Fate/kaliya 正義の味方と桜の味方【完結】   作:faker00

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日間1位とかまじですか


第5話 征服王イスカンダル

 

 

 

「ぬうう、まずいな」

 

「なにがだよー……まずいのはこんな所で平然としてるお前のメンタルだろー……」

 

「もうちょっとしゃきっとせんかお前は」

 

 ――なら命綱の1つや2つ今すぐもってこい!

 何とも言えない目でこちらを見てくる自らのサーヴァントに、ウェイバー・ベルベットはこう叫んで一発ぶん殴ってやりたいくらいの気分だった。現実には殴るどころか涙交じりの抗議の声をあげるのが精一杯で、手も足も出せないのだが。

 勿論ウェイバーの度胸とかそういう問題も無いわけではない。仮に彼が万全だとしてもこの大男に真っ向切って反抗できるかと言われたら勝算を弾き出すのは難しい。

 だが、少なくとも今ウェイバーをここまで震え上がらせている原因はそういった類のものではない。例え常に危険に挑み続けている冒険家やスタントマンでも、前方を見れば49m下に海、後方を見ればおよそ20m下に地域最大クラスの交通量を誇る幹線道路があるという橋の"頂点"に命綱も無くどっかり座るなど普通は出来ないだろうから。

 

 冬木大橋――冬木と海を結ぶ玄関口、彩やかな赤に染められたその姿は美しく、休日ともなれば海や日の出とのコントラストを求めて写真家やカップルも訪れる冬木のランドマークと言える存在でもある。

 しかしウェイバーにその景色を楽しむ余裕などありはしない。彼がいるのはその最高地点、当然柵などもない剥き出しの危険地帯なのだから。

 

 

「全く……」

 

 そんなウェイバーを見て隣に胡座をかいて座る大男、ライダーのサーヴァント、征服王イスカンダルは特に触れないことにした。何だかんだ文句を言いながらウェイバーは足場に手足を括りつけるかのようにへばりつく事で安定したポジションを確立しつつあり、まず落ちはしないだろうと結論づけた。

 

 

 

「征くぞ、坊主」

 

「はあっ!? お前今日は様子見に徹するんじゃなかったのかよ!?」

 

「事情が変わった。このままではセイバーが脱落してしまう」

 

 そしてまた目を転じ、硬直気味になっていた戦況が一気に動き始めているのを確認すると赤いマントを靡かせライダーは腰を上げた。

 新しいサーヴァントの登場によって三竦みに成り立っていたパワーバランスが崩れている。こうなるとそこからの展開は驚く程早い――かつてマケドニアという小国からスタートし、世界最大規模の大帝国を作る中で駆け抜けた数多の戦地、その中で身につけた経験がそう告げていた。 

 

 

「いや、それ好都合じゃないか! 強いやつは脱落してくれればそれはこっちから――」

 

「馬鹿者、余がここまで様子見をしていたのは他のサーヴァントが出揃うのを待つ為であって、断じてそのようなこすい考えではないわ! そら、早く立てい坊主。それともここで待つか? 余はそれでも一向に構わんが」

 

「行く行く! すぐに立つから待ってくれよー!!」

 

 火事場の馬鹿力の亜種的なものなのか、今まで全身の毛が逆立たん勢いで震えていたウェイバーがそんなことを全く感じさせない俊敏さを持って立ち上がる。

 そうしなければ、先にチャリオットに乗りこむライダーは確実に自分を置いていくだろうから。

 

 

 

 

―――――

 

「双方剣を収めよ!! 王の御前であるぞ!」

 

「だから何でよりによってど真ん中に飛び込むんだよ……」

 

 そうして、今に至る。

 高らかな声で宣言するライダーをコントロールするのは不可能と悟ったウェイバーは御者台の底で蹲り他者からの視線が自らに届かないように祈った。

 

 ――ライダーの宝具神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)は、かつてゴルディアス王がゼウス神に捧げた供物である牡牛を先導にした戦車であり、ライダーはその勇壮な牡牛を轅の綱を断ってそれを手に入れた。

 その際に彼のとった所作と同様の手順を踏むことで空間を裂き、呼び出す事でそこからは常時展開される使い勝手としてはかなり良い宝具と言える。

 

 無論、それだけではなく、威力も征服王の名に恥じないだけのものを誇っている。

 その蹄が、車輪が、大地を蹴れば今この瞬間まで激闘を繰り広げていたセイバー、ランサーの一撃に匹敵する魔力を持って紫電を走らせ、雷鳴を轟かせる。その様は天を走る稲妻のごとく。一度事前にその真価を見たウェイバーは、現代兵器に換算すれば爆撃機に匹敵するだけの戦力であるとまで見込んでいた。

 Aランクという最高ランクにすら収まりきらない埒外の武器。それがこの宝具。負けることなど考えられない。

 

 しかしだ――いかに不意討ちとはいえ、"敢えて"仕留めないように手抜きをした一撃で3騎のサーヴァントの間に乗り込むのが得策なはずが無いだろう?

