Fate/kaliya 正義の味方と桜の味方【完結】   作:faker00

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第29話 征服王イスカンダルvsクランの猛犬クー・フーリン

 

 

 

 

 

「出せよ。初手はくれてやる」

 

 ランサーが何を求めているのかはその場にいる全員が承知していた。

 臨戦体勢で構えるランサーを数十m先に、ウェイバーの隣に立つライダーがむうっと唸る。

 

「坊主、初戦から負担をかけるぞ。ありゃあちっとやそっとで崩せる相手ではない。余も端から全力以上を出さねば──数秒後には首が飛ぶであろう」

 

「分かってる。根こそぎ持ってく覚悟で行けよ? 中途半端に遠慮なんかしたら、あいつがやる前にこの僕がお前の首すっ飛ばしてやる」

 

 そして、それに対するライダーの応を止めるつもりもウェイバーには更々なかった。

 ランサー、クーフーリンの戦闘能力が図抜けているのは数多ある伝承、そしていつかの倉庫街で見た戦いで充分以上に把握している。

 あれは白兵戦においてセイバーと双璧を成す圧倒的な存在だ。

 最大火力の競いあいならともなく、一騎打ちではライダーとはいえそうそう勝ち目を見出だせる相手ではない。

 だがライダーにはあるのだ。その一騎打ちという概念そのものを覆す必殺の手段が。なら、それを止める理由がどこにある?

 

 

 

「むはは! 心得た!」

 

 豪快に笑い飛ばしたライダーがバッと両腕を広げる。

 それと同時にウェイバー、ランサーを襲う何か周りの空間が浮かび上がるような浮遊感。

 そして、世界から色が消える。

 

 

 

「──集えよ我が同朋」

 

 ライダーを中心に風が逆巻く……が、その風は冬の冬木のものではない。

 もっと渇いたもの、人工物に触れぬ爽やかなもの。

 遡ること数千年前灼熱の大地に吹いていた疾風である。

 

 

「ランサーよ! 貴様にこの世界を魅せるのはこれで二度目であったな! 覚えているというのなら滾ればよい! 忘れたというのなら改めて刮目せよ!! これが征服王たる余の誇る最強にして最高宝具王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)なりいぃぃい!!!」

 

 

 

 

 

 

────

 

「忘れるわけねえだろうが」

 

 何をバカなことをとランサーは笑った。

 彼の鼓動は今にも胸を突き破らんばかりに早鐘を打ち、あまりの興奮に身体全体がカタカタと震える有り様だ。

 そんな彼は〝砂漠〝から感じる熱をまた一歩踏み締める。

 

 

「見よ! 我が無双の軍勢を! 肉体は滅び、その魂は英霊として世界に召し上げられて、それでも尚余に忠義する伝説の勇者達!! 彼らとの絆こそ我が至宝! 我が王道!!」

 

 ランサーの眼前に広がる光景は正に壮大と呼ぶに相応しい。

 遮るもののない地平線を埋め尽くす巨万の兵、それも有象無象の類いではない。

 かつて小国マケドニアから飛び出し、僅か10数年にして世界の数割を手中に収めた最強にして無双の軍勢。

 その伝説が、今この瞬間に蘇っているのだ。

 

「聞けえ! 我が同朋達よ!! 今宵我らの前に立ちはだかるは、音に聞こえしクランの猛犬!! 単騎と言っても侮るなかれ! 敵は真に一騎当千の勇敢なる戦士なり!!」

 

「「「──然り!! 然り!!」」」

 

 征服王の呼び掛けに応える声が地面を、大気を、いや、この空間全体を揺らす。

 まるで身体の芯を貫くような衝撃がランサーをも震わせる。

 

「相手に取って不足なし! 我らが総力をもって、いざ──蹂躙せよおおぉぉおお!!」

 

「Arrruuurraaai!!」

 

 愛馬ブケファラスに跨がり、自ら先頭に立ち剣を抜いたライダーの声に呼応するように、数万の軍勢が一斉にランサーに向け進撃を開始する。

 その様は迎え撃つランサーから見れば、荒れ狂う海から押し寄せる黒い津波のような衝撃だった。

 ライダーを先頭に真っ先に切り込む勇猛果敢な騎馬隊。彼らの脇を固める屈強な歩兵隊、自らの背丈を優に上回る槍を華麗に操る槍兵部隊、後方から敵陣雨あられと死の嵐を吹き荒らす弓兵隊。

 そして──征服王イスカンダルを個人の武勇においては上回る最強の将軍達。

 

