もし結城リトのラッキースケベが限界突破していたら 【完結】 作:HAJI
「ふあ……眠い……」
時間は朝食前。着替えも済ませたがまだ眠気が抜けきっていないような気がする。その原因は間違いなく昨日の出来事のせい。自分の命を狙われるという事態とその結末。極め付けがなぜか警察の厄介になっていたザスティンを迎えに行くというイベント。これで疲れないほうがどうかしている。
(ま、とにかく助かったんだし一安心かな……)
色々思うところはあるが助かったのだから一安心だろう。とらぶるの心配だけでも精一杯なのに命の危険まであったら体がもたない。そんなことを考えながらいつものように階段を下りていると
「……おはようございます、結城リト。その様子ではまだ疲れが残っているようですね」
通りがかった途中なのか、横目で当然のように金髪の少女が自分に向かって挨拶してくる。一瞬何が起こっているのか混乱するもようやく思い出す。何故彼女がここにいるのか。その理由。
「っ!? や、ヤミか……お、おはよう……昨日はよく眠れたか……?」
「……ええ。少なくても貴方よりは。それとそんなに慌てて離れなくても大丈夫です。もう貴方の能力は把握していますから。こちらからその範囲に踏み込むことはありません」
「そ、そうか……分かった……」
狼狽し、慌てて階段を駆け上がっている自分の姿に呆れたのか、若干ジト目になりながら金色の闇はそんなことを口にする。能力とは言わずもがなとらぶるのこと。既に一度それに巻き込んでしまっているためヤミもその能力を把握してくれたらしい。だが自分にとってヤミは護衛である以上に身の危険を感じずにいられない相手。
(とにかくヤミをとらぶるに巻き込まないように気を付けないと……! どうなるかわかったもんじゃない……!)
巻き込んだが最後、護衛であるヤミに殺されましたなんてことになりかねない。しかも学校だけでなく、自宅にもヤミは自分の護衛として付き添うことになってしまっている。もはや安住の地はどこにもない。本当にトイレかお風呂に閉じこもるしかないかもしれない。加えて改めてどれだけララが特別であったかを身をもって実感することとなってしまった。もっともどっちも極端すぎるだけなのかもしれないが。
「おはようリト、ヤミさん。昨日はよく眠れた、ヤミさん?」
「はい。急にお世話になることになってすみません、美柑」
「いいのいいの。どうせ家は今親もいないし、リトとの二人暮らしだったから一人ぐらい増えてもどうってことないしね」
「……そう言ってもらえると助かります。何か手伝いましょうか?」
「うん、じゃあそのお盆をリトのところまで持って行ってくれる? あ、直接手渡したらダメだからね。えっちぃことされちゃうから」
「分かりました」
「お、お前らな……」
美柑のあんまりな発言に思わず言葉を詰まらすも、美柑は自分に向かってどこか楽し気に舌を出している。からかわれているのだとわかっていてもそういうジョークはやめてほしい。もっともヤミは真剣に受け取っているようでまるで爆発物を扱うように慎重に自分の前に朝食を持ってきてくれる。お礼を言うべきなのだが全く感謝の気持ちが沸いてこないのはなぜだろう。
(それはともかく……とりあえず二人とも仲良くなってるみたいでよかった。やっぱり年が近そうだからか?)
