Fate/Heterodox Tale   作:今日は晴れ

10 / 25
tale 09 「怯儒の決意」

 

 01

 

 

 「あ、おはようアサスィ」

 

 今日は目覚ましが使えず、しかし、いつもよりも早く起きれたため朝食を作っている。台所で味噌汁を作っている最中、背後からじっとアサスィが見ていることに気がついたから声をかけたが、アサスィは眠たそうに目をこすって俺を見ていた。

 やはり朝は弱いのか、いつもの凛とした表情ではなく、ぼんやりとした顔。

 

 しかし、言葉も無く俺の後ろから近づくと、鍋の中身を凝視する。正確には、味噌汁の中に沈む具材、ジャガイモに視線を向けていた。

 

 「え、えっと、ジャガイモは嫌い?」

 

 あんまりにもじっくりとジャガイモを見ていたため、尋ねてみる。もしかしてアレルギーがあるのかな?

 

 「Answer、たべたコトない」

 

 ああ、そっか、ジャガイモとかトマトは結構新しい野菜だ。元々は南米の野菜で新大陸発見以降に、さらに広まったのは更に後だと聞いている。知識はあっても食べたことがないんだろう。

 

 だから、小皿にジャガイモを一切れ、のせる。まだ肝心の味噌が入れたばかりだからそんなに味噌の味がでていないため、ポトフみたいな感じだけど、ジャガイモを食べるだけならこれでいい。

 

 竹串を刺して、アサスィに渡す。

 

 「熱いから火傷しないように冷まして食べるんだよ」

 

 食べたことがないなら、そう言っておかなければならない。

 アサスィはジャガイモを竹串で二つに割るとゆっくりと湯気の立つ小さいほうのジャガイモに息を拭きかけながら冷まし、口に入れた。

 

 しかし、それでも熱かったのか、はふっと息が漏れ口元を押さえるが、咀嚼するとゆっくりと飲み込み、もう一切れ、さらに小さく切ると、今度はじっくりと息を吹きかけ冷まして、食べる。

 

 「おいし?」

 

 それにアサスィは頷く。どうやら今のところ嫌いなものは無いらしい。

 よかった、そう思いながら、鍋の火を弱火にして煮だたせないように、あとは、隣のコンロのフライパンにクッキングシートを敷いて焼いていた鮭をひっくり返す。昨日帰って来てから鮭を塩麹につけていたから、一晩でも味も大分よくなっただろう。

 

 ……利き腕の左手の拳が壁を殴ったせいでカルメ焼きみたいに膨れているから箸が持ちづらいけど、自業自得だ。なんとか返す。

 

 アサスィは手に空になった皿を持っていたが、それを受け取る。眠たそうな目で料理の様子を見ている。

 

 「もうちょっとかかるかな、あっちでテレビでも見てたら?」

 

 そういっても、アサスィは動かず、じっと俺の様子を見ていた。

 なんというか、やりずらい。

 

 あ、そういえば

 

 「じゃあ、お風呂入ってきたらどう?さっぱりすると思うよ」

 

 昨日のことだったが、校門前の追跡から逃げ切った後、アサスィは右手についたチョークの粉をじっと見ていた。その後、説明を受けたのだけど、アサスィの知識とは違う、聖杯に関する知識の間違い、アサシンのクラス、冬木とは違う開催地、霊体化不可、と続いて四つ目の差異。

 それが最適化の不可だった。

 

 サーヴァントは常に戦闘で受けた負傷など以外は衛生とかそういった物が常に万全の体調だったりするらしい。例えば、血がついてしまっていても、しばらく時間をおけばそれは自然と消えてしまう、しかし、それができない。

 だから、肉体が汚れていくらしい。……殆ど肉体を得ているのと変わらないな

 

 それにアサスィが召喚されて、というか、してしまって、一日が経っている。それに今アサスィが着ている桃色のパジャマは半袖半ズボンだけど、袖と太腿の部分がボンボリのように膨らんでいる。かわいいけど、寝汗がすごいだろうな、あのパジャマは