 

 経験不足の若きマスターからしてみれば頭を抱えるしかなかった。

 バーサーカーこそその蹄、計4つで弾き飛ばして息も絶え絶えに倒れて臥す状態に追い込んでいるものの、セイバーとランサーには躱され、どちらもが無傷のまま同じようにあっけにとられた様子でこちらを見あげているのだ。今はまだ場が混乱しているからいいものの、冷静になった時にもしも2対1にでもなろうものならたまったものではない。

 

 

 

 

「我が名は征服王イスカンダル!! 此度はライダーのクラスを持って現界した!!」

 

「何を――考えてやがりますかこの馬ッ鹿はぁああ!!」

 

 が、ライダーの言動はそんな懸念すらも遥か斜め上に飛び越える――今しがたの決意も忘れウェイバーは自らの3倍はあろうかという偉丈夫に掴みかかる。

  自らの真名を、戦いの中で看破されるのならともかくあっさりとバラすという行動はいよいよウェイバーの理解出来る範疇から逸脱した。そもそも彼のやることなす事その全部が意味の分からないことだっただろうと言われればそれはそうなのだが、その中でも度を越したというべきか。

 

「ええい。こんな時に限って堂々としよって。少し待っていろ、今余は現代風に言うと……そう、ヘッドハンティングを行おうと思っているのだ!!」

 

「ヘッドハンティングだああーー!? 馬鹿だろ! やっぱお前馬鹿だろ絶ッ対ぃい!! つーかそんな言葉どこで覚えてきたぁああ!!!」

 

「無論、テレビである。武ではなく、知を持って戦う者でも上を目指すあの意識、そしてその者達に応えるべく目を光らせる者とその手腕、そこに余は我らの時代と通じる快活さを覚えたのだ」

 

「んなもん知るかぁああ!!」

 

 混乱ここに極まれり。

 ウェイバーは恐怖心など忘れて全力を持ってライダーの胸倉を殴りつける。ライダーからすればそんなものは蚊に刺されるのよりもダメージは小さいのだが。 

 少なくとも、ウェイバーは必死だった。そしてそんな彼の姿に、今までまるで生きた心地のしていなかったアイリスフィールがちょっとだけ和むというか安心していたのは彼女だけの秘密である。

 

 

 

 

 

 

『なるほど、よりにもよって君だったか。ウェイバー……ベルベット君』

 

「ひ……」

 

 そんな、弛緩した空気を凍らせるような冷たい声が場に響いたのはその直後だった。

 ウェイバーに現実を思い出させる男の声は魔術で拡声されているのか、その場にいたサーヴァント誰しもの超人的感覚を以ってしても発信源を特定することは出来ない。

 今までの威勢はどこへやら、ウェイバーの全身から流れ出る冷や汗、そして早鐘を打つように鳴り響く心臓。

 

 こうなることは分かっていた、分かっていたはずなのにいざ直面すると止まらない震え。彼が聖遺物を"盗み"だした相手であるケイネス・エルメロイ・アーチボルトの冷酷な怒気を孕む言葉はウェイバーの体の芯へと染み込んでいく。

 気付けばウェイバーは両膝をつき、まるで極寒の地の遭難者のように交差した両手で肩を握りしめ、何かを拒絶するように首を横に振っていた。

 

『私の聖遺物を盗み出したと聞いた時はせいぜいイタズラ程度と思い見逃したが……まさか君自身が聖杯戦争に参加する腹だったとはね』

 

「――」

 

 声が出せない。まるで身体中を縛られたかのようにウェイバーは感じていた。

 

『ある意味驚嘆すべき度胸だ……そんな君には私が特別授業を持ってあげよう。魔術師の殺し合いということの本当の意味、その身体にじっくりと刻み込んでやる』

 

「――っ!!」

 

 ――殺される。間違いなく僕はここで殺される。

 

 ウェイバーはそう確信せざるを得なかった。他にどんな感情が起こるはずもない。

 真に魔術師たることは死を観念することにほかならない、時計塔でそう教えを受けてきてはいたものの、直にその世界に足を踏み入れている人間の殺気に当てられるのはこれが初めてのことである。

