Fate/kaliya 正義の味方と桜の味方【完結】 作:faker00
「おお……リューノスケ。私では貴方を救うことが出来ないというのですか……」
そこに陽の光は届かない。
もう何年も前に遺棄された廃墟の中でキャスターのサーヴァントは涙を流した。
尽くせる手は全て尽くした。だが自らが蓄えた魔導は人を殺め、弄ぶもの。その対極にある救う事など出来るわけがない。
自らの腕の中で徐々に衰弱していく相棒を救えないと言う事実にはもう抗いようがなかった。
「なーに湿気た面してんのさ旦那……今の旦那、ぜんっぜんクールじゃないぜ」
「リューノスケ!!」
そんなキャスターの弱気を見透かしたかのように、これまで数時間昏睡していたはずの雨竜龍之介が目を開け、いつもと変わらず楽しげな笑みを零す。
実際その瞳にキャスターは映っておらず、視界は何もかも靄がかかったかのように霞んでいるのだが。
「いやー……まさかこんな早く死ぬ事になるなんて思わなかったけどさー……俺的にはこんな結末も悪く無いと思うぜ? ほら、花火とか蝋燭でよく言うじゃん? 消える間際が1番輝くって……げホッ……あれって実は人間も同じでさ、すげえ綺麗なんだ。そんでもって今消え行く俺にとってのその輝きがいつかって考えたらさ、旦那と過ごしたこの数日になるわけだ。
なあ、これって最高じゃね? 神様ってやつがさ、俺等の日々をさいっこうにCOOLだって認めたようなもんじゃないか」
「もういい! しゃべるなリューノスケ!」
最期の輝き。自らが死の運命を受け入れればそこからはもう一直線。
誰よりも人の死に触れてきたキャスターだからこそ分かること。それを振り払いたくてキャスターは龍之介の言葉を遮る。
「いいや、黙らないね。俺は最期まで楽しく好きに生きるんだ……つーわけで旦那。これが最期のお願いってやつだ」
「──」
「俺が死んだらさ、その弔いとして今までにないCOOLを見せてくれよ。世界中の皆が旦那に喝采しちゃうようなさ。1つ、何よりも派手に、2つ、何よりぶっ飛んで、そして3つ……何よりCOOLにさ」
「分かりました……」
もうキャスターに彼の頼みを聞く以外の選択肢などある訳もない。
顔を上げて前を向く。そして高らかに宣言した。
「約束しましょう、リューノスケ。私と貴方のさいっこうのCOOL。必ずやこの手で」
「それでこそ旦那だ……じゃ、俺は空の上の特等席から見させてもらう……よ……」
龍之介の身体からスッと何かが抜ける。目に見えないそれが魂であり、命と呼ばれるものなのであろう。
それを見届けた後、キャスターは立ち上がる。
「今こそ、我々のCOOLを」
幸せそうな死に顔を浮かべる龍之介の手から3つの令呪が消えていた事に気づいたものは、誰もいなかった。
─────
「一体何だって言うんだあれは!?」
「分かりませんよ! ただ言えることは、今俺達は光の巨人の出てくるテレビ番組の地球防衛軍待ったなしの状況ってことだけです!!」
「くそっ! ならもっと不時着の訓練でもしとくんだったな! ああいうのに出てくる連中の不時着テクは米軍のエリートでも真っ青になるレベルだからな!!……避けろお!! 小林ぃいい!!」
異常を捉えたのは英霊ではなく、人間もだった。未遠川に何かがいる。まるで特撮の世界の怪獣みたいだがなんなのだろう? イベントか?
