もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】 作:HAJI
雲一つない満天の星空。その中でもひときわ大きな輝きを放っている満月。見る者の心を魅了してしまいそうな美しさ。その月明りを受けながら月を見上げている少女がいた。
「…………」
金色の闇。その名の通り、金色の髪が月明りに照らされて輝いている。もし誰かがいればその幻想的な美しさに目を奪われてしまうだろう。ヤミは何をするでもなくただ月を見上げている。そこに月ではない何かを見ているかのように。そんな中
「あ、やっと見つけた! ヤミお姉ちゃん、こんなところにいたんだね!」
まるでかくれんぼをしていた子供のように喜びながらメアが姿を見せる。とても人間とは思えないよう跳躍を見せながら。なぜならヤミがいる場所は屋根の上。およそ普通の人間がくつろぐような場所ではない。
「メア? どうしたんですか?」
「お風呂が空いたって伝えに来たの! お姉ちゃんが最後だからって!」
「そうですか……ですがまだ結城リトが残っていたはずですが」
「お兄ちゃんならもう入っちゃったよ。一緒に入ろうと思ったんだけど、先に美柑ちゃんが一緒に入っててできなかったんだー」
「……そうですか。美柑のほうが一枚上手でしたね」
むー、と頬を膨らませている妹の姿に若干呆れながらもどこか慣れた様子で宥めているヤミ。美柑に感謝しなければと思いながらも、兄妹とはいえそれはどうなのかと突っ込みたくなるがとりあえずヤミは保留することにしたらしい。
「お姉ちゃんこそこんなところで何してたの? お月見? でもあれってもう終わったんじゃなかったっけ? 今は七月でしょ?」
「いえ、ただちょっと涼みに来ていただけです。夜なら暑さもそこまでではないですし……」
「ふーん……あ、そうだ! ナナちゃんたちが新しいゲーム作ったんだって! お風呂終わったら一緒に遊ぼうよ!」
「そうですか……以前のようなことにならなければいいですが」
ヤミはかつての惨状を思い出して頭を痛めながら早く早くと引っ張ってくるメアにされるがまま。だがそんな中、ふと月が目に映る。
「……貴方に月の恩寵がありますように」
知らずそんな言葉がヤミの口から紡がれる。何かを考えていたわけではない。独り言のように。
「? どうしたのヤミお姉ちゃん? 何か言った?」
「いえ、何でもありません。とりあえず遊ぶ前に、お風呂に一緒に入ろうとしたことについてのお説教ですね」
瞬間、絶望に突き落とされた顔をしているメアを横目に家に入っていくヤミ。そこが自分の居場所。家族がいる場所なのだと実感しながら――――
「おはよう、美柑」
「おはよう、リト。大丈夫? 何だがまだ眠そうだけど……」
「い、いや大丈夫……いつものことだし……」
寝不足なのをすぐに見抜かれて一瞬ドキッとするも何とか誤魔化すことに成功する。ある意味いつも通りの事なのだがどうにも慣れることはできそうにない。毎朝のとらぶるがなくなった代わりの代償。どっちが良かったのかは分からないがとにかく美柑の機嫌は良さそうなので良しとしよう。もしかしたら昨日一緒にお風呂に入ったおかげかもしれない。
「……おはよう、ヤミ」
「おはようございます、結城リト」
いつものように読書をしているヤミに今日二度目の挨拶をする。ヤミもそれは同じはずなのに全く気にしている素振りはない。いつも通りの物静かな姿。他人の目があるときのヤミ。
(付き合い始めてからもう半年経つけど……こればっかりは変わりそうにないな。たまに本当に付き合ってるのか不安になるときもあるけど……)
とりあえず自分の本を手に取りながらこっそりとヤミを盗み見る。かつては自分の護衛であり、今は彼女となっているヤミ。半年前の告白から晴れて自分達は恋人同士になった。みんなもそのことは知っているのだが、家や学校での自分たちの関係は大きく変わっていない。人前でいちゃいちゃすることもない。ただ二人きりの時はその限りではないのだが。そのギャップも可愛いのだが、いかんせんその落差のせいで対応に戸惑う時がある。毎朝二度目の顔合わせの時がその最たるもの。慣れるのにまだしばらくかかりそうだなと考えていると
「おはよーみんな! 今日で学校も終わりだね、明日からの夏休みも楽しみ!」
元気の塊のような声と共にとたとたと慌ただしく朝の来客がやってくる。ララ・サタリン・デビルーク。デビルーク星のお姫様でかつては自分の偽の婚約者候補だった女の子。今の関係は友達……のはずなのだが、どうにもそう言い切れない部分がある。
