか分からない。いや――――できるかどうか、ではない。オレは、やらないといけない。いつかのようにあり得ない自分を演じるのではなく、結城リトとして、本能ではなく、理性で。

 

 

ララを助けるためなら、オレは……何を失っても構わない――――!!

 

 

 

「……ん?」

 

 

ゆっくりと近づいていた中、少年の様子に変化が生まれる。絶望し、体を震わせていた姿はもはや欠片も残っていない。瞳には先と同じ、いやそれ以上の決意が、信念が宿っている。思わずこちらが気圧されてしまいそうな決死の表情。変身融合は解け、ネメシスも行動不能。もはや何も残っていないはずにもかかわらず、少年はあきらめていない。

 

 

「いいだろう……何が残っているのか見せてみろ少年……いや、結城リト」

 

 

知らず笑みを浮かべながら宣言する。こんなに胸が躍るのはギドと戦っている時以来。もはや地球人だからなどと侮ることはない。黒鳥が、変身兵器の力がなくとも関係ない。目の前の結城リトは自分の敵として相応しい。覚悟と敬意と共にさらに一歩踏み出さんとした瞬間――――自分は何もないところで転んでしまった。

 

 

「……え?」

 

 

訳が分からない。何で自分は転んでしまったのか。躓くようなものはなにもなかったはず。転ぶようなヘマをオレがするはずもない。だが何よりも不可解だったのは、何故か結城リトも自分に巻き込まれるように転んでいたこと。

 

 

「な、何だ……? 一体何が」

 

 

起こっているのかと言う間もなく立ち上がろうとして再び転んでしまう。もちろん結城リトも一緒に。それはまだいい。だが何よりも理解できないのは知らない間に自分が全裸にされていたこと。まるでそうなるのが当然だとばかりに纏っていた甲冑も、下着も脱がされてしまっている。一体何をどうしたらこんなことができるのか。今までに感じたことのない、異質な恐怖が全身を支配する。

 

 

「~~~~?!?! お、お前一体何を――」

 

 

今度こそ、本当に言葉を失う。全裸だった。紛れもなく全裸だった。脱がされた自分が全裸なのはまだ分かる。だがどうして結城リトも全裸になっているのか。オレを脱がせながら自分自身も脱いでいたとでもいうのか。あり得ない。まるで神の御業かの如き、逆らうことができない未知の力を目の当たりにしている。それも束の間

 

 

「ら、らら、ララあああああ――――!!」

 

 

今まで顔を伏せながら黙り込んでいた結城リトが叫びとともに自分へと襲い掛かってくる。紛れもないヘンタイ、ケダモノの姿。

 

 

「き、貴様正気か!? この状況でそんなふざけたことを――――ひぃん!?」

 

 

制止する間もなく、結城リトによって胸を鷲掴みされて変な声をあげてしまう。まるで手が吸い付くように胸を揉んでくる。その手際は神がかっている。まるで全てを知り尽くしているかのように揉みしだき、先端を摘まんでくる。その度に体が電流が走っているかのように反応し、言葉を失ってしまう。

 

 

「はぅぁ!? お、お前何をしている……!? な、何で力が出ない……ただ体を触られているだけなのにぃん――!?」

 

 

生まれてこのかた出したことのないような声を上げながらただされるがままになるしかない。既に手は胸だけでなく、尻、恥部にまで伸び、オレの、この娘の身体を蹂躙してくる。その度に耐えがたい苦痛、ではなく快楽が襲い掛かってくる。何とかそれから逃れようとするが力が入らない。この身体であればすぐに結城リトを引きはがせるはずなのに。それができない。

 

エヴァは知らなかった。いや、知る由もなかった。それがとらぶるという名の、結城リトの能力だということを。それが様々な要因によって今、エヴァを捕らえている。

 

 

「く、くそっ!? は、離れろ! こんなことでオレが……!?」

 

 

その一つが今のとらぶるが、結城リトの意志によって行われている物だから。これまで結城リトは一度も自らの意志でとらぶるを起こしたことはなかった。その全てが不可抗力。ゆえにその力も制限されていた。だが今は違う。正真正銘、全力全開のとらぶる。この半年によって研磨されたリトの手によるそれは既にチャームの域にまで達している。

 

 

「あ、あぁ……止めろ、止めろ!? ひぎぃ!? こ、こんなことをして……ど、どうなるか……分かって」

 

 

二つ目が肉体の問題。言うまでもなく今のエヴァの肉体はララの物。そしてララはこの半年、数え切れないほどリトのとらぶるに晒されてきた。それによってある意味、とらぶる中毒とでもいえる体質になってしまっている。端的に言えば、ララの身体はリトによって開発され切ってしまっている。

 

 

「う、うぐっ……ひぐっ!? 止めて! もう止めて!? 止めてください! わ、私、もう、もう……!!」

 

 

 

三つめがとらぶるの効果。とらぶるには宿主を守るために危機察知の能力もある。それが昇華され、今はもう一つの特性を併せ持っている。それが能力の無効化。かつてセフィがチャームを発動させてしまった時も、それにかかった者たちをとらぶるによって上書きし無力化した。それに例外はない。すなわち、エヴァの変身融合も今、とらぶるによって無効化されつつあるということ。

 

 

そして最後の四つ目。あまりにも単純で、致命的な理由。それは

 

 

「う、うぅ……い、嫌ああああああ!! 助けてギドおおおお!!」

 

