Fate/kaliya 正義の味方と桜の味方【完結】   作:faker00

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第32話 奇跡は二度は起こらない

「そらそらそらあ!! 手ぇ止めんじゃねえぞ!! もっと楽しませろやあ!!!!」

 

「歩兵隊!! 退くでないぞ!! 我らが力を見せ付けてやるのだ!!」

 

「「「「「うおぉぉぉおおお!!!」」」」」

 

 爆炎のごとき土煙を巻き上げながら、竜巻と津波がぶつかり合う。

 読んで字の如く獅子奮迅。この拮抗はそれ自体が文字通り奇跡の領域である。

 

 かつて世界をその手中に収める一歩手前まで辿り着いた至高の大軍勢、その数万、数十万の軍勢には一人足りとも凡庸な者はおらず。

 本来ならば、一国でさえも容易く呑み込むその圧倒的な圧力をたった一人で押し止め、時に削り取っていくその姿は伝説に残る雄姿そのままであった。

 狂喜に目を輝かせ、その青い戦装束の大部分を真っ赤な返り血で染めながら、狼を思わせる獰猛さと俊敏さを以てランサーは大地を蹴りあげる。

 

 

「いいぜいいぜ! 最高だあ!!」

 

 的確に一撃で急所を穿ち、敵の攻撃を柳のように受け流し、疾風のごとく駆け抜ける。

 その神速に一点の曇りなし──が、当の本人だけは言葉とは裏腹の冷たい感情を抱いていた。

 

 ──やべえな。地味にダメージが全体に蓄積してきてやがる。しかも肝心の本丸は最初の一発以外は様子見に徹してるときた日にゃ形勢は敵に良しか……!!

 

 真に強き戦士は、闘志が最大に高まる極限状態において、なおそれに呑まれることなく空から戦局を見下ろすように冷静な自分を一人心に飼っている。

 そのもう一人の自分がランサーに冷徹に告げるのだ。戦局が五分ではなく、このままでは時間の問題でこちらが敗れることになると。

 

 高速機動を続けながら上空を見やると、雨霰と降り注ぐは無数の矢。

 舌打ちしながら掻い潜る。

 

 局所的には度々起こるのだが、全体としてはランサーの望む乱戦にはならない。綻びが出来そうになる度にこうした文字通りの横槍が入り、ライダー陣営に立て直す間が出来る。

 その間もランサーは回避挙動を取りつつ、死角からの脅威にも警戒を続けなければならない。

 元々数的に圧倒的不利になっているランサーの体力が加速度的に削られていく現状が好ましい訳がないのだ。

 

 全ては初撃で決定的な損害を与えることが出来なかったこと。

 これをどうにか乗り切ったとして後ろには万全の本丸(ライダー)が控える。

 凡百の雑兵が相手だとしても良いところ五分だ。となればライダーの兵の練度の分天秤は彼に傾く。

 その重みは、決して軽くない。

 

「ちっ──しゃあねえ。作戦変更といくか」

 

 眼前に迫る兵を数人一振りで凪ぎ払うと進行方向を切り替える。

 まどろっこしいのはやめだと一言呟いて。狙うは分厚いこの壁の向こう側、その最奥。

 

 

 

 

 

「なあライダー」

 

「む、どうした坊主」

 

「いや、このままで良いのかと思ってさ。この固有結界、お前の軍勢が半分いなきゃ成立しないんだろ?

 だってのに指示は基本的に特攻じゃないか。もうちょい退かせたりバランスとった方が良いんじゃないの?」

 

 ランサーは戦局を自らの不利と判断したが、それがライダーの確実な有利を示すわけではない。

 戦況を見つめながら内心に汗をかいていたのはライダーのマスターであるウェイバーも同じことだった。

 

