Fate/kaliya 正義の味方と桜の味方【完結】 作:faker00
人は誰しも子供の頃に想像したことがあるのではないだろうが? いや、もしかすると大っぴらにしていないだけで、大人になってからも同じような想像に時折心を踊らせているのかもしれない。
それは〝科学と空想上の伝説の動物、勝つのは果たしてどちらなのか?〝と言うことである。
誰しもがその空想の答えを証明すること、見ることができないということを理解している。
だからこそ、そこに想いを馳せるのだ。
ならばここは夢の証明なのかもしれない。
ただ空想ほどきらびやかではなく、どこまでも酷しく、苛烈であるが。
想像の世界、その答えをいまここに──
────
「てやあぁぁあ!!」
巨龍の咆哮、雷光が走るその中心をセイバーが縦横無尽に駆け巡る。
その身体は特大の魔力に覆われ、彼女が駆け抜けた地面を片っ端から抉り取っていた。
その姿はさしずめ機動性を手に入れた重戦車といったところか。
──この相手に小細工は愚策! 全魔力を攻防力に突っ込む!!
そんなセイバーの周りには黄金の疾風が渦を巻いていた。
今までの闘いではなかった現象、その正体は一体なんなのか?
その答えは彼女の手元に輝く聖剣が雄弁に語っていた。
そう、これまで宝具の開放時以外秘匿されていた聖剣の刀身が今は露になっている。
理屈は単純、今彼女の身体を覆う視認出来る程の魔力は魔力放出によって吹き出した極大のそれだけではなく、本来聖剣を秘匿するために使用している宝具、風王結界も全て彼女の周囲へ回しているからだ。
もとよりセイバーは燃費や負担を考えなければ、彼女に埋め込まれた竜の因子も相まって、英霊の中でも桁外れた魔力量を持つ。
そこから更に宝具迄合わせるとなれば、そのパワー、スピードは瞬発的にAランクを飛び越え、かの大英雄ヘラクレスにさえ劣ることはないだろう。
アルトリア・ペンドラゴンが自らの身体で闘う上で、単純なスペックのみでの話なら最強と言える。それがこの状態のだ。
「ふははは! 素晴らしい! 素晴らしいエネルギー量だ!! これだけのエネルギー、私が生きた時代のアメリカの電力を何年賄えたことか!!
だが、良いのか? 如何に剣の英霊と言えその出力は度が過ぎる。私は気にする必要もないが、貴様のマスターも只ではすまないのではないか?」
「はっ! 戯れ言を! 我がマスターはこれしきでくたばるほど柔ではない! 貴様こそ、無理に私に着いてくればこの世から消え去るのが早くなるだけだ……!!」
「我がマスターは既に死した! どれだけ長くともあと数分のこの身、好きにやらせてもらうだけのこと!!」
当然のことながらリスクもある。
まず一つ。風王結界がセイバーの身体を覆っていると言うことは、本来その風によって隠匿されるべきエクスカリバーにはその効力が適応されなくなると言うこと。
人類最高の名剣は、一目見るだけでその真名を口よりも雄弁に語るだろう。
聖杯戦争において、それは致命的。
そしてもう一つ。バーサーカーの語る通り、如何にセイバーと言えどもこれ程の爆発力はそう長くは保たない。
彼女本人も、そしてマスターである切嗣も。
もしここで他に奇襲を仕掛けられたりすれば一気に窮地に追い込まれることは間違いない。
通常の聖杯戦争ならば避けては通れないこの二つのリスク。しかしながら、その両方とも今は心配いらないと更にセイバーはスピードを上げる。
聖杯戦争は終盤。
衆目の面前でセイバーは宝具を開放しており、彼女がアーサー王であることは既にどの陣営にもバレており今更隠匿も何もない。
もう一つの弱点である大きな消耗も、彼女のマスターである切嗣はバーサーカーのマスターであるケイネスに勝利しており、残りもランサーのマスターはアイリスフィールと雁夜が相手どり、ライダーのマスターはライダーと行動を共にしていると直前にアーチャーから連絡が入っている。
全てのマスターの行動が割れている為奇襲の線は薄く、セイバー自身が切嗣から魔力を奪いすぎて殺しでもしない限り安全はほぼ確保されていると言って良い。
故に取れる、聖杯戦争最終盤限定の戦法とも言えるのだ。
──しかしやりづらい。バーサーカーの暴力的なパワーにまともな理性が入るとここまで変わるとは……!
