もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】   作:HAJI

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最終話 「もう一度ここから」

(はあ……またここか……)

 

 

気づけば見慣れた空間にいた。まるで現実感が湧かない。不思議の国のアリスになってしまった気分。周りには美味しそうなお菓子が溢れている。マシュマロにチョコ、ゼリーにケーキ。選り取り見取り。だがそれが安易に手を出してはいけないものであることはもう十分わかっている。

 

 

(メアがまた精神侵入してきたのかな……? いや、そうならメアもここにいるはずだし。朝のとらぶるをオレが寝ている間に消費しに来たってことかな……)

 

 

頭をかきながら冷静に分析する。ここが夢の中で、目の前のお菓子が何であるかももう分かっている。夢を夢だと認識できるというある意味すごい特技なのだが全然嬉しくない。悲しいかな、この一年で身につけざるを得なかったというのが正しいだろう。慣れというのは本当に恐ろしい。

 

 

(それにしても……全然お菓子が欲しくならないな……お腹が一杯って感じだけど……)

 

 

それでもいつもと違うことがそれ。いつもなら思わずお菓子のかぶりつきたくなるような誘惑が襲い掛かってくるのだがそれが全然ない。まるでもうお菓子をたらふく食べた後のような感覚。不思議に思いながらもとりあえず夢から覚めるために意識を集中する。次第に光が全てを包み込んでいく。それが慣れた夢からの覚醒だった――――

 

 

「ん……もう朝か……」

 

 

寝起きでぼーっとしながらも窓から差し込んできている朝日から朝になっていることを確認する。目をこすりながら部屋を見渡すも人影はなし。てっきりメアかモモ辺りが忍び込んできているのかと思ったが杞憂だったらしい。とにかく起きて着替えと歯磨きを済ませようとベッドから起き上がろうとした瞬間、ムニュっと手が何かを掴んでしまう。それだけで十分だった。目を閉じていても分かるほどに慣れ親しんだ感覚。

 

 

「うーん……もうダメだよぅ……リトぉ……」

 

 

自分の隣でむにゃむにゃと幸せそうな顔で寝ているララのおっぱい。それを今自分は鷲掴みにしてしまっていた。

 

 

「っ!? ラ、ララっ!? なんでこんなところに……!?」

「んー? あ、おはようリト。今日は早起きなんだね。いつもはわたしの方が早いのに」

 

 

慌てて手を離し脱兎のごとくベッドから部屋の隅にまで退避する。そんな自分を瞼をこすりながらララはどこか不思議そうに見つめている。髪はボサボサ。今までずっとここで寝ていたかのような有様。

 

 

「そ、そんなことよりなんでお前服着てないんだ!? 寝巻があるだろ!?」

「えー? だってわたし裸で寝るのが当たり前だし、リトだって下着姿で寝てるでしょ?」

「そ、それは……」

 

 

思わず納得しかけてしまうも慌てて首を振りながら常識を取り戻す。下着姿で寝るのと全裸で寝るのとでは天と地ほどの差がある。何よりも今のララの姿は目に毒だった。何も着ていないのに加えてシーツで隠れている分妙な色気がある。

 

 

「それよりもいつも言ってるだろ。勝手に起こしに来るのは禁止だって……」

 

 

大きくため息を吐きながらお説教タイム。寝ながらのとらぶるは危険が大きすぎるため禁止。いわゆる自分とララの条約のようなもの。後お風呂とトイレは侵入禁止。それだけは何とか守ってもらわなければ、主にオレの精神衛生上のために。だがそんな考えは

 

 

「? 何言ってるの、リト? わたし、昨日リトと一緒に寝たでしょ?」

「え……?」

 

 

ララのきょとんとした答えによって崩れ去ってしまう。同時にようやく頭が回り始める。そう、おかしいのは自分の方。ララの言っていることの方が正しい。寝ぼけていたのか、それとも違う理由からか。どうやら自分は半年ほど前の感覚になってしまっていたらしい。次第にその恥ずかしさと昨夜のことを思い出して知らず顔が赤くなってしまう。そんな中

 

 

「ふあ……相変わらず朝から騒がしいな、下僕。おかげで私まで起こされてしまったぞ」

 

 

あくびをしながらネメシスが姿を現す。思わずぎょっとしてしまう。当たり前だ。なぜなら今、ネメシスは自分の身体、胸の辺りから上半身だけ出現している。何度も見ているとはいえ、自分の胸から幼女が生えてくるなんて現象、慣れることなんてできそうにない。だが今驚いているのはそのせいだけではない。

 

 

