Fate/kaliya 正義の味方と桜の味方【完結】   作:faker00

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アルトリア

 

 

 

「──っ!」

 

 あまりの眩しさと、身体を突き抜ける爽やかな風に舞い上がりパタパタと視界を覆う白い花びらに思わず目を細める。

 私はここがどこかを知っている。この美しさとは対照的に心が冷めていくような感覚。

 別に"彼"の事が嫌いなわけではない。私に悪意を以て接していたとも思わないし、礼儀がなっていないわけでもない。ただ、文字通り"次元"が違うから、それを理解できてしまうからどうにも全幅の信頼を置くにはこの世界の誰よりもほど遠く、それでいてこれほど信用に足る人物は世界の果てまで探してもそうはいないだろう。

 

 ほら、今も私の考えていることがお見通しだという風に、花の中から現れたそいつが懐かしいような思い出したくないような柔らかな笑みを浮かべ"やあやあ"なんて言いながら此方へ歩いてくる。

 

 別段話したい訳ではない。でも逃げ出したり拒絶したりしたいかと言われると、どう考えてもそういうことではないのだ。

 彼を前にすると、いつものようにしっくりこない思考に一つ溜め息。諦めて開いた口から溢れた言葉は自分でも笑ってしまう位に淡泊だった。

 

 

「久しぶりですね、花の魔術師。まさか貴方が私を呼ぶとは思わなかった」

 

「そんな連れないことを言わなくても良いじゃないかアーサー……いや、今はアルトリアかな?」

 

 花の魔術師、マーリン。今思ってみれば私の世界はこの男によって形作られていたといっても過言ではない。

 そんなことはまるで無かったかのように自然に差し出された右手、その手を何の気なく握り返した。

 

 

 

 

 

 

────

 

「貴方の事だ、どうせ全て見ていたのでしょう?」

 

「そうだとも。だからこそ今の君に無性に会いたくなってしまってね」

 

「はあ……」

 

 とにかく座って話そうじゃないか、等というマーリンに連れられてセイバーが辿り着いたのは彼が永遠に幽閉されている塔………ではなく、花が咲き乱れる土手だった。

 何とも言えない空気の中、その中腹にニコニコと座るマーリンの横にセイバーも腰を下ろす。

 

 

「私がどういう性格──いや、論理で動いているか、アルトリア、君なら理解していると思うけど」

 

「理解したくもないですが」

 

「まあまあ、そうむくれないで。彼は私の考える"美しさ"とはどこまでも対極にいるような存在だ。だというのに、その本質はどこまでも美しく、人としての画に溢れている。素晴らしい矛盾だ」

 

「ええ、それに関しては同意するしかないですね。彼は……アーチャーはとても良い"人"であった」

 

 マーリンが愉しげに話す"彼"という存在が誰の事を指しているのかは直ぐに察しが着いた。

 セイバーは見えるはずもないその人物を探すように地平線を眺める。

 その赤い英雄は、確かにマーリンの言うように矛盾だらけの存在だった。

 けれども、その矛盾は不快なものではなく、今となっては尊くすら感じると。

 

「今の君は、私が作り出したアーサー王ではもうないのかも知れないね、アルトリア。全く、君は私が関わってきた中でも指折りの王だと言うのに、ほんの数日でその在り方そのものを変えられてしまった。

 もしも私が人間で感情があったなら、激しい嫉妬、そして羨望を抱いただろうに」

 

「実際のところは?」

 

「事務的な興味と好奇心に溢れているだけさ」

 

「言い切りましたね」

 

 こういうやつなのだとセイバーは溜め息をつく。

 

 悪気だとか悪意だとかそういう類のものではない。それが事実なのであると。

 人と夢魔のハーフであるが故に彼が作り出している見えない壁はいつも変わらずひたすら柔らかく、それでいて強固に隣合わせに座る二人の間を隔絶に隔てていた。

 

 

「……それで、君はこれからどうするんだい?」

 

 少しの沈黙の後、マーリンはセイバーにそう問いかけた。

 端から見れば、それは心からの問い掛けや、見方によっては弟子を心配する師のように見えないことは無いだろう。

 だが、そんなものじゃないことは良く分かっている。

 セイバーは眉一つ動かさず、冷ややかに答えを返す。

 

「分かっているから貴方は最初に私を"アーサー"ではなく"アルトリア"と呼んだのでしょう、マーリン。あの日、貴方の目論見通りに選定の剣を引き抜き、確実な死へと向かう滅びの運命を背負ったブリテンを救おうと最期まであがき、その結末を呪い、変えようとしたアーサー王はもういない。

 今の私は……そうですね、どこぞの覇王の言葉を借りるならば、分不相応な夢を見るただの小娘、というところでしょうか?」

 

「分かっているとも。ただの確認と言う奴さ。しかしただの少女か。私が視ようとした景色とは随分と違うものになりそうだけど……それはそれで興味深いのかもしれないね」

 

「貴方の都合など知りませんよ? これからの私は私の為に、笑顔にしたい民の為に動きます。それが貴方の望む姿なら幾らでも楽しめば良い。そうでなければ他所へでも行ってしまいなさいと言うだけの話です」

 

「その行く末を楽しみに待つとしよう。アルトリア。だけど一つだけ忠告だ」

 

 愉快そうに──それが本当にその表情どおりのものなのか、否か、それは本人にしか分からないが──笑みを浮かべていたマーリンの表情が一転、真剣なそれに変わる。

 

「なんでしょう?」

 