自分の扱いについては置いておくとして美柑とヤミが打ち解けつつあることに安堵する。護衛とはいえいきなり女の子を家に住まわせることに一抹の不安を感じていたのだがどうやら杞憂だったらしい。まだヤミにはぎこちないところがたくさんあるが美柑はそれを補うようにヤミと接している。友達になりたての二人といった風。この調子ならきっと大丈夫だろう。むしろ二人が仲良くなって、男一人の自分のほうが肩身が狭くなりそうだが考えるのはよそう。切なくなってくる。とにもかくにも朝食をいただくことにしようとした時
「おはよーリト! 昨日はお疲れさま! ザスティンが謝ってたよ、役に立てなくてごめんなさいって」
もはや見慣れつつある、慣れてしまったプリンセスララの朝の突撃がやってくる。その服装も日によって変わっている。今日は何故か彩南高校の制服姿。あれだろうか。言外に自分も学校に行きたいとアピールしているのかもしれない。
「おはようララ。ザスティンさんには気にしないでって伝えておいてくれ。オレは無事だったんだし」
あえてそれを無視しながら言伝をお願いする。役に立たなかったのは間違いないのだが仕方ない。あの格好で往来をウロウロしていたら捕まらないほうがどうかしている。今度は普通の恰好をしてもらわなければ。
「分かった。美柑とヤミちゃんもおはよう! ヤミちゃん昨日はどうだった?」
「おはようございます、プリンセス。大丈夫です。美柑にも良くしてもらっています。ですがプリンセス、そのちゃんづけは」
「? ヤミちゃんはヤミちゃんでしょ? 歳は近いんだし、友達なんだから! わたしのこともララちゃんでいいよ?」
「それは遠慮させてもらいます、プリンセス」
「えー? どうして?」
自分もちゃん付けして欲しかったのか、若干不満そうにしているララと普段と変わらずクールに振る舞っているヤミ。だが満更でもないのは自分にも分かる。美柑もそれがわかっているのか楽しそうに二人のやり取りを見つめている。うん、仲がいいのはいいことだ。そんなことを考えながらも大急ぎで朝食を終わらせ気配を消しながらリビングを離れんとする。目指すは理想郷であるトイレ。だが
「あ、リトどこに行こうとしてるの? まだ今日のとらぶる終わってないよ?」
おしゃべりが一段落したのか、それともやはり自分は逃げることはできないのか。こそこそしている自分に向かってララが気付き、近づいてくる。何のためらいもない動き。どうやらララにとってのとらぶるは自分とのスキンシップぐらいの認識でしかないらしい。
「い、いや……ちょっとトイレに行こうと思って」
「またそう言ってトイレに閉じこもるつもりなんでしょ? もう騙されないんだから! ほら、じっとしててリト。ちゃんとしとかないと学校でとらぶるしちゃうかもしれないでしょ?」
「それはそうだけど、きょ、今日はヤミもいるし」
「問答無用! えい♪」
最後の抵抗もむなしくそのままララはこちらに飛び込んできながらとらぶるに巻き込まれてしまう。くんずほぐれつしながらリビングを転げまわりむちゃくちゃなことになっていく。しかもそれだけではない。明らかにその激しさが増している。ヤミ風に言うならえっちぃさが増していっている。加えて
「っ!? お前、ララなんでノーブラなんだ!? この前美柑と一緒に買いに行ったはずだろ!?」
「え? だってあれ着けてると胸が苦しいんだもん。それにこの方がリトも触りやすいでしょ?」
「な、なにを言ってるんだ!? む、胸を隠せ! 丸見えになってるだろ!?」
「リトが脱がせたんでしょ? それに大丈夫、ちゃんとパンツは履いてるから! ほら、後二回だよ!」
ララの羞恥心のなさ。それが悪化の一途をたどっていること。自分のとらぶるのせいで胸が丸見えになっているにも関わらず気にせず突っ込んでくる。自分のことを全く男として意識していないのかと悲しくなりながらもとにかくこの状況を脱しなければ。美柑だけならまだしもこの場には新しい住人であるヤミもいるのだから。だが悲しいかな。自分はララには敵わない。身体能力的な意味で。要するに尻に敷かれる(物理的に)しかないということ。
「…………止めなくていいんですか美柑?」
「いいのいいの。いつものことだから。助けようとしても巻き込まれるだけしね」
お茶を飲みながらのどこか落ち着いている美柑の姿にヤミは汗を流すしかない。目の前ではリトとララのお見せできないような光景が広がっている。傍目には襲い掛かっているのはリトなのだが悲鳴を上げているもまたリト。ララはどこか楽し気にそれに巻き込まれている。