「な、なんでオレの中にいるんだ!? メアのところに行ってるはずじゃ……!?」

「クク、甘いなリト。こっそり入り込んでおいたのさ。何やら楽しそうな予感がしたのでな」

「あ、ネメちゃんおはよう!」

「うむ、おはようプリンセス。だが本当にタフだな。昨日あんなに激しい子作りをしていたというのに。やはりデビルークだからかな?」

「ぶっ――!? ネ、ネメシス、お前何言って……!?」

 

 

思わず吹き出してしまう。さらっと何でもないことのように爆弾発言をするネメシス。融合していた以上、見られていたのは当たり前。一部始終どころか最初から終わりまで。あんなことやこんなことまで。もう耳まで真っ赤になってしまっているのが分かる。かつてのデビルーク三姉妹性教育が可愛く見えるほどの羞恥プレイ。だが

 

 

「今さら何を恥ずかしがっている。それに最中のお前の感覚も中々凄かったぞ。カイカンというやつだ!」

「お、お前……!? なんでそんなこと!? こ……は、繁殖には興味ないんじゃなかったのか!?」

「いやなに、メアに色々聞かれていてな。情報を集めているというわけだ。それにお前は私の下僕だ、結城リト。私を楽しませるという契約を忘れてはいまい?」

「そ、それは……」

「ネメちゃんも気持ちよかったんだね、よかった♪ あ、そうだ! じゃあ今度はわたしの身体で体験してみる? きっと気持ちいいよ?」

「ほう、興味深いな。確かに同じ女の身体の方が感覚を共有しやすいかもしれんな」

 

 

きゃっきゃっと自分を放置したままガールズトークを始める二人。だがその内容は生々しいことこの上ない。古手川がいればハレンチどころでは済まない。方向性は全く違うが、全く性に関して羞恥心がないという点ではララとネメシスは似た者同士なのかもしれない。

 

 

「と、とにかくもういいだろ? ララも早く着替えて来いって。いくらなんでも風邪ひくぞ」

「うん! じゃあ先に行ってるねリト! ネメちゃんもまたあとでね!」

 

 

相変わらず全裸のまま元気いっぱいに部屋を飛び出していくララの姿を見ながらどっと疲れながらも実感する。もうララと出会ってから一年が経ったのだということを。

 

第七次銀河大戦の終結。エヴァはあの後、デビルーク王に会い、そのままどこかに逃げていったという。今も行方不明。色んな意味で自分にとっては恐ろしい存在。

 

 

『ケケ、あいつは執念深いからな。せいぜいお前も寝首をかかれないように気をつけな』

 

 

デビルーク王のそんな言葉は冗談には聞こえなかった。事実、殺されてもおかしくないようなことをしてしまったのだから。できればもう会わないことを願うしかない。

 

そしてそれに加えてララへの告白。怒涛の年末年始から自分の環境は変化した。主にララとの関係が。ようやくララに自分の気持ちを伝えたことで晴れて両想いとなったがその後が大変だった。正確にはララではなくデビルーク王への対応が。事情を知るなりデビルーク王はすぐさま結婚式の用意を始めてしまう。有無を言わさない威圧と共に。流石に早すぎるのではと反論したいもののどうしようもできない。そんな中

 

 

『もう、前にも言ったでしょパパ! リトと結婚するのは高校卒業してからだって!』

 

 

ララの鶴の一声によってデビルーク王の野望は潰えてしまう。どうやらもう王務を放り出す気満々だったらしく、旅行の準備もしていたらしい。言うまでもなく視察という名のナンパ巡り。お約束のようにセフィさんからは説教を受け、渋々あきらめることになったらしい。

 

ただその名残ではないが、自分とララの関係は偽の婚約者候補から、婚約者になった。色々とすっ飛ばしているような気もするが嘘から出た真といったところなのかもしれない。だがそれを狙っていたのかは分からないが、ララは地球に住むことになった。一応反対したのだが

 

 

『何で? 婚約者なんだからいいでしょ?』

 

 

そんなもっともなララの言葉に納得せざるを得なかった。こうなることは分かり切っていたのでもうあきらめるしかない。あの告白から決まっていたこと。あとはもう言うまでもない。あれよあれよという間にララは自分の部屋に入り浸るようになり今はもう一緒に寝るように。所謂同棲状態。最後の一線を超えたのは……もういいか。考えるだけ無駄だろう。

 

 

「どうした、そんな疲れ切った顔をして。そんなに交尾で疲れたのか? それとも私に見られていたのがショックだったということか?」

「……どっちもかな。大体見られて喜ぶ奴なんていないだろ」

「どうかな? お前の周りにも怪しい奴はいると思うが……まあ気にするな。悪いことばかりではないさ。私が融合していればとらぶるの心配はないのだからな」

「それは助かってるけど……」

 

 