 いつもの柔軟かつ大胆な采配は影を潜め、代わりに毅然とした表情をびたりとも崩さないライダーに問いを投げる。

 ライダーの切り札である王の軍勢は、その維持にかかる魔力の大半を喚び出しに応じた兵達が賄うことで成立している。

 とてもではないが英霊一人二人の貯蔵魔力でどうにかなるものではないのだ。

 ライダーがランサーに対してアドバンテージを持ち続けるためにこの固有結界は必須。

 それを考えれば今の勢いでの兵力消耗はなるべく避けるべき、その為に手を打つ必要があるのではないか。それがウェイバーの考えだった。

 

「ふむ、一理あるな。だが──」

 

 ウェイバーの言葉にライダーは感心したように顎髭を撫でる。

 

「それはあくまで余の固有結界を知っていてこその話だ。奴はそれを知らん。となれば当然余と対峙するその瞬間に不確定要素を嫌い殲滅を狙ってくる。余の狙いはそこにある」

 

「奴は確かに選りすぐりの英傑であるが、だからといって余の軍勢はノーリスクで乗り越えられるほど柔ではない。1で相手を全て打倒せねばならないという圧、時には肉を切らせて骨を絶つようなリスクを背負う手を打つことも選択せねばならぬだろう。

 その中で、少しでも最後に世と奴がぶつかり合う際の天秤を此方に傾けておきたいのよ。

 しかしながら半数で良しとなれば話は別。今のリスクの少ない戦法で奴は立ち回り続け、そして勝ち抜くであろう。故に、退かせるわけにはいかんのだ」

 

 ライダーの答えは、ウェイバーを納得させるのに充分なものだった。

 ライダーとランサーではこの闘いにおける前提条件が異なる。確かに最終的に雌雄を決するのはライダー、ランサーの互いが互いをどう討ち取るか、である。

 しかしながら、そこまでの鍵を握っているのはライダーの軍勢である。

 ここを如何にして活かしきるか、その為にもライダーはギリギリまで自分ではなくランサーと同じ目線で闘いを進め、未知による有利を保たなければならない。

 ここで中途半端に退けば、一発で全て看破とまではいかなくとも何かしたらの違和感を掴まれるであろうことは見えている。

 だからこそ、沈黙を守り続けている。

 

 征服王の名と逸話には反するかもしれない、派手さはなく、まるで蜘蛛の糸や蛇のように絡み付く地味で周到な戦術、一片の緩みもなくその手に勝利を掴まんとする決意。

 その固い意思を見せられては、ウェイバーに異を唱える理由などありはしなかった。

 

「それにだな、坊主」

 

「ん?」

 

「相手も遂に覚悟を決めたようであるぞ。我らも動かねばならなくなる 」

 

「え──」

 

 ニヤッと口角を挙げたライダーの視線の先を見ると、波の流れが変わっていた。

 今までは比較的横へ横へと流れていた人の流れが真ん中に集中し始めている。

 その変化の意味が分からずウェイバーは困惑の表情を見せる。

 

「ライダー? これはいったい──」

 

「おう、あれはな──」

 

 そんなウェイバーに対してライダーは確信を持ったような自信たっぷりの口振りで答えた。

 

「やつめ、いよいよ焦れてきたようだ。リスクを取り始めた以上、どう終わるにせよ結末は早いだろうよ。無論、余は負ける気はないがな」

 

 潮目が切り替わる。その瞬間を

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

 ──これ以上時間かけたところでこっちが不利になるだけ、しゃあねえがど真ん中ぶち抜く!!

 

 王の守りを固めるは戦の基本である。

 即ち、敵が崩れる前に勇んで斬り込むのは愚策であることの証明。

 ランサーの戦法は基本的には定石に忠実、ただその忠実な戦法でカバーできる範囲が常軌を逸して広いがゆえに破天荒に見えるのだ。

 その彼が、敢えて奇策を選択したのには体力との兼ね合いが大きい。

 地位に胡座を掻くような凡俗な王とは違い、ライダーは単騎であったとしても一流の英霊、その火力で言えばトップクラス。このままでは仮にこの大軍を突破できたところで既にじり貧、満を持して狩られるのを待つだけという状況に老い込まれかねない。