「何故プリンセスは怒らないんですか? あんなにえっちぃことをされているのに……」
「それはまあ……ララさんだから? そのおかげでリトもあたしも助かってるんだけどね」
「……? そうですか……」
ヤミの当然の質問。なぜララは怒らないのか。その答えもまた理解不能なもの。呆れながらも美柑もまたララに感謝しているらしい。ヤミにはなぜ感謝しているのかは分からないが。
そんな中、ヤミと美柑の視線があるものに注がれる。勢い良く弾んでいる大きな二つの果実。リトの手によって鷲掴みにされ形を変えながらも変わらないその存在感。
「…………大きいですね」
「…………ララさんだからね」
どこか遠くを見るような目でどちらからともなくそう呟く。互いに自らの胸元を見つめながら、奇妙なシンパシーを二人が感じている中
「ふう、スッキリした! これでもう大丈夫だよ、リト! 今また新しい発明品を作ってるからそれまではわたしに任せて!」
「…………できるだけ早くお願いします」
ようやくとらぶるが終わったのかララがどこか満足げに立ち上がる。対してリトはボロボロになって床に倒れこんだまま。どっちが襲われていたのか分かったものではない有様。
「そうだ、はいリト! これを渡すの忘れるところだった!」
「なんだこれ……? 手紙?」
「うん! 学校で開けてみて! きっと驚くから!」
思い出したようにララから手紙を受け取るも嫌な予感しかしない。もはや確信にも似た何か。
「……果たし状ですか?」
「何がどうなったら婚約者候補から果たし状もらうことになるんだ……」
興味深げに手紙を見ながらつぶやくヤミに突っ込むしかない。ララも大概だが金色の闇もまた常識から外れている部分がある。殺し屋であったのだから仕方がないのかもしれないが。
「とにかくそろそろ学校に行ってくる……遅刻しちゃうからな」
「行ってらっしゃいリト! でもいいなあヤミちゃん、リトと一緒に学校行けるなんて……ねえ、リト! わたしも一緒に行ったらダメ? ほら、ちゃんとペケに制服になってもらってるから大丈夫だよ!」
「どこか大丈夫なんだよ!? さっきみたいなことを学校でされたら退学になっちゃうだろ!?」
「むー」
不満げに頬を膨らませているがそれだけは譲れない。ララに恥ずかしい思いをさせる(本人はそう思っていないが)のに加えて家の中ならともかく学校でとらぶるを起こせば間違いなく退学ものだろう。
「……じゃあ行ってきます」
「行ってきます……」
「気を付けてね、リト、ヤミさん」
もう精根尽き果てたように疲れ切っているリトに続くようにヤミもまた美柑に見送られながら出発しようとする。今までの生活にはなかった慌ただしい朝。そんな中、ふとヤミは気付く。
「…………」
ララがどこか真剣な表情でリトの後姿を見つめていることに。先ほどまでの騒いでいた姿とは違う姿。
「プリンセス……? どうかしたんですか……?」
「え? ううん、何でもないの」
ヤミに話しかけられたこと少し驚きながらもララはいつものように笑顔を見せる。だがいつもとは違う、どこか憂いが混じったもの。それが何故なのかヤミには分からない。学校に一緒にいけないことが残念なのだろうか。
「……うん、ヤミちゃん、リトのことよろしくね!」
「? 任せてください、それが私の仕事ですから」
ヤミの言葉に安心したのかララもまたいつもの笑顔を見せながら大きく手を振り二人を見送る。首をかしげながらもヤミもまた学校へと足を向けるのだった――――
「はあ……」
ようやく家を出発することができたのにすでに疲れてしまっているのはどうしてなのか。ほぼ毎朝のことなのだがやはりまだ慣れることはできない。さらに登校することは自分にとっては楽しいことではない。正確には学校に行くこと自体がだが。しかし逃げても仕方ない。自分で決めたことなのだから。それはともかく
(や、やっぱりこうなるのか……)
今の状況のほうが心労が大きい。自分の後ろから付き添ってくるヤミ。流石は凄腕の殺し屋。きっちり三メートル以上の距離を取りながら自分を護衛してくれている。くれているのだがやはり心穏やかにはいられない。ずっと背中から見られている感覚があるのだから。
「な、なあヤミ。やっぱり登校中ぐらいは普通に」
「ダメです。いつ襲撃があるかはわかりませんから。これが私の仕事です」
「……はい」
取り付く島もない。本当なら一緒に並んで登校したいのだが横に並ぼうとすればどちらかが道路にはみ出てしまう。結果この状況。まるで犬の散歩のような有様。どちらが犬でどちらが主人かは言うまでもない。リードがないだけマシかもしれないが。
「どうしました、随分疲労しているようですが?」
