記されるべきではない物語。語られるべきことなどない物語。
歪なる物語、異物である物語、誰が語る者となり、誰が語られる者となるのか
00.1
「貴女は私の願いを叶えなさい」
「マスターは一体何を……」
その日、滅びに瀕した故国を救わんと戦旗を振るった“セイバー”は召喚に応じる。狂気を宿し、人を人と思わない少女の召喚に
「はは、アキラ、一緒にナンパにいこう。男だったら伴侶を得ないと」
「……おい、アーチャーじっとしてろ、去勢されてぇのか?」
その日、神域の竪琴を奏でる聖王“アーチャー”は召喚に応じる。赤獅子の如く苛烈な青年の召喚に
「頼む、ランサー、お前だけが最後の希望なんだ」
「主殿よ、儂は主殿の願いを……」
その日、主君に殉じた法師の名を語り継がんとする“ランサー”は召喚に応じる。ただ願いのために己を捨てて戦う魔術師の召喚に
「い、いくわよ! ライダー」
「ええ、行きましょうキコ、でもそのまえに落ち着いてください」
その日、かつて、多くの民を救ったと伝承は語る殉教者であり聖人である“ライダー”は召喚に応じる。魔術師であるが故に魔術を棄てさった女の召喚に
「誰か、たすけろ!!」
「おう! 嬢ちゃんが俺のマスターかい?」
その日、その魂に願いはなく、雷鳴の斧を振るい、ただ弱者を助けんとする“バーサーカー”は召喚に応じる。助けを求めた声を聞き逃せないと幼子の召喚に
「はははッ!! 現世は楽しいね! マスター!!」
「………そうだな、キャスター」
その日、その身に魔術の才などなく輝かしき武勇の誉れを重ねた騎士である“キャスター”は召喚に応じる。感情を捨て去って生きる枯れ果てた男の召喚に
「アサスィ、いこう」
「うん」
その日、不実の魂たちの揺り籠である殺人鬼“アサシン”は召喚に応じる。無辜なる人々を守ろうとした半端な才しかもたない少年の召喚に
そして、
この混沌の中で僅かに発生した齟齬と呼べぬ、小さな小さな異常(イレギュラー)は“スィナー”(罪人)を呼ぶ。
誰にも、賢者にも聖人にも君子にも、悪人にも愚者にも、“人間”に語られることは、聖典にも邪教の教本であろうとも、全てに記され全てに記されることのない“スィナー”は召喚に応じる。
邪悪な神であり、淫蕩な魔物であり、多くのものは悪であると断じた、たった一人の女はほほ笑む。
自らを贄として召喚をした男の召喚に応じて
「貴方を後悔させないわ。だって貴方は……」
すべての陣営がそろい、そして闘争の幕が開ける。待つのは清純の願いか、はたまた狂気の坩堝か、それとも絶望の園か?
――許されるならば、この聖杯を求めるが故に闘争を臨む者たちに■■あれ