情報は瞬く間に広がり、冬木近くにある自衛隊基地にまで届くまでそう時間はかからず、その異常性に言葉半分ながらも哨戒中の自衛隊機を二機向かわせるまでに至ったが、管制からパイロットへの指令も半ば困惑気味だったという。
まるで冗談のような指令を受けたパイロットのうちの1人、航空自衛隊所属仰木一尉のその時の心中は言うまでもない。
こんなふざけた事に駆り出されるくらい平和なら、日本もまだまだ捨てたものじゃない。
そんな風に、日常を噛み締めていた──
「管制!! 相手は本当の化物だ! 至急応援を!!……このっ…! なんで繋がらない!」
──つい先程までは。
整理しよう。要請を受けて哨戒中の瀬戸内近海から未遠川に飛んだ仰木、そしてその部下である小林が見たのは、通常時なら日本の名風景100選やら何やらに選ばれる碧く雄大なそれではなく。絵の具をごちゃまぜにした様な気持ちの悪い紫と、その全体を覆うように充満するガス群、そして……その中央に鎮座する地獄の番犬のごとき異形。
からかって近付いたりしなかったのは懸命だったと言えるだろう。誰だってまさかそれが"戦闘機のポテンシャルに匹敵する速度の触手"を持ち、更に"明確な敵意"を持って襲い掛かってくるなど予測できるはずがないのだから。
待ったなしの
「ディアボロⅱ、火器類はどうだ!? 一個ぐらい効果有りそうなのはないか!?」
「ダメです! バルカンは疎かミサイルも呑み込まれてます!!」
「くそっ! なんてこった!!」
通信機から響く小林の悲痛な声に仰木は急上昇で一旦怪物の射程外に逃れると、拳を腿に叩きつけた。
雲の上はいつもと変わらず平穏だ。だが今はその平穏すらも仰木の心を逆立てる。
「ぐおお……!」
目の前の雲が弾けた、と思うとその中から垂直に見慣れた銀色が突き抜けた。最先端のF15戦闘機が命からがら何も出来ずに撤退を余儀なくされる。悪い冗談でしか無いと心の中で毒づく。
「そろそろ死にますよまじで!」
「そんなことは分かっている……だが!」
「一般人が騒ぎに押し寄せ始めてる。あんなもん現実だとは思えないですもんね」
「そうだ。今はこちらに注意を引きつけているからまだいいが、もしあれが一般人を襲い始めたら」
「死者云百……いや、千人は堅い……」
「分かるな? 撤退は出来ん。何としてでも援軍が来るまで俺達があいつの気を引き続ける。そうしなければ……大変な事になる」
出来ることなら小林の提言通り一度退却し、自衛隊の総力を結集して迎え打たなければならない相手だ。それは嫌と言うほど分かっている。
しかし仰木にはその判断を下せない理由があった。
あまりの非現実は恐怖という感覚を麻痺させる。今や未遠川周辺には何も知らぬ呑気な市民が押し寄せている。
もしかすると、今もまだこの状態をショーか何かと勘違いしているかもしれない。
それなら最悪だ。今ここでこの場を離れれば、彼等は何も分からないままその生涯に幕を降ろすことになるだろう。
「けど通信も通らないのに援軍なんて来ますかね?」
「俺たちが戻らなければ異常に気づく者もでてくるはずだ。それを信じて待つしかない」
「なかなかの勝算っすね……それまであの化け物との追いかけっこに逃げ切らないといけないとか」
「全くだ。だがやるしかない」
小林の皮肉に仰木は真顔で返す。
自衛隊である以上、国の為に命を張る覚悟は常日頃からしてきていたつもりだった。しかしいざ直面するとなると、身にかかる圧力は別物である。
「そろそろ行くぞ。例え今効いていないとしても攻撃の手は緩めるな」
「了解。それじゃあ……またこうやって話するまで死なないでくださいね!」
「お互い様だ! ディアボロⅰ、ディアボロⅱいくぞ!」
それを振り払うように機首を真下に向けたF15は、驚異的な加速で音速に達し、更に唸りをあげる。
吐き気を催す紫。怪物の荒れ狂う巣に正面から突っ込む。
「くらえぇぇ!!」
こちらに気づいて伸びてくる触手をきりもみしながら躱しトリガーを引く。
散弾の嵐が吹き荒れる。なにせ20mm口径の鉛玉が秒速1000mの速度で毎分6000発の密度を持って射出されるのだ。それも2機同時に。
意味も無い過程だが、もしもそこに人がいたなら、跡形も無くなるまでに5秒とかからないだろう。
だが、それだけの数の暴力を以ってしても化け物には届かない。
「散開! くっそお……いったい何なんだこいつは……あれ?」
全弾命中も効果なし、まるで食われたかのように緩やかに呑み込まれていく。わかりきった結果を見届けると仰木は機体を水平に制動し、小林とは逆方向に飛んだ。
現在の高度は数m、機体に貫かれた空気の壁が水面を蹴散らす様子もくっきりと見える。
「人……? そんなバカな」
そこで仰木の視界に入ったのは、信じられない光景だった。
人影が2つ、怪物に向かって突っ込んでいく。それどころか、その姿に反応した化け物の触手、自衛隊の最新機体を導入しても傷一つつけられなかったそれをやすやすと切り裂いている。
ありえない。いよいよ恐怖で幻視が見え始めたか、情けないったらありゃしない。
仰木は自らを鼓舞する。
そんな都合の良いことあるはすがないのだ。人は川を歩けないし、もしもそんなことが出来たところであの化け物と闘えるなど有り得ない。
だから今の見えたものは気の迷いだ。そうに決まっていると仰木は被りを振って再度旋回し化け物と正対する。
今この死地で大衆を守れるのは自分達だけだ。そう気持ちを奮い立たせ……
「見間違いじゃ……ない!?」
改めてその姿を捉えた。