大概の相手なら秒殺出来るだけの攻撃力、機動力を兼ね備えた今のセイバーだが、中々勝負を決めきるには至らずにいた。
バーサーカーの変貌である。
もしもバーサーカーが今までのままであれば、とうの昔に蹴りをつけられていたと歯噛みする。
言葉通り自爆覚悟の闘いなのであろうが、それにしても変わりようが大きすぎる。
これまで接近戦オンリーのパワーごり押しの戦法から一転した遠距離戦。
更にその一撃一撃の威力が以前より遥かに向上し、手数まで増えているとなれば、もはや別の敵である。
その変貌を、セイバーはこれこそがこの名も知れぬ英雄の真の姿であり、そこにバーサーカー特有のステータスアップが付与された良いとこ取りの状態にあると推測した。
だとすれば薄々感じていたこれまでのどこかチグハグとした違和感、そして明らかに本来と違う使用法によって軋みを挙げていた全ての動力源である右上腕部に装着されたコイルが滑らかに駆動していることにも納得がいく。
「ふん──!!」
バーサーカーの右腕から数本の雷光が走る。
全てを交わすのは不可能と思える広範囲の攻撃にセイバーは真っ正面から突っ込んだ。
「甘い!!」
セイバーの目の前まで飛んできていた光が霧散した。
今の彼女は言うなれば攻防に常時型宝具を展開しているようなもの。
そこに彼女の底無しの魔力のコーティングが重なり、生半可な攻撃では彼女を傷つけるどころか牽制にすらなり得ないのだ。
「ふむ、これでも弾くか……では、これならどうかな!」
コンマ数秒でその体に手が届く。
だがバーサーカーは余裕を崩さないまま、これまでのような片腕だけでなく、両腕で構えて腰を落とす。
「はあぁぁあ!!」
「──ぐっ……!」
反動にバーサーカーの上体が仰け反る。
射出された一撃は、線では無く柱。
兵器で例えるならさながらレールガンか。
威力が明らかに違う光の帯を、セイバーはコンクリートの地面を抉りとりながら急ブレーキを掛け、行き場をなくしたその勢いをそのまま推進力に変換し、垂直に跳ぶことで回避する。
「この距離でも交わすか。素晴らしい!」
「ちぃ──」
歓喜の声と同時に、間髪いれず更にもう1発宙へ浮かぶセイバーに向けて雷光を放つ。
無防備な状態での一撃。セイバーは即座に体勢を整え、地面と逆さ向きになりながら今度は〝天井〝を両足で蹴りだした。
「ほお……!」
感嘆の声があがる。
次の瞬間、ほぼ0距離にいた筈の彼女はバーサーカーから充分な距離と言えるだけの間合いに滑りながら着地していた。
「小癪な」
着地の衝撃を和らげるために衝いていた右膝を払いながら立ち上がるとセイバーはバーサーカーを睨み付ける。
この繰り返しだ。
バーサーカーの通常攻撃ではセイバーの牙城は崩せない。かといってセイバーが決定的な打撃を与える一線はバーサーカーは越えさせない。
攻めと守りが瞬時に切り替わっていく攻防戦。両者ともに決め手はなかった。
──さて、どうするか……こちらとしては無理する必要はありませんが
そんな中で、多少の迷いを懐きながら闘っているのはセイバーであった。
当然彼女は手など抜いていないし、死力を尽くして闘っていると断言できる。
しかし、普段の闘いとは違う点があった。
それは〝放っておけば確実にいずれ相手は自壊し、勝利を納めることができる〝と言うことである。
則ち、あまり好みではないにしても戦わずして勝つという選択肢が確かなものとして存在しているということ。
──このまま続けるのも良いが、早々に蹴りを付けるのは難しい。消耗を考えれば、ここは恥を承知の上で背を向けることも
果たして出来るだろうか、という問いかけに自答する。
答えは五分五分、やる価値はあるが保証もない。それがこれまでの攻防でセイバーが導きだした結論だった。
いま此方に通るだけの威力を出すにはさしものバーサーカーにも溜めがいる。それを考慮すれば、決定的とまでは行かなくともバランスを崩させ、視界から完全に外れることができれば、離脱は決して不可能ではない。
だがリスクが大きい、万が一気取られでもすれば嵌められることになる。ここまででバーサーカーも凡そ必要な出力の当たりがついているであろう事は、決して無視できる事柄ではない。
離脱に全力を注いでいる間に背後から大砲の直撃を受けるようなことがあれば、即刻敗北だ。
正面のバーサーカーから注意を外すことなく舌打ちする。
どうやら相手も、こちらが何かしらの葛藤を抱いているのには気が付いているらしいという感覚。
そして何より腹立たしいのは、その状況も含めて楽しんでいるのだろうと言う確信だ。
──理想としては早々に勝負を決めることだったが、想像以上に力は拮抗している。そう簡単にはいかないだろう
無理は出来ない。そういつまでも止まっているわけにもいかずセイバーは駆け出した。
その軌道はバーサーカーに向かうものではなく、あくまで牽制としてその周りを旋回するもの。
充分な距離を開けていれば、こちらから攻められない代わりにバーサーカーの攻撃も余裕を持って対処できるという目算のもとである。
そのまま頭の回転も止めることなくセイバーは駆ける。
──やはり背を向けるには危険な相手すぎるか……
当たり前のことであるが、いくら人工物とはいえ、やはり人のスピードでは避けるならばともかく、雷光より速く駆けるのは無理だ。
自明の事実をセイバーは改めて悟る。
それは、逃走という手段を放棄することへの後押しには充分な事実だった。
ならば次だ。
この先の見えない消耗戦の根比べに挑み続けるか? まだ終わりではないというのに?