 

エヴァは全く未経験。処女。モモ風に言うならお子様だったということ。エヴァ・セイバーハーゲンの敗因はたった一つ。

 

 

結城リトのラッキースケベが限界突破していたから。

 

 

これ以上にないほど情けない、それでも覆すことができない理由。それがこの第七次銀河大戦の決着。そしてエヴァがギド以外の者に初めて敗北した瞬間だった――――

 

 

 

 

「……ん? あれ、ここって……?」

「っ! 目が覚めたかララ!? オレが分かるか!?」

「リト……? リトだ! あれ? どうしてリト何も着てないの? またとらぶるしちゃったの?」

「ま、まあそんなところかな……はは……」

 

 

目が覚めるなり、ある意味これ以上のないほど確実に状況を把握してくれるララに感謝すればいいのか申し訳なく思えばいいのか。だがとにもかくにも間違いなくララ本人なのは間違いない。あれだけのことをしておいて助けられていなかったら色々な意味で死ぬしかないところだった。もうここにはエヴァはいない。思い出すのも恐ろしくなるような恨み言と共にダークマターに変化しながらこの場を去っていた。この先のことは……とりあえず保留しかないだろう。

 

 

「それよりも本当に体は何ともないのか? 怪我はなさそうだけど……」

「うん、全然大丈夫だよ! なんだがすごく気持ちが良かったのは覚えてるんだけど……あれ? 腰が抜けちゃってるみたい」

「む、無理すんなって! その、色々あったからさ……」

「そっかー、うん、でもありがとうリト! リトがわたしを助けてくれたんでしょ?」

「いや……みんなが手伝ってくれたから。オレ一人じゃ何もできなかったし」

「ううん、それでもリトが助けに来てくれるって、わたしずっと信じてたの! 里紗が言ってた通り、リトはわたしの王子様だね!」

 

 

子供のようにはしゃぎながらララは目を輝かせている。とても王子様とは程遠い情けない限りの救出劇だったが、それでもあの時の誓いは守れた。ならそれでいいだろう。そんな中、ふと思い出す。ここに来る直前に、イヴから言われたこと。

 

 

「そういえばオレ……ララに伝えたいことがあるんだ……」

「? わたしに伝えたいこと……?」

 

 

一度深呼吸しながら、真っすぐにララを見つめる。ようやく分かった。告白が、こんなにも勇気がいることことなんだと。ララとイヴ。二人の女の子はそれを自分に向かってしてくれた。イヴには自分の答えを伝えた。だから

 

 

「オレ……ララのことが好きだ。宇宙で一番好きだ」

 

 

今度はララに自分の気持ちを伝える。ララの告白にはきっと敵わない。それでも、その何分の一でもいいから自分の気持ちが伝わるように。

 

 

瞬間、ララの瞳から大粒の涙が流れだす。ぽろぽろと、当の本人は気づいていないのか、呆然としたまま。初めて見る、ララの涙。でもそれは

 

 

「あ、あれ……? おかしいな、嬉しいのに涙が出るなんて。悲しくなくても、涙って出るんだね!」

 

 

歓喜の涙。そのことにララ自身が一番驚きながら、それでもすぐに今まで一番の笑顔を見せてくれる。ようやくあの時のララの気持ち分かった。これがきっと、好きな人を笑顔にできた時の喜びなのだと。

 

そのままどちらとなく、顔を近づける。本当に待ち望んだ、好きな人とのファーストキス。しかし

 

 

「大丈夫かリトー!」

「お姉様、ご無事ですか――――あ」

「っ!? これは……こ、このザスティン、一生の不覚!!」

「……むー」

「そうむくれるな、メア。下僕にはちゃんと約束は守らせるさ」

「……えっちぃですね」

 

 

その直前に、仲間たちが集まってくる。だがキスしようとしているだけならまだしも、オレとララは絶賛互いに全裸中。仲間たちも間が悪い時に来てしまったことに気づいたのか、それともお約束な光景に呆れているのか固まってしまっている。とても続けるような空気ではない。そう思いあきらめかけるも

 

 

「……えい♪」

 

 

そのまま押し倒されながらララに唇を奪われる。腰が抜けているせいか、そのまま地面に押し倒されてしまっているのはまるでとらぶるのよう。とらぶるでなくても押し倒してくるのはきっとララぐらいだろう。思わず抗議の声を上げかけるも

 

 

「えへへ、リト、だーい好き♪」

 

 

その唇をララによって塞がれてしまう。あとはもうされるがまま。本当ならファーストキスぐらい、男である自分からしたかったのだがもはやあきらめるしかない。きっと、これが自分とララの関係なのだから。

 

 

それが本当に長かった、自分ととらぶるの物語の終わり。日付は一月一日。元旦。そしてララと一緒になることを決めた、新たな年の幕開けだった――――

 

 

 




作者です。第六十二話を投稿させていただきました。

原作をお読みの方は分かると思いますが、この展開は原作でヤミをダークネスから目覚めさせるための方法のオマージュです。今までのシリアス展開を一気にTo LOVEるに戻すと言う意味も兼ねています。このSSのタイトルもこの話から考えた物です。ちなみにヤミルートの場合はリトからではなく、エヴァに憑依されていたヤミの方からとらぶるしに行くと言う展開でした。

予定よりも遥かに長くなってしまいましたが次話で最終話となります。最後までお付き合いくださると嬉しいです。では。


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