若干悟りを開きかけるもこちらに楽しそうに話しかけてくるネメシスによって現実に引き戻される。ネメシスによる変身融合。それはいわば黒鳥の能力のコントロールとでもいえるもの。その応用によってとらぶるを抑えることができることが分かった。そのおかげでネメシスが融合している間は他人との距離を気にしないでいいという、自分にとっては夢にまで見た生活が実現できた。だが、あくまで抑えているだけでなくなったわけではない。ネメシスが抑えておけるのはとらぶる五回分まで。それを超えるととらぶるが漏れてしまう。そのためそれを超えないように今まで通りとらぶるは消費する必要はある。それでも予測できない五回目を警戒する必要がなくなったのは本当に助かっている。私生活を覗き見されるのに見合っているのかどうかは別として。

 

 

「なに、そう悲観することもあるまい。毎日夜にとらぶるを消費すればいいだけだろう?」

「……それはともかく、体に入るときは一言言ってくれ。心臓に悪いからさ」

「なるほど、確かにそうだな。何許せ、驚くお前の姿を見るのは楽しいからな」

 

 

ハハハ、と全く反省した風もないネメシス。本当に楽しんでいるのだろう。地球での生活はネメシスにとっては悪いものではないようだ。一応下僕である自分はネメシスを楽しませる義務がある。なら、多少は我慢することにしよう。今の生活があるのもネメシスのおかげなのだから。

 

 

「おはよう、美柑」

「おはよう、リト。もうすぐ朝ごはんできるからリビングで待ってて」

「分かった」

 

 

とりあえず朝の準備も済み、一階の降りて台所の美柑に挨拶する。エプロン姿で料理をしている姿を見るとこれが日常なんだなと安心できる。怪我をして入院したときには心配をかけてしまったがおかげで助かった。ただ下の世話までさせてしまったことは申し訳ない気持ちで一杯なのだが言わない方がいいだろう。

 

リビングに向かうといつも見慣れた光景がある。ソファに腰掛けたまま、読書をしているヤミの姿。

 

 

「おはよう、ヤミ」

 

 

それに倣うように自分もまた本を持ちながらその正面に向かう。そのままいつものように定位置に座ろうとするも

 

 

「おはようございます、結城リト。昨夜はお楽しみでしたね」

 

 

そんな眠気どころか息すら止まってしまいそうな発言をさらっとヤミは口にしてくる。急所どころではない、一撃で息の根を止めるほどの口撃。

 

 

「――――っ!? ヤ、ヤミお前何言って……!?」

「ちょっとした冗談です。ただ、この家には美柑もいますから。あまり羽目は外し過ぎないようにしてください。えっちぃのは見逃してあげます」

「…………はい」

 

 

頭を下げてただそう呟くしかない。本当にただの冗談なのだろうがヤミが言うと洒落にならないので勘弁してほしい。よく見ればヤミが読んでいるのは小説ではなく、ゲームの攻略本。さっきのセリフもその引用なのだろう。ヤミらしからぬ趣味の本だが、以前、ララたちが作った体験型RPGとらぶるクエストを遊ぶ機会があった。きっとそれでゲームにも興味が湧いたのだろう。

 

ヤミとの関係はあの時から全く変わっていない。変わらず自分の護衛として地球で過ごしている。ただ変わったのは、正式にデビルークの親衛隊に所属することになったということ。簡単に言えば派遣から正社員になったようなもの。将来的には次期デビルーク王になる自分の護衛兼側近になるべく今はザスティンさんに師事しているらしい。もっともドジをするザスティンさんをフォローするほうが多いらしいのだが。奇しくもいつかヤミが言っていた通りになった形。デビルーク王とザスティンさんのような関係になるのか、それとも別の形になるのか。それはまだ分からない。ただヤミが自分にとって大切な人であることは変わらない。

 

 

「ふむ、相変わらず尻に敷かれているようだなリト。物理的にはプリンセスに敷かれているのにな」

「ネメシス……また勝手に結城リトの身体に憑依していたのですか?」

「人聞きが悪いな。リトは私の下僕だ。どうしようと私の勝手だろう?」

「まだそんなことを言っているんですか……あまりやりすぎないようにしてください。目に余るようならお仕置きです」

「おおぅ怖い怖い……聞いたかリト? 気を付けないとお前も金色の闇に調教されてメアのようになってしまうぞ」

「っ!? だ、誰がそんなことをしますか!? あれはメアが勝手に私に精神侵入しようとしたからで……」

「そのせいでしばらくメアはお前をお姉様呼びしていたのだがな。いやはや恐ろしい」

 

 

そのままぎゃあぎゃあと姉妹喧嘩が始まってしまうも止める力は自分にはない。物理的に家が危なくなったら助けを呼ぶしかなくなるが。そんな中

 

 