「おはよう、ヤミちゃん! 明日からの夏休み、去年と同じようにデビルークに遊びに来ない? 楽しいこと一杯考えてるんだよ!」
「はい。今のところ予定はないのでそうさせてもらおうと思っています。クイーンたちにもよろしくお伝えください」
「うん! リトも一緒でいいんだよね?」
「あ、ああ……お手柔らかにお願いします……」
かつての地獄の夏休みを思い出して若干声が震えてしまうが仕方ない。ヤミが参加する以上、自分が参加しない訳にもいかない。参加しなければあっちからやってくるだけなので負担はそう変わらないのもある。ただ毎日疲労困憊になるのだけは覚悟しなければ。そう覚悟を新たにしていると
「モチロン! じゃあリト、いつもみたいに抱っこして!」
「ぶっ!? い、いきなり乗ってくるなっていつも言ってるだろ!?」
「えー? いいでしょ? 今のわたし、そんなに重くないもん」
「それとこれとは話が違うだろ……全く、とらぶるじゃなくてもこれじゃいつもと変わらないな……」
えへへ、と満足気に自分の膝の上に収まっている小さなプリンセス。そう、小さかった。比喩でも何でもなく、物理的に今のララは小さくなってしまっている。年齢でいえば幼稚園児ぐらいだろうか。
(あれから半年か……最初に比べれば大きくなってるんだろうけど、デビルーク人って一体どうなってるんだ……?)
思い出すのは半年前のクリスマスイヴから始まった一連の騒動と第七次銀河大戦。自分はヤミに好きだと告白した。だがその瞬間、ヤミはダークネスに飲まれ、変身融合によって潜んでいたエヴァ・セイバーハーゲンに身体を乗っ取られてしまった。そのヤミを救うためにララは戦ってくれたのだが、限界以上に力を消費してしまい、体が縮んでしまった。赤ん坊同然の大きさまで。奇しくもデビルーク王と同じレベル。今は親子ともども子供になってしまうという意味不明の状況になってしまっているのだった。
「すみません、プリンセス……私のせいで不便な生活をさせてしまって」
「大丈夫だよ、もう慣れてきたし! それに力も戻ってきたし、夏休み中にはきっと元に戻れると思うから」
そういいながらどこから持ってきたのか、瓶の牛乳をぐびぐびと一気飲みしているララ。それと大きくなるっていうのは無関係だと思うのだが。というか勢いが良すぎてボタボタ牛乳が自分の膝に零れているのは勘弁してほしい。
(でもヤミの奴……ララの事、全然気にしてないんだな。やっぱり前言ってたことは本気だったのかな……?)
自分の膝の上に載って、幼児の姿とはいえ好き勝手しているララに対してヤミは全く気にした様子を見せていない。本当なら嫉妬したり、不機嫌になってもおかしくない場面。事実、メアやモモが自分にちょっかいを出そうとしてくればそれを撃退しているのに、ララに関してはその限りではない。
今、ララは自分のとらぶるを消費するという毎日の日課は行っていない。言うまでもなくそれは今のララが子供の姿だから。もしそんなことをすれば警察のお世話になること間違いない。というか体格的にも道徳的にもできるわけがない。そんなこんなで今はとらぶるはヤミに消費してもらっている。主に夜のとらぶるで。それはいいとして、ララが元に戻ったとしてとらぶるをどうするのかヤミに聞いたことがある。それに
『それは貴方次第です。私からは何も…………ただ、その、一番は私です。それだけは忘れないように』
ヤミは赤面しながらボソボソとそんなことを口にしていた。貴方次第というのにとらぶる以外の意味が含まれているのはなんとなく分かった。自分と付き合うようになってからの心境の変化か、それともララに対する負い目があるのか。とにもかくにも夏休み中にとらぶるをどうするかの宿題を片付けなければいけない。そんな中
「ふあ……騒がしいな。おかげで起こされてしまったではないか」
大きく背伸びをし、あくびをしながら新たな同居人(身体)が姿を現す。マスターネメシス。本当に眠かったのか、寝癖に加えてキャミソールも乱れてしまっている。子供とはいえ、目をそむけたくなるような光景。
「ネメシス!? お前また勝手にオレの身体に入り込んでたのか?」
「クク、当然だろう? 私とお前は共犯者、一蓮托生なのだからな。忘れたわけではあるまい?」
「そ、それはそうだけど……それとこれとは関係ないだろ!?」