「今の君は生まれたての雛鳥のようなものだ。生まれながらにして背負っていた運命から解き放たれて見るその景色はとても眩しく、そして……全く違うものに見えていると思う。世界はとても広い。進むためには道標が必要だ。後は云わなくても分かるね?」

 

「マーリン、そんなことを言うためにわざわざ私を呼んだのですか」

 

 少し呆れたようにセイバーが返す。

 

「確かに彼が、アーチャーの志した理念はとても立派で、敬意に値する。だがあの道は、言うならば突き抜けた極論を更に飛び出した突然変異のようなものです。心配されずともそこを目指そうなどとは思いもしません」

 

「その通りさアルトリア。彼のしていることは地獄の業火に巻き上げられながらも、他の誰かの助けになるのなら自ら更にそこに薪をくべて笑顔で見送るようなもの

 それも炎の苦しみも、笑顔も、どちらも痩せ我慢ではなく本心で感じながら、ね。その先は地獄だぞ……か。良く言ったものだよ本当に」

 

「その先は地獄……?」

 

「なんでもないさ。とにかく、それが分かっているのならそれで良い。ではアルトリア、君がこれから目指すのは」

 

「数々の国を、王を作ってきた貴方からすれば不本意極まりないかと思いますが、言ってしまえばノープランです」

 

「ほう」

 

 青いドレスの臀部に付いた白い花びらを軽く叩きながらセイバーは立ち上がり、マーリンを見下ろすような形になる。

 マーリンは立ち上がることはせず、そんな彼女を目を細めてどこか眩しそうに見上げた。

 

「私は、私の出来る限り多くの人達を笑顔にしたい。出来ることなら、国と言う形でそれを成せれば言うことはない。それは絶対です。けれども──」

 

「1からそれを為すための方法論を君は知らない。それと同時に大義より個人を視ると言うことも」

 

「悔しいですがその通りです。私は民を一つの集合体、概念として見て、幸せになるよう祈ってきた。そこに生まれる軋轢や不満と言うものは切り捨てて」

 

「それは決して間違いだとは思わない。少なくとも私はね。どちらかを選べばどちらかが救われない。それが真理だ」

 

「その通りです。その矛盾を乗り越えようとすればアーチャーのように何れ磨耗するのもまた道理。それでも貫いた心に、強さに敬意を表しますが、私自身がやろうとは思わない。でも、最大限努力することは出来るはずです。

 だから、今はとにかく多くの人に触れたい。人間を知りたい。それが私に必要なことだと思うのです」

 

「……人間は誰もかれもがそんなに美しいものではないよ? 人の美しさを誰よりも求めている私が断言する。それでもかい?」

 

 マーリンは心からアルトリアに問う。

 彼に感情がなかったとしても、この憂いは本物であると。人を誰よりも見続けた魔術師だからこその心で。

 

「ええ。以前の私は高潔であること、理想の王であること"それのみ"を良しとした。だから失敗したのでしょう。あの時トリスタン卿が私に残した"王は人の心が分からない"その言葉の意味が、今なら少しだけ分かる気がする

 人の清も、濁も、その全てを知ってから、そこが私のスタートラインです。気が遠くなるような道程なのは間違いないですが」

 

 そんなマーリンにセイバーは堂々と言葉を返す。私の進む道はもう定まっていると。

 騎士王としてではなく、一人の人間として。

 

「なら私がこれ以上君に忠告することはないだろう。アルトリア。君が満足するまで信じた道を進めば良い」

 

「ええ、そのつもりです。礼を言います、マーリン。貴方のお陰で改めて自分の心に問い掛ける事が出来た」

 

「それはどういたしまして。それなら御礼ついでに一つ頼みがあるのだけど」

 

「……一応聞きましょう」

 

 これは厄介事だ。それも最大級の

 これまでと雰囲気と変わって、軽薄な柔らかさを伴う花の魔術師にセイバーの直感が警報をけたたましく鳴らす。

 口許が若干ひきつるのも仕方ないと言うものだろう。

 

 そんな彼女に気付いているのかいないのか、いや、気付いているのだろう。あからさまに無視をしてマーリンは続ける。

 

「その人類が滅亡の危機に瀕していてね。とある王様が私に助力を求めてきた。当然彼の方が立場は上でね。

 責任重大かつ難解な大仕事さ。私と数人の仲間だけでは些か心許ないと言うもの。と言うわけでアルトリア、君の新たな道を始める前に一つ助力をお願いしたいんだけど」

 

「貴方と言うものは本当に……」

 

 セイバーは呆れ返って頭を抱える。

 今の話の流れでそんな話を今更ぶちこんでくるとはなんたる無責任か。

 それもまるで簡単な小言を頼むように来るから尚性が悪い。

 

 

「なるほど。端から目的はそれでしたか」

 

「そんなことはないさ。その王様はとても頭が良くてね。そしてどちらかと言えば私寄りの存在だ。今までの君なら彼のお眼鏡に叶わずそれどころじゃない可能性があった。でも今の君なら大丈夫」

 

「はあ……まあ乗り掛かってしまったものは仕方ないですし、事情はどうあれ人類の危機とあらば見過ごすことも出来ないですね。人がいなければ王の存在など無意味です──それで、目的地はどこです?」

 

 結局はこの魔術師の掌で転がされていたと言うことか

 諦めたようにむくれるセイバー。その姿に満足したようにマーリンは諸手を挙げ大仰に宣言する。 

 

「聞いて驚くなかれ、そこはまだ人と神が交わりし地。神秘が世界を闊歩する戦場。そうだね、何かフレーズをつけるなら……"絶対魔獣戦線バビロニア"と言うところかな」

 

 

 

 

 

 





FGO見てたらモチベーションが沸き上がってきた

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