「そりゃそうだろ……あれだけ騒げばな……」
「そうですか……お楽しみのようでしたが、少なくともプリンセスは」
「そうかな……ならいいんだけど」
「しかし男性にとってはああいった……えっちぃことは嬉しいことなのでしょう? そう考えれば貴方の能力……とらぶるも悪くないものなのでは?」
どこか淡々としながらヤミはそう尋ねてくる。知識として知っていることを口にしているような質問。確かにそれは間違いじゃないだろう。ヤミの言うえっちぃことは男性にとってうれしいことには違いない。それでも
「……そんなことはない。少なくても、オレにとっては」
その先に出かかった言葉を噛み殺しながら学校に向かっていく。ヤミが後ろから着いてきてくれていてよかった。今の自分の顔を見られなくて済んだのだから。
――――端的に言って、今の自分の任務は観察に等しかった。
今の自分の目の前の席には護衛対象である結城リトの姿がある。一見すれば特筆した点はないごく平均的な地球人の男の子。だが大きく二つ、特別な点があった。
一つが結城リトがデビルーク星の王女であるララ・サタリン・デビルークの婚約者候補であるということ。経緯は詳しく聞かされてはいないが両者合意の下で婚約者候補となっているらしい。既に現国王であるギドには面会し承諾されている。実際に婚約するのはまだ先らしいがほぼ確実。次期デビルーク王になる可能性が最も高い存在。そうであれば護衛がつくのも当然。だが疑問も残る。それはなぜ自分が護衛に選ばれたのかということ。デビルークの情報網であれば自分の素性も経歴も分かるはず。普通に考えれば護衛にはつけないはずだが何でもデビルーク王の勅命だったらしい。未だに疑問は尽きない。
もう一つが何もないところで転んでしまう、とらぶるという能力。ラッキースケベというらしいがプリンセスが名付けたらしい。自らの周囲三メートルの範囲に踏み込んだ標的を巻き込んでえっちぃことをする能力。頻度は一日に三回。四回目もまれに発動する。何故地球人である結城リトにこんな能力が発現しているのかは不明だがこの能力を何とかしたいと本人はもちろんプリンセスも考えているらしい。
特筆すべき点は以上の二点。それ以外には特に目立ったところはない。後はこの学校での安全性を確認する必要がある。一般的な知識として学校がどう行った場所で、どんな教育を行っているかは知っている。後は宇宙人である自分が地球人から怪しまれない程度にこの星での常識を身につけること。そして三メートル以上結城リトに近づかないこと。これに関しては結城リトからも念を押された。それに加えて学校では極力関わらないようにしてほしいと。
(なんだか釈然としませんが……いいでしょう。元からそのつもりでしたから)
プリンセスとは違いえっちぃことをされても平静でいられるほど自分は甘くはない。一応護衛である以上その標的を傷つけるのは正当防衛とはいえ褒められたものではない。なので結城リトの提案は渡りに船。そう考えていた。だがすぐにその言葉の意味を自分は理解することになる。
それは午前の授業が終わりに近づいて来た頃。ようやく気が付いた。結城リトの様子がおかしいことに。いや、正確には結城リトの周りの様子が普通ではないことに。
誰も結城リトに話しかけようとしない。
それどころかまるでいないものとして扱うかのように無視している。結城リトもまた誰ともしゃべろうとしない。クラスメイトが休み時間に楽しそうにしている中、結城リトは一人で過ごしているだけ。
その姿はまるで別人だった。家の中でプリンセスや美柑と騒いでいる結城リトとは似ても似つかない。全く笑うことなくただ淡々と勉強だけしながら過ごしている姿。
クラスメイトからはそんな結城リトの噂を聞かされる。結城リトはわざと転んで女の子にセクハラをしてくる。近づいてはいけない。きっと転校生である自分への助言だったのだろう。そこでようやく理解する。その全てが結城リトの能力であるとらぶるのせいなのだと。
それはちょっとえっちぃぐらいの能力だと思っていた。だがそれは大きな間違い。自分や美柑、プリンセスはそれが結城リトの能力だと知っている。けれどそれ以外の人にとってはそれは違う。いくら言ったところでそれが能力だとは地球人には理解してもらえないだろう。その結果がこれ。自分に関わるなといったのも自分を巻き込みたくなかったからなのだろう。
(度が過ぎるお人好しですね……ですが……)