 

 それにまだ、時間がかかりそうだし、風呂でも入ってきたらいいだろう。あ、沸かす方が時間かかるからシャワーだけだけど、それに目だって覚めるだろうし、ね。

しばし、黙って考えていたが、アサスィは頷く。

 

 「えっと、風呂場は廊下をまっすぐ行って右だから、体洗う用のタオルとバスタオルは、洗面台の上の棚に入ってるから、あ、シャワーの使い方分かる?」

 

 アサスィはすこし、むっとしたように顔を歪め、

 

 「クレ、わかる……」

 

 そのまま、客間に戻る。客間に昨日買った衣服の入った袋もおいていたから着替えとかも取りに行ったんだろう。

 

 シャワーの使い方とかも与えられてる、とか、聖杯による知識か、すごいな。今のところ、サーヴァントや聖杯についての知識は幾つか間違っているが、現代に関する知識は間違っていないんだよな。

 そんなことを考え、冷蔵庫の野菜室から三つ葉を取り出す。ついでに冷凍庫で凍らせていたパックのお煮しめも。昨日ショッピングセンターにいったとき、食料品も買っとけばよかった。一人分なら十分だけど、二人分となると少し量が足りないかな

 

 鮭はもういい。戸棚から皿を二枚、とりだし皿に鮭を盛る。さっき磨っていた大根おろしも皿の端に盛って、主菜はこれで完成。

 

 お煮しめは元々、今日のご飯は茶飯にしていたから、その出汁を取るために煮て出汁をとっていた鍋に投入して、弱火でじっくりと煮込めばできあがりだけど、もう一品、おばさんがこの間信州旅行したときにお土産で頂いた野沢菜、これを湯で、水気を絞った物がまな板の上に置いてある。

 これを胡麻和えにするか、それともオカカを掛けておひたしにするか、それが問題だ。

 

 とりあえず、野沢菜を切って、ぼんやりと考えていた。青みが強ければおひたしがいい、逆に弱ければ胡麻和えがいいんだけど、この野沢菜は癖がなくて、青みも強くも無く弱くも無く、自己主張がそんなに激しくないからどっちもあう。だから悩む。

 

 真剣に悩んでいた時、痛んだ廊下だから廊下の床が軋んで誰かが近付く音と扉をあける音

 

 ちょうどいいところに、てか早いな

 

 「ねぇ、アサスィ、この野采なんだけど胡麻和えとおひたしどっちが……」

 

 しかし、その先を繋げようとして止まってしまった。

 桃色のパジャマのままだったけど、出て行く前と違うのは顔にいつものようにしゃんとしている。でも、眼には涙がたまっている。それと、僅かにアサスィは震えている。そして、なんだか決まりが悪いように目が泳いでいた。

 

 「どうしたの?」

 

 そう尋ねてもアサスィはばつが悪そうに、それでも意を決したように恥ずかしそうに俺の顔を見て、

 

 「……シャワーのつかいかたが、わからない」

 

 話を聞いてみたら、なんでも与えられた知識のなかにあった湯沸かし器と使い方が違ったらしい。夏とはいえ冷水を浴びれば、そりゃあ寒い。

 ……我が家の湯沸かし器は聖杯すらも範囲外の古さだったか……

 

 02

 

 湯沸かし器の使い方を教え、もう一度アサスィが入浴を終えるまで、リビングのテーブルに出来上がった料理を並べた。

 

 茶飯、ジャガイモの味噌汁、鮭、お煮しめ、野沢菜の胡麻和え、それと漬物

 

 漬物以外、アサスィがどれも口にしたことのない物ばかりで、まぁ今までの様子からして食べられない物は無いと思うが、いささか不安だった。……サラダでもつければよかったんだろうけど、おばさんの影響からか、洋食に和食のメニューが混じってもいいけど和食と時は和食オンリーが一番舌にあっている。というか、そんなこだわりがある。

 ちなみに、主菜で洋食か和食か判断している。

 