「お待たせみんな! おはよー!」

 

 

そんな空気を消し飛ばすようにララがリビングに降臨する。ずいぶん遅かったがどうやらシャワーを浴びていたらしい。それは置いておくとしてもララの元気はいつにも増している。一体何があったのか。

 

 

「今日から二年生だもんね! 楽しみ!」

「そ、そうか……そういえばそうだったな。すっかり忘れてたよ……」

 

 

朝のドタバタからすっかり忘れてしまっていたがもう四月。桜が舞う季節。同時に、彩南高校での二年生、新学年が今日から始まるのだった――――

 

 

 

「どうしたの、リト? 学校楽しみじゃないの?」

「そういうわけじゃないんだけど……これから何が起こるかを考えるとな……」

「ほう、まるでこれから何があるか分かっているような口ぶりだな。とらぶるに予知能力でも加わったのか?」

「予知というか……危機察知能力だけどな。あと言っておくと今言ってるのは別にとらぶるで感じ取ってるわけじゃない。経験則みたいなもんかな……」

「? 変なリト?」

「春ですからね……」

 

 

四人、端から見れば三人で登校しながらも自分の足取りは重い。本当なら進級という学生にとっては楽しみなイベントも今の自分にとっては違う意味を持ってくる。ヤミだけは薄々感じ取ってるようだが同意してくれる気はないらしい。というか最近ヤミが厳しい気がする。そんなことを考えていると

 

 

「やっほー! おはよーみんなー!」

 

 

上空からそんな声と共にメアが飛び降りてくる。おそらくは家の屋根を飛び移りながらここまでやってきたのだろう。止めるように何度も言っているのだが寝耳に水。飛んでこないだけマシだと思うあたり、自分も大分毒されてしまっているのかもしれない。

 

 

「おはよう、メア。今日も元気そうだな」

「モチロン! 今日から二年生だもん、楽しみ♪」

「ふむ、言っていることがプリンセスと同じだな。そんなに進級とは楽しいことなのか?」

「あ、マスター! やっぱりお兄ちゃんのところにいたんだね、急にいなくなるから心配してたんだよ?」

「ちょっと宿借りにな。ちゃんと目的は達した。あとでゆっくり見せてやるさ」

「ほんと!? 素敵♪」

 

 

出会うなり楽しそうに会話を始める赤黒コンビ。やはり主従なのか、波長が合うのだろう。他人ごとではないのは、自分もその主従に含まれているということ。

 

 

「おはようメアちゃん! また同じクラスになれるといいね!」

「うん! でも負けないからね、ララお姉ちゃん♪」

 

 

嬉しそうにメアとララは一緒になって騒いでいる。最近はもう見慣れた光景だが半年前には考えられなかっただろう。ララお姉ちゃん。それがメアの今のララの呼び方。ヤミを救うためにララが戦ったこと、自分とララが婚約したこと。その他諸々もあってメアはララを認めることにしたらしい。ララにとってはもう一人妹が増えたようなものなので大喜びしている。それは自分も同じなのだが

 

 

「……ふふ、リトお兄ちゃんもこれからヨロシクね♪」

 

 

ぺろりと舌を出しながら微笑みかけてくるメアの姿に言いようのない寒気を覚えるのは何故なのか。年が明けた辺りから何だが自分を見るメアの目が変わったような気がする。端から見れば可愛らしいのだが、まるで獲物を前に舌なめずりする小悪魔のような妖艶さが滲み出ている。あれだろうか。約束だったぺろぺろ事件から変なスイッチが入ってしまったのだろうか。

 

 

「何をしているんですか……早くしないと新学期初日から遅刻しますよ。それと……メアは学校が終わったら話があります。私と一緒に下校するように。いいですね」

「えっ!? お、お姉ちゃん、あたしまだ何もしてないよ!? ちょっと前にとらぶるでぺろぺろしてもらっただけで」

「語るに落ちていますね……」

「メアちゃんはぺろぺろ好きだよねー。そうだ! 今夜はわたしのもしてくれる、リト?」

「き、気が向いたらな……」

 

 

こちらに飛び火してこないように気配を殺しながらさっさと登校する。どうして自分の回りはこんなにえっちぃことばかりなのか。できるのはただ平静を装いながら対応することだけ。それが一番被害が少ないことをこの一年で嫌というほど思い知った。内心ドギマギしながらメアも加えた一同で学校を目指すのだった――――

 

 

 

「みんな一緒のクラスで良かったね!」

「そうですね。何か見えない力を感じる気もしますが」

「そこでなんでオレを見る!? オレは何もしてないぞ!」

「何もしてないからこそ怖いですね。まあ、護衛しやすいので私は助かりますが」

「もう、ヤミお姉ちゃんったら素直じゃないんだから。素直にお兄ちゃんと一緒のクラスで嬉しいって言えばいいのに♪」

「なっ!? わ、私はそんなことは……」

 

