Fate/kaliya 正義の味方と桜の味方【完結】   作:faker00

20 / 45
エタってはいないです(小声)


第19話 遠い記憶〜後編〜

 

「……円卓の騎士と言う俺の予想は見当違いも良いとこだった、ってことか……」

 

 アーチャーに通されたのはあまりにも普通すぎる客間、座敷に正座する雁夜は自分でも驚くほどに冷静だった。

 

「未来のサーヴァントなんて誰が信じられるかこんちくしょう」

 

 否、それは一周廻って冷静に見えただけだった。

 内心は今までで例を見ないほどにごちゃごちゃ。言うならば具材を珍味のみに限定した闇鍋のような状態である──何を言っているのか分からない。そんな感じ。

 

 それだけアーチャーの告白は冒頭の一撃のみで雁夜の常識と平静をいとも容易く抉り取った。

 自らが未来のサーヴァントであるという桁外れの宣言、加えて雁夜が守ろうとしている桜、そして凛の知人だと言われればもう空いた口が塞がらない……塞がるわけがない。

 当の本人が慣れ親しんだ我が家と言わんばかりに慣れた手つきでお茶を入れているのだが、その姿が雁夜からすれば妙に腹だたしいくらいである。

 

 

 

「全く、いつまで呆けているつもりだ君は。ほれ、茶だ。これを飲んで少しは落ち着くが良い」

 

「誰のせいだと思ってる……こんなん前代未聞だぞほんと」

 

 いつの間にかお盆に湯呑みを乗せ戻ってきたアーチャーが呆れたようにそれを一つ雁夜の前に置く。

 それに対する雁夜は言い返すが、その抵抗は非常に弱々しい。

 

「それについては事実であるし認めよう。しかしだ、英雄とはこれまでの過去如何なる時代にも生まれてきた存在だ。むしろこれから……この時間から見て、の話だが。

 一人たりとも英雄が現れない、という方がむしろ不自然だろう? まあ私は英雄なんて大逸れた存在には全く及ばないがな」

 

「あーオーケーオーケー。分かった。考えてることはお見通しってか」

 

 雁夜の疑問その1は何を言うでもなく潰された。

 確かに道理は通っている。確かに神秘が薄れている現代ではそうそう現れないかも知れないが、これから先英雄という存在がこの世に出てこないという方がおかしいと言えばおかしい。

 そして聖杯戦争が"英雄"を呼び出せるのなら何もそれが過去からとは限らないと言うわけだ。

 

「話す事が多い上に、君の常識など軽々と吹き飛ばしかねないものばかりだからな。一々先程のようになられても困る故に、なるべく単刀直入にいかせてもらう……もちろん基本的には君の疑問に答えるメインになるがね」

 

「──」

 

 今更何が出て来ようがそうは驚かない。雁夜は湯呑みに口を付けた。

 

「分かった。じゃあまず1つ。お前の知ってる2つの聖杯戦争。その結末は一体どうなる? そして間桐や遠坂の家は……」

 

「やはり1番はそこだろうな」

 

 予定通りと言う風にアーチャーも雁夜の前に卓袱台を挟んで座り込む。

 

「先に言っておくが……この第四次聖杯戦争の起こる年、シロウと言う少年は齢10の一般人だ。当然オレとてそれに変わりはない。つまり直接戦っている訳もない。

 ここから話す事はあくまで伝え聞いた伝聞になる。それに加えてオレという存在がアーチャーのクラスに陣取り、本来いたはずのアーチャーは消えている。この時点でオレの知ってる聖杯戦争とこの聖杯戦争は全くの別物であり、結末もなにもかも、あくまで参考程度にしかならないだろう。それだけは理解したうえで聞いてくれ」

 

「構わない。教えてくれ、アーチャー」

 

「ではまず結末を述べよう。この戦い、最後まで生き残ったのはセイバー、衛宮切嗣。そして本来のアーチャー、英雄王ギルガメッシュと言峰綺礼だ。この二組が聖杯をかけた最終決戦に臨むことになる」

 

「そうか……」

 

 雁夜は少なからず落胆した。

 当然である。それは間接的に別の時空軸の間桐雁夜の敗北も意味しているのだから。

 