これが勝ち負けの見えない勝負ならば、まだ思いきりの良い決断ができたかもしれない。
しかしながら皮肉なことに、失策を犯さなければ確実に勝てるという事実が、セイバーから通常時の決断力を奪っていた。
「つまらん……」
そんな彼女でも、この戦場に似つかわしくないあからさまな侮蔑の籠った呟きはしっかりと耳に入った。
いつの間にか、辺りを一面クモの巣のように埋め尽くしていた雷光も全て消えている。
その言葉の意図を読めず、警戒は解かないまでも走るのを止めてセイバーは困惑しつつバーサーカーを見る。その視線の先に見えた彼の瞳に映るのは、純粋な怒りだった。
「何を──」
「つまらんと言ったのだ! なんと嘆かわしい! これが私の叡知を以て越えるべき神話か!? 人類の開拓か!? いや、違う! 今の貴様などこの街に灯る電灯の一本にすら劣る!」
その猛りの先はセイバーか、それとも天なのか。
どちらも正解なのだろう。大きく両手を拡げ仰け反りながら始まった演説は1つの飾りもない本音だった。
本来ならば聞くに値しない戯れ言。だがその戯れ言がセイバーの脚を止める。
「セイバー、伝説の王、アーサー・ペンドラゴンよ! 貴様の打ち立てた数々の偉業は人々の憧れとなるに相応しかった! 故に私は心待ちにしていた! 仮に人の歴史に残らぬ仮初めだとしても、1つの神話を陥し、乗り越えるその時を! 人の可能性が拓かれる事を!」
「だと言うのに、この様はなんだ──負けることを怖れた姑息な戦術、真の輝きの出し惜しみ、まるで地を這う凡人のごとき脆さ! こんなものは、私の望んでいた闘いではない!!」
──一言で言うならば、それはただの自己中心である。
セイバーはその演説を内心に煮えたぎり始めた怒りと共に聞き終えた。
全くもって馬鹿げている。そんな想いのために動く道理など無いし、聖杯を得るためならばどんな道程でも歩むと進むと決めた決意に対する冒涜であると。
「ふざけるのも大概にするがいい……」
セイバーを取り巻く風が変わる。これまでが草原を駆ける爽やかな疾風だとするなら、今は燃えたぎるマグマから立ち上がる熱風だ。
周りを焼きつくさん勢いで噴き出すその風の中、彼女は聖剣を大上段に構える。
「貴様が何を想い、何のために闘うかなど私の知ったことではない……だが、そんなものに付き合わせられる程私の願いは安くはない!!」
「ほう、狂犬に完膚なきまで論破された願いに何れだけの価値があると!? 趣味の悪い主のお陰で全て聞いていたぞ。全てのやり直し、自らの力不足を他の者全てに押し付け破棄する愚行、そんな戯言になんの意味がある!」
「確かに"かつての"私の願いはずれていたのかもしれない。だが今の私は──違う!!」
灼熱に絡み合う黄金。竜巻の如く吹き上がる。
太古の竜、その幻影がセイバーの後ろで咆哮を挙げた。
「私の愛した、護りたかったブリテンは、民の笑顔は戻らない……それは認めざるを得ない事実なのだろう。
だが私はもう迷わない、その失敗を、私に付き従った者と共に夢見た景色から目を逸らすことなく前に進む!」
極大の黄金の柱が立ち上がる。
これまでのそれより遥かに大きく、真っ直ぐに。
彼女の心を表すかのように振り上げられたその刃は高らか勝利を謳う。
「ならば問おう! 幻想に生き、押し潰された小娘よ! 貴様はその分不相応な願いを何処へ置く!」
「この世界にもう一度ブリテンを──かつてのそれではなく、この時代に添った新しい国を、誰もが笑い、幸せに過ごせる、私は今度こそ──」
もう迷わない。
一つ大きく息を吸い込むと、万感の願いを込めてセイバーは聖剣を振り下ろす……!!
「皆が望み、私が望んだその夢を形にする!! ──
「それが答えか!!
眩い輝きがぶつかり合う。
だがその拮抗は長くは続かなかった。
セイバーが嘗ての清廉潔白、神話に生きるだけの人物、英雄ならばバーサーカーに勝ち目はあったかもしれない。
しかし、今彼の目の前に立っているのは、紛れもない一人の人間だったのだ。
セイバーさん、開き直る
なんだか纏まりつかないですが一月考えてもこれ以上が思い付かなかった……テスラファンの皆さんすまない
そして次回はいよいよ約半年振りに主人公登場
予定ではあと5話前後で完結予定、ラストへ向けて頑張ります
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それではまた!!