ククク、といつも通りのドSっぷりを発揮しているネメシス。自分にとっては共犯者……もとい運命共同体。ヤミを救い出すために自分はネメシスと契約を交わした。共犯者。互いが主人でありながら下僕であるという矛盾した契り。その証拠に自分の首にはネメシスの首輪がある。互いの首輪を交換した形。そのおかげで自分は変身融合によってヤミを救い出すことができた。本当に感謝しているのだが、その代償は大きかったと言えるのかもしれない。
「貴方には感謝していますが、結城リトをからかうのはほどほどにして下さい。度が過ぎるようなら私も黙ってはいませんよ」
「おおぅ怖い怖い。しかし寝不足になっているのは間違いなくお前たちのせいなのだがね」
「私たちの……?」
ジト目になりながら抗議するヤミに対してあくまでもヘラヘラして煽っているネメシス。だがネメシスの目がまるで猫のように光る。マズいとそれを止めようとするも
「ごほんっ! 『ああ……熱いです。貴方が私の中に入ってきています。リト……分かりますか?』」
「『ああ……ほんとに熱くて、大丈夫か、イヴ?』『大丈夫です……今だけはえっちぃのは許してあげます……だからもっと』」
「~~~~?!?!」
ネメシスはまるで手品師のように、自分とヤミの声でそんなやり取りを明かしてしまう。声帯だけを変身させているのだろうがその演技力も半端ではない。そんな自分との夜のとらぶるを実況されてしまったせいで、ヤミはゆでだこの様に真っ赤になりなあら口をパクパクさせている。目はぐるぐるになり焦点があっていない。自分も同じぐらい恥ずかしいのだが、そんなヤミの姿に圧倒されてしまう。
「こ、殺します!!」
「ほう、色ボケしているお前にそれができるかな? 何ならリトに変身して夜の相手をしてやってもいいぞ?」
「や、やめろ二人とも!? 家の中で喧嘩するんじゃない!?」
「いいなーヤミちゃん。元に戻ったらわたしにもしてくれる。リト?」
「おはよう……ってあれ? マスター? みんなで遊んでるの? 素敵、あたしも混ぜて♪」
ついに臨界点に達したのか、ヤミは変身によってネメシスに襲い掛かり、ネメシスは笑いながらダークマターによってそれを無力化している。だがその余波で家の中はめちゃくちゃになっていく。そこにさらにメアも加わりもはや収拾がつかないバトルロイヤルに。変身兵器姉妹のはた迷惑な姉妹喧嘩は結局、美柑の鶴の一声が響き渡るまで続くことになるのだった――――
「はあ……朝からどっと疲れたな……」
「す、すみません……」
「ふむ、腕は鈍っていないようで安心したぞ、金色の闇」
「楽しかった♪ でも美柑ちゃんって怒ると怖いよねー、お姉ちゃんとどっちが怖いかな?」
「リトも怒ると怖いんだよー! わたしも初めて会った時に怒られちゃったんだから!」
「お、お前らな……」
あれだけの騒ぎを起こしながら反省しているのはヤミだけ。もしかしたらネメシスたちなりに反省しているのかもしれないが全く伝わってこない。溜息を吐きながらももうすぐ教室。学校は今日までで明日からは夏休み。喜んだからいいのか悲しんだからいいのか。とにもかくにも今日一日は平和に過ごせますように。そんな祈りは
「ヒャッハー! 女子高生最高――――!!」
そんなどこかで聞いたバカオヤジの叫びによって一瞬で消し飛ばされてしまった。
「あ、パパだ! 朝見かけないと思ったら地球にきてたんだ!」
「…………できればもっと早く言ってほしかったな」
そんな状況を全く理解していないララの言葉に肩を落とすしかない。もう見なくても分かるほどに状況はかつてと同じ。いや、それ以上かもしれない。銀河最強の男は今まで見たことのないような生き生きした笑みを浮かべながら女子高生にイタズラしまくっている。以前見た大人の姿でそれをやっているかと思うと情けなくて涙が出てくる。もっとも今は幼稚園児レベル。せっかく大人に戻ったはいいもののエヴァに敗北し子供に逆戻り。だが姿が大人だろうが子供だろうがやることは変わらないらしい。
「お、やっと来やがったなリト! 待ちくたびれたぜ、おかげで大方美人どころは抑えさせてもらったぜ?」
「何の話ですか!? っていうか何しに来たんですか!? すぐにセフィさん呼びますよ!」
「うっ!? ふ、お前も少しは言うようになってきたじゃねえか……まあ、こっちは遊びみたいなもんでな。本命はお前だ、リト」
「オレ……?」
一瞬セフィさんの顔が頭に浮かんだのか、怯みながらもすぐさまオレ様っぷりを取り戻しながらぴょんと自分の前にやってくるデビルーク王。一体何の話なのか。きっとろくでもないことなのは間違いない。