 それだけ追い込まれたが故の苦渋の判断。

 

 

「っらあ!」

 

 今まで受け流してきた波のど真ん中へ進路を変える。

 その姿は、これまでをサーファーとするならば、さながら砕氷船のように。

 氷ではなく肉片を砕きながら、同時に血の噴水を一線に巻き上げ進む。

 歩みそのものは遅くなろうとも、一歩一歩着実にその距離を詰めていく。

 

「Ahhhh!!!!」

 

 狂気と神々しさの狭間にある極致の進撃。

 人を越えるその様は果たして神か、それとも悪魔か。

 それでも、誇り高き王と並び立つ勇士達は怖れずに立ち向かう。

 その通り道を阻めば消し去られるのみと理解はしている。

 

 だが───それがいったいどうしたと言う?

 

「「「「Ahlaaai!!!」」」」

 

 散るのならば、最後に一つ爪を立てて散れば良い

 力尽きるのならば、その倒れ際に敵の足を掴めば良い

 動けなくなるのならば、味方の盾となり敵の不意をつく目眩ましとなれば良い

 戦友が次を埋めるべく駆けてきているのならば、命を賭してその1秒を削り出す為に全てを出し切れば良い

 

 遥か高すぎる頂に挑むことこそ誉れ。

 叩き落とされる公算しかなかったとしても、それは歩みを止める理由になどなりはしない。

 

 一人一人が文字通り全てを出し尽くし沈んでいく。

 その誇り高き犠牲は、如何にランサーといえども無傷で凌ぎきれるものではなかった。

 一つのダメージは微量、拳が肩に触れた、剣の切っ先が薄皮を1枚のみ貫いた。

 圧倒的物量差を以てしてなおその程度が限界。

 

 しかし、その僅かな積み重ねも幾千、幾万と注ぎ込まれば確かな牙となる。

 

 

 

「ぐっ──!!」

 

 怒涛のせめぎあいが続くこと数分。

 これまで数千もの兵を切り捨てながらも前しか見ていなかったランサーが初めて下を向いた。その表情が苦悶に歪む。

 

 一つ大きく息を吸い、吐き出すと同時に力を込める。太股から一息に引き抜いたその短刀は血に染まっていた。 

 

 数千の命の結晶が、いよいよ高みに爪を立てる。

 

 

 

 

 

 

「くそが! やってくれる!」

 

 一人の兵が槍にその命を刈り取られ、大地に倒れ臥せるその最期、殆どなきに等しい意識の中で突きだした一撃が自らに大きな傷を与えたのだとランサーが気付くのにそう時間はかからなかった。

 その健闘に敬意を示すように、既にこと切れた遺体の背中に一瞬手を遣ると間を取るように一度大きく大地を蹴り跳ぶ。

 

 ──戦闘続行に支障は無し。しかしながら立ち回りの速度への影響は避けられそうもない。

 

 分析というよりは直感、だがなによりも信じられる経験則。

 瞬時に結論を弾き出したランサーは次の手を思案する。

 

 このまま真っ向勝負を続けるか?それとも別の策を練り直すか?

 

 

「ハッ!──んなもん決まってんだろうが!!」

 

 一度仕掛けた直球勝負、貫き通す以外にどんな選択肢があるというのか。

 方針転換なぞ有り得ないと嗤う。

 

 自由落下を開始した身体、落下地点には今や遅しと待ち受ける敵兵の山、尋常なら絶望しか覚えない危機的状況に、文字通りの歓喜をおぼえながらランサーは槍を構え──

 

「Ahlalalalaaai!!」

 

 轟く雷鳴と、眩い閃光、その感覚を全て奪われた。

 

 

 

「グフッ──!」

 

 激痛を以て現実に引き戻される。

 九の時に折れ曲がる身体は高速で宙を舞う──いや、蹴飛ばされているのか。 

 間近で聞こえる荒い息遣いが二つ。

 その正体に気付いたランサーは小刻みに身体の至る箇所を襲う痛みを堪えながらなんとか自由に動く右足を思いっきり振り上げた。

 