 

いちゃついている姉妹を見ながらもヤミの言っていたことは洒落になっていない。運がいい、ということは自分にとってはもうそれだけでとらぶるでしかないのだから。まあ、みんな一緒のクラスになれたこと自体は嬉しいので良しとしよう。そう思いながらいざ、新しいクラスのドアを開けた瞬間

 

 

「久しぶり、会いたかったリトくん♪」

 

 

いきなり誰かに抱き着かれてその場に転んでしまう。思わず自分のとらぶるが発動したのかと慌てるも今はネメシスが憑依しており、加えてとらぶるも消費済み。つまりこれは

 

 

「っ!? ル、ルン!? どうしてここに……!?」

「私も今日からこの学校に転入することにしたの! リトくんと一緒にいたくて♪ 心配しなくても父も母も許してくれたから大丈夫だよ♪」

「そ、それは分かったけど……とにかく離れろって!? みんなに見られてるだろ!?」

「いいもん、リトくんなら♪」

 

 

何とか引きはがそうとするも嫌々とばかりに抱き着いてくる女の子。だが彼女もまた地球人ではない、れっきとした宇宙人。

 

 

ルン・エルシ・ジュエリア。

 

 

メモルゼ星の王族である少女であり、幼いころからララとも交流のある友達。本当なら自分とは全く接点がないはずだったのだが、ひょんなことから自分はルンと知り合うことになった。

 

 

『ん? 誰かと思えばエヴァとの戦いの時にお前が助けた女か。なるほど、流石は次期デビルーク王、戦闘中でも女に粉をかけるのを忘れないとはな』

『そ、そんなわけないだろ!? あの時は必死だったし、デビルークでもう一度会ってもオレすぐには分からなかったんだから!』

 

 

ネメシスと脳内会議を繰り広げながらも思い出す。エヴァとの戦いのときに助けた女の子が目の前のルン。名前も知らなかったのだがひょんなことからデビルークでルンと再会することになった。なんでもメモルゼ星はデビルークと友好関係にある同盟国であり、先の大戦からの復興のためにデビルークに訪れていたらしい。それ自体は別に構わないのだが

 

 

「ちょっと、いつまでそんなことしてるの!? ハレンチだわ!」

 

 

こちらとしては待ってましたと言わんばかりのタイミングで風紀委員であり、クラスメイトでもある古手川が現れる。ここ最近は常識人という意味で古手川は自分にとっての心のオアシスになりつつある。慣れた手つきで自分からルンを引きはがしてくれ、ようやく解放されたのだが、ルンは不機嫌な様子を隠していない。

 

 

「何なの貴方!? どうして私の邪魔するの!?」

「どうしてもこうしてもありません! ここは学校、ハレンチなことは禁止です! それに結城君はララさんの婚約者なのよ! だから変なことは」

「知ってるよ。でも関係ないもん。リトくんは私の王子様なんだから!」

 

 

そういいながら古手川の制止も振り切って再びルンが抱き着いてくる。王子様。それがルンが自分に好意を抱いている理由。偶然とはいえ、命の危機から助け出した自分をルンは王子様だと思い込んでいるらしい。悪い娘ではないのは分かるのだが、思い込みが激しいのは間違いない。自分も何度も説明してきた。助けたのは偶然だったのだと。自分はララの婚約者なので気持ちには応えられないと。だがそんなことは関係ないとばかりにアプローチは止むことはない。むしろ激しくなっている。愛に障害はつきものだとか何とか。

 

 

「ルンちゃんもこっちに来たんだ! 同じクラスだね、ヨロシク!」

「……相変わらずね、ララちゃん。私、負けないから!」

「うん! お互い頑張ろうね!」

「が、頑張ろうじゃないだろ!? 止めてくれよ、ララ!?」

「どうして? ルンちゃんもリトのこと好きなんでしょ? なら大丈夫だよ!」

 

 

うん、とガッツポーズをとっている自分の婚約者。本当に自分と婚約したのか不安になってくるララの対応に呆れるしかない。ルンといい、宇宙の王族の恋愛観はどうなっているのか。ルンと古手川にもみくちゃにされて途方に暮れるも

 

 

「あ、ダ、ダメ……! ふぇ、ふぇ……へっきし!」

 

 

埃が舞っていたからか、ルンは何とか必死に耐えようとしながらも我慢できずくしゃみをしてしまう。同時に、小さな爆発のような音と共に煙が立ち込める。それが収まった先には

 

 

「ふぅ……済まない結城。ルンが迷惑をかけてしまって……」

 

 