 でも、舌に合うかどうかは杞憂だったようだ。今度はしっかりとシャワーで温まったアサスィはすべての料理に箸を伸ばしている様子を見て、安心できた。箸の持ち方違っていたため、教えるとすぐに使いこなす。呑み込みが早くて助かる。他にも茶碗の持ちかたとか礼法とか細かいことを教えているうち、朝食は終わってしまう。

 

 しかし、あれだ。お茶碗お客さん用のものだから、アサスィ用に大きめのお茶碗買っとかないといけないかな?おかわりの度に台所まで戻ってご飯をよそってくるのは落ち着いて食事できない。特大の物を買ってみよう。三合炊いたのに、全部食べるとは……

 

 とりあえず、空になった食器をお盆に載せ流しに置いて水につけておく。

 洗うのはあとでいい。テーブルを拭いて、昨晩作っていた麦茶を持ってくる。

 

 アサスィは麦茶を飲んでいる。どうやら麦茶が気にいったらしく、ピッチャーごと渡したら、もうすでに二杯目突入

 

 俺はアサスィのまえに座り、アサスィが二杯目飲み終わるまでじっと見ていた。

 

 「くえすちょん、どうしたの?」

 

 あんまり見つめていたため、不審に思ったのか、尋ねられてしまった。飲食している時に人に見られるというのは気持ちのいいものじゃない。さっさと本題に入ってしまおう

 

 「いやちょっと、アサスィに言っておくことが……」

 

 「クレ、アサスィじゃなくてアサシン」

 

 あ、ついついアサスィって無意識で言ってた。……いや、今日は初めからアサスィいってた気がするけど、どっちも気がつかなかったんだろう。

 アサスィ、いやアサシンは一息で麦茶を飲みほし、訂正を求める。

 

 「ご、ごめ、アサスィ……あ」

 

 昨日先生に注意されてから無意識にアサスィって言うことを心がけていたら、いつの間にかアサスィになってしまっていたらしい。

 そんな俺の様子を見て、ため気をつく

 

 「……もう、アサスィでいい」

 

 クラスに関して言えば、真名がばれないようにするための仇名みたいなもの、らしい。だから彼女にとって、アサスィだろうがアサシンだろうと構わない、ということかな?

 

 「くえすちょん、イイタイことって?」

 

 口を開いた時、言葉につまった。

 

 「俺は」

 

 ちゃんとアサスィの顔を見ていたが、もうちょっとちゃんとしたように言うべきか、でも、なんてことないように

 

 「聖杯の戦いに参加するよ」

 

 昨日決めたことをアサスィに言った。

 

 03

 

 俺の言葉をアサスィは聞いて、コップを落とす。

 

 あ

 

 もう一杯注ごうとしていた空のコップをテーブルに落とした。しかし、コップは割れはしなかったコップが円を描きながらテーブルの上を転がるため、端から落下する。

 

 椅子から立ち上がってコップをキャッチしようとするが、到底間に合わず、そのコップは、

 

 消えた。

 

 落下途中のコップが消え、コップのあった空中、その先の床まで見たが、コップが床に当たってこなごなに砕ける音も、破片が散らばることも無かった。

 

 テーブルの上、そこに何かを置く音、コップが、アサスィが落としたコップを、落とした本人であるアサスィが置く。

 

 つまり、どういうことかといえば、落としたアサスィがコップを、俺が視認できないほどの速さでキャッチした、ということ、だな……うん………

 

 

 

 なんとも、いや、すごくて、その、えっと……

 

 どうすればいいかわからず、とりあえず席に座って、拍手を送った。

 

 しかし、アサスィはそんなことどうでもいいとばかりに、今度は麦茶を注ぐことはせず、じっと俺を見る。

 

 「くえすちょん」

 

 呆れた顔というよりも鋭い視線を向け、尋ねる。

 

 「サンカしないつもりだったにょ」

 

 噛んだ。そういえば、緊張した時とか、こういうときは噛む子だったことを忘れてた。

 通常だったら噛まないんだけど、なんで力が入ると噛むんだろう?