 ウェイバー自身、講師としてのケイネスは全くもって鼻持ちならない相手としか認識していなかったが、それで魔術師としての実力まで見損なう程視野は狭くなかった。

 圧倒的な実力差、何よりこれまでくぐり抜けてきた修羅場の数、奴が死ぬと言った以上それ以外に運命は……ない。

 

「落ち着け、坊主」

 

「え――」

 

 そんな絶望の淵から彼を掬い上げたのは、今まで苛立ちしか感じてこなかった男の一言だった。

 ぽん、と肩に置かれた手はどこまでも大きく、温かい。

 

『おう、どこに潜んでいるか分からんが魔術師よ。どうやら貴様はこの坊主に変わって余のマスターに成り代わる腹だったらしいな』

 

 そのままウェイバーの肩を優しく抱き立ち上がらせたライダーはどこにいるとも分からぬ魔術師――あくまでライダーから見れば、の話だ――に呼び掛けると続けて断言した。

 

『余のマスター足る者は余とともに戦場をかける勇者でなければならぬ! 貴様がどれだけ魔術師として優れているが知らんがな、影に潜んでこそこそしているような輩が余のマスターだと? は、片腹痛いわ!! 貴様なんぞマスターとしちゃあ坊主の足下にも及ばんわい!!』

 

 ケイネスよりも自分のほうがマスターに相応しい、と。

 それがどれだけウェイバーに己を奮い立たせる勇気を与えた事か。隣でしてやったりと言わんばかりの笑みを見せるライダーにウェイバーは初めて感謝した。

 

『――』

 

 だがそんなこと、言われた方は気持ちが良い訳がない。

 完膚なきまでの一方的な論破。その屈辱がどれだけのものかはウェイバーには計り知れない。無言ながらも膨れ上がる殺気。

 

『そうか……ではいずれ貴様にも思い知らせてやるとしよう』

 

「いずれ……?」

 

 意外な反応にウェイバーは首を傾げた。ケイネスの癇癪は時計塔でも数回見たことがあるのだが……その苛烈さから考えるに、いくら英霊が相手と言えどもそう簡単に引くとは思えなかったのだ。

 

 

『幸い今の私は気分がいい、セイバーを仕留められなかったのは残念だが……私のバーサーカーを殺さない程度に傷めつけてくれたのは実に心地良い』

 

「はあ!?」

 

「なんだと」

 

 支離滅裂とも言えるその言い分に異常を感じたのはウェイバーだけではない。ライダーでさえなにを言っているのかわからずに顔を顰めた。

 そんな二人の気持ちなど知らず、愉快そうにケイネスは続ける。

 

『ではまた会おうではないか諸君……その時は地獄を見せてやる』

 

 それを最後にフッとケイネスの気配そのものが霧散した。恐らく離脱したのだろう。転がっていたはずのバーサーカーもウェイバーが見た時にはもうその姿はなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うことで黒いのと粘着質なのにはご退場頂いたわけだが……」

 

 しばらく誰もが動くことができなかったが……もう何もないと判断したのか、ライダーが唐突に心底愉しそうな笑みを浮かべてセイバー、ランサー、そして少し遠くにいたアーチャーに向き直る。

 

「セイバー、ランサー、そして赤いの! うぬらの洗練かつ華麗な技量による真っ向からの斬り合い、誠に見事であった!!」

 

「お、おう……」

 

「ええ……」

 

「――」

 

 ライダーは大真面目だ。しかしこれから何をするつもりなのか既に分かっている3人からすれば結論は出ている、しかしアーチャーはともかくセイバーやランサーからしてみればあまり望まない戦いを終焉させてくれた恩がある。

 そういうわけで誰も途中で口を挟むことは出来なかった。

 

 

「それでだな、その戦士としての技量を見込んでの話なのだが……お主達、聖杯を余に譲りそのまま軍門に下り、共に大地の果てまで――」

 

「「「断る」」」

 

 かと言って結論が変わるわけではないのだが。

 3人が同じタイミングで征服王の心からの誘いを一刀両断した。そもそも英霊は何かしら望みをもって現界するもの、仮になかったとしてマスターは違うのだから、こんな誘いがまかり通るはずもないのだが、そんなことを気にするタイプでないと分かっているからこそのシンプルな拒絶。

 

「むうう……」

 

 何やら考え込むようにライダーは顎鬚をポリポリとかく

 

「待遇はおうそうだ――」

 

「「「くどいと言っている」」」

 

 2度目は最後まで言わせすらしなかった。

 

 

「あんたみたいなのは嫌いじゃねえが……あいにく今回の主は決まってるんでな。鞍替えなんてだせえ真似をするつもりはねえ。すまねえけど次の機会にしてくれや。その時は考えてやってもいい」

