Fate/kaliya 正義の味方と桜の味方【完結】   作:faker00

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Epilogue その手に掴んだものは

 

 

 

 

 ──あれから、10年の時が過ぎた。

 

 それだけの時間があれば、世間は信じられないほど大きく切り替わる。

 町を行く若者達のコミュニケーションツールはポケベルからケータイへ

 当時ほとんど普及していなかったノートパソコンは、半分の重さになり世間へ浸透

 テレビはこれまで常識だったアナログ放送に成り代わる、デジタル放送という概念が誕生した。

 

 もはや別世界と言っても過言ではない。

 だが、変わらないものもある。強い人と人の結び付きや関係性と言うものがその最たるところだろう。

 

 経験や思い出は、心を揺さぶるような情熱は、人が忘れない限りその心に残る。

 その強い思いを忘れないなら、過去は決して、ただ過ぎ去り、忘れ去られるだけの遺物にはならない筈だ──

 

 

 

 

 

 

 関西某所にある国を代表する国際空港は、夏休みと冬休みの繁忙期シーズンの中間地点、長期休暇のしばらく存在しない、強いて言えば閑散期とも言える季節だと言うのに、溢れんばかりの人混みでごった返していた。

 その中を行く人達の忙しなさに変わりはないが、暑さに汗をかき、焦ったようにハンカチに手を伸ばす人は随分と減ってきたようだ。

 

 かといってそれはあくまで傾向であり、皆が皆そういうわけではないのだが。

 例えばこの男がそうだ。雨と霧の国と呼ばれる英国、ロンドンの平均気温は、徐々に亜熱帯と化し始めている日本に比べて10度近く低い。

 どちらかと問われれば自分はそちら側の気候の方が慣れていたはずなんだけどな、とキャリーケースを引きながら男は苦笑しつつ汗を拭う。

 

 

「──取り敢えず魔術師の世界に最低限でも顔を繋ぐ為に年に2月通ってはいるけど……俺はやっぱり、桜ちゃんがいるこの日本の方が好きだなあ……」

 

 男はある一点を除いて平凡だ。

 しかし、その一点でこの往来を行く数千人のその全てと一線を画す。

 そう、間桐雁夜は魔術師だった。

 

 

 

 

 

 

「おーい! おじさーん!」

 

「やあ凛ちゃん、久しぶり」

 

 休日の朝にこれだけの美少女が出迎えとは、俺はこの場の男達の嫉妬、そして全面的にやましい意味での疑念を一心に受けているに違いない。

 

 空港からシャトルバスで駅まで30分、そこから特急に揺られること1時間弱、時刻はまだ9時を過ぎた辺り。今日が日曜日ということを考えればまだ寝ている人も多いだろう。

 そう言うわけで、平時に比べると随分と人混みが少ない新都の駅に、良く映える"赤の彼女"は些か眩しすぎるのだ。

 

 行くはどこぞのアイドルか、それとも女優か、なろうと思えば彼女にとってはそうハードルの高い話ではあるまい。

 そんな下らない事を考えながら、雁夜は"右手"を振り返す。

 

 遠坂凛は高校2年生になっていた。

 

 

 

 

「おみやげは?」

 

「そう来ると思ってたよ──はい、向こうの骨董品屋さんで見つけたブレスレット。こういうの、凛ちゃん好きでしょ?」

 

「うーん、悪くないですね。流石おじさん、私の好みをばっちり掴んでる」

 

 そりゃあ国外に行く度に毎回毎回お土産をせがまれれば、少しは好みくらい把握できる。

 雁夜は横を歩きながらニカッと笑う凛から少し視線を外し遠くを見つめる。

 

 あれは7年前だったか、年齢が10に達した彼女は一度一方的に雁夜から距離を取り、子供扱いしないでください!と正面切って宣言してきたのだ。

 雁夜はそれを桜と同じように国外帰りの時にお土産で釣る──そんなつもりは毛頭なかったのだが──ような形になっていたことにあるのではと疑い、試しに一度手ぶらで帰って来た振りをした。

 結果はと言えば、やばいという空気に気が付き、ポケットに忍ばせていたネックレスを出す前に号泣からの駅員室送りという、思い付く限り最悪に近いものだった。

 