ルンの姿はなく、代わりにどこか中性的な少年の姿があった。そう、これこそがメモルゼ星人特有の男女変換能力。簡単に言えばくしゃみをすることで性別が逆転してしまうのだった。

 

 

「え? う、嘘……? 男の子になった……? まさか」

「こ、古手川……その、ルンは宇宙人で、くしゃみをすると性別が入れ替わるんだ。男の方はレンって言って」

「また宇宙人なの!? 一体いつからこの学校は宇宙人の学校になったの!? 非常識だわ!?」

 

 

また一つ自分の常識が壊されてしまったことで古手川は頭を抱えている。気持ちは痛いほどわかるが現実と向き合わなければいけない。自分はとうにあきらめているが、古手川にはどうか頑張ってほしい。オレの分まで。

 

 

「ボクも止めているんだが聞いてくれなくてな。監視する意味でも一緒に転入することになった。ヨロシクな、結城」

「あ、ああ……こちらこそ……」

 

 

自分にはないイケメンオーラを出しながらレンはそう挨拶してくる。何を隠そう、レンは自分にとっては夢にまで見た男友達。それがクラスメイトになってくれるなんて本当に嬉しい。嬉しいのだが……その恰好はどうしたらいいのか。傍目から見れば女装してスカートを履いているヘンタイでしかない。当人は全く気付いていないが言うべきなのだろうか。自分にまともな男友達ができる日は来るのか。

 

 

『何やってるのよ、レン。さっさと私と交代してよ!』

「ダメだ。何度も言ってるだろう。結城はララちゃんの婚約者だ。いい加減あきらめたらどうだ?」

『何よ! 自分だってララのこと好きだったくせにあきらめたの!? このいくじなし!』

「うっ……し、仕方がないだろう。ララちゃんは結城のことが好きで、結城もあのエヴァに立ち向かってまでララちゃんを救った男なんだ。悔しいけど認めるしかない」

『ふん、ヘタレなんだから。私はあきらめたりしないもん! ね、リトくんも私が表に出てる方が嬉しいでしょ?』

「そ、そんなことはない! 結城はボクと一緒にいる方が楽しいに決まっている! そうだろ、結城!?」

「は、はは……」

 

 

もはや乾いた笑みしか浮かんでこない。恐らく脳内でルンと会話しているんだろうが、周りから見ればレンが自分に迫っているようにか見えない。せっかくザスティンさんとの疑惑は解消されつつあるのに、違う疑惑が出かねない。男友達でありながら女友達。もう何が何だかわからない。

 

 

「お、男同士なんて……は、ハレンチだわ……」

 

 

そんな中で知らない間に一人妄想に浸っている古手川さん。一番ハレンチなのはその頭の中なのではと突っ込みたいが、怖いのでとても口にできない。そんな騒ぎの中

 

 

「おや、騒がしいと思えばやはり君たちですか、結城君」

「こ、校長……!?」

 

 

さらなる混乱しかもたらさないであろうハレンチの化身が教室に降臨する。瞬間、教室全体が緊張状態になる。避難訓練もかくやという空気。きっと生徒からここまで警戒される教師なんて校長ぐらいのものだろう。

 

 

「ふむふむ、今日から新学期ですがみんな元気そうですな」

 

 

そう言いながら校長はきょろきょろと教室を見渡している。そのサングラスには女子しか映っていない。そんな中、その視線がぴたりと止まる。その先にはララがいる。てっきり校長のお気に入りであるヤミに視線が行くかと思ったが今日は違うらしい。

 

 

「こ、これは……な、なんという戦闘力……!? ワシのスカウターですら計測不能なほど、今のララちゃんからは色気がむんむん出ておりますぞ! まるで人妻のようなエロス!」

「ヒトヅマ?」

 

 

奇声を発しながら校長はサングラスを震わせている。対してララは意味が分からずきょとんとしているだけ。

 

 

「ら、らら、ララちゅあ――ん!! ぜひワシといけない宅配便ごっこをしましょう――!!」

 

 

そのまま校長はいつものようにララに向かって飛びかかっていく。だが既にこちらの布陣は完了済み。左右にはヤミとメアの変身コンビが控えている。それを突破できるかどうかの勝負。だが

 

 

「――ひょ?」

 

 

それよりも早く校長は巨大なイノシシに轢かれてトリプルアクセルを決めてしまう。だがそれだけでは足りないとばかりどこからともなく植物の蔓のような物が校長を雁字搦めにしてしまう。散々な目に遭っているはずなのに校長が悦んでいるように見えたのは気のせいだと思いたい。

 

 

「まったく……こいつはホントに変わらないな」

「噂通りの方なんですね、校長先生♪」

 

 

呆れながら、クスクス笑いながら新しい転入生が教室にやってくる。もはや見るまでもない。こんなことができるのは彼女達しかない。

 