「ケケ、決まってんだろ? ララとの結婚のことさ。心配しなくてもララと結婚すればそこの金色の闇を側室にすりゃあいい。万事解決ってわけだ!」
ワハハハ、とそんなむちゃくちゃなことを宣言するデビルーク王。しかもクラスメイトの前、当事者がいるこの場で。もはや呆れて言葉もない。
「な、何の話をしてるんですか!? 大体オレはヤミと付き合って」
「あー分かってる分かってる。大方金色の闇の奴に縛られてんだろ? オレも同じさ。だが心配すんな。オレと同じ轍はお前には踏ませねえ。お前もララのことは嫌いじゃねえんだろ? お前がデビルークを継げば万事解決さ。な、悪くない話だろ? 今ならモモとナナも付いてくるぜ?」
お得だろ? といつの間にか自分の肩に乗ったまま一方的にしゃべり続けるデビルーク王。この人は本当に変わらない。自分がヤミを選んで、ララを振った時にもひと悶着あったのだが、まだあきらめていなかったらしい。そんなに王務をほっぽり出して遊びたいのか、それとも自分をからかって遊びたいのか。
「もう、またそんなこと言ってるのパパ! パパは関係ないでしょ? これはわたしのことなんだから。わたしがリトに振り向いてもらえるように頑張るんだからパパは口を出さないで!」
「そんなもん待ってる時間はねえぞ! ララ、お前は知らねえだろうが、ああいうタイプの女に隙を与えたらどうなるか」
「……興味深いですね。どうなるのか聞かせてもらえますか、デビルーク王」
そんな中、黙って様子を見ていたデビルーク王曰く、ああいうタイプの女であるところのヤミが近づいてくる。その眼は絶対零度。最近久しく見ていなかった殺し屋時代のヤミを彷彿とさせる姿。見れば隣にいるメアがお姉様……と言いながら震えている。まるで調教された猫のような反応。どうやらネメシスが言っていたことは本当だったらしい。それはともかく
「ケッ、しょうがねえ、この話はまた今度だな、それはともかく今日はオレに付き合え、リト! 新しい店ができたってんでな、今日はオレの奢りだ! ザスティンの奴ももう待たせてるからな!」
「っ!? ま、まさかまたアダルトショップに行く気なんですか!?」
「ケケ、甘いな。今度はそのさらに上さ。地球じゃ何て言うんだったか……まあとにかくサービスしてくれる店さ。お前も毎日野菜ばっかりじゃ飽きてくるだろ? たまには肉も食わねえとな!」
当てつけの様にヤミを見ながらデビルーク王はとんでもないことを口にしている。ララは意味が分からずきょとんとし、ネメシスは愉しそうに静観する構え。メアは使い物にならない。この人は一体何を考えているのか。そもそもその身体で行って意味があるのか。そのまま有無を言わさず連行されそうになった瞬間、ブチッと、何かが切れる音が聞こえた。
「他人の彼氏を堂々と目の前で浮気に連れ出そうとは……死にたいらしいですね」
そこには魔人がいた。その名を冠するエヴァすらも凌駕しかねない存在。いつかの時を遥かに上回るヤミのマジ切れ。もうクラスには自分たち以外誰も残っていない。この半年で身についたクラスメイトの危機察知能力にほれぼれしながらも自分は逃げることはできない。
「面白え……前にボロボロにされたのを忘れちまったらしいな。悪いが手加減はしねえぜ。今のオレはお前の雇い主でもないし……な……?」
瞬間、ヘラヘラしていたデビルーク王は言葉を失ってしまう。あのデビルーク王ですら絶句せざるを得ないことが目の前で起きている。デビルーク王は知らなかった。あらゆる意味で、今のヤミの半年前とは違うのだと。
そこにかってのヤミはいない。頭には黒い二本の角、両手は鉤爪に、背中からは悪魔のような天使の羽が生えている。その圧倒的な力が全てを支配する。空間が歪むほどのエネルギー。
「――前にも言ったはずです。私はえっちぃ人が大嫌いだと」
それが今のヤミの本気。ダークネスすら制御してしまった自分の恋人の姿だった。
「ほう! 本当に制御しているとは! 見ろ、デビルーク王がゴミのようだぞ! どうだリト、銀河最強の嫁を手に入れた気分は?」
「は、はは……」
もはや乾いた笑みを浮かべるしかない。遠くの山では凄まじい爆発が起こっている。その中で吹き飛ばされている銀河最強の男。完全に良いようにやられてしまっているのに、ダークネスなんて卑怯だぞとかほんとにセフィに似てきてやがるとか悪態をつけるあたり、やはりデビルーク王はデビルーク王らしい。それでも一方的にボコボコにされているのは変わらないが。