「おらよっと!」

 

「────!!」

 

 踵落とし、回転する速度も計算しながら振り下ろす。

 狙いは一点、生き物であればなんであれ鼻っ柱は急所である。

 鈍い衝撃音と確かな手応え──いや、足応えと同時に苦悶の声がランサーの耳をつんざいた。

 

 自由落下に身を任せながら体制を整え、片膝を着きながら着地に成功する。

 

 

 

「骨が何本かいってやがるか。流石にゼウスの仔は伊達じゃねえってか」

 

 着地と同時に追撃に備え迎撃体制をとったランサーだが、その額には油汗が滲む。

 数百Kgは下らない雄牛が数百kmのスピードを持って突進してきたのだ。普通の人間なら最初の一蹴りで四肢の何れかが吹き飛び、二撃目で絶命していたはず。

 それをこの程度で済ませられている事自体が異常と言えよう。

 

 地面に突き刺した槍で身体を支えながら空を睨む。

 その先には、輝く太陽を背にし悠然と構えるイスカンダルの姿がある。

 笑う膝と悲鳴をあげる肉。ランサーは今にも崩れ落ちそうな体に鞭を打ち、せめてもの牽制に槍を今にも突き刺さん角度でライダーに向けた。下手な攻撃を見せればどれだけ消耗していようが自らの宝具ならば屠れると。

 しかしそれはもって数十秒、今も此方へ駆けてくるあの軍勢に巻き込まれれば無事ではいられまい。

 加えてダメージはもう許容量をとっくに越えている。宝具を一撃放てばもう暫くの間は動くことは出来ないだろう。

 こちらの出来ることはほぼ詰んだ。最大の難敵と状況を目の前に、彼は自らの置かれている致命的状況を悟り──

 

 

 

 

 「ん──」

 

 ふと違和感に気が付いた。

 

 ──いや、待てよ。いくらあの戦車っつても今のは〝早すぎ〝ねえか

 

 先程の隙は確かに隙だ。それは認めざるを得ない。

 だがそれにしてもタイムラグと言うものがある。今のは〝至近距離〝で〝狙い澄まして〝いなければ到底突きようがない時間の筈。

 そして今までライダーの位置はどうだった?

 

 ──奴は最初に俺が作り出した混乱を収めるために出てきた時以外は指揮に専念するのと俺の投擲の範囲から逃れる為にずっと最後方に陣取ってやがったはずだ。

 なら、何で今あんな位置にまで上がってきてやがる?

 

 こちらが相応の傷を負うタイミングを見抜かれたのか? ランサーは自問する。

 その答えは直ぐに出る。有り得ない。先の攻防は仮に至近距離にいたところで読めるような代物ではない。

 もしライダーがそんなことが出来る戦士ならば、自分は既に死んでいるはずだ。

 

「ならどうして」

 

 通常の戦闘ならあり得ない判断だと揺れる脳を回して訝しむ。

 あれ程の将ならば、王の命と兵の命の重みの違いも十全に承知し、その上で非情な結論を内にどれだけの葛藤があろうが、外から見ればあっさりと決めたかのように瞬時に実行するなど訳のない話である筈。

 

 王の敗北は即ち兵の敗北、例え兵が千残っていようが、万残っていようが、それは変わらない。

 だからこそいくら自らに付き従った兵が蹂躙されようとも控えていた訳だ。

 己が生き残らねば意味がない為に。

 だと言うのに敢えて出てきていたということは

 

「それだけの理由があるってことになる、そしてそれは」

 

 兵の命が王の命が同等になる、そのタイミングがあるとすれば一つ。

 

「最後の大博打、乗るか反るか勝負といこうじゃねえか……!」

 

 言葉とは裏腹に確信がある。

 ニヤリ、と笑みを浮かべるとランサーは姿勢を変え〝正面〝へ投擲姿勢を取った。

 

「ゲイ──」

 

 

 

 

─────

 

「時間切れ、だな」

 