 ま、質問の意味は分かるから

 

 「ああ、そういうわけじゃなくて……」

 

 いや、違うな、すべてを否定できない。

 

 俺の顔が変化したことをアサスィは見逃さなかったようで、噛んだことで頬が紅潮していたが、その視線の鋭さが増す。ああ、これ殺気っていうのかな? でも、言わないと

 

 「……うん、もしかしたら、そうだったかも知れない」

 

 俺は能天気で、受験の時も母が死んだ時も、いつもどうにかなった。だから、戦わなくてもどうにかなる、そんな考えがあったんだろう。

 

 頬の朱が引いて落ち着くと、アサスィは口を開いた。

 

 「くえすちょん」

 

 コップに麦茶を注ぐ。

 

 「どうして、サンカすることにしたの?」

 

 それは……結構自分の考えをまとめてみたが青臭くて恥ずかしい。

 

 「いわなくちゃ、だめ?」

 

 聞いてみたが、アサスィは

 

 「キノウ、クレがわからないことがあったら、おしえてくれるっていった」

 

 ……ああ、いったな、でもあれは、価値観とか倫理なんか……

 でも、アサスィの目は真剣で、それにどっち道言わなくちゃいけないことだろうな。でも何から説明したらいいかわからい。だから、順を追って、根底に関することについて尋ねる。

 

 「ちょっと、話し変えるけど、アサスィには、叶えたい願いがある?」

 

 なんでその話になるのか、アサスィは理解できないように形のよい眉を歪める。

 

 「Answer、いえす」

 

 やっぱり、アサスィの説明にもあったように、「召喚される英霊は願いをもつ」との説明はアサスィも当てはまる。その願いがなんであるか、尋ねようか、迷ったが、今は俺のことをしゃべらないと

 

 「……俺には、叶えたい願いがないんだ」

 

 言葉を慎重に選ぶ。自分のことをなるべく伝えなければならないから、願いをもっているアサスィにもできるだけ、わかるように説明する。

 

 「普通だったら、魔術師として大成したいとかあるんだろうけど、俺は、お母さんの魔術を引き継ぎたいだけで魔術師として大成も無いし、かといって生活に困ったことも無い」

 

 事実、生活費に困ったことは無い。父は家に帰ってこないけど、ちゃんと生活費は送られている。

 欲がないんじゃない、能天気な小心者が“なんでもかなえられる願望実現機”をもらえる、そんなことをいわれてもこうなるだけ。あんまりにも強すぎて思いつかないだけ、ただそれだけのこと。

 

 アサスィには、叶える願いがないことを説明した。しっかりと、全部。

 

 「くえすちょん、じゃあ、ドウシテさんかするの?」

 

 

 うん、最もな疑問。

 俺が聖杯に望む願いはないことを理解はしてくれたんだろうけど、聖杯を望まない者が聖杯を得るための戦いに身を投じる。確かに、矛盾してる。降りれない、ということもあるけどそれだけじゃない。

 

 

 「……俺のおばさん、いや、血縁だと、大叔母さんの家族がアサスィの言ってた冬木の聖杯をめぐる戦いで、巻き込まれて亡くなったかもしれない、ううん、巻き込まれて亡くなった」

 

 

 それから、昨日調べたことを話す。

 確かに冬木という場所は存在すること

32年前、冬木では何らかの魔術的隠匿、そして行使した跡がみられること、つまり、俺が、魔術師である俺が調べた限りにおいて、聖杯とはいえないが大規模な戦闘を伴う魔術的儀式があった。

 

 

 そのあと、冬木の大災害と呼ばれる災害が起こる。

 

 

 「おばさんは、俺にとって、大事な人。本当に、家族みたいな人なんだ」

 

 

 あのとき、母が死んで父も相当憔悴していたんだろう、あの人も子供だ。いや、今なら分かる。俺にかまってられなかった。もしも、おばさんがいなかったら、きっと死んでいた。