よくわからない感情が生まれてくる。喉に何かが引っかかっているような感覚。別人のようになっている、学校での結城リトの姿。それを観察していることがなんだがイライラする。いや、結城リトにではなくその周り、環境に。同時にようやく気付く。今朝のプリンセスの姿と言葉。その本当の意味。
(……そういうことですか。流石婚約者候補なだけはあります、全部お見通しだったわけですね……)
結城リトをよろしく頼む、という本当の意味。きっとプリンセスは結城リトが学校でどんな風に過ごしているか知っていたのだろう。だから一緒に学校に行きたがっていた。でもそれができないから自分にそんなことを言ってきたのだと。
(…………仕方がありませんね。これも仕事のうちです)
そうあきらめながら席を立ちあがる。時刻はお昼休み。クラスは騒がしくなり各々に昼食を食べ始めている。結城リトもまた当然のように席で弁当を開けようとしている。一人きりで。
「あ、ヤミちゃんよかったら一緒にお昼ご飯食べない?」
「こっちにおいでよー。一緒におしゃべりしよ」
「……ありがとうございます。でも先約があるので」
転校生である自分に向かって食事の誘いがあるが丁重にお断りする。気持ちは嬉しいが今の自分にとってはこちらのほうが重要だった。
「……何をしているんですか、結城リト」
「っ!? や、ヤミ!? なんで話しかけて……っていうか近すぎるって……!?」
いきなり自分が話しかけたからか、それともとらぶるの範囲に近づいてきたからか。見ているこっちが笑ってしまうほどに慌てている姿を見ながら思う。やはりこっちの方が結城リトらしい。
「何を驚いているんですか。お昼ご飯を食べるので屋上に行きます。着いてきてください」
「え? なんで屋上に……?」
「そのほうが護衛しやすいからです。さっさとしないと
「わ、分かった! 分かったから離れてくれ!?」
自分の誘いという名の脅しに驚きながらあたふたと結城リトは自分の後を着いてくる。朝とは真逆の光景だがこれもそう悪くないだろう――――
「いただきます」
そう言いながら自らの弁当箱を開けて昼食を始める。場所は屋上。しかし一人ではなくもう一人この場にはいる。金色の闇という自分の護衛。なのだが何故か彼女は自分の頭上。貯水タンクの上で昼食を採っている。無言のまま黙々と。
(なんで屋上になんかに……っていうかパンツが見えてるんだけどいい加減言うべきだろうか)
相変わらず下着が丸見えなのだが指摘する勇気がない。自分が見ないようにすればいいだけかと言い訳しながらもどうしたものかと悩んでしまう。この状況。ララとは違う意味で自分を振り回してくるヤミに困惑するしかない。
「食べないんですか、結城リト?」
「い、いやそうじゃないんだけど……」
急かされながらお昼ご飯をたべるが味が全く分からない。美柑が作ってくれているので味は間違いないのだがこの状況のせいだろうか。ヤミと一緒に学校で食事をすることになるなんて想像していなかった。そもそも
(あ…………そういえば……)
そこでようやく気付く。自分がここまで連れてこられた理由。その答え。
「……? どうしました?」
「いや……そういえば学校で誰かと一緒にご飯食べるなんて久しぶりだったからさ。ありがとな、ヤミ」
「っ!? た、たまたまです。騒がしいところよりここの方が護衛しやすいですから」
そんな護衛思いの小さな少女に感謝するも残念ながら顔をあげることはできない。それでもきっと照れているのは間違いない。短い付き合いだがそれぐらいは分かるようになってきた。
「それから……謝っておきます。朝はすみませんでした。貴方の事情を知らずに失礼なことを言ってしまって」
「失礼なこと……?」
「とらぶるも悪くないだろう……と言ってしまったことです」
「ああ、そんなことか……気にしないでくれ。自業自得な部分もあるし……」
昼食が終わった後、どこか歯切れが悪い様子を見せながらヤミが突然謝ってきたので驚くがようやく気付く。どうやら朝自分に言ったことを気にしていたらしい。表には出さないが本当に優しい娘なんだなと分かるほど。本当に殺し屋なのかと疑問を抱かずにはいられない。
「そうだな……じゃあヤミのこと教えてくれないか?」
「私のこと……ですか?」
「オレ、ヤミのこと全然知らないし。それじゃ不公平だろ? それで朝のことはなしってことで」
「…………忘れていたくせに、意地が悪いですね結城リト」
ようやくヤミから一本取ったとばかりに喜ぶがヤミにとっては屈辱であったらしい。だが観念したのかぽつりぽつりとヤミは自分のことを話し始める。その生まれ、境遇。生体兵器としての自分。殺し屋としての生活。
「……ごめん、軽々しく聞いたりして……」