 全てが揃いも揃って一級品を通り越した伝説。

 

 

「はっ! いいねえ! 闘いはこうでなくっちゃ!!」

 

 一国の大軍勢さえも恐れおののき、戦意を喪失するような

進軍を前にランサーの戦意は昂り続けていた。 

 戦いへの渇望、強者への餓え。ライダーの誇る無双の軍勢はランサーが欲していたものを全て満たしてなお余りある。

 

「いくぜ──こっちも出し惜しみはなしだ」

 

 ランサーが赤槍を握る手にグッと力を込めた瞬間、彼の回りの空気が一変する。

 体内の熱を表現するように燃え上がるような熱さからその真逆、身を切り裂くよう刃のような冷たさへ。

 この絶対的不利を微塵も不利とは感じてはいない。

 

「なにも槍ってのは手に持って突くのだけが取り柄の武器って訳じゃねえ」

 

 ──低く

 まるで今にもスタートを切ろうとしている陸上の短距離スプリンターのごとく。

 地面スレスレまで身体を落とすと共に元々鋼のような大腿部が膨れ上がる。

 

 距離を測る。この大軍勢を前にこちらの先手をしくじればまず勝ち目はないとさすがのランサーにも緊張が走る。

 蜃気楼の先から砂塵を巻き上げて迫り来るライダー率いる軍勢、彼等がランサーの引いた一線を越えた時、その一撃が解き放たれる──!!

 

 

「むうっ!?」

 

「なんだあれ!?」

 

 その行動に面食らったのか、ライダーとウェイバーが同時に驚愕の声をあげる。

 二人の目線はランサーに向いている。だがその方向が明らかに違う。

 今まで真っ直ぐ一直線上にいたはずの槍兵は、爆発的な瞬発力を持って跳び上がり、遥か上空で太陽を背に振りかぶっていた。

 

突き穿つ(ゲイ)──」

 

 その時、ライダー率いる軍勢全てが同じような錯覚に陥った。

 まるで風景そのもの、即ちライダーの作り上げたこの固有結界そのものがねじ曲がるような奇妙な感覚。

 妖しく輝き始めたランサーの赤槍に渦を巻く魔力は異常だ。下手な霊体が近付けばそれだけで粉々に消し飛ぶであろうほど圧縮された高密度なそれは魔術協会の誇るトップ層の総力を結集してもなお届かないと一目でわかる。

 しかし問題はそんな浅いところの話ではない。この場にいる全員、それもいずれが数々の修羅場を潜り抜け英霊にまで登り詰めた猛者なのだ。

 たが──その全員が等しく〝自らはここで死ぬ運命である〝こんな錯覚を覚えたのだ。

 

死翔の槍(ボルグ)──!!」

 

 閃光。ライダーの眼を以てしても捉えられたのは瞬間、残像程度。 

 響き渡る轟音に彼はようやく自らの〝後方〝への着弾を確認した。

 

「外した!?」

 

「いや、そのような失敗をするようなやつでは──坊主! ふせろ!!」

 

「ぶっ──砂……?」

 

 脳天が揺さぶられるような感覚にウェイバーは思わず噎せる。

 が、それと同時に吐き出した大量の砂に周りに起きた異変を知ることになった。

 

「んな!?」

 

 前を向いたが、今の今まで広がっていたはずの青い空も、灼熱の砂漠も見えたものではない。

 継続して顔面を叩き付ける砂のカーテンで辺りはまるで深夜のごとく先を塞ぐ。超弩級の砂嵐、ウェイバーが捉えられたのは、眉間にシワを寄せるライダーの表情だけだった。 

 

 

 

 

 

 

 

「時には数が弱みになるってことを見せてやるよ」

 

 着弾、そして予想通りの効果が得られたことを確認するとランサーは着地と同時と前方へ駆け出した。

 ライダーの軍勢はメガトン級の大型爆弾が炸裂したが如く衝撃によって巻き起こった砂嵐に覆われて伺うことが出来ない。

 それで良い、宝具を使用しての彼の狙いはライダーを屠ることではない。そんなことで倒せるような相手なら端から真っ先に狙ったりはしないのだから。

 ランサーの目的は軍勢の動きを完全に奪うことだった。

 あれだけの大人数であれば一度足を止めてしまえば再び動き始めるまでに時間がかかる。

 

 ──なにより、混乱の中では得物を振るうことすらままならなくなる。

 

「いくぜぇえ!」

 