 美少女の涙は正義、そして彼女に逆らうのは悪。

 そんなことを認識させられた瞬間である。

 

「倫教はどうでしたか?」

 

「どうもなにもいつもと変わらない──正直に言うと楽しくはないかな」

 

「ああ──確かにおじさんは魔術を極めたい訳でも、研鑽に身を投じたい訳でもないですもんね。あくまでも桜の為に行っているだけ」

 

「加えて家自体はそこそこ歴史あるのに、力量は一番ハードルの低い現代魔術科でも最低レベル、気が滅入るよ──」

 

「はいはい、愚痴なら愛しの桜にしてくださいな。まあ後1年半もすれば、そんな泣き言なんて言えない位に、私が、きっちり、みっちりと鍛えて上げますから」

 

「あはは──お手柔らかに御願いします」

 

 最近"あいつ"が言っていたことが良く分かる、というか身に染みる。

 時折彼女の背中に、あかいつばさが見えるのは気のせいだと信じたいと雁夜は少し鳥肌が立った手首を抑えた。

 

 凛がロンドンに来るのは、情けない話だがとても有り難い話であるし、心強い。

 桜を堂々と自分の力で守る為、雁夜が時計塔に初めて赴いてからももう10年近くの月日が経つ。

 魔術師であると認められない限り、彼女を襲い来る怪奇から救うことなぞ叶わない。

 その思いだけで、はっきり言えば反吐が出る魔術師の世界に踏み込んできたが、中々に苦しいのが正直な所だと雁夜は溜め息を吐いた。

 

 

「考えておきますね。おじさん、今日はこれから学校に行くまでは──」

 

「一度切嗣さんの家に荷物を置きにいこうかなって。やっぱりあそこの方が落ち着くから」

 

「間桐の家が10年前に爆散してから、家族自体離散したようなものですもんね。慎二も無駄に要領が良いから独り暮らしも慣れたものですし」

 

「まあ──ね……」

 

 兄である鶴野、そして甥である慎二との関係は良好とは言えない。

 それでも慎二とは会えば挨拶程度するくらいには改善されているので、まだましと言えばましなのだが。

 

 

 

「取り敢えずそちらのことは置いといて──おじさん、私の言いたいこと、分かってますよね?」

 

「うっ……なんのことかな? 凛ちゃん……」

 

「へえ、私に対してしらを切るんですか……良い度胸ですね、雁夜おじさん♪」

 

「ごめんなさい! 今のは嘘です! 凛ちゃんの言いたいことは良くわかってます!」

 

 蛇に睨まれた蛙。

 年上の威厳など知ったことではないと雁夜は頭を下げ、それを見て凛は満足げに頷き

 

「物分かりの良いおじさんは好きですよ──はあ、普段はしっかりしてるのに、何でお母様の事になるとこんなにうじうじするんだか」

 

 今度は呆れたように腕を組む。

 

「それは──」

 

「分かってます。おじさんの気持ちも、葛藤も。そんな事は私が子供の頃からずっと」

 

「ごめん──」

 

「この件で謝るのは禁止ですと、今まで何度も言いましたよね? おじさんがお父様を殺したのは事実、けど、魔術師として聖杯戦争に参戦した以上、それはお父様とて覚悟していた筈です。そして、おじさんにはおじさんの譲れない正義があった。それだけの話」

 

 これ迄とはうってかわって真剣な表情で凛が静かに語る。

 

 聖杯戦争が終結した直後、雁夜は全てを告げに禅城の家へ赴き、時臣の訃報に取り乱した葵から、当時7歳の凛から見ても酷いと思えるほどの罵倒を、ただひたすら頭を地面に擦りつけながら静かに受け止めていたその光景は、凛の脳裏にこびりついていた。

 そしてその際に雁夜は一言も口にしなかったが、それが桜の為であると判明し、今度は落ち着いた葵が、凛の手を引き謝罪に向かったときのことも。

 その時、凛は幼いながらに確信したのだ。父を殺したのは確かなのだろうが、彼は決して悪人でもなければ、責められるべき人間でもないと。

 