 

 

 「優しい人でね、魔術とは関係ない世界に生きてる。もちろん、おばさんの娘さんやお孫さんも魔術とは関係ない人たちだったんだよ」

 

 

 いまでも、後悔してる。おばさんに、お孫さんたちのことを尋ねてしまったことを。

 あのとき、知らなかったとはいえ、なんで聞いてしまったんだろう、と。

 

 

 俺が寝てから毎晩、仏壇に語りかける。もう、あの顔を俺は忘れることができない。

 

 

 「冬木ではそれに近いことがもう一回起きて、その時も、大勢の人がなくなってる。魔術に関係してる人たちもいただろうけど、きっとその大部分の人たちはおばさんの家族みたいに関係ない人たちだったんだろうね」

 

 

 両手で握りしめるように持っている、一口も付けていない麦茶のはいったグラスが、ひどく温くなってしまうように感じられた。

  

 

 「だからね、アサスィ」

 

 

 グラスの中に入った麦茶に一度視線を、僅かな逡巡を振り払うように、アサスィに視線を戻した。

 

 

 「俺は、参加する」

 

 

 俺は、母が、お母さんが死んだ時、何日も何日も泣いた。父は家庭を捨て仕事に生きるようになった。だからこそ、命は俺にとって大切なんだろう。

 

 

 「冬木で何人の方が犠牲になったかわからない。でも、俺は止めたい。巻き込まれなくてもいい人たちが巻き込まれて命を落とす様が見たくない」

 

 

 母が言っていた、母が魔術に使用したのも、こういうことだったのかもしれない。母の魔術師として活動していたときの日記は、三つのことでなりたっている。

 ひとつは、研究文書としての側面、こういうことがあって、こういうことをした。だから注意すべき点はこういうこと、今日はこういう魔術を組み立ててみたが成功にはまだまだ遠いなどといったこと。二つ目は、協会と教会においてどこぞの誰べえが何をしている、などといったことから、もしかしたら俺みたいな後世に伝えるべき文書として日記を記していたのかもしれない。

 そして、最後に、救えなかった、巻き込まれてしまったおもての人々に対しての懺悔告知

 

 

 何十人、何百人と怪異になすすべもなく殺され、神秘の流出を恐れた魔術師に、無辜の人々が蹂躙される様を。だから、俺に渡してくれたのかも、人生には何があるかわかならい、だから、身を守れるだけの力を、授けてくれたのかもしれない。

 

 

 実際、その力で、魔術に関する力で俺は、十二月久連はアサスィに助けられた。だったら、他人を助けてもいいはずだ。

 偉そうな、聖人君子のように言っているが、実際は自己満足かも、いや、九分九厘言い訳したいだけだろう。

 

 

 もしも降りられる方法があって降りてしまったとしても、多くの犠牲が出たら、俺は後悔してくよくよと何年も悩むことになる。

 

 

 自分のことだからよくわかる。悔いのない生き方なんてできない。けど、後悔を減らすことはできる。だから理由がほしいのかもしれない。自分の命を失っても、それでも後悔しないような、言い訳がほしいだけ

 

 

 言い訳をするために決めた。ただそれだけのこと。どこまでも自己満足に過ぎない、自分を英雄視するための理由。

 

 

 そんな俺をアサスィは肯定するわけでも、否定するわけでもなく、俺を見ていた。ただ、見ていた。

 

 

 俺は立ち上がると、6枚の新聞の切り抜きをアサスィに差し出した。

 読める?と確認してみるが、アサスィは新聞記事の見出しや内容を音読する。分かっているならいいんだ。

 

 

 どれも、ホームセンターで昨日購入した地方紙と全国紙の切り抜き、それも、魔術に関するのでは、と疑える事件を切り抜いたもの。

 昨日の夜、朝食の下ごしらえをしながら、軽く目を通しただけだが、4件も見つけた。

 そのあと、もう一度隅々から読み込んで、もう二件、疑わしいものを切り抜いた。

 

 