 

 ランサーはライダー自体のことは気に入っているのかどこか楽しげに。

 

「世迷いごとを。聖杯にかける望みがある以上そんなものは侮辱に過ぎない」

 

 セイバーは若干の怒りとともに。

 

「私も同感だ。あまりにも突拍子が無さすぎる」

 

 アーチャーに至っては無表情で。

 

 

 

「なあ……お前本当に出来ると思ってたのか?」

 

「いや、ものは試しと言うしな。それにあの青いのは中々の好感触だったではないか」

 

「今じゃなきゃ意味ないだろ……」

 

 ここにライダーのサーヴァントヘッドハンティング作戦は無残に散ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

「雁夜、身体の調子はどうかね? なるべく魔力消費を抑えるようにして戦ってみたのだが」

 

 偵察場所で落ち合ってからというもの、霊体化して無言で雁夜の後を護衛していたアーチャーが声を掛けてきたのは間桐家の門をくぐり、屋敷のドアを開けてすぐのことだった。

 

「え、ああ。問題ない。そういや俺の身体ガタが来てたんだよな……そんなこと忘れるくらい負担は感じなかった」

 

 そんな疑わしいみたいに凝視されても実際そうなんだから仕方ないだろ。雁夜は靴を片付けながら、実体化したアーチャーに大丈夫だと改めて手を挙げて示した。

 

「そうか。なら良いが」

 

 渋々ながら引き下がったアーチャーを後ろに引き連れ居間へ、そのまま雁夜はソファーに倒れ込む。そうして、心地良い疲労感とともに仰向けになり天井を見上げた。

 

 

「にしても凄かったな……」

 

「あれがサーヴァント同士の戦いだ。人間では到底加入出来ぬ神域の戦い」

 

「ああ、よく理解できたよ。それにしてもお前凄いんだな、アーチャー」

 

「……私はそうたいしたことは無い。セイバーやランサーにまたあのように対峙することがあれば、今度は生きて帰れる保証はないさ」

 

 雁夜からしてみればそれは純粋な尊敬の念だったのだが、なぜかアーチャーはムスッとしている。

 そうして茶でも淹れようかと歩いていく背中に、雁夜は1つ聞きたかったことがあったのを思い出した。

 

「なあ、アーチャー。お前、なんでセイバーの正体が分かったんだ? 普通分かるわけ無いだろ?アーサー王が女の子だなんて」

 

「――」

 

 アーチャーの足が止まる。

 しかし何も答えようとはしないその姿に雁夜は何かあると踏んで畳み掛ける。

 

「もしかしてアーチャー、生前ブリテンの戦士だったんじゃないか? アーサー王の側近は円卓の騎士がいたから届かなかっただけで腕は確かだったとか」

 

 それくらいしか考えられない。雁夜の推測は確信に近かった。アーサー王を見切るなどそうでもなくては出来るはずがないと。かつての主に会ったとしたら、その衝撃で記憶が戻ったとしても不自然ではないのだから。

 

 

「――ここにおいて置く。飲んだら早めに休むことだ」

 

「おい、待てよアーチャー!――ったく」

 

 答えることなくアーチャーは消える。残された雁夜は何でそこまで隠すのかとボヤきながらアーチャーの入れた紅茶を手に取った。

 

「聖杯戦争か――」

 

 

 

 

 

 何にせよ、初戦を彼は乗り切ったのだ。

 

 聖杯戦争最初の夜はゆっくりと更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 




バサカテスラの今作での設定
混沌・善
筋力 B
耐久 A
敏捷 A
魔力 B
幸運 E
宝具 C(本来の使い方ができないので著しくランクダウンしている)

スキル
狂化 E〜A(ケイネスの意思で切り替え可能)
ガルバ二ズム B
天賦の叡智 B ……狂化の影響で弱体化しているものの、あまりの天才性故に本来の頭脳という意味合いではなく閃きとして機能
対魔力 D

宝具 人類神話・雷電降臨……前述の通り理性のない今では本来の使い方は出来ない。本来放つ雷を身体に纏う事で全体能力を底上げする常時開放型宝具として機能、反動は大きく連発も出来ないが、その雷をコイル一点に集中させる事でA〜A+相当の火力を一瞬だけ出すことも可能
 (テスラの交流電気実験の際の逸話から)

一応こんな感じでいこうかなと思います。スキルは一律1ランクダウンに単独行動は消失。ステータスは筋力耐久敏健が狂化の分、そして宝具の分、合わせて2ランクアップ。


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