 だからこそ、自然にこれだけ良好な関係を築けているのだ。

 

 そして、長いときを経て彼女の母である葵も、その意思を今では理解している。

 

 だというのに、雁夜だけはあの日のままだ。

 

 それが凛からすると、どうしようもなく歯痒かった。

 

 

「暫くこっちにいるんですよね? 桜と過ごす時間を大切にしているのは私も良く分かっているので今日来いとは言いません。ですが、明日は家に来て下さい。10年待ったのに煮え切らないおじさんが悪いです。問答無用」

 

「ち、ちょっと凛ちゃん、いくらなんでもそれは──」

 

「ああ、もう! 焦れったい!」

 

 ぷちん、っと何かが切れる音がした。

 カツン! と大きく靴音を響かせると、凛は雁夜に詰め寄り、勢いに驚いて後ろに仰け反ったその耳許に口を持っていくと凡そ高校生とは思えない妖艶さでそっと呟いた。

 

「良いんですか? あんまりまごまごしていると、お母様、他の誰かに獲られちゃいますよー」

 

「──!?!?」

 

「お母様、流石は私達のお母様だけあってどんどん美しくなってますからね。言い寄ってくる男の人、正直後を断たないんですよ……あーあ、私もそろそろお母様の結婚式で着る晴れ着準備しておかないとなー

 おじさんも"賓客"として参列されるでしょうし」

 

「……っ! 分かった! 分かったから! 明日ちゃんと行くから!──あっ」

 

「はい、言質頂きましたー。あ、もう深山ですね。それじゃあおじさん、また後で!」

 

「ちょ──っ!!」

 

 何やら取り乱している雁夜に背を向け、凛はチロッと舌を出して笑い、自宅へと続く長い坂を軽やかに歩いていく。

 遠坂凛は聡明で、あかいあくまだ。その事実は、いつ、いかなる世界でも変わりはしない、普遍の事実である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか疲れた──失礼します……」

 

「おー、カリヤ久しぶりー、グーテンダークー」

 

「あら、思ったより遅い到着でしたねカリヤ様」

 

「ちょっとね……グーテンダーク、セラ、リズ」

 

 何故かヒットポイントが既に危険信号圏内である。

 さながら活動限界が残り1分を切った光の巨人のようだ。何故か重くなった身体を引き摺り、衛宮邸へと辿り着いた雁夜を出迎えたのは、この純和風の邸宅とはイメージのかけ離れた銀髪の女性メイド二人組だった。

 タンクトップにホットパンツ、更に口にはアイスを咥えるという体のリズはおよそメイドには見えないが、それはそれである。

 セラとリズ、今となってはアインツベルン純産最後のホムンクルス、この二人も10年前のイリヤ奪還以降、この日本へ降り、この衛宮邸に居を構えている。

 

「桜ちゃんとイリヤちゃんは?」

 

「お二人ならもうブカツドウとやらに出立されました。本日が大事な競技会であることはカリヤ様もご存知かと思いましたが──キャリーケースはそこに置いておいてください。後で私が離れに運んでおきます」

 

「間に合わなかったか。ありがとうセラ、因みに切嗣さんは」

 

「旦那様なら恐らく土蔵ではないでしょうか? こういう時はいつもそちらに」

 

「分かった。ちょっと見てくる」

 

「いってらー」

 

 

 貴女も少しはメイドらしくしなさい!と怒るセラの声を背に、変わらないなと雁夜は笑みを浮かべ、軒先から外へ出る。

 土蔵まではそれなりに距離がある、そこにいる切嗣には、この喧騒も聞こえてはいないだろう。

 

 

 

 

「切嗣さん、雁夜です」

 

「む……ああ、雁夜君か、久しぶりだね。倫教は相変わらずかい」

 

「こちらこそ──ええ、相変わらず、です。寒くないんですか?」

 

「ここは丁度良い具合に日が入る。むしろ暑いくらいさ」

 

 重たい扉を軋ませながら押し開けると、背を向けて座っていた切嗣が振り返る。

 その身に纏っているのは例によって黒い浴衣である。そしてその手に大事そうに抱えているのは、今まで磨いていたのであろう愛用の銃……ではなくカメラだ。それも明らかに高価そうな一眼レフである。