 砂嵐を切り裂くように飛び出してきた赤槍がランサーの手に戻るのと、ランサーが砂嵐に突入するのはほぼ同時。

 視界は両者同じく0──だがそれで良い。

 

「──っ!? ああ!!」

 

「うわあ!?」

 

「周りが見えてようが見えなかろうが俺が一対一で負けるわけねえだろうが!!」

 

 それは圧倒的な自信が故に。

 侮っているわけではない、見くびっているわけではない、相手への敬意を欠いているわけでもない。

 客観的な事実なのだ。

 

「おるあぁあ!」

 

 今回の聖杯戦争のみならず、全サーヴァントという括りで見ても最速を争う敏捷性。

 対多戦への絶大な自信を持つ生前からの逸話の数々、戦闘に対する勘の良さ。

 こと生き残ることに対して右に出るものはいないレベルにまで昇華した戦闘技術。

 この状況はランサーの独壇場なのだ。

 

 

 

「おらおらぁあ!! こっちはスピード勝負だってんだ! チンタラしてる時間はねえ!」

 

 

 懐に飛び込み、一撃、二撃で薙ぎ払う。半ば闇雲な反撃は瞬間的な動作の切り替えで触れさせもしない。

 一騎当千と呼ぶに相応しい進撃を見せるランサーだが、その表情は決して芳しくなく、苛立ちを隠そうともしない。

 

 

 理由は二つだ。

 まず一つは、ランサーがライダーの対軍宝具、王の軍勢の特性を理解していなかったことが大きい。

 その実この対軍宝具は消耗が激しく、ライダーの軍勢のうち半数が消えれば結界維持にかかる魔力消費に耐えられず自動的に解除される──のだが、まだ見ることすら二度目のランサーが知る由もなく、あくまで全滅を目論んでの戦いをしていること。

 その狙いを考えればこの鬼神のような奮迅でもまだ遅すぎる。

 そしてもうひとつが……

 

「落ち着けえぇぇい!!」

 

「ちっ! もうかよ……!」

 

 まるで雷鳴のような一喝が辺り一帯に響き渡る。

 その厳粛さに、ランサーは一次奇襲の失敗と、次の作戦への移行を悟るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなってるんだよこれ!?」

 

「ランサーの狙いが端から余を討ち取ることではなく、我ら軍勢の視界を奪い、引き離すことだったのだろうよ。なるほど、数の暴力はその数が十全に機能することで初めて意味をなす。バラバラに寸断されてしまえばやつの望む土俵と言うことよ」

 

「暢気なこと言ってる場合かよ!?」

 

 辺りがほとんど見えない状況でウェイバーはライダーに掴みかかる勢いで問い掛けた。

 戦況が一変したのは視えずとも分かる。

 静寂に包まれたのはほんの数秒のことであり、今はどの方角からも叫び声が止まない。

 その大半が致命傷を負った苦悶の叫びであればその正体は考えるまでもないと言うもの。

 

「落ち着け。余の精鋭達はそう柔ではない」

 

 ウェイバーの訴えにライダーは口をきゅっと一文字に結んだまま腕を組む。

 彼の脳裏に浮かぶのは自軍の戦力と直前までの配置、そして数度見たランサーの機動力と戦闘力。

 戦況は決して理想的ではない。

 口に出した言葉とは裏腹に、早々に対策を打たねばならないとライダーは決断を迫られていた。

 

 ──第一に優先すべきは混乱を解き各々のやるべきことをはっきりさせること。そして視界の回復。この二つをしない限り何も始まるまい。

 

 最善策を模索する。

 その僅かな間にもランサーの襲撃は進行しているのか喧騒の輪も広がっていき、その声がライダーの集中を掻き乱そうと頭を叩く。

 だが侮ることなかれ。征服王イスカンダルは決してその人望と腕っぷし、度胸のみで成り上がった旧世代型の将ではない。

 むしろその知略、戦略眼こそを武器に冷静な判断を下してきた知将なのである。

 真剣な思考に入った彼の集中を解くことは容易ではない。

 

 

 

「耳を塞いでおけ」

 

「は──」

 

「落ち着けえぇぇい!!」

 

 勝負は迅速かつ正確に。

 対策を弾き出すとライダーは一つ息を吸い込むとその空気を全て吐き出すかのように吼えた。

 びーん、と周りの大気が震えるような感覚と共に言葉が伝わっていくのを感じる。

 目には見えないが確かに空気が変わった。慌てふためくばかりだった味方が今自らの次の言葉を待つ体制に切り替わったことを確認し、ライダーは命令を下す。

 