 

「ナナ、モモ! 遅かったじゃないか。てっきり来ないのかと思ってたぞ」

「え? な、なんで驚かないんだ、リト? 誰にも転入してくること言ってなかったのに……」

「当たり前だろ。むしろ遅すぎると思ったぐらいだぞ」

「うふふ、残念だったわね、ナナ。せっかくリトさんを驚かせようと思っていたのに♪」

「な、なんだよ……もうちょっと驚いてくれてもいいだろ……」

 

 

期待していた反応を得られなかったからか、若干ナナは不機嫌になってしまっている。だが仕方ない。ララが転入してきた時点でこうなることはもう予想できていたのだから。むしろ遅かったと思うほど。

 

 

「それで、お前たちもこのクラスに転入してくるのか?」

「いえ、わたしたちは一年生として入学させてもらったんです。年の問題もありますし、わたしたちまでこのクラスに入ったらクラスの半分近くを占領するような形になってしまいますから」

「そーなんだー、ナナちゃんと一緒のクラスになれるかと思ってたのに残念」

「心配しなくても休み時間は遊びに来るぞ、メア!」

「ほんと? 素敵♪」

 

 

メアとナナはどこか興奮したように騒いでいる。元々仲が良かったのだから当たり前と言えば当たり前だが。一応学校は遊びに来るところではないと釘を刺しておかないといけないかもしれない。そんなことを考えていると

 

 

「そういえば、リトさんにお渡ししておきたいものがあったんです」

「それって……もしかして……」

「はい、お見合い写真です♪ お父様からですね」

 

 

どこか楽し気なモモから小さなキューブのような物を渡されてしまう。それはボタンを押せば映像が立体映像で出てくる映像装置。自分にとっては碌な思い出がない代物。

 

 

(お見合い……か。まさかララじゃなくて、オレまでお見合い地獄になるなんて……)

 

 

大きな溜息と共にがっくりと肩を落とすしかない。それはある意味当然の流れ。経緯はどうあれ、自分はデビルーク王を倒したエヴァを打倒した存在として宇宙に知れ渡ることになった。しかもララの婚約者であり、次期デビルーク王最有力候補。他の星々からすればぜひ友好を結びたいと考えるのは当たり前。そしてそのもっとも手っ取り早く確実な方法がこれ。ララと婚約していることは周知されているのでようするに側室として宇宙から数え切れないほどの縁談がやってきている。もちろん断り続けているのだが相手の国のメンツもあり、会いもしないで断り続けるのは限界になりつつあるらしい。デビルーク王は面白がって推進し、セフィさんは同情してくれながらも自分次第だと静観する構え。

 

 

「大丈夫ですよ、リトさん。ちゃんと私が選考しています。次期デビルーク王の地位や名誉だけを求めているような人たちは除外していますから」

「そ、そうか……できれば全部断っておいてほしいんだけど……」

「外交上の問題もありますから♪ それにリトさんにとっても悪い話ではないと思いますよ? お姉様だけではリトさんのとらぶるを消費しきれなくなるかもしれませんから」

 

 

モモの空恐ろしい言葉に息を飲むしかない。そう、遠くない未来、自分のとらぶるは六回になるだろう。いや、もっと。今は何とかララが受け止めてくれているが限界を超えたらどうなるのか。

 

 

「そ、その時はその時だろ……きっと大丈夫だって、多分……」

「そうですか。でも必要な時はいつでも言ってくださいね。外からではなく、内から固めるのも必要ですから♪」

「ふーん、大変だねリト。お見合いばっかりして」

「他人事みたいに言うなよ!? はあ……オレも家出しようかな……」

 

 

今になってララの気持ちが分かるなんて思ってもいなかった。確かにお見合いばっかりしていたら家出したくなるのも理解できる。

 

 

「ほんと? じゃあぴょんぴょんワープ君貸してあげようか?」

「いや、いい……どうせどっかのお風呂にワープするのは目に見えてるし……」

 

 

はい、とぴょんぴょんワープ君を差し出してくるララに呆れるしかない。きっとワープしてロクなことにならない。今の状況ならきっと入浴しているセフィさん辺りのところにワープしてしまうに違いない。

 

 

(ま、しょうがないかな……ララを好きになっちゃったんだから……)

 

 

そう、しょうがない。ララを好きになって、一緒になると決めた時点でこうなることは分かっていたのだから。これまで以上に騒がしくて、とらぶるな日々になるのは間違いない。けど、きっと何とかなるだろう。ララと一緒なら。そんな決意をよそに

 

 

「あれ? これって……?」

「え? ら、ララ、まさかそれって」

 

 