 嘗ての漆黒のスーツに重火器からは想像も付かないラフさ加減。あれから一番変わった──丸くなった──のは断トツでこの人だろうなと雁夜は心の中で独り言つ。

 

 

「まあ座ってくれ。僕も君が出てから2.3週間してから国内外飛び回っててね、落ち着いたのはここ1週間くらいだ」

 

「それだとイリヤちゃん機嫌悪いんじゃないですか?」

 

「ああ、参ったよ。帰って早々"娘よりも知らない誰かの人助けの方がキリツグは大事なのね!"と怒られてしまってね……そうじゃないことを証明するために、今日はイリヤと桜ちゃんとベストショットを出来るだけ多く撮らないといけない」

 

「あはは、イリヤちゃんらしい──」

 

 いつも以上に気合いが入っていたのはそれか。

 何故か10年前と同じくらい目付きが鋭くなった切嗣に雁夜は納得する。

 イリヤと桜、この二人に対して彼は甘々も良いところなのだ。

 

「弓道場って撮影OKなんですか? 俺も行くの初めてなんで良く分かってないんですけど」

 

「派手にフラッシュを焚いたり、スペースを取ったりしなければ大丈夫らしい……まあ可愛い娘達の話は勿論大事なんだが」

 

「──!」

 

 カメラをそっと脇に置き、胡座をかいて此方へと顔を上げた切嗣の空気がすっと切り替わる。

 どれだけ時が経っても変わることのない、鋭利な刃物を突き付けられているようなこの殺気には、いつになっても慣れられそうにない。

 ごくん、と唾を飲み込んで、雁夜は切嗣の前に正座する。

 

 

「さて──籍は間桐に置いたまま、僕が桜ちゃんの実質的な後見人を務める形で預かってもう10年近くになるのか」

 

「はい、切嗣さんには感謝しています。悔しいですけど……俺一人じゃあの頃の桜ちゃんは守れなかった」

 

 静かに頭を下げる。

 当時の雁夜には、まだ自立など出来るわけもない桜を経済的生活的と言った人間的な面、そして、様々な意味での魔術的な側面、どちらにおいても守るなどと大言出来る力はなかった。

 だからこそ聖杯戦争の最後、魔術師殺しの異名を持つ切嗣を頼った。

 彼は魔術師に取っての天敵である。その庇護下にあれば、桜に余計な干渉を行おうとする輩への牽制にこれ以上はない──果たしてその思惑は当たり、桜はこの10年、その日常を壊されることはなかった。

 

「感謝しているのは僕も同じだ。桜ちゃんのおかげで、イリヤも寂しい思いをせずにすんだ。今では本当の姉妹以外の何物でもない」

 

「しかしだ雁夜君。そろそろ選択の時は近い。彼女も今後どうして行くのか話をしないとな」

 

「はい。それについてなのですが──」

 

 楽しい時間も、いつか終わりを迎える。

 それは絶対の事実だ。桜ももう高校生、今後自らをどの位置に置くのか。

 その時は、確実に迫っていた。

 

「俺は……桜ちゃんの意思を尊重しようと思います。仮に彼女が魔術師としての道を歩むと言うのなら、俺はそれを止めるつもりはないです」

 

「ほう──」

 

 雁夜の返答に、切嗣は驚いたように目を細める。

 

「意外だな──望んだとして、君がその道を容認するとは」

 

「ええ、出来るなら穏やかに、魔術なんかとは縁の無い人生を歩んでほしい。それが本音です。けど──自分の人生を決めるのは、自分自身ですから」

 

 我ながら随分と考え方が変わったものだ。

 雁夜は思わず笑い、切嗣も柔らかく答えた。

 

「それじゃあまた後で。僕も後から学園に向かうから」

 

「分かりました。切嗣さん、機材はなるべく少なめに抑えてくださいね」

 

 土蔵を後にする。時計を見ればその短針は10と11の間を指していた。

 凛との待ち合わせは13時過ぎ、少し仮眠を取るべく、雁夜は欠伸をしながら離れへと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじさん、遅刻はご法度って言いましたよね?」