「ええ?」

 

 ランサーが直線的な進撃に舵を取ってから数分、沈黙を守っていたライダーが苦々しく呟いた言葉をウェイバーは聞き逃さなかった。

 基本的にライダーは冷静でこそあるものの、ポジティブ、前向きという言葉をそのまま人の形にしたような存在である。

 弱音どころか、停滞的なイメージが少しでも残るような言葉自体滅多に口にしないのだ。

 その男がどこか諦めたような口調で嘯く、驚かないわけがない。

 

「いやあ、あのランサーには脱帽するしかなかろうて。まさか余の精鋭がこのまま行けばただの一人に半壊させられる所まで追い詰められるとは思わなんだ

 余の覇道にもしもケルトが立ち塞がっていたならば、大いなる障壁になったであろうて」

 

 そんなウェイバーの驚きなど露知らずと言わんばかりに、次の瞬間には大口を開けてがっはっはと笑い始めていたのだが。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないだろう!? 半壊ってことはようするに──」

 

「ああ、この固有結界を維持することが出来なくなる。そうなれば余の勝ち筋は薄くなるな」

 

 ウェイバーの言葉を引き取ってライダーはあっさりと現状を認める。

 ランサーを極力傷付かないヒットアンドアウェイ戦法から特効戦術に誘い込む所までは思惑通り、その狙い通り徐々にではあるがダメージを与えられるようになり、目に見えて彼の動きも鈍りはじめている。

 だがランサーの戦士としての実力はその脅威を最大限に見越していたはずの自分の予測をさらに上回ったのだと。

 

「じゃあ」

 

「焦るな坊主。これはあくまで余の理想とした展開に対して遅れをとっていると言うだけの話。本来ならもう少し確実にしておきたかったが……出るぞ、このまま傍観していては手遅れになる」

 

「おわあ!!」

 

 ライダーが手綱をぐっと絞ると、二頭の神の雄牛が大地を大きく蹴りあげる。

 そのまま上空へ舞い上がると、戦火を見下ろせる位置でその歩みを止めた。

 

「……ライダー?」

 

「機を見極めねばならん。余の進撃は味方を巻き込むことは避けられんからな。加えてランサーの敏捷性は随一、生半可な攻撃では奴に避けられた上に此方の兵をいたずらに無くすだけという最悪の展開になる。そうなれば──余の敗けだ」

 

 雰囲気が違う。

 ウェイバーはごくりと息を飲んだ。今までライダーはどんなときでもウェイバーが話しかけられるようなゆとりをどこかに持っていた。

 今はそれが全くない。張り詰めている、そして同時に追い詰められている。

 真剣勝負のライダーに気圧される。

 

 まるで永遠のように感じられた息苦しい間。

 

 

 

 

 

 

「──」

 

 

 

 

 

 

 どれだけ経った? どれだけ続く?

 ウェイバーがその緊張に時間を忘れ──

 

「きたか──!!遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・ エクスプグナティオ)!!」

 

 雷鳴にその時間をまるで早送りされたかのような錯覚を覚えた。

 

「──!?!?」

 

 圧倒的な加速力で空を駆ける。

 その刹那、ウェイバーは確かに見た。何があったのかは知る由も無いが、その神牛の直線上にランサーが無防備に浮かび上がり、その突進が直撃する様を──!

 

「Ahlalalalaaai──!! これで詰みだ!! ランサーよ!!」

 

 ライダーの雄叫びが響き渡る。

 一歩歩みを進める度にランサーの骨がボキリと折れ、肉が引き裂かれる生々しい音も。

 

 勝てる──あまりにも対称的なその対比にウェイバーは勝利を確信した。

 

「いけえ──ライダー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決めきれなかったか」

 

 心底悔しそうにライダーがギリッと奥歯を噛む。

 その瞳は眼下をきつく見据えていた。紛れもない乾坤一擲の好機。

 本来ならばこの時点でランサーは地に伏せ、その身体の消失が始まっていなければならなかった。

 だが目の前にある現実は違う。

 もはや満身創痍を通り越した死に体であるが、ランサーは確かにその脚で立ち、己から目を離していない。

 