偶然か、故障か。ララの手にあるぴょんぴょんワープ君が稼働を始めてしまう。慌ててどうにかしようとするも間に合わない。瞬間、視界はまばゆい光に包まれてしまった――――

 

 

 

 

「ぷはっ!? な、何だ……!? ここは……お、お風呂!?」

 

 

気が付けば何故か湯船の中。まさか本当にピンポイントで風呂場に飛ぶなんて自分のとらぶるはどこまで行ってもとらぶる。慌てて立ち上がり辺りを見渡すと

 

 

「あ、リト! よかった、怪我はない?」

 

 

そこにはいつもと変わらないララの姿。どうやらワープに一緒に巻き込まれてしまったらしい。本当にいつも通り。

 

 

「お前、なんで裸なんだよ!? お、オレもだけど……前服がなくなるのは直したって言ってたじゃないか!?」

「えー、わたし、ちゃんと直したよ。確認もしたし。きっとリトのとらぶるのせいじゃないかな?」

「そ、それは……その、ごめん……」

「なんで謝るの? いつものことでしょ?」

 

 

おかしなリトとばかりにニコニコしているいつも通り全裸のララ。きっとこの娘以上に自分のことを理解している人はいないだろう。理解があり過ぎるのも考え物かもしれないが。

 

 

「と、とにかく早くここから帰らない……と……」

 

 

そう言いながら動き出そうとした瞬間、思わず体が固まってしまう。湯気によって遮られていた視界が晴れていき、人影が露わになっていく。

 

 

「…………」

 

 

そこには一人の女性がいた。きっとシャワーを浴びている途中だったのだろう。髪を洗っている途中の体勢でこちらに気づき、固まってしまっている。それが予想通り、セフィさんならここまで戦慄することはなかっただろう。

 

年齢は二十歳ほど。セフィさんほど豊かではないが、しなやかな体。美乳と言えるような胸。ショートヘアの黒髪。意志の強さを現すような釣り目。何よりも印象的なその瞳。まるで猫のような、金の瞳。それにネメシスが重なる。瞬間、ようやく悟る。目の前にいる女性がいったい誰なのか。忘れたくても忘れられない、今一番会いたくない存在。それは

 

 

「あ! エヴァちゃんだ! すっごい偶然だね、リト!」

 

 

エヴァ・セイバーハーゲン。誰かの肉体に憑依しているわけではない、変身兵器としてのエヴァの姿。かつてあんな目に遭っておきながら、年上であるにもかかわらずまるで友達に会ったかのようにララはその名を口にする。しかもちゃんづけ。一体どこまで自分の婚約者は大物なのか。

 

 

「あ、あはは……ど、どうも……」

 

 

とりあえずそう挨拶するしかなかった。完全にフリーズしていたのか、しばらく微動だにしていなかったエヴァだったが、次第にその頬は紅潮し、目は見開かれ、体が震えている。ただそれを自分は待つことしかできない。これからいったいどうなるのか。それはきっと誰に分からない。ただ分かることは一つだけ。

 

 

 

リト・サタリン・デビルークとララ・サタリン・デビルークのとらぶるな日常はこれからもずっと続くことになるということだけだった――――

 

 

 

 

 




作者です。長くなりましたがようやく完結まで辿り着くことができました。ここまで続けられたのは読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございました。ここからは少しあとがきのような物を書かせていただきます。

最終話は原作の49話を強く意識したもので、タイトルもそこから取っています。進級し、新しく二年生から生活が始まるという意味合いを兼ねています。コンセプトは続きが読みたくなるような最終回。断片的ですがリトとその周りがどんな風に変わっているか見せて、先を読者に想像してもらえれば嬉しいです。

またこのSSのテーマとしてはリトが誰か一人を選ぶ、というものがありました。原作ではリトには春菜という一番好きな女の子がいて、ララのことは好きだが一番ではない。物語的にも、商業的にもリトが誰か一人だけを選ぶことは難しい。ならそれを書いてみよう。原作ではできないことをするのがSSの醍醐味だと作者は思っているので、このSSではララを選ぶ展開となりました。ハーレムを期待していた方には申し訳ありません。きっとハーレムに近いエンディングは原作がやってくれると思っています。

次にヤミについて。いつか書きましたが五十四話からヤミルートに分岐できるようにプロットは組んでいました。ですが展開的にララルートと被ることが多いので直接の描写はできませんでした。ただ、感想でもヤミルートが見たいという声も多かったので2、3話ほどの短編、ヤミルートの後日談のようなものを投稿したいと思っています。楽しみにしてもらえると嬉しいです。

長くなりましたが約半年、お付き合いくださりありがとうございました。次のSSを書くかどうかは今のところ未定ですがもし見かけたら読んでいただけると嬉しいです。では。


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