 

「その……すいませんでした」

 

 こんなに気持ちの良い昼下がりにダラダラと冷や汗を流すはめになるなんて。

 制服姿に着替えた凛を前に、雁夜は息を切らしながら手を膝につく。

 遅刻だ、それも30分とかなり大事故。校門にもたれかかっていた凛は明らかに不機嫌だった。

 

「高校に来るのは初めてだとおじさんが言うからわざわざ待ち合わせにしたのに」

 

「いや、ほんとに、ごめんよ──」

 

「はあ、まあ良いです。時差ボケもあるでしょうし今日は多めに見ますね。私もこうなるかもなと思って少し早めの時間を伝えていましたし──けど、次にやったら……」

 

「──肝に銘じます」

 

 

 宜しい、とだけ言うと凛は校門から学内へ入り、雁夜はそれを追従する。

 彼女等が通う穂群原学園はこの冬木では最大規模の私立学園である。

 これまで桜とイリヤが通っていた公立中学校しか学校のイメージがない雁夜は、その規模感に素直に驚く。

 

 

「あ、遠坂さんだ」

 

「遠坂さん、こんにちはー」

 

「相変わらず今日も綺麗……」

 

「流石はミスパーフェクト、あーあ、私もあんな美少女に生まれたかったわー」

 

「おはようございます。皆さん休日だというのに部活動に精がでますね」

 

 

 颯爽と校庭を行く凛は注目の的だった。

 それは男女を問わずのことであり、その後ろを歩く雁夜にも自ずと視線が向く。

 え、あの人誰? もしかしてストーカー?

 そんな感情が目に見える好奇に気まずさを覚えながら雁夜は少し背を丸めるようにして歩く。

 

 

「また卑屈になる。そういうの、よしてください」

 

「今回は俺が正しいと思うんだけど?」

 

 そんなやり取りをしているうちに、校庭を横切った雁夜と凛の前に"和"と言う雰囲気を全面に押し出す弓道場が見えてくる。

 今日は大会ということもあり、何時もより慌ただしいらしい。

 各々が学校毎にスペースを陣取り、そこに固まるなか、ホストに当たる穂群原の生徒はその中心でミーティングを行っているようだった。

 そんな中、二人の少女が彼等に気付くと、回りのメンバーに会釈をすると小走りに駆け寄ってくる。

 

 

「お久しぶりです。おじさん。姉さんも」

 

「やっと来たのねカリヤ、リン。ほんとに遅いんだから……あれ、キリツグは?」

 

 その姿に、雁夜はおもわず頬が緩んだ。

 

 白い胴着に黒色の袴を履いた二人の少女は、その格好以外は正反対だ。

 お目当ての父親が雁夜と共に現れなかったことにむくれているイリヤスフィール、イリヤと、そんな彼女をあはは、なんて苦笑いで見る桜

 雁夜にとって、大事な二人である。

 

「切嗣さんなら後で来るってさ。桜ちゃんもごめんね、遅くなって」

 

「いえ、まだ私達の試合までは少しありますし……お忙しい中時間をつくって頂いてありがとうございます」

 

 この10年、桜は幸せだっただろうか?

 久々に見る彼女に、雁夜はふと、そんな事を思った。

 髪をかきあげる彼女は贔屓目無しに見てもとても美人に育っている。でも時々、なんだか遠くを見つめているような気もする。

 彼女の幸せを祈り続ける雁夜には、どんな細かい仕草や変化も気になった。

 

「まーたサクラの事をじっと見て……今の貴方、端から見たらただの変態よ、カリヤ」

 

「うぇっ!?」

 

「イ、イリヤ姉さん!」

 

 惚ける雁夜にスパーン、と。ハリセンで頭をひっぱたくように強烈な突っ込みが入る。

 あわあわと焦る桜、そして雁夜の横で必死に笑いを堪える凛、ある意味いつも通りの日常である。

 

「と、ところで桜ちゃん、慎二君は?」

 

「あー……兄さん、何となくおじさんが来るのを察したのか、さっき逃げちゃったんです……とりあえずよろしくとだけ伝えておいてくれって」

 