 しかし、手口が巧妙なのか、それともただの事故なのか、新聞の記事に記載された事故・事件はっきりとしないが聖杯に関する儀式が行われている、その最たる証拠の少女が目の前に座っている。だから、これがすべて関係しないことであっても、そのうち関することが起こってしまうのではないか、いや起こる。確実に、絶対に

 

 

 だから、それを止めたい。

 問題は、アサスィがそれを容認してくれるかどうか。

 

 

 「わたしたちは、クレが参加するならそれでいい」

 

 

 新聞記事に目を通し、真剣な面持ちで、しかし、俺が参加することにはなんでもよかったとの回答。すぐに俺の理由よりも新聞の記事に話題を持っていく。

 

 

 「くえすちょん、これをシラベに行くの?」

 

 

 一通り、眼を通し終えアサスィは顔を上げた。

 

 

 「うん、今日は調査に行きたい。できれば痕跡が残ってる、おとといのこの事件とかからかな?」

 

 

 一枚、江戸川区の公園で起きたボヤについての記事を手にとって、アサスィに見せる。

 

 

 「じゃあ、キガエてくる」

 

 

でも、そのまえに

 

 

 そう言って客間にアサスィは向かうが、もうちょっと、時計を見るとまだ8時になったところだけど、八時半ごろになるな

 

 

 「お皿、洗ってからでもいい?」

 

 

 まだ食器、流しの水につけっぱなしなんで

 

 

 04

 

 

 聖杯をめぐる戦いで被害者が出る限り、その人たちを救いたいから参加する、そう己のマスターが言った言葉をアサスィ―アサシンは理解できなかった。

 

 言葉の意味としては分かる。つまりは聖杯の犠牲が許せない、自分は聖杯を欲しない、といっている。だが、どうしてその答えに行きつくのか、アサシンは理解できない。

 

 どんな望みでも叶う、例え実現が絶対不可能でも、どんな奇跡でも現実の物となる聖杯を、マスターは欲しないどころか、被害者を出さないために闘争を止めたいと願っている。

 

 アサシンはサーヴァントである自分をだまそうとしてついているものではないか?と疑ったが、嘘偽りはない。心の底からの願いだとアサシンは覚っている。直感ではなく、悪意には彼女は敏感であったが、その言葉に悪意が一切感じられなかった。

 もしかしたら自分自身を納得させるためについた方便かもしれないが、それだったら、その裏に隠されている願望が僅かにも顔をのぞかせるはずが、それも一切なかった。

 

 参加理由は、闘争に身を置くための回答としてはあり得ない。

 かといって、一般的な倫理観や価値観に狂人的なまでに捧げているのではなく、あくまでも魔術なんて知らない人が巻き込まれ、あまつさえ死んでしまうなんて間違っている、なんて思想から生じている、つまりはお人よしなのだろう。

 

 だけど、願いがない者ほど、どうなるかわかったものではない。つまり、わが身が可愛くなれば簡単にアサシン―“わたしたち”を捨てるということにおいて他ならない。だから、強烈な、アサシンのような欲の塊のようなマスターがアサシンには望ましかった。

 

 アサシンの価値観からすれば論外。力の弱い者が強い者に屈するのは当たり前だし、己の身は―己の身に集まっている者たちはその力に虐げられた魂でアサシンは構成されている。だからこそ、勝つために、勝利し聖杯を得ることが絶対としてアサシンの中には刻まれ、それが一つの軸となっていた。

 

 なぜなら、アサシンは自らを壊してしまうほどの焦燥を、いや、脅迫概念にも似た聖杯への願望を抱えていた。

 この二日、召喚され、二度目の朝を迎える今の現状もそうだった。

 マスターである久連は魔術師としての格は三流だと理解しているが、魔力供給には何ら支障がない。だけど、まだ戦闘すら始まっていない。それが、一層焦燥感を駆り立てる。

 

 アサシンの個々としての願いなどない、だけど、アサシンを構成する魂たちが、叶えてくれと、悲痛に訴えている。

 