「構いません。いつかは話さなければいけないことでしたし……私も貴方の知られたくないことを知ってしまったんですからお互い様です」
想像をはるかに超えるヘビーな内容に地雷を踏んだかと戦々恐々とするもヤミは特段気にした様子はない。こちらを気遣っているのか、本当にそう思っているのかは分からないが。
そうこうしている間にいつの間にか放課後が近づいてくる。お昼休みはとっくに過ぎ、授業はサボってしまったがたまにはいいだろう。きっとヤミとこうして話ができたことのほうが価値があるはず。
「そういえば、どうしてオレのことフルネームで呼ぶんだ?」
「? 特に理由はありませんが。それが何か?」
「いや、やっぱり名前で呼んでくれたほうがいいかなって思って。みんなそう呼ぶし」
「…………」
ずっと思いながらも聞けなかったことを尋ねる。何故かヤミは自分のことをフルネームで呼んでくるのか。残念ながら特に理由はないようだがならできれば止めてほしい。そんな呼び方をされるとなんだか体がぎょっとしてしまうから。もしかしたらヤミに呼ばれているからぎょっとしてしまっているのかもしれないが。だが
「……嫌です」
「え?」
「ですから嫌です。この呼び方に慣れてしまいましたから。お断りします」
「な、何だよそれ!?」
そんな自分の心情を察したのか、さも当然のようにヤミに拒否されてしまう。取り付く島もなさそうな有様。
「そうですね……なら
「
「貴方は私の護衛対象ですので間違いないとおもいますが……雇い主はデビルーク王ですが将来的には貴方がその跡を継ぐようですし、そうなれば護衛ではなく、親衛隊になるかもしれませんね」
「し、親衛隊って……そんな馬鹿な話が……」
ヤミの冗談のような話を聞きながらも決して冗談では済まない提案に顔を青くするしかない。主人なんて呼び方されたら周りにどう思われるか。それ以前に自分がデビルーク王の跡継ぎだと思われている現状に戦慄するしかない。
「でもそれって……まだしばらく護衛を続けてくれるってことか……?」
「……仮定の話です。もし貴方が死なずに生き残れればの話ですが」
護衛の言葉とは思えない言葉に苦笑いするしかない。もしかしたらそれまでに自分を殺すという隠れたメッセージなのではと勘ぐってしまうほど。
「そうか……それと
「分かりました、
全くこっちのことはお構いなしにからかってくるヤミにうんざりするしかない。こんな性格だとは思っていなかった。もしかしたらこちらのほうが素の顔なのかもしれないが。
「あ、そういえばまだ手紙を読んでなかったな」
「手紙? ああ、プリンセスが朝渡してきたものですか」
ポケットに手を入れたことでようやくそのことを思い出す。すっかり忘れていた、忘れていたかったもの。だがいつまでも放っておくわけにはいかない。意を決した開いた中には便箋が一つだけ。
「…………」
「……? 何が入っていたのですか、結城リト?」
固まっている自分の横から興味がわいたのかヤミが顔を覗かしてくる。本当なら近づくなと警告するところなのだがそんな余裕はない。便箋の内容は至ってシンプルだった。
『夕食を食いに来い。来なかったら地球をツブす』
デビルーク王からの分かりやすい、これ以上ない招待状。冗談であってほしい脅し文句付き。
石化しながらも再び結城リトはまともな思い出がほとんどないデビルーク星へ出発することになるのだった――――
作者です。第七話を投稿させていただきました。
まずは謝罪を。本当ならこの話でデビルーク星へ舞台を移す予定だったのですが量が多くなってしまったので分割することにしました。申し訳ありません。
今回は主にリトと金色の闇の交流がメイン。これで大体ヤミの立ち位置がわかっていただけたかと思います。原作よりは少し子供っぽい感じになるかもしれません。護衛というある意味リトと最も近い位置にいることになるのでその影響です。
ヤミのリトへのマスター呼びはメアのネメシスに対する呼び方のオマージュです。もちろんその意味合いは随分違ってきますが、同じ境遇のつながりということで。
次にララについて。ヤミが気づいていたようにララはリトが学校でどんな生活をしているかを一度隠れて見ていて知っていました。それをどうにかしたいと思い、転入したいと考えていましたがリトが許してくれないため護衛のヤミにそれをお願いした形になります。もっとも半分以上は自分がリトと遊びたいのが本音でしたが。
少しテンポが遅くなっているかもしれませんがお付き合いくださると嬉しいです。また読者の方の好きなキャラクターを教えてくださると助かります。少し参考にしたい部分もありますので。では。