「そっか……」

 

 どうやらこの関係の改善にはまだまだ時間がかかるらしい。

 ひねくれた甥っ子の顔が頭に浮かび、雁夜は少し気が重くなるのを感じた。

 

「慎二も慎二でめんどくさいですから……今日は試合に集中したいのもあるでしょうし。桜にイリヤに綾子に慎二、そして"あいつ"。藤村先生は"来年は全国制覇じゃあ!"って気炎を上げてたけど、そこのとこどうなのよ? 二人とも」

 

「全国制覇は流石にどうなんでしょう……」

 

「当たり前でしょ、私がいながら負けるなんてありえないわ」

 

 またも正反対の答えを返す二人に思わず吹き出す。

 何だかんだでこの二人は良いコンビだ。

 

 この笑顔を守れただけで、あの戦いに意味はあったのだと雁夜はいつも実感する。

 

 

「あ、美綴先輩が呼んでますね。イリヤ姉さん」

 

「はいはーい。ま、サクッと決めてくるからちゃんと見ておいてね」

 

 このチームの主将だろうか、見るからに快活そうな茶髪のショートカットの女子生徒がこちらに手を振りながら桜とイリヤの名前を呼んでいる。

 

 これ以上ここにいては邪魔になってしまうだろう。

 そう空気を読んで、凛と共に場を立ち去ろうとした雁夜を桜が呼び止める。

 

 

「あ、おじさん──」

 

「どうかした? 桜ちゃん」

 

 呼び止めたは良いが何を言うかは纏まっていなかったらしい。

 桜はえっと……なんて言いながら顎に手を当て、少し困ったような表情を浮かべる。そのまま思案すること数秒、漸く方針が定まったのかグッと両拳を胸の前に持ってきて──雁夜が思わずその豊満なバストに目が行き、後程自己嫌悪に陥るのはまた別の話だ──ぐっと力を込める。

 

 

 

「私、頑張りますから! 応援してくださいね!」

 

 その笑顔はまるでひまわりのように眩しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そう言えば凛ちゃん」

 

「何ですか?」

 

「いや、聞こうと思ってたんだけどさ……凛ちゃん、最近彼氏出来たんだって?」

 

「ぶふっ──!」

 

 遠坂凛が分かりやすく取り乱したのは、桜達の所属する穂群原学園の試合が始まってからのことだった。

 選手達と弓の軌道を横から見ることになる観客席の中で、彼女は丁度飲んでいたペットボトルのお茶を吹き出しそうになり……ギリギリで手を伸ばし抑え込む。

 

「けほっけほっ……あの、大体わかりますけど誰から聞きました?」

 

「……桜ちゃんだけど? さっき会って思い出した。"姉さんに彼氏が出来たんですー"ってすごく嬉しそうに電話してきたからさ」

 

「あの娘ったらほんとに……ああ、ありがとうございます」

 

 お茶を噎せたせいが顔が赤くなり、ついでに涙目になりながら凛は雁夜が差し出したおしぼりを礼を言って受けとる。

 

 

「そうですね……どうせいつかは分かることですし、今紹介しても良いかもしれない」

 

「え!? いま! ってことは……」

 

「察しが良いですね。はい、私の彼氏は弓道部の部員です──その積極性はお母様に発揮して欲しいのですけど」

 

 凛が呆れたように何か言っているが雁夜の耳には入っていない。

 大人げなく少し状態を乗り出して射場を見る──余談ではあるが、切嗣は更に大人げない。最前列ど真ん中を確保し、数年前へ戻ったように鋭い眼光を光らせ、ひたすらイリヤと桜を連写していた──その場に正座しているメンバーは5人

 

「さっきの子に、桜ちゃん、イリヤちゃん、慎二君──」

 

 見知った顔は流し見る。

 凛の彼氏となればそれは一体どんなイケメンなのか、見れば一目で分かる筈。

 そうして最後に、今正に正座を崩し立ち上がろうとする生徒へと辿り着き──

 

 

 

 

「え──」

 

 雁夜の中で、時が止まった──

 

