Fate/kaliya 正義の味方と桜の味方【完結】 作:faker00
「はあぁぁぁーー!!」
「⬛⬛⬛⬛⬛⬛ーー!!!」
苛烈な力と力のぶつかり合い。
冬木市公民館地下駐車場で断続的に巻き起こる衝撃波が、たった二人の人間によって起こされているものだといったい誰が信じるだろうか。
一撃毎に吹き飛ぶ乗用車が瓦礫のように積み重なる。
その中心に彼女達はいた。
「⬛⬛⬛⬛⬛⬛ーー!!!」
背丈が2mにも届こうかという痩躯の男は、その身体を一目見れば尋常でないと分かる黒い靄に包まれていた。
そこに加えてとある国で爆発的大ヒットを果たした国民的アニメーションの超、超戦闘状態を彷彿とさせる雷がその回りを断続的に走る。
何が言いたいかと言うと、どれだけのほほんとした一般人でもその脅威を一瞬にして理解できるほど桁違いで、まるでアニメのように現実離れした存在だと言うことだ。
その拳が振り下ろされる度に国際基準の防災レベル、設計強度を満たしているはずのこの駐車場の路面は意図も容易く抉れ、振動が全体に響く。
サーヴァントバーサーカー、ニコラ・テスラは怪物だった。
しかし、そのバーサーカーの方がはっきり言えば分が悪い。
その事実は、もしもここに観衆がいたならばその全てを驚愕させたことだろう。
化け物然としたバーサーカーを更に圧倒する怪物。
想像するのはまるでおとぎ話のモンスターのような存在であろう。それ以外にできる訳がない。
しかしながら、現実は想像を軽々と凌駕する。
「はっ──!!!」
縦横無尽に駆け回る青銀の弾丸。
まさか10台半ばにしか見えない金髪碧眼の少女──それも絶世の美少女と呼んで差し支えない──が竜巻を想起させるバーサーカーを相手取り、正面から圧倒するなど。
「吹き……飛べえ!!」
サーヴァントセイバー、ブリテンの誇る至高の王、大英雄、アルトリア・ペンドラゴンが放った乾坤の一撃。
横凪ぎに払われた不可視の剣を受けとめたバーサーカーの身体が宙に浮き上がる。
手応えあり、彼女の言葉通りプロ野球投手の豪速球の如く吹き飛んだバーサーカーは、鈍い轟音と共に駐車場の支柱を次々にへし折りながら止まることなく側壁にまで辿り着く。
軽やかに着地しながら、その光景を見届けたセイバーは一つ大きく息をついた。
──強敵であることに疑いはないが、私なら勝てる……!
その胸に確かな感覚を得ながら。
バーサーカーとの戦いはパワーで勝る相手を如何にしていなし、逆手にとるかが聖杯戦争の鉄則である。
しかしながら、英霊の中でも群を抜く出力を持つ彼女に限ってはその鉄則すら意図も容易く乗り越える。
バーサーカーの土俵、パワーとパワーをぶつけ合う真っ向勝負でさえ圧しているこの現実は、どう考えてみてもセイバーに戦いの天秤が傾いていることを示し、彼女もそれを十全に理解していた。
「それに──」
仮にここから巻き返されることがあろうともまだまだ引き出しはこちらにある。
準備は万全、そこまで頭を回したところで前方にうず高く積もった瓦礫の山が上方へ弾け飛ぶ。
「⬛⬛⬛⬛⬛⬛ーー!!!」
「こい──!」
狂獣が飛び出すのと同時に彼女も大地を蹴る。
両者ともに一瞬にして音速へ、直撃する刹那、ギリギリのタイミングを見極めセイバーは一歩踏み込んで直角に切り返す。
「⬛⬛──!?!?」
「こっちだ! バーサーカー!!」
「⬛⬛⬛⬛──!!」
更にもう一歩の踏み込み、今度は加速するためではなく急減速の為に。
当然エネルギーは殺しきれない。が、セイバーはその暴発せんばかりの力を利用し、独楽のように高速で振りかぶる。
「おおぉぉ!!」
「⬛⬛⬛⬛──!!」
パワー自慢のプロ野球顔負けの見事なまでのフルスイング。
バーサーカーは超人的な反応を見せ両腕で食い止めようと上体の前で構える。
同時に迸る雷。聖剣と雷の集合体が真っ向からぶつかり合う。
「てやああああ!!」
均衡が崩れる。押し勝ったのはまたもセイバー。
先程の焼き直しのような光景が再び起こる。
「っは……!」
ダメージは薄い、セイバーは追い打ちをかけるように前へ飛んだ。
客観的に自らの優勢を理解していた彼女だが、懸念材料が無いわけではない。