 その結果はライダーからしてみれば、明らかな失敗だった。

 

 

 

 

 ──追撃は……無理か。奴の槍は因果逆転の呪い、例え余の方が速かろうがそんなものに意味はない。狙いを定められた瞬間に勝負が付く

 

 

 となればどうする、迎撃体勢を取られた以上こちらからは迂闊に動けない。

 相手がどう捉えているかは分からないが、今は何をしても不利になるという歯がゆすぎる状態。

 

 

 

「坊主」

 

「なんだよライダー……」

 

「良いか、ここから微動だもするでないぞ。余の兵達がたどり着き、残り数名が力尽きる前に奴を倒す。それを信じるしかあるまい」

 

 ウェイバーも状況は分かっているのだろう。

 いつもなら動転しかねないのだが、沈黙という最大の肯定でライダーに返答を返した。

 

 

 

 

 

「──」

 

「──」

 

「──」 

 

 

 陣営間に続く奇妙な沈黙。

 互いが互いに対して打つ手がないのだ。

 しかし千日手とはまた違う。本来の千日手であれば何の意味も為さないある一つの普遍的要素が大きな意味を持っている。

 

 それが、時間だ。

 

 千日経っても動かない程の膠着状態だと言われるのが千日手、だが今回は全く違う。

 この膠着は堅さこそ絶対であるが、数十秒しか持たない。

 その時が来れば、強制的に天秤は取戻しのつかないところまで崩れる。

 その要素は、ライダーに味方するだろう。

 

 なら勝者はライダーか? いや、そうとは言い切れない。

 この二人の間にはもう一つの歪な関係性がある。 

 それが、見た目と実際の余裕、パワーバランスである。一騎討ちであれば、基本的には余程見る目がないなんてことがない限り、有利、不利は明らかに目に見える。それが一流の戦士同士の戦いならば尚更だ。

 

 それに照らし合わせてみれば余裕があるのはライダー、無いのがランサーになる。当たり前だ。

 無傷のライダーに対して、限界スレスレのランサー。

 だが実際は逆。

 見た目や身体的なダメージではなく、場を動かせる主導権を握っているのは、待つ以外に手立てがないライダーに対して、確かにランサーなのだ。

  

 見えない爆弾、気付かぬ導火線と時間との戦い。

 

 その結末は──

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ──!」

 

 カッと目を見開いたのはライダーだった。

 今まで満身創痍と言う眼をしていたランサーが、確かに此方を見て笑ったのだ。

 

 辞めろ

 

 その想いは届かない。

 槍が徐々に下に下りていく。そしてその矛先が正面を向き

 

「ゲイ──」

 

 投擲姿勢に入った。

 

 

 

 

「──すまぬ……! 坊主!!」

 

「うわあ!!」

 

 こうなってしまった以上もう選択肢は無い。ライダーは覚悟を決めて鞭を打った。

 ランサーがこちらのアキレス腱に気が付いた。あれはやかくそのフェイント等ではない。放っておけば此方の固有結界は消滅する。

 そうなれば正真正銘の一騎打ち。あのランサーに対しての勝ち筋はない。

 

 単発で巡る思考は的確に自らの負け筋を証明していく。

 ここから逆転があるとしたら奇跡だけ、その奇跡はこうだ。

 ランサーがこちらの攻撃に気付かず宝具の発動までに倒しきる。

 

 現実を見ればそんなことが出来ないのは分かりきっていた。

 先の攻撃でランサーはこの間合いを把握している。みすみすそんな大ポカをするわけもない。

 

 モーションを早め早々に投擲し、離脱しこの場の消失を待つか、それともここから翻り直接とどめを刺しにくるか。

 2つ、どちらを選んだところで勝利は覆らない。

 

 

 

 

 

「来ると思ったぜ……お前は敬意を以て俺の槍で直接殺してやる!! ゲイ(突き穿つ)