「そんなに期待するほど美少年、って訳じゃないですよね? けどなんというか、私が昔夢で見てから忘れられないヒーローに似てると言うか……いや、そのヒーローは真っ赤でしたしもっと背が高かったりで外見が似ているかと言われるとそうでもないんですけど──」

 

「ああ──」

 

 確かにその通りだ。

 雁夜はその夢の正体を誰よりも知っている。そして今目の前に立つ少年と、"彼は"決して姿形が似ているとは言えない。

 だが何故だろう。雁夜は自問する。

 どれだけ鮮烈な思い出であろうと、人の記憶は10年も経てばある程度劣化する。

 

 少なくとも、その時と同じだけの衝撃を生み出すのは容易ではない。それこそ同じ人間を連れてきて、同じシチュエーションを再現でもしない限りは。

 だと言うのに、他人である筈の少年を見て、10年前の記憶がまるで今のように鮮明に沸き上がるのは一体何故だ?

 

 

 

 その答えは、とっくに心の中で出ていた。

 

 

「──そうだったのか……」

 

「けど好きになっちゃったものは仕方がないと言いますか……え、おじさん何で泣いてるんですか? やだ、もしかしてお母様狙いと見せかけてその実狙いは私だったとか──?」

 

「何でもないよ……凛ちゃん、彼の名前を聞いて良いかな?」

 

「は、はい。彼の名前はですね……」

 

 射を射る前の一連動作を終え、少年が会に入る。

 

 凛の口からその名前が紡がれるのと、彼の弓が放たれたのは、同時のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「"シロウ"って言います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 矢の行方は、見るまでもなかった。

 

 

 

 どこまでも美しい軌跡に場が静まり返る。

 雁夜は澄んだ青空を見上げ

 

 ──お前が守りたかったものは、確かにここにあるぞ、アーチャー

 

 ゆっくりと、見えない誰かを鼓舞するように、拳を空に突き上げた。

 

 

 

 Fate/kaliya 正義の味方と桜の味方 fin

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────

 

 

 

「そうか、こんな物語もたまには良いかもしれない」

 

 微睡みから眼を覚ます。

 赤い外套に身を包んだ青年は、気難しい顔を僅かばかり綻ばせ。

 

 彼の人生は、確かに後悔の連続で、様々なことを怨み、憎んだかもしれない。

 

 けれど、それでも──

 

「私の歩んできた道は、決して────」

 

 

 

 

 

 

 

 




 FGOのキャッチコピーが未来を救う物語ならば
 私はこの物語を、雁夜の勇気に応える物語にしたかった

 どうも、作者のFaker00です。

 2016年2月よりおよそ3年と2ヶ月。複数回の半年以上の長期離脱(半エタ)もなんとか乗り越え、ようやく完結までたどり着くことが出来ました。
まずは何度も御心配お掛けした中、最後までお付き合い頂いた読者の皆様に御礼を

"長い間、本当にありがとうございました!!"

 色々と評価が二転三転する雁夜おじさんですが、私は彼の蟲蔵に自ら舞い戻ったあの勇気は本物だと思っています。
 だから、そんな彼が報われる物語を正義の味方の力を借りて作ってみた。
 それが今作になります。

 皆様にご満足頂ける出来だったかは分かりませんが、一人でも多く楽しんでいただけたようでしたら、それに勝る幸せはございません。

 それではまた。





────

 と、言うことで真面目モードはおしまい!
 遂に完結しましたやったぜ!!

 ぶっちゃけ何度かもうダメだと思ったけどやりきりました! はい!

 今後はまだ考え中ですが

1、fate/spider-verse を続けて書く

2、fate/kaleidsaber にもう一度チャレンジする

3、なんか短編集書く

4、SNメンバーが活躍しそうな新作を書く

 ちょっと充電期間は頂くかもしれませんが、いずれかで行こうかと

 こんなん見たいとかアイデアありましたらそれもどうぞ! ですが、作者FGOは1部の途中でドロップアウトしたんでそこまで分からないのでそこはご了承を

 ではいつも通り、それではまた!
 評価、感想、お気に入り登録どしどしお待ちしております!!



 おしまい


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