戦いが長引けば長引くほど徐々に大きくなる爆弾。則ち、スタミナ切れによる体力の消耗。
そこだけはセイバーに対してバーサーカーの方に分がある。なにせ端から人としてのリミッターが吹っ飛んでいるのだ。
彼女の動きがじりじりと低下するのに対して、バーサーカーは0になるまで100を維持し続けるだろう。この優勢は必ずしも終戦までを保証するものではない。
常人の眼には捉えきれぬ猛攻を仕掛けつつ彼女は更にギアを入れ替える。
「────!!!」
「⬛⬛⬛⬛!!!」
懐へ飛び込み、高速で剣激を叩き込み続ける。
セイバーの剣は斬るというよりは、力で相手を圧殺するそれだ。重たい鎧甲冑がより発達した中世西洋の戦争における最適解。
その一撃一撃が必殺の威力を持ち、バーサーカーの身体を文字通り傷め、その機能を損なっていく。
軋む骨と抉れる筋肉。通常なら痛みで気を失うが道理。しかし……それでも、バーサーカーは止まらない。
「⬛⬛⬛──!!!」
「ぐっ!?」
今まで攻勢を極めていたセイバーが衝撃に顔をしかめる。
まるで時間が跳躍したかのように、薙ぎ払われたバーサーカーの一撃が彼女の左腕にめり込んでいた。
──無酸素運動はいつまでも続かない。
英霊として、英雄として、スペックが異次元の域に達していようがその摂理自体は変わらないのだ。
ほんの一瞬、身体が酸素を求め呼吸した瞬間の弛緩、その隙と見ることさえ難しい自然の流れですら、リミッターを外した不条理の前では無防備と同じになる─
「⬛⬛⬛──!?」
勢いのまま吹き飛ぶセイバー。
それに対して困惑したようにビクッと止まったのはバーサーカーの方だった。
言葉を発することが出来たならば、彼はこの違和感をこう説明しただろう。
〝あまりにも軽すぎる〝と
手応えの無さはまるで空振りをしたのと変わりないほど。しかしそんなはずがない。
彼の拳は確かにセイバーの腕を捉えた筈だった。
それを可能にしたのは何か、猛る思考が本能的に廻り出そうとしたその時──
「⬛⬛⬛⬛──!! うおぁぁあ!?!?」
─────
「っつあ! このままでは埒が空かない──」
強引な挙動で痛む左足を抑えながら、セイバーは自らにのし掛かる形になっていた車を押し退けた。
あの瞬間、パワーでの対抗を諦めた彼女は即座にバーサーカーの攻撃に合わせて跳び、威力を受け流したのだ。
それによって思っていた以上に豪快に吹き飛ぶことになったが、左腕を持っていかれへし折れるよりはましであろうと、痺れるだけで済んだその腕を一度ぐるっと回す。
「今宵で決着が着くことに加えて、マスターの現状が分からない以上余計な消耗は避けたかったが──宝具を使わねば此方も確実とは言えない」
相当距離も空き、何故かは知らないがバーサーカーも迫ってくる気配がない。
これ幸いとセイバーは一呼吸付きながら現状を分析する。
パワーバランスは依然として彼女に分がある、がしかし、その天秤が徐々に平行線に近づいていることもまた事実だった。
いかんせん決め手に欠けるのだ。
判定勝ちがあるならばともかく、今求められるのはKO、それも相手を殺す所までだ。
このまま
「日に使用出来るのはせいぜい3発、全力ならば2発が限度の
答えは否である。
セイバーが結論を弾き出すのに数秒もかからなかった。
意識を集中させ切嗣とのパスを奥底から引っ張り出すことに専念する。
サーヴァントとマスターは、その契約が有る限り互いに存在を感知し、念話で会話をすることが出来るのだ。
今まで使う機会が1度もなかっただけで、その関係性はセイバーと切嗣であっても変わりはない。
意識を深く。その存在を探り──
──聞こえるかセイバー!
「なっ、マスターですか!?」
彼女が探り当てる前に頭の中に声が鳴り響いた。
かなり逼迫した様子である。だがそれ以上に驚いたのはその声の主である。
まさかマスターである衛宮切嗣が〝自分から〝話し掛けてくるなど、セイバーからすれば想像の範囲外の出来事であった。
あまりの衝撃に思わず口をつく。
──マスター、何かありましたか?
──良かった。まだ無事だったか。ああ、緊急事態だ。此方は首尾良くケイネスエルメロイを屠ったが……奴め、最後の最後に令呪を使っていった
──令呪……!