 

 確信を以てランサーが振りかぶり、ライダーは自らの敗北を悟る。

 ここからではどうやっても届かない。

 

 せめて坊主だけでも。

 最後の足掻きとして隣に立つウェイバーを地面に放り投げようとその腕を掴み──

 

「おい──?」

 

 紅い輝きに気が付く。

 

「避けろ……ライダー!!」

 

 その後の数秒を、ライダーは知覚出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、その展開はちと読めなかったぜ……おう征服王、なかなかじゃねえか、お前の相棒。最後の最後に全部持ってきやがって」

 

「いやはや。いやあ、余もこうなるとは思いもしなかったわい。まさか坊主に勝負を捨てないと言うことを教えられるとはな──まあもうちょいシャキッとしてくれれば言うこと無いんだが──」

 

 

 まるで旧知の友のような和やかな会話。

 その一人は右の胸に大穴を空け、もう一人は腹部の半分以上が吹き飛び互いに大の字に倒れている、と言う惨状に目を瞑ればの話ではあるが。

 

 ライダー、ランサーともに動く力は残っていない。

 ただ、ランサーが勝つ筈だった闘いは、ライダーの隣で伸びているウェイバーの咄嗟の機転で明かにかわっていた。

 

 ギリギリのタイミングでの令呪の使用。

 それだけではランサーの宝具を避けるという奇跡は叶わなかっただろう。

 しかしここに更なる偶然が重なった。

 それが、ライダーとランサーのサーヴァントとしてのパラメータ値の違い。

 それも普段なら触れられることすらない〝幸運値〝だ。

 

 ライダーの幸運値は最高ランクのAランクを更に上回る規格外のA+、対するランサーは最低値のEランク、そこに令呪の持つ力が絡めば運命、因果をねじ曲げることさえ有り得る。

 理屈ではない。奇跡とはそういう説明がつくものではないのだ。

 

 かくして、運命の力を以てその心臓を貫くはずだったランサーの槍は逆の胸に突き刺さり、即死を免れたライダーの宝具の進撃は止まることなく今度こそランサーを捉え今に至る。

 その結末が今だ。

 

 

 

「ま、そこまで悪い結末って訳でもなかったぜ……この闘いは中々……いや、相当に良かった。その名を轟かす征服王の軍勢、次がありゃそんときはハンデ無しで戦りてえもんだ」

 

「ああ──そうだな」

 

「へ、じゃあな──」

 

 すうっとランサーが光の粒子となって消えていく。

 それを見届けてからライダーはふうっと大きく息を吐いた。

 

 

 

 

 

「余の魔力も限界、坊主を連れて休息を取らねば──」

 

 正に死力を出し尽くしての薄氷の勝利。

 既に固有結界の崩壊は始まっており、兵も全て座に帰った。ここに残っているのはウェイバーとライダーの二人だけ。

 灼熱の太陽の狭間から夜空が覗くそのアンバランスにしばらく目をやりながら脱力する。

 もう一歩も動く力は残っていない。

 だがそれで大丈夫なのだ。固有結界は展開中は絶対的に不可侵の世界。

 如何に綻びが出来ようと、常人より遥かに探知に長け、尚且つ同じ固有結界を持つ、なんて相手がいないかぎりは入りようがない。

 

 だから──

 

「これは……一体……」

 

「まさかあのランサーを殺るとはな。征服王と言う名は伊達では無いらしい。残るサーヴァントも多くはない。君に免じてマスターの命迄は取らないで置いてやる──さらばだ」

 

 ──その青空も、夜空も、哀しい夕暮れに変えてしまう招かれざる来訪者なんているわけがないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。

なんかバッドエンドみたいになった……

どうもです。
今回はずっと書いてはいたのですが中々納得いく展開が書けず何度もボツを繰り返してました。

兄貴も征服王も大好きなキャラなのでこの作品でもう書けないと思うと寂しいですが、書きたいことは書ききったかなと
残るサーヴァントも、あと三人

それではまた!!
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