「敵の狙いはこの混乱に乗じて労せずして我らを討ち取ることなり! 全てを一人で見る必要はない! 歩兵隊は四人一塊となり各々背を合わせ正面だけ見据えろ! 死角、背後からの奇襲以外ならば如何にランサーと言えどそう簡単にはお主らは討ち取れん! 騎馬隊、弓兵は早々に退け! 討ち取ることは考えんでよい!」

 

 細かい指示はむしろ新たな混乱の引き金となりかねない。

 そう判断したライダーの指示は至極簡単なものだった。今までごちゃごちゃと入り乱れていた人の流れが大雑把ながらも数本のベクトルを描き出すのを感じる。

 そして消えはしないまでも一段階小さくなる喧騒。

 自らの意図の浸透を察知するとライダーは自らの下で全力で耳を塞いでいるウェイバーを見やる。

 

「坊主」

 

「うわぁい!? なんだよ急──」

 

 ライダーがトントンと肩を叩くとウェイバーがすっとんきょうな声を上げて飛び上がった。

 そして抗議の声を挙げようとするか真剣な表情のままのライダーにその声をぐっと飲み込む。

 

「あのランサーが相手では時間がない。坊主、負担を掛けるが良いか?」

 

 本来ならば、こんな声かけをする時間すら惜しいはず。

 しかしそれでも声を掛けたのはウェイバーを隣に立つ戦友と認めてのことなのか。

 この言葉でウェイバーも次にライダーが取る行動、そしてその場合の自らのダメージを予見した。

 だが、それは断る理由になどなりはしない。

 

「……ああ! 思いっきりかましてやれよ! 手なんか抜いたらぶっ飛ばすからな!」

 

「よく言った! では──征くぞ!」

 

 ドン、と胸を叩いたウェイバーの言葉に合わせるように、二人を乗せた戦車(チャリオット)が砂を巻き上げるようにして荒れ狂う空へと舞い上がる。

 未だ暴風域の中にいるにも関わらず、その進軍はまるで何の障害もないと言わんばかりの健脚である。

 

 

「ぶっ──」

 

 まだ発動もしていない〝それ〝の予兆ですら襲う身体の中が絞り出されるような激痛にウェイバーは身体を折り曲げて悶絶する。

 そうだ、今までは宝具の発動はそのほとんどをライダーの貯蔵魔力で行っていた、その為にウェイバーには無茶な負担はかかってこなかった。

 しかしその余裕がなくなりウェイバー自身がその全てを負担した結果はどうだ?

 ランクにしてA+の対軍宝具など凡俗な魔術師一人の器で収まるべくもない。一撃、ほんの一撃の予備動作のみでこの有り様である。

 

「ぼう──」

 

「良いからさっさとやれ! 手を抜いたらぶっ飛ばすってさっき言ったばっかだろ!」

 

「──承知した。遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・ エクスプグナティオ)!!」

 

「──!!!!」

 

 その数秒は、ウェイバー・ベルベットの生涯において一番長い数秒だった。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

「──ぶはっ!」

 

 海で溺れて救い出されたときの反応はこんな感じであろう。

 肺の中の空気を一気に吐き出して噎せるのと同時にウェイバーは目を覚ました。意識が飛んでいたことは間違いない。今わかるのは、少なくとも自分がまだライダーの戦車から落ちてはいないということだけ。

 

「ライダー……?」

 

「おう、よくぞ辛抱したな。取り敢えず振り出しには戻せたようであるぞ」

 

「え──」

 

 そう言えば。

 仰向けに寝っ転がったままふとウェイバーは思う。

 この空はこんなに青かっただろうか?と

 

 そしてその大地の中心でその空と同じように蒼き槍兵がギリッと奥歯を噛み締めていた。

 

「野郎──」

 

「そう簡単に余を落とせると思ったか? ここからが本番であろう! ランサー!」

 

「上等だ……ぶっ潰してやる」

 

 

 激戦は、未だ序盤。

 

 

 

 

 

 

─────

 

「アインツベルンの令嬢と組んだか……しかしその程度で私を越えられるとでも本気で思っているのか? 間桐雁夜」

 

「ああ、思っているさ。お前はここで俺が倒す。覚悟は良いか? 遠坂時臣」

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。

ここからクライマックスまで駆け抜けていきたいですねー

それではまた! 評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃんお待ちしております!
色々と明日一括お返ししますm(_ _)m

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