 アサシンはその願いを叶えるために聖杯をめぐる戦いの召喚に応じ現界した。聖杯をえる、そのためにはどんな手段や戦略をとることについて、何のためらいもなかった。

 だが、久連から渡された新聞記事にもう一度思い返す。

 爆発事故や火災、行方不明などの事件だった。どれもこれも、許せないと久連は言ったが、アサシンからしてみれば許容の範囲内。それどころか、これだけの被害しかないならば上出来であり、そもそもこんなことしかできないならば手ぬるいとすら感じるほど。

 

 本来アサシンが取るべき戦略をお人よしのマスターは決して容認しない。強化のための魂喰いも、それどころか、通常の戦闘を行えば無関係な第三者を傷つける戦いしかできないというのに。

 自分のサーヴァントが、マスターの言う全くの無関係な第三者を傷つけるサーヴァントだと知ったら、その手段を令呪で持って封じられる可能性も、最悪、自害を命じられるかもしれない。

 

 そこまで考えた時、自分を召喚したマスターはアサシンにとって、害悪で、倒すべき障害でしかないものになった。

 

 始末してしまおうか?

 今なら、マスターである久連はこちらの気も知らずに台所の流しで朝食の食器を洗っている。容易に葬り去ることも可能であると判断する。

 

 アサシンに与えられた部屋のなか、手には昨日、アサシンの『おかあさん』が買ってくれたブラウスを手に取りながら思案し、腰にナイフの収まったホルスターを現界させたが、すぐに消した。

 

 今はまだいい、もしもここでマスターを消したところで単独行動のスキルを持たないわたしたちはすぐに魔力を使い果たして消えてしまうことだろう。それに再契約が可能な魔術師もいない。そんな中でマスターを消すなど愚の骨頂だ。

 

 昨日に一緒にいた『おかあさん』は今のところ唯一のマスター候補だが、『おかあさん』は魔術師ではないし、自分の戦略を容認してくれる『おかあさん』か、見極める必要がある。

 

 それに戦いに身を投じるうちに久連の姿勢も変わるかもしれない。もしも戦いが恐ろしくなって、戦いから身を引くとしてもそのときはきっと魔術師がいるだろうし、待っていればサーヴァントを失っただけで参加に意欲的なマスターもでてくるかもしれない。

 “わたしたち”が、最初の脱落者にならなければいい話だ。

 

 それに願いができれば自分がマスターを支えてやればいい。

 ふと、そこまで考えた時、アサシン自身、このマスターについて、そこまで嫌っていないことに気がつく。

 

 だが、“わたしたち”の願いを邪魔するなら嫌っていようと好いていようと変わらない。

 

 そう考え、アサシンは現時点でのマスターである久連の殺害を、断念する。だが、自分の戦略を認めてくれる『おかあさん』や、他のマスター候補が現れ、今のマスターが戦いに身を投じる姿勢が変わらない時は……

 

 そう考えた時、思わず、口角がつり上がるのを我慢することができなかった。アサシンが召喚されてから初めて浮かべる心からの、正真正銘の笑みだった。




 いかがでしたでしょうか? 前に書いていたアサシンのやばいフラグが芽生え始めました。
 
 いや、聖杯戦争もなかなか始まらないので、いっそここまでをプロローグとしたいのですが、やたらと長いプロローグです。もう長すぎてプロローグじゃないですよね、これ。
 
 実はこの話、アサシンの内面が一番書いてみたかったんですけど、破綻している、という設定が難しく、試行錯誤を繰り返し、やたらと血まみれの話になるはずでした。しかし、友人に緊張したら噛むという設定を加えてみたら? との意見を受け、書き直したらこうなりました。
 うん、血の海どころか聖杯戦争が起こらなくなりました。
 友人に感謝です。
 
 今話で書きとめていた分はなくなったので、ストックがたまりましたら、次話を投稿しようと思っておりますので、次話の投稿は少々遅れます。
 
 ご意見ご感想、お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。