「そして最後の激突。姿を現した聖杯を目の前に行われたらしいが……ここで何が起きたのか、細かくはオレにも定かではない。が、1つだけ言えることがある。聖杯は破壊され、そこから噴き出した泥によって冬木の地は地獄と化したと言うことだ」

 

「はあ!?」

 

 もう大抵のことは驚かないだろうと思っていたはずの雁夜だが、思わず茶を吹き出し咽る。

 

「げほっけほ……! なんだそりゃアーチャー!」

 

「気持ちはもっとも。だがしかし、これが事実だ」

 

 対するアーチャーはというと無表情そのもの。その淡々とした姿が、雁夜にこの話が紛れも無い事実だと言うことを突きつける。

 

「君はオレの記憶を覗き見ただろう? なら真っ先に見たはずだ。地獄を、救われた者の景色を」

 

「それは……」

 

 言葉に詰まる。その言葉の指し示すものを、確かに雁夜は見ていた。

 

「じゃあこの戦いの先には何も無い、お前はそう言いたいのか?」

 

「──それは分からない。聖杯そのものに問題があったのか、それとも最後に何者かが消え行く聖杯に祈った結果なのか……オレの記憶が摩耗して当てになるのはほんの一部なのに加えて、先程言ったようにこの聖杯戦争とオレの聖杯戦争は別物。その運命の輪が狂ったのが今よりずっと前と言う可能性も否定しきれない」

 

 珍しく迷ったように慎重に言葉を選んだアーチャーの言葉は、これまた珍しく結論が不明瞭なものだった。

 

「すまない。今のオレは、大切な家族の思い出すら引っ張り出すのに苦労する有り様だ。だが、それでも必死に守ってきたんだ」

 

 とりあえず言えることは、全てを見通しているんじゃないかとさえ思わせられたアーチャーも元は同じ人間で、同じように苦悩や苦心をしてきたのだということ。

 

「分かった──どちらにせよ勝たなきゃ何も始まらない。とにかく俺も聖杯が伝え聞くような素晴らしい代物じゃないかもしれないって言う事は頭において戦う。それでいいか?」

 

「ああ。勝たないことには我々には選択権すらないからな。そうするしかないだろう」

 

 アーチャーの言葉は自明である。つまるところ、未来を予測するなど不可能なのだ。

 

「じゃあアーチャー、次は未来の話だ。こんなことじゃいけないんだろうけど、ぶっちゃけ俺からしたらそっちの方が気になる……特に桜ちゃんと凛ちゃんが家族とかいうくだりが」

 

「素直なのは美徳だが、過ぎるというのも問題だぞ……まあ良い。この際久し振りに想い出話とやらでもさせてもらおう」

 

 いつになく穏やかな表情で目を瞑るアーチャー。

 そして紅き弓兵は、一人の少年へと舞い戻る。

 

 

 

 

「あの頃が……シロウという人間の一番幸せな時間だった」

 

「10年前の第四次聖杯戦争。先程も言ったようにその結末は悲劇だった。オレも例外ではない。ここで一度シロウと言う人間は死んだんだ。家族とか友人とか、そんなものも全て失くして空っぽになった。そして抗うこともなく、そのまま短い生涯を終えるはずだった」

 

「が、奇跡というものは確かに存在するらしい。何もかもが失われた焦土の中、俺は救いあげられた。そこからそれまでのシロウとは違う、新しいシロウとしての人生が始まったんだ」

 

 苦しそうに、それでいてどこか幸せそうに、アーチャーは語り出す。

 

「俺を救いあげてくれた親父は……何とも説明しがたいが、面白い人だった。大真面目な顔して自分の事を"僕は魔法使いなんだ"なんて自己紹介してきた時は、思わず笑ってしまったものだ……まあ実際のところは魔術師だったんだが」

 

「なるほど、そこからこっちの世界に踏み込んできたわけか……ちょっと待て、この街に魔術師なんて」

」←×

 

「いや、遠坂でも間桐でもない。オレの親父は所謂野良のようなもの……遠坂、間桐の両家は聖杯戦争の被害で既に死に体だったらしい。後に聞いた話だが、遠坂家に至ってはその頃から凛が当主を務めていたらしい」

 

「はあ!? 凛ちゃんはまだ6だぞ! そもそも葵さんはいったい──」

 