ダークネスの制御。
それがヤミの手に入れた能力。完全にダークネスが覚醒した影響か、それともヤミの成長か。ヤミは本来制御不能であるはずのダークネスすら己が物としてしまっている。それでも多少影響があるのか、覚醒時には興奮状態になってしまうらしい。特に夜のとらぶる中になってしまった日にはとんでもないことになってしまう。主に(正気に戻ったヤミが)トラウマになるレベルで。
「ち、ちきしょう……覚えてろよ――――!!」
そんな小物全開の捨て台詞と共にデビルーク王は逃げ帰っていく。きっと全盛期の姿に戻っても今のヤミには勝てない気がする。今のヤミはデビルーク王に物理的にお仕置きできる唯一の存在。きっとセフィさんと仲良くなれるだろう。自分もお仕置きされないように気を付けなくては。そう知らず戦慄していると
「あら、朝から騒がしいわね。若いっていいわね」
そんな言葉と共にいつのまにか自分の隣に女性が立っていることに気づく。妙齢の白衣を身に纏った美女。この学校では男子に一番人気がある存在。
「み、御門先生!? どうしてここにっ!?」
「ちょっとあの娘に用事があってね。それにしても凄いわね。幼児化しているとはいえ、あのデビルーク王を子ども扱いするなんて」
どこか大人の妖艶さを見せながら御門先生はこちらに戻ってくるヤミを見つめている。何でもヤミは昔、闇医者である御門先生にお世話になったことがあるらしい。そんな人がこの高校の保険医をしていると言うのだから宇宙は狭い。いや、もしかしたら自分のとらぶるのせいかもしれない。
(それにしても……本当に大きいな。ララが小さく見えるぐらい……いったい何を食べたらこんな風になるんだ……?)
いけないと思いながら、ついその暴力とでもいえる御門先生のプロポーションに目を奪われてしまう。巨乳であるララですら小さく見えてしまうぐらいに御門先生のおっぱいは大きい。それを強調するように白衣の下はきわどい服を着ている。歩くハレンチのような存在。
「……どこを見ているんですか、リト」
「っ!? い、いや何も見てないぞ!? ただ凄いなって思っただけで!?」
いつの間にか戻ってきていたヤミからの冷たい視線に背筋が凍る。もう戻っているが、またダークネス化しかねない。
「あら、女性の身体に目を奪われるのは男性として正常な証拠よ。もしかしてちゃんと結城君を満足させてあげれてないんじゃないの、金色の闇?」
「余計なお世話です。それに何でそんなえっちぃことを貴方に言われなければ」
「これでも保険医ですから。保健体育は私の領分よ。ちゃんと避妊はしてる? 宇宙人だけど、貴方は今は地球の学生だからね。節度は大事よ?」
「問題ありません。ナノマシンで自己管理はできていますので」
「へえ、興味深いわね。自分で生理周期をコントロールしてるの? それとも」
「っ!? あ、あの! 御門先生はヤミに用事があってきたんですよね!? な、何の用事があったんですか!?」
いきなり目の前でヤミと自分の性教育が始まってしまったことに慌てながら止めに入る。気づけばクラスメイト達も教室に戻ってきている。いつかのデビルーク三姉妹性教育を遥かに超える羞恥プレイ。古手川に至っては今にも倒れてしまいようなほど真っ赤になりながら妄想に走っている。
「そういえばそうだったわね。すっかり忘れるところだったわ」
「私に用事……? 何のことですか?」
ようやく思い出したとばかりの御門先生の姿にヤミまた事情が分からないのか、訝しんでいる。それを知ってか知らずか
「半年前、貴方に頼まれてたことよ……ティアが見つかったわ」
御門先生はそう何でもないことのようにヤミに告げる。その言葉に、ヤミは目を見開き固まってしまっている。細かい事情は知らないまでも、自分はその名を知っていた。
『ティアーユ・ルナティーク』
今、ヤミがもう一人の生みの親、月と向き合う時が来た――――
作者です。たくさんの感想ありがとうございました。そのお礼というわけではありませんが、ヤミルートの後日談とでもいうべきものを投稿させていただきました。
大まかな話の流れはララルートと酷似していますが所々違う点もあります。分かりやすく言えばララルートがデビルーク寄りのエンディングだったとすればヤミルートは変身兵器寄りだったということです。その辺りを想像しながら楽しんでもらえると嬉しいです。後日談はもう少し続く予定です。では。