切嗣の言いたいことは良く理解できる。
その言葉を聞いた途端、セイバーは額に一筋の汗が流れ出したのを自覚した。
令呪がどれほど厄介なものかは先のキャスター戦で嫌と言うほど思い知らされた。
その令呪が、今度は自分と一騎撃ちをしている相手に使われた。今までの前提条件や経緯など全て悪い方向に吹き飛ばしかねない。
──マスター
──ああ、分かっている。僕はこのままアイリと問桐雁夜の援護に向かうが、ギリギリまで安全地帯での後方支援に徹底しようと思う。
セイバー、宝具の開帳、及び全力での魔力消費を許可する。最悪の場合こちらの令呪の使用も辞さない
──感謝します。因みにですがバーサーカーのマスターが令呪で下した指示とは
──その身を我が手から解放する、とだけ。尋問する前にこと切れてしまったからそれ以上の詳細は不明だ
──分かりました、マスター。必ずや勝利をこ──なに!?
──どう──!? 聞こえ────
まるで電波ジャックか何かのように、切嗣とセイバーのラインが唐突に切れた。
切嗣にはその理由は分からないだろうが、セイバーには分かっていた。
圧倒的な魔力の放出、かつてドラゴンを相手にしたときのような圧迫感が彼女に襲いかかる。
「これは……いったい……」
巨龍の咆哮のごとき轟音が響き渡る。
今や駐車場は見る影もなくそこら中に瓦礫の山が積み重なっているが、その合間を縫って根本へ向けセイバーは駆けた。
彼女がバーサーカーの一撃を受けてからここまで、時間に直せばせいぜい1分かかるか、かからないか程度のものだったはず。
それだと言うのに、その景色はまるで時代が変わったかのように様変わりしていた。
「答えろ! 貴様は一体何者だ!!」
雷鳴が轟き、稲妻が其処らかしこに飛び散る。その中心だ。
蒼白く光るその場にまるで王の如く仁王立ちしている男は間違いなく異質だった。
「ほほう、私のこの姿を見ても恐れぬか。問うならば答えよう。私は君がバーサーカーと呼んでいた者だ」
「なんだと……? そんな筈はない! 今の貴様は──」
「狂ってもいないし知性もある。そう言いたいのだろう? 浅い、浅いぞセイバー。その程度だからお前達神秘は人の手によってその上座から引き摺り下ろされるのだ」
コツン、と革靴の音が鳴る。バーサーカーはまるで演説中の政治家のように両腕を広げ、大袈裟に首を振った。
「狂っている、など人が自らの常識で判断できぬもの、理解の範疇に収まらぬものを排他するために作り上げた枷にすぎん。私からすればそんな尺度にすがるお前達の方が余程、狂っている。君もその凡人の類か、アーサー・ペンドラゴン」
「──」
真名が出た以上、この男がバーサーカーであることに疑いの余地はない。
あまりに突飛なことではあるが、事実である。
セイバーは一つ大きく深呼吸すると眼下の敵を見据える。
「私が凡人であるかどうか、それは貴様の判断に任せよう。尤も、その時までその首が繋がっていればの話だがな……!!」
そして、その驚異は今までとは段違い。
セイバーは剣の守りを解いた。飛んでくる雷を吹き飛ばす程の疾風が彼女を中心に渦巻く。
顕になる聖剣の輝き。
その輝きにバーサーカーの目が狂気ではなく狂喜に染まる。
「ふはははは!! 良い、良いぞセイバー!! その輝きは正しく神秘! 我ら人が目指すものに他ならない!! その神域、今このニコラ・テスラが墜としてみせよう!!」
「舐めるなよ……! 我が聖剣の輝き、騎士の誇りに懸けて奪わせやしない!!」
人と英雄、その輝きがぶつかる。
─────
「──最大の障害は乗り越えたか。そろそろ決着がつくだろう」
冷たい風が吹く。
冬木ハイアットホテルの屋上、この冬木市で一番高い所にアーチャーはいた。
ここまで高みから戦局を黙して見守っていた彼が初めて口を開く。
「さて、仕上げといこうか」
散歩にでも向かうかのように軽やかに屋上から跳ぶ。
この第四次聖杯戦争最大のイレギュラーが、満を持して終局へ動き出した。
一言、ケイネス先生ごめん。申し訳ないと思ってる。
さて。これにて謝罪は終了というとこで
皆様、前回半年間も空けたのにも関わらずたくさんの感想ありがとうございます。
すごく励みになりました。折れかかっていたモチベーションをどうにか建て直せたのは間違いなく皆様のお陰です。
いやほんとに感想って大きいです。お気に入りやら評価やらUAと数字として見えるのはもちろん分かるんですけど、気合いの入り方というか嬉しさが別格に違うと言うか……
たくさん貰えると素直に嬉しいですので今後も宜しければ( ノ;_ _)ノ
もうちょい早く返せるようにします。前話、今話分はなんとか明日中には……
ただ正直以前ほどの量を1話ごとに注ぎ込んでいくのは少々難しいかもです。
1話ごとのボリュームは今後もこれくらいに収まるかなと
次も頑張りますので!ではでは!
PS ケイネス先生退場は最初からの予定通りです。魔術師殺しには勝てないからね、しょうがないね