近づいて行くとよりハッキリする。触手が数本一箇所に集中し、何かを蹴散らさんと暴れている。だがなんということだろう、蹴散らされているのは触手の方、さらになんとその中心にいるのは紛れも無い人間だった。
「そんな……そんなことがあるわけが!!」
「仰木さん! う、牛が!」
にわかにその事実を認められず、混乱しながらもトリガーを引き続ける仰木に今度は小林の仰天したような声が響く。
「どうした!?」
「分かりませんよ! そっちからは見えないと思いますけど、なんか牛が二匹空を飛びながら電撃を撒き散らしてて、化け物を攻撃しているんです!」
「はあ?」
混乱している人を落ち着かせるにはどうするべきか? 色々な方法があるが、1つ確実なやり方がある。それは、混乱している相手以上の混乱を演じる事。
そうすると、逆に相手は落ち着くのだ。
もちろん小林はそんな大層な考えのもとに発言をしたのではない。本当に見たからそう言ったのだ。
しかし見ていない仰木からすればそれはもはや夢物語の領域の話であり、そのハチャメチャっぷりに今しがた混乱していた自らの感情がすっと落ち着いていくのを自覚した。
「あー……小林、とにかく一旦落ち着け。一度合流するぞ」
「信じてないですね!? ああ分かりましたよ! そっち行くから待っててください! なんかこの牛も着いてきそうな感じですし!」
そんな仰木の対応にイラッと来たのか小林からの通信は乱暴に打ち切られ、数秒もしないうちに化け物の影からその機影が姿を表す。
そしてその更に後ろから見えた影に仰木は飛び上がらんばかりに驚愕した。
「まじ……かよ……」
雷が光轟く。問題はそれがどこから発せられているかだ。雷は横に伸び化け物を貫く。
当然発生源は空でも雲でもない。空中を颯爽と駆け、小林の機体と併走する2頭の牛。間違いなくそこから発せられていた。
「SF映画の世界にでも迷い込んだのか俺は……」
「仰木さん! 危ない!!」
「あ……」
衝撃的な光景に仰木の集中が一瞬化け物から離れてしまった。
その事実に仰木が気づいたのは、切羽詰まった小林の警告が聞こえてからだ。
右を向く。迫る触手、ここから撃ち落とす装備などなく、振り切ることも不可能。ここから打てる手立てなどなく、結末として待つのは死あるのに。
「うわああぁぁ!!」
自らの逃れられない運命を理解してしまった仰木は目を閉じて絶叫した。
もう何も出来ない。死ぬ時はいたくないのか? 俺は天国に行けるのだろうか?
そんなことを考え、最後に家族の姿が脳裏を過り──
「いや」
「嫌だと言うなら最後まで目を閉じるな」
頭上から響いた男の声と、突如巻き起こった爆風によって機体がジェットコースターのように揺れる感覚で我に返った。
「え……」
仰木は自らの手を見る。
異常なし、どこも痛くない。計器類も同じく。何が起こった? ことを確認しようと首を振る。
「たわけ! いつまで呆けている!」
「え、ええ……!?」
そして元凶を見つけ、驚きの声をあげた。
翼と機体の接合部に人が立っている。もちろん命綱も無ければヘルメットも着けていない。
不可能だ。まず人はあんな場所には立てないし、立ったところでこの速度では吹き飛ぶ。当たり前の物理法則だ。
だが、現実目の前にいる紅い出で立ちの男は悠然とそこに立ち、当然のように弓矢をつがえている。
理解できるわけがない。
「あいにく私は彼等のように水の上を走れる訳でもなければ空を駆けることも出来ないのでな。この機体を借りるぞ。生きて市民を守りたいというのなら、君にも協力してもらう」
紅い男はそう仰木に宣言し、仰木はポカンとしたまま頷くことしかできなかった。
この時点で直接仰木の頭に声が入ってきているのだが、その違和感に気づく余裕もない。ただ分かるのは、今自分はこの男に救われたのだろうということだけ。
「それでいい。武装は着弾前にリモートで起爆出来るものに限定しろ。あれに触れればその時点で主導権を持っていかれるからな。まあそれでも大した効果には並んだろうが……やらないよりはマシだ」
「わ、分かった」
「機動は私の指示に従ってくれ。この機体の機動力ならばそれで充分に対処出来るはずだ」
再びの指示に再度こくこくと頷く。と言うよりもやはりそれしか出来ない。
「話が早くて助かる……来たか」
そして次の数秒で、仰木は得体のしれぬ青年を全面的に信じる事に決めた。
向かってくる数本の触手。仰木一人ではなんとか躱してやり過ごすしか出来なかったその脅威を
「はぁ!!」
青年は弓矢を正面からぶつけることで爆散させたのだ。
「貴方は……いったい……」
「ち、名前など今はどうでも良いのだが……まあいい」
唖然としたまま仰木は青年に名を尋ねる。
青年は視線を化け物に向けたまま再び矢をつがえ、射ると同時にこう答えた。
「私の名はアーチャーだ。由来は分かるだろう?」
自衛隊と英霊、奇妙な組み合わせの共闘が始まる。
どうもです!
カープファンが読者様にも多かったようで嬉しい限り。因みに私は梵推しです(今年そろそろ危なそうで悲しい)
と、どうでも良いことは放っておいて作品の方へ
遂に仰木一尉と小林ぃぃぃいいい!!!
にスポットライトが当たる時がきましたね(歓喜)
演出上の問題で敢えて呼び方をディアボロ呼びと普通の呼び方に分けてたり、あとお分かりだと思いますが時系列ずらしてるのでそこは次話の最初に入れさせてもらいますのでご了承ください。
ではでは。自衛官2名の活躍(生存)を信じて!
感想も投票もガンガン募集してますので清き1票を!