「細かい内容は知らん。だがそれで遠坂家が滅びていないと言うことは、その判断は決して間違っていなかったということだろう──ついでだから言っておくが、オレが遠坂葵の存在を知ったのはここに来てからだ。生前は会ったこともないし、聞いた事もない」

 

「な──」

 

 衝撃に次ぐ衝撃。アーチャーの義父が魔術師だったと言う事も本来とても重要な内容だった筈なのだが、その事実があっさりと吹き飛んでしまうほどに。

 

「それは……まさか……」

 

「確証はない。だが恐らく君の想像通りだろう。私の世界線における遠坂葵はこの聖杯戦争の最中に命を落とす。そして唯一残されたリンは天涯孤独の身となる」

 

「────」

 

 思いつく限り最悪の結末をアーチャーは事も無げに肯定し、雁夜は絶句した。

 

「続けるぞ。その後数年、オレは自らを救ってくれた魔術師の養子となり、この屋敷に移り住んだ。その過程で親父は渋ったが、頼みこんで何とか魔術を教えてもらい、魔術師もどきみたいなものになった」 

 

「──? なんでさ。魔術師ってもんは普通自らの魔術を後世に残したがるものなんじゃないのか?」

 

「珍しい人だったんだ」

 

 魔術を次世代に繋ごうとしない魔術師など聞いたこともない。首を傾げる雁夜の疑問にアーチャーは苦笑した。

 

「色々と破天荒な人だったし……魔術の鍛錬を許した後も、オレによく魔術師じゃなくて魔術使いになれー、なんて言ってたな」

 

「──」

 

 雁夜は何となく察した。英雄なんていう規格外な存在は、その環境から既に常人からは離れているのだと。

 少なくとも目の前のアーチャーもそう。所謂英才教育なんてものではないかもしれないが、尋常な魔術師ではまず経験出来ない所にそのルーツがあったのだ。

 

「で、その後は? お前の口ぶりだとその魔術師と一緒にいたのは数年だけだったみたいだけど」

 

「ああ、だいたい5年くらいだったかな。親父は亡くなったよ。幸せそうな死に顔だったのは今でも覚えている──そして数年の時を経て、オレは桜に出会う事になる」

 

「なるほど」

 

 雁夜は平静を保ちながら頷いた……はずだった。

 現実には桜というワードが聞こえた瞬間露骨に身を乗り出していた。雁夜自身にそんなつもりはない。ただ反射的にそうなってしまっただけ──当の本人は全く気付きもしないのだが。

 

「間桐慎二は知っているか? オレとあいつは同い年でな。中学生の頃には悪友と言える関係になっていた」

 

「慎二君とも繋がっていたのかお前は」 

 

 雁夜は数度しか顔を合わせたことのない甥っ子の姿を思い出す。あまり印象には残っていないが、少なくとも身内ではある。

 

「私もほとんど顔は思い出せないがな。まあその中で慎二はこの家にも時々遊びにきていたんだ。その時にあいつの後ろにくっついて来たのが桜だったんだ……とまあここは省略しても良いだろう? いつになっても話が進まん」

 

「まあとりあえず馴れ初めは分かったからな……続けてくれ」

 

「そうさせてもらう。桜と知り合ってから更に数年。その間に桜は段々と心を開くようになり、高校生の頃には家に居るのが日常みたいになっていて……本当に幸せな時間だった。

 オレは遂にあの日を迎えた。そう、聖杯戦争が開幕したんだ」

 

「オレはあの日、確か生徒会の手伝いか何かで夜まで学校に残っていたんだ。それがオレの運命を良くも悪くも大きく変えた」

 

「あそこにある土蔵が見えるか? サーヴァント、まあ今回の戦いにも喚び出されているランサーなんだが。オレはあそこでやつに襲われた。一級品のサーヴァントと魔術を齧った程度の高校生、戦った所で結果は目に見えている」

 

 アーチャーの言葉が何を指しているかは明らかだ。シロウと言う人間は間違いなく殺される。それが絶対の事実。

 

「因みにそいつとの遭遇は2度目、1度目はあたりまえのように殺された。数時間で2度も同一の存在から死の恐怖を味わうなんて馬鹿げているにも程がある」

 

「は?」

 

 吐き捨てられたよくよく考えてみると訳の分からない言葉に雁夜は一瞬フリーズする。が、アーチャーにそこを詳しく説明する気はないらしくそのまま続ける。

 

「襲われた際に偶然にもセイバーを召喚したオレは奇跡的にランサーを退け、それと同時に聖杯戦争と言う血塗られた闘いに否応無しに巻き込まれる事になった。後は分かるだろう? リンという少女は何処までも厳しいくせにそれ以上にお人好しでな。オレみたいなど素人を放っておくのは主義に反するらしく、気づいた時にはオレの師匠のような存在になっていた」

 

「なんでだろーなー……全然分かるはずがないのにすっごい懐に落ちてくるこの感じ」

 

 10年後の遠い未来。

 何故か脳裏にふっと浮かんだのは、完璧という武装を施したあかいあくまの姿だった。

 それがなんなのか、雁夜には知る由もない。

 

「リンがいなければ、オレがあの聖杯戦争を生き残るなどまず出来なかっただろう。いかにセイバーが最高峰の英霊と言えど、それだけで最後まで残れるほど甘くはない……彼女には本当に感謝している」

 

「なあ、その最高峰のセイバーって言うのは……」

 

「無論、今回のセイバーだ。オレ、というよりも君は運が良いぞ雁夜。最初の闘い、本来の実力差ならオレがあそこであっさり敗退したところでなんの不思議もなかった。それを覆せたのは、彼女等にとって初見であってもオレにとっては経験済みという本来有り得ない偶然故にほかならない」

 

 それを狙って、というかそうなる確信を持ったうえで打って出たという事実は伏せて、変わりにアーチャーは"運"という曖昧で薄っぺらい言葉でまとめて笑う。

 運が良い、それは崖っぷちの闘いにおいて時に最後に天秤の行く末を変えることさえある。

 これはちょっとした暗示のようなもの。その想いに雁夜が気づくことはない。

 

「お前ってほんとイレギュラーなやつなんだな、アーチャー」

 

「ああ、それについては否定のしょうがない──もうこんな時間か」

 

「夕日……? いつの間に」

 

 縁側から差し込む穏やかなオレンジが雁夜とアーチャーの顔に当たり、それが合図かのように二人とも力を抜いて姿勢を崩す。

 

 有意義な出来事に対する時の流れは残酷なまでに速い。

 

「直に日が暮れる。そろそろお開きにすべきか」

 

 何とも言えない沈黙。先に動いたのはアーチャーだった。 

 

 かつてのマスター、シロウという人間として今話すべきことは全て話した。後は英霊アーチャーとしての使命を全うするまでだと。

 暖かく、輝かいていた想い出に蓋をするように陽の光が射し込む襖を閉める。

 そしてその顔が一瞬影に紛れ再び見えたその時、雁夜の目に先程までほんの少しだけ見えていた面影は消え失せていた。

 

 あるのは冷静沈着な戦士、弓の英霊アーチャーとしての姿だけ。

 

 

 

「そうだな」

 

 その姿にどこか一抹の寂しさを覚えながら──なぜそんな感情を覚えたのかは雁夜自身わからない──名残惜しくも立ち上がる。

 

 これからまた夜がはじまる。その時に必要なのは、幸せな毎日を送るシロウではない。修羅を潜り抜けてきたアーチャーなのだ。

 

「どこか見ておきたいものとかないのか?」

 

「ふ、君に気を遣われる日が来るとはな。心配せずとも大丈夫だ。再びこの家に来れただけでも私は満足している」

 

「そっか……オレって呼び方するお前、結構しっくりきてたんだけどな」

 

 その時、後ろを歩くアーチャーがどんな表情をしていたのかは分からない。

 無言のまま玄関を出る。薄暗くなり始めた空が今日の終わりを告げ始めていた。だがマスターの1日はここから始まる。

 何か生活が昼夜逆転している学生みたいだ。

 そんなくだらないことを考えながら雁夜とアーチャーは並んで屋敷を後にし──

 

「──は?」

 

「これは……!」

 

 微かに揺れる大気に顔を見合わせた。

 

「おい、これって」

 

「ああ、間違えるはずもない。ちっ……まだ生きていたか。しかもこれだけ派手に魔力を撒き散らしおって一体なにをしている……!」

 

「「キャスター!!」」

 

 

 夜は、非情にも訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 




祝、カープ優勝!!!最近執筆放り出して野球ばっか見てました!!!……ここまで遅くなったのは反省してます。ほんとです

ではでは!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。